シリカ膜およびその製造方法
【課題】
防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得る。
【解決手段】
本発明は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜に関する。
防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得る。
【解決手段】
本発明は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性に優れたシリカ膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防曇性を付与して光学特性を向上させることを目的として、超親水性のコーティング材料が用いられている。当該コーティング材料は、防曇性以外にも、防汚性の付与や熱交換の高効率化も期待できるので、多用されている。
【0003】
親水性材料としては、例えば、結晶性の酸化チタン微粒子等の光半導体を混合した塗料が知られている。塗料中に結晶性の粒子を用いると、塗膜の透明性、透過性が損なわれやすい。このため、その解決手段の一つとして、光半導体の含有率の低減が試みられており、光半導体の粒子の含有率が低くても、ある程度の超親水性を発揮できる材料も知られている(例えば、特許文献1参照)。また、以前より、酸化チタン等の光半導体の微粒子を含まない超親水性材料として、親水性ポリマー、界面活性剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−061042号公報
【特許文献2】特開昭53−058492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術には、次のような問題もある。特許文献1に開示される材料は、超親水性の発現に光照射を必要とするため、暗所において防曇性を発現することは困難である。一方、特許文献2に開示される材料は、防曇性の発現に光照射を必要としないが、膜形成後の付着性に乏しいため、防曇性の効果が短期間で損なわれるという問題を有する。付着性を高めるために、コロイダルシリカを有機ポリマーや無機バインダーに複合化して被覆する方法も考えられているが、光の吸収、散乱による透明性の低下は避けられない。
【0006】
本発明者らは、本発明に先立ち、粒子を一切含まないシリカ薄膜の開発を行い、極めて平滑で、光透過性の高い超親水性の薄膜を作製することに成功した。しかし、さらに、防曇性能に優れ、高硬度であってかつ高付着性のシリカ膜が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる要望に応えるべくなされたものであって、防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者らは、シリカ膜の親水性領域の中に疎水性領域を形成すれば、疎水性領域に接触した水滴を親水性領域に接触的に移動させ、そこでシリカ膜と水滴との濡れ性を高め、防曇性を向上させることができるという仮説をたて、研究開発を進めてきた。その結果、次のシリカ膜の構成および製造方法により、防曇性を高めることに成功した。具体的な手段は、以下のとおりである。
【0009】
すなわち、本発明の一形態は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜である。
【0010】
本発明の一形態は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜を製造する方法であって、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程と、第一溶液にアルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程と、第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程と、を含み、第一溶液作製工程において35〜60℃の範囲にて30時間以上加熱する加熱工程を行って第一溶液を作製し、テトラアルキルオルソシリケートに対するアルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とするシリカ膜の製造方法である。
【0011】
本発明の別の形態は、さらに、テトラアルキルオルソシリケートをテトラメチルオルソシリケートとし、ヒドロキシケトン誘導体をヒドロキシアセトンとし、有機溶媒をエタノールとし、アルキルアルコキシシランをメチルトリメトキシシランとするシリカ膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法の一例の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】実験例1においてガラス基板上に作製したシリカ膜の接触角(C.A.)を示すグラフである。
【図4】図4は、図3に示すシリカ膜の防曇評価指数を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例1においてシリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の赤外吸収スペクトルである。
【図7】図7は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図9】図9は、実験例1において作製したシリカ膜を付けたガラス基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図10】図10は、実験例1において作製したシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図11】図11は、実験例2においてガラス基板上に作製したシリカ膜の防曇評価指数を示すグラフである。
【図12】図12は、実験例2においてシリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実験例2において作製した各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。
【図14】図14は、実験例2において作製した各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図15】図15は、実験例2において作製したシリカ膜を付けたガラス基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図16】図16は、実験例2において作製したシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明のシリカ膜およびその製造方法の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
<1.シリカ膜>
本実施の形態に係るシリカ膜は、好適には、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜である。ここで、「シリカ膜」とは、シリカを主成分とする膜若しくは膜の積層体をいい、シリカ以外の副成分の種類や各副成分の割合、膜の厚さの大小は問わない。
【0016】
本実施の形態に係るシリカ膜において、窒素吸脱着法にて測定される細孔容積は大きければ大きいほど好ましい。また、JIS K5600−5−4に基づく鉛筆硬度は大きければ大きいほど好ましい。本実施の形態に係るシリカ膜は、防曇評価装置(例えば、協和界面科学株式会社製、型番: AFA−1)を用い、室温および測定室温度ともに20℃、加湿槽温度40℃、加湿槽湿度80%R.H.において、1秒間隔で測定面に3回水蒸気を噴霧した後、10秒間、1秒おきに光透過性(各チャンネルCHの受光量)を測定し、安定した数値が得られた5秒後の受光量分布の線形近似曲線から得られるX軸切片の値(防曇評価指数)が10以下を示す防曇性能を有する。
【0017】
<2.シリカ膜の製造方法>
図1は、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法の一例の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程(ステップS100)と、当該第一溶液に、アルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程(ステップS200)と、当該第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS300)と、膜形成工程によって得られた膜を乾燥する第一乾燥工程(ステップS400)と、第一乾燥工程によって得られた膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程(ステップS500)と、後加水分解工程によって得られた膜を乾燥する第二乾燥工程(ステップS600)と、を含み、第一溶液作製工程において、35〜60℃の範囲にて少なくとも30時間以上加熱して第一溶液を作製すると共に、第二溶液作製工程におけるテトラアルキルオルソシリケートに対するアルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とするものである。ただし、第一乾燥工程(ステップS400)および第二乾燥工程(ステップS600)は,必須の工程ではなく、除外しあるいは他の工程に変更しても良い。
【0019】
図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0020】
図1のフローチャートに示すシリカ膜の製造方法において、第一溶液を作製するための第一溶液作製工程(ステップS100)は、テトラアルキルオルソシリケートと有機溶媒とを混合する第一混合工程(ステップS101)と、少なくともヒドロキシケトン誘導体、水および有機溶媒とを混合する第二混合工程(ステップS102)と、第一混合工程により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二混合工程により作製した溶液とを混合する第三混合工程(ステップS103)と、当該第三混合工程後に、混合溶液を加熱する第一加熱工程(ステップS104)と、を含む。また、第二溶液を作製するための第二溶液作製工程(ステップS200)は、第一溶液と、アルキルアルコキシシランとを混合する第四混合工程(ステップS201)と、当該第四混合工程後に、混合溶液を加熱する第二加熱工程(ステップS202)と、を含む。
【0021】
次に、図1および図2に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。
【0022】
(1)第一溶液作製工程(ステップS100)
(1.a)第一混合工程(ステップS101)
混合対象のテトラアルキルオルソシリケートは、一般式がSi(OR)4で表わされるシラン化合物である(式中のORは、アルコキシ基である)。アルコキシ基としては、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。テトラアルキルオルソシリケートとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等を挙げることができる。これらのテトラアルキルオルソシリケートの内で、好適には、テトラメチルオルソシリケート(テトラメトキシシラン)を用いることができる。また、これらのテトラアルキルオルソシリケートの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
テトラアルキルオルソシリケートと混合する有機溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類を用いることができる。上記有機溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、比較的低温にてミクロ孔から成る高硬度のシリカ膜を得やすいメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールあるいはアセトンが好ましく、さらにはエタノールがより好ましい。
【0024】
上記有機溶媒の量は、ステップS101およびS102にて用いられる各有機溶媒の合計のモル数/テトラアルキルオルソシリケートのモル数が2〜30の範囲になる量とするのが好ましく、5〜20の範囲、さらには12〜15の範囲になる量とするのが好ましい。ステップ101にて混合する有機溶媒の量と、ステップS102にて混合する有機溶媒の量とは、如何なる配分でも良いが、好ましくは重量比にて50:50である。
【0025】
有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。
【0026】
混合時の温度は、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールあるいはアセトンを有機溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0027】
(1.b)第二混合工程(ステップS102)
有機溶媒は、ステップS101で用いられる有機溶媒と同様のものを使用することができる。ステップS102で用いられる有機溶媒は、ステップS101で用いられる有機溶媒と異なる種類の溶媒であっても良いが、ステップS101で用いられる有機溶媒と同種の有機溶媒であるのが好ましい。
【0028】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水であるのが好ましい。水の量は、テトラアルキルオルソシリケートあるいはヒドロキシケトン誘導体1モルに対して2〜10モル、特に3〜7モル、さらには4〜6モルの範囲とするのが好ましい。
【0029】
水および有機溶媒と一緒に混合するヒドロキシケトン誘導体としては、ヒドロキシアセトン、アセトイン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、およびフルクトースなどを使用でき、特に、ヒドロキシアセトンが好ましい。ヒドロキシケトン誘導体は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して、0.3〜3.0モル、特に0.5〜2.0モル、さらには0.8〜1.2モルの範囲とするのが好ましい。
【0030】
有機溶媒、水およびヒドロキシケトン誘導体の混合方法は、ステップS101の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS101で述べたように、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。
【0031】
(1.c)第三混合工程(ステップS103)
反応工程は、ステップS101にて混合した溶液とステップS102にて混合した溶液とを混合する工程である。混合方法は、ステップS101およびS102の各混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS101およびS102と同様、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。混合する時間は、8〜120時間、特に12〜80時間、さらには24〜60時間が好ましい。
【0032】
(1.d)第一加熱工程(ステップS104)
第一加熱工程は、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合をゆっくりと進行させるための熟成工程である。加熱時の温度は、前述の加水分解および縮合重合を徐々に進行させる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシラン(別名: テトラメチルオルソシリケート)を用いる場合には、加熱温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、加熱時間は、40℃の場合、30時間以上、さらには36時間以上とするのが好ましい。
【0033】
上記のステップS101〜S104を経て、第一溶液が出来上がる。なお、ステップS101,S102およびステップS103の内のいずれか1つあるいは2つを行わなくても良い。
【0034】
(2)第二溶液作製工程(ステップS200)
(2.a)第四混合工程(ステップS201)
第一溶液と混合するアルキルアルコキシシランは、一般式が(R1)xSi(OR2)4ーXで表わされるシラン化合物である(式中のR1は、アルキル基であり、OR2は、アルコキシ基である。Xは、1、2または3である)。アルキル基およびアルコキシ基は、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。アルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルモノメトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン、トリエチルモノエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類を挙げることができ、その中でも、メチルトリメトキシシランを好適に使用できる。また、これらのアルキルアルコキシシランの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
上記アルキルアルコキシシランの量は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して0.1〜0.5の範囲が好ましく、0.4がより好ましい。
【0036】
第一溶液とアルキルアルコキシシランとの混合方法は、第一混合工程と同様、如何なる混合方法でも良い。混合時の温度は、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0037】
(2.b)第二加熱工程(ステップS202)
第二加熱工程は、テトラアルキルオルソシリケートとアルキルアルコキシシランとの反応を進行させるための工程である。加熱時の温度は、当該反応を進行させる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシラン(別名: テトラメチルオルソシリケート)を、アルキルアルコキシシランをそれぞれ用いる場合には、加熱温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、加熱時間は、40℃の場合、6〜120時間の範囲とするのが好ましい。
【0038】
上記のステップS201、S202を経て、コーティング用溶液である第二溶液が出来上がる。
【0039】
(3)膜形成工程(ステップS300)
成膜用の基板としては、特にその材質を問わず、ガラス基板、単結晶若しくは多結晶シリコンに代表される金属基板、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等に代表される樹脂基板を使用できる。膜形成工程では、後述するように、100℃以下の温度で膜を形成できるため、耐熱性の低い樹脂等にも容易に成膜できる。膜形成工程は、シリカ溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれの方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0040】
膜形成工程にてスピンコート法を使用する場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚に応じてそれぞれ決定するのが好ましい。例えば、膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、60秒回転させる場合には、基板を1000〜5000rpmで回転するのが好ましい。また、膜厚は、シリカ溶液中の有機溶媒の種類や液温および溶液の粘度により変化しやすい。例えば、基板を60秒回転させて膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、有機溶媒にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールまたはアセトンを用いた場合には、1000〜3000rpmで基板を回転するのが好ましい。その際の溶液の温度は10〜30℃が好ましく、その際の溶液の粘度は2.0〜5.0mPa・sであることが好ましい。
【0041】
(4)第一乾燥工程(ステップS400)
第一乾燥工程は、膜中の有機溶媒および水を低減する工程、さらに形成された膜の定着工程であり、例えばスピンコートにより得られた膜の状態に応じて、乾燥温度および乾燥時間を決定するのが好ましい。なるべく、低温で長時間乾燥する方が好ましい傾向がある。標準的な乾燥温度と乾燥時間を例示すれば、15〜35℃、好ましくは20〜28℃にて、12〜48時間、好ましくは18〜36時間、乾燥する。なお、この工程は除外することもできる。
【0042】
(5)後加水分解工程(ステップS500)
後加水分解工程は、基板に形成された膜を水に浸けて(基板ごと浸漬させるか、膜のみを水に接触させるかを問わない)、膜のさらなる加水分解を行わせる工程である。水温は、0℃以上であれば良いが、40〜95℃、特に70〜90℃、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。加水分解の効果を高め、かつ膜の剥離若しくは破壊を有効に防ぐことができるからである。後加水分解の処理は、ディッピング、シャワー、流水式等のいかなる方法も採用できる。この実施の形態では、簡便かつ加水分解効果の高いディッピングを採用するのが好ましい。後加水分解の処理時間としては、30〜240分、特に60〜180分、さらには90〜150分が好ましい。
【0043】
(6)第二乾燥工程(ステップS600)
第二乾燥工程は、基板に形成された膜の内部に含まれる水等を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。乾燥する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を適宜選択できる。温度は、基板の耐熱性を考慮して選択可能であるが、400℃以下であることが好ましい。特に、熱可塑性の基板を用いる場合は、5〜100℃の範囲、10〜40℃の範囲、さらには15〜30℃の範囲を適正な範囲とするが、可能な限り低温の方が好ましい。乾燥時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0045】
「実験例1」
1.コーティング用溶液の作製
ビーカー(ビーカーAとする)に、東京化成工業株式会社製のテトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)1.903gと、和光純薬工業株式会社製のエタノール(EtOH)7.89gとを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌は、攪拌子を投入し、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いて行った。攪拌速度は、550rpmとした。一方、別のビーカー(ビーカーBとする)に、東京化成工業株式会社製のヒドロキシアセトン(Hydroxy Acetone: HA)0.926gと、水1.125gと、和光純薬工業株式会社製のエタノール(EtOH)7.89gとを入れて、ビーカーAと同一条件で攪拌した。
【0046】
次に、別のビーカー(ビーカーCとする)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約48時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用い、攪拌時の温度および攪拌速度を、それぞれ、25℃および550rpmとした。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて約48時間、ビーカーCを加熱した。この一連の処理を経て、第一溶液(ここでは、「溶液A」と称する)の作製を完了した。
【0047】
次に、ビーカーC内の溶液Aに、東京化成工業株式会社製のメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS)を0〜1.7gの範囲内の所定量を加え、25℃で約1時間攪拌し、40℃にて約24時間加熱した。攪拌条件は、ビーカーAと同様である。この処理を経て、表1に示すようなTMOS:MTMS=1:0〜1の合計8種類の第二溶液(ここでは、「溶液B」と称する)を作製し、各種溶液Bをコーティング用溶液として用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
2.薄膜の作製
次に、シリコン基板(SUMCO社製、25mm×25mm×1mm)、ガラス基板(コーニング社製、50mm×25mm×1mm、50mm×50mm×1mmの2種類)およびアクリル樹脂基板(日東樹脂工業株式会社製、品番:S0、50mm×25mm×1mm)を用意し、スピンコータ(MIKASA社製、型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板に上記各種基板を固定した。次に、各種基板の回転数を2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットして回転板の回転を始動し、回転している基板上に、先に作製した溶液Bを、60秒間供給して基板の表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、膜を形成した基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、約20℃のイオン交換水を入れたビーカー(ビーカーDとする)に、乾燥後の基板を浸漬させて、ビーカーDをウォーターバス内に設置し、80℃に加熱し、2時間静置した。次に、ビーカーDから基板を取り出し、25℃にて24時間減圧乾燥し、各種評価用の試験片とした。
【0050】
3.評価
(1)接触角測定
測定用のサンプルには、50mm×25mm×1mmのガラス基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。接触角の測定装置には、協和界面科学株式会社製の接触角計(型番: MCA−J)を用いた。室温25℃、湿度60%R.H.において、70pLの水滴を滴下して0.005秒間隔にて接触角を測定した。着滴半径が安定した時点の接触角10点を平均して、各サンプルの接触角とした。
(2)防曇性評価
測定用のサンプルには、50mm×50mm×1mmのガラス基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。防曇性の評価には、協和界面科学株式会社製の防曇評価装置(型番: AFA−1)を用いた。室温および測定室温度ともに20℃、加湿槽温度40℃、加湿槽湿度80%R.H.において、1秒間隔で測定面に3回水蒸気を噴霧した後、10秒間、1秒おきに光透過性(各チャンネルCHの受光量)を測定し、安定した数値が得られた5秒後の受光量分布の線形近似曲線から得られるX軸切片の値を防曇評価指数とした(3点平均)。防曇評価指数は、その値が小さいほど、高い防曇性能であることを示す。
(3)透過率測定
測定用のサンプルには、50mm×25mm×1mmのガラス基板およびアクリル樹脂基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。透過率の測定には、株式会社日立製作所製の紫外可視分光光度計(型番:U−4100)を用いた。
(4)表面粗さ測定
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。表面粗さの測定には、セイコーインスツル株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(型番: SPA400)を用いた。測定には、背面Alコートカンチレバー(SI−DF20)を使用し、タッピングモード(DFM)にて観察した。表面粗さの評価は、2乗平均平方根(RMS)表面粗さにて行った。
(5)鉛筆硬度測定
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。硬度は、鉛筆硬度測定法(JIS K5600−5−4)に基づき、株式会社安田精機製作所製の鉛筆硬度測定計(型番: No.553−S)を用いて測定した。
(6)赤外吸収スペクトル測定
赤外吸収スペクトルの測定サンプルは、溶液Bを減圧乾燥して80℃にて2時間加水分解後に乾燥して得られたシリカ粉末とした。測定には、株式会社島津製作所製のFT−IR(型番: IR−Prestige21)を用いた。評価は、ATR法にて行った。
(7)比表面積測定
測定サンプルは、上記赤外吸収スペクトル測定用のサンプルを前処理として200℃にて加熱したシリカ粉末を測定した。測定には、マイクロメリティクス・インスツルメント・コーポレーション製の窒素吸脱着測定装置(型番: ASAP2010)を用いた。平均細孔径の算出にはBET法を用いた。ここで、BET法について簡単に説明する。BET法は、窒素分子が多層吸着して細孔を満たしていると仮定して細孔径を算出する方法であり、シリカ中の細孔径を求めるのに有効である。BET法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/V(1−(P/P0))をy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。
(8)水吸着量評価
測定サンプルは、溶液Bを減圧乾燥して80℃にて2時間加水分解後に乾燥し、25℃飽和水蒸気下で1日曝した粉末10mgとした。測定には、株式会社リガク製の走査型熱重量分析装置(型番: Thermoplus TG8120)を用いた。測定に際し、昇温速度は5℃/minとした。
(9)表面親疎水分布評価
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。測定には、セイコーインスツル株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(型番: SPA400)を用いた。測定は、Auコートカンチレバー(SI−AF01A)をmercaptohexadecanolで単分子表面処理(SAMs)したものを使用して、行った。観察は、横振動摩擦力顕微鏡モード(LM−FFM)にて行った。その他の評価条件は、走査周波数;5kHz、振幅;5nm、たわみ量;0nmとした。
【0051】
4.実験結果
<接触角および防曇性能>
表2および図3は、ガラス基板上に作製したシリカ膜の接触角(C.A.)を示す。表3および図4は、同シリカ膜の防曇評価指数を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表2および図3に示すように、MTMS/TMOS=0.25〜0.6の範囲において、MTMSを含まない溶液Bから作製したシリカ膜(比較サンプル: aT1)よりも接触角が低い結果が得られた。また、表3および図4に示すように、MTMS/TMOS=0.125〜0.75の範囲において、比較サンプルaT1よりも高い防曇性能が認められた。防曇評価指数による評価と接触角による評価とは、必ずしも一致していないが、MTMSを含む溶液Bにてシリカ膜を作製すると防曇性能が向上し、MTMSの割合が多くなりすぎると、防曇性能がむしろ低下するという共通の現象が認められた。現実に透明の基板が曇る現象は、均一な液滴によるものとは限らないことを考慮すると、防曇評価指数による評価を「主」とし、接触角による評価を「従」とするのが妥当であると考えられる。この観点から、MTMS/TMOS=0.125〜0.5の範囲の溶液Bを用いて作製したシリカ膜は、比較サンプルaT1よりも高い防曇性能を有することがわかった。
【0055】
<表面粗さ>
表4は、シリコン基板上に作製したシリカ膜の表面粗さを示す。
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、溶液BにMTMSを含有するか否かを問わず、得られたシリカ膜の表面は、RMS表面粗さ2.0nm以下の極めて平滑な面であった。
【0058】
<親水領域および疎水領域の分布>
図5は、シリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。図6は、各種シリカ粉末の赤外吸収スペクトルである。
【0059】
図5に示すように、MTMSを含まない溶液Bから作製したシリカ膜(比較サンプル: aT1)は、輝度の高い部分のみから成る表面を有していた。一方、MTMSの含有量が増すにつれて、シリカ膜表面に、輝度の低い領域が混在していた。親水性領域では、摩擦力が大きくなるため高輝度に描画されることを考慮すると、MTMSの含有量が増すと、親水性領域に、疎水性領域(輝度が低い領域)がより多く混在する形態に変化するものと考えられる。また、図6に示すように、MTMSの含有量が増すにつれ、1278cm−1のピークと、2975cm−1のピークが大きくなることがわかった。前者は、Si−CH3の対称変角振動のピークであり、後者は、CH3の逆対称伸縮振動のピークである。このことと図5に示す結果から、MTMSの含有率を増すにつれ、シリカ膜表面のメチル基と結合する疎水性領域が増加するものと考えられる。
【0060】
<親水性領域および細孔>
図7は、各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。図8は、各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。表5は、図7および図8の結果に基づきまとめた表である。表中、重量減少率は、100℃における元の重量に対する重量減少率である。
【0061】
【表5】
【0062】
図7に示すように、各種サンプルの含水量(吸水量)は、MTMSの含有量が増すにつれて低下した。このことからも、溶液B中のMTMSを増加すると、含水率が低下し、疎水領域が増すものと考えられる。また、図8に示すように、評価した全てのサンプルは、I型の吸脱着等温線を示すことから、ミクロ孔(直径<2nm)のみを有していると考えられる。さらに、表5に示すように、細孔容積は、MTMSの含有量が増すにつれ小さくなる結果が得られた。このことから、疎水性領域の増加は、細孔容積の縮小化につながるものと考えられる。
【0063】
<透過率>
図9は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたガラス基板の透過率を示す。図10は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の透過率を示す。表6は、図9および図10に示す結果に基づきまとめた可視光透過率を示す。
【0064】
【表6】
【0065】
図9、図10および表6に示すように、いずれのサンプルも、可視光透過率92%以上の光透過性の高い膜であった。
【0066】
<硬度>
表7は、シリコン基板上に作製した各種シリカ膜の鉛筆硬度を示す。
【0067】
【表7】
【0068】
表7に示すように、MTMS/TMOS=1を除き、溶液B中にMTMSを加えることにより、比較材aT1よりも高硬度のシリカ膜を得ることができた。特に、MTMS/TMOS=0.125〜0.75の範囲で、3H以上という高硬度のシリカ膜が得られた。
【0069】
なお、実験例1にて作製したいずれのシリカ膜も、各種基板から剥がれる若しくは剥がれやすい状態ではなく、強固に各種基板に固着していた。
【0070】
「実験例2」
実験例1における溶液A作製時において加熱時間を、表8に示すように、0〜60時間(0〜2.5日)の範囲で変化させ、その後、TMOS:MTMS=1:0.4のモル比になるようにMTMSを加えて(MTMS=0.68g)、溶液Bを作製した。上記以外の条件は、実験例1と同一とした。
【0071】
【表8】
【0072】
実験結果
<防曇性能>
表9および図11は、ガラス基板上に作製したシリカ膜の防曇評価指数を示す。
【0073】
【表9】
【0074】
表9および図11に示すように、加熱時間が36時間(1.5日)以上の条件で作製したシリカ膜(bTM4、bTM5およびbTM6)は、それよりも加熱時間の短い条件で作製したシリカ膜(bTM1、bTM2およびbTM3)に比べて、高い防曇性能を有していることがわかった。
【0075】
<表面粗さ>
表10は、シリコン基板上に作製したシリカ膜の表面粗さを示す。
【0076】
【表10】
【0077】
表10に示すように、溶液Aの加熱時間の多寡によってシリカ膜の表面粗さに差異はあるものの、シリカ膜の表面は、RMS表面粗さ4.0nm以下の平滑な面であった。
【0078】
<親水領域および疎水領域の分布>
図12は、シリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【0079】
図12に示すように、加熱時間が増すにつれて、輝度の高い領域が大きくなり、輝度の高い部分と輝度の低い部分との濃淡が明瞭になっていることがわかった。防曇性能の高いサンプルbTM4およびbTM5は、サンプルbTM3に比べて、親水性領域(高輝度の部分)と疎水性領域(低輝度の部分)とが明瞭であり、かかる形態が防曇性能の向上に寄与していると考えられる。
【0080】
<親水性領域および細孔>
図13は、各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。図14は、各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。表11は、図13および図14の結果に基づきまとめた表である。表中、重量減少率は、100℃における元の重量に対する重量減少率である。
【0081】
【表11】
【0082】
図13に示すように、各種サンプルの含水量(吸水量)は、加熱時間0〜48時間(2日以内)までにおいて、加熱時間が増すにつれて向上した。このことから、溶液Aの40℃における加熱時間を長くすると、親水性領域が広くなっているものと考えられる。また、図14に示すように、評価した全てのサンプルは、I型の吸脱着等温線を示すことから、ミクロ孔(直径<2nm)のみを有していると考えられる。さらに、表11に示すように、細孔容積は、加熱時間が増すにつれて大きくなる結果が得られた。このことから、親水性領域の増加は、細孔容積の拡大化につながるものと考えられる。
【0083】
<透過率>
図15は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたガラス基板の透過率を示す。図16は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の透過率を示す。表12は、図15および図16に示す結果に基づきまとめた可視光透過率を示す。
【0084】
【表12】
【0085】
図15、図16および表12に示すように、いずれのサンプルも、可視光透過率92%以上の光透過性の高い膜であった。
【0086】
<硬度>
表13は、シリコン基板上に作製した各種シリカ膜の鉛筆硬度を示す。
【0087】
【表13】
【0088】
表13に示すように、評価した全てのシリカ膜は、H以上の高い硬度を有していることがわかった。特に、加熱時間が24時間以上のサンプルは、3Hという高い硬度を有していた。
【0089】
なお、実験例2にて作製したいずれのシリカ膜も、各種基板から剥がれる若しくは剥がれやすい状態ではなく、強固に各種基板に固着していた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の製造方法は、例えば、防曇性を必要とする基材への成膜に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性に優れたシリカ膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防曇性を付与して光学特性を向上させることを目的として、超親水性のコーティング材料が用いられている。当該コーティング材料は、防曇性以外にも、防汚性の付与や熱交換の高効率化も期待できるので、多用されている。
【0003】
親水性材料としては、例えば、結晶性の酸化チタン微粒子等の光半導体を混合した塗料が知られている。塗料中に結晶性の粒子を用いると、塗膜の透明性、透過性が損なわれやすい。このため、その解決手段の一つとして、光半導体の含有率の低減が試みられており、光半導体の粒子の含有率が低くても、ある程度の超親水性を発揮できる材料も知られている(例えば、特許文献1参照)。また、以前より、酸化チタン等の光半導体の微粒子を含まない超親水性材料として、親水性ポリマー、界面活性剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−061042号公報
【特許文献2】特開昭53−058492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術には、次のような問題もある。特許文献1に開示される材料は、超親水性の発現に光照射を必要とするため、暗所において防曇性を発現することは困難である。一方、特許文献2に開示される材料は、防曇性の発現に光照射を必要としないが、膜形成後の付着性に乏しいため、防曇性の効果が短期間で損なわれるという問題を有する。付着性を高めるために、コロイダルシリカを有機ポリマーや無機バインダーに複合化して被覆する方法も考えられているが、光の吸収、散乱による透明性の低下は避けられない。
【0006】
本発明者らは、本発明に先立ち、粒子を一切含まないシリカ薄膜の開発を行い、極めて平滑で、光透過性の高い超親水性の薄膜を作製することに成功した。しかし、さらに、防曇性能に優れ、高硬度であってかつ高付着性のシリカ膜が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる要望に応えるべくなされたものであって、防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者らは、シリカ膜の親水性領域の中に疎水性領域を形成すれば、疎水性領域に接触した水滴を親水性領域に接触的に移動させ、そこでシリカ膜と水滴との濡れ性を高め、防曇性を向上させることができるという仮説をたて、研究開発を進めてきた。その結果、次のシリカ膜の構成および製造方法により、防曇性を高めることに成功した。具体的な手段は、以下のとおりである。
【0009】
すなわち、本発明の一形態は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜である。
【0010】
本発明の一形態は、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜を製造する方法であって、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程と、第一溶液にアルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程と、第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程と、を含み、第一溶液作製工程において35〜60℃の範囲にて30時間以上加熱する加熱工程を行って第一溶液を作製し、テトラアルキルオルソシリケートに対するアルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とするシリカ膜の製造方法である。
【0011】
本発明の別の形態は、さらに、テトラアルキルオルソシリケートをテトラメチルオルソシリケートとし、ヒドロキシケトン誘導体をヒドロキシアセトンとし、有機溶媒をエタノールとし、アルキルアルコキシシランをメチルトリメトキシシランとするシリカ膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防曇性能に優れ、高硬度かつ高付着性のシリカ膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法の一例の大まかな流れを示すフローチャートである。
【図2】図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】実験例1においてガラス基板上に作製したシリカ膜の接触角(C.A.)を示すグラフである。
【図4】図4は、図3に示すシリカ膜の防曇評価指数を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例1においてシリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の赤外吸収スペクトルである。
【図7】図7は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実験例1において作製した各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図9】図9は、実験例1において作製したシリカ膜を付けたガラス基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図10】図10は、実験例1において作製したシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図11】図11は、実験例2においてガラス基板上に作製したシリカ膜の防曇評価指数を示すグラフである。
【図12】図12は、実験例2においてシリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【図13】図13は、実験例2において作製した各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。
【図14】図14は、実験例2において作製した各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。
【図15】図15は、実験例2において作製したシリカ膜を付けたガラス基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【図16】図16は、実験例2において作製したシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の所定波長域における光透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明のシリカ膜およびその製造方法の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
<1.シリカ膜>
本実施の形態に係るシリカ膜は、好適には、JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜である。ここで、「シリカ膜」とは、シリカを主成分とする膜若しくは膜の積層体をいい、シリカ以外の副成分の種類や各副成分の割合、膜の厚さの大小は問わない。
【0016】
本実施の形態に係るシリカ膜において、窒素吸脱着法にて測定される細孔容積は大きければ大きいほど好ましい。また、JIS K5600−5−4に基づく鉛筆硬度は大きければ大きいほど好ましい。本実施の形態に係るシリカ膜は、防曇評価装置(例えば、協和界面科学株式会社製、型番: AFA−1)を用い、室温および測定室温度ともに20℃、加湿槽温度40℃、加湿槽湿度80%R.H.において、1秒間隔で測定面に3回水蒸気を噴霧した後、10秒間、1秒おきに光透過性(各チャンネルCHの受光量)を測定し、安定した数値が得られた5秒後の受光量分布の線形近似曲線から得られるX軸切片の値(防曇評価指数)が10以下を示す防曇性能を有する。
【0017】
<2.シリカ膜の製造方法>
図1は、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法の一例の大まかな流れを示すフローチャートである。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るシリカ膜の製造方法は、少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程(ステップS100)と、当該第一溶液に、アルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程(ステップS200)と、当該第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程(ステップS300)と、膜形成工程によって得られた膜を乾燥する第一乾燥工程(ステップS400)と、第一乾燥工程によって得られた膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程(ステップS500)と、後加水分解工程によって得られた膜を乾燥する第二乾燥工程(ステップS600)と、を含み、第一溶液作製工程において、35〜60℃の範囲にて少なくとも30時間以上加熱して第一溶液を作製すると共に、第二溶液作製工程におけるテトラアルキルオルソシリケートに対するアルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とするものである。ただし、第一乾燥工程(ステップS400)および第二乾燥工程(ステップS600)は,必須の工程ではなく、除外しあるいは他の工程に変更しても良い。
【0019】
図2は、図1に示すフローチャートをさらに具体化した製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0020】
図1のフローチャートに示すシリカ膜の製造方法において、第一溶液を作製するための第一溶液作製工程(ステップS100)は、テトラアルキルオルソシリケートと有機溶媒とを混合する第一混合工程(ステップS101)と、少なくともヒドロキシケトン誘導体、水および有機溶媒とを混合する第二混合工程(ステップS102)と、第一混合工程により作製したテトラアルキルオルソシリケート溶液と第二混合工程により作製した溶液とを混合する第三混合工程(ステップS103)と、当該第三混合工程後に、混合溶液を加熱する第一加熱工程(ステップS104)と、を含む。また、第二溶液を作製するための第二溶液作製工程(ステップS200)は、第一溶液と、アルキルアルコキシシランとを混合する第四混合工程(ステップS201)と、当該第四混合工程後に、混合溶液を加熱する第二加熱工程(ステップS202)と、を含む。
【0021】
次に、図1および図2に示すフローチャートに基づいて、各工程の詳細を説明する。
【0022】
(1)第一溶液作製工程(ステップS100)
(1.a)第一混合工程(ステップS101)
混合対象のテトラアルキルオルソシリケートは、一般式がSi(OR)4で表わされるシラン化合物である(式中のORは、アルコキシ基である)。アルコキシ基としては、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。テトラアルキルオルソシリケートとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等を挙げることができる。これらのテトラアルキルオルソシリケートの内で、好適には、テトラメチルオルソシリケート(テトラメトキシシラン)を用いることができる。また、これらのテトラアルキルオルソシリケートの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
テトラアルキルオルソシリケートと混合する有機溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類を用いることができる。上記有機溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、比較的低温にてミクロ孔から成る高硬度のシリカ膜を得やすいメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールあるいはアセトンが好ましく、さらにはエタノールがより好ましい。
【0024】
上記有機溶媒の量は、ステップS101およびS102にて用いられる各有機溶媒の合計のモル数/テトラアルキルオルソシリケートのモル数が2〜30の範囲になる量とするのが好ましく、5〜20の範囲、さらには12〜15の範囲になる量とするのが好ましい。ステップ101にて混合する有機溶媒の量と、ステップS102にて混合する有機溶媒の量とは、如何なる配分でも良いが、好ましくは重量比にて50:50である。
【0025】
有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、有機溶媒とテトラアルキルオルソシリケートとの混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。
【0026】
混合時の温度は、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールあるいはアセトンを有機溶媒として選択する場合には、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0027】
(1.b)第二混合工程(ステップS102)
有機溶媒は、ステップS101で用いられる有機溶媒と同様のものを使用することができる。ステップS102で用いられる有機溶媒は、ステップS101で用いられる有機溶媒と異なる種類の溶媒であっても良いが、ステップS101で用いられる有機溶媒と同種の有機溶媒であるのが好ましい。
【0028】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水であるのが好ましい。水の量は、テトラアルキルオルソシリケートあるいはヒドロキシケトン誘導体1モルに対して2〜10モル、特に3〜7モル、さらには4〜6モルの範囲とするのが好ましい。
【0029】
水および有機溶媒と一緒に混合するヒドロキシケトン誘導体としては、ヒドロキシアセトン、アセトイン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン、およびフルクトースなどを使用でき、特に、ヒドロキシアセトンが好ましい。ヒドロキシケトン誘導体は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して、0.3〜3.0モル、特に0.5〜2.0モル、さらには0.8〜1.2モルの範囲とするのが好ましい。
【0030】
有機溶媒、水およびヒドロキシケトン誘導体の混合方法は、ステップS101の混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS101で述べたように、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。
【0031】
(1.c)第三混合工程(ステップS103)
反応工程は、ステップS101にて混合した溶液とステップS102にて混合した溶液とを混合する工程である。混合方法は、ステップS101およびS102の各混合方法と同様の方法の他、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、ステップS101およびS102と同様、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。混合する時間は、8〜120時間、特に12〜80時間、さらには24〜60時間が好ましい。
【0032】
(1.d)第一加熱工程(ステップS104)
第一加熱工程は、テトラアルキルオルソシリケートの加水分解および縮合重合をゆっくりと進行させるための熟成工程である。加熱時の温度は、前述の加水分解および縮合重合を徐々に進行させる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシラン(別名: テトラメチルオルソシリケート)を用いる場合には、加熱温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、加熱時間は、40℃の場合、30時間以上、さらには36時間以上とするのが好ましい。
【0033】
上記のステップS101〜S104を経て、第一溶液が出来上がる。なお、ステップS101,S102およびステップS103の内のいずれか1つあるいは2つを行わなくても良い。
【0034】
(2)第二溶液作製工程(ステップS200)
(2.a)第四混合工程(ステップS201)
第一溶液と混合するアルキルアルコキシシランは、一般式が(R1)xSi(OR2)4ーXで表わされるシラン化合物である(式中のR1は、アルキル基であり、OR2は、アルコキシ基である。Xは、1、2または3である)。アルキル基およびアルコキシ基は、直鎖、分岐及び環状のいずれの官能基であっても良く、炭素数は、1〜20、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜4である。アルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルモノメトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン、トリエチルモノエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類を挙げることができ、その中でも、メチルトリメトキシシランを好適に使用できる。また、これらのアルキルアルコキシシランの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
上記アルキルアルコキシシランの量は、テトラアルキルオルソシリケート1モルに対して0.1〜0.5の範囲が好ましく、0.4がより好ましい。
【0036】
第一溶液とアルキルアルコキシシランとの混合方法は、第一混合工程と同様、如何なる混合方法でも良い。混合時の温度は、5〜60℃の範囲、特にその範囲内でも40℃以下が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0037】
(2.b)第二加熱工程(ステップS202)
第二加熱工程は、テトラアルキルオルソシリケートとアルキルアルコキシシランとの反応を進行させるための工程である。加熱時の温度は、当該反応を進行させる温度を選択するのが好ましい。例えば、テトラアルキルオルソシリケートとしてテトラメトキシシラン(別名: テトラメチルオルソシリケート)を、アルキルアルコキシシランをそれぞれ用いる場合には、加熱温度としては、20〜55℃、さらには、35〜45℃が好ましい。また、加熱時間は、40℃の場合、6〜120時間の範囲とするのが好ましい。
【0038】
上記のステップS201、S202を経て、コーティング用溶液である第二溶液が出来上がる。
【0039】
(3)膜形成工程(ステップS300)
成膜用の基板としては、特にその材質を問わず、ガラス基板、単結晶若しくは多結晶シリコンに代表される金属基板、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等に代表される樹脂基板を使用できる。膜形成工程では、後述するように、100℃以下の温度で膜を形成できるため、耐熱性の低い樹脂等にも容易に成膜できる。膜形成工程は、シリカ溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれの方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0040】
膜形成工程にてスピンコート法を使用する場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚に応じてそれぞれ決定するのが好ましい。例えば、膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、60秒回転させる場合には、基板を1000〜5000rpmで回転するのが好ましい。また、膜厚は、シリカ溶液中の有機溶媒の種類や液温および溶液の粘度により変化しやすい。例えば、基板を60秒回転させて膜厚60〜150nmの膜を形成するためには、有機溶媒にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールまたはアセトンを用いた場合には、1000〜3000rpmで基板を回転するのが好ましい。その際の溶液の温度は10〜30℃が好ましく、その際の溶液の粘度は2.0〜5.0mPa・sであることが好ましい。
【0041】
(4)第一乾燥工程(ステップS400)
第一乾燥工程は、膜中の有機溶媒および水を低減する工程、さらに形成された膜の定着工程であり、例えばスピンコートにより得られた膜の状態に応じて、乾燥温度および乾燥時間を決定するのが好ましい。なるべく、低温で長時間乾燥する方が好ましい傾向がある。標準的な乾燥温度と乾燥時間を例示すれば、15〜35℃、好ましくは20〜28℃にて、12〜48時間、好ましくは18〜36時間、乾燥する。なお、この工程は除外することもできる。
【0042】
(5)後加水分解工程(ステップS500)
後加水分解工程は、基板に形成された膜を水に浸けて(基板ごと浸漬させるか、膜のみを水に接触させるかを問わない)、膜のさらなる加水分解を行わせる工程である。水温は、0℃以上であれば良いが、40〜95℃、特に70〜90℃、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。加水分解の効果を高め、かつ膜の剥離若しくは破壊を有効に防ぐことができるからである。後加水分解の処理は、ディッピング、シャワー、流水式等のいかなる方法も採用できる。この実施の形態では、簡便かつ加水分解効果の高いディッピングを採用するのが好ましい。後加水分解の処理時間としては、30〜240分、特に60〜180分、さらには90〜150分が好ましい。
【0043】
(6)第二乾燥工程(ステップS600)
第二乾燥工程は、基板に形成された膜の内部に含まれる水等を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。乾燥する温度に応じて、乾燥機、電熱炉等を適宜選択できる。温度は、基板の耐熱性を考慮して選択可能であるが、400℃以下であることが好ましい。特に、熱可塑性の基板を用いる場合は、5〜100℃の範囲、10〜40℃の範囲、さらには15〜30℃の範囲を適正な範囲とするが、可能な限り低温の方が好ましい。乾燥時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、15〜240分、特に30〜180分、さらには60〜150分が好ましい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0045】
「実験例1」
1.コーティング用溶液の作製
ビーカー(ビーカーAとする)に、東京化成工業株式会社製のテトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS)1.903gと、和光純薬工業株式会社製のエタノール(EtOH)7.89gとを入れて、25℃で約1時間攪拌した。攪拌は、攪拌子を投入し、KOMET社製の攪拌機(型式:VARIOMAG POLY15)を用いて行った。攪拌速度は、550rpmとした。一方、別のビーカー(ビーカーBとする)に、東京化成工業株式会社製のヒドロキシアセトン(Hydroxy Acetone: HA)0.926gと、水1.125gと、和光純薬工業株式会社製のエタノール(EtOH)7.89gとを入れて、ビーカーAと同一条件で攪拌した。
【0046】
次に、別のビーカー(ビーカーCとする)を用意し、各ビーカーA,Bの攪拌後の内容物を投入し、25℃で約48時間攪拌した。攪拌には、前述と同タイプの攪拌機を用い、攪拌時の温度および攪拌速度を、それぞれ、25℃および550rpmとした。その後、ビーカーCの内容物の攪拌を停止し、40℃にて約48時間、ビーカーCを加熱した。この一連の処理を経て、第一溶液(ここでは、「溶液A」と称する)の作製を完了した。
【0047】
次に、ビーカーC内の溶液Aに、東京化成工業株式会社製のメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS)を0〜1.7gの範囲内の所定量を加え、25℃で約1時間攪拌し、40℃にて約24時間加熱した。攪拌条件は、ビーカーAと同様である。この処理を経て、表1に示すようなTMOS:MTMS=1:0〜1の合計8種類の第二溶液(ここでは、「溶液B」と称する)を作製し、各種溶液Bをコーティング用溶液として用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
2.薄膜の作製
次に、シリコン基板(SUMCO社製、25mm×25mm×1mm)、ガラス基板(コーニング社製、50mm×25mm×1mm、50mm×50mm×1mmの2種類)およびアクリル樹脂基板(日東樹脂工業株式会社製、品番:S0、50mm×25mm×1mm)を用意し、スピンコータ(MIKASA社製、型式:SPINCOATER 1H−D7)の回転板に上記各種基板を固定した。次に、各種基板の回転数を2000rpmになるようにスピンコータの回転数をセットして回転板の回転を始動し、回転している基板上に、先に作製した溶液Bを、60秒間供給して基板の表面に膜を形成し、その後、回転板の回転を停止させた。次に、膜を形成した基板を、25℃で、約24時間、乾燥させた。次に、約20℃のイオン交換水を入れたビーカー(ビーカーDとする)に、乾燥後の基板を浸漬させて、ビーカーDをウォーターバス内に設置し、80℃に加熱し、2時間静置した。次に、ビーカーDから基板を取り出し、25℃にて24時間減圧乾燥し、各種評価用の試験片とした。
【0050】
3.評価
(1)接触角測定
測定用のサンプルには、50mm×25mm×1mmのガラス基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。接触角の測定装置には、協和界面科学株式会社製の接触角計(型番: MCA−J)を用いた。室温25℃、湿度60%R.H.において、70pLの水滴を滴下して0.005秒間隔にて接触角を測定した。着滴半径が安定した時点の接触角10点を平均して、各サンプルの接触角とした。
(2)防曇性評価
測定用のサンプルには、50mm×50mm×1mmのガラス基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。防曇性の評価には、協和界面科学株式会社製の防曇評価装置(型番: AFA−1)を用いた。室温および測定室温度ともに20℃、加湿槽温度40℃、加湿槽湿度80%R.H.において、1秒間隔で測定面に3回水蒸気を噴霧した後、10秒間、1秒おきに光透過性(各チャンネルCHの受光量)を測定し、安定した数値が得られた5秒後の受光量分布の線形近似曲線から得られるX軸切片の値を防曇評価指数とした(3点平均)。防曇評価指数は、その値が小さいほど、高い防曇性能であることを示す。
(3)透過率測定
測定用のサンプルには、50mm×25mm×1mmのガラス基板およびアクリル樹脂基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。透過率の測定には、株式会社日立製作所製の紫外可視分光光度計(型番:U−4100)を用いた。
(4)表面粗さ測定
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。表面粗さの測定には、セイコーインスツル株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(型番: SPA400)を用いた。測定には、背面Alコートカンチレバー(SI−DF20)を使用し、タッピングモード(DFM)にて観察した。表面粗さの評価は、2乗平均平方根(RMS)表面粗さにて行った。
(5)鉛筆硬度測定
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。硬度は、鉛筆硬度測定法(JIS K5600−5−4)に基づき、株式会社安田精機製作所製の鉛筆硬度測定計(型番: No.553−S)を用いて測定した。
(6)赤外吸収スペクトル測定
赤外吸収スペクトルの測定サンプルは、溶液Bを減圧乾燥して80℃にて2時間加水分解後に乾燥して得られたシリカ粉末とした。測定には、株式会社島津製作所製のFT−IR(型番: IR−Prestige21)を用いた。評価は、ATR法にて行った。
(7)比表面積測定
測定サンプルは、上記赤外吸収スペクトル測定用のサンプルを前処理として200℃にて加熱したシリカ粉末を測定した。測定には、マイクロメリティクス・インスツルメント・コーポレーション製の窒素吸脱着測定装置(型番: ASAP2010)を用いた。平均細孔径の算出にはBET法を用いた。ここで、BET法について簡単に説明する。BET法は、窒素分子が多層吸着して細孔を満たしていると仮定して細孔径を算出する方法であり、シリカ中の細孔径を求めるのに有効である。BET法によって相対圧(P/P0)をx座標とし、(P/P0)/V(1−(P/P0))をy座標とする点をx−y平面上にプロットし、各プロットした点を通る最近接線(直線)の切片と傾きを求め、当該切片と当該傾きから細孔の容積および面積を求める方法である。
(8)水吸着量評価
測定サンプルは、溶液Bを減圧乾燥して80℃にて2時間加水分解後に乾燥し、25℃飽和水蒸気下で1日曝した粉末10mgとした。測定には、株式会社リガク製の走査型熱重量分析装置(型番: Thermoplus TG8120)を用いた。測定に際し、昇温速度は5℃/minとした。
(9)表面親疎水分布評価
測定用のサンプルには、シリコン基板に各種シリカ膜を付けたものを用いた。測定には、セイコーインスツル株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(型番: SPA400)を用いた。測定は、Auコートカンチレバー(SI−AF01A)をmercaptohexadecanolで単分子表面処理(SAMs)したものを使用して、行った。観察は、横振動摩擦力顕微鏡モード(LM−FFM)にて行った。その他の評価条件は、走査周波数;5kHz、振幅;5nm、たわみ量;0nmとした。
【0051】
4.実験結果
<接触角および防曇性能>
表2および図3は、ガラス基板上に作製したシリカ膜の接触角(C.A.)を示す。表3および図4は、同シリカ膜の防曇評価指数を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表2および図3に示すように、MTMS/TMOS=0.25〜0.6の範囲において、MTMSを含まない溶液Bから作製したシリカ膜(比較サンプル: aT1)よりも接触角が低い結果が得られた。また、表3および図4に示すように、MTMS/TMOS=0.125〜0.75の範囲において、比較サンプルaT1よりも高い防曇性能が認められた。防曇評価指数による評価と接触角による評価とは、必ずしも一致していないが、MTMSを含む溶液Bにてシリカ膜を作製すると防曇性能が向上し、MTMSの割合が多くなりすぎると、防曇性能がむしろ低下するという共通の現象が認められた。現実に透明の基板が曇る現象は、均一な液滴によるものとは限らないことを考慮すると、防曇評価指数による評価を「主」とし、接触角による評価を「従」とするのが妥当であると考えられる。この観点から、MTMS/TMOS=0.125〜0.5の範囲の溶液Bを用いて作製したシリカ膜は、比較サンプルaT1よりも高い防曇性能を有することがわかった。
【0055】
<表面粗さ>
表4は、シリコン基板上に作製したシリカ膜の表面粗さを示す。
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、溶液BにMTMSを含有するか否かを問わず、得られたシリカ膜の表面は、RMS表面粗さ2.0nm以下の極めて平滑な面であった。
【0058】
<親水領域および疎水領域の分布>
図5は、シリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。図6は、各種シリカ粉末の赤外吸収スペクトルである。
【0059】
図5に示すように、MTMSを含まない溶液Bから作製したシリカ膜(比較サンプル: aT1)は、輝度の高い部分のみから成る表面を有していた。一方、MTMSの含有量が増すにつれて、シリカ膜表面に、輝度の低い領域が混在していた。親水性領域では、摩擦力が大きくなるため高輝度に描画されることを考慮すると、MTMSの含有量が増すと、親水性領域に、疎水性領域(輝度が低い領域)がより多く混在する形態に変化するものと考えられる。また、図6に示すように、MTMSの含有量が増すにつれ、1278cm−1のピークと、2975cm−1のピークが大きくなることがわかった。前者は、Si−CH3の対称変角振動のピークであり、後者は、CH3の逆対称伸縮振動のピークである。このことと図5に示す結果から、MTMSの含有率を増すにつれ、シリカ膜表面のメチル基と結合する疎水性領域が増加するものと考えられる。
【0060】
<親水性領域および細孔>
図7は、各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。図8は、各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。表5は、図7および図8の結果に基づきまとめた表である。表中、重量減少率は、100℃における元の重量に対する重量減少率である。
【0061】
【表5】
【0062】
図7に示すように、各種サンプルの含水量(吸水量)は、MTMSの含有量が増すにつれて低下した。このことからも、溶液B中のMTMSを増加すると、含水率が低下し、疎水領域が増すものと考えられる。また、図8に示すように、評価した全てのサンプルは、I型の吸脱着等温線を示すことから、ミクロ孔(直径<2nm)のみを有していると考えられる。さらに、表5に示すように、細孔容積は、MTMSの含有量が増すにつれ小さくなる結果が得られた。このことから、疎水性領域の増加は、細孔容積の縮小化につながるものと考えられる。
【0063】
<透過率>
図9は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたガラス基板の透過率を示す。図10は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の透過率を示す。表6は、図9および図10に示す結果に基づきまとめた可視光透過率を示す。
【0064】
【表6】
【0065】
図9、図10および表6に示すように、いずれのサンプルも、可視光透過率92%以上の光透過性の高い膜であった。
【0066】
<硬度>
表7は、シリコン基板上に作製した各種シリカ膜の鉛筆硬度を示す。
【0067】
【表7】
【0068】
表7に示すように、MTMS/TMOS=1を除き、溶液B中にMTMSを加えることにより、比較材aT1よりも高硬度のシリカ膜を得ることができた。特に、MTMS/TMOS=0.125〜0.75の範囲で、3H以上という高硬度のシリカ膜が得られた。
【0069】
なお、実験例1にて作製したいずれのシリカ膜も、各種基板から剥がれる若しくは剥がれやすい状態ではなく、強固に各種基板に固着していた。
【0070】
「実験例2」
実験例1における溶液A作製時において加熱時間を、表8に示すように、0〜60時間(0〜2.5日)の範囲で変化させ、その後、TMOS:MTMS=1:0.4のモル比になるようにMTMSを加えて(MTMS=0.68g)、溶液Bを作製した。上記以外の条件は、実験例1と同一とした。
【0071】
【表8】
【0072】
実験結果
<防曇性能>
表9および図11は、ガラス基板上に作製したシリカ膜の防曇評価指数を示す。
【0073】
【表9】
【0074】
表9および図11に示すように、加熱時間が36時間(1.5日)以上の条件で作製したシリカ膜(bTM4、bTM5およびbTM6)は、それよりも加熱時間の短い条件で作製したシリカ膜(bTM1、bTM2およびbTM3)に比べて、高い防曇性能を有していることがわかった。
【0075】
<表面粗さ>
表10は、シリコン基板上に作製したシリカ膜の表面粗さを示す。
【0076】
【表10】
【0077】
表10に示すように、溶液Aの加熱時間の多寡によってシリカ膜の表面粗さに差異はあるものの、シリカ膜の表面は、RMS表面粗さ4.0nm以下の平滑な面であった。
【0078】
<親水領域および疎水領域の分布>
図12は、シリコン基板上に作製したシリカ膜表面の走査型プローブ顕微鏡写真である。
【0079】
図12に示すように、加熱時間が増すにつれて、輝度の高い領域が大きくなり、輝度の高い部分と輝度の低い部分との濃淡が明瞭になっていることがわかった。防曇性能の高いサンプルbTM4およびbTM5は、サンプルbTM3に比べて、親水性領域(高輝度の部分)と疎水性領域(低輝度の部分)とが明瞭であり、かかる形態が防曇性能の向上に寄与していると考えられる。
【0080】
<親水性領域および細孔>
図13は、各種シリカ粉末の熱重量変化を示すグラフである。図14は、各種シリカ粉末の窒素吸脱着等温線を示すグラフである。表11は、図13および図14の結果に基づきまとめた表である。表中、重量減少率は、100℃における元の重量に対する重量減少率である。
【0081】
【表11】
【0082】
図13に示すように、各種サンプルの含水量(吸水量)は、加熱時間0〜48時間(2日以内)までにおいて、加熱時間が増すにつれて向上した。このことから、溶液Aの40℃における加熱時間を長くすると、親水性領域が広くなっているものと考えられる。また、図14に示すように、評価した全てのサンプルは、I型の吸脱着等温線を示すことから、ミクロ孔(直径<2nm)のみを有していると考えられる。さらに、表11に示すように、細孔容積は、加熱時間が増すにつれて大きくなる結果が得られた。このことから、親水性領域の増加は、細孔容積の拡大化につながるものと考えられる。
【0083】
<透過率>
図15は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたガラス基板の透過率を示す。図16は、所定波長域におけるシリカ膜を付けたアクリル樹脂基板の透過率を示す。表12は、図15および図16に示す結果に基づきまとめた可視光透過率を示す。
【0084】
【表12】
【0085】
図15、図16および表12に示すように、いずれのサンプルも、可視光透過率92%以上の光透過性の高い膜であった。
【0086】
<硬度>
表13は、シリコン基板上に作製した各種シリカ膜の鉛筆硬度を示す。
【0087】
【表13】
【0088】
表13に示すように、評価した全てのシリカ膜は、H以上の高い硬度を有していることがわかった。特に、加熱時間が24時間以上のサンプルは、3Hという高い硬度を有していた。
【0089】
なお、実験例2にて作製したいずれのシリカ膜も、各種基板から剥がれる若しくは剥がれやすい状態ではなく、強固に各種基板に固着していた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の製造方法は、例えば、防曇性を必要とする基材への成膜に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、
IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成ることを特徴とするシリカ膜。
【請求項2】
JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜を製造する方法であって、
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程と、
上記第一溶液に、アルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程と、
上記第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程と、
を含み、
上記第一溶液作製工程において35〜60℃の範囲にて30時間以上加熱する加熱工程を行って上記第一溶液を作製し、
上記テトラアルキルオルソシリケートに対する上記アルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とすることを特徴とするシリカ膜の製造方法。
【請求項3】
前記テトラアルキルオルソシリケートをテトラメチルオルソシリケートとし、
前記ヒドロキシケトン誘導体をヒドロキシアセトンとし、
前記有機溶媒をエタノールとし、
前記アルキルアルコキシシランをメチルトリメトキシシランとすることを特徴とする請求項2に記載のシリカ膜の製造方法。
【請求項1】
JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、
IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成ることを特徴とするシリカ膜。
【請求項2】
JIS K5600−5−4に基づき測定される鉛筆硬度が3H以上の硬度を有し、IUPACの分類においてミクロ孔に分類される細孔であってBET測定値に基づく平均直径2nm以下の細孔で構成される多孔質膜表面の親水性領域中に、Si−CH3結合を有する疎水性領域を分散して成るシリカ膜を製造する方法であって、
少なくとも、テトラアルキルオルソシリケート、ヒドロキシケトン誘導体、有機溶媒および水を混和して反応させて第一溶液を作製する第一溶液作製工程と、
上記第一溶液に、アルキルアルコキシシランを混合して、第二溶液を作製する第二溶液作製工程と、
上記第二溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程によって得られる膜を水に接触させて加水分解を行う後加水分解工程と、
を含み、
上記第一溶液作製工程において35〜60℃の範囲にて30時間以上加熱する加熱工程を行って上記第一溶液を作製し、
上記テトラアルキルオルソシリケートに対する上記アルキルアルコキシシランのモル比を0.1〜0.5の範囲とすることを特徴とするシリカ膜の製造方法。
【請求項3】
前記テトラアルキルオルソシリケートをテトラメチルオルソシリケートとし、
前記ヒドロキシケトン誘導体をヒドロキシアセトンとし、
前記有機溶媒をエタノールとし、
前記アルキルアルコキシシランをメチルトリメトキシシランとすることを特徴とする請求項2に記載のシリカ膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図5】
【図12】
【公開番号】特開2012−201529(P2012−201529A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65730(P2011−65730)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【特許番号】特許第4958192号(P4958192)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【特許番号】特許第4958192号(P4958192)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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