説明

シリカ選択吸着樹脂、その製造方法及びシリカ除去方法

【課題】カテコールスルホン酸とシリカとの反応を利用してシリカ含有水中のシリカを効率よく選択的に吸着するシリカ選択吸着樹脂と、その製造方法と、このシリカ選択吸着樹脂を用いたシリカ除去方法とを提供する。
【解決手段】カテコールスルホン酸塩を担持させたアニオン交換樹脂からなることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂。カテコールスルホン酸塩としてはカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウムが好適である。シリカを吸着したシリカ選択吸着樹脂に酸を通水することによりシリカを溶離させ、シリカ選択吸着樹脂を再生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に含まれるシリカを選択的に吸着するシリカ選択吸着樹脂及びその製造方法と、このシリカ選択吸着樹脂を用いて水中からシリカを除去する方法に関する。更に詳しくは、本発明は、純水を製造する装置において、シリカを含む原水からシリカを吸着除去する場合に用いるのに好適なシリカ選択吸着樹脂及びその製造方法と、このシリカ選択吸着樹脂を用いて水中からシリカを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜単独もしくは逆浸透膜と電気脱イオンを組み合わせて超純水を製造するプロセスでは、原水中のシリカ濃度が高い場合、逆浸透膜におけるシリカスケールの生成を抑制するために原水を加温したり、シリカ分散剤を添加したり、採水率を抑えて運転しなければならない場合がある。また、原水のシリカ濃度が高いと、逆浸透膜透過水のシリカ濃度が高くなるので、電気脱イオン装置から得られる超純水のシリカ濃度を所定の濃度以下とすることができない場合がある。
【0003】
水中に含まれるシリカを除去する方法として、アニオン交換樹脂によるシリカの吸着除去が周知である(例えば特開2002−361247)。このアニオン交換樹脂によるシリカの吸着除去には次のような課題がある。
(1) シリカは弱酸性成分であり、硫酸、塩酸、硝酸などの強酸性イオンに比べて、アニオン交換樹脂に対する選択性が低い。そのため、原水(工業用水、上水、井水、再生水など)に含まれる硫酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオンなどの強酸性イオンをイオン交換した後でシリカが除去されることになる。
(2) シリカ除去を目的として、CaやMgなどの硬度成分が共存する原水を、直接、アニオン交換樹脂を通水した場合、強酸性アニオンが除去されるため、pHが12程度まで上昇し、樹脂層内でCaやMgの炭酸塩が析出してしまうことになる。
(3) アニオン交換樹脂を用いて水中のアニオン類をイオン交換除去する方法では、破過後の樹脂は、アルカリ性水溶液(主にNaOH水溶液)を用いて再生する。その場合、シリカ以外のアニオンも溶離させてアニオン交換樹脂を再生する必要があるので、全アニオン当量以上のアルカリ水溶液を使用することになる。そのため、大量の再生薬品が必要となる。
【0004】
S.Bai et al,Cryobiology and Cryotechnology,2007,Vol53,pp.33−38(非特許文献1)には、シリカを含む水にカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウム(タイロン)を溶解させることにより、中性域でタイロンがシリカと錯体を生成することが報告されている。しかしながら、この非特許文献1には、タイロンを塩基性アニオン交換樹脂にイオン交換で固定化したシリカ選択吸着樹脂およびこれにシリカを含む水を接触させてシリカを選択的に吸着除去する方法については言及されていない。
【0005】
タイロンは、中性域でタイロンの持つ二つOH基に配位する形で、シリカと錯体を生成する。水溶液中でタイロンとシリカは3:1の錯体を生成するが、シリカと錯体を生成させるためには、タイロンを大過剰に存在させる必要がある。具体的には、シリカのモル数の約30倍モルのタイロンを存在させる必要がある。従って、シリカ含有水にタイロン水溶液を添加する方法では、シリカを効率よく除去することはできない。
【0006】
特開2000−140631、Toshishige M.Suzuki et al,J.Chem.Soc.,Dalton Trans.,pp.1639−1644,1999(非特許文献2)には、タイロンもしくはクロモトロープ酸を陰イオン交換樹脂に固定化した樹脂と、微量ホウ素を含む水とを接触させることによりホウ素を該樹脂に選択的に吸着させる方法が提案されているが、タイロンを固定化したイオン交換樹脂がシリカを選択的に吸着することは言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−361247
【特許文献2】特開2000−140631
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Bai et al,Cryobiology and Cryotechnology,2007,Vol53,pp.33−38
【非特許文献2】Toshishige M.Suzuki et al,J.Chem.Soc.,Dalton Trans.,pp.1639−1644,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献1のように、シリカ含有水にタイロンを添加して錯体を形成させる場合、タイロンをシリカに対し大過剰に添加する必要があり、薬剤コストが高くなり、シリカを、経済的に効率よく除去することはできない。
【0010】
本発明は、カテコールスルホン酸塩とシリカとの反応を利用してシリカ含有水中のシリカを効率よく選択的に吸着するシリカ選択吸着樹脂と、その製造方法と、このシリカ選択吸着樹脂を用いたシリカ除去方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシリカ選択吸着樹脂は、カテコールスルホン酸塩を担持させたアニオン交換樹脂からなることを特徴とするものである。
【0012】
カテコールスルホン酸塩としては、カテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウムが好適である。
【0013】
カテコールスルホン酸塩は、前記アニオン交換樹脂にイオン交換反応によって固定化されていることが好ましい。
【0014】
このアニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂が好適である。
【0015】
本発明のシリカ選択吸着樹脂の製造方法は、上記本発明のシリカ選択吸着樹脂を製造する方法であって、カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを接触させてカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に担持させることを特徴とするものである。
【0016】
カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを接触させるには、カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを混合するか、又はカテコールスルホン酸塩の水溶液をアニオン交換樹脂充填カラムに通水するのが好適である。
【0017】
この場合、アニオン交換樹脂の全交換容量(当量/L−樹脂)に、使用する樹脂量を乗じて得られる当量の50〜100%に相当するカテコールスルホン酸塩を、固定化する樹脂容積の1〜10倍の水に溶解して水溶液とし、この水溶液とアニオン交換樹脂とを混合するか、又はアニオン交換樹脂充填カラムにこの水溶液を空間速度SV=3〜40hr−1で通液することによりカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に固定化することが好ましい。
【0018】
本発明のシリカ除去方法は、シリカ含有水と上記本発明のシリカ選択吸着樹脂とを接触させる工程を有するものである。
【0019】
本発明のシリカ除去方法は、さらに、シリカを吸着したシリカ選択吸着樹脂を酸性の水溶液と接触させることによりシリカを溶離させ、シリカ吸着能を回復させる工程を有することが好ましい。
【0020】
この酸性の水溶液を循環通液してシリカ選択吸着樹脂と接触させるようにしてもよい。
【0021】
シリカ含有水が酸化剤を含有している場合、該シリカ含有水中の酸化剤を還元処理した後、前記シリカ選択吸着樹脂と接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
カテコールスルホン酸塩を固定化したアニオン交換樹脂とシリカ含有水とを接触させると、シリカ含有水にカテコールスルホン酸塩を添加する場合に比べて、シリカがカテコールスルホン酸塩と効率よく反応し、水中のシリカが効率よく除去される。
【0023】
また、アニオン交換樹脂に固定化されたカテコールスルホン酸塩は、シリカ含有水中にCl、SO2−、NO、CO2−、HCOなど他のアニオンが存在する場合であっても、中性域でシリカと錯体を形成する。そのため、シリカ含有水から他のアニオンを除去することなくシリカを除去することが可能である。
【0024】
カテコールスルホン酸塩と錯体を形成することによりシリカ選択吸着樹脂に捕捉されたシリカは、このシリカ選択吸着樹脂を酸と接触させることにより溶離するので、シリカ選択吸着樹脂を再生して再利用することができる。この場合、シリカの溶離は、pH4以下であれば進行する。そのため、再生用の酸の使用量が少なくて済み、シリカ選択吸着樹脂の再生コストが低い。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0026】
本発明のシリカ選択吸着樹脂は、カテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に担持させたものである。カテコールスルホン酸塩としては、カテコールモノスルホン酸塩、カテコールジスルホン酸塩が好適であり、特にカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウム(タイロン)が好適である。
【0027】
アニオン交換樹脂としては強塩基性アニオン交換樹脂が好適である。強塩基性アニオン交換樹脂としては、ゲル型強塩基性アニオン交換樹脂、ポーラス型強塩基性アニオン交換樹脂、マクロポーラス型(ハイポーラス型)強塩基性アニオン交換樹脂のいずれでもよい。ただし、カテコールスルホン酸塩を担持することにより、アニオン交換樹脂内の細孔が狭まり、シリカの吸着除去速度は細孔内拡散律速となる。そのため、アニオン交換樹脂としては、細孔径の小さいゲル型よりもポーラス型又はマクロポーラス型(ハイポーラス型)の樹脂を用い、高い吸着速度が得られるようにすることが好ましい。
【0028】
アニオン交換樹脂にカテコールスルホン酸塩を担持させるには、カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを撹拌混合する方法、又は、アニオン交換樹脂を充填したカラムにカテコールスルホン酸塩水溶液を通液する方法が好適である。
【0029】
カテコールスルホン酸塩は、そのスルホン酸基がアニオン交換樹脂のアニオン交換基とイオン交換反応して結合することによりアニオン交換樹脂に担持(固定)される。
【0030】
カテコールスルホン酸塩がカテコールジスルホン酸塩である場合、アニオン交換樹脂に対し1個のスルホン酸基のみが結合してもよく、2個のスルホン酸基が結合してもよいが、2個結合した方が安定であり、好ましい。カテコールジスルホン酸塩の2個のスルホン酸基をアニオン交換樹脂に結合させるためには、反応に供するアニオン交換樹脂量に当該樹脂の全交換容量(当量/L−樹脂)を乗じて得られる交換基当量の50〜100%特に50〜60%のモル数のカテコールスルホン酸塩を含む水と接触させることが望ましい。
【0031】
カテコールスルホン酸塩を溶解する水の量は、アニオン交換樹脂量の3〜10倍量が好適である。
【0032】
アニオン交換樹脂を充填したカラムにカテコールスルホン酸塩水溶液を通液する場合、空間速度は3〜40hr−1程度が好ましい。
【0033】
カテコールスルホン酸塩水溶液とアニオン交換樹脂とを撹拌混合する場合は、アニオン交換樹脂はCl型とする必要がある。OH型のアニオン交換樹脂を用いた場合、カテコールスルホン酸塩の固定化によってカテコールスルホン酸塩から遊離したNa等のアルカリ金属イオンの影響で処理液はアルカリ性となる。アルカリ性領域では、カテコールスルホン酸塩はアニオン交換樹脂から溶離するため、固定化できない。また、カテコールスルホン酸は、アルカリ性領域で容易に酸化され、キノン構造に変成してしまうため、不都合である。Cl形の樹脂に対してカテコールスルホン酸塩を反応させた場合には、溶離したNa等はNaCl等の中性塩になるので、処理液は中性が保持されるため、カテコールスルホン酸塩が安定して固定化される。
【0034】
アニオン交換樹脂充填カラムに通液する方法でカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に固定化する場合には、アニオン交換樹脂はOH型でもCl型でも構わない。これはOH型塩基性アニオン交換樹脂を用いても、カテコールスルホン酸塩との反応が進む帯域よりも下流側ではアルカリ性となるが、カテコールスルホン酸塩が固定化された樹脂層では中性のカテコールスルホン酸塩溶液が流れてくるためカテコールスルホン酸塩は固定化されたままとなるからである。ただし、この場合でも、Cl型を用いた方がカテコールスルホン酸塩の定着率は高くなるので、アニオン交換樹脂としてはCl型を用いることが好ましい。
【0035】
このような担持処理方法により、アニオン交換樹脂の全交換基の70%以上、特に85%以上をカテコールスルホン酸塩と結合させることができる。
【0036】
このようにしてカテコールスルホン酸塩を担持したアニオン交換樹脂よりなるシリカ選択吸着樹脂を用いてシリカ含有水からシリカを除去するには、シリカ含有水をこのシリカ選択吸着樹脂と接触させる。具体的には、シリカ選択吸着樹脂を充填したカラムにシリカ含有水を通水するのが好ましい。この際の通水SVは約1〜40hr−1特に2〜20hr−1が好ましい。シリカの吸着反応速度を高めるために、シリカ含有水を30℃以上例えば30〜40℃程度に必要に応じ加温してからカラムに通水してもよい。
【0037】
本発明によれば、工業用水、水道水、井水、再生水などの水からシリカを除去率40%以上、特に60%以上にて除去することができる。本発明では、シリカ濃度が20mg/L以上、例えば30〜100mg/L程度の高シリカ濃度のシリカ含有水であってもシリカを効率よく除去することができる。
【0038】
カラムに通水されるシリカ含有水中に次亜塩素酸などの酸化性物質が含まれていた場合、アニオン交換樹脂自体が酸化劣化する可能性がある。そこで、このような場合には、カラムの活性炭などの還元剤を充填した塔を設け、これに通液することで、次亜塩素酸等の酸化性物質を還元処理するようにしてもよい。酸化性物質を含有したシリカ含有水に重亜硫酸ナトリウムやアスコルビン酸ナトリウムなどの還元剤を添加して次亜塩素酸等を還元処理するようにしてもよい。
【0039】
シリカを吸着したアニオン交換樹脂を再生するには、アニオン交換樹脂とシリカ溶離用の液とを接触させ、シリカを溶離させる。このシリカを溶離させる反応は、通常のイオン交換樹脂の場合のように化学量論反応ではなく、錯生成しないpH環境にすれば進行する。カテコールスルホン酸塩(特にカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウム)とシリカはpH5〜11の範囲、特にpH6〜10の範囲で安定な錯体を形成するところから、pH4以下の酸性もしくはpH11以上のアルカリ性とすることにより、吸着したシリカを溶離除去し、シリカ選択吸着樹脂のシリカ吸着能を回復せしめることが可能である。ただし、アルカリ側ではアニオン交換樹脂に固定化したカテコールスルホン酸塩も溶離してしまうばかりでなく、容易に酸化を受けカテコール構造がキノン構造に変成してしまうため、カテコールスルホン酸塩の溶離や変成を抑えながらシリカを溶離除去するには、pH4以下の酸性溶液を用いることが望ましい。
【0040】
pHが4以下の再生用の酸としては、0.0001N以上の濃度のものであれば良い。ただし、過度に低濃度の酸を用いると、再生用の酸溶液を調製する水に含まれる共存イオンの影響でpH4以下を維持することが難しいので、0.01N以上であることが好ましい。一方、酸溶液の濃度が過度に高いと、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンなどのアニオンがアニオン交換樹脂に吸着し、カテコールスルホン酸塩が溶離してしまう。従って、酸溶液の濃度は0.01〜0.5N特に0.025〜0.2Nであることが好ましい。酸としては塩酸、硫酸、又は硝酸が好適である。
【0041】
以上のように、シリカの溶離は所定のpHに維持すれば良いので、本発明のシリカ選択吸着樹脂を再生する際には、一般的なイオン交換樹脂の再生のように一過性に流通させるだけではなく、所定の濃度に調製した酸溶液を循環流通させることによっても再生が可能である。循環流通で再生を行うことにより、再生用の酸の利用効率を高めることが可能である。循環流通によりシリカ選択吸着樹脂を再生する場合、充填樹脂量の1〜5倍特に1〜3倍の0.01〜0.5N特に0.025〜0.2Nの酸を循環流通させることが好ましい。
【0042】
シリカ選択吸着樹脂からシリカを溶離させた後、シリカ選択吸着樹脂を水を用いて押出し洗浄するのが好ましい。押出し洗浄に用いる水は、洗浄後の通水再開時に処理水に混入しても後工程で問題とならない程度の水質であればよく、特に限定するものではない。例えば、原水を用いることも可能である。後段に逆浸透膜がある場合、その透過水を用いることもできる。
【実施例】
【0043】
[実施例1(シリカ選択吸着樹脂の製造例)]
内径15mmのガラスカラムにポーラス型強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製PA312,Cl形)を15mL充填した。アニオン交換樹脂の全交換容量は1.2meq/mL−樹脂である。7g(21mmol)のカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウム一水和物(C(OH)(SONa)・HO,分子量332)を100mLの純水に溶解してタイロン水溶液を調製した。このタイロン水溶液を空間速度SV=5hr−1で上記カラムに下向流で流通させた。その後、50mLの純水で2回、アニオン交換樹脂層を洗浄した。カラムから流出したタイロン水溶液および洗浄水をカラム出口で回収し、水中の全有機炭素(TOC)濃度を分析した。その結果を表1に示す。なお、表1中のタイロン処理液とは、このタイロン固定化処理時にカラムから流出したタイロン水溶液である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の通り、タイロン処理液中に濃度6310mg/LのClが含まれているところから、タイロンがアニオン交換基にイオン交換で固定化されているものと考えられる。充填樹脂量が15mL、アニオン交換樹脂の全交換容量が1.2meq/mLであるので、仮にアニオン交換樹脂の交換基がすべてイオン交換され、解離したClイオンが処理液中に回収されたとすると、処理液中のCl濃度は6,390mg/Lとなる。実際のタイロン処理液中のCl濃度は6,310mg/Lであるので、98.7%の交換基がイオン交換されたものと考えられる。
【0046】
また、タイロン処理液および洗浄水中のTOC濃度から、回収されたTOC量は831mgである。これは、タイロンの11.5mmol(タイロン一水和物として、3.8g)に相当し、添加したタイロン総量の54.7%に相当する。従って。イオン交換樹脂に固定されたタイロンは、0.63mmol/mL−樹脂と算定される。以上から、1分子のタイロンはそれぞれ、ほぼ2個のアニオン交換基とイオン交換して固定化されていると考えられる。
【0047】
[実施例2(シリカ含有水の通水試験)]
実施例1において、アニオン交換樹脂をゲル型強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製SA10A,Cl形)又はマクロポーラス型(ハイポーラス型)強塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製HPA25,Cl形)としたこと以外は同様にしてタイロン水溶液の通水及び2回の純水通水を行ってタイロン担持アニオン交換樹脂(シリカ選択吸着樹脂)が15mL充填されたカラムをそれぞれ作製した。このように作製した各タイロン担持アニオン交換樹脂充填カラムと実施例1で作製したタイロン担持アニオン交換樹脂充填カラムにそれぞれSV=3.5又は10hr−1で、下記水質の水道水を前処理することなく90min通水してシリカ吸着除去処理した。各カラムから流出した処理水のシリカ濃度をICP発光分光分析法で定量を行った結果を表2に示す。
【0048】
原水としての水道水水質
シリカ:18.7mg/L
硫酸イオン:12.5mg/L
塩化物イオン13mg/L
硝酸イオン:5.8mg/L
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示す通り、処理水中のシリカ濃度はいずれも原水中のシリカ濃度よりも低く、シリカが吸着されたことが認められた。
【0051】
また、表2におけるSVが同一である場合のシリカ濃度の対比から、No.3のマクロポーラス型アニオン交換樹脂(HPA25)が最も高いシリカ除去率を示し、No.2のポーラス型アニオン交換樹脂(PA312)が次に高いシリカ除去率を示し、No.1のゲル型アニオン交換樹脂(SA10A)は三者の中では最も低いシリカ除去率を示すことが認められた。
【0052】
[実施例3(長時間通水試験及び溶離試験)]
実施例2のNo.2の通りに作製したタイロン担持アニオン交換樹脂充填カラムにシリカ濃度19mg/Lの水道水をSV=3hr−1で40時間通水したところ、その間の処理水の平均シリカ濃度は4.3mg/Lであった。このことから、No.2のカラム内の15mLの樹脂は、積算で26.5mgのシリカを吸着したものと算定される。
【0053】
<溶離試験>
この40時間通水後のカラムを5本(カラムA〜E)準備した。各カラムに、純水を用いて調製した0.001N、0.01N、0.025N、0.1N、0.2Nの塩酸50mLをそれぞれSV=5hr−1で通液した。すなわち、カラムAに0.001Nの塩酸を通液し、カラムBに0.01Nの塩酸を通液し、カラムCに0.025Nの塩酸を通液し、カラムDに0.1Nの塩酸を通液し、カラムEに0.2Nの塩酸を通液した。カラム流出液中のシリカ濃度をICP発光分光分析法で測定した結果と、それに基づいて算出したシリカ溶離率を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3の通り、0.01N以上の濃度の塩酸を用いることにより、60%以上の溶離率にてシリカを溶離でき、0.025〜0.2Nの塩酸を用いることにより75〜98%の溶利率にてシリカを溶離できることが認められた。
【0056】
[実施例4(水道水を用いて調製した塩酸による溶離試験)]
実施例3の40時間通水と同一条件にて水道水(シリカ濃度19mg/L)を40時間通水することにより、上記カラムA〜Eと同一のカラム(カラムF)を準備した(カラム径15mm、タイロン担持アニオン交換樹脂充填量15mL)。
【0057】
シリカ濃度19mg/Lの水道水を用いて調製した0.1Nの塩酸50mLを該カラムFにSV=5hr−1にて通液したところ、96%のシリカが溶離して回収された。このことから、シリカを含有する水道水を用いて調製したHCl水溶液でも、実用的に問題なく、シリカを溶離させてシリカ選択吸着樹脂を再生することができることが認められた。
【0058】
[比較例1〜3]
タイロン担持処理前のアニオン交換樹脂(OH形)を15mL充填したカラムにシリカ濃度19mg/Lの水道水をSV=5hr−1で通水したところ、通水開始直後は、シリカを95%以上除去することができたが、表4に示すように樹脂充填量の10倍程度を通水した時点で、液の流通が困難となった。これは、CaやMgを含む原水を直接アニオン交換樹脂に接触させたため、Cl、SO2−、NOなどのアニオンが除去され、pHが10以上に上昇し、Ca、Mgの炭酸塩が樹脂層に析出したためである。次に、同じアニオン交換樹脂をCl型の状態で、15mL充填したカラムに、同じ水道水を通水したところ、シリカは全く除去することができなかった。
【0059】
【表4】

【0060】
[比較例4〜6]
シリカ濃度19mg/Lの水道水に表5に示す濃度となるようタイロンを添加し、水中のシリカ濃度をICP発光分光分析法で測定した。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5の通り、タイロンを1550mg/L−水道水以上添加するとシリカはタイロンと錯体を形成できるが、それよりも少ないと錯体は殆ど形成されない。このように、タイロンを直接に添加することによりシリカをタイロンと錯体形成させる場合には、タイロンをアニオン交換樹脂に担持させた場合よりも3倍以上のタイロンが必要になることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテコールスルホン酸塩を担持させたアニオン交換樹脂からなることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂。
【請求項2】
請求項1において、カテコールスルホン酸塩がカテコール−3,5−ジスルホン酸二ナトリウムであることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2において、カテコールスルホン酸塩が前記アニオン交換樹脂にイオン交換反応によって固定化されていることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、アニオン交換樹脂が強塩基性アニオン交換樹脂であることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシリカ選択吸着樹脂を製造する方法であって、カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを接触させてカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に担持させることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記カテコールスルホン酸塩の水溶液とアニオン交換樹脂とを混合するか、又は該水溶液をアニオン交換樹脂充填カラムに通水することによりカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に担持させることを特徴とするシリカ選択吸着樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、アニオン交換樹脂の全交換容量(当量/L−樹脂)に、使用する樹脂量を乗じて得られる当量の50〜100%に相当するカテコールスルホン酸塩を、固定化する樹脂容積の1〜10倍の水に溶解して水溶液とし、この水溶液とアニオン交換樹脂とを混合するか、又はアニオン交換樹脂充填カラムにこの水溶液を空間速度SV=3〜40hr−1で通液することによりカテコールスルホン酸塩をアニオン交換樹脂に固定化することを特徴とするシリカ選択吸着樹脂の製造方法。
【請求項8】
シリカ含有水を請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシリカ選択吸着樹脂と接触させる工程を有するシリカ除去方法。
【請求項9】
請求項8において、シリカを吸着したシリカ選択吸着樹脂を酸性の水溶液と接触させることによりシリカを溶離させ、シリカ吸着能を回復させる工程を有することを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項10】
請求項9において、該酸性の水溶液を循環通液してシリカ選択吸着樹脂と接触させることを特徴とするシリカ除去方法。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれか1項において、前記シリカ含有水は酸化剤を含有しており、該シリカ含有水中の酸化剤を還元処理した後、前記シリカ選択吸着樹脂と接触させることを特徴とするシリカ除去方法。

【公開番号】特開2012−245471(P2012−245471A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119443(P2011−119443)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】