説明

シリケート組成物及びこれを含む水性塗料

【課題】 良好な親水性を有し、水にさらされた場合の水接触角の増加が少なく、長期間の耐汚染性を有する塗膜を得ることができるシリケート組成物及びこれを含む水性塗料を提供する。
【解決手段】 アルキルシリケートを下記式(1);
R−X−(CHCHO)−H (1)
(式中、Rは、炭素数4〜18の炭化水素基を表す。Xは、−O−又は−COO−を表す。)で表される化合物で変性して得られるシリケート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリケート組成物及びこれを含む水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルシリケートは種々の用途に使用されており、例えば、これを有機溶剤型の塗料に添加することで、得られる塗膜の表面が親水化され、耐汚染性に優れた塗膜を得ることができることが従来から知られている。このようにして塗膜を親水化する場合、その親水化機能はアルキルシリケートが表面に移行した後、加水分解することにより発現していると推察される。
【0003】
しかし、アルキルシリケートは親油性が高く、水への親和性に欠けるため、これをそのまま水性塗料に適用することは困難であった。この問題点を解決する水性塗料用の低汚染化剤として、特許文献1にポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物を含む水性塗料用低汚染化剤が開示されている。
【0004】
ここでは、変性縮合物として、アルコキシシランの縮合物を平均分子量150〜2000のポリオキシエチレングリコール等のポリオキシアルキレン鎖含有化合物で変性したものが開示されている。ポリエチレンオキサイドユニットは親水性が高いため、これで変性されたシリケート化合物を含む水性塗料を用いて塗膜を形成すると、形成直後から親水化した塗膜を得ることができる。しかし、得られた塗膜が水にさらされると水接触角が増加してしまい、長期間の耐汚染性に劣るという問題点を有していた。
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/05228号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、良好な親水性を有し、水にさらされた場合の水接触角の増加が少なく、優れた長期間の耐汚染性を有する塗膜を得ることができるシリケート組成物及びこれを含む水性塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルキルシリケートを下記式(1);
R−X−(CHCHO)−H (1)
(式中、Rは、炭素数4〜18の炭化水素基を表す。Xは、−O−又は−COO−を表す。)で表される化合物で変性して得られることを特徴とするシリケート組成物である。
【0008】
上記Rは、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。
上記Xは、−O−であることが好ましい。
上記アルキルシリケートは、エチルシリケートであることが好ましい。
【0009】
本発明は、上述のシリケート組成物を含有することを特徴とする水性塗料でもある。
本発明はまた、上述の水性塗料を塗装することによって得られる塗膜を有することを特徴とする基材でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明のシリケート組成物は、アルキルシリケートを上記式(1)で表される化合物で変性して得られるものである。エチレンオキサイドユニットをアルキルシリケートに導入することで親水性を付与できるため、良好な親水性を有する塗膜を得ることが可能となるが、エチレンオキサイドユニットの数が多すぎると、塗膜が降雨等の水分にさらされた際に溶出するという問題が生じる。本発明のシリケート組成物は、上記式(1)で表される3個のエチレンオキサイドユニットを有する化合物で変性して得られるものであるため、これを含む水性塗料を用いた場合、良好な親水性を有し、水にさらされた際の溶出が少なく、優れた長期間の耐汚染性を有する塗膜を得ることができる。
【0011】
上記シリケート組成物は、アルキルシリケートを上記式(1)で表される化合物で変性して得られるものである。
上記アルキルシリケートとしては、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン及びその縮合物を挙げることができる。
上記炭素数1〜4のアルコキシ基のなかでも、塗膜の親水性の観点から、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、耐加水分解性の点でエトキシ基がより好ましい。上記アルキルシリケートにおいて、炭素数1〜4のアルコキシ基は同一のものであっても異なるものであってもよいが、入手が容易なことから、同一のものであることが好ましい。
【0012】
上記炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、等を挙げることができる。また、これらの縮合物の中では、テトラメトキシシランの縮合物及びテトラエトキシシランの縮合物が、それぞれ、三菱化学からMKCシリケートMSシリーズとして、コルコート社からエチルシリケートシリーズとして市販されている。なお、縮合物の好ましい縮合度は、5〜50である。
【0013】
上記アルキルシリケートは、上記炭素数1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシラン及びその縮合物に含まれるアルコキシ基の一部がアルコールで置換されたものであってもよい。この場合、上記アルコキシ基のアルコールでの置換割合は、4〜70%であることが好ましい。4%未満であると、置換の効果が得られない。70%を超えると、アルキルシリケートとしての効果が得られないおそれがある。8〜50%であることがより好ましい。
【0014】
上記縮合物に含まれるアルコキシ基の一部がアルコールで置換されたアルキルシリケートにおいては、上記縮合物のアルコキシ基のアルコールによる置換は、用いるアルコールがモノアルコールかジオールかによって、変性の目的が異なる。即ち、モノアルコールである場合には、上記縮合物が有するアルコキシ基を上記モノアルコールが有するアルコキシ基に置換することにより、塗料及び/又は塗膜中での相溶性をそれぞれ制御することを変性の目的とする。
【0015】
これに対し、用いるアルコールがジオールである場合には、ジオール1分子と上記縮合物2分子との間で、縮合物のアルコキシ基とジオールの水酸基とが反応することで、上記縮合物2分子がジオールによって繋がれた変性物が得られる。更にこの反応を繰りかえすことで、調整が困難である縮合を行わずに、アルキルシリケートの分子量を増加させることができる。
【0016】
上記縮合物のアルコキシ基のモノアルコールによる置換を行う場合、上記縮合物1モルに対して、モノアルコールを必要量用いて交換反応を行うことにより得ることができる。上記モノアルコールの量は目的とする置換基の数に合わせて、適宜増減することができる。上記反応は、例えば約150℃までの加熱条件下で行われることが好ましい。また、反応を進行させるため、生成したメタノール又はエタノールを系外に留去することが好ましい。反応はアルコールによる置換が所定量行われた時点で終了される。反応終了後、必要に応じて分離・精製を行って目的とするシリケート化合物を得ることができる。このようにして得られるシリケート化合物は、一般に無色〜薄黄色の油状物質である。なお、上記アルコールによる置換量の決定は、生成したメタノール又はエタノールの量のチェックや分析機器を用いることにより行われる。
【0017】
上記モノアルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール等を用いることができる。なかでも、安価で耐加水分解性に優れる点から、エチルシリケート以外のアルキルシリケートに対してのエタノールが好ましい。
【0018】
一方、上記縮合物のアルコキシ基のジオールによる置換を行う場合、上記縮合物1モルに対して、ジオールを0.6モル倍量以下用いて交換反応を行うことにより得ることができる。0.6モル倍量を上回ると、ゲル化してしまうおそれがある。反応は、モノアルコールと同様にして行うことができるが、得られた生成物に対して、更に0.5モル倍量以下のジオールを加えて更に反応することもできる。このようにして得られた変性物は、上記ジオールが有する2つの水酸基からそれぞれ水素原子を除いたジオールユニットの両末端の酸素原子に、テトラアルコキシシランの縮合物からアルコキシ基を1つ除いたシリケートユニットがそれぞれ結合した構造を有しているが、更にシリケートユニットの少なくとも1つは、別の上記ジオールユニットを介して別の上記シリケートユニットが結合していてもよい。
【0019】
なお、上記縮合物のアルコキシ基のアルコールによる置換では、溶剤は特に使用しなくてもいいが、用いる場合には、上記縮合物とモノアルコールとの合計質量に対して10倍以下であることが好ましい。溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、THF及びジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルカーボネート、アセトニトリル等が挙げられる。
【0020】
上記交換反応においては触媒として、必要に応じて酸又は塩基を用いることができる。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、スルホン酸等のブレンステッド酸や有機スズ化合物等のルイス酸が挙げられる。また塩基としては、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0.]ウンデセン−7等の3級アミン等を使用することができる。
【0021】
上記式(1)において、Rは、炭素数4〜18の炭化水素基を表す。上記炭素数4〜18の炭化水素基によって疎水性を付与することができ、特に炭化水素基が長鎖である場合に、より高い疎水性を付与することができる。このため、上記シリケート組成物を含む水性塗料を用いると、形成された塗膜が水にさらされた場合に、塗膜中のシリケート組成物が溶出することが抑制されるため、溶出による塗膜の親水性の低下を防止することができ、塗膜定着性を向上させることができる。18を超えると、上記シリケート組成物を含む水性塗料を用いて得られる塗膜の光沢値が低下するおそれがある。
【0022】
上記Rは、本発明の効果を得る点から、炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。上記アルキル基又はアルケニル基は、直鎖でも分岐したものでもよい。上記アルキル基又はアルケニル基としては、例えば、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ブテニル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘキセニル基、ヘプチル基、ヘプテニル基、オクチル基、オクテニル基、ノニル基、ノネニル基、デシル基、デセニル基、ウンデシル基、ウンデシネニル基、ドデシル基、トリデシル基、トリデセニル基、テトラデシル基、テトラデセニル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、オレイル基等を挙げることができる。なかでも、得られる塗膜の水接触角の増加を抑制できる点で、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基がより好ましい。上記Rは、上記シリケート組成物中において、同一であっても、異なっていてもよい。
【0023】
上記式(1)において、Xは、−O−又は−COO−を表す。なかでも、−O−が好ましい。
上記式(1)において、エチレンオキサイドユニット(−CHCHO−)は、3個である。3個未満であると、良好な親水性を有する塗膜を得ることができないおそれがあり、3個を超えると、塗膜が水にさらされた際に溶出し、長期間の耐汚染性を得ることができないおそれがある。
【0024】
上記シリケート組成物は、上記アルキルシリケートと、上記式(1)で表される化合物との交換反応で得ることができる。
上記反応において、上記式(1)で表される化合物の配合量は、上記アルキルシリケート1モルに対して、0.1〜4モルの範囲内であることが好ましい。0.1モル未満であると、親水性の付与が不充分となるおそれがあり、4モルを超えると、アルコキシル基の当量が低下するおそれがある。より好ましくは、0.1〜3モルの範囲内である。
【0025】
上記反応は、上述した縮合物のアルコキシ基のモノアルコールによる置換を行う反応と同様にして行うことができる。
上記反応は、例えば約170℃までの加熱条件下で行われることが好ましい。また、反応を進行させるため、生成したメタノール又はエタノール等のアルコールを系外に留去することが好ましい。反応はアルコールによる置換が所定量行われた時点で終了される。反応終了後、必要に応じて分離・精製を行って目的とするシリケート組成物を得ることができる。
上記反応を行う際には、必要に応じ、触媒の使用が可能である。
上記触媒としては、先の交換反応の説明で挙げた触媒が使用できる。
【0026】
上記反応の際に留出するアルコールの量から変性率を決定することができる。また、これに加え、置換が進行していることは、生成物のH−NMRを測定して、上記式(1)で表される化合物が残存していないこと又は減少していることによって確認することができる。なお、変性率は、アルコキシシリル基とSiO基の隣に位置するエチレンオキサイドユニットとの比率を求めることで確認することができるが、これは、生成物全体として見たときの平均値であり、上記アルキルシリケートを上記式(1)で表される化合物で変性することによって得られるシリケート組成物は、通常種々のシリケート化合物の混合物である。また、未反応の上記式(1)で表される化合物や未反応の上記アルキルシリケートを含んでいてもよい。
【0027】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、ブチルトリグリコール等を挙げることができる。また、市販品としては、例えば、ニューコール1103、ニューコール1203(商品名、いずれも日本乳化剤社製)等を挙げることができる。
上記シリケート組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の成分を含んでもよい。
【0028】
上記シリケート組成物を水性塗料中の成分として使用した場合、得られる塗膜に高い親水性を付与することができ、また、塗膜が水にさらされた場合の接触角の増加を少なくすることができる。これによって長期間にわたって耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。
【0029】
本発明の水性塗料は、通常、上記シリケート組成物と、水性エマルションを含む他の塗膜形成成分との2液型塗料として使用するものである。
上記水性塗料中に含まれる水性エマルションとしては、例えば、アクリル樹脂系エマルション、アクリルシリコン樹脂系エマルション、フッ素樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルション等を挙げることができる。
【0030】
上記アクリル樹脂系エマルションとしては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0031】
上記アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を挙げることができる。なお、本明細書における(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタアクリレートの両方を意味する。
【0032】
上記アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等を挙げることができる。上記アクリル樹脂系エマルションは、耐久性、光沢の高さ、コスト面、樹脂設計の自由度の高さ等の点で有利である。
【0033】
上記アクリルシリコン樹脂系エマルションとしては、例えば、珪素含有アクリル系単量体と、珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0034】
上記珪素含有アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ビニル系単量体等を挙げることができる。
【0035】
上記珪素含有アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、上述のアクリル樹脂系エマルションで使用されるアクリル系単量体やアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体等を特に限定されず使用できる。上記アクリルシリコン樹脂系エマルションは、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性等の点で有利である。
【0036】
上記フッ素樹脂系エマルションとしては、例えば、フッ素含有単量体と、フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体とをラジカル共重合により得られるもの等を挙げることができる。
【0037】
上記フッ素含有単量体としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のフルオロオレフィン;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロへキシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0038】
上記フッ素含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、上述のアクリル樹脂系エマルションで使用されるアクリル系単量体やアクリル系単量体と共重合可能な他の単量体等を特に限定されず使用できる。上記フッ素樹脂系エマルションを用いた場合は、耐候性、耐黄変性、耐久性、耐薬品性、耐汚染性等が有利である。
【0039】
上記ウレタン樹脂系エマルションとは、塗膜形成後の塗膜中にウレタン結合を持つようになるエマルションを総称する。即ち、塗膜形成前からウレタン結合を有するものでもよいし、塗膜形成後の反応によりウレタン架橋を形成するものでもよい。エマルションの形態としては、1液型でもよいし2液型であってもよい。
【0040】
上記1液型としては、ウレタン結合を有する重合性単量体を他の共重合可能な単量体と共重合する方法、ウレタン結合を有する水性樹脂の存在下に重合性不飽和単量体を重合する方法、反応基を有する水性ウレタン樹脂と、上記反応基と反応することのできる基を含むエマルションとを混合する方法等を挙げることができる。上記2液型としては、水分敵性イソシアネートと水酸基含有エマルションとの組み合わせ等を挙げることができる。上記ウレタン樹脂系エマルションを用いた場合は、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性等が有利である。
【0041】
上記水性エマルションとしては、例えば、上述した水酸基とイソシアネート化合物とによる架橋反応以外に、カルボニル基とヒドラジド基、カルボン酸と金属イオン、エポキシ基とアミン、エポキシ基とカルボキシル基、カルボン酸とアジリジン、カルボン酸とカルボジイミド、カルボン酸とオキサゾリン、アセトアセテートとケチミン等を利用した架橋反応を形成するエマルション(架橋反応型エマルション)を使用することも可能である。上記架橋反応型エマルションは、1液タイプであっても、2成分以上の多成分タイプであってもよい。上記架橋反応型エマルションは、耐久性、耐溶剤性、耐薬品性、耐汚染性等の点で有利である。
【0042】
上記水性エマルションの製造方法としては特に限定されず、例えば、乳化重合法として、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法により製造することができる。重合に用いる乳化剤は、一般に使用されるものであれば特に限定されず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性、ノニオン−カチオン性、ノニオン−アニオン性のものを単独又は併用して使用することができる。また、耐水性の向上を目的として反応性基をもった乳化剤も使用することができる。
【0043】
重合開始剤としては、合成エマルションの製造において使用される公知のラジカル開始剤を限定されず使用することができ、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸塩、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウム等との組み合わせからなるレドックス開始剤、第一鉄塩、硝酸銀等の無機系開始剤を混合させた系、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド等の二塩基酸過酸化物、アゾビスブチロニトリル等の有機系開始剤等を挙げることができる。
【0044】
上記重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対して通常0.01〜5質量部で使用できる。その他、乳化物のpH調整のため水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機塩及びトリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基類を添加することができる。
【0045】
本発明の水性塗料には、必要に応じて硬化触媒を添加することができる。上記硬化触媒の添加量は、上記水性塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部が好適である。0.1質量部未満であると、反応速度が遅くなるため、結果として硬化塗膜の低汚染性の効果が低下するおそれがある。10質量部を超えると、塗膜の外観と耐久性とが低下するおそれがある。
【0046】
本発明の水性塗料には、必要に応じて通常塗料に用いられる造膜助剤、無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料等が配合可能である。顔料を含む場合、その体積顔料濃度は、25%以下であることが好ましい。25%を超えると、塗料の安定性に劣るおそれがある。なお、下限値については、カラークリアと呼ばれる微量の着色顔料を含む場合があるので特に規定されない。体積顔料濃度が高いエナメルタイプの水性塗料を用いる場合に、より高い親水性を発現させることができるため、より優れた耐汚染性能を付与することができる。
【0047】
本発明の水性塗料には、また、本発明に影響しない程度の可塑剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を単独又は併用して配合することができる。
【0048】
上記水性塗料の塗装方法としては、種々の方法が適用可能である。基材が建築物や土木構造物の筐体である場合、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装が適用され、サイディングボードや押出成形板のような建材である場合には、ロールコーター、フローコーター等の自動塗装機を使用することができる。
塗装後、常温乾燥又は110℃程度の熱風による強制乾燥により乾燥を行うことができる。
【0049】
上記水性塗料を塗装することにより形成される塗膜の水接触角は、65°以下であることが好ましい。65°以下であることより、得られる親水性塗膜に高い親水性を付与することができる。より好ましくは、55°以下である。なお、塗膜の水接触角は、バインダー成分や添加剤の影響を受ける場合が多々あるため、本発明のシリケート組成物を同種類、同量入れたからといって、全ての塗料で必ず同じような値を示すとは限らない。
上記水性塗料により得られる塗膜の乾燥膜厚は、特に規定されるものでなく、例えば、10〜40μmとすることができる。
【0050】
上記水性塗料は、例えば、金属、ガラス、磁器タイル、コンクリート、サイディングボード、押出成形板、プラスチック等の各種基材の表面仕上げに使用することができ、主に屋外に設置される建築物、土木構築物等の躯体の保護に使用することが好ましい。この際、上記シリケート組成物を含有する水性塗料は、最終の仕上面に施されているものであり、基材に直接塗装することもできるし、何らかの下地処理等の表面処理を施した上に塗装することも可能である。
【0051】
本発明のシリケート組成物は、アルキルシリケートを上記式(1)で表される化合物で変性して得られるものであるため、良好な親水性を有し、水にさらされた場合の水接触角の増加が少なく、長期間の耐汚染性を有する塗膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明のシリケート組成物は、上述した構成よりなるので、長期間の耐汚染性を有する塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0054】
実施例1
塩化カルシウム管、蛇管冷却管、デカンターを備えた100mlフラスコにエチルシリケート40(コルコート社製、平均縮合度5、以下「ES−40」と略す)26.04gにエチレンオキサイドユニット(以下「EO」と略す)3個を含むポリオキシエチレンオクチルエーテル18.35g及びトリエチルアミン0.2gを加え、110℃で1時間、125℃で2時間、145℃で1時間、加熱攪拌した。デカンターにはエタノールが3.22g留出した。冷却後、減圧濃縮し、ポリオキシエチレンオクチルエーテルで置換したエチルシリケート組成物(1)38.2gを得た。H−NMRスペクトルにより算出した変性率は13.73%であった。得られたシリケート組成物(1)のH−NMRチャートを図1に示した。
【0055】
実施例2〜4
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの種類及び配合量、ES−40及びトリエチルアミンの配合量を表1で示したように変更した以外は、実施例1と同様にして、シリケート組成物(2)〜(4)を製造した。
【0056】
比較例1〜6
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの種類及び配合量、ES−40及びトリエチルアミンの配合量を表2で示したように変更した以外は、実施例1と同様にして、置換エチルシリケート化合物(1)〜(6)を製造した。
【0057】
実施例で得られたシリケート組成物及び比較例で得られた置換シリケート化合物をオーデフレッシュU100(日本ペイント社製建築外装用アクリルエマルション系塗料)100gに対して6.6g添加した塗料を調製した。調製した水性塗料を用いて得られる塗膜の水接触角、塗膜水没前後の水接触角の変化△CA(塗膜定着性)を、下記の方法で評価し、結果を表1及び2に示した。
【0058】
(塗膜の水接触角(CA))
上記のように調製した塗料をブリキ板に10ミルのフィルムアプリケーターで塗装し、14日間乾燥した後、水接触角計(協和界面科学社製)にて塗膜の水接触角を測定した。65度以下であれば良好である。なお、オーデフレッシュU100のみから得られる塗膜の水接触角は75度であった。
【0059】
(塗膜水没前後の水接触角の変化△CA(塗膜定着性))
上記で得られた塗膜を水に2時間浸漬した後、一日乾燥した。塗膜の水接触角を測定し、水接触角の変化値を△CAとした。
△CA=(水浸漬後のCA)−(水浸漬前のCA)
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例で得られたシリケート組成物を含む水性塗料は、これらから得られる塗膜について、親水化の度合いを表す水接触角を測定したところ、いずれも良好な値を示すことが確認され、塗膜が親水化されていることが確認でき、また、△CAも少なかった。実施例2で△CAが負の値を示しているが、これは、水没によりシリケート組成物のアルコキシシリル基が加水分解してシラノール基となり、表面が親水化されたためと推察される。従って、シリケート組成物は、塗膜中に残存していると推察される。一方、比較例の置換シリケート化合物を添加した水性塗料から得られる塗膜は、△CAが大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のシリケート組成物は、水性塗料に好適に適用することができるものであり、種々の建築材料等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で得られたシリケート組成物のH−NMRチャートを表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルシリケートを下記式(1);
R−X−(CHCHO)−H (1)
(式中、Rは、炭素数4〜18の炭化水素基を表す。Xは、−O−又は−COO−を表す。)
で表される化合物で変性して得られることを特徴とするシリケート組成物。
【請求項2】
Rは、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基である請求項1記載のシリケート組成物。
【請求項3】
Xは、−O−である請求項1又は2記載のシリケート組成物。
【請求項4】
アルキルシリケートは、エチルシリケートである請求項1、2又は3記載のシリケート組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のシリケート組成物を含有することを特徴とする水性塗料。
【請求項6】
請求項5記載の水性塗料を塗装することによって得られる塗膜を有することを特徴とする基材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−193469(P2006−193469A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6326(P2005−6326)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】