説明

シリコンの精製方法

【課題】停炉に至るまでの期間を従来よりも長くし、精製シリコンの製造コストの低減および生産性の向上を実現することが可能なシリコンの精製方法を提供する。
【解決手段】坩堝内の溶融シリコンが第2の所定量mとなるまでシリコン凝固塊を引き上げる工程を含む精製サイクルの後に第2の所定量mの値を大きくして次の精製サイクルを行なうシリコンの精製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化等により環境意識が高まり、クリーンなエネルギ源として太陽電池がますます注目されるようになり、その市場が急拡大している。
【0003】
太陽電池用原料シリコンとしては、これまでシリコンウエハ製造などの半導体製造プロセスで発生するスクラップシリコンが主に用いられてきた。しかしながら、太陽電池市場の急拡大により、新たな太陽電池用原料シリコンの製造技術の確立が急務となっている。
【0004】
このような太陽電池用原料シリコンの製造技術の1つとして、比較的安価に得られる純度99%レベルの金属級シリコン(Metallurgical Grade Silicon;以下、「MG―Si」という。)を冶金プロセスによって精製して純度99.9999%レベルの太陽電池用シリコン(Solar Grade Silicon;以下、「SOG−Si」という)を製造しようという試みがある。
【0005】
その様な試みの1つとして、たとえば特許文献1には、凝固偏析の原理を利用したシリコンの精製方法が記載されている。具体的には、坩堝内の不純物を含む溶融シリコン中に回転冷却体を浸漬し、この回転冷却体の内部に冷却流体を供給しながら回転冷却体を回転させることによって、回転冷却体の外周面に溶融シリコンよりも高純度のシリコン凝固塊を析出させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−351616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているような凝固偏析の原理を利用したシリコンの精製方法においては、不純物が濃縮された溶融シリコン(残湯)が坩堝内に残ることになり、精製サイクルの繰り返しによって、不純物の濃縮が進行すると、偏析効果のみでは十分なシリコンの精製を行なうことができなくなる。
【0008】
十分なシリコンの精製を行なうことができなくなった場合には、停炉して再築炉を行なう必要があるが、これにより、精製シリコンの製造コストが増加するとともに、精製シリコンの生産性が低下するという問題があった。
【0009】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、停炉に至るまでの期間を従来よりも長くし、精製シリコンの製造コストの低減および生産性の向上を実現することが可能なシリコンの精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、坩堝内に第1の所定量Mの溶融シリコンを保持する工程と、第1の所定量Mの溶融シリコンに析出用基体を浸漬することによって析出用基体上にシリコン凝固塊を析出させる工程と、坩堝内の溶融シリコンが第2の所定量mとなるまでシリコン凝固塊を引き上げる工程と、シリコン凝固塊を引き上げる工程の後に坩堝内にシリコンを供給して坩堝内の溶融シリコンを第1の所定量Mとする工程とを備えた精製サイクルを含み、精製サイクルの後に第2の所定量mの値を大きくして次の精製サイクルを行なうシリコンの精製方法である。
【0011】
ここで、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、精製サイクルは、精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Csが、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、Cs<hCULの関係を満たすようにして行なわれることが好ましい。
【0012】
また、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、精製サイクルは、精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Csが、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、Cs≧hCULの関係を満たしたときに、第2の所定量mの値を大きくすることが好ましい。
【0013】
また、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、精製サイクルは、第2の所定量mの坩堝内の溶融シリコンの不純物濃度Cが、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、不純物の偏析係数kと、C<hCUL/kの関係を満たすようにして行なわれることが好ましい。
【0014】
また、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、精製サイクルは、第2の所定量mの坩堝内の溶融シリコンの不純物濃度Cが、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、不純物の偏析係数kと、C≧hCUL/kの関係を満たしたときに、第2の所定量mの値を大きくすることが好ましい。
【0015】
また、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、第N’回目の精製サイクルが、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、不純物の偏析係数kと、坩堝内に供給されるシリコンの不純物濃度C0と、N’≦(hCUL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には第2の所定量mの値を大きくせずに第N’+1回目の精製サイクルを行ない、N’>(hCUL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には第2の所定量mの値を大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なうことが好ましい。
【0016】
また、本発明のシリコンの精製方法において、第2の所定量mは第1の所定量Mの0.8倍未満であって、第N’+1回目の精製サイクルが、第N’回目の精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、不純物の偏析係数kと、坩堝内に供給されるシリコンの不純物濃度C0と、坩堝内の溶融シリコンの不純物濃度C(N’)と、N’+1≦N+{hCUL−kC(N’)}/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には第2の所定量mを大きくせずに第N’+1回目の精製サイクルを行ない、N’+1>N+{hCUL−kC(N’)}/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には第2の所定量mを大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なうことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明において、第2の所定量mの値を、第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、停炉に至るまでの期間を従来よりも長くし、精製シリコンの製造コストの低減および生産性の向上を実現することが可能なシリコンの精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に用いられるシリコン精製装置の一例の模式的な構成図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明のシリコンの精製方法の一例の精製サイクルの一例を図解する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0021】
図1に、本発明に用いられるシリコン精製装置の一例の模式的な構成図を示す。図1に示すシリコン精製装置は、処理室4の内部に、溶融シリコンを保持するための坩堝1と、坩堝1の外周を取り囲むようにして設けられた加熱体2とが設けられている。また、処理室4には、内部に冷却媒体を流すことで外表面にシリコン凝固塊を析出させるための析出用基体3が設けられている。
【0022】
図1に示すシリコン精製装置は、シリコンの酸化および黒鉛部材の消耗を防止するため、処理室4の内部をアルゴンあるいは窒素等の不活性ガス雰囲気に置換可能となっている。また、処理室4には、析出用基体3を坩堝1内の溶融シリコンに浸漬させる、あるいは析出用基体3の外表面に析出したシリコン凝固塊を引き上げて装置外で回収するための析出用基体3の昇降機構(図示せず)および仕切弁(図示せず)が設けられている。
【0023】
坩堝1の材質としては、シリコンの融点(1412℃)以上で安定な黒鉛を用いることが好ましく、たとえば冷間等圧成型法(CIP)で製造された黒鉛などを用いることができる。
【0024】
加熱体2は、坩堝1内のシリコンをシリコンの融点(1412℃)以上に加熱することができる装置であって、坩堝1内のシリコンを溶融状態に保持可能となっている。加熱体2の加熱方式としては、たとえば黒鉛の加熱体を使用した抵抗加熱または誘導加熱などの従来から公知の加熱方式などを用いることができる。
【0025】
析出用基体3の材質も、シリコンの融点(1412℃)以上で安定な黒鉛を用いることが好ましい。また、析出用基体3の内部には、たとえば、冷却媒体を流すための流路と、当該流路に連結されて析出用基体3の内周面に冷却媒体を吹き付けるためのノズルとを備えていてもよい。
【0026】
図2(a)〜図2(d)に、本発明のシリコンの精製方法の一例の精製サイクルの一例を図解する模式図を示す。当該精製サイクルにおいては、まず、図2(a)に示すように、坩堝1内に第1の所定量Mの溶融シリコン5を保持する工程を行なう。
【0027】
ここで、溶融シリコン5の保持方法は、特に限定されないが、たとえば、加熱体2の加熱などによって、坩堝1内に供給された固体状態の原料シリコンを溶融状態とし、その状態で保持することなどにより行なうことができる。なお、固体状態の原料シリコンとしては、たとえば、多結晶シリコンインゴットから角柱状のブロックを切り出した際に発生する端材を用いることができる。また、原料シリコンとしては、上記以外にも、たとえば、金属シリコンからボロンやアルミニウムなどのp型ドーパント、およびリンやアンチモンなどのn型ドーパントを従来から公知の方法などにより除去したシリコンなどを用いることもできる。
【0028】
また、坩堝1内に保持された溶融シリコン5の第1の所定量Mの値は、特に限定されるものではない。
【0029】
次に、図2(b)に示すように、坩堝1内に保持された第1の所定量Mの溶融シリコン5に析出用基体3を浸漬することによって析出用基体3上にシリコン凝固塊を析出させる工程を行なう。
【0030】
ここで、析出用基体3上へのシリコン凝固塊の析出方法は、特に限定されないが、たとえば、析出用基体3を回転させながら、析出用基体3の内部の流路に冷却媒体を流し、流路に連結させたノズルから析出用基体3の内周面に冷却媒体を吹き付けることによって行なうことができる。これにより、析出用基体3の外周面の温度がシリコンの融点未満の温度まで低下し、析出用基体3の外表面にシリコンの凝固塊を析出させることができる。このようにして得られるシリコン凝固塊は、凝固偏析の原理に従い、坩堝1内の溶融シリコン5よりも純度が高くなる。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、坩堝1内の溶融シリコン5が第2の所定量mとなるまでシリコン凝固塊を引き上げる工程を行なう。
【0032】
ここで、シリコン凝固塊の引き上げ方法は、特に限定されないが、たとえば、処理室4に設けられた析出用基体3の昇降機構によって、シリコン凝固塊の析出後の析出用基体3を溶融シリコン5から引き上げることなどによって行なうことができる。シリコン凝固塊の引き上げは、1回であってもよく、第2の所定量mとなるまで複数回繰り返して行なってもよい。
【0033】
また、坩堝1内に保持された溶融シリコン5の第2の所定量mの値は、特に限定されるものではない。
【0034】
次に、図2(c)に示すように、坩堝1内の溶融シリコン5が第2の所定量mとなった後には、図2(d)に示すように、坩堝1内にシリコンを供給して坩堝1内の溶融シリコン5を第1の所定量Mとする工程を行なう。
【0035】
ここで、坩堝1内に供給されるシリコンは、特には限定されないが、たとえば上記の固体状態の原料シリコンなどを供給することができる。また、シリコンの供給方法も特に限定されず、たとえば従来から公知の方法などを用いることができる。
【0036】
上記の精製サイクルは、坩堝1内に存在する第1の所定量Mの溶融シリコン5が、別に定められた第2の所定量mとなるまで、溶融シリコン5からシリコン凝固塊を引き上げ、坩堝1内の溶融シリコン5が第1の所定量Mになるまで坩堝1内にシリコンを供給することを1つの精製サイクルとしている。
【0037】
そして、坩堝1内に溶融シリコン5が第1の所定量Mだけ存在する状態を当該精製サイクルの開始とし、坩堝1内の溶融シリコン5が第2の所定量mだけ存在する状態を当該精製サイクルの終了としている。
【0038】
本発明のシリコンの精製方法においては、上記の精製サイクルの後に、第2の所定量mの値を大きくして、次の精製サイクルを行なう。
【0039】
シリコンにおける鉄やチタンなどの金属不純物の偏析係数は、たとえば10-4〜10-8程度の非常に小さい値をとるため、上記のシリコン凝固塊の引き上げを行なうたびに坩堝1内の溶融シリコン5に含まれる金属不純物のほぼ全量が坩堝1内の溶融シリコン5中に移動すると考えてよい。
【0040】
したがって、上記の精製サイクルをN回(Nは1以上の自然数)行なったとき、第N回目の精製サイクルの終了時の坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度C(N)は、以下の式(i)で近似することができ、上記のシリコン凝固塊の引き上げを行なうたびに坩堝1内の溶融シリコン5に含まれる不純物濃度は上昇する。
C(N)=C0{(M/m−1)N+1} …(i)
0:坩堝1内に供給されるシリコンの不純物濃度
M:精製サイクル前に坩堝1内に保持されている溶融シリコン5の質量(第1の所定量M)
m:精製サイクルにおいてシリコン凝固塊の最後の引き上げ後に坩堝1内に保持されている溶融シリコン5の質量(第2の所定量m)
このとき、第N回目の精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N)は、以下の式(ii)で表わされる。
s(N)=kC(N)=kC0{(M/m−1)N+1} …(ii)
k:ある不純物の偏析係数
上記の式(ii)から明らかなように、シリコン凝固塊の引き上げを行なうたびに坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度が高くなることから、第N回目の精製サイクルにおいて最後に引き上げられるシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N)もまた、シリコン凝固塊の引き上げを行なうたびに高くなると考えられる。
【0041】
次に、精製サイクル内で最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N)について、精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULを用いてたとえば以下の合否基準判定式(iii)および(iv)を定めることができる。精製サイクルにおけるシリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULは、たとえば約10質量ppm以下に設定することができ、より好適には3質量ppm以下に設定することができる。
合格:Cs(N)≦CUL …(iii)
不合格:Cs(N)>CUL …(iv)
上記の式(ii)および(iii)から、不合格品を出さずにシリコン凝固塊を引き上げることができる最大の精製サイクル回数Nmaxは、以下の式(v)により算出することができる。
max=(CUL−kC0)/{kC0(M/m−1)} …(v)
上記の式(v)から、第2の所定量mを変化させることによって、不合格品を出さずにシリコン凝固塊を引き上げることができる最大の精製サイクル回数Nmaxを調整できることがわかる。たとえば、第2の所定量mの値を大きくした場合には、最大の精製サイクル回数Nmaxは増加する。一方、第2の所定量mの値を小さくした場合には、最大の精製サイクル回数Nmaxは減少する。
【0042】
したがって、精製シリコンの製造コストを低減する観点からは、不合格品を出さずにシリコン凝固塊を引き上げることができる最大の精製サイクル回数Nmaxは多い方が好ましい。
【0043】
しかしながら、第2の所定量mの値を単に大きくしただけでは、1精製サイクル当たりに取り出すことができるシリコン凝固塊の質量が減少して、精製シリコンの生産性が低下する。
【0044】
そこで、本発明においては、精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現するために、第N’(N’は1以上の自然数)回目の精製サイクルまでは第2の所定量mの値を小さくして精製シリコンの高い生産性を維持しつつ、第N’+1回目以降の精製サイクルからは第2の所定量mの値を大きくして最大の精製サイクル回数Nmaxを多くすることによって精製シリコンの製造コストを低減する。
【0045】
このとき、精製シリコンの生産性の向上を考慮すると、第2の所定量mは、第1の所定量Mの0.8倍未満とすることが好ましい。
【0046】
本発明のある一つの実施の形態においては、各精製サイクルにおいて坩堝1内に供給されるシリコンの不純物濃度を、たとえばICP(Ion Coupling Plasma)発光分析法などを用いて測定し、以下の式(vi)および/または(vii)を用いて、第N回目の精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N)および/または第N回目の精製サイクル後の坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度C(N)を予め計算しておく。
【0047】
【数1】

【0048】
Co(i):第i回目の精製サイクルにおいて供給されるシリコンの不純物濃度
Co(j):第j回目の精製サイクルにおいて供給されるシリコンの不純物濃度
m(j−1):第j−1回目の精製サイクルにおける第2の所定量
m(N):第N回目の精製サイクルにおける第2の所定量
【0049】
【数2】

【0050】
そして、第N’回目の精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N’)および/または第N’回目の精製サイクル後の坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度C(N’)が、以下の式(viii)および/または(ix)の関係を満たすように、本発明のシリコンの精製方法を行なうことが好ましい。
C(N’)<h1UL/k …(viii)
s(N’)<h1UL …(ix)
1:任意の定数
精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現する観点からは、任意の定数h1は0.5<h1<0.9の関係を満たすことが好ましく、第2の所定量mの値は第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。なお、第2の所定量mの値の変更は、1回に限定されず、複数回行なうこともできる。
【0051】
また、本発明の別の実施の形態においては、第2の所定量mを変更する判断基準に、シリコン凝固塊に含まれる不純物濃度を用いる。すなわち、1精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度を測定し、この不純物濃度の測定結果を第2の所定量mを変更する判断基準とする。ここで、シリコン凝固塊の不純物濃度は、たとえばICP発光分析法などを用いて測定することができる。
【0052】
たとえば、第N’回目の精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Cs(N’)が、以下の式(x)の関係を満たしたときに、第2の所定量mの値を大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なう。
s(N’)≧h2UL …(x)
2:任意の定数
ここで、精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現する観点からは、任意の定数h2は0.5<h2<0.9の関係を満たすことが好ましく、第2の所定量mの値は第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。
【0053】
また、本発明の別の実施の形態においては、第2の所定量mを変更する判断基準に、坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度を用いる。ここで、坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度は、たとえばICP発光分析法などを用いて測定することができる。
【0054】
たとえば、第N’回目の精製サイクル後の坩堝1内の溶融シリコン5の不純物濃度C(N’)が、以下の式(xi)の関係を満たしたときに、第2の所定量mの値を大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なう。
C≧h3UL/k …(xi)
3:任意の定数
ここで、精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現する観点からは、任意の定数h3は0.5<h3<0.9の関係を満たすことが好ましく、第2の所定量mの値は第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。
【0055】
本発明のさらに別の実施の形態においては、第2の所定量mを変更する判断基準に、坩堝1内に供給されるシリコンの不純物濃度Coおよび第2の所定量mの値を大きくしない最大の精製サイクル数N’’を用いる。ここで、坩堝1内に供給されるシリコンの不純物濃度Coは、たとえばICP発光分析法などを用いて測定することができる。
【0056】
ここで、第2の所定量mの値を大きくしない最大の精製サイクル数N’’(N’’は1以上の自然数)は、以下の式(xii)により算出することができる。
N’’=(h4UL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1 …(xii)
N’’:小数点以下切り捨て
4:任意の定数
そして、第N’回目の精製サイクルが以下の式(xiii)の関係を満たす場合には第2の所定量mの値を大きくせずに第N’+1回目の精製サイクルを行ない、以下の式(xiv)の関係を満たす場合には第2の所定量mの値を大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なう。
N’≦(h4UL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1 …(xiii)
N’>(h4UL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1 …(xiv)
ここで、精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現する観点からは、任意の定数h4は0.5<h4<0.9の関係を満たすことが好ましく、第2の所定量mの値は第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。
【0057】
本発明のさらに別の実施の形態においては、第N’回目の精製サイクルにおいて、第2の所定量mを第2の所定量m’に大きくして精製サイクルを行なった後、次に第2の所定量m’を第2の所定量m’’に大きくするまでの間の最大の精製サイクル数N’’’を以下の式(xv)により算出する。
N’’’={h5UL−kC(N)}/{kC0(M/m’−1)}+1 …(xv)
N’’’:小数点以下切り捨て
5:任意の定数
そして、以下の式(xvi)の関係を満たす場合には第2の所定量m’を第2の所定量m’’に大きくせずに第N’+1回目の精製サイクルを行ない、以下の式(xvii)の関係を満たす場合には第2の所定量m’を第2の所定量m’’に大きくして第N’+1回目の精製サイクルを行なう。
N’+1≦N+{h5UL−kC(N)}/{kC0(M/m’−1)}+1 …(xvi)
N’+1>N+{h5UL−kC(N)}/{kC0(M/m’−1)}+1 …(xvii)
ここで、精製シリコンの製造コスト低減と生産性向上とを同時に実現する観点からは、任意の定数h5は0.5<h5<0.9の関係を満たすことが好ましく、第2の所定量mの値は第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましく、第2の所定量m’の値は第2の所定量m’の1.05倍以上2倍以下の値に大きくすることが好ましい。
【0058】
なお、本発明のシリコンの精製方法は、上記の精製サイクルをその少なくとも一部に含んでいればよく、上記の精製サイクル以外の他の工程を含んでいてもよい。
【実施例1】
【0059】
実施例1として、第2の所定量mを変更する判断基準に、1つの精製サイクル内で最後に引き上げたシリコン凝固塊に含まれる不純物濃度を用いた例を挙げる。黒鉛坩堝中に保持した第1の所定量Mのシリコン融液430kgからシリコンを精製した。
【0060】
第1回目の精製サイクルにおける第2の所定量mは270kgとした。また、シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULは、鉄(Fe)濃度3質量ppmとし、任意の定数h1は0.6とした。すなわち、第2の所定量mの値を大きくするシリコン凝固塊の不純物濃度は、鉄(Fe)濃度1.8質量ppmwとした。第2の所定量mの値を大きくする変更は、第1の所定量Mの0.75倍未満となる範囲内で行なった。
【0061】
第1回目の第2の所定量mの値を大きくする変更は、30kgの増量、すなわち1.11倍の増量を行ない、第2回目の第2の所定量mの値を大きくする変更は、20kgの増量、すなわち1.07倍の増量を行なった。
【0062】
表1に、実施例1におけるシリコン精製結果を示す。第50回目および第66回目の精製サイクルにおいて、それぞれ、第1回目および第2回目の第2の所定量mの値を大きくする変更を行なうことで、第75回目の精製サイクルまで不合格品を出すことなくシリコンの精製を継続することができ、停炉までの間に11020kgのシリコン凝固塊を取り出すことができた。
【0063】
一方、実施例1と同一のシリコンを供給して、従来通り第2の所定量mを変更せずにシリコンの精製を継続した場合には、溶融シリコン中における不純物の濃縮により、第65回目以降の精製サイクルでは、全て不合格品となることが、上記の式(ii)を用いた計算により予測され、その時の合格品のシリコン凝固塊は9920kgとなる。
【0064】
つまり、実施例1においては、従来と比較して1100kg多くシリコン凝固塊を取り出すことができる。
【0065】
【表1】

【実施例2】
【0066】
実施例2として、第2の所定量mを変更する判断基準に、各精製サイクルにおける第2の所定量mの溶融シリコンに含まれる不純物濃度を用いた例を挙げる。第2の所定量mを変更する判断基準に、各精製サイクルにおける第2の所定量mの溶融シリコンに含まれる不純物濃度を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にした。
【0067】
表2に、実施例2におけるシリコン精製結果を示す。第53回目および第60回目の精製サイクルにおいて、それぞれ、第1回目および第2回目の第2の所定量mの値を大きくする変更を行なうことで、第85回目の精製サイクルまで不合格品を出すことなくシリコンの精製を継続することができ、停炉までの間に12140kgのシリコン凝固塊を取り出すことができた。
【0068】
一方、実施例2と同一のシリコンを供給して、従来通り第2の所定量mを変更せずにシリコンの精製を継続した場合には、溶融シリコン中における不純物の濃縮により、第65回目以降の精製サイクルでは、全て不合格品となることが、上記の式(ii)を用いた計算により予測され、その時の合格品のシリコン凝固塊は8620kgとなる。
【0069】
つまり、実施例2においては、従来と比較して3520kg多くシリコン凝固塊を取り出すことができる。
【0070】
【表2】

【実施例3】
【0071】
実施例3として、第2の所定量mを変更する判断基準に、供給される原料シリコンに含まれる不純物濃度と精製サイクル回数とを用いた例を挙げる。第2の所定量mを変更する判断基準に、供給される原料シリコンに含まれる不純物濃度と精製サイクル回数とを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にした。
【0072】
ICP発光分析法により、原料シリコンに含まれる鉄(Fe)濃度を測定したところ120質量ppmであったので、上記の式(ix)より第2の所定量mを変更する第1回目の時点N’は第48回目の精製サイクルとなる。そこで、第48回目の精製サイクル以降は第2の所定量mを30kg増量し、増量後の第2の所定量m’を300kgとした。さらに第2の所定量m’を変更する第2回目の時点N’’は第55回目の精製サイクルとなり、第2の所定量m’を20kg増量し、増量後の第2の所定量m’’を320kgとした。
【0073】
表3に、実施例3におけるシリコン精製結果を示す。実施例3においては、第77回目の精製サイクルまで不合格品を出すことなくシリコンの精製を継続することができ、停炉までの間に10960kgのシリコン凝固塊を取り出すことができた。
【0074】
一方、実施例3と同一のシリコンを供給して、従来通り第2の所定量mを変更せずにシリコンの精製を継続した場合には、溶融シリコン中における不純物の濃縮により、第59回目以降の精製サイクルでは、全て不合格品となることが、上記の式(ii)を用いた計算により予測され、その時の合格品のシリコン凝固塊は9280kgとなる。
【0075】
つまり、実施例3においては、従来と比較して1680kg多くのシリコン凝固塊を取り出すことができる。
【0076】
【表3】

【実施例4】
【0077】
実施例4として、第2の所定量mを第1の所定量Mの50%未満からスタートし、第2の所定量mを変更する判断基準に、供給されるシリコンに含まれる不純物濃度と精製サイクル回数を用いた例を挙げる。
【0078】
黒鉛坩堝中に保持した第1の所定量Mのシリコン融液430kgから、シリコンを精製した。第1回目の精製サイクルにおける第2の所定量mは150kgとした。また、シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULは、鉄(Fe)濃度3質量ppmとした。第2の所定量mの変更は、第1の所定量Mの0.75倍未満となる範囲内で行った。第1回目の第2の所定量mの変更では、100kgの増量、すなわち1.67倍の増量を行ない、第2回目の第2の所定量mの変更では、70kgの増量、すなわち1.28倍の増量を行なった。
【0079】
ICP発光分析法により、原料シリコンに含まれる鉄(Fe)濃度を測定したところ120質量ppmであったので、上記の式(ix)により第2の所定量mを変更する第1回目の時点N’は第16回目の精製サイクルとなる。
【0080】
そこで、第16回目の精製サイクル以降は第2の所定量mを100kg増量し、増量後の第2の所定量m’を250kgとした。さらに、第2の所定量mを変更する第1回目の時点N’’は第31回目の精製サイクルとなり、第2の所定量m’を70kg増量し、増量後の第2の所定量m’’を320kgとした。
【0081】
表4に、実施例4におけるシリコン精製結果を示す。実施例4においては、第67回目の精製サイクルまで不合格品を出すことなくシリコンの精製を継続することができ、停炉までの間に10970kgのシリコン凝固塊を取り出すことができた。
【0082】
一方、実施例4と同一のシリコンを供給して、従来通り第2の所定量mを変更せずにシリコンの精製を継続した場合には、溶融シリコン中における不純物の濃縮により、第19回目以降の精製サイクルでは、全て不合格品となることが、上記の式(ii)を用いた計算により予測され、その時の合格品のシリコン凝固塊は5040kgとなる。
【0083】
つまり、実施例4においては、従来と比較して5930kg多くのシリコン凝固塊を取り出すことができる。
【0084】
【表4】

【0085】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のシリコンの精製方法により、高純度のシリコンを低価格で市場に供給することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1 坩堝、2 加熱体、3 析出用基体、4 処理室、5 溶融シリコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内に第1の所定量Mの溶融シリコンを保持する工程と、
前記第1の所定量Mの前記溶融シリコンに析出用基体を浸漬することによって前記析出用基体上にシリコン凝固塊を析出させる工程と、
前記坩堝内の前記溶融シリコンが第2の所定量mとなるまで前記シリコン凝固塊を引き上げる工程と、
前記シリコン凝固塊を引き上げる工程の後に前記坩堝内にシリコンを供給して前記坩堝内の前記溶融シリコンを第1の所定量Mとする工程と、を備えた精製サイクルを含み、
前記精製サイクルの後に前記第2の所定量mの値を大きくして次の前記精製サイクルを行なう、シリコンの精製方法。
【請求項2】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
前記精製サイクルは、前記精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Csが、前記精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、Cs<hCULの関係を満たすようにして行なわれる、請求項1に記載のシリコンの精製方法。
【請求項3】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
前記精製サイクルは、前記精製サイクルにおいて最後に引き上げられたシリコン凝固塊の不純物濃度Csが、前記精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、Cs≧hCULの関係を満たしたときに、前記第2の所定量mの値を大きくする、請求項1または2に記載のシリコンの精製方法。
【請求項4】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
前記精製サイクルは、前記第2の所定量mの前記坩堝内の前記溶融シリコンの不純物濃度Cが、前記精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、前記不純物の偏析係数kと、C<hCUL/kの関係を満たすようにして行なわれる、請求項1から3のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項5】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
前記精製サイクルは、前記第2の所定量mの前記坩堝内の前記溶融シリコンの不純物濃度Cが、前記精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、前記不純物の偏析係数kと、C≧hCUL/kの関係を満たしたときに、前記第2の所定量mの値を大きくする、請求項1から4のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項6】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
第N’回目の精製サイクルが、前記第N’回目精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、前記不純物の偏析係数kと、前記坩堝内に供給される前記シリコンの不純物濃度C0と、N’≦(hCUL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には前記第2の所定量mの値を大きくせずに第N’+1回目の前記精製サイクルを行ない、N’>(hCUL−kC0)/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には前記第2の所定量mの値を大きくして第N’+1回目の前記精製サイクルを行なう、請求項1から5のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項7】
前記第2の所定量mは、前記第1の所定量Mの0.8倍未満であって、
第N’+1回目の精製サイクルが、第N’回目の精製サイクルにおける前記シリコン凝固塊の不純物濃度の許容限界値CULと、0.5<h<0.9となる任意の定数hと、前記不純物の偏析係数kと、前記坩堝内に供給される前記シリコンの不純物濃度C0と、前記坩堝内の溶融シリコンの不純物濃度C(N’)と、N’+1≦N+{hCUL−kC(N’)}/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には前記第2の所定量mを大きくせずに前記第N’+1回目の精製サイクルを行ない、N’+1>N+{hCUL−kC(N’)}/{kC0(M/m−1)}+1の関係を満たす場合には前記第2の所定量mを大きくして前記第N’+1回目の精製サイクルを行なう、請求項1から6のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【請求項8】
前記第2の所定量mの値を、前記第2の所定量mの1.05倍以上2倍以下の値に大きくする、請求項1から7のいずれかに記載のシリコンの精製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−112574(P2013−112574A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261278(P2011−261278)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】