説明

シリコンの結晶異方性ドライエッチング方法、および装置

【課題】シリコンの結晶異方性ドライエッチング方法、および装置を提供する。
【解決手段】シリコンWを、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う方法であって、シリコンWは反応室1内に配置されており、反応室1内の圧力を、イオンおよびラジカルの進行を調節する圧力に設定し、反応室1内に炭素供給源を設置する。反応室1内の圧力が高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。シリコンWの加工表面で、炭素供給源から供給された炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングの進行が調節される。シリコンエッチングにおける、結晶方位毎に異なる必要エッチングエネルギーの領域で加工が進行する状況が作られることにより、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの結晶異方性ドライエッチング方法、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンのエッチングには、液体薬品を用いて加工するウエットエッチングと、イオンやラジカルを用いて加工するドライエッチングの2種類がある。
【0003】
また、作製される加工形状からは、等方性エッチング、垂直異方性エッチング、結晶異方性エッチングに分類されている。
等方性エッチングでは、加工表面の法線方向にエッチングが進行すると同時に、加工表面の横方向である保護膜の下部にもエッチングが進行する。この現象はサイドエッチングと呼ばれ、等方性エッチングでは、法線方向のエッチング量とサイドエッチング量が等しくなる。等方性エッチングは、ウエットエッチングとドライエッチングの両方で行われている。
垂直異方性エッチングは、エッチング工程と、フルオロカーボン系のポリマー膜を保護膜として堆積する側壁保護膜堆積工程とを順番に繰り返すボッシュプロセスによって、垂直方向(加工表面の法線方向)にのみエッチングを進行させるものである。垂直異方性エッチングはドライエッチングのみで行われている。
結晶異方性エッチングは、単結晶シリコンの面方位によるエッチングレートの差に依存したエッチングを行うものであり、V字型の溝や台形の窪みなど様々な形状を作ることができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
従来、シリコンの結晶異方性エッチングは、アルカリ性の液でエッチングをするウエットエッチングのみで行われており、ドライエッチングで行った例は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−53700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、シリコンの結晶異方性ドライエッチング方法、および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、シリコンを、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う方法であって、前記イオンの作用による物理的エッチングの進行を調節し、前記ラジカルの作用による化学的エッチングの進行を調節することを特徴とする。
第2発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、第1発明において、前記シリコンは反応室内に配置されており、前記反応室内の圧力を、前記イオンおよび前記ラジカルの進行を調節する圧力に設定し、前記反応室内に炭素供給源を設置することを特徴とする。
第3発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、第2発明において、前記炭素供給源は、前記シリコンの加工表面に塗布された有機系固体材料であることを特徴とする。
第4発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、第2発明において、前記炭素供給源は、炭素を含有するガスを供給するガス供給源であることを特徴とする。
第5発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、第2、第3または第4発明において、前記反応室内の圧力が、10Pa以上70Pa以下であることを特徴とする。
第6発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、第2、第3または第4発明において、前記反応室内の圧力が、30Paであることを特徴とする。
第7発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置は、シリコンを、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う装置であって、前記シリコンを配置する反応室を備えており、前記反応室内の圧力は、前記イオンおよび前記ラジカルの進行を調節する圧力に設定され、前記反応室内に炭素供給源が設置されていることを特徴とする。
第8発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置は、第7発明において、前記炭素供給源は、前記シリコンの加工表面に塗布された有機系固体材料であることを特徴とする。
第9発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置は、第7発明において、前記炭素供給源は、炭素を含有するガスを供給するガス供給源であることを特徴とする。
第10発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置は、第7、第8または第9発明において、前記反応室内の圧力が、10Pa以上70Pa以下であることを特徴とする。
第11発明のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置は、第7、第8または第9発明において、前記反応室内の圧力が、30Paであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、イオンの作用による物理的エッチングを調節し、ラジカルの作用による化学的エッチングを調節することで、シリコンエッチングにおける、結晶方位毎に異なる必要エッチングエネルギーの領域で加工が進行する状況が作られることにより、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができる。ドライエッチングであるので、危険な薬液を操作する必要がなく安全であり、化学薬品の使用を非常に少なくできる。また、複雑な3次元マイクロ構造を製作できる。さらに、解像度、洗浄性、加工制御性、自動化容易性、電子回路との適合性が向上する。
第2発明によれば、反応室内の圧力が高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。また、シリコンの加工表面で、炭素供給源から供給された炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングの進行が調節される。物理的エッチングの量、および、化学的エッチングの量が制御されることにより、シリコンエッチングにおける、結晶方位毎に異なる必要エッチングエネルギーの領域で加工が進行する状況が作られることにより、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができる。
第3発明によれば、有機系固体材料に含まれる炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングが調節される。また、有機系固体材料はシリコンの加工表面に塗布されるので、シリコンの近傍に炭素供給源が存在することになり、より化学的エッチングの調節ができる。
第4発明によれば、ガスに含有される炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングが調節される。
第5発明によれば、反応室内の圧力が10Pa以上と高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。また、反応室内の圧力が70Pa以下であるため、エッチングガスをイオン化し、イオンとラジカルを生成することができる。
第6発明によれば、反応室内の圧力が30Paであるときに、結晶異方性度が68%と高くなる。
第7発明によれば、反応室内の圧力が高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。また、シリコンの加工表面で、炭素供給源から供給された炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングの進行が調節される。物理的エッチングの量、および、化学的エッチングの量が制御されることにより、シリコンエッチングにおける、結晶方位毎に異なる必要エッチングエネルギーの領域で加工が進行する状況が作られることにより、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができる。ドライエッチングであるので、危険な薬液を操作する必要がなく安全であり、化学薬品の使用を非常に少なくできる。また、複雑な3次元マイクロ構造を製作できる。さらに、解像度、洗浄性、加工制御性、自動化容易性、電子回路との適合性が向上する。
第8発明によれば、有機系固体材料に含まれる炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングが調節される。また、有機系固体材料はシリコンの加工表面に塗布されるので、シリコンの近傍に炭素供給源が存在することになり、より化学的エッチングの調節ができる。
第9発明によれば、ガスに含有される炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングが調節される。
第10発明によれば、反応室内の圧力が10Pa以上と高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。また、反応室内の圧力が70Pa以下であるため、エッチングガスをイオン化し、イオンとラジカルを生成することができる。
第11発明によれば、反応室内の圧力が30Paであるときに、結晶異方性度が68%と高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】RIE装置の説明図である。
【図2】実施例1のSEM画像であり、(A)は平面、(B)は断面である。
【図3】実施例2のSEM画像であり、(A)は平面、(B)は断面である。
【図4】(A)は実施例3のSEM画像、(B)は実施例4のSEM画像、(C)は比較例1のSEM画像、(D)は比較例2のSEM画像である。
【図5】結晶異方性度の定義の説明図である。
【図6】(A)は実施例5のSEM画像、(B)は実施例6のSEM画像、(C)は実施例7のSEM画像、(D)は実施例8のSEM画像、(E)は実施例9のSEM画像である。
【図7】レジストとの距離の試験におけるシリコンウエハの説明図である。
【図8】(A)はレジストとの距離が0mmの位置の加工表面のSEM画像、(B)はレジストとの距離が5mmの位置の加工表面のSEM画像、(C)はレジストとの距離が10mmの位置の加工表面のSEM画像である。
【図9】(A)はシリコンの(100)面上にエッチング・ホールを<110>方向に並べて配置した試験の説明図、(B)はシリコンの(100)面上にエッチング・ホールを<100>方向に並べて配置した試験の説明図、(C)はシリコンの(100)面上にエッチング・ホールを<110>方向に並べて配置した試験のSEM画像、(D)はシリコンの(100)面上にエッチング・ホールを<100>方向に並べて配置した試験のSEM画像である。
【図10】(A)はシリコンの(110)面を結晶異方性ドライエッチングした場合のSEM画像、(B)はシリコンの(110)面をウエットエッチングした場合のSEM画像である。
【図11】反応室内の圧力および高周波電源出力に対する結晶異方性度のグラフである。
【図12】(A)は実施例13のSEM画像、(B)は実施例14のSEM画像、(C)は比較例4のSEM画像のSEM画像である。
【図13】(A)は実施例15のSEM画像、(B)は実施例16のSEM画像、(C)は実施例17のSEM画像、(D)は実施例18のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、ドライエッチングに主として使われるRIE(Reactive Ion Etching;反応性イオンエッチング)装置について説明する。
図1に示すように、RIE装置は、反応室1内に対向して設置された高周波電極2と接地電極3とを備えている。高周波電極2は平板状であり高周波電源4に接続されている。また、接地電極3は平板状でありグランドに接続されている。高周波電極2の上にはエッチングの対象であるシリコンウエハWが配置される。接地電極3は、反応室1内にエッチングガスGを供給できるようになっており、エッチングガスGは、接地電極3からシャワー状に噴き出し、シリコンウエハWに均一に降り注ぐようになっている。また、反応室1は図示しない真空ポンプにより排気され、真空に保たれている。
【0011】
高周波電源4により高周波電極2に高周波の電圧を印加すると、高周波電極2と接地電極3との間にグロー放電が起こり、そのグロー放電によってエッチングガスGがイオン化され、イオンとラジカルが生成される。
高周波電極2とイオンとの間には自己バイアス電位が生じ、イオンが高周波電極2の方向に加速され、シリコンウエハWに衝突する。この衝撃で物理的にシリコン原子をはじき出し、エッチングが促進する。このとき、イオンはシリコンウエハWの加工表面に対して垂直に加速されるので、垂直方向にのみエッチングが進行し、異方性エッチングとなる(物理的エッチング)。
【0012】
また、ラジカルは電気的に中性であるため、高周波電極2と接地電極3との間の電場の影響を受けず、拡散によってシリコンウエハWの加工表面に到達する。シリコンウエハWの加工表面では、化1に示す化学反応(エッチングガスがSF6の場合)が起こり、エッチングが促進する。このとき、シリコンウエハWの加工表面の垂直方向および横方向にエッチングが進行するので、等方性エッチングとなる(化学的エッチング)。
【化1】

【0013】
このようにRIE装置では、イオンの作用による物理的エッチングと、ラジカルの作用による化学的エッチングの2つのエッチングが行われる。
【0014】
本発明に係るシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法は、上記のRIE装置のように、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う装置を用い、反応室内に炭素供給源を設置し、反応室内の圧力を通常の圧力(高真空)よりも高く(低真空)設定することで実現される。
【0015】
ここで、炭素供給源としては、シリコンウエハの加工表面に塗布されたレジスト等の有機系固体材料でよい。有機系固体材料のほかにも、炭素を含有するガス(例えば、C2F6等の炭素を含有するフルオロカーボンガス)を供給するガス供給源を用いることができる。さらに、炭素を液体により供給してもよい。
また、通常、RIE装置の反応室内の圧力は、1Pa以下に設定されるが、本発明の場合は10Pa以上に設定される。
【0016】
以下、具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
シリコンウエハの加工表面に、SiO2の保護膜を形成し、その保護膜の上にレジストを塗布したものをRIE装置で結晶異方性ドライエッチングを行う。保護膜およびレジストには円形のマスクパターン(以下、エッチング・ホールという。)が形成されている。なお、本発明で使用されるマスクパターンは任意であり、種々のパターンを採用することができる。
RIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、反応室内の圧力を20Pa、高周波電源出力を50W、加工時間を60分とする。
【0017】
上記条件でエッチングを行うと、図2に示す加工形状が得られる。図2に示すように、加工形状は、ウエットエッチングで見られる結晶異方性エッチングの加工形状と似た形状となり、シリコンの(111)面で囲まれた逆ピラミッド構造が見られる。したがって、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングできることが分かる。
【0018】
(実施例2)
シリコンウエハの加工表面に、Alの保護膜を形成し、その保護膜の上にレジストを塗布したものをRIE装置で結晶異方性ドライエッチングを行う。保護膜およびレジストにはエッチング・ホールが形成されている。
RIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、反応室内の圧力を20Pa、高周波電源出力を50W、加工時間を60分とする。
【0019】
上記条件でエッチングを行うと、図3に示す加工形状が得られる。図3に示すように、加工形状は、ウエットエッチングで見られる結晶異方性エッチングの加工形状と似た形状となり、シリコンの(111)面で囲まれた逆ピラミッド構造が見られる。したがって、保護膜をAlとしても、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングできることが分かる。
【0020】
以上のごとく、RIE装置によるドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができる。その仕組みは以下の通りであると考えられる。
前述のとおり、RIE装置では、イオンの作用による物理的エッチングと、ラジカルの作用による化学的エッチングの2つのエッチングが行われる。本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法によれば、反応室内の圧力が通常の圧力よりも高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節される。また、炭素供給源であるレジストに含まれる炭素、もしくは、エッチング中に削られたレジストの塵に含まれる炭素とイオン、および、炭素とラジカルとが反応し、ラジカルの作用による化学的エッチングの進行が調節される。物理的エッチングの量、および、化学的エッチングの量が制御されることにより、シリコンエッチングにおける、結晶方位毎に異なる必要エッチングエネルギーの領域で加工が進行する状況が作られ、ドライエッチングで、シリコンを結晶異方性エッチングすることができると考えられる。
【0021】
結晶異方性ドライエッチング方法はドライエッチングであるので、ウエットエッチングに比べて危険な薬液を操作する必要がなく安全であり、化学薬品の使用を非常に少なくできる。また、複雑な3次元マイクロ構造を製作できる。さらに、解像度、清浄性、加工制御性、自動化容易性、電子回路との適合性が向上する。
【0022】
(試験)
本発明に係るシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法には、反応室内に炭素供給源を設置する必要がある。これを検証するために、レジストの有無の試験、レジストの種類の試験、レジストとの距離の試験を行った。
【0023】
(レジストの有無の試験)
炭素供給源が必要であることを検証するために、炭素供給源としてのレジストを塗布したシリコンウエハ(実施例3、4)と、レジストを塗布していないシリコンウエハ(比較例1、2)を用いて、RIE装置でエッチングを行った。実施例3、4、および比較例1、2の保護膜とレジストの有無は表1に示すとおりである。なお、保護膜およびレジストにはエッチング・ホールが形成されている。
【表1】

【0024】
上記実施例3、4、および比較例1、2をRIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、反応室内の圧力を20Pa、高周波電源出力を50W、加工時間を30分とした。ただし、実施例4のみ、加工時間を60分とした。
【0025】
試験の結果、実施例3、4、および比較例1、2のそれぞれの加工形状は図4に示すようになった。図4に示すように、炭素供給源であるレジストが有る実施例3、4のみ結晶異方性が見られる。
【0026】
図4に示すように、実施例3、4においても完全に結晶異方性ではなく、等方性の成分も含まれていることが分かる。そこで、どの程度結晶異方性であるかを数値的に評価するために、結晶異方性の度合いを示す結晶異方性度Aを採用した。結晶異方性度Aは数1に示すように定義される。
【数1】

ここで、Xは結晶異方性係数であり、結晶異方性係数Xは、図5に示すように、加工形状の内接する四角形の1辺の長さをl、その四角形からの膨らんだ距離をδとしたとき、X=2δ/lである。また、Xmaxは加工形状が完全に等方性であるときの結晶異方性係数である。
結晶異方性度Aは、完全な結晶異方性のとき100%を示し、完全な等方性のとき0%となる。
【0027】
実施例3、4、および比較例1、2のそれぞれの結晶異方性度Aは、表2に示す結果となった。表2より、炭素供給源であるレジストが有る実施例3、4は、レジストが無い比較例1、2に比べて結晶異方性度Aが高いことが分かる。すなわち、結晶異方性ドライエッチング方法を実現するには、炭素供給源が必要であることが分かる。
【表2】

【0028】
(レジストの種類の試験)
上記のレジストの有無の試験においては、レジストとしてS1805(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製)を用いていた。そこで、結晶異方性ドライエッチング方法が、S1805を用いた場合にのみ実現できるのか、もしくは、他のレジストを用いた場合にも実現できるのかを検証するために、種々のレジストを塗布したシリコンウエハ(実施例5から9)を用いて、試験を行った。実施例5から9のシリコンウエハに塗布されたレジストは表3に示すとおりである。なお、本試験においては、シリコンウエハに保護膜を形成しておらず、シリコンウエハの加工表面に直接レジストを塗布している。また、レジストにはエッチング・ホールが形成されている。
【表3】

【0029】
上記実施例5から9をRIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、反応室内の圧力を20Pa、高周波電源出力を50W、加工時間を30分とした。
【0030】
試験の結果、実施例5から9のそれぞれの加工形状は図6に示すようになった。また、結晶異方性度Aは、表4に示す結果となった。表4より、いずれのレジストを用いた場合にも結晶異方性度Aが高い値となっており、レジストの種類に依存することなく結晶異方性ドライエッチング方法を実現できることが分かる。
【表4】

【0031】
(レジストとの距離の試験)
つぎに、レジストとエッチング・ホールとの距離と、結晶異方性度Aとの相関を検証する試験を行った。図7に示すように、本試験においては、シリコンウエハにSiO2の保護膜を形成し、その保護膜の一部にのみレジスト(S1805)を塗布したものを用いた。なお、保護膜には複数のエッチング・ホールが形成されている。
【0032】
図7に示すシリコンウエハをRIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、反応室内の圧力を20Pa、高周波電源出力を50W、加工時間を30分とした。
【0033】
RIE装置でのエッチングの後、レジストとエッチング・ホールとの距離が0mm、5mm、10mmの3箇所における加工形状は図8に示すようになった。また、結晶異方性度Aは、表5に示す結果となった。表5より、レジストとエッチング・ホールとの距離が離れるほど、結晶異方性Aが低下していることが分かる。
【表5】

【0034】
本試験により、レジストがエッチング・ホールに近い方が、結晶異方性Aが高くなることが分かった。また、保護膜上にレジストがなくても、反応室内に炭素供給源が設置するだけで、結晶異方性ドライエッチング方法を実現できることが分かった。しかし、レジストを保護膜上に塗布している方が、シリコンウエハの近傍に炭素供給源が存在することになり、より物理的エッチングの調節ができ、結晶異方性Aが高くなることが分かった。
【0035】
(エッチング面の試験)
つぎに、本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法のエッチング面が(111)面であることを検証するために、2つの試験を行った。
【0036】
まず、図9に示すように、表面が(111)面であるシリコンウエハに、直径5μmのエッチング・ホールを直線状に並べた保護膜を形成するにあたり、エッチング・ホールをシリコンの<110>方向に沿って並べて形成したもの(実施例10:図9(A))と、シリコンの<100>方向に沿って並べて形成したもの(実施例11:図9(B))とを用意した。
そして、実施例10、11のシリコンウエハに対して本発明に係る結晶異方性ドライエッチングを行った。
【0037】
実施例10の加工形状は図9(C)に示すような形状となり、実施例11の加工形状は図9(D)に示すような形状となった。図9(C)、(D)より、結晶軸に沿ってエッチング面が変化しており、そのエッチング面が(111)面であることが分かった。
【0038】
つぎに、表面が(110)面であるシリコンウエハに、エッチング・ホールを有する保護膜を形成したもの(実施例12、比較例3)を用意した。
実施例12のシリコンウエハに対して本発明に係る結晶異方性ドライエッチングを行った。
また、比較低3のシリコンウエハに対してウエットエッチングを行った。
【0039】
図10に示すように、実施例12(図10(A))と比較例3(図10(B))とは、同様の加工面が得られており、そのエッチング面が(111)面であることが分かった。
【0040】
本試験により、本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法のエッチング面が(111)面であることが分かった。
【0041】
(圧力、高周波電源出力依存の試験)
本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法は、RIE装置の反応室内の圧力を通常の圧力(高真空)よりも高く(低真空)設定することで実現される。そこで、反応室内の圧力、およびエッチングエネルギーに強く関係のある高周波電源出力を変化させながら、エッチングを行い、各条件における加工形状から結晶異方性Aを評価した。なお、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、加工時間を30分とした。
【0042】
試験の結果は図11に示すようになった。図11に示すように、反応室内の圧力が10Pa以上70Pa以下の範囲において、結晶異方性ドライエッチング方法が実現できることが分かる。これは、反応室内の圧力が10Pa以上と高いため、イオンおよびラジカルの物理的移動の状況が変えられ、イオンの作用による物理的エッチングの進行が調節されるからと考えられる。また、反応室内の圧力が70Paより大きいと、エッチングガスがイオン化しづらくなり、イオンとラジカルを生成することができなくなるため、加工ができなくなると予測される。
【0043】
なお、本試験の測定の範囲内では、反応室内の圧力が30Paで、高周波電源出力が100Wであるときに、結晶異方性度Aが68%となり、最大となる。
【0044】
(炭素供給源の試験)
つぎに、他の炭素供給源について検証するための試験を行った。
炭素供給源としてレジストを塗布した場合(実施例13)、フルオロカーボンガスを供給した場合(実施例14)、および炭素供給源を設置しない場合(比較例4)の3つの条件で本発明に係る結晶異方性ドライエッチングを行った。
なお、実施例13は、レジストをS1805、エッチングガスをSF6とした。また、実施例14は、保護膜をSiO2、エッチングガスをSF6、フルオロカーボンガスをC2F6とした。また、比較例4は、保護膜をSiO2、エッチングガスをSF6とした。
【0045】
実施例13の加工形状は図12(A)に示すような形状となり、結晶異方性が見られた。
実施例14の加工形状は図12(B)に示すような形状となり、結晶異方性が見られた。実施例14では、保護膜に炭素が含まれていないが、フルオロカーボンガスを供給することで、結晶異方性ドライエッチングが実現できることが分かる。
比較例4の加工形状は図12(C)に示すような形状となり、結晶異方性が見られない。このように、炭素供給源を設置しない場合には、結晶異方性ドライエッチングが実現できないことが分かる。
【0046】
(RIE装置依存の試験)
上記各試験においては、すべてRIE装置で試験を行っている。そこで、本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法が他の装置でも実現できることを確認するために、使用する装置をICP−RIE装置に代えて試験を行った。
ICP(Inductive Coupled Plasma;誘導結合型)−RIE装置とは、プラズマ発生源のコイル型電極とプラテン電極とを備えており、コイル型電極で高密度のプラズマを発生し、プラテン電極で加工試料にイオンやラジカルなどの反応種を引き寄せ、加工を行う装置である。一般に、ICP−RIE装置は平行平板型のRIE装置に比べ、高密度プラズマが発生可能である。
【0047】
シリコンウエハをICP−RIE装置でエッチングを行うにあたり、エッチングガスをSF6、ガスの流量を50sccm、コイル型電極のコイルパワーを400W、加工時間を3分に固定し、反応室内の圧力、プラテン電極のプラテンパワーを変えて試験を行った(実施例15から18)。実施例15から18の反応室内の圧力とプラテンパワーは表6に示すとおりである。
【表6】

【0048】
試験の結果、実施例15から18のそれぞれの加工形状は図13に示すようになった。また、結晶異方性度Aは、表7に示す結果となった。表7から、実施例17,18では結晶異方性となっていることが分かる。これより、ICP−RIE装置を用いても、結晶異方性ドライエッチング方法が実現できることが分かる。すなわち、結晶異方性ドライエッチング方法は、特定の装置に依存せず実現できることが分かる。
【表7】

【0049】
なお、実施例15、16では等方性エッチングとなっているが、実施例15、16は反応室内の圧力が極低圧(0.13Pa)であることが原因と考えられる。
【0050】
さらになお、本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法は、RIE装置に限られず、圧力で平均自由行程を可変でき、電力でイオン加速エネルギーを可変できるドライエッチング装置であれば、種々の装置を採用することができる。例えば、プラズマエッチング装置等に代表される等方ドライエッチング装置を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る結晶異方性ドライエッチング方法によれば、複雑な3次元マイクロ構造を製作できる。そのため、マイクロセンサ、加速度計、ジャイロスコープ、圧力センサ、薬物送達システム、走査プローブセンサ、回折格子、マイクロモータなどの様々なMEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイスの加工に利用することができる。また、シリコン製のマイクロ3次元金型などの製作に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 反応室
2 高周波電極
3 接地電極
4 高周波電源
G エッチングガス
W シリコンウエハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う方法であって、
前記イオンの作用による物理的エッチングの進行を調節し、
前記ラジカルの作用による化学的エッチングの進行を調節する
ことを特徴とするシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項2】
前記シリコンは反応室内に配置されており、
前記反応室内の圧力を、前記イオンおよび前記ラジカルの進行を調節する圧力に設定し、
前記反応室内に炭素供給源を設置する
ことを特徴とする請求項1記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項3】
前記炭素供給源は、前記シリコンの加工表面に塗布された有機系固体材料である
ことを特徴とする請求項2記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項4】
前記炭素供給源は、炭素を含有するガスを供給するガス供給源である
ことを特徴とする請求項2記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項5】
前記反応室内の圧力が、10Pa以上70Pa以下である
ことを特徴とする請求項2、3または4記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項6】
前記反応室内の圧力が、30Paである
ことを特徴とする請求項2、3または4記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング方法。
【請求項7】
シリコンを、イオンとラジカルの作用によりエッチングを行う装置であって、
前記シリコンを配置する反応室を備えており、
前記反応室内の圧力は、前記イオンおよび前記ラジカルの進行を調節する圧力に設定され、
前記反応室内に炭素供給源が設置されている
ことを特徴とするシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置。
【請求項8】
前記炭素供給源は、前記シリコンの加工表面に塗布された有機系固体材料である
ことを特徴とする請求項7記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置。
【請求項9】
前記炭素供給源は、炭素を含有するガスを供給するガス供給源である
ことを特徴とする請求項7記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置。
【請求項10】
前記反応室内の圧力が、10Pa以上70Pa以下である
ことを特徴とする請求項7、8または9記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置。
【請求項11】
前記反応室内の圧力が、30Paである
ことを特徴とする請求項7、8または9記載のシリコンの結晶異方性ドライエッチング装置。

【図1】
image rotate

【図7】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−84737(P2012−84737A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230742(P2010−230742)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】