説明

シリコンインゴットの製造方法

【課題】本発明は、従来廃材となっていた坩堝残を有効に活用することができ、純度の高い原料を使用した場合と同等の特性が得られる多結晶シリコンインゴットを製造できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のシリコンインゴットの製造方法は、坩堝内に保持された、第1の導電型を規定する第1のドーパントを含有するシリコン融液から、チョクラルスキー法により太陽電池用の単結晶インゴットを引き上げる工程と、単結晶シリコンインゴットを引き上げた後の坩堝内の残留分(坩堝残)を、多結晶シリコンインゴットの原料として用いてインゴットを形成する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンインゴットの製造方法に関し、詳しくは太陽電池の製造に適した単結晶シリコンインゴットおよび多結晶シリコンインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光などの光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、地球環境問題に対応できるエネルギー技術として大きな発展を期待されている。太陽電池は種々の構造、構成のものが開発されているが、その中でも多結晶または単結晶のシリコンウェハを用いた結晶シリコン太陽電池は、歴史的に古いものの一つであり、高い変換効率が得られること、および製造コストも比較的安価であることから今なお生産量が拡大している。
【0003】
現在のところ、太陽電池用のシリコンウェハを得るための単結晶シリコンインゴットは、半導体用シリコンインゴットから半導体ウェハを製造する際に生ずる廃材を再利用して製造されている。
【0004】
たとえば特許文献1には、半導体デバイス用シリコン単結晶基板の製造において規格外とされたシリコン単結晶を、太陽電池用シリコン単結晶基板の製造に用いることが記載されている。また、特許文献2には、半導体用シリコン製造後の石英坩堝内に残留したシリコンから、太陽電池の原料を得ることが記載されている。
【0005】
このような再利用が可能なのは、非特許文献1に掲載されている表(下記表1)に示されるように、太陽電池用シリコンに求められる純度(不純物濃度)が、半導体用シリコンに比べて充分に低いためである。
【0006】
【表1】

【0007】
半導体デバイスや太陽電池に使用する単結晶シリコンインゴットの製造方法は種々の方法があるが、そのひとつにチョクラルスキー(Cz)法がある。Cz法は、原料シリコンを融解したシリコン融液から、単結晶インゴットを引き上げて製造する方法である。
【0008】
Cz法における原料シリコンは、半導体用シリコンインゴット製造用にはシーメンス法によって製造される棒状や片状、またはそれらを砕いたような塊状の不規則な形状をした、不純物がほとんど含まれない高純度な多結晶シリコンである場合が多く、太陽電池用シリコンインゴット製造用には上述のように半導体用シリコンインゴット製造時の端材が使用される場合が多い。
【0009】
もちろん、太陽電池用原料としてシーメンス法による高純度な多結晶シリコンを使用することも可能であるが、半導体用シリコン(高純度な多結晶シリコンそのものでも、その製造工程から出る端材でも)を太陽電池用シリコンとして使用する際には、通常3〜6Ωcm程度の抵抗率を有するシリコン結晶を得るために、より多くのドーピングが必要である。
【0010】
この「ドーピング」については、非特許文献2に詳述されており、不純物濃度と抵抗率の相関グラフを用いて、適当なドーパント(不純物、例えばボロンやリン)を原料の多結晶シリコンに添加する必要がある。
【0011】
これに伴い、Cz法によって製造された太陽電池用単結晶シリコンインゴットには、その長さ方向(引上げ時の鉛直方向)にドーパントの濃度分布が生じる。
【0012】
シリコンの固化率をgとした時のドーパントの濃度分布Csは、以下の式(1)で表されることが知られている。
s=k×C0×(1−g)k-1…(1)
式(1)中のkは平衡偏析係数、C0はシリコン融液における初期ドーパント濃度であり、p型ドーパントとして最も一般的に使用されるボロン(B)の平衡偏析係数は0.8、n型ドーパントとして最も一般的に使用されるリン(P)の平衡偏析係数は0.35である。
【0013】
また、Cz法では、シリコン融液の持つ熱容量と固化現象のバランスを保ちながら単結晶インゴットを成長させるが、坩堝内のシリコン融液を全て使い切ることは困難であり、坩堝内に残留分(以下、「坩堝残」と記載する)が残り、坩堝残にはシリコン融液の初期ドーパント濃度よりも高い、半導体用としてはもちろん、太陽電池用としても過剰な濃度のドーパントが含まれることになる。
【0014】
このため、半導体用シリコン製造後の石英坩堝内に残留したシリコンと異なり、太陽電池用単結晶シリコンインゴット製造後の坩堝残は従来、再利用されずに廃棄処分されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−76382号公報
【特許文献2】特開2002−37617号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】独立行政法人、産業技術総合研究所(産総研)、太陽光発電研究センター、補足資料「シリコンの種別と略称」、[online]、2008年12月26日最終更新、[平成21年4月20日検索]、インターネット〈URL: http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/supplement/SiTypes.html〉
【非特許文献2】志村史夫著、「半導体シリコン結晶工学」、第1版、丸善株式会社、1993年9月30日、p.40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、Cz法による単結晶シリコンインゴットの抵抗率範囲を規定することで、従来廃棄されてきた坩堝残を再使用できるシリコンインゴット製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のシリコンインゴットの製造方法は、坩堝内に保持された、第1の導電型を規定する第1のドーパントを含有するシリコン融液から、チョクラルスキー法により太陽電池用の単結晶インゴットを引き上げる工程と、単結晶シリコンインゴットを引き上げた後の坩堝内の残留分(坩堝残)を、多結晶シリコンインゴットの原料として用いてインゴットを形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
上記単結晶シリコンインゴットのヘッド部における抵抗率が20Ω・cm以上となるように第1のドーパントの濃度を調整し、単結晶シリコンインゴットのテール終端部の抵抗率が8Ω・cm以上16Ω・cm以下となる単結晶シリコンインゴットの引き上げを行ない、抵抗率3Ω・cm以上6Ω・cm以下の坩堝残を多結晶シリコンインゴットの原料として用いることが好ましい。
【0020】
また、坩堝残に対し、上記第1のドーパントとは異なる導電型を規定する第2のドーパントを添加する工程を含み、該工程により、坩堝残から得られる多結晶シリコンの抵抗率を1Ω・cm以上2Ω・cm以下に調整することが好ましい。
【0021】
さらに、第1のドーパントがリンであり、第2のドーパントがボロンであることが好ましい。
【0022】
また、本発明のシリコンインゴット製造方法は、坩堝残を多結晶シリコンインゴットの原料とし、キャスト法によりp型の多結晶シリコンインゴットを製造する工程を含むシリコンインゴット製造方法である。
【0023】
本発明のシリコンインゴット製造方法においては、坩堝残を多結晶シリコンインゴットの原料とし、該原料からキャスト法により1Ω・cm以上2Ω・cm以下の抵抗率を有するp型の多結晶シリコンインゴットを製造する工程と、多結晶シリコンインゴットから太陽電池セルを製造する工程とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
Cz法による単結晶シリコンインゴット製造時の副産物である坩堝残を、多結晶シリコン太陽電池用のキャストインゴット用の原料に再利用できることから、原料シリコンの利用効率の向上が見込めるとともに、低コスト太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】CZ法による単結晶インゴットの結晶成長を模式的に示す断面図である。
【図2】単結晶インゴットの形状の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】(a)は本発明の実施形態に係る固化率および抵抗率と残留リン濃度の関係の一例を示すグラフであり、(b)は本発明の実施の形態に係る固化率および抵抗率と残留リン濃度の関係の他の一例を示すグラフである。
【図4】従来の太陽電池を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0027】
本発明は、チョクラルスキー(Cz)法による単結晶シリコンインゴットを形成する工程を含む。図1にCz法による単結晶インゴットの結晶成長の断面図を模式的に示す。該Cz法による単結晶インゴットの成長では、円柱状を有する石英坩堝1に多結晶原料シリコンとドープ材を含んだ原料を充填し、該原料を石英坩堝1の外側から融解して、融液状態のシリコン(シリコン融液21)を形成する。その後、シードホルダ22にセットした種結晶23(シード結晶ともいう)を上記シリコン融液21に浸漬した後、種結晶23を回転させながらゆっくりと引き上げて単結晶インゴット24を成長させる。
【0028】
図2にCz法により引き上げて形成された単結晶インゴットの形状の一例の断面模式図を示す。Cz法の単結晶インゴットの引き上げにおいては、まず種結晶をシリコン融液に接触させた後に、熱衝撃により種結晶に高密度で発生するスリップ転位から伝播する転位を消滅させるために、直径を3mm〜5mm程度に一旦細くした絞り部101を形成するネッキング工程(絞り工程)を行なう。図2は、既に種結晶から切断された状態の単結晶インゴットの形状を示し、種結晶は図示していない。絞り部101の長さは特に限定されないが、上記転位の影響を完全に防ぐために、通常5cm以上30cm以下とする。
【0029】
絞り工程の後、所望の直径(10cm〜30cm、または4インチ〜12インチ程度)になるまで結晶径を拡大させる。このような結晶径の拡大は、引き上げ速度を緩やかにすることによって公知の方法により達成できる。そして、このような結晶径の拡大は、図2に示すクラウン102およびショルダー部103(肩部ともいう)を作る。その後、所望の直径の単結晶直胴(ボディまたは定径部ともいう)である本体部分104を所望の長さ成長させる。ここで、定径部最上端(ショルダー部から定径部への移行後直下)を以下ヘッド、あるいはヘッド部という(図2中、Hで示す)。なお、クラウン102は、上述の引き上げ速度の緩やかな時間帯に形成される部分を指し、ショルダー部103は、クラウン102とヘッド部との間の部分をいい、クラウン102形成時より引き上げ速度を上げて、直胴部形成への準備を行なう時間帯に形成される部分を指し、この時間は5分程度のものである。
【0030】
本体部分104を所望の長さ成長させた後、シリコン融液からの単結晶インゴットの切り離し技術としては、図2に示すように、単結晶ボディの定径部分から徐々に直径を細く絞ってゆき、シリコン融液からの切り離し時の熱的な転位発生の伝播から遠ざける方法がある。通常、この単結晶の片側端部の逆さの円錐状部分はテール105と呼ばれており、円錐高さ方向の長さは、頂点の末端部で発生する熱的な転位の伝播から逃れるため、少なくとも本体部分104の直径以上とすることが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法では、上記単結晶シリコンインゴットを引き上げる工程において、単結晶シリコンインゴットのヘッド部Hにおける抵抗率が20Ω・cm以上となるように上記シリコン融液における第1のドーパントの濃度を調整することが好ましい。ヘッド部Hにおける抵抗率を20Ω・cm以上とする場合は、テール側の抵抗率を下記のように高くすることができるので好ましい。この場合、単結晶シリコンインゴットのテール終端部における抵抗率は8Ω・cm以上16Ω・cm以下となるようにインゴットの引き上げを行ない、坩堝残の抵抗率が3Ω・cm以上6Ω・cm以下となることが望ましい。上記ヘッド部Hにおける抵抗率が20Ω・cm以上の場合は、単結晶として引き上げられる部分が長く、原料シリコンの坩堝への1回の充填量から製造される単結晶の収率を良好なものとすることができ、その結果製造コストを抑えることができる。
【0032】
このようなドーパント濃度と抵抗率の関係について以下に説明する。Cz法によって製造された太陽電池用単結晶シリコンインゴットには、その長さ方向(引上げ時の鉛直方向)にドーパントの濃度分布が生じる。
【0033】
シリコンの固化率をgとした時のドーパントの濃度分布Csは、上述のように式(1)で表される。
s=k×C0×(1−g)k-1…(1)
(式(1)中のkは平衡偏析係数、C0はシリコン融液における初期ドーパント濃度である。)固化率とは、シリコン融液に含まれる原料シリコンの総質量に対する結晶化したシリコンの質量の比をいう。また、p型ドーパントとして最も一般的に使用されるボロン(B)の平衡偏析係数は0.8、n型ドーパントとして最も一般的に使用されるリン(P)の平衡偏析係数は0.35である。
【0034】
抵抗率を上記範囲とするには、所定の形状のシリコンインゴットの作成において上記ドーパント濃度と固化率の関係を求めておき、これらの関係からドーパント濃度の調整により、ヘッド部および後述のテール終端部の抵抗率が所望の範囲となるように調整すればよい。たとえば、ヘッド部の抵抗率を20Ω・cm以上とするには、リンをドーパントとする場合、1ロット60kg程度のシリコンにドーパント0.5〜2g(抵抗率0.1〜0.5mΩ・cmの高濃度(10-19cm-3台)でリンを含んだシリコンの破片)を投入することが好ましい。また、ヘッド部の抵抗率を上げるためには、ドーパント投入量を下げる。
【0035】
リンをドーパントとしたn型単結晶シリコンインゴットを代表例として、インゴットの抵抗率(リン濃度)と、残留している融液の抵抗率(リン濃度)について検討する。
【0036】
図3(a)、図3(b)に、リンをドーパントとしたCz法によるn型単結晶引上げにおいて、ヘッド部の抵抗率をそれぞれ30Ω・cm(図3(a))、20Ω・cm(図3(b))とした時の、固化率に対するインゴット内部の抵抗率の変化を示した。更に、石英坩堝内に残留しているリンの濃度(残留リン濃度)について検討を行った。ヘッド部の抵抗率が30Ω・cmの場合の残留リン濃度を表2に、ヘッド部の抵抗率が20Ω・cmの場合の残留リン濃度を表3に示す。なお、本発明における「抵抗率」は25℃における値であり、測定方法は四探針法による。四探針法による測定は、たとえばナプソン社製の抵抗率測定装置RTシリーズを用いて行なうことができる。また、本発明におけるリン等のドーパントの「濃度」の測定はICP法により、たとえば島津製作所製の測定装置ICPE−9000により測定することができる。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
図3(a)および図3(b)、表2および表3ではn型の抵抗率(図および表中、「抵抗率」)については、マイナスをつけて負の値として表示している。図3(a)および図3(b)において、抵抗率の軸に平行な実線に挟まれた固化率の範囲がボディとして有効な部分であり、一点鎖線よりも固化率が大きい範囲が坩堝残に該当する部分である。
【0040】
図3(a)および図3(b)から分かるように、リンの偏析係数が0.35であることから、固化率とともにインゴットの抵抗率は30Ω・cmまたは20Ω・cmから徐々に低下し(つまりリン濃度が増加している)、幅広い抵抗率を有するインゴットが製造される。一方、インゴットから加工されたウェハを使用して太陽電池セルやモジュールを製造する観点からすれば、インゴットの抵抗率範囲はできるだけ狭いことが好ましい。
【0041】
本発明者らは、抵抗率範囲をできるだけ狭くするのみならず、シリコン使用効率を向上するために、坩堝残を別の用途に適用する方法を鋭意検討した結果、単結晶インゴットの成長を途中でやめ、坩堝残の抵抗率が3Ω・cm以上6Ω・cm以下であれば、多結晶シリコン太陽電池用のキャストインゴット原料としてリサイクル可能であることを見出した。これは、図3(a)および図3(b)からも分かるように、インゴットのテール部分の最終端(テール終端部)の抵抗率を8Ω・cm以上16Ω・cm以下で切り上げることと同等である。また、テール終端部の抵抗率が上記範囲にある場合、固化率をみると、ヘッド部の下からテール部の上端までのボディ部の収率も最大8割近くまで取れることから、単結晶インゴットの製造についても上記抵抗率での切り上げが大きな損失にはならず、坩堝残である2割強の部分を従来のように廃棄せず、太陽電池用多結晶インゴットにリサイクルできる。
【0042】
すなわち、坩堝残からキャスト法によって多結晶シリコンインゴットが得られ、多結晶太陽電池セルおよび太陽電池モジュールを作製可能であるので、低コストの太陽電池が量産可能となる。これにより原料シリコンの利用効率はほぼ100%になると考えられる。
【0043】
さらに、太陽電池用多結晶インゴット製造のための好ましい方法としては、3Ω・cm程度の抵抗率を持つリンドープによるn型シリコンに対し、濃度換算にして一桁多いボロンをドーピングすることによって、1Ω・cm〜2Ω・cmのp型シリコンとする方法が挙げられる。
【0044】
なお、坩堝残のシリコンは、石英坩堝と部分的に固着しているため、フッ酸処理によって酸化シリコンを溶解して回収すればよい。
【0045】
以上の製造方法により、従来廃材となっていた坩堝残のリサイクルが可能となり、よって、多結晶シリコン太陽電池が低コストで製造可能となる。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0047】
ボディ部直径16cm、テール部長さ16cmの単結晶シリコンインゴットをCz法により作製した。条件は以下の通りとした。
<条件>
原料シリコン:シーメンス法による高純度多結晶シリコンおよび半導体用単結晶シリコン端材、1ロット当たり60kg
坩堝:内径18インチの石英製坩堝
抵抗率範囲:インゴット上端部20Ωcm、テール終端部8Ωcm
抵抗率を制御する不純物:リン(P)
切り離し時の残湯量:15kg(60kg充填中)抵抗率3Ωcm
雰囲気ガス:アルゴン
気圧:10Torr
引上げ速度:1.2mm/分平均
シード回転数:16rpm
坩堝回転数:12rpm
単結晶インゴットの引き上げは、まず原料シリコンを石英坩堝に入れて溶融し、シリコン融液を形成させる。このシリコン融液に単結晶シリコンを種結晶として接触させた後、種結晶を回転させながら引き上げを開始する。その後、ネッキング(絞り)工程、クラウン(コーン)を形成する工程、ついでショルダー部を形成する工程を経て、直径16cmの定径部である単結晶ボディ部を成長させた。ネッキング工程では5cmの直径に絞り、テール部は引き上げ速度を徐々に大きくし、温度を徐々に高くするようにプログラムを制御して引き上げを行なった。固化率を75%とした。
【0048】
この単結晶インゴットを引き上げた後、1ロット毎に溶融坩堝を取出して坩堝残を回収し、回収20ロット分、計300kgに、ボロンをドーピングしてキャスト法により抵抗率1Ω・cm〜2Ω・cmのp型多結晶インゴットを作製した。
【0049】
次に、このインゴットを125mm×125mm×200μmのウェハに加工し、多結晶シリコン太陽電池セルを作製した。
【0050】
太陽電池セル作製方法は以下の通りとした。図4に本実施例で製造した多結晶太陽電池セル11の一例の概略模式図を示す。
【0051】
まず、125mm×125mm×200μmのp型のシリコン基板12の表面をエッチングし、この後、受光面となる片側表面に900℃でリン(P)の熱拡散を行って面抵抗値が約50Ωのn+型拡散層13を形成した。
【0052】
その上に反射防止膜14としてプラズマCVD法により厚さ約60nmのシリコン窒化膜を形成した。次に、受光面と反対側の裏面にアルミペーストをスクリーン印刷し、150℃で乾燥した後、IR焼成炉に入れ、空気中において700℃で焼成し、裏面電界層15(BSF層)およびアルミ電極16を形成した。次に、裏面に銀ペーストをパターン状にスクリーン印刷し、乾燥させて集電極17を形成した。
【0053】
そしてさらに、受光面に銀ペーストを魚骨状パターンになるようにスクリーン印刷し、乾燥後、酸化性雰囲気下、600℃で2分間焼成して銀電極18を形成した。最後に銀電極を半田層でコーティングすることにより(不図示)、多結晶太陽電池セル11を得た。
【0054】
その結果、高純度シリコン原料を使用した多結晶シリコン太陽電池と同等の特性が得られ、本発明の有意性が確認された。以上の処理で得られた太陽電池の電流−電圧特性についてソーラーシミュレータで評価した平均測定結果を表4に示す。評価はAM1.5、室温25℃の条件で行なった。
【0055】
【表4】

【0056】
表4の結果から明らかなように、本発明の範囲を満たす抵抗率でCz法による単結晶インゴットを製造することにより、坩堝残を有効活用できるとともに、他の単結晶端材、例えばテール部などの再利用も考慮すれば、再利用分を含め100%の利用効率が実証された。なお、キャストインゴットのトップ、ボトム、サイド端材についても廃棄することなく、表面を数mmサンドブラスト処理することで、ほぼ廃棄分0%でキャストインゴットに再利用可能である。
【0057】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0058】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、原料シリコンの有効活用が実現できる製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 石英坩堝、11 多結晶太陽電池セル、12 シリコン基板、13 n+型拡散層、14 反射防止膜、15 裏面電界層、16 アルミ電極、17 集電極、18 銀電極、21 シリコン融液、22 シードホルダ、23 種結晶、24 単結晶インゴット、101 絞り部、102 クラウン、103 ショルダー部、104 本体部分、105 テール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内に保持された、第1の導電型を規定する第1のドーパントを含有するシリコン融液から、チョクラルスキー法により太陽電池用の単結晶シリコンインゴットを引き上げる工程と、
前記単結晶シリコンインゴットを引き上げた後の坩堝内の残留分を、多結晶シリコンインゴットの原料として用いてインゴットを形成する工程とを含むシリコンインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記単結晶シリコンインゴットのヘッド部における抵抗率が20Ω・cm以上となるように前記シリコン融液における前記第1のドーパントの濃度を調整し、かつ、
前記単結晶シリコンインゴットのテール終端部における抵抗率が8Ω・cm以上16Ω・cm以下となるように前記単結晶シリコンインゴットの引き上げを行ない、
前記多結晶インゴットの原料として用いる前記残留分は、抵抗率が3Ω・cm以上6Ω・cm以下である、請求項1に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記残留分に対し、前記第1のドーパントとは異なる導電型を規定する第2のドーパントを添加する工程を含み、該工程により前記残留分から得られる多結晶シリコンインゴットの抵抗率を1Ω・cm以上2Ω・cm以下に調整する、請求項1または2に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項4】
前記第1のドーパントがリンであり、前記第2のドーパントがボロンである、請求項3に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
前記残留分を多結晶シリコンインゴットの原料として用いてインゴットを形成する工程は、キャスト法によりp型の多結晶シリコンインゴットを製造する工程を含む、請求項1から4のいずれかに記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
前記残留分を多結晶シリコンインゴットの原料として用いてインゴットを形成する工程は、該原料からキャスト法により1Ω・cm以上2Ω・cm以下の抵抗率を有するp型の多結晶シリコンインゴットを製造する工程と、該多結晶シリコンインゴットから太陽電池セルを製造する工程とを含む、請求項1から5のいずれかに記載のシリコンインゴットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−46564(P2011−46564A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196976(P2009−196976)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】