説明

シリコンインゴットの連続鋳造方法

【課題】冷却ルツボの内面が損耗するのを軽減できるシリコンインゴットの連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】軸方向の一部が周方向で複数に分割された無底の冷却ルツボ7を誘導コイル8内に配置し、誘導コイル8による電磁誘導加熱により、冷却ルツボ7内に投入されたシリコン原料を溶解させて溶融シリコン13を形成し、冷却ルツボ7から引き下げながら凝固させてシリコンインゴット3を連続鋳造する方法において、誘導コイル8に供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることを特徴とするシリコンインゴットの連続鋳造方法である。本発明は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させる際、誘導コイルに供給8される交流電流の周波数に応じ、冷却ルツボ7内に連続投入するシリコン原料の投入速度を調整して変動させるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用基板の素材であるシリコンインゴットの連続鋳造方法に関し、さらに詳しくは、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減できるシリコンインゴットの連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2排出による地球温暖化問題やエネルギー資源の枯渇問題が深刻化しており、それらの問題の対応策の一つとして、無尽蔵に降りそそぐ太陽光エネルギーを活用する太陽光発電が注目されている。太陽光発電は、太陽電池を使用して太陽光エネルギーを直接電力に変換する発電方式であり、太陽電池の基板には、多結晶のシリコンウェーハを用いるのが主流である。
【0003】
太陽電池用の多結晶シリコンウェーハは、一方向性凝固のシリコンインゴットを素材とし、このインゴットをスライスして製造される。このため、太陽電池の普及を図るには、シリコンウェーハの品質を確保するとともに、コストを低減する必要があり、その前段階で、高品質のシリコンインゴットを安価に製造することが要求される。この要求に対応できる方法として、電磁誘導を利用した連続鋳造方法であるEMC法(Electromagnetic Casting法、電磁鋳造法)が実用化されている。
【0004】
図3は、従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置(以下、単に「EMC炉」ともいう。)の構成を示す模式図である。同図に示すように、EMC炉はチャンバー1を備える。チャンバー1は、内部を外気から隔離し鋳造に適した不活性ガス雰囲気に維持する二重壁構造の水冷容器である。チャンバー1の上壁には、原料導入口2が設けられ、原料導入口2には、図示しない原料供給装置が連結されている。チャンバー1は、側壁の上部に不活性ガス導入口5が設けられ、側壁の下部に排気口6が設けられている。
【0005】
チャンバー1内には、無底の冷却ルツボ7、誘導コイル8およびアフターヒーター9が配置されている。無底の冷却ルツボ7は、融解容器としてのみならず、鋳型としても機能し、熱伝導性および電気伝導性に優れた金属(例えば、銅)製の角筒体で、チャンバー1内に吊り下げられている。この冷却ルツボ7は、軸方向の一部が、複数の短冊状の素片により、周方向で複数に分割される。また、冷却ルツボ7は、内部を流通する冷却水によって強制冷却される。
【0006】
誘導コイル8は、冷却ルツボ7を囲繞するように、冷却ルツボ7と同芯に周設され、図示しない電源装置に接続されている。アフターヒーター9は、冷却ルツボ7と同芯に、冷却ルツボ7の下方に複数連設され、冷却ルツボ7から引き下げられるシリコンインゴット3を加熱して、その軸方向に適切な温度勾配を与えつつ、長時間かけて室温まで冷却する。
【0007】
また、チャンバー1内には、図示しない原料供給装置が連結される原料導入口2の下方に原料導入管11が取り付けられている。粒状や塊状のシリコン原料12が、図示しない原料供給装置から原料導入口2を介して原料導入管11内に供給され、冷却ルツボ7内に連続投入される。
【0008】
チャンバー1の底壁には、アフターヒーター9の下方に、インゴット3を抜き出すための引出し口4が設けられ、この引出し口4はガスでシールされている。インゴット3は、引出し口4を貫通して下降する支持台15によって支えられながら引き下げられる。
【0009】
冷却ルツボ7の真上には、プラズマトーチ14が昇降可能に設けられている。プラズマトーチ14は、図示しないプラズマ電源装置の一方の極に接続され、他方の極は、支持台15に接続されている。このプラズマトーチ14は、下降させて冷却ルツボ7内に挿入された状態で使用される。
【0010】
このようなEMC炉を用いるEMC法では、無底の冷却ルツボ7内にシリコン原料12を投入し、誘導コイル8に交流電流を印加するとともに、下降させたプラズマトーチ14に通電を行う。このとき、冷却ルツボ7を構成する短冊状の各素片が互いに電気的に分割されていることから、誘導コイル8による電磁誘導に伴って各素片内で渦電流が発生し、冷却ルツボ7の内壁の渦電流が冷却ルツボ7内に磁界を発生させる。これにより、冷却ルツボ7内のシリコン原料は電磁誘導加熱されて融解し、溶融シリコン13が形成される。また、プラズマトーチ14とシリコン原料、さらには溶融シリコン13との間にプラズマアークが発生し、そのジュール熱によっても、シリコン原料が加熱されて融解し、電磁誘導加熱の負担を軽減して効率良く溶融シリコン13が形成される。
【0011】
溶融シリコン13は、冷却ルツボの内面7aの渦電流に伴って生じる磁界と、溶融シリコン13の表面に発生する電流との相互作用により、溶融シリコンの外面13aの内側法線方向にピンチ力(同図の白抜き矢印参照)を受ける。このため、冷却ルツボの内面7aと溶融シリコンの外面13aとは、非接触の状態に保持される。
【0012】
無底の冷却ルツボ7内でシリコン原料12を融解させながら、溶融シリコン13を支える支持台15を徐々に下降させると、誘導コイル8の下端から遠ざかるにつれて誘導磁界が小さくなることから、発熱量およびピンチ力が減少し、さらに冷却ルツボ7からの冷却により、溶融シリコンの外面13aから凝固が進行する。そして、支持台15の下降に伴ってシリコン原料12を連続的に投入し、融解および凝固を継続することにより、溶融シリコン13が一方向に凝固し、インゴット3を連続して鋳造することができる。
【0013】
このようなEMC法によれば、溶融シリコンの外面13aと無底の冷却ルツボの内面7aとの接触が軽減されるため、その接触に伴う冷却ルツボ7からの不純物の汚染が防止され、高品質のインゴット3を得ることができる。しかも、連続鋳造であることから、安価に一方向凝固されたインゴット3を製造することが可能になる。
【0014】
また、EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造する際は、一般的に、インゴットは一定の速度で引き下げられる。インゴットを一定の速度で引き下げる際、溶融シリコンの上面の位置が上昇または下降すると、誘導コイル内の溶融シリコンの容量が変化することから、誘導コイルに供給される交流電流の周波数が変動し、それに伴い溶融シリコンが凝固する位置(溶融シリコンとインゴットの界面の位置)が上下に移動する。溶融シリコンが凝固する位置が上下に移動した場合、鋳造されたインゴットで引き下げ軸方向の位置によって鋳造の際の熱履歴が異なることとなり、鋳造されたインゴットの品質が、引き下げ軸方向の位置によって異なる(低下する)おそれがある。
【0015】
このため、EMC法によるシリコンインゴットの連続鋳造では、通常、誘導コイル内の溶融シリコンの上面の位置が所定の位置となる交流電流の周波数を目標値とし、誘導コイルに供給される交流電流の周波数に応じ、シリコン原料の投入速度を増減させて調整し、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を目標値に制御する。これにより、誘導コイルに供給される交流電流の周波数が変動するのを意図的に抑え、溶融シリコンの上面を所定の位置に保持する。その結果、鋳造されるインゴットは、引き下げ軸方向の位置にかかわらず同じ熱履歴により連続鋳造されることになり、品質のバラツキが抑制される。
【0016】
しかし、EMC法によるインゴットの連続鋳造では、一部が複数の短冊状の素片により分割された冷却ルツボを用いて複数本のインゴットを連続鋳造すると、冷却ルツボの内面が局所的に損耗し、素片と素片の間に設けられた間隔(スリット)が大きくなる問題が発生する。
【0017】
EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造すると、前記図3に示すように、冷却ルツボの内面7aのうち、溶融シリコンの外面13aおよび凝固したインゴットの外面3aにおける溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面13bの位置の周辺部分7bで、損耗が発生し易い。一つの冷却ルツボを用いて複数本のインゴットを鋳造すると、冷却ルツボの内面のうちの損耗が発生し易い部分7bが局所的に損耗し、その結果、隣接する素片の間隔が大きくなる。
【0018】
冷却ルツボの内面が損耗して隣接する素片の間隔が閾値を超えると、溶融シリコンが素片と素片との間隙に入り込んで凝固する差し込みが発生し、インゴットの引き下げを阻害する。このため、隣接する素片の間隔が閾値を超えた冷却ルツボを、インゴットの連続鋳造に使用することはできないので、シリコンインゴットの連続鋳造では、一つの冷却ルツボで鋳造することができるインゴットの本数は限られる。したがって、工業生産におけるシリコンインゴットの連続鋳造では、製造コストを鑑み、冷却ルツボの損耗を軽減して一つの冷却ルツボで鋳造することができるインゴットの本数を増加させ、すなわち、冷却ルツボの寿命を延ばすことが望まれる。
【0019】
EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造する方法に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1および2がある。特許文献1では、EMC炉として、冷却ルツボの分割された素片と素片との間隔が0.3〜1.0mmであるものを用いるとともに、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を0.5〜200kHzとするインゴットの連続鋳造方法が提案されている。特許文献1では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を0.5〜200kHzとすることにより、差し込みを抑えることができるとともに、電力消費量を少なくすることができるとしている。
【0020】
しかし、特許文献1に記載された誘導コイルに供給される交流電流の周波数の範囲は、EMC法に使用することができる範囲を開示したものに過ぎず、工業的にインゴットを連続鋳造する際に重要となる品質や生産効率を考慮した適正範囲については開示されていない。また、特許文献1では、一つの冷却ルツボを用いて複数本のインゴットを連続鋳造した場合に冷却ルツボの内面が局所的に損耗する問題については検討されていない。さらに、特許文献1で規定される範囲の周波数を用いてインゴットを連続鋳造しても、冷却ルツボの内面が局所的に損耗する場合がある。
【0021】
また、特許文献2では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を25〜35kHzとするインゴットの連続鋳造方法が提案されている。特許文献2では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を25〜35kHzとすることにより、溶融シリコンに表皮効果を生じさせてインゴットの表面温度を高温に維持し、インゴット表面からチル層が成長するのを相対的に抑制できる。また、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を25〜35kHzとすることにより、コイル電流値を低くすることができ、溶融シリコンの攪拌を抑え、粒径の大きな結晶の成長を促進できる。その結果、インゴットの内部および表面の半導体特性の低下を抑制でき、太陽電池に用いた際に変換効率を高めることができるとしている。
【0022】
しかし、特許文献2では、一つの冷却ルツボを用いて複数本のインゴットを連続鋳造した場合に冷却ルツボの内面が局所的に損耗する問題については検討されていない。また、特許文献2で規定される範囲の周波数を用いてインゴットを連続鋳造しても、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するため、製造コストが増加する課題が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許2630417号公報
【特許文献2】特開2008−174397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
EMC法によるシリコンインゴットの連続鋳造方法では、前述のとおり、一つの冷却ルツボを用いて複数のインゴットを連続鋳造すると、冷却ルツボの内面が局所的に損耗する問題がある。前掲の特許文献1および2では、冷却ルツボの内面が局所的に損耗する問題については検討されておらず、前掲の特許文献1および2で規定される範囲の周波数を用いてインゴットを連続鋳造しても、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するため、製造コストが増加する課題が有る。
【0025】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減できるシリコンインゴットの連続鋳造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するため、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造する際、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることにより、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減できることを知見した。
【0027】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)のシリコンインゴットの連続鋳造方法を要旨としている。
【0028】
(1)軸方向の一部が周方向で複数に分割された無底の冷却ルツボを誘導コイル内に配置し、誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却ルツボ内に投入されたシリコン原料を溶解させて溶融シリコンを形成し、前記冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを連続鋳造する方法において、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることを特徴とするシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【0029】
(2)前記誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させるに際し、前記誘導コイルに供給される交流電流の周波数に応じ、前記冷却ルツボ内に連続投入するシリコン原料の投入速度を調整して変動させることを特徴とする上記(1)に記載のシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることにより、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によりインゴットを連続鋳造する際の溶融シリコンとインゴットの状態を説明する模式図であり、同図(a)は交流電流の周波数を変動させて高くした場合、同図(b)は交流電流の周波数を変動させて低くした場合をそれぞれ示す。
【図2】シリコンインゴットを連続鋳造した際のインゴットの引き下げ長(mm)と、誘導コイルに供給される周波数(kHz)の関係を示す図であり、同図(a)は従来例、同図(b)は本発明例をそれぞれ示す。
【図3】従来のEMC法に用いられる連続鋳造装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、軸方向の一部が周方向で複数に分割された無底の冷却ルツボを誘導コイル内に配置し、誘導コイルによる電磁誘導加熱により、冷却ルツボ内に投入されたシリコン原料を溶解させて溶融シリコンを形成し、冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを連続鋳造する方法において、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることを特徴とする。以下に、本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法について図面を参照しながら説明する。
【0033】
本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させる。誘導コイルに供給される交流電流の周波数が変動すると、溶融シリコンに作用するピンチ力も増減し、その結果、溶融シリコンの外面および凝固したインゴットの外面における溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面の位置を上方または下方に移動させることができる。
【0034】
図1は、本発明によりインゴットを連続鋳造する際の溶融シリコンとインゴットの状態を説明する模式図であり、同図(a)は交流電流の周波数を変動させて高くした場合、同図(b)は交流電流の周波数を変動させて低くした場合をそれぞれ示す。同図では、EMC炉が備える無底の冷却ルツボ7および誘導コイル8と、冷却ルツボ内に形成された溶融シリコン13と、凝固したインゴット3とを示す。
【0035】
誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させて高くした場合、同図(a)に示すように、ピンチ力が溶融シリコンに作用することにより(同図の白抜き矢印参照)、溶融シリコンの外面13aは冷却ルツボの内面7aと接触することなく保持される。この場合、冷却ルツボの内面7aのうち、溶融シリコンの外面13aおよび凝固したインゴットの外面3aにおける溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面13bの位置の周辺部分7bが損耗し易い。
【0036】
誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させて低くした場合、溶融シリコンに作用するピンチ力が増加し、同図(b)に示すように、溶融シリコンの上面近傍において、溶融シリコンの外面と冷却ルツボの内面の間隔が大きくなる。このため、冷却ルツボによる冷却効果が減少することから、溶融シリコンと凝固したインゴットの界面13bが下方に移動する。その結果、同図(b)に示すように、溶融シリコンの外面13aおよび凝固したインゴットの外面3aにおける溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面13bの位置が下方に移動し、すなわち、冷却ルツボの内面で損耗し易い部分7bも下方に移動する。
【0037】
このように本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させるのに伴い、溶融シリコンに作用するピンチ力が増減し、溶融シリコンの外面13aおよび凝固したインゴットの外面3aにおける溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面13bの位置を移動させ、すなわち、冷却ルツボの内面で損耗し易い部分7bを移動させる。
【0038】
図2は、シリコンインゴットを連続鋳造した際のインゴットの引き下げ長(mm)と、誘導コイルに供給される周波数(kHz)の関係を示す図であり、同図(a)は従来例、同図(b)は本発明例をそれぞれ示す。同図(a)は後述する実施例の従来例により、同図(b)は後述する実施例の本発明例1によりインゴットを連続鋳造した際のものである。
【0039】
従来のシリコンインゴットの連続鋳造方法では、溶融シリコンの上面を所定の位置に保持するため、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を目標値に制御し、意図的に変動を抑える。この場合、誘導コイルに供給される周波数は、図2(a)に示すように目標値である30kHzから変動するが、その標準偏差は0.015kHz程度であり、溶融シリコンに作用するピンチ力はほとんど増減しない。このため、溶融シリコンおよび凝固したインゴットの外周上における溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面の位置、すなわち、冷却ルツボの内面で損耗し易い部分が所定の範囲に保持される。その結果、一つの冷却ルツボを用いて複数本のインゴットを鋳造すると、冷却ルツボが局所的に損耗する。
【0040】
これに対し本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法では、図2(b)に示すように誘導コイルに供給される交流電流の周波数を意図的に変動させる。意図的に与えた変動に伴い、溶融シリコンに作用するピンチ力が増減し、溶融シリコンの外面および凝固したインゴットの外面における溶融シリコンと凝固したインゴットとの界面の位置を移動させる。すなわち、冷却ルツボの内面で損耗し易い部分が移動することから、本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、冷却ルツボの内面が損耗する範囲が広がり、局所的に損耗するのを軽減できる。
【0041】
次に、変動を与える交流電流の周波数について、標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzと規定する理由について説明する。
【0042】
変動を与える交流電流の周波数の標準偏差が0.025kHz未満であると、冷却ルツボの内面で損耗し易い部分が移動する範囲が狭くなり、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減する効果が十分に発揮されない。一方、変動を与える交流電流の周波数の標準偏差が0.050kHzを超えると、鋳造されたインゴットにおいて、引き下げ軸方向に生じる熱履歴の変化が大きくなり、結晶組織が不均一となって品質低下が問題となる。
【0043】
また、変動を与える交流電流の周波数の平均値が35kHzを超えると、溶融シリコンの表面に発生する電流が、その表面部分に過度に集中することから、溶融シリコンと冷却ルツボの内面との間で放電が生じる場合がある。特に、鋳造されるシリコンインゴットの断面形状が、一辺が300mmを超える大断面である場合、シリコン溶解に要する電力量の増加に伴って冷却ルツボと溶融シリコン間の電圧が高くなり、溶融シリコンと冷却ルツボの内面との間で放電が生じ易くなる。
【0044】
この放電が発生すると、スリットに対して垂直な溝状痕が冷却ルツボの内面に形成され、溝状痕は深く、長さ1.0mm以上であり長い。このため、放電が発生して冷却ルツボの内面に溝状痕が形成された場合は冷却ルツボの継続使用が困難となることから、本発明による効果を十分に発揮できない。
【0045】
一方、変動を与える交流電流の周波数の平均値が25kHz未満であると、誘導コイルに供給される交流電流の電流値が増加し、溶融シリコンに作用する電磁攪拌力が増加する。電磁攪拌力が増加すると、溶融シリコンが流動し、結晶粒の成長が妨げられることから、鋳造されたインゴットの結晶粒の粒径が小さくなり、インゴットを切り出したウェーハを太陽電池に用いた際に、変換効率の低下を招くおそれがある。このため、基準値の下限は、25kHz以上とした。
【0046】
誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させる方式として、鋳造中に周波数の値を調整することが可能である電源装置を用いる方式や、シリコン原料の投入速度を調整する方式を採用できる。
【0047】
ここで、鋳造中に交流電流の周波数の値を調整することが可能である電源装置を用いる方式を採用する場合、電源装置はコンデンサ容量が可変式である必要があることから、EMC炉の装置構成が煩雑となるとともに、設備コストが上昇する。一方、一般的にEMC炉は冷却ルツボに投入されるシリコン原料の投入速度を調整する手段を備えており、投入速度を調整して誘導コイル内の溶融シリコンの量を変化させることで周波数を変動させる方式は容易に実施可能である。したがって、本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、品質として影響が見られない範囲で冷却ルツボ内に連続投入するシリコン原料の投入速度を調整し、誘導コイル内の溶融シリコンの量を変化させることによる周波数の変動方式を採用するのが好ましい。
【0048】
シリコン原料の投入速度を調整することによって周波数を変動させる方式では、例えば、以下の基準値、変動付与範囲および平衡速度を用いた操作により、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることができる。
【0049】
基準値、変動付与範囲および平衡速度を用いた操作では、シリコンインゴットを連続鋳造する前に、誘導コイル内の溶融シリコンの上面の位置が所定の位置となる誘導コイルに供給される交流電流の周波数(基準値)と、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を基準値で維持できる冷却ルツボへのシリコン原料の投入速度(平衡速度)を設定する。この基準値および平衡速度は、鋳造するインゴットの断面寸法やインゴットの引き下げ速度、EMC炉の加熱条件および冷却条件等に基づき適宜設定される。また、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を基準値から変動させる範囲(変動付与範囲)を設定する。
【0050】
インゴットの連続鋳造を開始する際は、シリコン原料の投入速度を平衡速度より速いまたは遅い速度とする。インゴットの連続鋳造中は、インゴットの引き下げに伴い誘導コイルに供給される交流電流の周波数が低くなり、周波数が変動付与範囲の下限値を超える場合にシリコン原料の投入速度を調整して平衡速度より速い速度とする。また、インゴットの引き下げに伴い誘導コイルに供給される交流電流の周波数が高くなり、周波数が変動付与範囲の上限値を超える場合にシリコン原料の投入速度を調整して平衡速度より遅い速度とする。
【0051】
このような基準値、変動付与範囲および平衡速度を用いた操作により、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させる場合、変動付与範囲の設定を変更することにより、変動させる交流電流の周波数の標準偏差を0.025〜0.050kHzとすることができる。また、基準値の設定を変更することにより、変動を与える交流電流の周波数の平均値を25〜35kHzとすることができる。
【0052】
このように、誘導コイルに供給される交流電流の周波数に応じて、冷却ルツボ内に連続投入するシリコン原料の投入速度を調整することにより、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることができる。
【実施例】
【0053】
本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法の効果を確認するため、下記の試験を行った。
【0054】
[試験条件]
本試験では、前記図3に示すEMC炉を用い、EMC法によりシリコンインゴットを連続鋳造した。鋳造したインゴットは、引き下げ軸に垂直な断面形状が一辺の長さが350mmの正方形状であり、引き下げ長さが7000mmであった。
【0055】
誘導コイルに供給される交流電流の周波数は、前述の基準値、変動付与範囲および平衡速度を用いた操作によりシリコン原料の投入速度を調整して変動を与えた。インゴットの連続鋳造を開始する際は、シリコン原料の投入速度を平衡速度に対し、5%速い投入速度とした。インゴットの連続鋳造中は、インゴットの引き下げに伴い誘導コイルに供給される交流電流の周波数が高くなり、周波数が変動付与範囲の上限値を超えた場合にシリコン原料の投入速度を調整して平衡速度に対し、10%遅い速度にした。また、インゴットの引き下げに伴い誘導コイルに供給される交流電流の周波数が低くなり、周波数が変動付与範囲の下限値を超えた場合にシリコン原料の投入速度を調整して平衡速度に対し、5%速い投入速度にした。
【0056】
本発明例および比較例では、変動付与範囲の設定を変更することにより、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差を所望の値にした。また、基準値の設定を変更することにより、変動を与えた交流電流の周波数の平均値を所望の値にした。本発明例および比較例では、平衡速度は30.8〜36.0kg/hとした。
【0057】
従来例では、シリコン原料の投入速度を増減させて調整し、誘導コイル内の溶融シリコンの上面の位置が所定の位置となる目標値(30kHz)に交流電流の周波数を制御し、溶融シリコンの上面を所定の位置に保持してインゴットを連続鋳造した。
【0058】
本発明例、比較例および従来例ともに、冷却ルツボは、周方向で複数の短冊状の素片に分割され、分割された素片の間隔が0.3mmのものを用いた。また、シリコンインゴットの引き下げ速度を2.0mm/minおよび誘導コイルの電力を350kWとした。誘導コイルに供給される交流電流の周波数は、誘導コイルに配置した周波数計により30秒間隔で測定し、測定結果から標準偏差および平均値を算出した。
【0059】
本発明例、比較例および従来例ともに、それぞれ一つの冷却ルツボを用いて、複数本のインゴットを連続鋳造した。この際、1本のインゴットの連続鋳造が完了する都度、冷却ルツボの隣接する素片の間隔を測定した。冷却ルツボの隣接する素片の間隔のうち、一部分でも隣接する素片の間隔が1.0mm以上となった時点で、インゴットの連続鋳造を終了した。
【0060】
本発明例、比較例および従来例ともに鋳造されたインゴットを切断して鋳肌面を除去した後、引き下げ軸に平行な面において縦2個、横2個に分割し、引き下げ軸方向を長手方向とする4個の分割インゴットとした。本発明例、比較例および従来例ともに、分割前のインゴットにおいて同じ位置にあった分割インゴットからウェーハを切り出し、50000枚のウェーハを採取した。採取したウェーハから太陽電池セルを作製し、光電変換効率を測定した。
【0061】
表1に、シリコン原料の投入速度を調整して誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させた際の基準値および変動付与範囲、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差および平均値、鋳造されたインゴットの本数、冷却ルツボのスリット間隔の最大値、ならびに、得られた太陽電池セルの光電変換効率をそれぞれ示す。ここで、表1に示す光電変換効率は、作製された太陽電池セルの平均値であり、従来例を基準(1.00)とした相対値で示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[試験結果]
表1に示す結果から、従来例では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数が30kHzで一定となるようにシリコン原料の投入速度を調整し、溶融シリコンの上面を所定の位置に保持した。従来例では、3本のインゴットの連続鋳造が完了した時点で冷却ルツボの隣接する素片の間隔が1.2mmとなり、連続使用の管理値である1.0mmを超えた。また、従来例では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数の標準偏差は0.015kHzであった。
【0064】
本発明例1〜3、並びに比較例1および2では、誘導コイルに供給される交流電流の周波数に変動を与える際の基準値をいずれも同じ30kHzとし、変動付与範囲を±0.05〜0.50kHzで変更し、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差が0.025〜0.070kHzで変化した。
【0065】
本発明例1〜3では、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差が0.025〜0.050kHzとなり、7本のインゴットの連続鋳造が完了した時点で冷却ルツボの隣接する素片の間隔が連続使用の管理値を超えた。一つの冷却ルツボで鋳造できるインゴットの本数は、従来例では3本となったのに対し、本発明例1〜3では7本に増加した。
【0066】
一方、比較例1では、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差が0.060kHzとなり、本発明例1〜3と同様に7本のインゴットの連続鋳造が一つの冷却ルツボから可能であったが、光電変換効率の低下が見られた。また、比較例2では、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差が0.070kHzとなり、本発明例1〜3よりもさらに1本多く、8本のインゴットの鋳造が一つの冷却ルツボから可能であったが、光電変換効率がさらに低下した。これらから、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、標準偏差を0.025〜0.050kHzにして変動させることにより、光電変換効率を低下させることなく、冷却ルツボ内面の損耗を軽減できることが確認できた。
【0067】
比較例3および4ならびに本発明例1、4および5は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数に変動を与える際の基準値を20.00〜40.00kHzで変更し、変動を与えた交流電流の周波数の平均値を20.00〜40.00kHzで変化させた。また、変動付与範囲はいずれも±0.05kHzとし、変動を与えた交流電流の周波数の標準偏差を0.025kHzであった。
【0068】
本発明例1、4および5では、変動を与えた交流電流の周波数の平均値は25.00〜35.00kHzとなり、いずれも7本のインゴットの連続鋳造が完了した時点で冷却ルツボの隣接する素片の間隔が1.0mmを超えた。一方、比較例3では、変動を与えた交流電流の周波数の平均値が20.00kHzとなり、本発明例1、4および5と同様に7本のインゴットの連続鋳造が完了した時点で冷却ルツボの隣接する素片の間隔が1.0mmを超えたが、得られた太陽電池セルの光電変換効率が低下した。また、比較例4では、変動を与えた交流電流の周波数の平均値は40.00kHzとなり、1本のインゴットを連続鋳造した時点で冷却ルツボの内面に放電による長さ4.3mmの溝状痕が形成されたことから、一つの冷却ルツボによるインゴットの連続鋳造を終了した。
【0069】
これらから、本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることにより、光電変換効率を低下させることなく、冷却ルツボ内面の損耗を軽減できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法は、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることにより、冷却ルツボの内面が局所的に損耗するのを軽減できる。
【0071】
したがって、本発明のシリコンインゴットの連続鋳造方法を、太陽電池用ウェーハの製造に適用すれば、製造コストを低減でき、太陽電池の普及に大きく貢献することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:チャンバー、 2:原料導入口、 3:シリコンインゴット、
3a:シリコンインゴットの外面、 4:引出し口、 5:不活性ガス導入口、
6:排気口、 7:無底冷却ルツボ、 7a:冷却ルツボの内面、
7b:損耗が発生し易い部分、 8:誘導コイル、 9:アフターヒーター、
11:原料導入管、 12:シリコン原料、 13:溶融シリコン、
13a:溶融シリコンの外面、 13b:溶融シリコンとインゴットの界面、
14:プラズマトーチ、 15:支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一部が周方向で複数に分割された無底の冷却ルツボを誘導コイル内に配置し、誘導コイルによる電磁誘導加熱により、前記冷却ルツボ内に投入されたシリコン原料を溶解させて溶融シリコンを形成し、前記冷却ルツボから引き下げながら凝固させてシリコンインゴットを連続鋳造する方法において、誘導コイルに供給される交流電流の周波数を、その標準偏差を0.025〜0.050kHz、かつ、その平均値を25〜35kHzにして変動させることを特徴とするシリコンインゴットの連続鋳造方法。
【請求項2】
前記誘導コイルに供給される交流電流の周波数を変動させるに際し、前記誘導コイルに供給される交流電流の周波数に応じ、前記冷却ルツボ内に連続投入するシリコン原料の投入速度を調整して変動させることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−112539(P2013−112539A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257750(P2011−257750)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】