説明

シリコンウェハーのブレイクパターン、シリコンウェハー、および、シリコン基板

【課題】エッチングのばらつきによらず安定して基板を切断することができるシリコンウェハーのブレイクパターン、シリコンウェハー、および、シリコン基板を提供する。
【解決手段】表面を(110)面39としたシリコンウェハー38に、(110)面39に直交する第1の(111)面42の面方向に切断予定線を設定し、該切断予定線上に貫通孔40を複数列設し、貫通孔40は、第1の(111)面42と、第1の(111)面42と交差する第2の(111)面43と、第2の(111)面43と第1の(111)面42とに交差する第3の(111)面44と、を有し、第2の(111)面43と第3の(111)面44の端縁との交差点を、隣り合う貫通孔40に最も近接する点とし、第1の(111)面42に直交する方向における交差点の位置を、隣り合う貫通孔40の当該交差点に近接する側の相対する第1の(111)面42の間に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性を有するシリコンウェハーの切断予定線上にエッチングにより形成するブレイクパターン、シリコンウェハー、および、シリコン基板に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズル開口から液滴として吐出させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro
Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。
【0003】
上記記録ヘッドの場合を例に挙げると、複数のノズル開口が開設されたノズル形成部材、ノズル開口に通じる圧力室を含む液体流路を形成する流路形成部材、圧力室の液体に圧力変動を付与するための圧力発生素子を具備したアクチュエータユニット等を備えて構成されている。これらの構成部材、特に、上記流路形成部材は、記録画像の高密度化や記録動作の高速化に対応すべく、加工密度や加工精度の向上が要求される。そのため、この流路形成部材の材料としては、エッチングによって微細な形状を寸法精度良く形成可能なシリコン等の結晶性を有する基材が好適に用いられる。
【0004】
シリコンを基材として流路形成部材を作製する場合には、例えば、略円形状のシリコンウェハー上に、流路形成部材となる複数の領域を区画し、各領域に液体流路となる部分をエッチングによって形成する。また、同じくエッチングによって複数の小さな貫通孔を切断予定線上に穿設してブレイクパターンを形成する。このブレイクパターンでは、隣り合う貫通孔同士の間の部分が脆弱部となり、外力を加えるとこの部分が破断し、複数のパーツに分割される。これにより、1つのシリコンウェハーから複数の流路形成部材を得ることができる。
【0005】
上記したブレイクパターンとしては、表面を(110)面としたシリコンウェハーにおいて、シリコンウェハーの表面に対して傾斜する(111)面からなる残存部を貫通孔内の一部に意図的に残したものがある(例えば、特許文献1参照)。これにより、ブレイクパターンが不用意に破断してしまう不具合を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−175668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような残存部の形状は管理し難く、エッチングのばらつき(エッチング時間のばらつき)によりその大きさがばらつき易い。この残存部の大きさがばらつくと、隣り合う貫通孔との間に形成された脆弱部の強度がばらつき、安定して切断予定線で切断できない虞がある。すなわち、例えば、意図しない部分で切断されたり、残存部の破片が飛び散る虞もある。また、より安定して切断予定線で切断するため、図8(a)に示すように、シリコンウェハーの表面81である(110)面に対して垂直な第1の(111)面82および第2の(111)面83により平行四辺形状に貫通孔84を形成し、その鋭角部分を隣り合う貫通孔84同士で対向させたブレイクパターンがある。この場合は、隣り合う貫通孔の鋭角部分の間が切断予定線となる。しかしながら、鋭角部分の内側はエッチングし難く、エッチングのばらつきによりシリコンウェハーの表面81に対して傾斜する第3の(111)面が残存部85として残り易い(図8(b)参照)。この残存部85があると、切断予定線と異なる線(例えば、図8(b)における破線)で切断される虞があるだけでなく、切断されなかったり、破片が飛び散ったりする虞がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エッチングのばらつきによらず安定して切断することができるシリコンウェハーのブレイクパターン、シリコンウェハー、および、シリコン基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコンウェハーのブレイクパターンは、上記目的を達成するために提案されたものであり、表面を(110)面としたシリコンウェハーに、(110)面上であって、該(110)面に直交する第1の(111)面の面方向に切断予定線を設定し、
該切断予定線上にシリコンウェハーを厚さ方向に貫通した貫通孔を複数列設し、
該貫通孔は、第1の(111)面と、
第1の(111)面と交差すると共に前記(110)面に直交する第2の(111)面と、
該第2の(111)面と第1の(111)面とに交差すると共に前記(110)面に対して傾斜する第3の(111)面と、を有し、
第2の(111)面と第3の(111)面の端縁との交差点を、隣り合う貫通孔に最も近接する点とし、
第1の(111)面に直交する方向における前記交差点の位置を、隣り合う貫通孔の当該交差点に近接する側の相対する第1の(111)面の間に設定したことを特徴とする。
【0010】
本発明のシリコンウェハーのブレイクパターンによれば、第2の(111)面と第3の(111)面の端縁との交差点から切断予定線に沿った仮想線上に隣り合う貫通孔が配置されるため、切断予定線に沿って切断することができる。また、エッチングがばらついたとしても、切断予定線に沿って切断することができ、安定して基板を切断することができる。
なお、切断予定線とは、シリコンウェハーを個々のパーツに分割する際の目標とする切断位置(想定される切断位置)を示す仮想線を意味し、第1の(111)面に直交する方向に対し、貫通孔を超えない範囲で多少の幅を有する。
【0011】
上記構成において、前記交差点は、隣り合う貫通孔の当該交差点に近接する側の第2の(111)面に対向させた構成を採用することが望ましい。
【0012】
本発明のシリコンウェハーのブレイクパターンによれば、切断予定線の位置を第2の(111)面を通る位置に絞り込むことができ、より正確に切断することができる。これにより、より安定して基板を切断することができる。
【0013】
また、本発明のシリコンウェハーは、上記何れかの構成のブレイクパターンが形成されたことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明のシリコン基板は、上記何れかの構成のブレイクパターンをエッチングによりシリコンウェハーに形成し、該シリコンウェハーをその中心から放射状に引っ張るエキスパンドブレイクによって前記ブレイクパターンで切断することで作成されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】流路形成基板の材料となるシリコンウェハーの平面図である。
【図4】シリコンウェハーにおける横切断予定線上に形成されたブレイクパターンの構成を説明する図であり、(a)はエッチング時間を相対的に長くしたときのブレイクパターンの一部拡大図、(b)はエッチング時間を相対的に短くしたときのブレイクパターンの一部拡大図である。
【図5】ブレイクパターンにおける貫通孔の形成過程を説明する状態遷移図である。
【図6】図5の各状態におけるA−A線断面図である。
【図7】エキスパンドブレイク工程を説明する模式図である。
【図8】従来のシリコンウェハーにおける横切断予定線上に形成されたブレイクパターンの構成を説明する図であり、(a)はエッチング時間を相対的に長くしたときのブレイクパターンの一部拡大図、(b)はエッチング時間を相対的に短くしたときのブレイクパターンの一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置1(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0018】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、位置情報検出手段の一種であるリニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)をプリンター1の制御部に送信する。
【0019】
また、キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート25:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録を行う。
【0020】
記録ヘッド2は、図2に示すように、ヘッドケース15、振動子ユニット16、及び流路ユニット17から構成されている。ヘッドケース15は、例えば、エポキシ系樹脂により作製された中空箱体状部材であり、その先端面(下面)には流路ユニット17を固定し、ケース内部に形成された収容空部18内には振動子ユニット16を収容している。また、ヘッドケース15の内部には、その高さ方向を貫通してケース流路19が形成されている。このケース流路19は、インクカートリッジ3からのインクを後述するリザーバー27に供給するための流路である。
【0021】
振動子ユニット16は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子20と、この圧電振動子20に駆動基板からの駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル21(配線部材)と、圧電振動子20の一側端部を固定する固定板22と、から構成される。圧電振動子20の固定板22に固定されない自由端部の先端面は、後述する島部36(振動板26)に接合されている。そして、この圧電振動子20は、駆動信号の印加により伸縮して後述する圧力室29の容積を膨張又は収縮することで、圧力室29内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動の制御によりノズル31からインクを噴射させることができる。
【0022】
流路ユニット17は、流路形成基板24の一方の面にノズルプレート25を、流路形成基板24の他方の面に振動板26をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット17には、ケース流路19と連通するリザーバー27(共通液室)と、流路幅の狭い狭窄部として形成されるインク供給口28と、インク供給口28を介してリザーバー27と連通する圧力室29と、圧力室29に開口したノズル31とが設けられている。本実施形態では、流路形成基板24は、結晶性を有する基材であるシリコンウェハー38をエッチング処理することによって作製されている。
【0023】
上記ノズルプレート25は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル31が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。本実施形態のノズルプレート25には、ノズル31を列設したノズル列が設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル31によって構成される。
【0024】
上記振動板26は、支持板32の表面に弾性体膜33を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板32とし、この支持板32の表面に樹脂フィルムを弾性体膜33としてラミネートした複合板材を用いて振動板26を作製している。この振動板26には、圧力室29の容積を変化させるダイヤフラム部34が設けられている。また、この振動板26には、リザーバー27の一部を封止するコンプライアンス部35が設けられている。
【0025】
上記のダイヤフラム部34は、エッチング加工等によって圧力室29に対向する領域の支持板32を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部34は、圧電振動子20の自由端部(固定板22に固定される側とは反対側の端部)の先端面が接合される島部36と、この島部36を囲む薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部35は、リザーバー27の開口面に対向する領域の支持板32を、ダイヤフラム部34と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー27に貯留されたインクの圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0026】
そして、上記の島部36には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部を伸縮させることで圧力室29の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室29内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル31からインク滴を吐出させるようになっている。
【0027】
次に、上記流路形成基板24の材料となるシリコンウェハー38について説明する。図3は、シリコンウェハー38の平面図である。このシリコンウェハー38は、表面39が結晶方位面(110)面に設定され、厚さが流路形成基板24の厚さ(例えば、400μm)に設定されたシリコン単結晶基板である。このシリコンウェハー38の表面39上に、流路形成基板24となる基板領域24′を複数(本実施形態では10箇所)区画し、各領域に上記インク流路となる部分(リザーバー27、圧力室29等)をエッチングによって形成する。また、同じくエッチングによって厚さ方向に貫通した細長く小さな貫通孔40(図4等参照)を横切断予定線L1(本発明における切断予定線に相当)上に複数穿設すると共に、この横切断予定線L1に直交する縦切断予定線L2上に貫通孔40を複数穿設してブレイクパターンを形成する。本実施形態の横切断予定線L1は、(110)面上であって、この(110)面に直交する第1の(111)面42の面方向に設定されている。また、縦方向の縦切断予定線L2は、第1の(111)面42に垂直な軸方向に設定されている。なお、第1の(111)面42(42′)は、エッチング処理における基準面となるオリエンテーションフラット(所謂オリフラ)OFに平行な面となっている。
【0028】
図4は、シリコンウェハー38における横切断予定線L1上に形成されたブレイクパターンの構成を説明する図であり、図4(a)はエッチング時間が相対的に長く(又は、エッチングの進行が相対的に早く)、残存部47が概ねなくなった状態のブレイクパターンの一部拡大図、図4(b)はエッチング時間が相対的に短く(又は、エッチングの進行が遅く)、残存部47が残った状態のブレイクパターンの一部拡大図である。エッチング時間を長くしたときの貫通孔40は、図4(a)に示すように、第1の(111)面42と、この第1の(111)面42と斜めに交差すると共に前記(110)面に直交する第2の(111)面43と、該第2の(111)面43と第1の(111)面42とに交差すると共に前記(110)面に対して傾斜する第3の(111)面44と、により形成される多角形状の孔である。なお、第2の(111)面43は、第1の(111)面42に対して(110)面(表面39)上で約110度の角度で交差している。また、第3の(111)面44は、表面39に対して約30度傾斜した面である(図6参照)。
【0029】
より具体的に貫通孔40の形状を説明すると、一側(図4(a)中左側)の第2の(111)面43に連続する第1の(111)面42は、当該第2の(111)面43とは反対側に向けて所定の長さだけ延在し、第2の(111)面である接続面45に連続している。接続面45は、一側の第3の(111)面44に連続する第1の(111)面42とは反対側に向けて延在し、他側(図4(a)中右側)の第3の(111)面44′に連続する第1の(111)面42′に連続している。また、一側の第3の(111)面44に連続する第1の(111)面42は、当該第3の(111)面44とは反対側に向けて所定の長さだけ延在し、前記した接続面45に相対する第2の(111)面である接続面45に連続している。この接続面45は、相対する接続面45と平行であると共に長さが揃えられており、他側の第2の(111)面43′に連続する第1の(111)面42′に連続している。即ち、貫通孔40は、第1の(111)面42,42′、第2の(111)面43,43′、接続面45、および第3の(111)面44,44′に囲まれた、細長い長孔(詳しくは、六角形状の長孔を途中から幅方向にオフセットした十角形状の長孔)に形成されている。
【0030】
そして、第2の(111)面43と第3の(111)面44の端縁との交差点Pを、隣り合う貫通孔40に最も近接する点とし、第1の(111)面42(42′)、即ちオリフラに直交する方向における交差点Pの位置を、隣り合う貫通孔40の当該交差点Pに近接する側の相対する第1の(111)面42′の間に設定している。本実施形態では、図4(a)に示すように、第1の(111)面42(42′)に直交する方向における交差点Pの位置を、隣り合う貫通孔40の第2の(111)面43′と第3の(111)面44′の端縁との交差点P′と、第2の(111)面43′に連続する第1の(111)面42′との間に設定している。換言すると、交差点Pを隣り合う貫通孔40の当該交差点Pに近接する側の第2の(111)面43′に対向させている。即ち、この交差点Pから横切断予定線L1に沿った仮想線Ls上に、隣り合う貫通孔40の第2の(111)面43′が位置する。一方、隣り合う貫通孔40の交差点P′から横切断予定線L1に沿った仮想線Ls′上には、第2の(111)面43が位置する。そして、この2つの仮想線Ls,Ls′のいずれか一方、或いはその間において切断が予定される。なお、本実施形態においては、ブレイクパターンの周囲を、シリコンウェハー38の厚さ方向の途中までエッチング(所謂ハーフエッチング)することで、他の部分よりも薄い薄肉部48を設けている。これにより、より安定して切断できるようにしている。なお、切断方法については後述する。
【0031】
一方、図4(a)の場合よりもエッチング時間を短くしたときの貫通孔40は、図4(b)に示すように、その内側の長手方向の両端部にエッチングされずに残った残存部47が形成される。即ち、第2の(111)面43および第3の(111)面44が所定位置(貫通孔40の開口縁)までエッチングされずに、貫通孔40の貫通部分が予定よりも内側に形成される。しかしながら、第2の(111)面43および第3の(111)面44の両方が、予定よりも内側に形成されるため、第1の(111)面42(42′)に直交する方向における交差点Pの位置は、エッチング時間を長くしたときの貫通孔40の交差点Pの位置と比べて大きく変化することがない。このため、隣り合う貫通孔40同士において、お互いに交差点P,P′から横切断予定線L1に沿った仮想線Ls,Ls′上に、隣り合う貫通孔40の第2の(111)面43,43′が位置し、これらの仮想線Ls,Ls′のいずれか一方、或いはその間における切断を予定することができる。
【0032】
次に、上記したブレイクパターンの形成過程を説明する。
図5(a)〜(e)は、図4のブレイクパターンにおける貫通孔40の形成過程を説明する状態遷移図、図6(a)〜(e)は、図5の各状態におけるA−A線断面図である。上記ブレイクパターンを作製するためには、まず、熱酸化処理によって、シリコンウェハー38の表面39(表側と裏側の(110)面)に、厚さ1μm〜2μm程度のシリコン酸化膜(SiO)49(以下、単に酸化膜49という。)を形成する。酸化膜49を形成する方法としては、例示したものには限らず、他の方法、例えば、CVD(化学蒸着法)やイオン注入法などを採用することもできる。また、シリコン酸化膜には限らず、ホウ素やガリウム原子を添加した所謂p型シリコン膜や、ヒ素やアンチモン原子を添加したn型シリコン膜などを形成しても良い。その後、樹脂レジストを用いて、貫通孔40に対応する部分が開口したレジストパターンを設け、フッ化水素酸(所謂フッ酸)水溶液などのエッチング溶液によって、開口部に露出した酸化膜49を除去することで、図5(a)、図6(a)に示すように、エッチングに対するマスクパターンを形成する。
【0033】
酸化膜49によるマスクパターンを形成したならば、例えば、温度78℃、濃度20重量%に調整された水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるエッチング溶液を用いて、シリコンウェハー38の表面39(表側と裏側の(110)面)を異方性エッチングする(第1エッチング工程)。この第1エッチング工程を開始すると、図5(b)、図6(b)に示すように、表面39((110)面)に対して約30度傾斜した第3の(111)面44が出現する。エッチングの浸食は、この第3の(111)面44に垂直な方向に、表側と裏側から同時に進行していき、しばらくするとシリコンウェハー38の厚さ方向を貫通する(図5(c)、図6(c))。このとき、第2の(111)面43および第3の(111)面44は、所定位置(マスクパターンの開口縁)までエッチングされず、残存部47として形成される。なお、本実施形態において、この第1エッチング工程は160〜180分間行われる。
【0034】
次に、貫通孔40の周囲に薄肉部48を、貫通孔40の形成と同時進行で形成する。そのため、図5(d)、図6(d)に示すように、薄肉部48を形成する部分の酸化膜49を除去した後、さらにエッチングを進める(第2エッチング工程)。これにより、残存部47が徐々に削られ、第2の(111)面43および第3の(111)面44が所定位置に近づく。このとき、第2の(111)面43および第3の(111)面44ともに削れるため、第1の(111)面42に直交する方向における交差点Pの位置は、大きく変化することがない。なお、この第2エッチング工程では、例えば、温度78℃、濃度37重量%に調整された水酸化カリウム水溶液が用いられる。また、薄肉部48は、表面39からの深さが約80μm程度に設定される。
【0035】
そして、第2の(111)面43が所定位置に達するまで、エッチングを進めると、図5(e)、図6(e)に示すように、第3の(111)面44の端縁が形成された状態で浸食が止まる。なお、第2エッチング工程のエッチング時間は、流路形成基板24となる基板領域24′の出来栄え(例えば、所定位置の圧力室29の寸法等)により管理される。即ち、貫通孔40に残存部47が残っている状態であっても、基板領域24′の圧力室29等の寸法が所定の寸法になったところで、エッチングを終了する。このためエッチングのばらつきにより、残存部47の大きさが変化することになる。例えば、エッチングの進行が早い場合(エッチング時間が長い場合)、貫通孔40は図4(a)等に示す状態になる。一方、エッチングの進行が遅い場合(エッチング時間が短い場合)、貫通孔40は図4(b)等に示す状態になる。
【0036】
次に、上記工程を経たシリコンウェハー38を個々のパーツ(流路形成基板24:本発明におけるシリコン基板に相当)に切断する方法について説明する。本実施形態では、エキスパンドブレイクによってシリコンウェハー38をブレイクパターンで切断し、個々のパーツ(流路形成基板24)に分割する(エキスパンドブレイク工程)。図7は、このエキスパンドブレイク工程を説明する模式図である。エキスパンドブレイク工程では、まず、ブレイクパターンが形成されたシリコンウェハー38の表面に、伸張性を有するシート部材51(ダイシングテープ)を貼着する。このシート部材51の周縁部には、内径がシリコンウェハー38の外径(例えば、150mm)よりも大きく(例えば、180mm)設定された輪状の保持リング52が取り付けられている。
【0037】
そして、シート部材51が貼着された状態のシリコンウェハー38は、図7(a)に示すように、テーブル53の上に載置され、その上方には、内径が保持リング52と揃えられたエキスパンドリング54が配置される。この状態でエキスパンドリング54を下方に降下させると、エキスパンドリング54が保持リング52に当接する。その後、エキスパンドリング54をさらに降下させると、これに伴って、図7(b)に示すように、シート部材51が伸張し、シリコンウェハー38は、中心から放射状に引っ張られる。その結果、シリコンウェハー38は、ブレイクパターンで切断され、個々の流路形成基板24に分割される。
【0038】
以上のように、本発明のシリコンウェハー38のブレイクパターンによれば、第2の(111)面43と第3の(111)面44の端縁との交差点Pから横切断予定線L1に沿った仮想線Ls上に隣り合う貫通孔40が配置されるため、横切断予定線L1に沿って切断することができる。また、エッチングがばらついたとしても、第1の(111)面42に直交する方向における交差点Pの位置が変化し難いため、横切断予定線L1に沿って安定して切断することがでる。即ち、意図しない位置で切断される等の不具合が防止される。また、本実施形態では、交差点Pを隣り合う貫通孔40の当該交差点Pに近接する側の第2の(111)面43に対向させたので、横切断予定線L1の位置を第2の(111)面43を通る位置に絞り込むことができ、より正確に切断することができる。これにより、より安定して基板を切断することができる。
【0039】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。例えば、貫通孔の形状は、上記に例示したものには限定されず、貫通孔の長手方向の長さや交差点の位置等を任意に決定することができる。また、上記においては、シリコンウェハーを用いて記録ヘッドの流路形成基板を作製する例を示したが、これには限らず、例えば、シリコンウェハーを用いて半導体素子等を作製する場合においても、本発明を適用することができる。
【0040】
そして、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置の液体噴射ヘッドであれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等に用いられる液体噴射ヘッドにも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0041】
1…プリンター,2…記録ヘッド,24…流路形成基板,38…シリコンウェハー,39…シリコンウェハーの表面,40…貫通孔,42…第1の(111)面,43…第2の(111)面,44…第3の(111)面,45…接続面,47…残存部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を(110)面としたシリコンウェハーに、(110)面上であって、該(110)面に直交する第1の(111)面の面方向に切断予定線を設定し、
該切断予定線上にシリコンウェハーを厚さ方向に貫通した貫通孔を複数列設し、
該貫通孔は、第1の(111)面と、
第1の(111)面と交差すると共に前記(110)面に直交する第2の(111)面と、
該第2の(111)面と第1の(111)面とに交差すると共に前記(110)面に対して傾斜する第3の(111)面と、を有し、
第2の(111)面と第3の(111)面の端縁との交差点を、隣り合う貫通孔に最も近接する点とし、
第1の(111)面に直交する方向における前記交差点の位置を、隣り合う貫通孔の当該交差点に近接する側の相対する第1の(111)面の間に設定したことを特徴とするシリコンウェハーのブレイクパターン。
【請求項2】
前記交差点は、隣り合う貫通孔の当該交差点に近接する側の第2の(111)面に対向させたことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェハーのブレイクパターン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のブレイクパターンが形成されたことを特徴とするシリコンウェハー。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のブレイクパターンをエッチングによりシリコンウェハーに形成し、該シリコンウェハーをその中心から放射状に引っ張るエキスパンドブレイクによって前記ブレイクパターンで切断することで作成されたことを特徴とするシリコン基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41907(P2013−41907A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176522(P2011−176522)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】