説明

シリコンウェーハの評価方法および製造方法

【課題】基板抵抗にかかわらずシリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および面内分布を高精度に評価するための手段を提供すること。
【解決手段】評価対象シリコンウェーハに対して該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第一の面内分布情報を取得すること、上記第一の面内分布情報取得後の評価対象シリコンウェーハに対して熱酸化処理を施した後、該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第二の面内分布情報を取得すること、第一の面内分布情報と、第二の面内分布情報に1未満の補正係数による補正を加えて得られた第三の面内分布情報との差分情報を得ること、および、得られた差分情報に基づき、評価対象シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および酸素析出物の面内分布からなる群から選ばれる評価項目の評価を行うこと、を含むシリコンウェーハの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの評価方法に関するものであり、詳しくは、フォトルミネッセンスを利用してシリコンウェーハ中の酸素析出物の有無および面内分布を評価することが可能なシリコンウェーハの評価方法に関するものである。
更に本発明は、上記評価方法による品質保証がなされた高品質なシリコンウェーハを提供可能なシリコンウェーハの製造方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として用いられているシリコンウェーハに存在する酸素析出物は、デバイス活性領域に存在するとゲート酸化膜の絶縁耐圧低下や接合リーク電流の増大等のデバイス特性劣化要因となり、他方、デバイス活性領域以外のバルク中に発生した場合にはデバイスプロセス中に混入した重金属汚染を捕獲するゲッタリング源として有効に作用する。したがって、シリコンウェーハにおいて酸素析出物の有無およびその面内分布を把握することは、高品質なデバイスを作製する上できわめて重要である。
【0003】
従来、シリコンウェーハ中の酸素析出物の評価方法としては、赤外干渉法や赤外散乱法を用いる方法が広く用いられてきた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−246429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板抵抗が比較的高いシリコンウェーハであれば、基板の赤外線透過率が高いため、赤外線を利用する方法により酸素析出物の評価を高精度に行うことができる。しかし低抵抗のp+基板やp/p+シリコンウェーハ(p+基板上にp型のエピタキシャル層を有する)では、基板の赤外線透過率が低いため、赤外線を利用する方法では内部欠陥である酸素析出物の有無や面内分布の評価を行うことは困難である。
【0006】
そこで本発明の目的は、基板抵抗にかかわらずシリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および面内分布を高精度に評価するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得るに至った。
シリコンウェーハに、そのバンドギャップよりエネルギーの大きな励起光を照射し電子正孔対を発生させると、この電子正孔対が再結合する際に発光する。この現象はフォトルミネッセンスと呼ばれ、近年、半導体ウェーハの評価に利用されている(例えば文献A(特開2003−45928号)、文献B(特開平11−274257号公報)、文献C(Journal of The Electrochemical Society, 150 (8) G436-G442, 2003)、文献D(特開平6−18417号公報)参照)。
【0008】
文献Aに記載されているように、欠陥や汚染が存在すると、それらに対応した電子準位がバンドギャップ中に形成される。これら電子準位がバンドギャップ中にあると、励起されたキャリアがこの電子準位を介して再結合するため、相対的にバンド間での直接再結合による発光の割合は減少する。文献A、BおよびDは、この現象を利用し重金属汚染や酸素析出物等の内部欠陥を検出する方法を提案するものである。
そこでこれら文献の教示に基づき、フォトルミネッセンス強度(以下、「PL強度」ともいう)の面内分布情報に基づきPL強度が低い領域ほど酸素析出物が高濃度で存在する領域と判定することが考えられる。しかし一方で、抵抗率が低くなると、PL強度が基板抵抗に依存するようになる。文献CのFig.7に示されているように、基板抵抗が0.1Ω・cm以下になるとPL強度の抵抗率依存性の影響が大きくなり、PL強度により酸素析出物の有無や面内分布を精度よく評価することは困難となる。
【0009】
また、本発明者らの検討により、低抵抗基板では、以下の点からもPL強度による酸素析出物の有無や面内分布の評価が困難になる場合があることが判明した。
フォトルミネッセンス法(以下、「PL法」ともいう)に使用される測定器として、文献Aに記載のBIO−RAD社製(現在はNanometrics社より販売されている)の商品名SiPHERが知られている。この測定器は、ウェーハ面内のPL強度を室温でマッピングする装置であり、得られるマッピングプロファイルでは、PL強度が低い領域ほど暗く(黒く)、高い領域ほど明るく(白く)表示される。しかし一方で、特に、ドーパント濃度の高い低抵抗シリコン基板では、ドーパント濃度ムラによって面内で抵抗率変動が発生し、これが原因でPL強度のマッピングプロファイルに同心円状の縞模様(ストリエーション)が現れることがある。このような縞模様が現れたマッピングプロファイルでは、黒く表示された領域が酸素析出物が高濃度で存在するためにPL強度が低下した領域であるのか、抵抗率の局所的な変動によるものであるのか判別することは困難である。
【0010】
これに対し本発明者らは、
(a)熱酸化処理を行うと表面再結合が抑制されるためシリコンウェーハの表面全体ではPL強度は上昇する、
(b)酸素析出物が存在する領域では熱処理により酸素析出物が成長する(サイズが大きくなる)ためPL強度は低下する、
(c)熱酸化処理によりドーパントの分布はほとんど変化しない、
ことに着目した。上記(a)〜(c)によれば、熱酸化処理後にPL強度が低下した領域は酸素析出物が存在する領域と判定することができ、また、熱酸化処理によりPL強度は全体として上昇するが、PL強度の抵抗率依存性および面内の局所的な抵抗率変動に起因するPL強度分布は実質的に変化しないとみなすことができる。したがって、表面再結合の抑制によるPL強度上昇分を補正するため1未満の数値を補正係数として用いて熱酸化前後のフォトルミネッセンス強度の面内分布情報(例えばラインプロファイル、マッピングプロファイル)の差分情報を得ることで、抵抗率および面内抵抗率変動の影響を低減ないし排除し、評価対象シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および酸素析出物の面内分布を評価することができる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。かかる本発明によれば、基板抵抗の高低にかかわらず、PL強度の抵抗率依存性や面内抵抗率変動の影響を低減ないし排除してシリコンウェーハについて酸素析出物に関する評価を行うことが可能となる。
【0011】
即ち、前記した目的は、以下の手段によって達成された。
[1]評価対象シリコンウェーハに対して該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第一の面内分布情報を取得すること、
上記第一の面内分布情報取得後の評価対象シリコンウェーハに対して熱酸化処理を施した後、該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第二の面内分布情報を取得すること、
第一の面内分布情報と、第二の面内分布情報に1未満の補正係数による補正を加えて得られた第三の面内分布情報との差分情報を得ること、および、
得られた差分情報に基づき、評価対象シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および酸素析出物の面内分布からなる群から選ばれる評価項目の評価を行うこと、
を含むシリコンウェーハの評価方法。
[2]前記評価対象シリコンウェーハは、抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板、または抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板上にp型のエピタキシャル層を有するp/p+ウェーハである[1]に記載のシリコンウェーハの評価方法。
[3]前記補正係数として、[(第一の面内分布情報における基準フォトルミネッセンス強度)/(第二の面内分布情報における基準フォトルミネッセンス強度)]として算出される値を用いる[1]または[2]に記載のシリコンウェーハの評価方法。
[4]前記基準フォトルミネッセンス強度として、最大PL強度を用いる[3]に記載のシリコンウェーハの評価方法。
[5]前記面内分布情報は、フォトルミネッセンス強度のラインプロファイルまたはマッピングプロファイルである[1]〜[4]のいずれかに記載のシリコンウェーハの評価方法。
[6]前記フォトルミネッセンス強度はバンド端発光強度である[1]〜[5]のいずれかに記載のシリコンウェーハの評価方法。
[7]複数のシリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハを評価する工程と、
前記評価により良品と判断されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの評価を、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、評価対象シリコンウェーハの基板抵抗の高低にかかわらず、酸素析出物の有無および面内分布を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づく測定装置の概略図である。
【図2】実施例1における熱処理前後のPL強度のマッピングプロファイル(図2左図;熱処理前、図2右図;熱処理後)を示す。
【図3】図2中に矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルである。
【図4】図4左図は、図2左図に示すマッピングプロファイルから、図2右図に示すマッピングプロファイル上のPL強度に補正係数0.67を掛けて補正したマッピングプロファイルを差し引いた差分画像であり、図4右図は、左図の矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルである。
【図5】実施例2における熱処理前後のPL強度のマッピングプロファイル(図5左図;熱処理前、図5右図;熱処理後)を示す。
【図6】図5中に矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルである。
【図7】図7左図は、図5左図に示すマッピングプロファイルから、図5右図に示すマッピングプロファイル上のPL強度に補正係数0.83を掛けて補正したマッピングプロファイルを差し引いた差分画像であり、図7右図は、左図の矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルである。
【図8】実施例1、2におけるRIE評価による評価結果と差分画像との対比結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、シリコンウェーハの評価方法に関する。本発明の評価方法は、以下の工程を含むものである。
(1)評価対象シリコンウェーハに対して該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第一の面内分布情報を取得すること;
(2)上記第一の面内分布情報取得後の評価対象シリコンウェーハに対して熱酸化処理を施した後、該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第二の面内分布情報を取得すること;
(3)第一の面内分布情報と、第二の面内分布情報に1未満の補正係数による補正を加えて得られた第三の面内分布情報との差分情報を得ること;および、
(4)得られた差分情報に基づき、評価対象シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および酸素析出物の面内分布からなる群から選ばれる評価項目の評価を行うこと。
以下、本発明の評価方法について、更に詳細に説明する。
【0015】
工程(1)
本工程では、評価対象シリコンウェーハに対して該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第一の面内分布情報を取得する。ここで取得される面内分布情報には、酸素析出物の影響とともに、ドーパント濃度の高い低抵抗基板については抵抗率依存性や面内の抵抗率の局所的な変動の影響も含まれる。そこで本発明では、抵抗率依存性や面内の抵抗率の局所的な変動の影響を低減ないし排除するために、工程(2)以降を実施する。
【0016】
本発明におけるPL強度の測定は、フォトルミネッセンス法によるものであればよく特に限定されるものではない。操作の簡便性の観点からは、温度制御が不要な室温フォトルミネッセンス法(室温PL法)により行うことが好ましい。室温PL法では、試料ウェーハ表面から入射させた、シリコンのバンドギャップよりエネルギーの大きな励起光により表面近傍で発生させた電子正孔対(すなわちキャリア)が、ウェーハ内部に拡散しながら発光して消滅していく。この発光は、バンド端発光と呼ばれ、室温(例えば20〜30℃)での波長が約1.15μmの発光強度を示す。通常、フォトルミネッセンス法では、励起光として可視光が使用されるため、PL強度としては、波長950nm以上の光強度を測定すれば励起光から分離することができるため高感度な測定が可能となる。この点からは、PL強度としてバンド端発光強度を測定することが好ましい。
【0017】
本発明において、室温PL法によるPL強度の測定に使用可能な装置の一例としては、強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づいた測定方法を挙げることができる。強励起顕微フォトルミネッセンス法とは、可視光レーザーによりシリコン中のキャリアを励起させ、さらに励起されたキャリアが直接、バンドギャップ間で再結合する際に発生する発光(バンド端発光)強度を検出するものである。図1は、強励起顕微フォトルミネッセンス法に基づく測定装置の概略図であり、同図において、10は測定出装置、12,14はレーザー光源、16,17はハーフミラー、18は出力計、20は表面散乱光用検出器、22はオートフォーカス用検出器、24は可動ミラー、26は白色光源、28はCCDカメラ、30は顕微鏡対物レンズ、32は長波パスフィルター、34はフォトルミネッセンス光用検出器、Wは測定対象試料(シリコンウェーハ)である。測定対象試料Wは、図示しないX・Yステージ上に載置されており、X・Yステージが作動することで、励起レーザー光がウェーハ面のX方向、Y方向にスキャニングされる。これにより評価対象シリコンウェーハのPL強度の面内分布情報が取得される。取得される面内分布情報は、PL強度のラインプロファイルであっても、マッピングプロファイルであってもよい。面内全域にわたり酸素析出物の有無および分布を評価するためには、マッピングプロファイルを取得することが好ましい。マッピングプロファイルでは、PL強度の高〜低を、例えば黒〜白の輝度(明暗の度合い)に割り当てることでマッピング画像の明暗によりPL強度の高低を評価することができる。
【0018】
工程(2)
工程(2)における熱酸化処理は、酸素析出物を成長させ、かつ表面再結合を抑制するに足る条件で行えばよい。例えば、750〜1000℃程度の100%酸素雰囲気中にて30分〜2時間程度、シリコンウェーハを放置することで熱酸化処理を行うことができる。
熱酸化処理後のシリコンウェーハにおけるPL強度の測定は、工程(1)と同様に行うことができる。
【0019】
工程(3)
先に説明したように工程(2)における熱処理により酸素析出物の存在する領域では酸素析出物の成長によりPL強度が低下し、ウェーハ面内では全体として表面再結合抑制によりPL強度は上昇するが、熱酸化処理前後でPL強度の抵抗率依存性および面内の局所的な抵抗率変動に起因するPL強度分布は実質的に変化しないとみなすことができる。そこで本発明では、表面再結合の抑制によるPL強度上昇分を補正するため1未満の数値を補正係数として用いて、第一の面内分布情報と、第二の面内分布情報に補正係数を掛けた第三の面内分布情報[=補正係数×(第二の面内分布情報)]との差分情報、即ち、[(第一の面内分布情報)−補正係数×(第二の面内分布情報)]として、差分情報を取得する。こうして得られた差分情報は、PL強度の抵抗率依存性および面内の局所的な抵抗率変動の影響が低減ないしは排除されたものとなる。したがって、当該差分情報においてPL強度の低下が見られる領域には酸素析出物が存在すると判定することができる。ここで適切な補正を行うための補正係数としては、[(第一の面内分布情報における基準PL強度)/(第二の面内分布情報における基準PL強度)]として算出される値を用いることが好ましい。上記基準PL強度としては、例えば第一、第二の面内分布情報における最大PL強度を用いることができるが、平均PL強度等の他の基準PL強度を用いることも可能である。第三の面内分布情報および上記差分情報は、PL強度測定に使用する測定装置に内蔵されているプログラムに補正係数を入力することで、または適切なプログラムを使用することで、容易に取得することができる。
【0020】
工程(4)
先に説明したように、ウェーハ面内において、上記工程(3)で得られた差分情報にてPL強度が低下している領域は、熱酸化処理により酸素析出物が成長することでPL強度が低下した領域、即ち酸素析出物が存在する領域である。したがって差分情報にてPL強度が低下した領域が存在するか否かにより、評価対象シリコンウェーハの酸素析出物の有無を評価することができ、またPL強度が低下した領域の分布により酸素析出物が存在する領域がウェーハ面内のどの領域に分布しているか評価することができる。
【0021】
以上説明した本発明によれば、シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および面内分布に関する評価を、基板抵抗の高低にかかわらずPL法によって高精度に行うことが可能となる。本発明の評価方法は、PL強度の抵抗率依存性や面内の局所的な抵抗率変動による影響が顕在化する傾向にある基板抵抗の低いシリコンウェーハに適用することが好ましく、酸素析出物に関する上記評価をPL強度測定に基づき行うことが従来困難であった、抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板や抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板上にp型のエピタキシャル層を有するp/p+ウェーハに適用することが、特に好ましい。
【0022】
更に本発明は、複数のシリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、前記抽出されたシリコンウェーハを評価する工程と、前記評価により良品と判断されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、シリコンウェーハの製造方法に関する。本発明の製造方法では、前記抽出されたシリコンウェーハの評価を、本発明の評価方法によって行う。
【0023】
前述のように、本発明の評価方法によれば、シリコンウェーハ中の酸素析出物の有無および面内分布を、基板抵抗によらず高精度に評価することができる。よって、かかる評価方法により、酸素析出物の有無や面内分布状態が高品質なデバイスを製造するために使用可能な良品であると判定されたシリコンウェーハと同一ロット内のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することにより、高品質なデバイスを作製可能な製品ウェーハを高い信頼性をもって提供することができる。なお、良品と判定する基準は、ウェーハの用途等に応じてウェーハに求められる物性を考慮して設定することができる。また1ロットに含まれるウェーハ数および抽出するウェーハ数は適宜設定すればよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
抵抗率が5/1000〜10/1000Ω・cmの範囲のp+基板であるウェーハ1のデバイス作製面となる表面について、図1に示す装置として、Nanometrics社PL測定装置SiPHERを用い、測定レーザーとして波長532nmの光源を利用し、1mmの分解能によるバンド端フォトルミネッセンス発光強度Map測定を行い、図2左図に示すマッピングプロファイル(第一の面内分布情報)を得た。マッピングプロファイルでは、PL強度の低い部分ほど暗く(黒く)、高い領域ほど明るく(白く)表示される。図2左図に示すように、マッピングプロファイルでは抵抗率の局所的な変動に起因する同心円状の縞模様が現れたため、明暗によって酸素析出物の存在や分布状態を確認することは困難である。
【0026】
上記PL測定後にウェーハ1を熱処理炉(炉内雰囲気温度:900℃、炉内雰囲気:100%酸素)内に60分間放置することで熱酸化処理を行った後、上記と同様のMap測定を行い、図2右図に示すマッピングプロファイル(第二の面内分布情報)を得た。
【0027】
図2中に矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルが、図3である。ウェーハ外周領域においてPL強度が低下していることが確認できるが、2本のラインプロファイルには、それぞれPL強度の抵抗率依存性や抵抗率の局所的な面内変動の影響も含まれるが、単に熱酸化処理前のマッピングプロファイルから熱酸化処理後のマッピングプロファイルを差し引いた差分画像を取得してしまうと、熱酸化処理による表面再結合抑制によるPL強度上昇分が含まれてしまう。
【0028】
そこで本実施例では、上記上昇分を補正するための補正係数として、熱酸化処理前後のウェーハ1上で測定された最大PL強度を用いることとした。「熱酸化処理前の最大PL強度/熱酸化処理後の最大PL強度」を算出したところ、0.67であった。
図2左図に示すマッピングプロファイル(第一の面内分布情報)から、図2右図に示すマッピングプロファイル(第二の面内分布情報)上のPL強度に0.67を掛けて補正したマッピングプロファイル(第三の面内分布情報)を差し引いた差分画像が、図4左図であり、図4左図の矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルが、図4右図である。
【0029】
[実施例2]
評価対象ウェーハとして、抵抗率が5/1000〜10/1000Ω・cmの範囲のp+基板であるウェーハ2を使用し、実施例1と同様の測定および評価を行った。図5左図は熱酸化処理前のマッピングプロファイル(第一の面内分布情報)、図5右図は熱酸化処理後のマッピングプロファイル(第二の面内分布情報)、図6は図5中に矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルである。ウェーハ2について「熱酸化処理前の最大PL強度/熱酸化処理後の最大PL強度」を算出したところ、0.83であった。この値を補正係数として、図5左図に示すマッピングプロファイル(第一の面内分布情報)から、図5右図に示すマッピングプロファイル(第二の面内分布情報)上のPL強度に0.83を掛けて補正したマッピングプロファイル(第三の面内分布情報)を差し引いた差分画像が、図7左図であり、図7左図の矢印付の直線で示したライン上でのPL強度のラインプロファイルが、図7右図である。
【0030】
図4左図および図7左図において黒く表示されている領域は、差分画像においてPL強度の低下が見られている領域であり、これら領域は同図右図のラインプロファイルにおいて丸枠線で示した部分に対応している。これら差分情報においてPL強度の低下が見られた領域が酸素析出物の存在領域と対応していることを実証するため、図8に、上記実施例1、2における評価後のウェーハ1、2についてRIE評価を行った結果を示す。RIE評価は、以下の方法で行った。
まずフッ酸および硝酸を含む水溶液でウェーハ表面から深さ3μmまでの領域をエッチングし、このウェーハ表面を洗浄し乾燥した後に、反応性イオンエッチングを行った。この反応性イオンエッチングは、マグネトロンRIE装置(Applied Materials社製、Precision 5000 ETCH)を用い、Si/SiO2の選択比が高い条件、即ちSiO2がエッチングされ難い条件で行った。これにより、酸素析出物(酸化シリコン)が針状突起として顕在化する。またエッチングガスとしては、HBrおよびO2の混合ガスを用いた。更にSi/SiO2の選択比が120になるように条件を設定した。反応性イオンエッチング後にフッ酸水溶液で洗浄を行って反応性イオンエッチング時に付着した反応生成物を除去し、反応性イオンエッチングでエッチングされたウェーハ表面について、CCDにより散乱光画像を取得した。
【0031】
RIE評価では、明暗は酸素析出物の分布を示すことが知られており、輝度が低い(黒い)領域は酸素析出物が高濃度で存在する領域である。図8に示すように、RIE評価結果と差分画像での明暗の分布は良好に対応していることから、差分画像においてPL強度の低い領域(黒く表示された領域)は、酸素析出物が存在する領域であることが確認できる。
【0032】
以上の結果から、本発明によれば基板抵抗の高低にかかわらず、PL法によりシリコンウェーハの酸素析出物の有無および面内分布に関する評価を行うことが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、半導体装置製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象シリコンウェーハに対して該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第一の面内分布情報を取得すること、
上記第一の面内分布情報取得後の評価対象シリコンウェーハに対して熱酸化処理を施した後、該シリコンウェーハ表面においてフォトルミネッセンス強度の面内分布を示す第二の面内分布情報を取得すること、
第一の面内分布情報と、第二の面内分布情報に1未満の補正係数による補正を加えて得られた第三の面内分布情報との差分情報を得ること、および、
得られた差分情報に基づき、評価対象シリコンウェーハにおける酸素析出物の有無および酸素析出物の面内分布からなる群から選ばれる評価項目の評価を行うこと、
を含むシリコンウェーハの評価方法。
【請求項2】
前記評価対象シリコンウェーハは、抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板、または抵抗率0.1Ω・cm以下のp+基板上にp型のエピタキシャル層を有するp/p+ウェーハである請求項1に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記補正係数として、[(第一の面内分布情報における基準フォトルミネッセンス強度)/(第二の面内分布情報における基準フォトルミネッセンス強度)]として算出される値を用いる請求項1または2に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項4】
前記基準フォトルミネッセンス強度として、最大フォトルミネッセンス強度を用いる請求項3に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項5】
前記面内分布情報は、フォトルミネッセンス強度のラインプロファイルまたはマッピングプロファイルである請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項6】
前記フォトルミネッセンス強度はバンド端発光強度である請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの評価方法。
【請求項7】
複数のシリコンウェーハからなるシリコンウェーハのロットを準備する工程と、
前記ロットから少なくとも1つのシリコンウェーハを抽出する工程と、
前記抽出されたシリコンウェーハを評価する工程と、
前記評価により良品と判断されたシリコンウェーハと同一ロット内の他のシリコンウェーハを製品ウェーハとして出荷することを含む、シリコンウェーハの製造方法であって、
前記抽出されたシリコンウェーハの評価を、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって行うことを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−243975(P2012−243975A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113173(P2011−113173)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】