シリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置および方法
【課題】シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、シリコンウェーハ中の原子空孔濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、定量的に評価することができる、ウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置等を提供する。
【解決手段】シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料5に対し外部磁場を印加する磁力発生手段2と、シリコン試料5を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段3と、シリコン試料5の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料5中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段4とを有し、シリコン試料5の表面に、前記温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子8を直接形成してなることを特徴とする。
【解決手段】シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料5に対し外部磁場を印加する磁力発生手段2と、シリコン試料5を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段3と、シリコン試料5の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料5中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段4とを有し、シリコン試料5の表面に、前記温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子8を直接形成してなることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔濃度を、ボイド総体積を測定する等の間接的方法で推定することなく、直接に定量的に評価することができる、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶は人類が手にした最も純粋で理想的な結晶であると考えられている。しかし、自由エネルギーのエントロピー項が存在するために結晶を育成する融点1412℃では結晶に真性点欠陥(原子空孔および格子間シリコン)による結晶の乱れが必ず存在する。
【0003】
シリコン結晶中の孤立した原子空孔の存在量を測定する手段は、従来なかった。しかし、例えば、シリコン結晶の育成過程やシリコンデバイス製造の加熱過程等の熱処理を行うことにより、CZ結晶中に過飽和に存在する格子間酸素原子と原子空孔の反応により形成された酸素析出物を顕在化させることで、原子空孔の存在を定性的に判定していた。また、結晶凝固時に導入された過剰な原子空孔が結晶育成時の冷却過程で集合化することで、100nm程度の大きさを持つ二次欠陥であるボイドに成長することで、このボイドの総体積を赤外線トモグラフィーによって測定することで結晶育成時に導入された原子空孔の濃度を推定していた。しかしながら、かかる方法は、原子空孔の存在量を間接的に測定していたに過ぎない。
【0004】
このため、本発明者らのうちの1人は、加速処理を行うことなく、シリコン結晶のウェーハ中の原子空孔濃度を定量的に測定できる方法を、特許文献1において提案した。特許文献1記載の方法は、結晶試料に外部磁場を印加し、冷却しながら結晶試料に超音波を通過させて、結晶試料での超音波音速変化又は超音波吸収変化と結晶試料の冷却温度との関係を示す曲線の急峻な落ち込み量に基づいて固有点欠陥濃度を求めることができ、また、供試材料としてのシリコンウェーハに超音波パルスの発振と受振を行うため、シリコンウェーハの表面に、接着剤を介して、例えばLiNbO3からなる振動子が貼り付けられている。
【特許文献1】特開平7−174742号公報
【0005】
しかしながら、発明者らがその後さらに詳細に検討を行ったところ、シリコンウェーハを50K以下の極低温まで冷却を行ったところ、冷却により、振動子がシリコンウエーハ表面から部分的に剥離する場合があり、振動子が剥離すると、シリコン試料中を伝播した超音波パルスの音速変化を精度よく検出することができなくなるという問題があった。
振動子がシリコンウエーハ表面から剥離する理由は、主に50K以下の極低温まで冷却すると、振動子は収縮し、一方、シリコンウェーハは膨張するため、振動子とシリコンウェーハの間で大きな熱膨張差が生じ、これに起因して剥離が生じるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、定量的に評価することができる、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、シリコン試料を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段と、シリコン試料の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段とを有し、シリコン試料の表面に、前記温度域で温度降下に伴うシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に略揃った薄膜振動子を直接形成してなることを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0008】
(2)超音波発振・検出手段は、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルス信号との位相差を検出する手段を有する上記(1)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0009】
(3)薄膜振動子は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなる上記(1)または(2)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0010】
(4)薄膜振動子は、物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成する上記(1)、(2)または(3)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0011】
(5)薄膜振動子とシリコン結晶との間に金薄膜を有する上記(1)〜(4)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0012】
(6)薄膜振動子は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定する上記(1)〜(5)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0013】
(7)薄膜振動子の厚さは、0.5〜200μmの範囲である上記(1)〜(6)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0014】
(8)薄膜振動子の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲である上記(1)〜(7)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0015】
(9)磁力発生手段は、0〜20テスラの範囲である上記(1)〜(8)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0016】
(10)温度制御手段は、5mKまでの極低温に冷却できる希釈冷凍機を有する上記(1)〜(9)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0017】
(11)超音波発生・検出手段は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いる上記(1)〜(10)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0018】
(12)超音波発生・検出手段は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有する上記(1)〜(11)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0019】
(13)多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点を測定対象として、同時に位相差を測定できる上記(1)〜(12)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0020】
(14)シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の温度低下に伴う膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を、表面に直接形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数の減少量を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する孤立した原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔の存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、定量的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、この発明に従うシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の定量評価装置の概略図である。
【0023】
図に示す定量評価装置1は、主に磁力発生手段2、温度制御手段3および超音波発振・検出手段4で構成されている。
【0024】
磁力発生手段2は、シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料5に対し外部磁場を印加するため、シリコン試料5がセッティングされた位置を取り囲んで配置される。磁力発生手段2としては、例えば超伝導磁石が挙げられる。また、本発明は、シリコン試料5に対し外部磁場を必要に応じて印加した状態で、シリコン試料5中を伝播した超音波パルスの音速変化を検出するため、磁力発生手段2は、0〜20テスラの範囲で制御可能であることが好ましく、より好ましくは0〜6テスラの範囲である(図9参照)。例えばシリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類は、後述するが、外部磁場を印加することによって特定することができる。
【0025】
温度制御手段3は、シリコン試料5を50K以下の温度域に冷却・制御可能に構成され、図1では、温度制御手段3として希釈冷凍機を用いた場合を示している。この希釈冷凍機は、混合室6内に、ヘリウム3とヘリウム4の混合液を適当に循環させることによって、例えば、装置上部側で4.2K、装置下部側で5mKまでの極低温に冷却・制御することができる。なお、図1では、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダー部7が、混合室6内のヘリウム3とヘリウム4の混合液中に浸漬して直接冷却する構成を示しているが、この構成だけには限定されない。例えば、冷却した混合室6を形成する部材を熱伝導率の高い材質で構成し、混合室6を形成する部材からの熱伝導を利用してシリコン試料5を間接的に冷却することができる。かかる構成の場合には、特に冷却する温度域を高温側に広げられる点で有利である。
【0026】
超音波発振・検出手段4は、シリコン試料5の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料5中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出するために配置する。
【0027】
図2は、図1の定量評価装置1を構成する、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダ部7を抜き出して拡大して示した図である。
【0028】
本発明では、シリコン試料5をセッティングするに先立って、シリコン試料5の表面には、50K以下の温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子8を直接または金薄膜を介して形成する。この構成を採用することにより、シリコンウェーハを50K以下の極低温まで冷却を行っても、薄膜振動子がシリコンウエーハの膨張に追随できるため、前記冷却によって薄膜振動子が剥離することがなくなり、シリコン試料中を伝播した超音波パルスの音速変化を精度よく検出することができる結果、シリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類と存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、安定して定量的に評価することができる。
【0029】
また、超音波発振・検出手段4は、図3に示すように、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルスとの位相差を検出する手段であることが好ましい。
【0030】
薄膜振動子8は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなることが好ましい。
【0031】
薄膜振動子8は、例えばスパッタリングのような物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成することが、シリコンウェーハと酸化亜鉛(ZnO)等が、原子レベルで密に結合され、密着性に優れた酸化亜鉛(ZnO)がシリコンウェーハ上に形成される結果として、50K以下の温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性にすることができる点で好ましい。
【0032】
加えて、薄膜振動子8とシリコン試料5との間に金蒸着膜を有することが、冷却時の剥離を防止するとともに導電性を高める点でより好適である。
【0033】
薄膜振動子8は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定することが、せん断成分が大きくなり、分解能が向上する点で好ましい。前記角度が5°未満だと、超音波に含まれる縦波成分の発生がほとんどであり、横波成分の発生効率が著しく減少し、前記角度が60°を超えると縦波超音波と横波超音波の発生効率がともに著しく減少するからである。
【0034】
なお、前記C軸の前記角度は、縦波超音波と横波超音波の双方の発生効率をバランスよく高める点で、40〜50°の範囲にすることがより好適である。図14は、同一サンプルから切り出した2個のFZ試料に、振動子として、C軸が試料表面に対し40°と80°の角度でそれぞれ傾斜させてZnOを形成したものを供試材とし、各供試材に、400MHzの共鳴周波数で超音波測定を行った結果である。
【0035】
図14の結果から、前記C軸の角度が40°の場合には、極低温領域での弾性定数の変化が精度良く測定できているのに対し、前記C軸の角度が80°の場合には、縦波超音波と横波超音波の発生が少ないため、極低温領域での弾性定数の変化が測定できていないのがわかる。
【0036】
C軸が所定の角度で傾斜した薄膜振動子8の作製方法としては、例えばシリコン試料をZnOターゲットに対して斜めに配置する方法が挙げられる。
【0037】
薄膜振動子8の厚さは、0.5〜200μmの範囲であることが測定可能な超音波を発生させることができる点で好ましい。前記厚さが200μmを超えると測定精度が低下する傾向があり、また、前記厚さが0.5μm未満だと、高い周波数の電気測定が難しくなる傾向があるからである。
【0038】
薄膜振動子8の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲であることが超音波測定が適用できる点で好ましい。前記共鳴周波数が10GHzよりも高いと、高い周波数の電気測定が難しくなる傾向があり、また、前記厚さが10MHz未満だと、測定精度が低下する傾向があるからである。
【0039】
超音波発生・検出手段4は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いることが、厚さ10mm以下のシリコン試料の音速を測定可能である点で好ましい。パルス幅が10μsよりも広くなると、隣り合うパルス同士の区別が難しくなる傾向があるからである。図10は、上図がパルス幅を0.2μsにした場合、下図がパルス幅を12μsにした場合の例を示したものである。
【0040】
超音波発生・検出手段4は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有することがより好適である。
【0041】
また、本発明の定量評価装置1は、多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点について、同時に位相差を測定できることが好ましい。図11は、一のシリコンウエーハの複数点(図11では4箇所)について、同時に位相を測るため、金(Au)/酸化亜鉛(ZnO)/金(Au)を蒸着して直接ウエーハ上に振動子を形成したときの一例を示したものである。
【0042】
図4は、直径6インチのノンドープCZシリコンインゴットを試作し、その縦断面を模式的に示したものである。図4から明らかなように、中心部には、約3cmにわたる真性点欠陥領域(Pv領域とPi領域)が存在するのが認められた。
【0043】
そこで次に、真性点欠陥領域であるPv領域とPi領域から、それぞれシリコン試料(A)と(B)を4mm×4mm×7mmに切り出し、図1及び図2に示す定量評価装置に設置し、本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化を測定した。測定結果を図5に示す。なお、弾性定数を求める際に用いた音速v は、図3に示す超音波パルスの位相差φnを検出し、この位相差を用いて、下記の式から算出した。
式:φn=2π(2n-1)lf/v
ここに、(2n-1)lはn番目のエコーの伝搬長であり、fは超音波周波数である。
【0044】
図5に示す結果から、凍結原子空孔領域が豊富であると考えられてきたPv領域の試料(A)では、20K〜10mKまでの極低温領域で温度の逆数に比例して弾性定数が著しく低下、言い換えれば、低温ソフト化することが分かる。一方、格子間シリコンリッチと考えられてきたPi領域の試料(B)は、このような弾性定数の低下は認められなかった。
【0045】
また、図15は、FZシリコン結晶にZnOを振動子として形成した試料について、温度に対する弾性定数の変化を測定した結果の一例を示したものである。なお、図15では、温度制御手段として希釈冷凍機を用い、20mKまでの極低温まで測定した。図15に示す結果から、FZシリコン結晶でも、上述したCZシリコン結晶と同様、低温ソフト化する現象が認められた。
【0046】
また、BをドープしたFZシリコン単結晶と、B無添加FZシリコン単結晶を用い、磁場依存性についても調査した。図9は0〜16テスラの磁場を加えたときの弾性定数の変化結果の一例を示したものであって、上図がB無添加の場合、下図がB添加した場合である。図9の結果から、B添加FZシリコン単結晶における低温ソフト化は、4テスラ程度以下の磁場を印加すると生じ、それよりも大きな磁場の印加により消失するものの、無添加FZシリコン単結晶における低温ソフト化は、磁場の全範囲にわたって生じないという知見が得られた。これは、原子空孔の電荷状態と歪みとの結合がソフト化の起源であることを示している。無添加FZシリコン単結晶の原子空孔では4個の電子を捕獲した非磁性の電荷状態にあり、B添加FZシリコン単結晶では3個の電子を捕獲した磁気を帯びた電荷状態にある。原子空孔の分子軌道は一重項と三重項に分裂し、三重項の電気四極子と歪みとの結合によるJahn-Teller効果がC44および(C11−C12)/2の低温ソフト化を起こしているものと考えられる。無添加FZシリコン単結晶では、原子空孔の間に反強四極子相互作用が存在し、最低温度20mKでも原子空孔の周りのTd対称性は保たれ、三重項は縮退しており、電気四極子の揺らぎが存在しているものとみられる。
【0047】
これらの結果から、捕捉された電子が奇数(3または5)個である原子空孔による弾性定数の低温ソフト化には磁場依存性があり、一方、偶数(4)個の電子を捕獲した原子空孔による弾性定数の低温ソフト化には磁場依存性がないという知見を利用して、本発明では、磁場依存性の有無から原子空孔の種類を決めることができる。
【0048】
次に、本発明に従うシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法の一例について、以下で説明する。
本発明の定量評価方法は、シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を、表面に直接または金薄膜を介して形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスがシリコン試料中を伝播し、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することができる。
【0049】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0050】
本発明のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置を用いて、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔濃度を定量評価したので、以下で説明する。
【0051】
(実施例)
直径6インチ、45kgチャージ、全長800mmのノンドープCZインゴットを用い、そのCZインゴット中に存在する各領域(ボイド領域、R-OSF領域、PV領域、Pi領域)を、Cuデコレーション法を用いて、図6に示すように各領域の境界線を特定した上で、図6に示す6箇所の位置で試料(Y−1およびY−6〜Y−10)を4mm×4mm×7mmサイズに切り出し、各試料の両面に直接、膜厚10μm、試料表面に対し40°の角度で傾斜させたC軸をもつZnOからなる振動子を形成した後、各試料を、図1及び図2に示す定量評価装置にセッティングし、本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化(ΔC44/C44)を測定した。それらの測定結果を図7に示す。なお、図7の縦軸(ΔC44/C44)は、相対値であり、各試料の値が重ならないようにずらして示している。
【0052】
(比較例)
上記Y-7試料の表面に、接着剤を介してLiNbO3からなる振動子が貼り付けられていること以外は、上記実施例と同様に試料を試作したので、実施例と同様な測定を行った。それらの測定結果を図13に示す。
【0053】
実施例での測定では、図7に示す結果からも明らかなように、凍結原子空孔領域が豊富であると考えられてきたPv領域の試料Y−6〜Y8は、10K〜20mKまでの極低温領域で温度の逆数に比例して弾性定数が著しく低下しているのに対し、Pi領域を含めた他の領域の試料は、極低温領域で弾性定数の変化は認められなかった。
【0054】
一方、比較例での測定では、図13に示す結果からも明らかなように、実施例(Y-7)において10K〜20mKまでの極低温領域で認められていた弾性定数の変化が認められなかった。これは、図13の4K 程度の温度で弾性定数の変化が確認できるが、この変化は、極低温領域で接着不良(接着剥離)が発生したことによるものであり、この接着不良の発生により、正確な測定ができなかったものと考えられる。
【0055】
また、ZnOの代わりにAlNを振動子として表面に形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットした一例として、図12の下図に示す。なお、図12の上図は、比較のため、図7で用いたY-8の試料にZnOを振動子として表面に形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットしたときのデータである。図12の結果から、AlNを振動子として用いた場合も、ZnOを振動子として用いた場合と同様の結果が得られているのがわかる。
【0056】
次に、上記試料Y−1およびY−6〜Y−10について、原子空孔濃度を算出した結果を図8に示す。なお、図8における縦軸の原子空孔濃度は、試料Y−7を1.0としたときの相対値として示したものであり、試料Y−7の原子空孔濃度は2.46×1015/cm3であった。弾性定数の減少はC=C0(T-Tc)/(T-Θ)に従う。実験で得られる特性温度TcとΘの差Δ=Tc-Θは原子空孔濃度Nに比例する。実験で得られたΔを用いた関係式N=Δ・C0/δ2によって原子空孔濃度Nの絶対値を実験的に決定できる。ここに、δは外部から加えた歪みに対する原子空孔の電子状態のエネルギー変化の大きさ(変形エネルギー)である。
【0057】
図8の結果から、PV領域から切り出した試料Y−6〜Y−8と、Pi領域から切り出した試料Y−9およびY−10で比較すると、前者の原子空孔濃度が高く、後者の原子空孔濃度が低くなっている。また、ボイド領域から切り出した試料Y−1は、原子空孔としては存在せず、ボイドとして存在しているので、原子空孔濃度としては低くなっている。さらに、PV領域から切り出した試料Y−6〜Y−8の間で比較すると、R-OSF領域側に位置する試料Y−6と、Pi領域側に位置する試料Y−8における原子空孔濃度よりもPV領域の中央位置から切り出した試料Y−7における原子空孔濃度の方が最も高くなっていることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明によれば、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類と存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、定量的に評価することができる。
特に、半導体産業界では、ボイドなどの二次点欠陥が存在しない完全結晶を用いたシリコンウェーハの需要が急速に増大しているものの、従来技術では、ウェーハ中の原子空孔の存在濃度を直接観察し定量的に評価することが困難であり、製造されたシリコンデバイスの不良率が大きい場合が生じるなどの問題があったが、本発明の原子空孔の定量評価装置を用いることによって、原子空孔の種類と存在濃度の定量評価が可能となり、これは、半導体産業界に与する影響は極めて大きいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明に従う原子空孔の定量評価装置の概略図である。
【図2】図1の定量評価装置1を構成する、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダ部7を抜き出したときの拡大図である。
【図3】超音波パルスを用いて位相差を検出する方法を説明するためのフロー図である
【図4】ノンドープCZシリコンインゴットの縦断面の一例を模式的に示したものである。
【図5】本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化を測定したときの図である。
【図6】実施例に用いたノンドープCZシリコンインゴットの縦断面であって、存在する各領域(ボイド領域、R-OSF領域、PV領域、Pi領域)を、Cuデコレーション法を用いて各領域の境界線を特定した状態で示す。
【図7】図6に示す6箇所の位置で試料(Y−1およびY−6〜Y−10)について、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化(ΔCL[111]/CL[111])を測定したときの図である。
【図8】図7で用いた試料Y−1およびY−6〜Y−10について、原子空孔濃度を算出したときの結果を示す図である。
【図9】B無添加FZシリコン単結晶(上図)と、BをドープしたFZシリコン単結晶(下図)を用い、磁場を加えたときの弾性定数の変化結果の一例をプロットした図である。
【図10】振動子に与えるパルス信号の例を示したものであって、上図がパルス幅を0.2μsにした場合、下図がパルス幅を12μsにした場合である。
【図11】一のシリコンウエーハの4箇所について、同時に位相を測るため、金(Au)/酸化亜鉛(ZnO)/金(Au)を蒸着して直接ウエーハ上に振動子を形成したときの一例を示した模式図である。
【図12】同一サンプルから切り出した2個のCZシリコン結晶表面に振動子を形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットした図であり、上図がZnOを振動子として表面に形成した試料での測定結果、下図がAlNを振動子として表面に形成した試料での測定結果である。
【図13】比較例の測定結果をプロットした図である。
【図14】同一サンプルから切り出した2個のFZシリコン結晶試料に、振動子として、C軸が試料表面に対し40°と80°の角度でそれぞれ傾斜させてZnOを形成したものを供試材とし、各供試材に、400MHzの共鳴周波数で超音波測定を行ったときの測定結果をプロットした図である。
【図15】FZシリコン結晶にZnOを振動子として形成した試料について、温度に対する弾性定数の変化を測定した結果をプロットした図である。
【符号の説明】
【0060】
1 原子空孔の定量評価装置
2 磁力発生手段
3 温度制御手段(または希釈冷凍機)
4 超音波発振・検出手段
5 シリコン試料
6 混合室
7 試料ホルダ部
8 薄膜振動子
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔濃度を、ボイド総体積を測定する等の間接的方法で推定することなく、直接に定量的に評価することができる、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶は人類が手にした最も純粋で理想的な結晶であると考えられている。しかし、自由エネルギーのエントロピー項が存在するために結晶を育成する融点1412℃では結晶に真性点欠陥(原子空孔および格子間シリコン)による結晶の乱れが必ず存在する。
【0003】
シリコン結晶中の孤立した原子空孔の存在量を測定する手段は、従来なかった。しかし、例えば、シリコン結晶の育成過程やシリコンデバイス製造の加熱過程等の熱処理を行うことにより、CZ結晶中に過飽和に存在する格子間酸素原子と原子空孔の反応により形成された酸素析出物を顕在化させることで、原子空孔の存在を定性的に判定していた。また、結晶凝固時に導入された過剰な原子空孔が結晶育成時の冷却過程で集合化することで、100nm程度の大きさを持つ二次欠陥であるボイドに成長することで、このボイドの総体積を赤外線トモグラフィーによって測定することで結晶育成時に導入された原子空孔の濃度を推定していた。しかしながら、かかる方法は、原子空孔の存在量を間接的に測定していたに過ぎない。
【0004】
このため、本発明者らのうちの1人は、加速処理を行うことなく、シリコン結晶のウェーハ中の原子空孔濃度を定量的に測定できる方法を、特許文献1において提案した。特許文献1記載の方法は、結晶試料に外部磁場を印加し、冷却しながら結晶試料に超音波を通過させて、結晶試料での超音波音速変化又は超音波吸収変化と結晶試料の冷却温度との関係を示す曲線の急峻な落ち込み量に基づいて固有点欠陥濃度を求めることができ、また、供試材料としてのシリコンウェーハに超音波パルスの発振と受振を行うため、シリコンウェーハの表面に、接着剤を介して、例えばLiNbO3からなる振動子が貼り付けられている。
【特許文献1】特開平7−174742号公報
【0005】
しかしながら、発明者らがその後さらに詳細に検討を行ったところ、シリコンウェーハを50K以下の極低温まで冷却を行ったところ、冷却により、振動子がシリコンウエーハ表面から部分的に剥離する場合があり、振動子が剥離すると、シリコン試料中を伝播した超音波パルスの音速変化を精度よく検出することができなくなるという問題があった。
振動子がシリコンウエーハ表面から剥離する理由は、主に50K以下の極低温まで冷却すると、振動子は収縮し、一方、シリコンウェーハは膨張するため、振動子とシリコンウェーハの間で大きな熱膨張差が生じ、これに起因して剥離が生じるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、定量的に評価することができる、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、シリコン試料を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段と、シリコン試料の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段とを有し、シリコン試料の表面に、前記温度域で温度降下に伴うシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に略揃った薄膜振動子を直接形成してなることを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0008】
(2)超音波発振・検出手段は、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルス信号との位相差を検出する手段を有する上記(1)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0009】
(3)薄膜振動子は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなる上記(1)または(2)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0010】
(4)薄膜振動子は、物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成する上記(1)、(2)または(3)記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0011】
(5)薄膜振動子とシリコン結晶との間に金薄膜を有する上記(1)〜(4)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0012】
(6)薄膜振動子は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定する上記(1)〜(5)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0013】
(7)薄膜振動子の厚さは、0.5〜200μmの範囲である上記(1)〜(6)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0014】
(8)薄膜振動子の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲である上記(1)〜(7)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0015】
(9)磁力発生手段は、0〜20テスラの範囲である上記(1)〜(8)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0016】
(10)温度制御手段は、5mKまでの極低温に冷却できる希釈冷凍機を有する上記(1)〜(9)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0017】
(11)超音波発生・検出手段は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いる上記(1)〜(10)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0018】
(12)超音波発生・検出手段は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有する上記(1)〜(11)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0019】
(13)多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点を測定対象として、同時に位相差を測定できる上記(1)〜(12)のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【0020】
(14)シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の温度低下に伴う膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を、表面に直接形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数の減少量を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中に存在する孤立した原子空孔の種類を特定でき、しかも、原子空孔の存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、定量的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、この発明に従うシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の定量評価装置の概略図である。
【0023】
図に示す定量評価装置1は、主に磁力発生手段2、温度制御手段3および超音波発振・検出手段4で構成されている。
【0024】
磁力発生手段2は、シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料5に対し外部磁場を印加するため、シリコン試料5がセッティングされた位置を取り囲んで配置される。磁力発生手段2としては、例えば超伝導磁石が挙げられる。また、本発明は、シリコン試料5に対し外部磁場を必要に応じて印加した状態で、シリコン試料5中を伝播した超音波パルスの音速変化を検出するため、磁力発生手段2は、0〜20テスラの範囲で制御可能であることが好ましく、より好ましくは0〜6テスラの範囲である(図9参照)。例えばシリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類は、後述するが、外部磁場を印加することによって特定することができる。
【0025】
温度制御手段3は、シリコン試料5を50K以下の温度域に冷却・制御可能に構成され、図1では、温度制御手段3として希釈冷凍機を用いた場合を示している。この希釈冷凍機は、混合室6内に、ヘリウム3とヘリウム4の混合液を適当に循環させることによって、例えば、装置上部側で4.2K、装置下部側で5mKまでの極低温に冷却・制御することができる。なお、図1では、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダー部7が、混合室6内のヘリウム3とヘリウム4の混合液中に浸漬して直接冷却する構成を示しているが、この構成だけには限定されない。例えば、冷却した混合室6を形成する部材を熱伝導率の高い材質で構成し、混合室6を形成する部材からの熱伝導を利用してシリコン試料5を間接的に冷却することができる。かかる構成の場合には、特に冷却する温度域を高温側に広げられる点で有利である。
【0026】
超音波発振・検出手段4は、シリコン試料5の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料5中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出するために配置する。
【0027】
図2は、図1の定量評価装置1を構成する、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダ部7を抜き出して拡大して示した図である。
【0028】
本発明では、シリコン試料5をセッティングするに先立って、シリコン試料5の表面には、50K以下の温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子8を直接または金薄膜を介して形成する。この構成を採用することにより、シリコンウェーハを50K以下の極低温まで冷却を行っても、薄膜振動子がシリコンウエーハの膨張に追随できるため、前記冷却によって薄膜振動子が剥離することがなくなり、シリコン試料中を伝播した超音波パルスの音速変化を精度よく検出することができる結果、シリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類と存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、安定して定量的に評価することができる。
【0029】
また、超音波発振・検出手段4は、図3に示すように、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルスとの位相差を検出する手段であることが好ましい。
【0030】
薄膜振動子8は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなることが好ましい。
【0031】
薄膜振動子8は、例えばスパッタリングのような物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成することが、シリコンウェーハと酸化亜鉛(ZnO)等が、原子レベルで密に結合され、密着性に優れた酸化亜鉛(ZnO)がシリコンウェーハ上に形成される結果として、50K以下の温度域でシリコン試料5の膨張に追随できる物性にすることができる点で好ましい。
【0032】
加えて、薄膜振動子8とシリコン試料5との間に金蒸着膜を有することが、冷却時の剥離を防止するとともに導電性を高める点でより好適である。
【0033】
薄膜振動子8は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定することが、せん断成分が大きくなり、分解能が向上する点で好ましい。前記角度が5°未満だと、超音波に含まれる縦波成分の発生がほとんどであり、横波成分の発生効率が著しく減少し、前記角度が60°を超えると縦波超音波と横波超音波の発生効率がともに著しく減少するからである。
【0034】
なお、前記C軸の前記角度は、縦波超音波と横波超音波の双方の発生効率をバランスよく高める点で、40〜50°の範囲にすることがより好適である。図14は、同一サンプルから切り出した2個のFZ試料に、振動子として、C軸が試料表面に対し40°と80°の角度でそれぞれ傾斜させてZnOを形成したものを供試材とし、各供試材に、400MHzの共鳴周波数で超音波測定を行った結果である。
【0035】
図14の結果から、前記C軸の角度が40°の場合には、極低温領域での弾性定数の変化が精度良く測定できているのに対し、前記C軸の角度が80°の場合には、縦波超音波と横波超音波の発生が少ないため、極低温領域での弾性定数の変化が測定できていないのがわかる。
【0036】
C軸が所定の角度で傾斜した薄膜振動子8の作製方法としては、例えばシリコン試料をZnOターゲットに対して斜めに配置する方法が挙げられる。
【0037】
薄膜振動子8の厚さは、0.5〜200μmの範囲であることが測定可能な超音波を発生させることができる点で好ましい。前記厚さが200μmを超えると測定精度が低下する傾向があり、また、前記厚さが0.5μm未満だと、高い周波数の電気測定が難しくなる傾向があるからである。
【0038】
薄膜振動子8の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲であることが超音波測定が適用できる点で好ましい。前記共鳴周波数が10GHzよりも高いと、高い周波数の電気測定が難しくなる傾向があり、また、前記厚さが10MHz未満だと、測定精度が低下する傾向があるからである。
【0039】
超音波発生・検出手段4は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いることが、厚さ10mm以下のシリコン試料の音速を測定可能である点で好ましい。パルス幅が10μsよりも広くなると、隣り合うパルス同士の区別が難しくなる傾向があるからである。図10は、上図がパルス幅を0.2μsにした場合、下図がパルス幅を12μsにした場合の例を示したものである。
【0040】
超音波発生・検出手段4は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有することがより好適である。
【0041】
また、本発明の定量評価装置1は、多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点について、同時に位相差を測定できることが好ましい。図11は、一のシリコンウエーハの複数点(図11では4箇所)について、同時に位相を測るため、金(Au)/酸化亜鉛(ZnO)/金(Au)を蒸着して直接ウエーハ上に振動子を形成したときの一例を示したものである。
【0042】
図4は、直径6インチのノンドープCZシリコンインゴットを試作し、その縦断面を模式的に示したものである。図4から明らかなように、中心部には、約3cmにわたる真性点欠陥領域(Pv領域とPi領域)が存在するのが認められた。
【0043】
そこで次に、真性点欠陥領域であるPv領域とPi領域から、それぞれシリコン試料(A)と(B)を4mm×4mm×7mmに切り出し、図1及び図2に示す定量評価装置に設置し、本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化を測定した。測定結果を図5に示す。なお、弾性定数を求める際に用いた音速v は、図3に示す超音波パルスの位相差φnを検出し、この位相差を用いて、下記の式から算出した。
式:φn=2π(2n-1)lf/v
ここに、(2n-1)lはn番目のエコーの伝搬長であり、fは超音波周波数である。
【0044】
図5に示す結果から、凍結原子空孔領域が豊富であると考えられてきたPv領域の試料(A)では、20K〜10mKまでの極低温領域で温度の逆数に比例して弾性定数が著しく低下、言い換えれば、低温ソフト化することが分かる。一方、格子間シリコンリッチと考えられてきたPi領域の試料(B)は、このような弾性定数の低下は認められなかった。
【0045】
また、図15は、FZシリコン結晶にZnOを振動子として形成した試料について、温度に対する弾性定数の変化を測定した結果の一例を示したものである。なお、図15では、温度制御手段として希釈冷凍機を用い、20mKまでの極低温まで測定した。図15に示す結果から、FZシリコン結晶でも、上述したCZシリコン結晶と同様、低温ソフト化する現象が認められた。
【0046】
また、BをドープしたFZシリコン単結晶と、B無添加FZシリコン単結晶を用い、磁場依存性についても調査した。図9は0〜16テスラの磁場を加えたときの弾性定数の変化結果の一例を示したものであって、上図がB無添加の場合、下図がB添加した場合である。図9の結果から、B添加FZシリコン単結晶における低温ソフト化は、4テスラ程度以下の磁場を印加すると生じ、それよりも大きな磁場の印加により消失するものの、無添加FZシリコン単結晶における低温ソフト化は、磁場の全範囲にわたって生じないという知見が得られた。これは、原子空孔の電荷状態と歪みとの結合がソフト化の起源であることを示している。無添加FZシリコン単結晶の原子空孔では4個の電子を捕獲した非磁性の電荷状態にあり、B添加FZシリコン単結晶では3個の電子を捕獲した磁気を帯びた電荷状態にある。原子空孔の分子軌道は一重項と三重項に分裂し、三重項の電気四極子と歪みとの結合によるJahn-Teller効果がC44および(C11−C12)/2の低温ソフト化を起こしているものと考えられる。無添加FZシリコン単結晶では、原子空孔の間に反強四極子相互作用が存在し、最低温度20mKでも原子空孔の周りのTd対称性は保たれ、三重項は縮退しており、電気四極子の揺らぎが存在しているものとみられる。
【0047】
これらの結果から、捕捉された電子が奇数(3または5)個である原子空孔による弾性定数の低温ソフト化には磁場依存性があり、一方、偶数(4)個の電子を捕獲した原子空孔による弾性定数の低温ソフト化には磁場依存性がないという知見を利用して、本発明では、磁場依存性の有無から原子空孔の種類を決めることができる。
【0048】
次に、本発明に従うシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法の一例について、以下で説明する。
本発明の定量評価方法は、シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を、表面に直接または金薄膜を介して形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスがシリコン試料中を伝播し、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することができる。
【0049】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0050】
本発明のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置を用いて、シリコンウェーハ中に存在する原子空孔濃度を定量評価したので、以下で説明する。
【0051】
(実施例)
直径6インチ、45kgチャージ、全長800mmのノンドープCZインゴットを用い、そのCZインゴット中に存在する各領域(ボイド領域、R-OSF領域、PV領域、Pi領域)を、Cuデコレーション法を用いて、図6に示すように各領域の境界線を特定した上で、図6に示す6箇所の位置で試料(Y−1およびY−6〜Y−10)を4mm×4mm×7mmサイズに切り出し、各試料の両面に直接、膜厚10μm、試料表面に対し40°の角度で傾斜させたC軸をもつZnOからなる振動子を形成した後、各試料を、図1及び図2に示す定量評価装置にセッティングし、本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化(ΔC44/C44)を測定した。それらの測定結果を図7に示す。なお、図7の縦軸(ΔC44/C44)は、相対値であり、各試料の値が重ならないようにずらして示している。
【0052】
(比較例)
上記Y-7試料の表面に、接着剤を介してLiNbO3からなる振動子が貼り付けられていること以外は、上記実施例と同様に試料を試作したので、実施例と同様な測定を行った。それらの測定結果を図13に示す。
【0053】
実施例での測定では、図7に示す結果からも明らかなように、凍結原子空孔領域が豊富であると考えられてきたPv領域の試料Y−6〜Y8は、10K〜20mKまでの極低温領域で温度の逆数に比例して弾性定数が著しく低下しているのに対し、Pi領域を含めた他の領域の試料は、極低温領域で弾性定数の変化は認められなかった。
【0054】
一方、比較例での測定では、図13に示す結果からも明らかなように、実施例(Y-7)において10K〜20mKまでの極低温領域で認められていた弾性定数の変化が認められなかった。これは、図13の4K 程度の温度で弾性定数の変化が確認できるが、この変化は、極低温領域で接着不良(接着剥離)が発生したことによるものであり、この接着不良の発生により、正確な測定ができなかったものと考えられる。
【0055】
また、ZnOの代わりにAlNを振動子として表面に形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットした一例として、図12の下図に示す。なお、図12の上図は、比較のため、図7で用いたY-8の試料にZnOを振動子として表面に形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットしたときのデータである。図12の結果から、AlNを振動子として用いた場合も、ZnOを振動子として用いた場合と同様の結果が得られているのがわかる。
【0056】
次に、上記試料Y−1およびY−6〜Y−10について、原子空孔濃度を算出した結果を図8に示す。なお、図8における縦軸の原子空孔濃度は、試料Y−7を1.0としたときの相対値として示したものであり、試料Y−7の原子空孔濃度は2.46×1015/cm3であった。弾性定数の減少はC=C0(T-Tc)/(T-Θ)に従う。実験で得られる特性温度TcとΘの差Δ=Tc-Θは原子空孔濃度Nに比例する。実験で得られたΔを用いた関係式N=Δ・C0/δ2によって原子空孔濃度Nの絶対値を実験的に決定できる。ここに、δは外部から加えた歪みに対する原子空孔の電子状態のエネルギー変化の大きさ(変形エネルギー)である。
【0057】
図8の結果から、PV領域から切り出した試料Y−6〜Y−8と、Pi領域から切り出した試料Y−9およびY−10で比較すると、前者の原子空孔濃度が高く、後者の原子空孔濃度が低くなっている。また、ボイド領域から切り出した試料Y−1は、原子空孔としては存在せず、ボイドとして存在しているので、原子空孔濃度としては低くなっている。さらに、PV領域から切り出した試料Y−6〜Y−8の間で比較すると、R-OSF領域側に位置する試料Y−6と、Pi領域側に位置する試料Y−8における原子空孔濃度よりもPV領域の中央位置から切り出した試料Y−7における原子空孔濃度の方が最も高くなっていることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明によれば、シリコン試料の表面に、適正化を図った薄膜振動子を形成することにより、半導体産業で用いられるチョクラルスキー法(CZ法)やフロートゾーン法(FZ法)で製造されるシリコン結晶のウェーハ中の孤立した原子空孔の種類と存在濃度を、その濃度を高める等の加速処理を行うことなく、直接、定量的に評価することができる。
特に、半導体産業界では、ボイドなどの二次点欠陥が存在しない完全結晶を用いたシリコンウェーハの需要が急速に増大しているものの、従来技術では、ウェーハ中の原子空孔の存在濃度を直接観察し定量的に評価することが困難であり、製造されたシリコンデバイスの不良率が大きい場合が生じるなどの問題があったが、本発明の原子空孔の定量評価装置を用いることによって、原子空孔の種類と存在濃度の定量評価が可能となり、これは、半導体産業界に与する影響は極めて大きいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明に従う原子空孔の定量評価装置の概略図である。
【図2】図1の定量評価装置1を構成する、シリコン試料5をセッティングした試料ホルダ部7を抜き出したときの拡大図である。
【図3】超音波パルスを用いて位相差を検出する方法を説明するためのフロー図である
【図4】ノンドープCZシリコンインゴットの縦断面の一例を模式的に示したものである。
【図5】本発明の定量評価方法によって、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化を測定したときの図である。
【図6】実施例に用いたノンドープCZシリコンインゴットの縦断面であって、存在する各領域(ボイド領域、R-OSF領域、PV領域、Pi領域)を、Cuデコレーション法を用いて各領域の境界線を特定した状態で示す。
【図7】図6に示す6箇所の位置で試料(Y−1およびY−6〜Y−10)について、30K〜20mKまで冷却したときの、冷却温度に対する弾性定数の変化(ΔCL[111]/CL[111])を測定したときの図である。
【図8】図7で用いた試料Y−1およびY−6〜Y−10について、原子空孔濃度を算出したときの結果を示す図である。
【図9】B無添加FZシリコン単結晶(上図)と、BをドープしたFZシリコン単結晶(下図)を用い、磁場を加えたときの弾性定数の変化結果の一例をプロットした図である。
【図10】振動子に与えるパルス信号の例を示したものであって、上図がパルス幅を0.2μsにした場合、下図がパルス幅を12μsにした場合である。
【図11】一のシリコンウエーハの4箇所について、同時に位相を測るため、金(Au)/酸化亜鉛(ZnO)/金(Au)を蒸着して直接ウエーハ上に振動子を形成したときの一例を示した模式図である。
【図12】同一サンプルから切り出した2個のCZシリコン結晶表面に振動子を形成した試料における弾性定数と温度の関係をプロットした図であり、上図がZnOを振動子として表面に形成した試料での測定結果、下図がAlNを振動子として表面に形成した試料での測定結果である。
【図13】比較例の測定結果をプロットした図である。
【図14】同一サンプルから切り出した2個のFZシリコン結晶試料に、振動子として、C軸が試料表面に対し40°と80°の角度でそれぞれ傾斜させてZnOを形成したものを供試材とし、各供試材に、400MHzの共鳴周波数で超音波測定を行ったときの測定結果をプロットした図である。
【図15】FZシリコン結晶にZnOを振動子として形成した試料について、温度に対する弾性定数の変化を測定した結果をプロットした図である。
【符号の説明】
【0060】
1 原子空孔の定量評価装置
2 磁力発生手段
3 温度制御手段(または希釈冷凍機)
4 超音波発振・検出手段
5 シリコン試料
6 混合室
7 試料ホルダ部
8 薄膜振動子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、
シリコン試料を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段と、
シリコン試料の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段と
を有し、
シリコン試料の表面に、前記温度域で温度降下に伴うシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に略揃った薄膜振動子を直接形成してなることを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項2】
超音波発振・検出手段は、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルス信号との位相差を検出する手段を有する請求項1記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項3】
薄膜振動子は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなる請求項1または2記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項4】
薄膜振動子は、物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成する請求項1、2または3記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項5】
薄膜振動子とシリコン結晶との間に金薄膜を有する請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項6】
薄膜振動子は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定する請求項1〜5のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項7】
薄膜振動子の厚さは、0.5〜200μmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項8】
薄膜振動子の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲である請求項1〜7のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項9】
磁力発生手段は、0〜20テスラの範囲である請求項1〜8のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項10】
温度制御手段は、5mKまでの極低温に冷却できる希釈冷凍機を有する請求項1〜9のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項11】
超音波発生・検出手段は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いる請求項1〜10のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項12】
超音波発生・検出手段は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有する請求項1〜11のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項13】
多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点を測定対象として、同時に位相差を測定できる請求項1〜12のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項14】
シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の温度低下に伴う膨張に追随できる物性をもちかつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を表面に直接形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数の減少量を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法。
【請求項1】
シリコン試料に対し外部磁場を印加する磁力発生手段と、
シリコン試料を50K以下の温度域に冷却・制御可能な温度制御手段と、
シリコン試料の表面に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出する超音波発振・検出手段と
を有し、
シリコン試料の表面に、前記温度域で温度降下に伴うシリコン試料の膨張に追随できる物性をもち、かつC軸が所定の方向に略揃った薄膜振動子を直接形成してなることを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項2】
超音波発振・検出手段は、発振させた超音波パルスを直接測定した参照波パルス信号と、前記超音波パルスを前記シリコン試料中を伝播させた後に測定した試料通過波パルス信号との位相差を検出する手段を有する請求項1記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項3】
薄膜振動子は、酸化亜鉛(ZnO)または窒化アルミニウム(AlN)からなる請求項1または2記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項4】
薄膜振動子は、物理蒸着法によりシリコンウェーハ上に形成する請求項1、2または3記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項5】
薄膜振動子とシリコン結晶との間に金薄膜を有する請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項6】
薄膜振動子は、シリコン試料の表面に対し5〜60°の角度で傾斜させたC軸をもち、シリコン試料中を伝播させて検知した超音波中の縦波成分と横波成分のうち、少なくとも横波成分を測定する請求項1〜5のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項7】
薄膜振動子の厚さは、0.5〜200μmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項8】
薄膜振動子の共鳴周波数は、10MHz〜10GHzの範囲である請求項1〜7のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項9】
磁力発生手段は、0〜20テスラの範囲である請求項1〜8のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項10】
温度制御手段は、5mKまでの極低温に冷却できる希釈冷凍機を有する請求項1〜9のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項11】
超音波発生・検出手段は、10μs以下のパルス幅の超音波パルスを用いる請求項1〜10のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項12】
超音波発生・検出手段は、温度や磁場で音速が変化することで生じる位相差が一定になるように発振周波数を変化させ零検出を行う手段を有する請求項1〜11のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項13】
多数個のシリコン試料および一のシリコン試料の複数点を測定対象として、同時に位相差を測定できる請求項1〜12のいずれか1項記載のシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価装置。
【請求項14】
シリコンウェーハから所定の部位を切り出したシリコン試料に対し、外部磁場を必要に応じて印加した状態で、25K以下の温度域で冷却しながら、前記温度域でシリコン試料の温度低下に伴う膨張に追随できる物性をもちかつC軸が所定の方向に揃った薄膜振動子を表面に直接形成したシリコン試料に対し超音波パルスを発振し、発振させた超音波パルスをシリコン試料中を伝播させ、伝播した超音波パルスの音速変化を検出し、この音速変化から、冷却温度の低下に伴う弾性定数の減少量を算出し、この算出した弾性定数の減少量からシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の種類と濃度を定量評価することを特徴とするシリコンウェーハ中に存在する原子空孔の定量評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図10】
【公開番号】特開2007−263960(P2007−263960A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53229(P2007−53229)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】
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