説明

シリコンウェーハ表面の珪素脱離方法、シリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法及びその金属不純物分析方法

【課題】
シリコンウェーハ表面上の珪素を効率よく脱離することができるシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法、この珪素脱離方法を適用することにより採取した液体サンプル中のシリコン含有量を低く抑えることができるようにしたシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法、及びこの採取方法により採取した液体サンプルを用いて分析することにより分析感度を向上させ高感度で安定した分析が行えるようにしたシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法を提供する。
【解決手段】
HF溶液、HNO3溶液及びH2OのそれぞれをN2ガスでバブリングする工程と、シリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記それぞれの溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し当該シリコンウェーハをエッチングする工程と、前記エッチングされたシリコンウェーハをN2ガスでブローすることにより前記シリコンウェーハ表面上の珪素を蒸発する工程と、を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ表面の珪素脱離方法、この珪素脱離方法を適用したシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法、及びその液体サンプルを用いることによりシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物を効果的に分析することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の集積化が進むにつれて、その製造プロセスに要求される清浄度が厳しくなっている。特に、Fe,Ni,Cr等の重金属は半導体の特性に大きな影響を与え、pn接合のリーク等の不良を引き起こすとされており、半導体素子の電気的特性を劣化させないためにはこれらの金属汚染を抑制することが重要であり、従って、シリコンウェーハ表面部分、特に表層下領域の汚染を正確に定性及び定量する技術が必要とされる。ここでシリコンウェーハ表層下領域とは表層から数ミクロンの領域を指す。
【0003】
シリコンウェーハ表層下領域の金属不純物を分析するために最もよく用いられる方法は、気相分解法(VPD)によりシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物溶液中に、回収液を原子吸光分析法や誘導結合プラズマ質量分析法により分析し定量する方法である。
【0004】
さらに具体的に言えば、シリコンウェーハ表層下の金属不純物を分析するためには、HF/HNO3溶液でシリコンを直接分解するか、またはHF/HNO3蒸気でシリコンを分解後、残渣を酸溶液で回収し液体サンプルとするのが一般的である。しかしながら、そのようにして採取した液体サンプルにはマトリックスとしてのシリコンが大量に含有されるため、定量分析の精度、感度を劣化させるという問題があった。
【0005】
一方で液体サンプル中のシリコン濃度を低減させるためにはフッ酸などを添加し加熱・蒸発させる方法が知られているが、添加するフッ酸自身の汚染の影響が避けられないといった問題があった。
【0006】
また、液体サンプルとHF/HNO3溶液を別々に密閉容器内に配置し、容器ごと加熱することにより気相でシリコンフッ化物を生成、蒸発させる方法がある(特許文献1)。この方法によれば各種外乱汚染の影響を受けずに液体サンプル中シリコン濃度を低減させることが可能となるが、処理が煩雑で時間がかかる。
【特許文献1】特許第3755586号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、シリコンウェーハ表面上の珪素を効率よく脱離することができるシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法、この珪素脱離方法を適用することにより採取した液体サンプル中のシリコン含有量を低く抑えることができるようにしたシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法、及びこの採取方法により採取した液体サンプルを用いて分析することにより分析感度を向上させ高感度で安定した分析が行えるようにしたシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法の第1の態様は、HF溶液、HNO3溶液、及びH2OのそれぞれをN2ガスでバブリングする工程と、シリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記それぞれの溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し当該シリコンウェーハをエッチングする工程と、前記エッチングされたシリコンウェーハをN2ガスでブローすることにより前記シリコンウェーハ表面上の珪素を蒸発する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法の第2の態様は、HF溶液、HNO3溶液、及びH2OのそれぞれをN2ガスでバブリングする工程と、シリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記それぞれの溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し当該シリコンウェーハをエッチングする工程と、前記エッチングされたシリコンウェーハを加熱することにより前記シリコンウェーハ表面上の珪素を蒸発する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法は、HF溶液をN2ガスでバブリングする工程と、本発明のシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法により表面上の珪素が脱離されたシリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記HF溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し気相分解を行う工程と、前記気相分解されたシリコンウェーハ表面を混酸回収液で走査することによりシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプルを採取する工程と、を有することを特徴とする。ここでシリコンウェーハ表層下とは表層から数ミクロンの領域を指す。
【0011】
本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法は、上記した本発明のシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法により採取された液体サンプルを分析することを特徴とする。
【0012】
本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法において、前記液体サンプルを分析する方法としては、ICP−MSを用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法によれば、シリコンウェーハ表面の珪素を効率よく脱離することができる。本発明のシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法によれば、本発明のシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法を適用することによりシリコン含有量を低く抑えた状態でシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプルを採取することができる。本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法によれば、本発明のシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法により採取した液体サンプルを用いて分析することにより分析感度を向上させ高感度で安定した分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明するが、図示例は本発明の好ましい実施の形態を示すもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り、種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0015】
図1は本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の工程順の1例を示すフローチャートである。図2は図1のフローチャートの冷却工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。図3は図1のフローチャートの第1HFエッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。図4は図1のフローチャートの混酸エッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。図5は図1のフローチャートのN2ガスブロー工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。図6は図1のフローチャートの第2HFエッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。図7は図1のフローチャートの液体サンプル回収工程における液体サンプルの回収採取の一態様を示す模式図で、(a)はシリコンウェーハ上に混酸回収液を滴下した状態、及び(b)は混酸回収液を走査する状態をそれぞれ示す。図8は本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の工程順の他の例を示すフローチャートである。図9は図8のフローチャートの加熱工程におけるホットプレートによる分解生成物の蒸発脱離の一態様を示す概略説明摘示図である。
【0016】
図2〜図6において、符号10はウェーハ処理装置を構成する気相分解チャンバーで、シリコンウェーハ12を上面に載置するウェーハステージ14と、ウェーハステージ14の上方を覆うように設置されたフード部材16を有している。ウェーハステージ14は上面に載置されるシリコンウェーハ12を冷却するための冷却プレートとして作用することができるように図示しない温度調節機構が付設されている。18はウェーハステージ14の周辺部に穿設されたガス導入路で、ウェーハステージ14の上面に開口されたガス導入口19に連通している。ガス導入路18は、後述するHF揮発蒸気(図3及び図6)、混合揮発蒸気(図4)及びN2ガス(図5)等の各種のガスをガス導入口19を介してチャンバー10内に導入する作用を果たす。20はウェーハステージ14の上面に設けられたガス排気口で、チャンバー10内に導入されたガスをガス排気路21を通して外部に排気する作用を行う。
【0017】
符号22は混合器で、第1連通管24及び第2連通管26を介して前記ガス導入路18,18に連通している。28はHF用バブリングボトルで、HF溶液30を収容するボトル本体32を有している。ボトル本体32の上面には第1バルブ機構34が設置されている。この第1バルブ機構34にはN2ガス80aを導入する第1N2導入管36が連通されている。第1バルブ機構34は第1連結管38によって前記混合器22に連通している。第1N2導入管36と第1連結管38とは第1バルブ機構34に設けられた第1バルブ34aによって遮断可能に連通接続されている。40は第1N2導入管36からN2ガスをHF溶液30中に注入する第1N2注入管で、その先端注入口はHF溶液30の液面下に位置するように設置される。第1N2導入管36と第1N2注入管40とは第1バルブ機構34に設けられた第2バルブ34bによって遮断可能に連通接続されている。42はHF用バブリングボトル28内に発生したHF溶液30の揮発蒸気を含むN2ガス81を第1連結管38に排出誘導するHF蒸気排出管である。HF蒸気排出管42と第1連結管38とは第1バルブ機構34に設けられた第3バルブ34cによって遮断可能に連通接続されている。
【0018】
44はHNO3用バブリングボトルで、HNO3溶液46を収容するボトル本体48を有している。ボトル本体48の上面には第2バルブ機構50が設置されている。この第2バルブ機構50にはN2ガス80bを導入する第2N2導入管52が連通されている。第2バルブ機構50は第2連結管54によって前記混合器22に連通している。第2N2導入管52と第2連結管54とは第2バルブ機構50に設けられた第4バルブ50aによって遮断可能に連通接続されている。56は第2N2導入管52からN2ガス80bをHNO3溶液46中に注入する第2N2注入管で、その先端注入口はHNO3溶液46の液面下に位置するように設置される。第2N2導入管52と第2N2注入管56とは第2バルブ機構50に設けられた第5バルブ50bによって遮断可能に連通接続されている。58はHNO3用バブリングボトル44内に発生したHNO3溶液46の揮発蒸気を含むN2ガス82を第2連結管54に排出誘導するHNO3蒸気排出管である。HNO3蒸気排出管58と第2連結管54とは第2バルブ機構50に設けられた第6バルブ50cによって遮断可能に連通接続されている。
【0019】
60はH2O用バブリングボトルで、H2O62を収容するボトル本体64を有している。ボトル本体64の上面には第3バルブ機構66が設置されている。この第3バルブ機構66にはN2ガス80cを導入する第3N2導入管68が連通されている。第3バルブ機構66は第3連結管70によって前記混合器22に連通している。第3N2導入管68と第3連結管70とは第3バルブ機構66に設けられた第7バルブ66aによって遮断可能に連通接続されている。72は第3N2導入管68からN2ガスをH2O62中に注入する第3N2注入管で、その先端注入口はH2O62の液面下に位置するように設置される。第3N2導入管68と第3N2注入管72とは第3バルブ機構66に設けられた第8バルブ66bによって遮断可能に連通接続されている。74はH2O用バブリングボトル60内に発生したH2O62の揮発蒸気を含むN2ガス84を第3連結管70に排出誘導するH2O蒸気排出管である。H2O蒸気排出管74と第3連結管70とは第3バルブ機構66に設けられた第9バルブ66cによって遮断可能に連通接続されている。
【0020】
以下に図1のフローチャートを用いて本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の手順について説明する。まず、シリコンウェーハ12をチャンバー10内のウェーハステージ14に載置し所定温度(例えば、15℃)まで冷却する(冷却工程、ステップ100、図2)。この冷却工程では、第1バルブ機構34(第1バルブ34a、第2バルブ34b、第3バルブ34c)、第2バルブ機構50(第4バルブ50a、第5バルブ50b、第6バルブ50c)、及び第3バルブ機構66(第7バルブ66a、第8バルブ66b、第9バルブ66c)はいずれも閉状態である。
【0021】
次に、第1バルブ34a:閉、第2バルブ34b:開、及び第3バルブ34c:開の状態とし、残りのバルブはいずれも閉の状態とする。この状態で、第1N2ガス80aを第1N2導入管36及び第1N2注入管40を介してHF溶液30内に注入してバブリングし、HF用バブリングボトル28内に発生したHF揮発蒸気含有N2ガス81をHF蒸気排出管42、第1連結管38、混合器22、第1連通管24、第2連通管26、ガス導入路18,18及びガス導入口19,19を介してシリコンウェーハ12を収納したチャンバー10内に導入し、シリコンウェーハ表層のエッチング(自然酸化膜12aの除去)を行う(第1HFエッチング工程、ステップ102、図3)。第1HFエッチング終了後はチャンバー10内のHF揮発蒸気含有N2ガス81はガス排気口20及びガス排気路21から排気される。
【0022】
続いて、第1バルブ34a、第2バルブ34b及び第3バルブ34cは上記した状態のままとしておき、さらに第4バルブ50a:閉、第5バルブ50b:開、第6バルブ50c:開、第7バルブ66a:閉、第8バルブ66b:開、第9バルブ66c:開の状態とする。この状態で、第1N2ガス80aを第1N2導入管36及び第1N2注入管40を介してHF溶液30内に注入してバブリングし、HF用バブリングボトル28内に発生したHF揮発蒸気含有N2ガス81をHF蒸気排出管42及び第1連結管38を介して混合器22に導入する。また、第2N2ガス80bを第2N2導入管52及び第2N2注入管56を介してHNO3溶液46内に注入してバブリングし、HNO3用バブリングボトル44内に発生したHNO3揮発蒸気含有N2ガス82をHNO3蒸気排出管58及び第2連結管54を介して混合器22に導入する。さらに、第3N2ガス80cを第3N2導入管68及び第3N2注入管72を介してH2O62内に注入してバブリングし、H2O用バブリングボトル60内に発生したH2O揮発蒸気含有N2ガス84をH2O蒸気排出管74及び第3連結管70を介して混合器22に導入する。混合器22において、HF揮発蒸気含有N2ガス81、HNO3揮発蒸気含有N2ガス82及びH2O揮発蒸気含有N2ガス84は混合され、その混合蒸気含有N2ガス86は第1連通管24、第2連通管26、ガス導入路18,18及びガス導入口19,19を介してシリコンウェーハ12を収納したチャンバー10内に導入される。導入された混合蒸気含有N2ガス86によってチャンバー10内のシリコンウェーハ12がエッチングされる(混酸エッチング工程、ステップ104、図4)。上記混合蒸気含有N2ガス86の流量及びエッチング時間を適切に制御することにより、シリコンウェーハ12の表層下のエッチオフ量を制御できる。
【0023】
上述したように、ステップ102からステップ104において、チャンバー10内への導入ガスは、HF揮発蒸気含有N2ガス81から混合(HF/HNO3/H2O)蒸気含有N2ガス86へ切り替えられるが、ステップ102であらかじめシリコンウェーハ面の自然酸化膜12aがエッチングにより除去されるため、ステップ104においては混合(HF/HNO3/H2O)蒸気含有N2ガス86によるシリコンウェーハ12のエッチングが自然酸化膜によって妨げられるという現象は発生せず、シリコンエッチオフ量のより正確な制御が可能となる。なお、シリコンウェーハ12の表層下の上記エッチングにより気相分解が行われ、分解生成物としてフッ化シリコン化合物12bが生成する。上記混酸エッチング終了後はチャンバー10内の混合(HF/HNO3/H2O)蒸気含有N2ガス86はガス排気口20及びガス排気路21から排気される。
【0024】
次いで、第1バルブ34a:開、第2バルブ34b:閉、第3バルブ34c:閉、第4バルブ50a:開、第5バルブ50b:閉、第6バルブ50c:閉、第7バルブ66a:開、第8バルブ66b:閉、第9バルブ66c:閉の状態とする。この状態で、第1N2ガス80aを第1N2導入管36に導入すると、第1連結管38を介してそのまま混合器22に導入される。また、第2N2ガス80bを第2N2導入管52に導入すると、第2連結管54を介してそのまま混合器22に導入される。さらに、第3N2ガス80cを第3N2導入管68に導入すると、第3連結管70を介してそのまま混合器22に導入する。混合器22に導入され一体化された第1〜第3のN2ガス80は、第1連通管24、第2連通管26、ガス導入路18,18及びガス導入口19,19を介してシリコンウェーハ12を収納したチャンバー10内に導入され、表層下の気相分解が完了したシリコンウェーハに対するN2ガスブローを数分間行う(N2ガスブロー工程、ステップ106、図5)。このN2ガスブローにより、シリコンウェーハ12の表層下の気相分解が完了したシリコンウェーハの分解生成物(フッ化シリコン化合物)12bの内の約90重量%以上が蒸発脱離する。なお、N2ガスブローによるシリコンウェーハの分解生成物(フッ化シリコン化合物)12bの蒸発脱離処理は、シリコンウェーハのエッチオフ量が少ない場合に特に有効である。上記N2ガスブロー終了後はチャンバー10内のN2ガス80はガス排気口20及びガス排気路21から排気される。
【0025】
その後、第1バルブ34a:閉、第2バルブ34b:開、及び第3バルブ34c:開の状態とし、残りのバルブはいずれも閉の状態とする。この状態で、第1N2ガス80aを第1N2導入管36及び第1N2注入管40を介してHF溶液30内に注入してバブリングし、HF用バブリングボトル28内に発生したHF揮発蒸気含有N2ガス81をHF蒸気排出管42、第1連結管38、混合器22、第1連通管24、第2連通管26、ガス導入路18,18及びガス導入口19,19を介してシリコンウェーハ12を収納したチャンバー10内に導入し、シリコンウェーハ12の表層12cのエッチングを、例えば、5分間程度行う(第2HFエッチング工程、ステップ108、図6)。この第2HFエッチングによりシリコンウェーハ12の表層12cの気相分解が行われ、シリコンウェーハ12の表面がより撥水性となり、後述する混酸回収液によるシリコンウェーハ表面の液体サンプルの回収が容易に出来る。
【0026】
次に、混酸回収液(HF/H22水溶液等)によってシリコンウェーハ表面から液体サンプルを回収採取する(液体サンプル回収工程、ステップ110)。ここで、上記撥水性としたシリコンウェーハ12の表面を混酸回収液の液滴で走査することにより、シリコン含有量を低減させた液体サンプルを回収採取することができる。上記液体サンプルの回収は、市販の液滴回収装置でも基本的に可能であるが、例えば、図7に示した態様で回収することができる。図7は図1に示した工程における液体サンプルの回収採取の一態様を示す模式図で、(a)はシリコンウェーハ上に混酸回収液を滴下した状態、及び(b)は混酸回収液をスキャナーで走査する状態をそれぞれ示す。図7(a)において、90は回転可能に設置される回転基台で、その上面にはシリコンウェーハ12を支持する複数本の支持ピン91が立設されている。92はピペットで、シリコンウェーハ12上面に混酸回収液の液滴93を滴下する作用を行う。シリコンウェーハ12上面に滴下された液滴93はスキャナーのスキャンヘッド94が液滴93を抑えつつ、図7(b)に示した破線矢印95のようにシリコンウェーハ12の中心から周辺部の間を平行移動しかつ回転基台90が実線矢印96のように回転することによって上記液滴93はシリコンウェーハ12の上面を満遍なく走査し、シリコンウェーハ12上面からの液体サンプルの回収を行うことができる。
【0027】
なお、上述したようにシリコンウェーハ上に生成されたシリコン分解生成物の回収処理は、シリコンウェーハ表面にHF/H22水溶液等からなる混酸回収液を滴下して、シリコンウェーハ表面上を一様に走査して回収処理した後、その回収液を回収することによって行えばよい。この回収液として、特にHF濃度が1.5〜3.5重量%程度、H22が0.5〜2.5重量%程度であるHF/H22水溶液を用いると、効率的にシリコンウェーハ表面からシリコン分解生成物を回収できるので好ましい。
【0028】
最後に、採取された液体サンプルを分析する(液体サンプル分析工程、ステップ112)。通常は、採取された液体サンプルは希釈液(例えば、10重量%HF溶液)で希釈して分析されるが、本発明によれば、最終的に採取された液体サンプルのシリコン含有量が低いためその希釈倍率を抑えた状態でICP−MSによる定量分析が可能である。さらにそれを再度シリコンウェーハ上に滴下乾燥することによりTXRF(全反射蛍光X線分析)による定量も可能となる。
【0029】
上述した図1のフローチャートでは、N2ガスブローによるシリコンウェーハの分解生成物(フッ化シリコン化合物)12bの蒸発脱離処理(ステップ106、図5)について説明したが、この蒸発脱離処理としてはホットプレート上で加熱することによって行うことも可能で有り、その場合を図8及び図9を用いて説明する。図8は本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の工程順の他の例を示すフローチャートである。図9は図8に示した工程におけるホットプレートによる分解生成物の蒸発脱離の一態様を示す概略説明摘示図である。
【0030】
図8において、ステップ100〜ステップ104については図1の場合と同様であるので再度の説明は省略する。図8においては、エッチング工程(ステップ104)を経たシリコンウェーハ12に対して、図1のN2ガスブロー工程(ステップ106)の替わりに加熱工程(106a)及び冷却工程(106b)を実施するものである。この加熱工程は、図9に示すようにホットプレート97上にシリコンウェーハ12を載置し、数十分間加熱することによりシリコンウェーハ12上の分解生成物(フッ化シリコン化合物)12bを蒸発させる(ステップ106a)。上記ホットプレートの温度は、例えば100℃〜150℃程度とすればよい。過熱蒸発処理の終了したシリコンウェーハ12は続いて常温程度まで冷却される(106b)。この分解生成物(フッ化シリコン化合物)12bを蒸発させたシリコンウェーハは、図1のステップ108〜ステップ112と同様の処理を受けてその液体サンプルの分析が行われる。図8のステップ108〜ステップ112は図1の場合と同様であり、再度の説明は省略する。なお、図9の例では、ホットプレート97を別体として設けた場合を示したが、チャンバー10のウェーハステージ14にホットプレート機能をもたせることによりチャンバー10内で上記加熱処理を行うこともできる。
【0031】
図1のフローチャートで示した分析手順については、気相分解チャンバー、及び液滴回収装置を同一装置内に組み込み、また図8のフローチャートで示した分析手順については、気相分解チャンバー、ホットプレート及び液滴回収装置を同一装置内に組み込み、ソフトウェア制御することにより完全自動化が可能である。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、この実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるものではない。
【0033】
(実施例1)
図1のフローチャートに従って、図2〜図6と同様の装置を用いてシリコンウェーハから液体サンプルを得て、その分析を行った例を以下に述べる。まず、直径300mm、P型、結晶方位<100>のシリコンウェーハをチャンバー内に搬送し、ステージ温度を15℃に下げる(図2)。N2ガスを用いて5L/minでバブリングボトル内のHF溶液(50重量%、150ml)をバブリングし、HF揮発蒸気をチャンバー内に送り込み、5分間の気相分解を行い、自然酸化膜を除去した(図3)。自然酸化膜をあらかじめ除去しておくことにより、自然酸化膜がHF/HNO3によるシリコンエッチングの妨げとならず、シリコンエッチオフ量のより正確な制御が可能となる。
【0034】
次に、N2ガスを用いてHFバブリングボトル内のHF溶液(50重量%、150ml)、HNO3バブリングボトル内のHNO3溶液(68重量%、150ml)、H2Oバブリングボトル内のH2O(150ml)をそれぞれバブリングし、それぞれの揮発蒸気を含んだN2ガスをシリコンウェーハを収納したチャンバー内に導入し、エッチング(エッチング代:0.2μm)を行なった(図4)。この時のN2ガスバブリング流量比はHF/HNO3/H2O=9:8:3とした。N2ガス流量及び時間を適切に制御することにより、シリコン表層下のエッチオフ量を制御できる。
【0035】
上記エッチングにより、表層下の気相分解が完了したシリコンウェーハをチャンバー内で30L/minのN2ガスでブローを行う事で分解生成物(フッ化シリコン化合物)を蒸発させた(図5)。表層から1ミクロン以下の領域ではN2ブローを数分間行なうことにより、約80重量%以上の分解生成物(フッ化シリコン化合物)が蒸発した。
【0036】
次に、N2ガスを用いて5L/minでHFバブリングボトル内のHF溶液(50重量%、150ml)をバブリングし、HF揮発蒸気をチャンバー内に送り込み、5分間の気相分解を行い、シリコンウェーハ表面をより撥水性にした(図6)。HF揮発蒸気でシリコンウェーハの表面を気相分解することでシリコンウェーハ表面の混酸回収液での回収が容易に出来る。
【0037】
図7と同様の装置を用い、上記シリコンウェーハの表面に混酸回収液(HF/H22水溶液)を滴下し、液体サンプルを採取回収した。採取した液体サンプルをHF溶液(10重量%)で希釈後、ICP−MSでシリコンウェーハの表層下領域のFe、Ni、Cuの分析を行なった。シリコンウェーハの金属不純物の分析の高感度化が図れることを確認した。
【0038】
(実施例2)
図8のフローチャートに従って、図2〜図4、図6及び図9と同様の装置を用いて直径300mm、P型、結晶方位<100>のシリコンウェーハから液体サンプルを得て、その分析を行った他の例を以下に述べる。実施例1と実施例2の違いは、分解生成物(フッ化シリコン化合物)の蒸発をN2ガスブローで行う(実施例1)か、加熱処理で行う(実施例2)かであり、その他は同一工程であるので上記相違点のみについて説明する。実施例1と同様の手順で、エッチング(エッチング代:0.2μm)により表層下の気相分解が完了したシリコンウェーハを、図9と同様のホットプレート上で120℃で30分間加熱し、分解生成物(フッ化シリコン化合物)を蒸発させた。上記加熱により、約90重量%以上の分解生成物(フッ化シリコン化合物)が蒸発した。蒸発終了後のシリコンウェーハを冷却した。このシリコンウェーハについて実施例1と同様の工程を実施した後、同様の手順で液体サンプルを採取回収し、そのFe、Ni、Cuの分析を行い、同様に分析の高感度化が図れることを確認した。
【0039】
(比較例1)
2ブロー及びホットプレート加熱を行わない以外は実施例1、2と同様な条件でFe、Ni、Cuの分析を行った。結果は表のとおり。N2ブロー及びホットプレート加熱を行わない場合(Siマトリックス除去なし)は液体サンプルを更に約10倍希釈しなければならず、検出感度が下がり検出が困難であった。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の工程順の1例を示すフローチャートである。
【図2】図1のフローチャートの冷却工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。
【図3】図1のフローチャートの第1HFエッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。
【図4】図1のフローチャートの混酸エッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。
【図5】図1のフローチャートのN2ガスブロー工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。
【図6】図1のフローチャートの第2HFエッチング工程におけるウェーハ処理装置の状態を示す概略説明摘示図である。
【図7】図1のフローチャートの液体サンプル回収工程における液体サンプルの回収採取の一態様を示す模式図で、(a)はシリコンウェーハ上に混酸回収液を滴下した状態、及び(b)は混酸回収液を走査する状態をそれぞれ示す。
【図8】本発明のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法の工程順の他の例を示すフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートの加熱工程におけるホットプレートによる分解生成物の蒸発脱離の一態様を示す概略説明摘示図である。
【符号の説明】
【0042】
10:チャンバー、12:シリコンウェーハ、14:ウェーハステージ、16:フード部材、18:ガス導入路、19:ガス導入口。20:ガス排気口、21:ガス排気路、22:混合器、24:第1連通管、26:第2連通管、28:HF用バブリングボトル、30:HF溶液、32:ボトル本体、34:第1バルブ機構、34a:第1バルブ、34b:第2バルブ、34c:第3バルブ、36:第1N2導入管、38:第1連結管、40:第1N2注入管、42:HF蒸気排出管、44:HNO3用バブリングボトル、46:HNO3溶液、48:ボトル本体、50:第2バルブ機構、50a:第4バルブ、50b:第5バルブ、50c:第6バルブ、52:第2N2導入管、54:第2連結管、56:第2N2注入管、58:HNO3蒸気排出管、60:H2O用バブリングボトル、62:H2O、64:ボトル本体、66:第3バルブ機構、66a:第7バルブ、66b:第8バルブ、66c:第9バルブ、68:第3N2導入管、70:第3連結管、72:第3N2注入管、74:H2O蒸気排出管、80:第1〜第3N2ガス、80a:第1N2ガス、80b:第2N2ガス、80c:第3N2ガス、81:HF揮発蒸気含有N2ガス、82:HNO3揮発蒸気含有N2ガス、84:H2O揮発蒸気含有N2ガス、86:混合蒸気含有N2ガス、90:回転基台、91:支持ピン、93:混酸回収液の液滴、94:スキャンヘッド、95,96:矢印、97:ホットプレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HF溶液、HNO3溶液、及びH2OのそれぞれをN2ガスでバブリングする工程と、シリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記それぞれの溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し当該シリコンウェーハをエッチングする工程と、前記エッチングされたシリコンウェーハをN2ガスでブローすることにより前記シリコンウェーハ表面上の珪素を蒸発する工程と、を有することを特徴とするシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法。
【請求項2】
HF溶液、HNO3溶液、及びH2OのそれぞれをN2ガスでバブリングする工程と、シリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記それぞれの溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し当該シリコンウェーハをエッチングする工程と、前記エッチングされたシリコンウェーハを加熱することにより前記シリコンウェーハ表面上の珪素を蒸発する工程と、を有することを特徴とするシリコンウェーハ表面の珪素脱離方法。
【請求項3】
HF溶液をN2ガスでバブリングする工程と、請求項1又は2記載の方法により表面上の珪素が脱離されたシリコンウェーハを収納したチャンバー内に前記HF溶液の揮発蒸気を含んだN2ガスを導入し気相分解を行う工程と、前記気相分解されたシリコンウェーハ表面を混酸回収液で走査することによりシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプルを採取する工程と、を有することを特徴とするシリコンウェーハ表層下領域の液体サンプル採取方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法により採取された液体サンプルを分析することを特徴とするシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法。
【請求項5】
前記液体サンプルを分析する方法が、ICP−MSであることを特徴とする請求項4記載のシリコンウェーハ表層下領域の金属不純物分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−130696(P2008−130696A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312180(P2006−312180)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】