説明

シリコンウエハ上に炭化ケイ素の層を形成する方法

本発明はシリコンウエハ(1)上に炭化ケイ素(3,4)の層を形成する方法に関する。本発明は、本質的なチェック模様を用いてウエハ上に浸炭防止マスク(2)を積層し、残存ストレスがそれぞれ膨張と圧縮の形態をとるような条件で浸炭工程を実行し、前記マスクを取り除き、残存ストレスがそれぞれ圧縮と膨張の形態をとるような条件で浸炭工程を実行する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコン基板上の炭化ケイ素(SiC/Si)の成長に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シリコン基板上の炭化ケイ素(SiC)の成長は、大きな寸法の立方晶系のSiC層を得るための独占的な方法である。SiC及び/又は他の材料の成長のための基板としてのシリコンの利点は、その低コスト、大きな寸法が得られること、及び浸炭によって直接3C(立方晶)のSiCを形成できることである。SiCの成長におけるシリコン基板の欠点は、特にSiとSiCとの間の格子パラメータの違い及び熱膨張係数の違いに起因する。このことは、乏しい結晶の品質につながり、とりわけ、基板が成長温度から室温に冷却される際に強い残存ストレスの発生につながり、基板の大きなひずみを引き起こす。
【0003】
実際、そのような結晶の品質は、圧力、温度、又は流量センサやその他幾らかの電子素子の製造のような数多くの応用には十分である。しかし、そのひずみは非常に大きいので、これらの層に、産業的利用に必要な従来のフォトリソグラフィ技術を用いることが不可能となる可能性があり、これは、基板の寸法が増すにつれなおさらである。ところが一方で、20cmより大きいか等しい、大径のシリコンウエハを使うことが、現在の産業上の製造工程で標準である。
【0004】
T.Chassagneらは、Materials Science Forum,Vol.353−356(2001),pp.155−158に出版された論文で、基板の浸炭温度によって、SiC層は圧縮されているか、又は膨張しているかのどちらかになり得ることを示した。彼らは、その論文の結論で、この浸炭温度の選択でストレスのないSiC層を形成することを提案している。しかし、前記論文の図2に示され、添付図1に再現された曲線は、圧縮と膨張との間の移行はかなり狭い範囲で起こり、再現性のある工業的プロセスという文脈からすれば、ストレスがゼロとなるような正確な条件を選ぶことは困難であろうことを示している。
【0005】
得られる基板のひずみを避ける又は顕著に減少させることによってシリコン基板上の炭化ケイ素層の成長を可能にする簡潔な方法が、常に得られるとは限らない。
【特許文献1】特開平08−119616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、そのような方法を提供することにある。
【0007】
本発明は、ひずみを示さない、又は少なくとも現在の技術的可能性に適合した十分微小なひずみしか示さない、シリコン基板上の炭化ケイ素層を有する構造をもねらいとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的を達成するために、本発明は、シリコンウエハ上に炭化ケイ素の層を形成する方法であって、前記ウエハ上に、略テーブルクロス模様を有する浸炭防止マスクを積層し、残存ストレスが膨張タイプ又は圧縮タイプであるような条件で浸炭工程を実行し、前記マスクを取り除き、残存ストレスがそれぞれ圧縮タイプ又は膨張タイプであるような条件で浸炭工程を実行する工程を有することを特徴とする方法を提供する。
【0009】
本発明の1つの実施形態によれば、前記方法は、両前記浸炭工程後の炭化ケイ素層のエピタキシャル成長工程を更に有する。
【0010】
本発明の1つの実施形態によれば、一方の浸炭工程は1000℃より低い温度で実行され、他方の浸炭工程は1100℃より高い温度で実行される。
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、一方の浸炭工程は950℃より低い温度で実行され、他方の浸炭工程は1150℃より高い温度で実行される。
【0012】
本発明の1つの実施形態によれば、少なくとも最初の浸炭工程は、浸炭される領域の上部表面を炭素で飽和させるように実行される。
【0013】
本発明の1つの実施形態によれば、前記マスクは酸化ケイ素からなる。
【0014】
本発明は、炭化ケイ素で覆われたシリコンウエハであって、該ウエハ上で炭化ケイ素及びシリコンの間の残存ストレスが残存圧縮ストレスである領域と、炭化ケイ素及びシリコンの間の残存ストレスが拡張ストレスである領域とが交互に並んでいることを特徴とするシリコンウエハもまた提供する。
【0015】
本発明の1つの実施形態によれば、交互に並んでいる前記領域は、略テーブルクロス模様に従って並んでいる。
【0016】
本発明の1つの実施形態によれば、ストレスは異方性を示し、交互に並んでいる前記領域は非対称である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下の、添付した図面に関連した特定の実施形態の限定されることのない記述の中で、本発明の前述およびその他の目的、特徴並びに利点を詳細に述べる。
【0018】
概ね、本発明は、2つのタイプの領域でシリコン基板の表面を共有する方法を与える。一方のタイプの領域では、浸炭は残存圧縮応力を生ずるような方法に従って実行され、他方のタイプの領域では、残留膨張応力を生ずるような方法に従って実行される。「残留応力」は、ここでは、基板が成長温度から室温に冷却される際に見られる応力を示すために用いられる。
【0019】
1つの領域の表面は、平均残留応力が基板全体を通して均一になるように、基板表面に比べて小さくなければならない。それぞれのタイプの領域の表面と形状は、膨張状態にある領域の総膨張応力が圧縮状態にある領域の総圧縮応力によって相殺されるように決定される。膨張応力の絶対値は、概ね圧縮応力の絶対値にかなり近く、それによって、圧縮状態にある正方形を同じ表面領域の膨張状態にある正方形と交互にテーブルクロス(市松模様)状に配置するように調製された基板で、満足のいく結果が得られる。応力が異なっている場合、第1のタイプの複数の正方形が、他方のタイプの連続した背景で互いに完全に分離している変型したテーブルクロス構造が与えられてもよい。
【0020】
顕著なゆがみの異方性の場合、例えば、低指標の結晶面に対して基板の方向がずれている場合、基本領域、又は2つのタイプのうち一方の領域は、それぞれの方向の応力を相殺するために都合がよいように正方形、長方形、円形、又は楕円形であってよい。
【0021】
基本の領域の寸法は、それを最も良く利用するために構造が形成された構成要素に適合していてよい。例えば、能動的領域の応力と釣り合う、又は電気回路線の支持体として用いられる圧縮状態にある受動的領域部分で囲まれた、膨張状態にある能動的領域部分のような、能動的部分のレベルにある及び/又は受動的部分のレベルにある2つのタイプの応力の存在を、その構成要素はできる限り利用してよい。これは、より複雑な、ことによると同心円状の基本領域を有する形状という結果につながるかもしれない。
【0022】
図2A乃至2Dは、本発明の実施例の連続する工程を示す、略示された断面図である。
【0023】
図2Aに示すように、前述のようなテーブルクロス又はテーブルクロス状の構造を有するマスク2で覆われているシリコン基板1から開始される。
【0024】
そして、図2Bに示すように、基板は、マスク2によって覆われていない領域に浸炭された領域3を得るため浸炭される。マスク2は、例えば約100nmの厚さの薄いSiO2 層、又はSi3 4 のような、それに覆われた領域が浸炭されるのを防ぐような、他のどのような材料で形成されていてもよい。
【0025】
この浸炭工程に対して、均一な層を積層している場合に基板の冷却中に引き起こされる残留応力が圧縮による又は膨張による残留応力を与えるような温度範囲が選択される。前記論文に示された温度範囲が選択される場合、1050℃よりも非常に大きい又は非常に小さい温度範囲が選択される。例えば1000℃より下及び好適には950℃より下、又は1100℃より上及び好適には1150℃より上の温度が選択される。他のタイプの条件が選択されてよく、問題となるのは、浸炭が圧縮状態又は膨張状態の残留応力を与える制限条件の一方の側か又は他方の側かに明確にあるべきであることに注目すべきである。
【0026】
そして、図2Cに示すように、マスク2は取り除かれ、他方の側の前記制限条件で、新しい浸炭工程が実行され、つまり、領域3が、残留圧縮−膨張応力を与える浸炭の結果生じる場合、領域4の浸炭は、膨張−圧縮タイプの残留応力を与える。
【0027】
表面で炭素が飽和するような条件で、最初の浸炭工程が実行された場合、次の浸炭工程では、既に浸炭された領域は影響を受けない。
【0028】
そして、図2Dに示すように、浸炭領域を有する炭化ケイ素層とエピタキシャル層とを総計した厚みが望ましい値となるように、炭化ケイ素層5のエピタキシャル成長が好適に実行される。従来、このエピタキシーは1150℃より高い温度で実行されている。しかし、このエピタキシーは、下にある領域の性質と同じSiCの性質を伴って起こり、つまり、膨張状態の残留応力を与える浸炭領域の下で形成されるエピタキシャル層の部分は、膨張状態の残留応力を与え、圧縮状態の残留応力を与える浸炭領域の上で形成されるエピタキシャル層の部分は、圧縮状態の残留応力を与える。
【0029】
そして、前記層と前記基板とは、構成部品製造に用いられる準備ができた状態である。特に、3族元素の窒化物のエピタキシャル層が炭化ケイ素状に形成されてよい。
【0030】
もちろん、本発明は、当業者が想到する種々の変型例及び修正例の可能性を有する。特に、当業者は、種々のタイプの領域の配置と浸炭及びエピタキシーの条件とを選択してよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】T.Chassagneらによる前記論文に出版されている如き残留応力と浸炭温度との関係を示す。
【図2A】本発明に係る方法の連続する工程を示す。
【図2B】本発明に係る方法の連続する工程を示す。
【図2C】本発明に係る方法の連続する工程を示す。
【図2D】本発明に係る方法の連続する工程を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエハ(1)上に炭化ケイ素(3,4)の層を形成する方法であって、
前記ウエハ上に、略テーブルクロス模様を有する浸炭防止マスク(2)を積層し、
残存ストレスが膨張タイプ又は圧縮タイプであるような条件で浸炭工程を実行し、
前記マスクを取り除き、
残存ストレスがそれぞれ圧縮タイプ又は膨張タイプであるような条件で浸炭工程を実行する
工程を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
両前記浸炭工程後に炭化ケイ素層(5)のエピタキシャル成長工程を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一方の浸炭工程は1000℃より低い温度で実行され、他方の浸炭工程は1100℃より高い温度で実行される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
一方の浸炭工程は950℃より低い温度で実行され、他方の浸炭工程は1150℃より高い温度で実行される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも最初の浸炭工程は、浸炭される領域の上部表面を炭素で飽和させるように実行される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記マスクは酸化ケイ素からなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
炭化ケイ素(3,4)で覆われたシリコンウエハ(1)であって、該ウエハ上で炭化ケイ素及びシリコンの間の残存ストレスが残存圧縮ストレスである領域と、炭化ケイ素及びシリコンの間の残存ストレスが拡張ストレスである領域とが交互に並んでいることを特徴とするシリコンウエハ。
【請求項8】
交互に並んでいる前記領域は、略テーブルクロス模様に従って並んでいる請求項7に記載のシリコンウエハ。
【請求項9】
ストレスは異方性を示し、交互に並んでいる前記領域は非対称である請求項8に記載のシリコンウエハ。

【図1】
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【公表番号】特表2006−525937(P2006−525937A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505832(P2006−505832)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001091
【国際公開番号】WO2004/099471
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【Fターム(参考)】