説明

シリコンナノワイヤーの製造方法

【課題】例えば、太陽電池の光起電力の電力素子をはじめ、充放電による膨張と収縮を繰り返し受けた場合であっても粉末化しがたいことからリチウム電池の負極材料などに有用である、アルミニウムの混入がない高純度を有するシリコンナノワイヤーを低温で製造することができるシリコンナノワイヤーの製造方法を提供すること。
【解決手段】不活性ガス雰囲気中で亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を450〜600℃の温度に加熱することを特徴とするシリコンナノワイヤーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンナノワイヤーの製造方法に関する。さらに詳しくは、太陽電池の光起電力の電力素子、リチウム電池の負極材料などに有用なシリコンナノワイヤーの製造方法に関する。シリコンナノワイヤーは、特に、充放電による膨張と収縮を繰り返し受けた場合であっても粉末化しがたいことから、リチウム電池の負極材料に用いることが期待される。
【背景技術】
【0002】
シリコンナノワイヤーの製造方法として、溶融法(例えば、特許文献1参照)、蒸発法(例えば、特許文献2参照)、触媒法(例えば、特許文献3参照)などが知られている。これらのシリコンナノワイヤーの製造方法の欠点を解消し、高純度のシリコンナノワイヤーを低温で製造する方法として、四塩化珪素ガスと不活性ガスとの混合ガスまたは四塩化珪素ガスを、700〜1000℃の高温領域を通って、前記高温領域よりも温度の低い領域へ流通し、該高温領域にアルミニウムを供給し、前記高温領域よりも温度の低い領域においてシリコンナノワイヤーを析出させるシリコンナノワイヤーの製造方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
前記シリコンナノワイヤーの製造方法によれば、高温領域における温度が700〜1100℃であるので、シリコンナノワイヤーを従来の加熱温度(1300℃)よりも低温で製造することができるという利点がある。しかし、シリコンナノワイヤーを製造するときの温度領域が前記高温領域であることは、低温であるとは言いがたく、エネルギー効率を格段に高める観点から、より一層低温でシリコンナノワイヤーを製造することができる方法の開発が待ち望まれている。
【0004】
また、前記シリコンナノワイヤーの製造方法では、アルミニウムを必要とし、アルミニウムはシリコンとの親和性が良好であることから、シリコンナノワイヤーの製造時にシリコン中にアルミニウムが不純物として混入するため、高純度を有するシリコンナノワイヤーを製造することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−142680号公報
【特許文献2】特開2004−296750号公報
【特許文献3】特開2006−117475号公報
【特許文献4】特開2009−161404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、前記シリコンナノワイヤーの製造方法よりもさらに低温領域で、アルミニウムの混入がない高純度を有するシリコンナノワイヤーを製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1) 不活性ガス雰囲気中で亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を450〜600℃の温度に加熱することを特徴とするシリコンナノワイヤーの製造方法、
(2) 四塩化ケイ素と亜鉛との混合物を用いる前記(1)に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法、
(3) 四塩化ケイ素1モルあたりの亜鉛の量が2〜5モルである前記(1)または(2)に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法、
(4) 金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下で四塩化ケイ素を加熱する前記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法、
(5) 四塩化ケイ素をシリコン片の存在下で加熱する前記(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法、および
(6) 閉鎖系内で四塩化ケイ素を加熱する前記(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法によれば、アルミニウムの混入がなく、高純度を有するシリコンナノワイヤーを低温で製造することができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られたシリコンナノワイヤーにおいて、(a)は加熱前のガラス管の下部の光学写真、(b)は加熱後のガラス管の下部の光学写真である。
【図2】実施例1で得られたシリコンナノワイヤーの加熱後の粉末の粉末X線回折図である。
【図3】実施例1において、ガラス管の下部で得られたシリコンナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1において、加熱後のガラス管の中央部から底部(紙面に向かって右方向)までの領域における光学写真である。
【図5】実施例1で得られたシリコンナノワイヤーのラマンスペクトルである。
【図6】実施例1において、ガラス管の中央部で得られたシリコンナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】実施例1で得られたナノワイヤーのEDXスペクトルを示す図である。
【図8】実施例1で得られたナノワイヤーの電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。
【図9】実施例4において、ガラス管内部で得られたシリコンナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図10】実施例4で得られたナノワイヤーのEDXスペクトルを示す図である。
【図11】(a)はシリコンウェハ片の端部に存在しているナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b)はシリコンウェハ片の中央部に存在しているナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法は、前記したように、不活性ガス雰囲気中で亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を450〜600℃の温度で加熱することを特徴とする。
【0011】
本発明においては、亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を加熱する点に1つの大きな特徴がある。本発明によれば、このように亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を加熱するという操作が採られているので、従来のシリコンナノワイヤーの製造方法(特開2009−161404号公報)における加熱温度(700〜1100℃)と対比して、その加熱温度を大幅に低下させてシリコンナノワイヤーを製造することができる。したがって、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法は、従来よりもエネルギー効率を格段に高めることができるという利点がある。
【0012】
また、従来のシリコンナノワイヤーの製造方法では、アルミニウムを必要とすることから、得られるシリコンナノワイヤーに不純物としてアルミニウムが混入するため、当該シリコンナノワイヤーの純度が低下するという欠点がある。これに対し、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法では、アルミニウムを必要としないので、得られるシリコンナノワイヤーにアルミニウムが混入することを防止することができる。さらに、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法では、従来の方法で使用されているアルミニウムではなく亜鉛が用いられているが、当該亜鉛は、シリコンに対する親和性が非常に小さいため、得られるシリコンナノワイヤーに不純物として混入しがたいことから、高純度を有するシリコンナノワイヤーを容易に製造することができる。
【0013】
さらに、原料の四塩化ケイ素と亜鉛との反応によって副生する塩化亜鉛は、加熱により蒸気となって揮散除去されやすいことから、シリコンナノワイヤー中に取り込まれることを防止することができる。
【0014】
したがって、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法によれば、アルミニウムの混入がなく、高純度を有するシリコンナノワイヤーを低温で製造することができるので、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法は、例えば、太陽電池の光起電力の電力素子、リチウム電池の負極材料などに有用なシリコンナノワイヤーを製造する際に好適に使用することができる。
【0015】
以下に、本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法の一実施態様について具体的に説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0016】
本発明においては、シリコンナノワイヤーの原料として、亜鉛および四塩化ケイ素が用いられる。
【0017】
亜鉛は、得られるシリコンナノワイヤーの純度を高める観点から、できるだけ純度が高いものであることが好ましい。亜鉛の純度は、高純度を有するシリコンナノワイヤーを製造する観点から、99.9重量%以上であることが好ましい。
【0018】
亜鉛の形状は、その融点が420℃であるので加熱時に溶融することから特に限定されないが、取り扱い性の観点から、粒子状であることが好ましい。
【0019】
四塩化ケイ素は、高純度を有するものを低価格で商業的に容易に入手することができる。四塩化ケイ素は、得られるシリコンナノワイヤーの純度を高める観点から、できるだけ純度が高いものであることが好ましい。四塩化ケイ素の純度は、高純度を有するシリコンナノワイヤーを製造する観点から、99.9重量%以上であることが好ましい。
【0020】
四塩化ケイ素1モルあたりの亜鉛の量は、シリコンナノワイヤーを効率よく製造する観点から、好ましくは2モル以上、より好ましくは2.5モル以上であり、あまり多量で用いてもそれ以上のシリコンナノワイヤーの製造効率の向上が望めないばかりでなく、かえって経済性が低下するようになることから、好ましくは5モル以下、より好ましくは4.5モル以下である。
【0021】
本発明のシリコンナノワイヤーの製造方法によれば、触媒の非存在下であってもシリコンナノワイヤーを効率よく製造することができるが、シリコンナノワイヤーを製造する際に触媒を使用してもよい。
【0022】
触媒を使用しないでシリコンナノワイヤーを製造した場合には、直径が約300nm以下の非晶質シリコンナノワイヤーを得ることができるが、触媒を使用した場合には、その直径がさらに小さくなるようにシリコンナノワイヤーの直径を制御することができるとともに、シリコンナノワイヤーの製造効率を高めることができる。
【0023】
触媒としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの触媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの触媒の中では、得られるシリコンナノワイヤーの直径を容易に制御することができるようにするとともに、シリコンナノワイヤーを結晶化させる観点から、金が好ましい。触媒として金を使用した場合には、直径が20nm以下の極細の結晶性シリコンナノワイヤーを製造することができる。
【0024】
なお、触媒としてアルミニウムを用いた場合、前述したように、得られるシリコンナノワイヤーに不純物として混入するおそれもあるが、本発明のように低温において触媒として微小量使用する限りは問題ない。
【0025】
触媒の大きさ(最大径)は、特に限定されないが、シリコンナノワイヤーの直径を制御しながら効率よく製造する観点から、目的とするシリコンナノワイヤーの直径と同程度の大きさが好ましい。例えば、直径50nmのシリコンナノワイヤーを製造したい場合、触媒の大きさは、好ましくは30〜70nm、より好ましくは40〜60nmである。
【0026】
触媒の量は、四塩化ケイ素および亜鉛の合計量100重量部あたり、触媒効果を十分に発現させる観点から、好ましくは0.03重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上であり、あまり多量で用いてもそれ以上の触媒効果の向上が望めないばかりでなく、かえって経済性が低下するようになることから、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、さらに好ましくは3重量部以下である。触媒は、通常、反応容器内側の表面および/またはシリコン片などの表面に蒸着させるかまたは塗布することによって用いることができる。
【0027】
本発明においては、四塩化ケイ素は、シリコン片の存在下で加熱してもよい。シリコン片は、シリコンナノワイヤーと同様にシリコンで形成されているので、両者は同質であることから親和性に優れているので、当該シリコン片の表面上でシリコンナノワイヤーを効率よく生成させることができる。
【0028】
シリコン片の大きさおよび形状は、シリコンナノワイヤーの製造規模などによって異なるので一概には決定することができないことから特に限定されないが、その一例として、縦50〜200mm、横5〜50mm、厚さ0.5〜5mm程度の長方形状を有するプレートなどが挙げられる。シリコン片に用いられるシリコンの純度は、当該シリコン片の表面上でシリコンナノワイヤーを効率よく生成させる観点から、できるだけ高いことが好ましい。
【0029】
四塩化ケイ素と亜鉛および必要により触媒とを反応容器へ導入した後、得られた混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱する。
【0030】
不活性ガスは、シリコンナノワイヤーの原料である四塩化ケイ素および亜鉛に対して不活性であるガスを意味する。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの不活性ガスは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの不活性ガスのなかでは、窒素ガスおよびアルゴンガスが好ましい。
【0031】
四塩化ケイ素および亜鉛は、閉鎖系内で加熱してもよく、開放系で加熱してもよいが、シリコンナノワイヤーを効率よく製造する観点から、閉鎖系内で加熱することが好ましい。
【0032】
四塩化ケイ素および亜鉛を開放系で加熱する場合、不活性ガス雰囲気中で、例えば、四塩化ケイ素、亜鉛および必要により触媒を耐熱性容器内に入れ、コンベアなどで当該耐熱性容器を移動させながら加熱することができるので、シリコンナノワイヤーを連続的に効率よく製造することができるという利点がある。
【0033】
耐熱性容器を構成する材質としては、例えば、耐熱性ガラス、炭素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。耐熱性容器としては、例えば、反応管、チューブ、ボート、ディッシュなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0034】
一方、四塩化ケイ素および亜鉛を閉鎖系で加熱する場合、内部雰囲気が不活性ガスである耐熱性ガラスチューブなどの耐熱性容器内に四塩化ケイ素、亜鉛および必要により触媒を入れ、その開口部を封止した後、当該耐熱性容器を加熱することができるので、耐熱性容器内の気体が外部に漏出することを防止することができることから、シリコンナノワイヤーを収率よく製造することができるという利点がある。
【0035】
四塩化ケイ素、亜鉛および必要により触媒を加熱する際の加熱温度は、シリコンナノワイヤーを効率よく製造する観点から、450℃以上であり、エネルギー効率を高める観点から、600℃以下である。また、四塩化ケイ素、亜鉛および必要により触媒を加熱するのに要する時間は、前記加熱温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、シリコンナノワイヤーが生成するのに要する時間、例えば、30分〜100時間の範囲から選ばれる。
【0036】
四塩化ケイ素、亜鉛および必要により触媒を加熱した後は、室温にまで放冷すればよいが、必要により急冷させてもよい。
【0037】
以上のようにしてシリコンナノワイヤーが得られるが、得られたシリコンナノワイヤーは、必要により、例えば、精製水、エタノールなどの低級アルコールなどを用いて洗浄し、乾燥させてもよい。
【0038】
本発明の製造方法によって得られたシリコンナノワイヤーは、例えば、太陽電池の光起電力の電力素子、リチウム電池の負極材料などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
高純度アルゴンガスが充填されたグローブボックス内において、一端が封止されたパイレックス(登録商標)ガラス製のガラス管(直径:10mm、長さ:100mm)内に、液体の四塩化ケイ素〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%〕0.2mLおよび亜鉛粉末〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%、粒子径:75〜150μm〕0.4gを入れた。
【0041】
次に、このガラス管の開口部をガスバーナーで封止した後、電気炉内に入れ、加熱温度を500℃に調整して48時間保持した。加熱終了後、ガラス管を室温まで放冷し、ガラス管の上端部を開封し、ガラス管の内壁に付着している粉末状の生成物を回収した。回収した粉末を蒸留水で洗浄した後、さらにエタノールで洗浄した。引き続いて、この粉末を温風で乾燥させた後、以下の方法にて、その物性を調べた。
【0042】
〔X線回折〕
粉末X線回折装置〔(株)リガク製、品番:ウルティマ(Ultima) IV〕を用い、電流40mA、電圧40keVにてCuKα線を照射することにより、得られた粉末のX線回折を行なった。
【0043】
〔構造解析〕
走査型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製、品番:S−2600H〕にて、得られた粉末を観察した。また、エネルギー分散型X線分析装置〔(株)堀場製作所製、商品名:EMAX ENERGY EX−200〕を用い、得られた粉末を同定した。
【0044】
〔ラマンスペクトル〕
得られた粉末を大気中に曝さないようにし、He−Neレーザー(波長:632.8nm)を用いてマイクロ−ラマンスペクトル測定装置〔ホリバ・ジョバン・イボン社(HORIBA Jobin Yvon Inc.)製、商品名:ラブラム(Labram) 010〕にて、当該粉末のラマンスペクトルを測定した。
【0045】
まず、500℃に加熱する前後のガラス管の光学写真を図1に示す。図1において、(a)は加熱前のガラス管の下部の光学写真であり、(b)は加熱後のガラス管の下部の光学写真である。加熱後のガラス管の下部の光学写真(b)では、液体の四塩化ケイ素および固体の亜鉛粉末が、加熱により黒色ないし濃茶色の粉末に変化していたが、文献〔A. T. Heitsch, D. D. Fanfair, H. Tuan and B. A. Korgel, J. Am. Chem. Soc., 130, 5436 (2008)〕によれば、シリコンのナノワイヤーが濃茶色であることから、当該粉末は、シリコンナノワイヤーであることが推察された。
【0046】
また、前記で得られた加熱後の粉末の粉末X線回折を調べたところ、図2に示されるX線回折図が得られた。このX線回折図の結果から、当該粉末は、結晶性シリコンと未反応の亜鉛の混合物であることが同定された。このことから、前記加熱により、シリコンナノワイヤーが生成していることが確認された。
【0047】
次に、ガラス管の下部で得られたシリコンナノワイヤーの走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。この走査型電子顕微鏡写真で撮影されている粉末は、主としてガラス管の底部から回収された粉末であるが、当該写真に示されているように、得られた粉末には、凝集した粒子のほかナノワイヤーの断片が存在していることがわかる。また、エネルギー分散型X線分析装置による分析結果から、前記粒子およびナノワイヤーは、いずれもシリコンで構成されていることが確認された。
【0048】
また、加熱後のガラス管の中央部から底部(紙面に向かって右方向)にかけての光学写真を図4に示す。この写真から、濃茶色の粉体がその底部のみならず中央部にも形成されていることが確認され、文献〔A. T. Heitsch, D. D. Fanfair, H. Tuan and B. A. Korgel, J. Am. Chem. Soc., 130, 5436 (2008)〕によれば、シリコンのナノワイヤーが濃茶色であることから、当該粉末は、シリコンナノワイヤーであることが推察された。
【0049】
加熱後のガラス管の中央部の粉体を大気と接触させずに、その粉体のラマンスペクトルを調べたところ、図5に示されるラマンスペクトルが得られた。このラマンスペクトルから、波数518cm-1において鋭角のピークが観察された。結晶性シリコンは、波数が約520cm-1であるときに鋭角のピークを有することが、文献[I. D. Wolf, Semicond. Sci. Technol., 11, 139 (1996)]に記載されていることから、前記ピークは、光学フォノンに帰属することが確認された。
【0050】
以上のことから、結晶性シリコンは、前記ガラス管の長手方向の中央部でも生成していることが確認された。
【0051】
次に、前記ガラス管の長手方向の中央部で形成されたシリコンを走査型電子顕微鏡で観察した。その結果を図6に示す。その結果から、このシリコンは、前記ガラス管の底部で形成されたシリコンとは異なり、多数の比較的均一なナノワイヤーであることがわかる。
【0052】
また、エネルギー分散型X線分析装置を用いて前記で得られたナノワイヤーのEDXスペクトルを調べた。その結果を図7に示す。このEDXスペクトルから、得られたナノワイヤーは、シリコンで構成されていることが確認された。このことから、前記ガラス管の長手方向の中央部に多数のシリコンナノワイヤーが形成されていることがわかる。
【0053】
また、前記EDXスペクトルは、亜鉛と塩素の存在を示しており、これらは、塩化亜鉛から生成した副生成物であると考えられる。
【0054】
次に、前記で得られたシリコンナノワイヤーの表面状態を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で高倍率にて観察した。その電界放射型走査電子顕微鏡写真を図8に示す。図8に示されるように、前記シリコンナノワイヤーは、約300nmの直径を有するものであることがわかる。
【0055】
実施例2
実施例1において、加熱温度を500℃から480℃に変更したことを除き、実施例1と同様の操作を行なった。その結果、実施例1と同じようにシリコンナノワイヤーが得られることが確認された。
【0056】
実施例3
実施例1において、加熱温度を500℃から580℃に変更したことを除き、実施例1と同様の操作を行なった。その結果、実施例1と同じようにシリコンナノワイヤーが得られることが確認された。
【0057】
実施例4
まず、パイレックス(登録商標)ガラス製のガラス管(直径:10mm、長さ:100mm)の内側に、金粉末〔住友電工(株)製、粒子径:20〜30nm〕0.004gを塗布した。次に、高純度アルゴンガスが充填されたグローブボックス内において、液体の四塩化ケイ素〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%〕0.2mL、亜鉛粉末〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%、粒子径:75〜150μm〕0.4gを入れた。
【0058】
次に、このガラス管をガスバーナーで封止し、電気炉内に入れ、500℃で48時間保持した。加熱終了後、ガラス管を室温まで放冷し、ガラス管の上端部を開封し、ガラス管の内壁に付着している粉末状の物質を回収し、回収した粉末を蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄した。この粉末を温風で乾燥させた後、実施例1と同様にして物性を調べた。
【0059】
得られた粉末は、茶色に着色していた。この粉末を走査型電子顕微鏡で観察し、その走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図9に示す。この結果から、この粉末は、直径が100nm以下のナノワイヤーであることが確認された。このことから、金の存在下でシリコンナノワイヤーを製造した場合には、金の非存在下でシリコンナノワイヤーを製造した場合と対比して、その直径が小さくなることから、金を用いることによってシリコンナノワイヤーの直径を制御することができることがわかる。
【0060】
また、得られたナノワイヤー端部について、EDXスペクトルを調べた。その結果を図10に示す。図10に示された結果から、前記端部に金が存在していることが確認された。
【0061】
実施例5
単結晶シリコンウェハ〔新日本製鐵(株)製〕をダイアモンドカッターで切断し、得られた単結晶シリコンウェハ片(縦:50mm、横:5mm、厚さ:1mm)をエタノールで洗浄した。
【0062】
高純度アルゴンガスが充填されたグローブボックス内において、パイレックス(登録商標)ガラス製のガラス管(直径:10mm、長さ:100mm)内に、液体の四塩化ケイ素〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%〕0.2mL、亜鉛粉末〔和光純薬工業(株)製、純度:99.9%、粒子径:75〜150μm〕0.4gおよび上述の単結晶シリコンウェハ片を入れた。
【0063】
次に、このガラス管をガスバーナーで封止し、電気炉内に入れ、500℃で48時間保持した。加熱終了後、ガラス管を室温まで放冷し、ガラス管の上端部を開封し、シリコンウェハ片に付着している粉末状の物質を回収した。回収した粉末を蒸留水で洗浄した後、エタノールで洗浄し、この粉末を温風で乾燥させた。
【0064】
シリコンウェハ片の端部および中央部に存在しているナノワイヤーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ図11(a)および(b)に示す。これらの写真から、シリコンウェハ片の端部で生成したナノワイヤーは、その中央部で生成したナノワイヤーと対比して、直径が小さいことがわかる。これは、シリコンウェハ片の中央部よりもシリコンウェハ片の端部のほうが、その表面が粗いこと起因するものと考えられる。
【0065】
以上の結果から、不活性ガス雰囲気中で亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を450〜600℃の温度に加熱することにより、アルミニウムの混入がない高純度を有するシリコンナノワイヤーを低温で製造することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中で亜鉛の存在下で四塩化ケイ素を450〜600℃の温度に加熱することを特徴とするシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
四塩化ケイ素と亜鉛との混合物を用いる請求項1に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
四塩化ケイ素1モルあたりの亜鉛の量が2〜5モルである請求項1または2に記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫および鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の触媒の存在下で、四塩化ケイ素を加熱する請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
シリコン片の存在下で四塩化ケイ素を加熱する請求項1〜4のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
閉鎖系内で四塩化ケイ素を加熱する請求項1〜5のいずれかに記載のシリコンナノワイヤーの製造方法。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−41235(P2012−41235A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185131(P2010−185131)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】