説明

シリコン単結晶中窒素濃度算出方法および抵抗シフト量算出方法

【課題】酸素濃度が異なる場合にも対応して窒素濃度の値を求めることができるシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法および抵抗のシフト量を算出する方法を提供する。
【解決手段】窒素をドープしたシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法であって、前記窒素ドープシリコン単結晶における、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分Δ[n]と、酸素濃度[Oi]と、窒素濃度[N]との相関関係を予め求めておき、該相関関係に基づいて、前記キャリア濃度差分Δ[n]と前記酸素濃度[Oi]とから、窒素ドープシリコン単結晶中の未知の窒素濃度[N]を算出して求めるシリコン単結晶中窒素濃度算出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素ドープシリコン単結晶における窒素濃度を算出する方法および抵抗シフト量を算出する方法に関し、特にはチョクラルスキー法(CZ法)により育成した窒素ドープシリコン単結晶における窒素濃度算出方法および抵抗シフト量算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶製造では、結晶欠陥の制御のためやBMDと呼ばれる酸素析出物の制御のためなどで窒素をドープする場合がある。FZ結晶などでは窒素濃度が10の14乗台や15乗台のドープ量となる場合があるが、特にCZ結晶においては窒素濃度が1×1014/cm以下であっても十分に効果があることが種々で報告されている。
【0003】
これらのドープした窒素の濃度を測定する方法としては、局所的な分析としては二次イオン質量分析(SIMS)が有効であるが、これの検出感度は14乗台中盤であり、1×1014/cm以下を測定することはできない。より簡便で感度の高い方法としてフーリエ変換赤外分光(FT−IR法)などが用いられている。
【0004】
これらの窒素濃度測定方法は非特許文献1によくまとめられている。シリコン中の窒素はNN又はNNO、NNOOなど様々な形態をとるとされている。これら様々な形態の振動モードによる赤外領域の吸収をFT−IR法により測定するのが一般的である。これらの形態は処理温度によって変わることが報告されている。これらの様々な吸収ピークを全て観察して感度を上げたり、特許文献1のように酸素起因のドナー(酸素ドナー)によるバックグラウンドのノイズを除去したりすることで、検出感度の向上を図っている。非特許文献1は種々の測定技術を総合して、これらのNN、NNO、NNOOによる赤外吸収の検出感度は1×1014atoms/ccと報告されている。
【0005】
それ以下の濃度を求める方法として、特許文献2では窒素がドナーを形成することに注目して、先ず1000℃以上の熱処理で窒素起因ドナー(窒素酸素ドナー)を熱処理で消去した後、500−800℃熱処理で窒素起因ドナーを形成し、その際に生ずる抵抗率変化から、窒素濃度を求めている。
【0006】
非特許文献2及び特許文献3では低窒素濃度領域における窒素酸素ドナーに関して更に詳しく開示されている。ここでは窒素濃度が1×1014/cm以下では前述のNN、NNO、NNOOといった形態ではなく、ONOという異なる形態をとり、これがドナーとして働くことが報告されている。
この中で簡便な方法ではないが極低温(液体He温度)の遠赤外吸収により窒素酸素ドナー量を測定している。窒素濃度が1×1014/cm以下では窒素濃度と窒素酸素ドナーが1:1となっているので、この技術を応用すれば窒素濃度を定量測定できる可能性が考えられる。
【0007】
その他にも特許文献4では欠陥の状態から窒素濃度を求める方法が提案されている。欠陥としてはGrown−in欠陥やBMDなどが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−240711号公報
【特許文献2】特開2000−332074号公報
【特許文献3】特開2004−111752号公報
【特許文献4】特開2002−353282号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JEITA EM−3512
【非特許文献2】H.Ono and M.Horikawa Jpn.J.Appl.42(2003) L261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、窒素濃度を求める方法として特許文献1−4等が挙げられている。
しかし、V.V.Voronkov et al. J.Appl.Phys.89(2001)4289などに示されている様に、窒素起因ドナーは、酸素とも関連した窒素酸素ドナー(以下、NOドナーと表記することがある)であることが知られている。従って窒素酸素ドナーの濃度は窒素だけでなく、酸素濃度にも依存するはずである。
したがって、特許文献2の方法では酸素濃度が異なる場合にはそのまま利用できず、特許文献2中に記載されているように別個に酸素濃度ごとの検量線が必要となるはずであり、汎用性があるとはいえない。
【0011】
また、非特許文献2や特許文献3に関しても、酸素濃度が大きく変化、例えば低酸素濃度になってしまえば、酸素濃度不足のために窒素酸素ドナーを形成できない窒素が存在することが想像できる。
これらの文献で、窒素濃度が1×1014/cm以上で、窒素濃度と窒素酸素ドナーが1:1の相関からずれるのは、窒素酸素ドナーを形成できない窒素が前述のNN等を形成するためと想像される。つまりここで開示されている技術を応用したとしても、酸素濃度が異なると正確な窒素濃度を求めることができないと推定される。
【0012】
さらに、特許文献4においても、Grown−in欠陥やBMDの欠陥発生状況も酸素濃度に依存することが知られている。BMDはBulk Micro Defectの略で酸素の析出物を意味する。BMDやOSF(Oxygen induced Stacking Fault)などの結晶欠陥は、酸素と関連した欠陥であり、酸素濃度が高ければ大きく高密度になることが知られている。Grown−in欠陥もVoid欠陥と呼ばれるものはその欠陥内部に酸化膜(内壁酸化膜)を有していると言われており、我々の有する知見においては、その密度は酸素濃度に依存していることがわかっている。しかしこの特許文献4の中では、酸素濃度の影響度に関しては定量的な考察はされていない。
【0013】
以上、従来技術では窒素濃度、特には1×1014/cm以下の低い窒素濃度を求めるために、窒素酸素ドナーを指標としたり、結晶欠陥を指標としたりと工夫がなされてきた。
しかしながら、これらの従来技術の中では酸素濃度の影響度に関する言及がなかったり、酸素濃度が異なるとすぐには対応できないという問題点があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、酸素濃度が異なる場合にも対応して窒素濃度の値を求めることができるシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法を提供することを目的とする。また、窒素酸素ドナーを消去する熱処理による抵抗のシフト量を算出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、窒素をドープしたシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法であって、前記窒素ドープシリコン単結晶における、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分Δ[n]と、酸素濃度[Oi]と、窒素濃度[N]との相関関係を予め求めておき、該相関関係に基づいて、前記キャリア濃度差分Δ[n]と前記酸素濃度[Oi]とから、窒素ドープシリコン単結晶中の未知の窒素濃度[N]を算出して求めることを特徴とするシリコン単結晶中窒素濃度算出方法を提供する。
【0016】
このような方法であれば、上記キャリア濃度差分を用いて窒素ドープシリコン単結晶中の未知の窒素濃度を求めるとき、様々な酸素濃度の窒素ドープシリコン単結晶に対応して算出することができる。酸素濃度についても考慮しているため、従来よりも正確に窒素濃度を求めることができる。しかも、予め求めた上記相関関係に基づいて、キャリア濃度差分と酸素濃度から窒素濃度を算出して求めることができるので簡単である。
【0017】
このとき、前記未知の窒素濃度[N]を算出するとき、前記キャリア濃度差分Δ[n]と、前記酸素濃度[Oi]とから、[N]=(Δ[n]−β)/α[Oi]2.5〜3.5 (ここでα、βは定数)との相関関係式を用いて算出することができる。
このように、上記相関関係式を用いて簡単に算出することができる。なお、定数α、βは酸素濃度等の測定条件に応じて適宜決定することができる。
【0018】
また、前記窒素ドープシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成したものとすることができる。
CZ結晶においては、例えば1×1014/cm以下というSIMSやFT−IR法での測定が困難な低窒素濃度であっても、窒素ドープの効果が十分に得られるとされている。SIMS等で測定可能な窒素濃度を有するCZ結晶はもちろんのこと、窒素濃度が低濃度であっても有用とされるCZ結晶の窒素濃度を求める際に本発明は有効である。また、CZ結晶は大量に酸素を含有するので、その影響を排除して測定できる本発明が有効である。
【0019】
また、本発明は、窒素をドープしたシリコン単結晶における抵抗のシフト量を算出する方法であって、前記窒素ドープシリコン単結晶における、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分Δ[n]と、酸素濃度[Oi]と、窒素濃度[N]との相関関係を予め求めておき、該相関関係に基づいて、前記窒素濃度[N]と前記酸素濃度[Oi]とから、窒素ドープシリコン単結晶における未知のキャリア濃度差分Δ[n]を算出し、該算出したキャリア濃度差分Δ[n]から、前記窒素酸素ドナーを消去する熱処理による抵抗シフト量を求めることを特徴とする抵抗シフト量算出方法を提供する。
【0020】
このような方法であれば、様々な酸素濃度の窒素ドープシリコン単結晶に対応して、上記キャリア濃度差分を従来よりも簡単かつ正確に算出し、窒素酸素ドナーを消去する熱処理による抵抗のシフト量を求めることができる。しかも、窒素酸素ドナー消去の熱処理を行わずとも抵抗シフト量を求めることができる。
【0021】
このとき、前記未知のキャリア濃度差分Δ[n]を算出するとき、前記窒素濃度[N]と、前記酸素濃度[Oi]とから、Δ[n]=α[N]×[Oi]2.5〜3.5+β (ここでα、βは定数)との相関関係式を用いて算出することができる。
このように、上記相関関係式を用いて簡単に算出することができる。なお、定数α、βは酸素濃度等の測定条件に応じて適宜決定することができる。
【0022】
また、前記窒素ドープシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成したものとすることができる。
本発明では、大量に酸素を含有するとともに、たとえ窒素濃度が測定が困難な低濃度であっても有用とされるCZ結晶の窒素濃度を求めることができて有効である。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、様々な酸素濃度の窒素ドープシリコン単結晶に対応して、単結晶中の窒素濃度を算出して求めることができる。また、窒素酸素ドナー消去の熱処理を起因とする抵抗シフト量を求めることができる。しかも従来よりも簡単に、そして正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の抵抗シフト量を算出する方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例1における予備試験でのキャリア濃度差分と窒素濃度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例1における予備試験でのキャリア濃度差分と酸素濃度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例1における予備試験でのキャリア濃度差分と、窒素濃度の1乗と酸素濃度の3乗との積の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記のように、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分(以下、単にキャリア濃度差分ということがある)を用いて窒素ドープシリコン単結晶中の未知の窒素濃度を求めるとき、窒素酸素ドナーは酸素濃度に依存しているため、酸素濃度が変化すると、特許文献2のような方法では酸素濃度ごとに検量線を求める必要がある。
そこで、まず、予め、窒素ドープシリコン単結晶における上記キャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の三者の相関関係を求めておく。そして、窒素濃度が未知で測定対象の単結晶における上記キャリア濃度差分、酸素濃度を測定等により求め、上記相関関係に基づき窒素濃度を算出するのであれば、様々な酸素濃度に対応して窒素濃度を簡単に求めることができることを本発明者らは見出し、本発明を完成させた。
【0026】
本発明のシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法について説明する。
図1は工程の一例を示すフローチャートである。工程は、予備試験と本試験とに大きく分かれている。予備試験によって、予備試験用のサンプルから、窒素ドープシリコン単結晶におけるキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の相関関係を調査して求める。そして、本試験では、評価対象の窒素ドープシリコン単結晶(窒素濃度が未知)について、キャリア濃度差分、酸素濃度を求め、それらの値を、予備試験で求めた相関関係に当てはめて窒素濃度を算出する。
【0027】
以下、予備試験および本試験についてさらに詳述する。
(予備試験)
(相関関係を求めるためのサンプルを用意する:図1(A))
最初に、窒素ドープシリコン単結晶におけるキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の相関関係を求めるためのサンプルを用意する。
サンプル数は特に限定されず、その都度決定することができる。また、各サンプルにおけるキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の範囲も特に限定されないが、例えば本試験で実際に評価する単結晶中の予想される窒素濃度の値に応じて決定することができる。本試験において、より正確に窒素濃度を得られるように適切な数、各要素の範囲のサンプルを用意することができる。
【0028】
なお、ここでは、予備試験用のサンプルや後述の本試験での評価対象のものとしてCZ法によって窒素ドープしつつ育成したシリコン単結晶を例に挙げて説明するが、これらに用いる結晶の製造方法は特に限定されるものではない。予備試験用サンプルとして各要素の相関関係を求めることができるものであれば良い。
【0029】
また、CZ法による結晶の育成は特に限定されず、例えば従来と同様の方法とすることができる。CZ法による結晶は、酸素を大量に含有するとともに、窒素濃度がSIMS等での測定が困難なほど低濃度のものであっても有用とされるため、そのようなCZ結晶の窒素濃度を算出するにあたり、本発明は特に有効である。
【0030】
(キャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度を求める:図1(B))
次に、用意したサンプルについてのキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度を求める。
まず、キャリア濃度差分の求め方について説明する。
この工程においては、主に、酸素ドナーを消去する熱処理、その後の抵抗率の測定、さらに窒素酸素ドナーを消去する熱処理、その後の抵抗率の測定からなる。すなわち、CZ法により育成した窒素ドープシリコン単結晶の結晶中には酸素ドナーと窒素酸素ドナーとが存在しているが、酸素ドナーを消去する熱処理は後述するように比較的低温であり、該熱処理によって、結晶中から酸素ドナーを消去し、抵抗率を測定する。このとき、窒素酸素ドナーはまだ結晶中に残存しているので、ここでの抵抗率は、酸素ドナーは存在せず、窒素酸素ドナーが存在する状態における抵抗率となる。
【0031】
次に、窒素酸素ドナーを消去する熱処理は比較的高温であり、該熱処理によって、結晶中の窒素酸素ドナーを消去する。したがって、酸素ドナーおよび窒素酸素ドナーが存在しない状態における抵抗率を測定できる。
そして、これらの抵抗率の差から窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分を求めることができる。
【0032】
ここで、酸素ドナー消去の熱処理、窒素酸素ドナー消去の熱処理についてさらに詳述する。
酸素ドナーは450℃前後の比較的低温領域で生成されるため、CZ結晶のボトム側ではこのような低温熱履歴を受けず、ほとんど酸素ドナーが発生しない。逆に結晶のトップ側では充分にこの熱履歴領域を通過するため多くの酸素ドナーが生成される。近年の結晶長尺化に伴い、この傾向は一層顕著となり、トップ側では大量の酸素ドナーが存在し、ボトム側には酸素ドナーがほとんど存在しない、と言うような状況となっている。
【0033】
この酸素ドナーは例えば650℃で20分程度の軽微な熱処理をすれば消去されることが知られている。酸素ドナーを消去する熱処理はこのほかにも各種提案されており、例えばRTA(Rapid Thermal Anneal)を用いた高温短時間処理のものもあり、ここでは特にその温度と時間を規定するものではなく、酸素起因で生成する酸素ドナーを消去できる熱処理であれば良い。
【0034】
また、窒素酸素ドナーは特許文献3では900℃、特許文献2では1000℃、国際公開公報第2009/025337号では1050℃などと比較的高温の熱処理によって消滅することが記載されている。またこの窒素酸素ドナーの生成温度は特許文献2では500−800℃、特許文献3では600−700℃などと記載されており、酸素ドナーに比較して高温で生成する。また特許文献2にある様に比較的短時間の熱処理で生成量が飽和してしまう。このため酸素ドナーが結晶のトップ側で高密度に生成するのに比べて、窒素酸素ドナーは比較的均一に発生する。また育成された結晶の熱履歴に影響を与える炉内構造物や成長速度に影響されないことは無いが、比較的影響は小さく、これら成長条件によって大きく窒素酸素ドナー量が異なるということも少ない。
【0035】
以上のようなことから、酸素ドナー消去の熱処理として、例えば650℃程度の軽微な熱処理を行った後に抵抗率を測定し、それから計算されるキャリア量を求め、次に、窒素酸素ドナー消去の熱処理として例えば900℃以上の高温熱処理をした後に抵抗率を測定し、それから計算されるキャリア量を求めれば、その差分から窒素酸素ドナーに起因するキャリア濃度差分Δ[n]を求めることができる。ここで抵抗率からキャリア濃度を求めるにはアービンカーブを用いればよい。
なお、抵抗率の測定方法は特に限定されず、例えば四探針法等により行うことができる。
【0036】
次に、酸素濃度の求め方について説明する。
酸素濃度[Oi]は、例えば、室温のFT−IR法によって求めることが可能である。[Oi]でOiと記載しているのは酸素原子がシリコン結晶中ではインタースティシャルの位置に存在しているためであり、その位置での赤外吸収を測定して酸素濃度と表記しているためである。酸素析出熱処理を行い、酸素原子が酸素析出物(BMD)を形成した酸素は、[Oi]としての吸収を起こさないが、ここで言及している酸素濃度は当然析出熱処理をしていない状態のものである。
【0037】
サンプルが通常抵抗率の場合にはFT−IR法が用いられるが、低抵抗率結晶の場合には赤外光が吸収されてしまいFT−IR法を用いることができない。そこで、酸素濃度をガスフュージョン法によって測定することもある。
【0038】
なお、酸素は石英ルツボから溶け出したものが、シリコンメルト中を伝ってきて、メルトの表面近傍でほとんど蒸発してしまい、極一部が結晶中に取り込まれるだけである。従って様々な操業条件によってシリコン結晶中の酸素濃度は変化してしまうので、上記のFT−IR法等によって測定・保証することが一般的である。
【0039】
いずれにしても、抵抗率測定や酸素濃度測定はCZシリコン保証・評価の最も基本的な作業であり、簡便で汎用性のある評価法である。
【0040】
また、予備試験での窒素濃度の求め方の一例について説明する。
CZシリコン単結晶製造における窒素ドープは、窒素ドープ剤をルツボに投入し、シリコン原料とともに溶解する方法が一般的である。初期のドープ剤の量さえ明確になっていれば、あとは偏析現象に従ってシリコン結晶中に導入されていくので、窒素濃度を計算で求めることが可能である。
【0041】
(相関関係を求める:図1(C))
以上のようにして、サンプルに関してキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度を求めた後、これらの相関関係を求める。相関関係の求め方は特に限定されず、上記三者の相関関係を適切に求めることができれば良い。
【0042】
ここで、本発明者らが鋭意調査・解析を行い、実際に求めたキャリア濃度差分Δ[n]、酸素濃度[Oi]、窒素濃度[N]を元にして得られたこれらの相関関係の一例について具体的に説明する。
本発明者らは、調査・解析により、特に重要な傾向として、Δ[n]が、[N]の一乗、[Oi]のおよそ3乗に比例する点を見いだした。
上述した工程のように、窒素濃度[N]及び酸素濃度[Oi]を振った様々なサンプルを用意して、酸素ドナーを消去し、その窒素酸素ドナー消去前後の抵抗率からキャリア濃度差分Δ[n]を求めた。それらのデータを解析したところ、酸素濃度[Oi]を固定した場合にはキャリア濃度差分Δ[n]は窒素濃度[N]の1乗に比例し、窒素濃度を固定した場合にはキャリア濃度差分Δ[n]は酸素濃度[Oi]のおよそ3乗に比例していることを突き止めた。これは窒素酸素ドナーが窒素原子1つと酸素原子3つから形成されているのではないかということを示唆する結果である。さらに種々のデータを取って解析したところ、キャリア濃度差分Δ[n]は酸素濃度[Oi]の2.5乗から3.5乗の範囲で比例していることが分かった。この2.5〜3.5乗のうち、どの乗数とするかは、予備試験でのデータ(キャリア濃度差分Δ[n]、酸素濃度[Oi]、窒素濃度[N])を基にして求めれば良い。
【0043】
以上のような結果からキャリア濃度差分Δ[n]が窒素濃度[N]の1乗と酸素濃度[Oi]の2.5〜3.5乗の積に比例する相関関係式を導き出した。すなわち、
Δ[n]=α[N]×[Oi]2.5〜3.5+β (ここでα、βは定数)
である。そして、その相関関係式の変形から窒素濃度[N]を求める式を完成させた。すなわち、
[N]=(Δ[n]−β)/α[Oi]2.5〜3.5 (ここでα、βは定数)
である。
【0044】
なおここで定数αとβに関しては各測定条件によって決められる定数である。例えば酸素濃度はFT−IR法によって測定されるが、その吸収ピークからリファレンスを差し引きした吸光度から酸素濃度に換算する。この時、換算係数はリファレンスによっても異なるし、測定器によっても異なるし、メーカーによっても異なる。従って同じサンプルを測定しても、どの換算係数を用いたかによって変わってくる。窒素濃度測定においても同様であり現在各メーカー間の窒素濃度は相関取りされたものではなく、表示上は同じ値であっても実際には濃度が異なっている可能性がある。抵抗率測定に関しては簡便でメーカー間差はないが、ドナーキラー熱処理条件などの変動要素が加わってくる。
【0045】
各メーカーはそれぞれ自社の固定したプロセスを用いているので、そのメーカー内で用いられる数値は絶対値比較が可能であるが、例えば他社との間では絶対値比較が困難であり、換算係数を用いた比較が必要になる。
【0046】
このような状況下で測定されるΔ[n]、[Oi]、[N]であるので、自社固定プロセスにおいてはα及びβの値を決定できるが、他のプロセスにおいてはα及びβが異なった値になる可能性が高い。そこで、ここでは数字はプロセスに依存するものとして固定値を用いず、定数とのみ規定した。
またβは、NOドナーが窒素原子一つと酸素原子三つからなるという仮説に基づけば、0であることが好ましい。しかし実際には種々の測定上のエラー、例えばある熱処理ではNOドナーが完全に消去できない、といった誤差要因を含んだ関係式であるので、ここではβ=0でない場合も想定した式としている。
換算係数の変更など、一連のプロセス条件が大きく変わった場合には、改めて相関関係を求め、必要に応じて決め直したり、補正係数を用いたりすることができる。
【0047】
(本試験)
(評価対象のキャリア濃度差分、酸素濃度を求める:図1(D))
評価対象である、窒素濃度が未知のCZ法により育成された窒素ドープシリコン単結晶を用意し、キャリア濃度差分、酸素濃度を測定等により求める。
ここでの求め方は予備試験と同様の方法により行うことができる。後の工程で、予備試験から求めたキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の相関関係に基づいて、本試験での窒素濃度を算出するので、キャリア濃度差分や酸素濃度は予備試験と同様のプロセスを経て求めるのが良い。これにより、より正確な窒素濃度を算出して求めることができる。
【0048】
(相関関係に基づいて窒素濃度を算出して求める:図1(E))
予備試験で求めた相関関係、ここでは、上記相関関係式の
[N]=(Δ[n]−β)/α[Oi]2.5〜3.5 (ここでα、βは定数)
を用い、前工程で求めたキャリア濃度差分Δ[n]、酸素濃度[Oi]を代入することによって未知であった窒素濃度[N]を算出して求めることができる。
【0049】
このような本発明の窒素濃度算出方法であれば、酸素濃度[Oi]の変化にも対応でき、簡単に窒素濃度を算出することが可能である。しかも、窒素濃度を求めるにあたって、影響を与える酸素濃度が考慮されているため、より正確な窒素濃度を算出することが可能である。
【0050】
次に、本発明の抵抗シフト量を算出する方法について説明する。
評価対象が、窒素濃度が未知のものである場合について、該未知の窒素濃度を求める方法については上記の通り説明した。ここでは、窒素濃度が既知である窒素ドープシリコン単結晶の場合に、窒素酸素ドナーを消去する熱処理による抵抗率のシフト量を求める方法について説明する。
本発明の方法では、窒素濃度が既知であれば、シリコン単結晶中の酸素濃度を求めれば、育成された結晶中の窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分を算出することができ、さらには抵抗シフト量を求めることができる。
【0051】
酸素ドナーは、前述したように比較的低温で消去できるので、酸素ドナーを消去した後に抵抗率を測定し、その抵抗率を保証値として用いるのが通例となっている。
しかしながら窒素ドープ結晶(ウェーハ)においては、窒素酸素ドナーの存在は知られているがその保証方法に関しては明確な決まりが無く、酸素ドナーを消去しただけで測定した抵抗率を、保証値として用いている場合もあるようである。
【0052】
このような場合、例えば、ウェーハプロセスやデバイスプロセス中に900℃以上の熱処理が含まれていれば、窒素酸素ドナーが消去され、抵抗率値のシフトが発生する。つまり保証値として示した値とデバイス等プロセス上がりの抵抗値が異なってしまい、デバイスの動作にも問題を生ずる可能性がある。
そこで窒素濃度が既知のシリコン結晶であれば、酸素濃度を測定するだけでデバイス後の抵抗率シフト量を試算することが可能である。
【0053】
図2は、本発明における工程の一例を示すフローチャートである。工程は、予備試験と本試験とに大きく分かれている。予備試験によって、予備試験用のサンプルから、窒素ドープシリコン単結晶におけるキャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の相関関係を調査して求める。そして、本試験では、評価対象の窒素ドープシリコン単結晶(キャリア濃度差分が未知)について、測定等による酸素濃度、窒素濃度の値を、予備試験で求めた相関関係に当てはめてキャリア濃度差分を算出し、さらには抵抗シフト量を求める。
【0054】
以下、予備試験および本試験についてさらに詳述する。
予備試験における、(相関関係を求めるためのサンプルを用意する:図2(A))、(キャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度を求める:図2(B))、(相関関係を求める:図2(C))は、図1を参照して説明した本発明のシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法と同様にして行うことができる。すなわち、説明したように、例えば
Δ[n]=α[N]×[Oi]2.5〜3.5+β (ここでα、βは定数)
の相関関係式を得ることができる。
【0055】
ここでα及びβは前出と同様である。前述のように各種測定条件によって値が異なるので、ある特定の条件下で決められたα及びβを定数として使うことが好ましい。特に何らかの変更がなければ上記で求めた値と同じ値である。万が一、換算係数の変更などプロセス条件が大きく変わった場合には、決めなおしたり補正係数を用いたりすることができる。
【0056】
(本試験)
(評価対象の酸素濃度、窒素濃度を求める:図2(D))
評価対象である、CZ法により育成された窒素ドープシリコン単結晶を用意し、酸素濃度、窒素濃度を求める。ここでの求め方は、予備試験と同様の方法により行うことができる。
【0057】
(相関関係に基づいてキャリア濃度差分を算出し、抵抗シフト量を求める:図2(E))
予備試験で求めた相関関係、ここでは、上記相関関係式の
Δ[n]=α[N]×[Oi]2.5〜3.5+β (ここでα、βは定数)
を用い、前工程で求めた酸素濃度[Oi]、窒素濃度[N]を代入することによって、窒素酸素ドナーを消去する熱処理を起因とするキャリア濃度差分Δ[n]を算出することができる。
【0058】
このキャリア濃度差分を酸素ドナー消去後の抵抗率から計算されるキャリア量に加算もしくは減算することで、窒素酸素ドナー消去の熱処理による抵抗シフト量、該熱処理後の抵抗率を算出することができる。しかも、酸素濃度の変化にも対応でき、従来法よりも簡単かつ正確に求めることができる。なお、ここで加算もしくは減算と記載したのは、元のシリコン単結晶の導電型に依存するためである。
【0059】
また、例えば、ウェーハプロセスやデバイスプロセス中の900℃以上の熱処理に模して窒素酸素ドナー消去の熱処理の条件を決定すれば、デバイスプロセス等の後の抵抗シフト量を試算することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
本発明におけるシリコン単結晶中の窒素濃度の算出方法を実施した。
まず、予備試験を行って、キャリア濃度差分、酸素濃度、窒素濃度の相関関係を求めた。
狙いの窒素濃度の水準を3×1013〜12×1013/cmと振り、また酸素濃度の水準を2.5×1017〜12×1017atoms/cm(ASTM’79)と振った種々の窒素ドープシリコン単結晶のサンプルを用意した。
【0061】
予備試験用のサンプルであるこれらのシリコン単結晶はCZ法により育成した。
CZ法では融液が充填された石英ルツボと、該ルツボを取り囲むように配置されたヒーターを有する。このルツボ中に種結晶を浸漬した後、溶融液から棒状の単結晶が引き上げられる。
ルツボは結晶成長軸方向に昇降可能であり、結晶成長中に結晶化して減少した融液の液面下降分を補うように該ルツボを上昇させる。結晶の側方にはシリコン溶融液から発する酸化性蒸気を整流するために不活性ガスが流されている。融液が入った石英ルツボはシリコンと酸素から成っているので、酸素原子がシリコン溶融液内へと溶出する。この酸素原子はシリコン溶融液内を対流等に乗って移動し、最終的には融液の表面から蒸発していく。この時ほとんどの酸素は蒸発するが、一部の酸素は結晶に取り込まれ、格子間酸素Oiとなる。
【0062】
このときにルツボや結晶の回転数を変更したり、磁場印加CZ(MCZ)法では磁場印加条件を変更したりすることでシリコン溶融液内の対流の流れを制御可能であるし、また不活性ガスの流量調整や炉内の圧力制御により表面からの酸素蒸発量を制御可能であるので、単結晶中の酸素濃度を制御することができる。
【0063】
これらの制御因子を種々組み合わせることにより、酸素濃度の水準を2.5×1017〜12×1017atoms/cm(ASTM’79)とかなり広い範囲にわたり用意できた。特に従来技術ではあまり評価されていなかったと思われる低酸素濃度側のサンプルも用意することができた。
【0064】
窒素のドープは窒化膜付ウェーハを用意し、それをシリコン原料とともにルツボ内に投入し溶融することでドープした。窒素ドープ量は窒化膜の膜厚とウェーハの重量から計算して求めた。また初期ドープ量がわかっているので、偏析計算によってサンプルを切り出した位置の窒素濃度を算出して、その値をそれぞれのサンプルの窒素濃度とした。これにより窒素濃度の水準が3×1013〜12×1013/cmのサンプルを用意した。
【0065】
以上のような方法を用いて、窒素濃度と酸素濃度の振られたサンプルを全部で18サンプル用意した。
このサンプルにおいて、先ず、酸素ドナー消去熱処理として650℃で20分の熱処理を行った後に、p/n判定及び抵抗率測定を行った。抵抗率測定は四探針法を用いて行った。この抵抗率からアービンカーブを用いてキャリア濃度を算出した。また、同じサンプルを用いてFT−IR法により酸素濃度[Oi]の測定を行った。
【0066】
次にこれらのサンプルに1000℃で16時間の熱処理を施し、窒素酸素ドナーを消去した。窒素酸素ドナーに関しては特許文献2では消したり生成したりできる可逆過程のように取り扱われているが、特許文献3では窒素酸素ドナーは熱処理により酸素析出核へ成長すると書かれており、非可逆過程として取り扱われている。
このあたりの真偽が不明であるので、ここでは特許文献2、3、国際公開公報第2009/025337号などで記載されている窒素酸素ドナーの消去条件よりも充分に時間の長い16時間を採用し、確実に窒素酸素ドナーが消去する条件を選んだ。この熱処理後に再度抵抗率の測定を行い、キャリア濃度を算出した。
これを熱処理前のキャリア濃度と差し引きすることで、キャリア濃度差分Δ[n](/cm)を算出した。
【0067】
これら全部で18サンプルあるうちから、酸素濃度がほぼ同じで窒素濃度が振れている4水準を選び出しプロットしたのが図3である。このときの酸素濃度範囲は6.0×1017〜6.7×1017atoms/cm(ASTM’79)である。
図3から判るように酸素濃度が一定水準であればキャリア濃度差分Δ[n](/cm)は窒素濃度[N](/cm)に比例することがわかる。
【0068】
次に窒素濃度がほぼ同じで酸素濃度が振れている4水準を選び出してプロットしたのが図4である。このときの窒素濃度範囲は3.0×1013〜3.7×1013/cmである。図4から判るのは窒素濃度が一定水準であればキャリア濃度差分Δ[n](/cm)は酸素濃度[Oi](atoms/cm(ASTM’79))に非常に強く依存することである。この図4中の曲線は酸素濃度の3乗で記載してあるが、各データはほぼそれに乗る形である。
【0069】
以上のことから、窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度は窒素濃度にはもちろん比例する形であるが、酸素濃度の影響をより強く受けてここでは酸素濃度の3乗に比例する形となっていることがわかった。従来技術ではあまりその影響を明確にされてこなかった酸素濃度の寄与が非常に大きいことがわかる。
【0070】
そこで更に全18サンプルを用いて窒素濃度の1乗と酸素濃度の3乗との積[N]×[Oi]を横軸にキャリア濃度差分Δ[n]をプロットした。その結果を図5に示す。全18サンプルがほぼ直線状に乗った。このときの近似式(相関関係式(1))は、
[N]=(Δ[n]−1.18×1012)/2.76×10−55×[Oi]
として表された。
すなわち、前述した、[N]=(Δ[n]−β)/α[Oi] (ここでα、βは定数)の相関関係式において、α=2.76×10−55、β=1.18×1012であった。
【0071】
なお、これらαの値、βの値は普遍的な値ではなく、実施例1で用いた条件ではこのような値として求められたものである。測定条件等が異なれば様々な数字を取るものであり、この値に限ったものではない。
【0072】
次に、本試験を行った。
窒素ドープシリコン単結晶から切り出したものを本試験の評価対象として用意した。
このサンプルを用いて、先ず650℃で20分の酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率と、更に1000℃で16時間の窒素酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率とを四探針法により測定し、窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分を求めた。その結果、キャリア濃度差分Δ[n]=7.8×1012(/cm)であった。
一方でFT−IR法によって求めた酸素濃度は[Oi]=8.1×1017(atoms/cm(ASTM’79))であった。
【0073】
これらの値から上記相関関係式(1)を用いて窒素濃度を算出したところ、窒素濃度[N]=4.5×1013(/cm)と算出することができた。
【0074】
なお、本試験で用いた評価対象を切り出した結晶の製造記録を調べたところ、結晶の当該評価対象の採取位置での狙い窒素濃度は4.3×1013(/cm)であった。
この値は、先に本発明の方法により算出した窒素濃度の値(4.5×1013(/cm))とほぼ一致していた。
従って、本発明を用いた窒素濃度の評価結果は妥当であったといえる。
【0075】
(比較例1)
CZ法による窒素ドープシリコン単結晶から切り出したものを評価対象として用意した。
この評価対象を用いて、先ず650℃で20分の酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率と、更に1000℃で16時間の窒素酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率とを四探針法により測定し、窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分を求めた。その結果、キャリア濃度差分Δ[n]=15.4×1012(/cm)であった。
【0076】
このように、測定したキャリア濃度差分の値(15.4×1012(/cm))が、実施例1の本試験での評価対象におけるキャリア濃度差分の値(7.8×1012(/cm))のほぼ2倍であることから、酸素濃度の影響を考慮することなく、単純に、窒素濃度も実施例1の評価対象の2倍であると推定した。すなわち、4.3×1013(/cm)の2倍で、8.6×1013(/cm)と推定した。
【0077】
なお、評価対象を切り出した結晶の製造記録を調べたところ、結晶の当該評価対象の採取位置での狙い窒素濃度は4.3×1013(/cm)であった。すなわち、実施例1の評価対象と同じ値であった。
一方、比較例1の評価対象の酸素濃度をFT−IR法によって測定したところ、酸素濃度は[Oi]=10.5×1017(atoms/cm(ASTM’79))であり、実施例1より高い値であった。
【0078】
このように、比較例1において、実際には窒素濃度が実施例1の評価対象と同じ値であるのに、その2倍の値を推定したのは、酸素濃度を考慮せず、窒素酸素ドナーが窒素濃度に比例すると仮定したための推定間違いである。
窒素濃度が同じであっても、酸素濃度が異なれば、その酸素濃度の差があまり大きくなくとも、求められるキャリア濃度差分が大きく異なってしまう例といえる。
【0079】
(実施例2)
本試験の評価対象として、比較例1と同様の評価対象を用意してキャリア濃度差分や酸素濃度を測定したところ、キャリア濃度差分Δ[n]=15.4×1012(/cm)、酸素濃度[Oi]=10.5×1017(atoms/cm(ASTM’79))であり、実施例1と同様の相関関係式(1)から窒素濃度を算出したところ、窒素濃度[N]=4.5×1013(/cm)が得られた。
上述のように、結晶の当該評価対象の採取位置での狙い窒素濃度は4.3×1013(/cm)であることから、比較例1とは異なって、ほぼ一致した結果を得ることができた。
【0080】
(実施例3)
窒素ドープシリコン単結晶から切り出したものを本試験の評価対象として用意した。
このサンプルを用いて、先ず650℃で20分の酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率と、更に1000℃で16時間の窒素酸素ドナー消去の熱処理を施した後の抵抗率とを四探針法により測定し、窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分を求めた。その結果、キャリア濃度差分Δ[n]=8.3×1012(/cm)であった。
一方でFT−IR法によって求めた酸素濃度は[Oi]=4.2×1017(atoms/cm(ASTM’79))であった。
【0081】
これらの値から上記相関関係式(1)を用いて窒素濃度を算出したところ、窒素濃度[N]=3.5×1014(/cm)と算出することができた。
【0082】
なお、本試験で用いた評価対象を切り出した結晶の製造記録を調べたところ、結晶の当該評価対象の採取位置での狙い窒素濃度は3.2×1014(/cm)であった。
この値は、先に本発明の方法により算出した窒素濃度の値(3.5×1014(/cm))とほぼ一致していた。
従って、窒素濃度が高く、酸素濃度が低い場合でも本発明の手法の妥当性が確認できた。
【0083】
(実施例4)
本発明における抵抗シフト量の算出方法を実施した。
予備試験に関しては実施例1と同じであり、同じ相関関係式(1)が使え、これを変形したものが下記相関関係式(1)’である。
Δ[n]=2.76×10−55×[N]×[Oi]+1.18×1012
【0084】
次に、本試験を行った。
狙い窒素濃度窒素[N]=3.5×1013(/cm)、酸素濃度[Oi]=10.5×1017(atoms/cm(ASTM’79))であるP型ボロンドープウェーハを用意した。
このウェーハの酸素ドナー消去の熱処理後の抵抗率は156Ωcmであった。このウェーハにデバイス工程を模した熱シミュレーションを施した。この熱シミュレーションはデバイスを作製する際の熱履歴を模したものであり温度が750℃から1000℃、処理時間がトータルで約30時間である。最高温度が1000℃であるので窒素酸素ドナーがあれば抵抗率が変化してしまうことが推定される。
【0085】
そこで相関関係式(1)’を用いて、窒素酸素ドナー起因のキャリア濃度差分[n]を計算した。その結果、キャリア濃度差分Δ[n]=1.3×1013(/cm)と計算された。
P型であるので156Ωcmに相当するキャリア量にキャリア濃度差分を加えた値から、熱シミュレーション後の抵抗率を計算した。その結果、抵抗率は135Ωcmに低下し、抵抗シフト量は−21Ωcmであることが予想された。
【0086】
実際に熱シミュレーション後に、再度サンプルの抵抗率を測定した。その結果、抵抗率は138Ωcmであり、抵抗シフト量は−18Ωcmであった。これは熱シミュレーション前に本発明により予想した抵抗率(135Ωcm)、抵抗シフト量(−21Ωcm)とほぼ一致していた。従って、本発明による熱処理後の抵抗率シフト量算出は妥当であったといえる。
【0087】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素をドープしたシリコン単結晶中の窒素濃度を算出する方法であって、
前記窒素ドープシリコン単結晶における、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分Δ[n]と、酸素濃度[Oi]と、窒素濃度[N]との相関関係を予め求めておき、
該相関関係に基づいて、前記キャリア濃度差分Δ[n]と前記酸素濃度[Oi]とから、窒素ドープシリコン単結晶中の未知の窒素濃度[N]を算出して求めることを特徴とするシリコン単結晶中窒素濃度算出方法。
【請求項2】
前記未知の窒素濃度[N]を算出するとき、前記キャリア濃度差分Δ[n]と、前記酸素濃度[Oi]とから、
[N]=(Δ[n]−β)/α[Oi]2.5〜3.5 (ここでα、βは定数)
との相関関係式を用いて算出することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶中窒素濃度算出方法。
【請求項3】
前記窒素ドープシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成したものとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶中窒素濃度算出方法。
【請求項4】
窒素をドープしたシリコン単結晶における抵抗のシフト量を算出する方法であって、
前記窒素ドープシリコン単結晶における、酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率と窒素酸素ドナーを消去する熱処理後の抵抗率との差から求められるキャリア濃度差分Δ[n]と、酸素濃度[Oi]と、窒素濃度[N]との相関関係を予め求めておき、
該相関関係に基づいて、前記窒素濃度[N]と前記酸素濃度[Oi]とから、窒素ドープシリコン単結晶における未知のキャリア濃度差分Δ[n]を算出し、該算出したキャリア濃度差分Δ[n]から、前記窒素酸素ドナーを消去する熱処理による抵抗シフト量を求めることを特徴とする抵抗シフト量算出方法。
【請求項5】
前記未知のキャリア濃度差分Δ[n]を算出するとき、前記窒素濃度[N]と、前記酸素濃度[Oi]とから、
Δ[n]=α[N]×[Oi]2.5〜3.5+β (ここでα、βは定数)
との相関関係式を用いて算出することを特徴とする請求項4に記載の抵抗シフト量算出方法。
【請求項6】
前記窒素ドープシリコン単結晶をチョクラルスキー法により育成したものとすることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の抵抗シフト量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−57585(P2013−57585A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195845(P2011−195845)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】