説明

シリコン構造体の製造方法

【課題】高アスペクト比のホールやトレンチの多段構造を高い加工精度で容易に形成することができるシリコン構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコンからなる基材1に凹部4の一部である初期凹部4aを形成する初期凹部形成工程と、初期凹部4aの凹部側壁42aに保護膜を形成する保護膜形成工程と、凹部側壁42aの保護膜に隣接した基材1の一部を隔壁12として残存させて、初期凹部4aに隣接する周回領域の基材1を深さ方向に異方性エッチングするエッチング工程と、残存した突起状の隔壁を酸化してシリコン酸化物を形成する突起状隔壁酸化工程と、酸化した突起状の隔壁を除去する突起状隔壁除去工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微小加工部品と電子部品との融合による新しい機能デバイス(Micro Electro Mechanical System:MEMS)が知られている。MEMSでは、主にシリコン(Si)のウェーハに微小な機械構造物を形成することで、例えば自動車部品(エアーバッグセンサー等)、インクジェットヘッド、画像投影装置等の市場向けの製品が量産されている。MEMSでは、これらのデバイスのさらなる小型・高性能化が求められている。
例えば、加速度センサーや角速度センサーの力学的検出部は、主に基板上に形成された櫛歯状の梁構造体から構成されている。これらのセンサーを小型・高性能化するためには、Si基板のエッチングにより形成される溝の幅や穴の径と深さとのアスペクト比(深さ/溝幅、深さ/穴径)を高くする必要がある。
【0003】
Si基板にエッチングによって高いアスペクト比の穴や溝を形成するための方法としては、チャンバーに供給する材料ガスをエッチングプロセス毎に切り替える方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、(1)異方性の高いプラズマエッチング工程と、(2)ポリマー系の薄膜堆積工程と、の2つの工程を交互に行うドライエッチング技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、多段の構造体を形成する際に、内側面を熱酸化膜で保護し、深さ方向に異方性ドライエッチングを実施するシリコン構造体の形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5501893号明細書
【特許文献2】特開2009−266869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のドライエッチング技術では、多段の溝(トレンチ)や多段の穴(ホール)や、トレンチとホールを組み合わせた多段構造の凹部を形成する場合には、以下のような課題がある。特許文献1に記載の技術では、上記(1)のエッチング工程と上記(2)のポリマー堆積工程のバランスの調整が極めて困難である。そのため、製造工程における各種パラメーターの調整幅(プロセスマージン)が非常に狭くなり、製造工程の最適化が極めて困難になる。
【0007】
このような凹部の段差を形成する際に、(2)の工程で堆積したポリマーの膜厚が薄すぎる場合には(1)の工程で側壁がテーパー状に崩れてしまう。反対に、(2)の工程で堆積した薄膜の厚さが厚すぎる場合には、凹部の段差に基材が突起状に残存してしまう。
プラズマ分布によるウェーハ面内のポリマーの堆積量のばらつきや、連続処理によるポリマーの堆積レートの変動により、側壁の崩れや突起状の基材の残存が混在し、特許文献1に記載の方式では凹部に高い加工精度で段差を形成することが困難であった。
【0008】
また、特許文献2に記載のシリコン構造体の形成方法では、内側面を熱酸化膜で保護する際に、深さ方向に成膜された熱酸化膜を異方性ドライエッチングにて除去する必要があり、この除去工程は枚葉式の処理が必要となるため、製造期間及びコストが増大してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]本適用例に係るシリコン構造体の製造方法は、シリコンからなる基材に凹部の一部である初期凹部を形成する初期凹部形成工程と、前記初期凹部の内側面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記内側面の前記保護膜に隣接した前記基材の一部を隔壁として残存させて、前記初期凹部に隣接する周回領域の前記基材を深さ方向に異方性エッチングするエッチング工程と、前記残存した突起状の前記隔壁を酸化してシリコン酸化物を形成する突起状隔壁酸化工程と、前記酸化した突起状の前記隔壁を除去する突起状隔壁除去工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、まず、基材に凹部の最深部の形状である初期凹部が形成される。次いで、その初期凹部の底面が掘り下げられるとともに。周回領域の基材が新たに掘り下げられ、基材の表面側に凹部の新たな底面が形成される。これにより、深さの異なる底面の深さ方向の段差を有する多段状の凹部を形成することができる。
このとき、初期凹部の内側面に保護膜が形成され、エッチング工程において周回領域の基材の掘り下げを開始したとき、基材に対して保護膜のエッチングレートが遅いため、周回領域の基材の表面に対して保護膜が突起した状態になる。さらにエッチングを進めると、突起した保護膜の側面にポリマーが堆積し、内側面の周辺がポリマーにマスクされることで、基材が残存し、隔壁が形成される。
このように製造することで、突起状の残存物を隔壁として安定的に形成することが可能となり、その隔壁を酸化してシリコン酸化物とした後に除去することで、高精度な多段構造を容易に形成することができる。
【0012】
[適用例2]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記隔壁の酸化は加熱による熱酸化により行うことが好ましい。
【0013】
本適用例によれば、隔壁の内部まで酸化することが可能であり、多段のシリコン構造物の形成に不要となる部分の選択的除去が可能となる。
【0014】
[適用例3]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記突起状隔壁除去工程において、前記隔壁の除去は、ウエットエッチングにより行うことが好ましい。
【0015】
本適用例によれば、隔壁状のシリコン酸化物を等方的にエッチングすることで残渣なく効率的に隔壁を除去することが可能である。また、バッチ処理が可能で有り、製造効率を向上させることができる。
【0016】
[適用例4]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記保護膜形成工程は、プラズマ重合膜からなる前記保護膜を形成することが好ましい。
【0017】
本適用例によれば、保護膜に用いるプラズマ重合膜がシリコンよりエッチングレートが遅く、その後のエッチング工程において保護膜の側壁にポリマーの堆積が可能であるため、上記適用例に記載の現象を行うのに適している。
【0018】
[適用例5]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記保護膜形成工程は、前記初期凹部の底面及び前記内側面に前記プラズマ重合膜を成膜した後、前記底面に形成された前記プラズマ重合膜を除去することが好ましい。
【0019】
本適用例によれば、前の工程で形成された初期凹部の内表面に一括して保護膜を成膜することが可能になる。したがって、初期凹部の内側面のみを部分的に成膜する場合と比較して、保護膜の形成を容易にすることができる。
【0020】
[適用例6]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記底面の前記プラズマ重合膜の除去は、異方性ドライエッチングにより行うことが好ましい。
【0021】
本適用例によれば、初期凹部の側面に形成された保護膜を残存させ、初期凹部の底面に形成されたポリマーを選択的に除去することができる。
【0022】
[適用例7]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記保護膜形成工程と前記エッチング工程とをn回行って、前記凹部の内側にn段の段差を形成することが好ましい。
【0023】
本適用例によれば、凹部の内側にn段の段差を有する多段状の凹部を形成することができる。
【0024】
[適用例8]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記エッチング工程は、ドライエッチングにより行うことが好ましい。
【0025】
本適用例によれば、基材を深さ方向に選択的にエッチングすることができる。
[適用例9]上記適用例に係るシリコン構造体の製造方法において、前記保護膜形成工程と前記エッチング工程を同一の処理装置にて連続して行うことが好ましい。
【0026】
本適用例によれば、凹部内側に保護膜であるポリマーを堆積させる工程と、ポリマーを選択的にドライエッチングで除去する工程と、基材周回領域にポリマーを堆積させて基材をエッチングする工程とは、プロセスガスを切り替えながら連続して行うことが可能である。したがって、同一装置で一連の工程を連続して行うことで、製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)〜(g)は、実施形態1に係るシリコン構造体の製造工程を説明する断面図である。
【図2】液滴吐出ヘッドを示した断面図である。
【図3】ノズル基板を液滴吐出面側から見た上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0029】
(実施形態1)
本実施形態ではシリコン基材に多段の凹部を有するシリコン構造体を製造する方法について説明する。
図1(a)〜(g)は、実施形態1に係るシリコン構造体の製造工程を説明する断面図である。
【0030】
(ハードマスク形成工程)
図1(a)に示すように、シリコンからなる基材1の表面に、例えばSiO2等のハードマスクを形成する。ハードマスク2はフォトリソグラフィーによりパターニングし、ドライエッチングすることでn段の段差状に形成する。また、ハードマスク2は基材1を露出させる開口部22を有している。
なお、ハードマスク2はシリコンからなる基材1の熱酸化、またはスパッタリング、CVDなどの成膜により形成する。
【0031】
(初期凹部形成工程)
次に、図1(b)に示すように、ハードマスク2の開口部22を介して基材1をエッチングして、基材1に凹部4の一部である初期凹部4aを形成する。ここで、たとえばSF6等のフッ素系のガスと酸素を用いたエッチングステップと、C48ガスを用いたポリマー堆積ステップとによる異方性のドライエッチングにより、初期凹部4aを形成する。
ここで、ハードマスク2を段差部の膜厚T1を超える程度にフッ酸等でエッチングし、n段目の基材1の表面11を露出させる。
【0032】
(保護膜形成工程)
次に、図1(c)に示すように、C48ガスでのポリマー堆積ステップにて、初期凹部4aの表面が十分に覆われる量のポリマーを堆積させる。さらに、SF6等のフッ素系ガスによる異方性エッチングステップを実施することで、基材1のn段目表面および凹部の底部42bのポリマーが除去され、初期凹部の内側面である凹部側壁42aのみポリマーで保護された状態となる。
【0033】
(エッチング工程)
次に、図1(d)に示すように、上記の工程で形成した保護膜を残存させた状態で、初期凹部4aに隣接する周回領域の基材1をエッチングする。ここでは露出されたn段目の表面11および凹部の底部42bを、SF6等のフッ素系ガスのエッチングとC48を用いたポリマー堆積ステップとによる異方性エッチングを行うことで、n段目の表面11のシリコン(Si)のエッチングが進む。このことにより、n段目凹部4bよりも上記側壁に堆積したポリマーが突起した状態で残存したとき、上記異方性ドライエッチングを継続することで、さらにそのポリマーの側壁にポリマーが堆積する。
さらに異方性ドライエッチングを継続することで、図1(e)に示すように、ポリマーの側壁に堆積したポリマーをマスクとして、n段目凹部4bの凹部側壁42aに、突起状の隔壁12が形成される。
【0034】
(突起状隔壁酸化工程)
図1(f)に示すように、上記の工程で形成した隔壁12は、ポリマーの堆積厚みとほぼ等しく、熱酸化処理で基材1の表面を全面的に酸化することで、突起状の基材の残存部分はシリコン酸化物となる。
【0035】
(突起状隔壁除去工程)
さらに、図1(g)に示すように、シリコン酸化物5をフッ酸等でエッチングすることで、突起状隔壁を除去でき、所望の形状の凹部4を形成することができる。
【0036】
以上述べたように、本実施形態によるシリコン構造体の製造方法によれば、SF6等のフッ素系のガスを用いたエッチングステップとC48ガスを用いたポリマー堆積ステップとによる異方性ドライエッチングにおいて、ポリマーを初期に充分堆積させることによって、ポリマーの堆積膜厚が厚すぎるときに発生する突起状の基材の残存を隔壁として安定的に作り込むことが可能であり、隔壁を形成することで、側壁の崩れの発生を防ぐことができる。また、意図的に形成した隔壁を熱酸化により除去することで、加工精度を低下させることなく所望の段差形状を得ることができる。
【0037】
上記のシリコン構造体の製造方法は、液滴吐出ヘッドのノズル基板の製造方法に利用することができる。
例えば、図2は、液滴吐出ヘッドを示した断面図である。なお図2では、駆動回路80の部分を模式的に示している。図3は、ノズル基板70を液滴吐出面75側から見た上面図である。
液滴吐出ヘッド100は、主にキャビティ基板50、電極基板60、及びノズル基板70が接合されることにより構成されている。ノズル基板70はシリコンからなり、例えば円筒状の第1のノズル孔71と、第2のノズル孔72と連通し、第1のノズル孔71よりも径の大きい円筒状の第2のノズル孔72を有するノズル73が形成されている。
なお、ノズル基板70は、単結晶シリコンが使用されている。
【0038】
キャビティ基板50は、例えば単結晶シリコンからなり、底壁が振動板51である吐出室52となる凹部が複数形成されている。またキャビティ基板50には、各吐出室52にインク等の液滴を供給するためのリザーバー53となる凹部と、このリザーバー53と各吐出室52を連通する細溝状のオリフィス54となる凹部が形成されている。
【0039】
キャビティ基板50の振動板51側には、例えばホウ珪酸ガラスからなる電極基板60が接合されている。電極基板60には、振動板51と対向する複数の電極54が形成されている。また電極基板60には、リザーバー53と連通するインク供給孔55が形成されている。このインク供給孔55は、リザーバー53の底壁に設けられた孔と繋がっており、リザーバー53にインク等の液滴を外部から供給するために設けられている。
【0040】
図3に示すように、ノズル基板70の第1のノズル孔71がノズル基板70の液滴吐出面75側に複数開口している。なお第2のノズル孔72は、図3の個々の第1のノズル孔71の紙面奥側に形成されている。またキャビティ基板50の吐出室52は、個々の第1のノズル孔71(ノズル73)ごとに形成されており、個々の吐出室52は図3のA−A線方向に細長く形成されている。
【0041】
このような、液滴吐出ヘッドのノズル基板の製造方法は、上記実施形態で説明した図1(g)の工程の後、基材1の凹部を形成した面とは逆の面を研磨などで削り凹部を貫通させることで製造することができる。
このシリコン構造体の製造方法を利用することで、加工精度の良いノズル孔を形成でき、吐出特性の優れたノズル基板を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…基材、2…ハードマスク、4…凹部、4a…初期凹部、4b…n段目凹部、11…(基材)表面、12…隔壁、42a…凹部側壁、42b…凹部の底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる基材に凹部の一部である初期凹部を形成する初期凹部形成工程と、
前記初期凹部の内側面に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記内側面の前記保護膜に隣接した前記基材の一部を隔壁として残存させて、前記初期凹部に隣接する周回領域の前記基材を深さ方向に異方性エッチングするエッチング工程と、
前記残存した突起状の前記隔壁を酸化してシリコン酸化物を形成する突起状隔壁酸化工程と、
前記酸化した突起状の前記隔壁を除去する突起状隔壁除去工程と、
を有することを特徴とするシリコン構造体の製造方法。
【請求項2】
前記突起状隔壁酸化工程において、前記隔壁の酸化は加熱による熱酸化により行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項3】
前記突起状隔壁除去工程において、前記隔壁の除去は、ウエットエッチングにより行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項4】
前記保護膜形成工程は、プラズマ重合膜からなる前記保護膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項5】
前記保護膜形成工程は、前記初期凹部の底面及び前記内側面に前記プラズマ重合膜を成膜した後、前記底面に形成された前記プラズマ重合膜を除去することを特徴とする請求項4に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項6】
前記底面の前記プラズマ重合膜の除去は、異方性ドライエッチングにより行うことを特徴とする請求項5に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項7】
前記保護膜形成工程と前記エッチング工程とをn回行って、前記凹部の内側にn段の段差を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング工程は、ドライエッチングにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のシリコン構造体の製造方法。
【請求項9】
前記保護膜形成工程と前記エッチング工程を同一の処理装置にて連続して行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のシリコン構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−200799(P2012−200799A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65485(P2011−65485)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】