説明

シリコン研磨用スラリー中および研磨後スラリー中の金属分析方法

【課題】スラリー中の金属分析方法を提供する。
【解決手段】次のステップを順次実施するシリコン研磨用スラリー中および研磨後スラリー中の金属分析方法:(1)シリコン研磨用スラリーまたは研磨後スラリーを、フッ化水素酸と硝酸により、第1の分解容器で溶解するステップと、(2)前記第1の容器を第2の容器に入れて、第1の容器と第2の容器の間に超純水を入れるステップと、(3)前記第2の容器をマイクロウエーブにより加熱するステップと、(4)第1の容器の溶液を加熱蒸発させて乾燥させるステップと、(5)乾燥残渣を酸に溶解して測定用試料を調整するステップと、(6)前記測定試料を用いて、金属分析するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコン研磨用スラリー中および研磨後スラリー中の金属分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン研磨用スラリーは、種々のシリコンウエーハ加工、又はシリコン半導体装置の製造において、洗浄、粗研磨、鏡面研磨等の様々な工程(以下、「研磨工程」とする。)で広く使用されている。シリコン研磨用スラリーは通常、これらの目的に応じて、研磨剤のみならず、種々の無機、有機物質が添加されている。さらに近年シリコンウエーハ加工又はシリコン半導体装置の製造において、極めて低レベルの金属汚染でさえ大きな問題となってきている。そこで、使用後のシリコン研磨用スラリーのみならず使用前のシリコン研磨用スラリー中に含まれる種々の金属を高感度で定量的に分析することが望まれてきた。
【0003】
また従来採用されているシリコン研磨用スラリーを通常の湿式金属分析方法である原子吸光法(以下、「AA法」とする。)や、誘導結合プラズマ質量分析法(以下、「ICPMS]とする。)で分析する際には、測定試料は、極めて均一な溶液(例えば酸性水溶液)であって、かつ分析対象金属に対して、物理的・化学的干渉の少ない測定試料を調製することが必要である。
【0004】
通常の研磨剤成分及びシリコン成分を十分溶解して均一な溶液にするためにフッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO)の混合物が使用されてきた。さらに、シリコン研磨用スラリーには、研磨剤のみならず種々の目的(pH調節、粘度調節等)で様々な有機・無機物質が添加されているのが通常であるが、これらの添加物質には強い化学干渉性を有する物質も含まれている。従って、これらの添加物は、測定試料調製の際に十分に分解する必要がある。特に有機の添加物にはフッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO)の混合物中においても100℃以上の高い温度で加熱しなければ分解しないものも多く含まれている。
【0005】
試料調製の再現性、加熱効率、安全性等の観点から、測定されるシリコン研磨用スラリーと、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO)との混合物を100℃以上の高い温度に加熱するためには、マイクロウエーブを用いる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−20339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方かかる従来の分解方法においては、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO)の混合物を100℃以上の高い温度に加熱するために用いる分解用容器の材質について大きな制限があった。すなわち、通常の金属製の容器、又はガラス性の容器では、上の酸存在下での加熱及び加圧条件下では、溶解、分解、破壊等が生じ不要な金属汚染や危険を招く恐れがある。従って、測定されるシリコン研磨用スラリー中の成分のみを正確に、完全かつ十分安全に熱分解するための方法が必要とされている。
【0008】
そこで、本発明はシリコン研磨用スラリーの成分を正確に、完全かつ十分安全に熱分解し、含有金属の高精度の湿式分析を可能とするための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記方法を見いだすべく鋭意研究した結果、少なくとも2重の分解用容器を使用することで、シリコン研磨用スラリーの成分を正確に、完全かつ十分安全に、マイクロウエーブを用いて熱分解することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明に係るシリコン研磨用スラリー中の金属分析方法は、次のステップを順次実施することを特徴とする:
(1)シリコン研磨用スラリーを、フッ化水素酸と硝酸により、第1の分解容器で溶解するステップと、(2)前記第1の容器を第2の容器に入れて、第1の容器と第2の容器の間に超純水を入れるステップと、(3)前記第2の容器をマイクロウエーブにより加熱するステップと、(4)第1の容器の溶液を加熱蒸発させて乾燥させるステップと、(5)乾燥残渣を酸溶液に溶解して測定用試料を調整するステップと、(6)前記測定試料を用いて、金属分析するステップ。
【0011】
また本発明に係るシリコン研磨用スラリー中の金属分析方法は、前記ステップ(6)が、原子吸光分析、誘導結合プラズマ質量分析方法であることを特徴とする。
【0012】
さらには、本発明に係るシリコン研磨用スラリー中の金属分析方法は、前記第1の容器がポリテトラフルオロエチレン容器であることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明には、前記ステップ(4)が、第1の容器の溶液に硝酸を添加して、加熱蒸発させて乾燥させるステップ、前記ステップ(5)が、乾燥残渣を、フッ化水素酸・過酸化水素混合溶液に溶解して測定用試料を調整するステップであることを特徴とする方法をも含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る方法は、分解用の容器を少なくとも2重にすることで、シリコン研磨用スラリーの成分を正確に、完全かつ十分安全に、マイクロウエーブを用いて熱分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1つの実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の方法を、図1に基づき発明を実施するための形態に即して詳細に説明する。
【0017】
(第1ステップ)
本発明の方法の第1ステップ(S1)は、測定されるシリコン研磨用スラリーを第1の分解容器内で、フッ化水素酸と硝酸と混合する。ここで混合とは、完全に溶解するだけでなく一部の成分のみが部分的に溶解することも意味する。ここで測定されるシリコン研磨用スラリーには、通常公知の当該分野にて使用されるシリコン研磨用スラリーであればよく、含まれる研磨剤の種類・形状、添加剤の種類・量に限定されない。具体的には最終研磨工程で使用されるGlanzox3900等に適用可能である。
【0018】
第1ステップで使用可能なフッ化水素酸、硝酸又はそれらの混合物については特に制限はなく、高純度の化学分析用として十分な純度を保証されている試薬であれば市販品をそのまま使用可能である。フッ化水素酸、硝酸又はそれらの混合物の濃度についても特に制限はなく、スラリー成分に応じて十分分解可能な濃度を選択することは容易である。具体的にはフッ化水素酸の濃度は5〜10wt%の範囲で使用することが好ましい。また硝酸の濃度は40〜60wt%の範囲で使用することが好ましい。
【0019】
ここで第1ステップで使用可能な分解用容器については、その形状、材質に特に制限はなく、少なくとも次の要求を満たすものであれば使用可能である。すなわち、上で説明したフッ化水素酸・硝酸混合物の100℃以上の加熱条件下で安定な化学的性質を有することである。ここで安定な化学的性質とは、熱分解や酸で分解・膨潤・変形することなく、かつ容器内から金属等の不純物を溶出することのないことを意味する。具体的な形状としては、十分な容量を有する、カップ状、チューブ状であればよく、かつ加熱の際に容器内の成分(フッ化水素酸、硝酸等)が漏れないように蓋を有するものであればよい。また材質についても上で説明した化学的性質を有するものであればよい。具体的な材質としては、αオレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマーが挙げられる。本発明においてはフッ素系ポリマーの使用が好ましい。特にポリテトラフルオロエチレンの使用が好ましい。
【0020】
(第2ステップ)
本発明はさらに前記第1の容器を第2の容器に入れて、第1の容器と第2の容器の間に超純水を入れる第2ステップ(S2)からなる。ここで第2の容器の形状、材質は特に制限はない。まず第1の分解容器を収容するのに十分な容積を有し、かつ第1の容器との間の空間に必要な量の純水を満たすことができればよい。具体的には図2に示すとおり、スラリーとフッ化水素酸・硝酸混合物を入れ、蓋を閉じた第1の分解容器を第2の容器に収容し、かつそれらの間の空間に超純水を満たす。超純水の量は、第1の容器内の溶液と同じ程度の高さであることが好ましい。第2容器の材質は特に制限はなく次の要求を満たすものであれば使用可能である。すなわち、マイクロウエーブによる100℃以上の加熱条件下で安定な化学的性質を有し、かつ前記超純水による蒸気圧に十分対応可能であればよい。具体的には、ポリマー金属製のいずれでもよい。好ましくは、安全性の観点からテトラフルオロメタキシール製が挙げられる。また十分に蓋をすることが可能であることが必要である。
【0021】
(第3ステップ)
本発明の第3ステップ(S3)は、上のステップで用意した第2の容器を、マイクロウエーブにより加熱するステップである。本発明において使用可能なマイクロウエーブ装置は特に制限はないが、水が効率的に励起される周波数を有するものが好ましい。通常2455MHz程度の周波数が好ましく使用可能である。ここで、第2容器にマイクロウエーブを照射することにより、第1の分解容器中の水、第2容器内の超純水のいずれもが加熱されることとなるが、第1の分解容器内の蒸気圧の上昇は、第2容器内の超純水の水蒸気圧の上昇と同じであることから、その結果第1の分解容器内の圧力は上昇しないこととなる。いずれの容器も蓋がされており、一定のマイクロウエーブの照射条件を設定することにより、一定の温度、圧力を維持することが可能となる。これにより、第1の分解容器内で十分な温度が保証され、スラリーの成分が完全に分解され溶解されることとなる。
【0022】
好ましい加熱温度は特に制限されないが、スラリーに含有されている有機物成分が十分分解される温度を選択することが可能である。また分解の時間、照射パワーについても特に制限はなく、同じくスラリーに含有されている有機物成分が十分分解される時間とパワーを選択することが可能である。
【0023】
(第4ステップ)
本発明の第4ステップ(S4)は、上で加熱分解して得た分解容器1内の溶液をさらに加熱蒸発させて乾燥するステップである。ここで分解容器1内の溶液をそのまま加熱乾燥させる場合のみならず、適当な酸を添加してから加熱乾燥させることも好ましい。酸を添加するのは、乾燥させた後、残渣がフッ化水素酸・過酸化水素混合溶液に容易に溶解させる目的である。酸の種類としては、上記作用が奏されるものであれば特に制限はなく種々の有機酸、無機酸が選択できる。有機酸としては酢酸が、無機酸としてはフッ化水素酸や硝酸、又はそれらの混合物の使用が好ましい。添加する酸の濃度、量についても特に制限はなく、想定される液中のシリコンマトリクスの量に基づき選択することができる。具体的に硝酸を添加して加熱する場合は、本発明の第4ステップ(S4)は、上で加熱分解して得た分解容器1内の溶液を取り出して、そこに酸(例えば硝酸)を添加して、さらに加熱蒸発させて乾燥させる。
【0024】
さらに本発明のステップ(4)において乾燥とは、液体を十分蒸発させて固化させる場合だけでなく、液体が一部残る場合も含まれる。乾燥の程度は、残渣をフッ化水素酸・過酸化水素混合溶液に容易に溶解させる程度であればよい。蒸発(又は乾燥又は蒸発乾固)の条件・装置についても特に制限はなく、通常公知の蒸発皿等の装置とホットプレート等の加熱装置を用いて常圧で加熱することができる。蒸発乾固の完了は目視で知ることができる。
【0025】
(第5ステップ)
本発明の第5ステップ(S5)は、上で乾燥(固化)残渣を、フッ化水素酸・過酸化水素混合溶液に溶解して測定用試料を調整するステップである。ここで使用するフッ化水素酸・過酸化水素混合溶液については特に制限はなく、高純度の化学分析用の試薬として市販されているものをそのまま使用することができる。濃度についても特に制限はなく、後ほど使用する湿式金属分析方法に準じて選択することが可能である。具体的にはフッ化水素酸の濃度は0.1〜1wt%の範囲で使用することが好ましい。また過酸化水素の濃度は1〜10wt%の範囲で使用することが好ましい。
【0026】
(第6ステップ)
本発明の第6ステップ(S6)は、上で調製した測定用試料を用いて、好ましい湿式金属分析方法で金属を分析するステップである。この測定については全く制限はなく通常公知の方法で実施することが可能である。具体的にはAAやICPMSが挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下本発明を実施例に基づき説明するが、本発明がこられの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
清浄な蓋付き5ml容積のポリテトラフルオロエチレンカップを2つ準備した。一方のカップには現行スラリー(株式会社フジミインコーポレーテッド製、Glanzox3900)0.1ml、68wt%硝酸3.9ml、38wt%フッ化水素酸1.0mlを入れ、もう一方のカップには同じスラリー0.1ml、68wt%硝酸3.8ml、38wt%フッ化水素酸1.0ml、金属元素スパイク液0.1ml(Fe、Cu、Naを各々5ng含有)、を入れて各々のカップを密栓した。
【0028】
次にマイクロウエーブ装置の100ml容積カップ状専用分解容器(マイルストーンゼネラル社製)を2つ準備し、各々の専用分解容器の中に前記のポリテトラフルオロエチレンカップを入れ、超純水8mlを専用分解容器とポリテトラフルオロエチレンカップの間に加えて専用分解容器に蓋をした。マイクロウエーブ装置に前記専用容器を入れて、周波数2455MHzにて17分段階的に処理をした。当該スラリーに対するマイクロウエーブの照射パワー・時間は表1の条件を使用した。この処理によりスラリーは完全に透明液になった。ここで各ステップ1,2,3,4,5での温度はそれぞれ、50、50、120、150、210℃であった。
【0029】
【表1】

【0030】
専用分解容器内の液温度が十分下がるまで1時間以上放置した後に、専用分解容器を開けてポリテトラフルオロエチレンカップを取り出し、カップの蓋を開けた。カップ内の液をマイクロピペットで0.1ml採取し、清浄な蒸発乾固用のポリテトラフルオロエチレンカップに入れ、さらに、68wt%硝酸2ml、38wt%フッ化水素酸1mlを前記蒸発乾固用のポリテトラフルオロエチレンカップに入れ、ホットプレート上に載せた。
【0031】
ホットプレートを220℃の温度に設定し完全にポリテトラフルオロエチレンカップ内の液を蒸発乾固させた。後38wt%フッ化水素酸0.01ml、35wt%過酸化水素0.24ml、超純水1.75mlを用いて蒸発乾固後のポリテトラフルオロエチレンカップ内の残渣を溶かしてサンプル液とした。
【0032】
当該サンプル液をそのままフレームレス原子吸光装置(SIMMA6000;パーキンエルマ製)にて測定した。マイクロウエーブ装置で処理前にスパイク液添加ありとなしで比較した結果(元スラリー中の濃度換算値)を表2に示す。スパイク量に相当する濃度である50ppbの差が概ね検出できており、この結果は本方法によりスラリーが確実・完全に分解され、十分な精度で金属成分の分析が可能であることを示している。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、シリコン半導体製造の技術分野において、シリコンウエーハの研磨スラリー中の金属の高精度湿式分析のための測定試料調製に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを順次実施するシリコン研磨用スラリー中および研磨後スラリー中の金属分析方法:
(1)シリコン研磨用スラリーまたは研磨後スラリーを、フッ化水素酸と硝酸により、第1の分解容器で溶解するステップと、
(2)前記第1の容器を第2の容器に入れて、第1の容器と第2の容器の間に超純水を入れるステップと、
(3)前記第2の容器をマイクロウエーブにより加熱するステップと、
(4)第1の容器の溶液を加熱蒸発させて乾燥させるステップと、
(5)乾燥残渣を、酸溶液に溶解して測定用試料を調整するステップと、
(6)前記測定試料を用いて、金属分析するステップ。
【請求項2】
前記ステップ(6)が、原子吸光分析、誘導結合プラズマ質量分析方法であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
前記第1の容器が、ポリテトラフルオロエチレン容器である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−38843(P2011−38843A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184937(P2009−184937)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】