説明

シリコン系ナノ粒子の製造方法

【課題】同一工程を多数回繰り返す必要のない簡単な方法によって均一で粒径の大きいシリコンナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させる工程、次いで、当該溶媒中で前記シリコンナノ粒子の表面を水素化させてSiの水素化物を形成させる工程、さらに当該溶媒中で前記Siの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる工程を含むSiナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系ナノ粒子の製造方法に関し、さらに詳しくはカリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料として用いる粒径が均一なシリコン系ナノ粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子は比表面積が極めて大きく、物質の粒子径をナノサイズに近づけた時に起るバルク状態との物理的特性の変化を意味する量子サイズ効果によって特有な物性を示すことから、半導体デバイス、触媒、色素、食品用途、発光材料、制御されたドラッグデリバリーなどの様々な分野に研究・利用が進められている。
このナノ粒子の製造方法として、目的や材料に応じて機械的粉砕法、溶媒中で原料のイオン又は錯体を還元剤などで還元し凝集させてナノ粒子化する溶液法、原料をそのまま加熱分解する熱分解法、物理的気相成長(PVD)法、化学的気相成長(CVD)法などが提案されている。
そして、ナノ粒子について、粒径が小さいものしか得られない、粒径が過大なものしか得られない、粒径を大きくしようとすると不均一な粒径になる、粒子を構成する物質によっては粒径の大きいナノ粒子を得るために多大な工程が必要となることが指摘され、これらの製造方法について種々検討がされている(特許文献1〜5)。
また、シリコンナノ粒子として、シリコンナノ粒子を大気中で安定化させるためにブトキシ基で表面保護されたものが知られている。
【0003】
例えば、特開2003−113198号公報には、Co2+イオンとアポフェリチンタンパク質とpH緩衝剤とCo2+会合剤とを含む溶液を調製し、溶液に酸化剤を加えることによってタンパク質に均一な粒径を有するコバルト微粒子を内包するコバルト−タンパク質複合体の作製方法が記載されている。そして、pH緩衝剤がコバルト微粒子の溶液中への溶出を防止するため均一な粒径のコバルトが得られることおよびpH緩衝剤の具体例としてTAPS緩衝液、Tris緩衝液などの緩衝液とカリックスアレーンなどの会合剤との組み合わせが記載されている。
【0004】
また、特開2006−68889号公報には、樹状高分子に粒子前駆体、染料分子、及び機能性分子の少なくとも1種を結合乃至は内包させる粒子サイズ及び組成が制御された複合ナノ粒子及び複合ナノ粒子の製造方法が記載されている。
また、特開2006−100785号公報には、シリコン、ゲルマニウム、炭素、錫などの4族半導体ナノ粒子の表面に、電子供与性の還元剤と、4族元素又は遷移金属を含む電子吸引基含有化合物とを交互に反応させる半導体表面の被覆方法が記載されている。そして、前記の被覆方法によれば1原子層ずつ、従って約0.3nmずつ4族元素又は遷移金属が4族半導体ナノ粒子表面に成長され、所望の粒径のナノ粒子を得るためには被覆(成長)工程を7〜16世代(回)繰り返す必要があることが記載されている。
【0005】
また、特開2006−225178号公報には、界面活性剤を含む油中水形ナノエマルジョンに金属アルコキシドを添加して金属水酸化物粒子を形成、熟成させた後、溶媒から分離後、焼成する含炭素金属酸化物の製造方法が記載されている。そして、前記の製造方法によれば平均結晶子径が10nm以下の金属酸化物、例えばアルミナの表面を炭素で包接されて800℃以上の高温でのシンタリングを防止できる含炭素金属酸化物が得られる。
【0006】
さらに、特開2008−247725号公報には、環状カリックスアレーンとセラミックス微粒子とを混合する工程と、得られたセラミックス・有機物複合体をゲル化する工程とを含むセラミックス・有機物複合構造体の製造方法が記載されている。そして、前記の製造方法によればシリカ微粒子、TiOなどのセラミックス微粒子が3次元的に規則配列したセラミックス・有機物複合体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−113198号公報
【特許文献2】特開2006−68889号公報
【特許文献3】特開2006−100785号公報
【特許文献4】特開2006−225178号公報
【特許文献5】特開2008−247725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら各公報に記載された方法によれば均一な粒径の大きいナノ粒子を得ることが可能であるが、各公報に記載の方法では全工程中の各工程1回のみでは粒子径又は薄層の厚さが小さいため同一工程を多数回繰り返す必要があるとか粒子構成物質に制限がある。さらに、上記公報には均一な粒径のシリコンナノ粒子の製造方法について記載されていない。
このため、同一工程を何回も繰り返す必要のない簡単な方法によって均一な粒径の大きいシリコンナノ粒子を製造し得る製造方法が求められている。
従って、本発明の目的は、同一工程を多数回繰り返す必要のない簡単な方法によって均一な粒径の大きいシリコンナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させる工程、次いで、当該溶媒中で前記シリコンナノ粒子の表面を水素化させてSiの水素化物を形成させる工程、さらに、当該溶媒中でSiの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる工程を含むSiナノ粒子の製造方法に関する。
本発明においてSiナノ粒子とは、Siを含み空気中で安定なナノ粒子であって焼結によってSi焼結体を与えるナノ粒子を意図している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同一工程を多数回繰り返す必要のない簡単な方法によって均一な組成および粒径であって粒径の大きいシリコンナノ粒子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施態様の反応スキームを模式的に示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたシリコンナノ粒子を重水素化THFに溶解させて測定したNMRスペクトルである。
【図3】図3は、実施例1で得られたシリコンナノ粒子の動的光散乱測定による粒径分布測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させる工程(以下、第1の工程ということもある)、次いで、当該溶媒中で前記シリコンナノ粒子の表面を水素化させてSiの水素化物を形成させる工程(以下、第2の工程ということもある)、さらに当該溶媒中でSiの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる工程(以下、第3の工程ということもある)との3つの工程を含むことが必要である。
前記のカリックスアレーンとは、複数個(例えば4〜8個の範囲内、例えば4個)のフェノール単位又はレゾルシン単位が環状に結合した環状オリゴマーであり、例えば下記式で示されるレゾルシン環状4量体を挙げることができる。
【0013】
【化1】

(式中、Rはヒドロキシル基を表し、Rは炭素数が1〜17の直鎖状アルキル基又はフェニル基を示す。)
【0014】
前記の溶媒としては、カリックスアレーンを溶解する溶媒であれば特に制限はなく、例えばテトラヒドロフラン(THF)、ジグライム、トリグライム、ジオキサン、メチルイソブチルケトン、メチルt−ブチルエーテル、ポリエチレングリコール、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。
【0015】
また、前記の出発原料であるSi塩としては、SiX(式中、X、X、X、Xは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルコキシ基又はハロゲン原子、例えば塩素原子である。)が挙げられ、好適にはSiClの塩化シリコンが挙げられる。
【0016】
本発明においては、カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてSiの水素化物を形成させることが必要であり、これらの要件を満足する反応であれば任意の工程を採用することができる。
以下、本発明の反応について、本発明の一元系の実施態様の反応スキームを模式的に示す図1を用いて説明する。
例えば、図1に示すように、先ずカリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させるためには、カリックスアレーンを含む溶媒にSi塩を加えて溶解させ、得られた溶液に還元剤を加えて、例えば室温程度の温度で、例えば0.1〜5時間程度、好適には0.2〜5時間程度攪拌下にSi塩を還元する。
【0017】
前記の還元剤としては、特に制限はなく例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)、カルシウムハイドライド(CaH)、ジメチルアミンボラン(CNBH)、トリメチルアミンボラン(CNBH)、ヒドラジン(NHNH)などが挙げられる。また、前記の還元剤は前記の溶媒を含む溶液として加えることが好ましい。
【0018】
図1に示すように、Si塩を還元する還元反応の際に、反応溶液中でシリコンナノ粒子の表面がカリックスアレーンによって取り巻かれ(包接され)る。このカリックスアレーンによって包接されることによりナノ粒子の粒径成長が阻害されると考えられる。そして、このカリックスアレーンによる粒径成長阻害によってナノサイズの粒子を合成することが可能となり得る。シリコンナノ粒子を包接しているカリックスアレーンはシリコンナノ粒子に化学的に結合しておらず、物理的に結びついていると考えられる。
【0019】
この還元反応の工程において数個〜数百個、、好適には十数個〜数百個、特に数十〜数百個のシリコンからなるシリコンナノ粒子が生成し得る。1個のシリコンナノ粒子を構成するシリコンの数、従ってシリコンナノ粒子の粒径はカリックスアレーンの溶媒中の濃度によって制御し得て、例えば約1〜8nm程度の粒径を有するシリコンナノ粒子を得るためには、溶媒の種類によっても異なるが通常は溶媒100mLに対して、カリックスアレーンが0.5〜5mmol程度であることが好ましい。また、この場合、Si塩が溶媒100mLに対して0.1〜1mLであることが好ましい。カリックスアレーンの濃度が高くなると得られるシリコンナノ粒子の粒径が小さくなり、カリックスアレーンの濃度が低くなると得られるシリコンナノ粒子の粒径が大きくなり得る。
そして、図1に示す実施態様においては、溶媒にカリックスアレーンおよび塩化シリコンを加えた溶液に還元剤を滴下する反応によって所望の粒径のシリコンナノ粒子を生成させることが可能となる。
【0020】
この1段階反応によって所望の粒径のシリコンナノ粒子を生成させ得ることが重要な点である。すなわち、前記の公報に記載の方法によれば、先ず一旦粒子表面を還元剤により活性な状態にし、その後目的金属を含む電子吸引基含有化合物を反応させることで1原子層だけナノ粒子を成長させる。このナノ粒子を成長させるために再び還元剤を反応系に滴下導入し、ナノ粒子表面を活性化させ、次いで金属源を滴下する。このサイクル1回の操作により成長し得る粒径は約0.3nm程度である。このため、より大きな粒子を生成させるためには多大な時間と手間を必要とする。例えば、前記公報に記載の方法をシリコンナノ粒子の生成に適用すると、平均粒径1.2nmのナノ粒子を生成させるために前記のサイクルを4回行う必要がある。
【0021】
また、前記の1段階反応によって所望の粒径のシリコンナノ粒子を生成させ得ることは均一な組成のナノ粒子を得るためにも重要である。すなわち、前記の公報に記載の方法によれば、ナノ粒子の表面を還元剤により活性化させた後、目的金属を含む電子吸引基含有化合物を反応させてナノ粒子を成長させる。しかし、反応系には過剰量の還元剤が含まれるためナノ粒子の表面のみならず導入した目的金属を含む電子吸引基含有化合物同士が反応してナノ粒子を生成する。このため、例えばAという金属を含むナノ粒子の表面にBという金属で粒成長させ二元系の粒子を生成させても、同時にBのみからなるナノ粒子も生成する。多段階のサイクルを経てナノ粒子を生成させると組成のばらつきはさらに大きくなる。このように、前記公報に記載の方法によれば組成の異なるナノ粒子が混在し、組成制御が困難である。つまり、前記公報に記載の方法によれば均一な多元系ナノ粒子を得ること困難である。
【0022】
これに対して、本発明におけるカリックスアレーンによるナノ粒子の粒径成長阻害作用によって1段階の反応によって均一な組成の大きい粒径を有するシリコンナノ粒子を得ることが可能となる。
しかし、この工程によるカリックスアレーンが包接したシリコンナノ粒子は焼結処理すると、シリコンナノ粒子に炭素が残存して不純物を含むシリコンナノ粒子となることが確認されている。このため、この工程で得られる生成物であるカリックスアレーンによって包接されたシリコンナノ粒子はさらに図1に示す次工程での処理が必要である。
【0023】
前記のSi塩を還元してカリックスアレーンによって包接されているシリコンナノ粒子を形成する還元反応に続いて、図1(3)に示すように、カリックスアレーンがシリコンナノ粒子の表面を取り巻いている反応溶媒中、例えばROH(Rは、炭素数1〜4のアルキル基である)で示されるアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、好適にはメタノールを加えて還元剤を失活させ、シリコンナノ粒子を得る。この工程で得られるシリコンナノ粒子は表面がアルコール、例えばメタノールで保護されていて、シリコンとアルコールとはSi−OR(Rは前記と同一である)の化学結合で結合されていると考えられる。
【0024】
次いで、図1の(4)に示すように、カリックスアレーンを含む反応溶媒中でSiの水素化物を形成させる。前記の水素化物の形成には白金触媒を用いることが好ましい。白金触媒としては、例えば、塩化白金酸、白金−アセチルアセトナート錯体、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体などが挙げられる。
この工程におけるSiの水素化物は、反応溶液中で水素化してSi―H結合が形成されてシリコンナノ粒子の表面がカリックスアレーンによって取り巻かれたものであると考えられる。このカリックスアレーンによって取り巻かれた水素化生成物を反応溶媒から空気中に取り出すとシリコンナノ粒子が酸化され目的とする安定なシリコンナノ粒子を得ることができない。このため、この工程で得られる生成物であるカリックスアレーンによって包接されている水素化されたシリコンナノ粒子はさらに図1に示す次工程での処理が必要である。
【0025】
すなわち、図1(5)に示すように、反応溶媒中でSiの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる。
本発明の方法においては、前述のようにカリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させる第1の工程と、当該溶媒中で前記シリコンナノ粒子の表面を水素化させてSiの水素化物を形成させる第2の工程と、当該溶媒中で前記Siの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる第3の工程とを含むことが必要である。
前記の修飾剤化合物としては、特に制限はないがシリコンナノ粒子表面を修飾し且つ焼結時に酸素を供給しない、従って酸素原子を含まない化合物が好適である。
特に、前記の表面修飾化合物として、シリコンナノ粒子のSiと結合し得て酸素を含まない化合物、例えば不飽和炭化水素が挙げられる。
【0026】
前記の不飽和炭化水素として、例えば炭素数4〜18のモノオレフィン、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等及びそれらの組合せや、脂環式不飽和炭化水素、例えば、シクロヘキセン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネンなどが挙げられる。
【0027】
前記の図1に示す本発明の実施態様の反応スキームに模式的に示す反応によって得られる反応溶液から、そのまま溶媒を蒸発除去するか又は溶媒を蒸発、例えばエバポレーターと真空乾燥とを用いて蒸発除去し、得られた粉末を炭化水素溶媒、例えばヘキサンに分散・可溶化させ、ヘキサン可溶部をろ過し、溶液を濃縮した後、アルコール、例えばエタノールに再沈殿させる操作を1回以上行って、例えば平均粒径が1〜8nm、特に2〜8nmのアルキル基が結合したシリコンナノ粒子を取得し得る。
【0028】
前記の方法によって、表面がアルカン、例えばヘプタンで保護されており大気中で安定なシリコンナノ粒子を得ることができる。このため、本発明によって得られるナノ粒子を用いてバルク焼結体を製造する場合、焼結中にシリコンナノ粒子の酸化を抑制することが可能であり、シリコンナノ粒子が有する熱電特性を発揮し得て、酸化による性能、例えば熱電特性の低下を受けないと考えられる。
これに対して、従来法で合成されたナノ粒子は大気中で安定化させるために、通常はブトキシ基で表面保護されている(すなわち、ナノ粒子表面に酸素原子を有する。)ので、ナノ粒子を用いてバルク焼結体を製造する場合、焼結中にシリコンナノ粒子の酸化を抑制することが困難である。
【0029】
前記のようにして得られるアルキル基が結合したシリコンナノ粒子は、通常は非酸素雰囲下、250〜500℃で1〜2時間程度焼結することによってシリコンナノ粒子を構成単位とするバルク体を得ることができる。
前記の方法によって焼結して得られるシリコンナノ粒子のバルク体は、炭素などの不純物を含まず平均粒径が1〜8nm、特に2〜8nmの均一な粒径を有するシリコンナノ粒子を構成単位とするものであり、種々の用途に用いられ得る。
【0030】
本発明の方法によれば、同一工程を多数回繰り返す必要がなく一連の工程を少数回、例えば2回以下、特に1回行う簡単な方法によって均一な粒径の所望の粒径を有するシリコンナノ粒子を得ることが可能である。
【0031】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は単に説明のためのものであり、本発明を如何様にも限定するものではない。
【実施例】
【0032】
以下の各例において、分析は以下に示す測定機器および測定法で行った。
シリコンナノ粒子の粒度分布の測定:動的光散乱測定法
測定装置:BECKMAN−COULTER製 サブミクロン粒子アナライザーN5
シリコンナノ粒子の表面の結合状態の測定:HNMR測定
測定装置:日本電子製 HNMRスペクトロメーター JNM−EX270
【0033】
実施例1
脱水THF80mLに下記式で示されるカリックスアレーン3.50gを溶解した。
【0034】
【化2】

(式中、Rはヒドロキシル基を表し、Rは炭素数が10の直鎖状アルキル基を示す。)
【0035】
ここに塩化シリコン0.50mLを加えて1時間攪拌した。さらに、2mmolのLiAlHのTHF溶液3.0mLをゆっくり滴下し、2時間攪拌した後、メタノール15mLを加えてメタノールで還元剤を失活させ、シリコンナノ粒子を得た。この時、シリコンナノ粒子表面はメタノールで保護されている(図1の(3)参照)。
次いで、塩化白金酸THF溶液(200mol/L、0.50mL)を加え、その後1−ヘプテン4.00mLを加えて、シリコンナノ粒子表面を1−ヘプタンで保護した(図1の(5))。
【0036】
反応終了後、溶媒をエバポレーターと真空乾燥を用いて除去し、得られた粉末を超音波によってヘキサンに分散・可溶化させた。ヘキサン可溶部をろ過し溶液を濃縮した後、エタノールに再沈する操作を2回繰り返し、溶媒およびカリックスアレーンを除去することによって、シリコンナノ粒子を得た。
得られたシリコンナノ粒子の表面の結合状態を評価した結果を図2に示し、粒度分布について評価した結果を図3に示す。
【0037】
図3の結果から、得られたシリコンナノ粒子は粒径が4.4±0.9nmの粒度分布の狭い均一な粒径を有するシリコンナノ粒子であることを示す。また、図2の結果から、得られたシリコンナノ粒子はSi−Oの結合を有さず(すなわち、酸素を含まず)、Si−CH又はSi−CHの結合を有していることを示している。そして、このシリコンナノ粒子は表面がヘプタンで保護されていり、大気中で酸化されず安定である。
また、上記のシリコンナノ粒子を窒素雰囲気下、400℃で1時間焼結してシリコンナノ粒子を構成単位とするバルク体を得た。得られたシリコンナノ粒子バルク焼結体について組成を分析したところ、残存炭素を有しない高純度のシリコンナノ粒子のバルク焼結体であった。
【0038】
比較例1
実施例1において、図1の反応スキームにおいて(1)の工程の後工程を省略した(すなわち、メタノールを加える工程以下の工程を省略したもの)他は実施例1と同様にしてシリコンナノ粒子を得た。
このシリコンナノ粒子を実施例1と同様にして焼結した。得られたシリコンナノ粒子のバルク焼結体は残存炭素を有する純度の低いシリコンナノ粒子のバルク焼結体であった。
【0039】
以上の結果から、カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてSiの水素化物を形成させる工程、次いで該溶媒中でSiの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる工程を含む本発明の方法によれば、同一工程を1回行う簡単な方法によって均一な粒径が大きく、焼結によって高純度のシリコンナノ粒子のバルク焼結体が得られることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の方法によって、同一工程を多数回繰り返す必要のない簡単な方法によって均一で粒径が大きいシリコンナノ粒子が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリックスアレーンを含む溶媒中でSi塩を出発原料としてシリコンナノ粒子を合成させる工程、
次いで、当該溶媒中で前記シリコンナノ粒子の表面を水素化させてSiの水素化物を形成させる工程、
さらに当該溶媒中で前記Siの水素化物と表面修飾化合物とを反応させる工程を含むSiナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
表面修飾化合物が、酸素原子を含まない化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
表面修飾化合物が、不飽和炭化水素である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
Siナノ粒子が、カリックスアレーンによって包接されている請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、焼結処理する工程を含む請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−269972(P2010−269972A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123415(P2009−123415)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】