説明

シリコン膜およびリチウム二次電池

【課題】大容量のリチウム二次電池に好適な電極を与えることのできるシリコン膜と、その簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】SiまたはSi化合物からなるアスペクト比20以上の柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有することを特徴とするシリコン膜。柱状構造の直径が10〜100nmであって、膜厚が0.2〜100μmである前記シリコン膜。SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いてシリコン膜を基板に蒸着するシリコン膜の製造方法であって、蒸着源の温度を1700K以上とし、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低くすることを特徴とするシリコン膜の製造方法。蒸着源−基板間距離(D)が、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)よりも小さい前記のシリコン膜の製造方法。前記シリコン膜を有する電極。前記電極を、負極として有するリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン膜およびリチウム二次電池に関する。詳しくは、蒸着により得られるシリコン膜と、該シリコン膜を有する電極を負極に用いるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、パソコン、携帯電話などのモバイル機器の電源として使用されており、近年はこれらのモバイル機器用途のみならず、電気自動車やハイブリッド車などCOの環境負荷を小さくすることのできる自動車の電源としても、適用が試みられている。
【0003】
リチウム二次電池においては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極を構成する材料として、Si材料が検討されている。現在、負極としては、炭素電極が主に使用されているが、Si負極の理論放電容量は約4200mAh/gと大きく、炭素負極の理論放電容量の10倍以上になり得るとされている。
【0004】
しかしながら、リチウム二次電池において、Si負極を用いた場合には、充放電の際の負極の膨張・収縮率が大きく、サイクル特性などの二次電池特性低下を惹起してしまうという指摘がある(特許文献1)。
【0005】
特許文献1においては、熱プラズマ中に投入して、基板にシリコンナノワイヤーネットワークからなるシリコン膜を配した電極を、リチウム二次電池の負極として用いている。このシリコン膜におけるワイヤー間の空隙が、リチウム二次電池の充電時、すなわちリチウムイオン吸蔵時の膨張を緩和する空間として作用することによって、Si負極の膨張・収縮率を低減している。
【0006】
また、同様に、特許文献2においては、シリコン基板をエッチングして、シリコン柱状構造を形成した電極を、リチウム二次電池の負極としている。この場合、シリコン柱状構造間の空隙が、前記の膨張を緩和する空間として作用する。
【0007】
また、特許文献3においては、シリコンの平坦膜を予めリチウム二次電池の負極として用いて、二次電池の充放電を繰り返すことにより、該平坦膜に切れ目、すなわち空隙を形成している。この場合、切れ目が、前記の膨張を緩和する空間として作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−269827号公報
【特許文献2】国際公開2004/042851号パンフレット
【特許文献3】国際公開2001/031720号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、ナノワイヤー形状のシリコンを用いる場合には、膜厚を大きくすることができ、充放電の際の膨張・収縮率を低減するには有効であるものの、ワイヤー間の空隙がシリコン膜の大部分を占めることから、電極におけるSi材料の密度が低くなり、二次電池の容量を大きくし難い。また、このシリコンナノワイヤーはランダムに成長することから、空隙のコントロールも困難となる。
【0010】
また、特許文献2に開示されるように、シリコン基板をエッチングしてシリコン柱状構造を形成してこれを負極とした場合には、シリコンが基板でもあるために、リチウム二次電池を得る際に、巻回し難く、大容量の二次電池を得難いなど、構造上の制限がある。
【0011】
また、特許文献3においても、二次電池の充放電により、シリコン平坦膜に切れ目を入れるために、空隙を精度高くコントロールし難く、大容量の二次電池を得難い。
【0012】
本発明の目的は、大容量のリチウム二次電池に好適な電極を与えることのできるシリコン膜と、その簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ね、本発明に至った。すなわち、本発明は、次の発明を提供する。
<1>SiまたはSi化合物からなるアスペクト比20以上の柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有することを特徴とするシリコン膜。
<2>柱状構造の直径が10〜100nmであって、膜厚が0.2〜100μmである前記<1>記載のシリコン膜。
<3>柱状集合体における柱状構造同士の間に、柱状構造に平行方向の0.3〜10nmの空隙を有する前記<1>または<2>記載のシリコン膜。
<4>柱状集合体同士の間に、柱状集合体に平行方向の幅0.01〜3μmの亀裂を有し、該亀裂の間隔が1〜100μmである前記<1>〜<3>のいずれかに記載のシリコン膜。
<5>柱状構造が多結晶もしくは非晶質である前記<1>〜<4>のいずれかに記載のシリコン膜。
<6>SiまたはSi化合物からなる柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有し、該柱状構造が、10〜1000nmの直径の粒子が柱状に連なった構造であることを特徴とするシリコン膜。
<7>基板上に接して形成された前記<1>〜<6>のいずれかに記載のシリコン膜。
<8>基板の材質が、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む前記<7>記載のシリコン膜。
<9>SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いてシリコン膜を基板に蒸着するシリコン膜の製造方法であって、蒸着源の温度を1700K以上とし、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低くすることを特徴とするシリコン膜の製造方法。
<10>蒸着源−基板間距離(D)が、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)よりも小さい前記<9>記載のシリコン膜の製造方法。
<11>Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さい前記<9>または<10>記載のシリコン膜の製造方法。
<12>Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下である前記<9>〜<11>のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
<13>製膜速度が0.1μm/分〜200μm/分である前記<9>〜<12>のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
<14>基板の材質が、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上を含む前記<9>〜<13>のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
<15>SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いて基板にシリコン膜を蒸着するためのシリコン膜蒸着装置であって、蒸着源の温度を1700K以上に設定可能であり、基板の冷却手段を備え、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低く設定可能であることを特徴とするシリコン膜蒸着装置。
<16>基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)を、蒸着源−基板間距離(D)よりも大きく設定可能である前記<15>記載のシリコン膜蒸着装置。
<17>キャリアガスの供給手段を備え、Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さくなる条件で蒸着可能である前記<15>または<16>記載のシリコン膜蒸着装置。
<18>製膜速度を0.1μm/分〜200μm/分に設定可能である前記<15>〜<17>のいずれかに記載のシリコン膜の蒸着装置。
<19>前記<1>〜<8>のいずれかに記載のシリコン膜を有する電極。
<20>前記<19>記載の電極を、負極として有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大容量のリチウム二次電池に好適な電極を与えることのできるシリコン膜と、その簡便な製造方法を提供することができる。本発明のシリコン膜は、リチウム二次電池の充放電の繰り返しにおいて、膨張・収縮率を低減させることもできることから、サイクル特性の良好なリチウム二次電池を与えることもでき、さらに、該シリコン膜は、リチウム二次電池だけでなく、リチウムイオンキャパシタなど他の電気化学蓄電デバイスの電極への応用も可能である。また、本発明のシリコン膜の製造方法によれば、実用上有用な厚みのシリコン膜を短時間に製造可能であり、また、高真空を必ずしも必須としない蒸着法を用いていることから製造装置などの製造コストも低く、さらには製膜時の副反応物の生成も抑制されるため環境負荷も小さく、本発明の工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施態様であるシリコン膜の断面を示す模式図。
【図2】本発明の一実施態様であるシリコン膜の表面を示す模式図。
【図3】本発明の実施例1におけるリチウム二次電池のサイクル特性を示す図。
【図4】本発明の実施例1におけるリチウム二次電池の充放電カーブを示す図。
【図5】本発明の実施例2におけるリチウム二次電池のサイクル特性を示す図。
【図6】本発明の実施例3におけるリチウム二次電池のサイクル特性を示す図。
【図7】本発明の実施例5におけるリチウム二次電池のサイクル特性を示す図。
【図8】本発明の実施例5におけるリチウム二次電池の充放電カーブを示す図。
【図9】本発明の一実施態様であるシリコン膜の表面を示す模式図。
【図10】本発明の一実施態様であるシリコン膜の表面を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、SiまたはSi化合物からなるアスペクト比20以上の柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有することを特徴とするシリコン膜を提供する。本発明のシリコン膜において、柱状構造は、SiまたはSi化合物からなる。アスペクト比は100以上であることが好ましい。また、アスペクト比の上限は、通常、5000程度である。本発明において、柱状集合体は、前記柱状構造の側面同士が接触して集合しており、本発明のシリコン膜は、その柱状集合体を複数有する。
【0017】
本発明において、柱状構造の直径は10〜100nmであって、膜厚が0.2〜100μmであることが好ましく、得られるリチウム二次電池の容量をより大きくすることができる。
【0018】
本発明において、柱状集合体における柱状構造同士の間に、柱状構造に平行方向の0.3〜10nmの空隙を有することが好ましく、得られるリチウム二次電池のサイクル特性がより良好となる。
【0019】
本発明においては、柱状集合体同士の間に、柱状集合体に平行方向の幅0.01〜3μmの亀裂を有し、該亀裂の間隔が1〜100μmであることが好ましく、得られるリチウム二次電池のサイクル特性がより一層良好となる。また、柱状集合体の直径は10〜100μmであることが好ましい。
【0020】
得られるリチウム二次電池のサイクル特性の観点から、本発明における柱状構造は、多結晶もしくは非晶質であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、SiまたはSi化合物からなる柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有し、該柱状構造が、10〜1000nmの直径の粒子が柱状に連なった構造であることを特徴とするシリコン膜を提供する。
【0022】
また、シリコン膜をリチウム二次電池などの電気化学蓄電デバイスとして使用し易くする意味で、本発明のシリコン膜は、基板上に接して形成されていることが好ましい。また、該基板の材質としては、金属が挙げられ、中でも、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましく、より好ましくは、銅、ニッケルおよび鉄からなる群より選ばれる1種以上であり、さらにより好ましくは、銅である。また、ステンレスも好ましい材質である。
【0023】
また、基板は、その厚みが薄いものであることが好ましく、金属箔であることが好ましく、より好ましくは銅箔である。銅箔の中でも、その表面が粗面化された銅箔であることが好ましい。このような銅箔としては電解銅箔が挙げられる。電解銅箔は、例えば、銅イオンが溶解された電解液中に金属製のドラムを浸漬し、これを回転させながら電流を流すことにより、ドラムの表面に銅を析出させ、これを剥離して得られる銅箔である。電解銅箔の片面または両面には、さらに粗面化処理や表面処理がなされていてもよい。また、圧延銅箔の表面に、電解法により銅を析出させ、表面を粗面化した銅箔であってもよい。
【0024】
また、本発明において、柱状構造は、SiまたはSi化合物からなる。Si化合物としては、Si−Ge合金などが挙げられる。
【0025】
また、本発明におけるSiまたはSi化合物には不純物がドープされていてもよい。このような不純物としては、窒素、リン、アルミニウム、砒素、ホウ素、ガリウム、インジウム、酸素等の元素を上げることができる。
【0026】
また、本発明のシリコン膜の製造方法は、SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いてシリコン膜を基板に蒸着するシリコン膜の製造方法であって、蒸着源の温度を1700K以上とし、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低くすることを特徴とし、高真空を必ずしも必須とせず、常圧におけるシリコン膜の製造も可能である。本発明のシリコン膜の製造方法により、基板の平行方向へのSi原子の拡散が抑制され、本発明のシリコン膜を製造することができる。蒸着速度を速くする観点では、蒸着源の温度を、1800K以上とすることが好ましい。本発明のシリコン膜の製造方法により得られるシリコン膜は、本発明のシリコン膜と同じ効果を有する。蒸着源の温度の上限は、通常、2300K程度である。
【0027】
本発明のシリコン膜の製造方法においては、蒸着源−基板間距離(D)が、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)よりも小さいことが好ましい。これにより、膜の成長速度、すなわち製膜速度をより高くすることができる。本発明のシリコン膜の製造方法においては、蒸着源と基板とが平行に配置され、色々な方向からSi原子が飛来する状況にあったとしても、柱状構造を有するシリコン膜を得ることができるのである。
【0028】
また、本発明のシリコン膜の製造方法において、Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さいことが好ましい。このことは、通常の真空蒸着における雰囲気圧力ではないことを意味しており、通常の真空蒸着(圧力は、0.001Pa程度)においては、前記λは、前記Dよりも大きくなる。
【0029】
特に、前記Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下であることにより、得られるシリコン膜は、柱状構造が、10〜1000nmの直径の粒子が柱状に連なった構造となる。
【0030】
また、本発明のシリコン膜の製造方法においては、製膜速度が0.1μm/分〜200μm/分であることが好ましい。また、蒸着時間を0.1〜10分としても、実用上有用な厚みのシリコン膜を製造することができる。
【0031】
本発明のシリコン膜の製造方法において、基板については、上記の基板と同様であり、ここでは、説明を省略する。
【0032】
また、本発明のシリコン膜蒸着装置は、SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いて基板にシリコン膜を蒸着するためのシリコン膜蒸着装置であって、蒸着源の温度を1700K以上に設定可能であり、基板の冷却手段を備え、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低く設定可能であることを特徴とする。この装置により、本発明のシリコン膜を製造することができる。
【0033】
本発明の装置においては、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)を、蒸着源−基板間距離(D)よりも大きく設定可能であることが好ましい。また、キャリアガスの供給手段を備え、Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さくなる条件で蒸着可能であることが好ましい。キャリアガスとしては、アルゴンが挙げられる。また、製膜速度を0.1μm/分〜200μm/分に設定可能であることが好ましい。また、蒸着時間を0.1〜10分に設定可能であることが好ましい。
【0034】
本発明のシリコン膜を有する電極は、リチウム二次電池などの電気化学蓄電デバイスにおける電極として好適に使用できる。特に、本発明のシリコン膜を有する電極は、リチウム二次電池における負極として、極めて好適に使用できる。なお、本発明において、基板は、電極における集電体としての機能を果たすこともできる。
【0035】
次に、本発明におけるリチウム二次電池の代表例として、基板として銅箔を用い、この銅箔上にシリコン膜を形成させた電極をリチウム二次電池の負極として用いて、リチウム二次電池を製造する場合を説明する。
【0036】
リチウム二次電池は、セパレータ、上記の負極、セパレータおよび正極を、積層または積層・巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの電池ケース内に収納した後、電解液を含浸させて製造することができる。
【0037】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0038】
前記正極は、負極よりも高い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープが可能であればよく、公知の方法で製造すればよい。具体的には、正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。前記導電材としては炭素材料などを用いることができ、前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記正極集電体としては、Alを挙げることができる。
【0039】
前記セパレータとしても、公知のものを使用すればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂などの材質からなる多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する膜を用いることができる。
【0040】
また、前記電解液としても、公知のものを使用すればよい。電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有し、LiPF6などのリチウム塩からなる電解質を用いて、これをプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などの有機溶媒に溶解させて得られるものを電解液として用いればよい。
【実施例】
【0041】
次に、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(シリコン膜の製造)
チャンバー内に、80×6mmのタングステンボードを設置し、この上に、5−10%のHF溶液を用いてHF処理したシリコン片(純度99.99%以上)を載置し、これを蒸着源とした。シリコン片は、加熱することにより融解してボード上に広がるため、蒸着源のサイズは、80×6mmとなる。タングステンボードの上側にステンレス箔(SUS304、サイズ30mmφ)を配置し、これを基板(集電体)とした。ステンレス箔は、シリコン板に平行に対向させるようにした。このとき、蒸着源−基板間距離は、25mmとして、基板の最小径である30mmよりも短くした。ステンレス箔は水冷管で冷却可能な冷却ブロックの表面に密着させて固定した。ターボポンプで10−5Paまで真空引きし、その後アルゴンガスを10sccm導入し、炉内の圧力を13.3Pa(0.1Torr)に設定した。このときのSi原子の平均自由行程(λ)は、分子運動論からλ=kT/(21/2σp)で求められる。ここでボルツマン定数k=1.38×10−23J/K、温度T=300K、圧力p=13.3Pa、衝突断面積σ=πdである。SiとArの衝突直径dを0.35nmとすると、平均自由行程λは0.57mmと計算される。圧力が一定になった後、冷却ブロックに水を流して冷却を開始し、タングステンボードに2V、200Aを通電して、タングステンボードを2070Kまで加熱することによりシリコン片を融解し、ステンレス箔に1分蒸着して、膜厚0.6μmのシリコン膜を得た(製膜速度0.6μm/分)。また、ステンレス箔の温度は、330Kであった。
【0043】
(シリコン膜の構造)
得られたシリコン膜について、SEM観察した際の断面模式図を図1に、表面模式図を図2に示す。図1では、本発明の膜が膜厚方向に成長したアスペクト比20以上の柱状構造を有することが示されている。図2では、柱状構造が集合した柱状集合体が示されている。
【0044】
(リチウム二次電池の製造および充放電試験)
基板上に形成されたシリコン膜を1×1cmに切断し電極AE1を得た。電極AE1を120℃中、6時間真空オーブン中で乾燥した。乾燥後、アルゴンガス置換されたグローブボックス内に移送し、電解液(1M LiPF/EC+EMC(ECおよびEMCの重量比3:7))に浸漬させる。HSセル(宝泉株式会社製)に1.5×1.5cmのLi金属片を配置した後、2×2cmに切断したセパレータ(セルガード2500)を配置し、電解液を注液し、電極AE1のシリコン蒸着面をセパレータ側に向けて配置しセルTC1を組み上げる。セルTC1の定格容量を理論容量4200mAh/gとして、0.1C、8時間、0Vの定電流/定電圧充電(この場合の充電は、電極AE1にLiがドープされる方向)、0.1C、カットオフ電圧2Vの定電流放電(この場合の放電は、電極AE1からLiが脱ドープされる方向)の条件で充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果を、図3および4に示す。これらの図は、本発明のシリコン膜をリチウム二次電池の負極として用いると、サイクル特性などの二次電池特性に優れることを示している。
【0045】
実施例2
シリコンの充填量以外は実施例1と同様にして、膜厚0.8μmのシリコン膜を得た。このシリコン膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、セルTC2を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果を、図5に示す。図5は、本発明のシリコン膜をリチウム二次電池の負極として用いると、サイクル特性などの二次電池特性に優れることを示している。
【0046】
実施例3
蒸着時のチャンバー内の圧力を133Pa(1Torr、このときのSi原子の平均自由行程λは0.057mmと計算される。)とする以外は実施例1と同様にして、膜厚0.4μmのシリコン膜を得た。このシリコン膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、セルTC3を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果を、図6に示す。図6は、本発明のシリコン膜をリチウム二次電池の負極として用いると、サイクル特性などの二次電池特性に優れることを示している。
【0047】
実施例4
シリコンの充填量以外は実施例3と同様にして、膜厚2.0μmのシリコン膜を得た。このシリコン膜を用いた以外は実施例3と同様にして、セルTC4を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果、サイクル数を10回以上重ねても、放電容量はほとんど変化がなく、サイクル特性などの二次電池特性に優れることがわかった。
【0048】
実施例5
蒸着時のチャンバー内の圧力を732Pa(5.5Torr、このときのSi原子の平均自由行程λは0.010mmと計算される。)とする以外は実施例1と同様にして、膜厚0.25μmのシリコン膜を得た。このシリコン膜を用いた以外は実施例1と同様にして、セルTC5を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果を、図7および8に示す。これらの図は、本発明のシリコン膜をリチウム二次電池の負極として用いると、サイクル特性などの二次電池特性に優れることを示している。
【0049】
実施例6
シリコンの充填量と、基板としてCu箔を用いた以外は、実施例1と同様にして、膜厚2.5μmのシリコン膜を得た。このシリコン膜を用いた以外は実施例1と同様にして、セルTC6を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果、サイクル数を10回以上重ねても、放電容量はほとんど変化がなく、サイクル特性などの二次電池特性に優れることがわかった。
【0050】
実施例7
シリコンの充填量以外は実施例6と同様にして、シリコンを3.7μm成膜し、これを常圧のアルゴンガス雰囲気下で600℃、10分アニール処理を行い、シリコン薄膜を得た。得られたシリコン膜について、SEM観察した際の低倍率の表面模式図を図9に、高倍率の表面模式図を図10に示す。図9では、Cu箔表面の凹凸に倣った亀裂が、シリコン膜中に間隔1〜3μmで形成されていることが示されている。図10では、シリコン膜が直径30〜100nmの柱状構造の集合体で形成され、かつ集合体の間にある亀裂の幅が30nm程度であることが示されている。このシリコン膜を用いた以外は実施例1と同様にして、セルTC7を作製し、充放電を繰り返して、充放電試験を行った。充放電試験の結果、サイクル数を10回以上重ねても、放電容量はほとんど変化がなく、サイクル特性などの二次電池特性に優れることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiまたはSi化合物からなるアスペクト比20以上の柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有することを特徴とするシリコン膜。
【請求項2】
柱状構造の直径が10〜100nmであって、膜厚が0.2〜100μmである請求項1記載のシリコン膜。
【請求項3】
柱状集合体における柱状構造同士の間に、柱状構造に平行方向の0.3〜10nmの空隙を有する請求項1または2記載のシリコン膜。
【請求項4】
柱状集合体同士の間に、柱状集合体に平行方向の幅0.01〜3μmの亀裂を有し、該亀裂の間隔が1〜100μmである請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン膜。
【請求項5】
柱状構造が多結晶もしくは非晶質である請求項1〜4のいずれかに記載のシリコン膜。
【請求項6】
SiまたはSi化合物からなる柱状構造の集合体である柱状集合体を複数有し、該柱状構造が、10〜1000nmの直径の粒子が柱状に連なった構造であることを特徴とするシリコン膜。
【請求項7】
基板上に接して形成された請求項1〜6のいずれかに記載のシリコン膜。
【請求項8】
基板の材質が、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む請求項7記載のシリコン膜。
【請求項9】
SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いてシリコン膜を基板に蒸着するシリコン膜の製造方法であって、蒸着源の温度を1700K以上とし、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低くすることを特徴とするシリコン膜の製造方法。
【請求項10】
蒸着源−基板間距離(D)が、基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)よりも小さい請求項9記載のシリコン膜の製造方法。
【請求項11】
Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さい請求項9または10記載のシリコン膜の製造方法。
【請求項12】
Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)の1/10以下である請求項9〜11のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
【請求項13】
製膜速度が0.1μm/分〜200μm/分である請求項9〜12のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
【請求項14】
基板の材質が、銅、ニッケル、鉄、コバルト、クロム、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、チタンおよびタンタルからなる群より選ばれる1種以上を含む請求項9〜13のいずれかに記載のシリコン膜の製造方法。
【請求項15】
SiまたはSi化合物からなる蒸着源を用いて基板にシリコン膜を蒸着するためのシリコン膜蒸着装置であって、蒸着源の温度を1700K以上に設定可能であり、基板の冷却手段を備え、基板温度を蒸着源の温度より700K以上低く設定可能であることを特徴とするシリコン膜蒸着装置。
【請求項16】
基板の垂直方向からみた基板の最小径(P)を、蒸着源−基板間距離(D)よりも大きく設定可能である請求項15記載のシリコン膜蒸着装置。
【請求項17】
キャリアガスの供給手段を備え、Si原子の平均自由行程(λ)が、蒸着源−基板間距離(D)よりも小さくなる条件で蒸着可能である請求項15または16記載のシリコン膜蒸着装置。
【請求項18】
製膜速度を0.1μm/分〜200μm/分に設定可能である請求項15〜17のいずれかに記載のシリコン膜の蒸着装置。
【請求項19】
請求項1〜8のいずれかに記載のシリコン膜を有する電極。
【請求項20】
請求項19記載の電極を、負極として有するリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−122200(P2011−122200A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280187(P2009−280187)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】