説明

シリコン薄膜の製造方法

【課題】低い温度でシリコン薄膜を形成しつつ、不純物の濃度を低く抑えることのできるシリコン薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のシリコン薄膜の製造方法は、基板1をチャンバ10内に配置するステップと、イオンビーム蒸着を250℃以下の温度条件で行うことによって前記基板1上にシリコン薄膜を形成するステップと、を含むことを特徴とする。前記イオンビーム蒸着が行われるチャンバ10の基本気圧を10−12Torr以上10−7Torr以下に調節するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン(poly crystalline Si;poly−Si)は、非晶質シリコン(amorphous Si;a−Si)に比べて高い移動度を持つために、平板ディスプレイ素子のみならず太陽電池などの多様な電子素子に応用されている。
【0003】
一般的に、良質の多結晶シリコンを得るためには良質の非晶質シリコンが必要である。LPCVD法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)は、450℃以上の高温でシリコン薄膜を形成するために、ガラスのような熱に強い材料ではない、例えば、プラスチックのような熱に弱い基板にはシリコン薄膜を形成し難い。
【0004】
PECVD法(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)の場合は、LPCVD法に比べて比較的低い350℃程度の温度でシリコン薄膜を形成することが可能である。しかし、PECVD法から得られたシリコン薄膜は10〜20%の水素を含んでいるために、それを除去するための脱水素工程が必須となる。
一般的に、脱水素工程は約400℃で行われるため、プラスチックのような熱に弱い基板を熱的に変形または損傷させるおそれがある。結論的に、PECVD法によってもやはりプラスチック基板にシリコン薄膜を形成し難い。
【0005】
プラスチック基板にシリコン薄膜を形成するためには、スパッタリング法のように低い温度でこれを形成できる工程の導入が不可欠である。しかし、スパッタリング法でシリコン薄膜を形成すると、シリコン薄膜に多量の不純物、例えば、Ar、O、Hなどのガスが残留しやすい。このような不純物は、シリコンの電気的特性を悪化させるので、除去することが望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低い温度でシリコン薄膜を形成しつつ、不純物の濃度を低く抑えることのできるシリコン薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシリコン薄膜の製造方法は、基板をチャンバ内に配置するステップと、イオンビーム蒸着(Ion Beam Deposition;IBD)を250℃以下の温度条件で行うことによって前記基板上にシリコン薄膜を形成するステップと、を含む。
【0008】
本発明に係るシリコン薄膜の製造方法において、前記イオンビーム蒸着が行われるチャンバの基本気圧を10-12Torr以上10-7Torr以下に調節することが望ましい。
【0009】
本発明に係るシリコン薄膜の製造方法において、前記イオンビーム蒸着を行う装置は、ターゲット物質に対応するメイン高周波誘導結合プラズマソースと、前記基板に対応する補助高周波誘導結合プラズマソースと、を備えることが望ましい。
【0010】
また、本発明に係るシリコン薄膜の製造方法において、前記メイン高周波誘導結合プラズマソース及び前記補助高周波誘導結合プラズマソースは、フィラメントのない構造であることが望ましい。そして、前記メイン高周波誘導結合プラズマソースは、イオンビームを前記ターゲット物質に集中させるためのフォーカスレンズ型グリッドを備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコン薄膜の製造方法によれば、低い温度でシリコン薄膜を形成しつつ、不純物の濃度を低く抑えることのできる。そのため、結晶構造面で非常に良質のシリコン薄膜を得ることができる。このような本発明のシリコン薄膜の製造方法は、電気的に良好な特性を持つポリシリコンの製作を可能にし、それにより、良質のスイッチング素子用のTFT(Thin Film Transistor)または太陽電池の製作が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付された図面を参照して本発明に係るシリコン薄膜の製造方法の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係るシリコン薄膜の製造方法によって製造されたシリコン薄膜を示す概略的断面図である。
なお、本発明に係るシリコン薄膜の製造方法においては、基板として、プラスチック基板を用いることができる。
図1に示すように、シリコンウェーハまたはプラスチック基板(以下、単に「基板」という)1上にSiOバッファ層(以下、単に「バッファ層」という)2が形成され、その上に本発明のシリコン薄膜の製造方法によって形成される非晶質シリコン(a−Si)薄膜(以下、単に「シリコン薄膜」という)3が形成されている。
【0013】
バッファ層2は、基板1がシリコンウェーハ及びプラスチックである場合に任意的に堆積された絶縁物質層である。バッファ層2は、通常行われる手段により形成することができる。
シリコン薄膜3は、常温(望ましくは、約0℃以上約250℃以下)で行われるイオンビーム蒸着(IBD)装置により形成される。
【0014】
図2は、本発明のシリコン薄膜の製造方法で適用するIBD装置の概略的構造を示す図である。
図2に示すように、チャンバ10の一側に基板装着部11が設けられている。基板装着部11は、任意回転軸Xを中心に回転する。チャンバ10には、二つの高周波誘導結合プラズマソース(Radio Frequency Inductively Coupled Plasma Source;RFICP)が設けられている。一つは、メインRFICPソース21であり、他の一つは、補助RFICPソース22である。そのうち、補助RFICPソース22は、基板装着部11に搭載された基板1に対して所定角度傾いてイオンビームを照射するように配置されている。メインRFICPソース21と基板装着部11との間にはターゲット組立体30が設けられている。ターゲット組立体30は、複数のターゲット31を備え、ターゲット31を選択的に使用するために任意軸Yを中心に回転する構造となっている。
【0015】
メインRFICPソース21は、ターゲット組立体30に備えられることで任意に選択されるターゲット31に対して、所定角度傾斜した方向でイオンビームを照射する。ターゲット31から出たイオンビームは、基板1に対してやはり所定角度(θ)傾いて入射する。イオンビームの入射角(θ)は0度以上45度以下であることが望ましく、40度とするのがより望ましい。
【0016】
メインRFICPソース21と選択されたターゲット31との距離aと、選択されたターゲット31と基板1との距離bは、それぞれ80cm以下とするのが望ましい。メインRFICPソース21及び補助RFICPソース22は、フィラメントのない構造であるのが望ましい。IBDを行う条件として、ビーム電流は300mA、電圧は600ボルトに調節することが望ましい。また、蒸着率は0.7Å/secであり、IBDを行う前の基本圧力は10-12Torr以上10-7Torr以下(なお、1[Torr]=(101325/760)[Pa])、IBDを行うときの圧力は0.1mTorr以下に調節することが望ましい。メインRFICPソース21は、イオンビームを選択されたターゲット31に集中させるためのフォーカスレンズ型グリッド21aを備え、補助RFICPソース22は平坦なグリッド22aを備えている。このような二つのソース(メインRFICPソース21及び補助RFICPソース22)は、基板1の汚染源となるおそれのあるフィラメントを備えない方が望ましい。
【0017】
本発明のシリコン薄膜の製造方法は、前記のような構造のIBD装置を用いてシリコンウェーハ、ガラス製またはプラスチック製の基板1にシリコン薄膜3を形成する。
具体的には、本発明のシリコン薄膜の製造方法は、基板1をチャンバ10内に配置するステップと、イオンビーム蒸着を250℃以下の温度条件で行うことによって基板1上にシリコン薄膜3を形成するステップと、を含むものである。
【0018】
図3A及び図3Bは、本発明のシリコン薄膜の製造方法によって、常温(250℃以下)でIBDによりウェーハ及びプラスチック基板上に形成(IBDによりシリコン薄膜3を堆積した後、ELA(Excimer Laser)により結晶化した)されたシリコン薄膜3のSEMイメージを示す図である。図3Cは、従来の550℃という高い温度で行われるLPCVDによって形成されたシリコン薄膜のSEMイメージを示す図である。なお、図3Aないし図3Cに示すスケールバーは、600nmを示す。
【0019】
図3Aないし図3Cに示すように、本発明のシリコン薄膜の製造方法によれば、従来の高い温度でシリコン薄膜を形成するLPCVD法に劣らない良質のシリコン薄膜3を得ることができた。
【0020】
図4は、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3(IBD)と、LPCVD法による従来のシリコン薄膜(LPCVD)、そして、クリスタルシリコン(x−Si)の光学的特性を示すグラフである。なお、図4中、横軸は波長(Wave length (nm))を示し、縦軸は反射率(Reflectance (%))を示す。
図4に示すように、クリスタルシリコン(x−Si)は波長別反射率の変化が激しい一方、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3及びLPCVD法によるシリコン薄膜は、一部区間を除いては直線的反射率変化を示す。
【0021】
下記の表1は、スパッタリング及びIBDにより得られたシリコンの粒子密度差を示すものであり、XRR(X-ray reflectometry)、RBS(Rutherford Back Scattering Spectroscopy)により測定された密度を比較して示す。
【0022】
【表1】

【0023】
一方、図5Aは、本発明のシリコン薄膜の製造方法による、IBDによって形成されたシリコン薄膜3の、不純物含有量の差を示すRBSによって測定された結果を示すグラフである。図5Bは、従来のシリコン薄膜の製造方法による、スパッタリングによって形成されたシリコン薄膜の不純物含有量の差を示すRBSによって測定された結果を示すグラフである。
【0024】
図5Aに示すように、本発明のシリコン薄膜の製造方法によって形成されたシリコン薄膜3は、Arは存在せずに極微量のFe成分を含有することが分かる。しかし、図5Bに示すように、従来の方法によるシリコン薄膜は、相当量のArが含まれていることが分かる。なお、図5A及び図5B中において、横軸はチャンネル(Channel)であり、縦軸はカウント数(Counts (arb. Units))であり、「A」は、測定したデータ(raw data)を示し、「B」は、シミュレーションしたデータ(simulation)を示す。
そして、RBSで測定した結果、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3は、約0.2%のArを含有する一方、従来の方法によるシリコン薄膜は、2.4%のArを含有していることが分かった。Feは、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3のみ0.005%を含有することが分かった。
【0025】
一方、図6A及び図6Bは、本発明のシリコン薄膜の製造方法による、IBDによって形成されたシリコン薄膜3(図6A及び図6Bにおいて「B」で示す)と、従来の方法による、スパッタによって形成されたシリコン薄膜(図6A及び図6Bにおいて「A」で示す)と、の不純物において、酸素(図6A)及び水素(図6B)の含有量を示すSIMS結果を示すグラフである。なお、図6A及び図6Bにおいて、横軸は深さ(Depth (μm))を示し、縦軸は濃度(Concentretion (atoms/cc))を示す。
【0026】
図6Aに示すように、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3(IBD)は、従来の方法(スパッタ)によるシリコン薄膜に比べて酸素の含有量が少ないことが分かる。計測した結果、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3は、約0.0002%の酸素を含み、従来の方法によるシリコン薄膜は、約0.002%の酸素を含むことが分かった。
【0027】
図6Bに示すように、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3(IBD)は、従来の方法によるシリコン薄膜に比べて水素の含有量が少ないことが分かる。計測した結果、本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜3は、約0.006%の水素を含み、従来の方法によるシリコン薄膜は、0.8%の酸素を含むことが分かった。
【0028】
このように、本発明のシリコン薄膜の製造方法によれば、シリコン薄膜3中の不純物の含有量も低減できる。
前記のような特徴を有する本発明のシリコン薄膜の製造方法により形成されたシリコン薄膜3は、ELA(Excimer Laser)などにより熱処理されて結晶化することができる。
【0029】
以上、本願発明の理解を助けるためにいくつかの模範的な実施形態を、添付された図面とともに説明したが、このような実施形態は単に広い発明を例示し、それを制限しないということを理解しなければならない。また、本願発明は図示及び説明された構造に限定されないということも理解されねばならない。これは多様な他の修正が当業者により行われ得るためである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、シリコン薄膜の関連技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るシリコン薄膜の製造方法によって製造されたシリコン薄膜を示す概略的断面図である。
【図2】本発明のシリコン薄膜の製造方法で適用するIBD装置の概略的構造を示す図である。
【図3A】本発明のシリコン薄膜の製造方法によって形成されたシリコン薄膜のSEMイメージを示す図である。
【図3B】本発明のシリコン薄膜の製造方法によって形成されたシリコン薄膜のSEMイメージを示す図である。
【図3C】従来のシリコン薄膜の製造方法(LPCVD)によって形成されたシリコン薄膜のSEMイメージを示す図である。
【図4】本発明のシリコン薄膜の製造方法によるシリコン薄膜(IBD)と、LPCVD法による従来のシリコン薄膜(LPCVD)、そして、クリスタルシリコン(x−Si)の光学的特性を示すグラフである。
【図5A】本発明のシリコン薄膜の製造方法による、IBDによって形成されたシリコン薄膜の不純物含有量の差を示すRBSによって測定された結果を示すグラフである。
【図5B】従来のシリコン薄膜の製造方法による、スパッタリングによって形成されたシリコン薄膜の不純物含有量の差を示すRBSによって測定された結果を示すグラフである。
【図6A】本発明のシリコン薄膜の製造方法による、IBDによって形成されたシリコン薄膜と、従来のシリコン薄膜の製造方法による、スパッタによって形成されたシリコン薄膜と、の不純物において、酸素の含有量を示すSIMS結果を示すグラフである。
【図6B】本発明のシリコン薄膜の製造方法による、IBDによって形成されたシリコン薄膜と、従来の方法による、スパッタによって形成されたシリコン薄膜と、の不純物において、水素の含有量を示すSIMS結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1 シリコンウェーハまたはプラスチック基板
2 SiOバッファ層
3 非晶質シリコン(a−Si)薄膜
10 チャンバ
11 基板装着部
21 メインRFICPソース
21a フォーカスレンズ型グリッド
22 補助RFICPソース
22a グリッド
30 ターゲット組立体
31 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をチャンバ内に配置するステップと、
イオンビーム蒸着を250℃以下の温度条件で行うことによって前記基板上にシリコン薄膜を形成するステップと、
を含むことを特徴とするシリコン薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記イオンビーム蒸着が行われるチャンバの基本気圧を10-12Torr以上10-7Torr以下に調節することを特徴とする請求項1に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記イオンビーム蒸着を行う装置は、ターゲットに対応するメイン高周波誘導結合プラズマソースと、前記基板に対応する補助高周波誘導結合プラズマソースと、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記メイン高周波誘導結合プラズマソース及び前記補助高周波誘導結合プラズマソースは、フィラメントのない構造であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記メイン高周波誘導結合プラズマソースは、イオンビームを前記ターゲットに集中させるためのフォーカスレンズ型グリッドを備えることを特徴とする請求項3に記載のシリコン薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公開番号】特開2006−140477(P2006−140477A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323464(P2005−323464)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】