説明

シリコン酸化膜面保護用粘着フィルム

【課題】貼付している間はシリコン酸化膜面に対して高い密着性を有し、剥離除去の際には煩雑な処理を行うことなく容易に剥離することができ、且つ、カッティング等の加工の際には粘着フィルム由来の糊カスが発生しないシリコン酸化膜面保護用粘着フィルムを提供する。
【解決手段】粘着剤層に含まれるメタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)との構成比率が異なる2種以上のM−A−M型トリブロック共重合体と、フタル酸エステル系可塑剤との配合比を調整したシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン酸化膜面への密着性に優れ、且つ、カッティングにより粘着フィルム由来の糊カスが発生しない非汚染性のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路は、結晶成長させた単結晶インゴット等を切断、研削、研磨等することで得られたウエハの表面に回路パターンを形成後、薄化のためにウエハの裏面を研削し、個々のチップに分割するためにダイシングすることにより製造される。かかる製造工程中では、薄化したウエハの破損や、研磨屑、薬液等によるウエハの汚染が生じ得るため、これらの防止を目的としてウエハ表面保護用粘着フィルムが用いられている。ウエハ表面保護用粘着フィルムは、最終的にはウエハの表面から剥離されるものであることから、ウエハの表面に貼付されている間は、薬液処理の際にウエハと粘着フィルムとの間に水や薬液が浸入しない程度の高い密着性と接着性とを有し、ウエハ表面から剥離除去する際にはウエハが破損しない程度の易剥離性を有することが望ましい。
【0003】
かかる特性を有するウエハ表面保護用粘着フィルムとしては、基材フィルムの片表面に放射線硬化型の粘着剤層と貯蔵弾性率が特定の範囲にある粘着剤層とを設けたもの(特許文献1参照)や、基材フィルム層と粘着層との間に熱分解性のヒドラジド化合物を含有する膨張層を有するもの(特許文献2参照)が報告されている。
【0004】
しかしながら、上記粘着フィルムによれば、ウエハ裏面の研削加工、薬液処理等の際にはウエハ表面に対して高い密着性を有し、ウエハ表面から粘着フィルムを剥離除去する際には易剥離性を有しているが、ウエハ表面から粘着フィルムを剥離除去する際に放射線照射や加熱といった煩雑な処理を必要とし、作業性が良好とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53819号公報
【特許文献2】特開2005−332900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般にウエハ表面保護用粘着フィルムといっても、ウエハ表面の状態によって粘着フィルムに求められる特性は異なる。例えば、シリコンウエハの表面に二酸化ケイ素膜を形成させたシリコン酸化膜面は、通常のウエハ表面に比して粘着フィルムの接着性や密着性が劣る貼付対象である。また、かかる粘着フィルムは、シリコン酸化膜面に貼付するためにウエハの形状にカッティングされるが、その際の粘着フィルム由来の糊カスがウエハの汚染の原因となり、問題となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、貼付している間はシリコン酸化膜面に対して高い密着性を有し、剥離除去の際には、上記特許文献において報告されているような煩雑な処理を行うことなく容易に剥離することができ、且つ、カッティング等の加工の際には、粘着フィルム由来の糊カスが発生しないシリコン酸化膜面保護用粘着フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、シリコン酸化膜面保護に好適な粘着フィルムを創製するために鋭意研究する中で、粘着剤層の主剤として、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)とからなるM−A−M型トリブロック共重合体を2種以上含むトリブロック共重合体混合物を用い、これにフタル酸エステル系可塑剤を配合することで、貼付期間中の適度な接着性と高い密着性、剥離除去の際の易剥離性、及び加工の際の非汚染性の3つの特性を併せ持つ粘着フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)基材上に、粘着剤層と、剥離層とが順次形成された粘着フィルムにおいて、該粘着剤層が、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)とからなる質量平均分子量10,000〜200,000のM−A−M型トリブロック共重合体を2種以上含むトリブロック共重合体混合物と、質量平均分子量300〜1000のフタル酸エステル系可塑剤と、を含有し、該トリブロック共重合体混合物は、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が70質量%以上であるトリブロック共重合体(X)と、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が60質量%以下であるトリブロック共重合体(Y)と、を含み、該トリブロック共重合体混合物における該トリブロック共重合体(X)の占める割合が50質量%以上であり、該フタル酸エステル系可塑剤が、該トリブロック共重合体混合物100質量部に対して15〜32.5質量部配合されていることを特徴とするシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【0010】
(2)該トリブロック共重合体混合物は、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が72〜80質量%であるトリブロック共重合体(X)と、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が45〜55質量%であるトリブロック共重合体(Y)と、からなることを特徴とする(1)に記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【0011】
(3)該トリブロック共重合体混合物における該トリブロック共重合体(X)の占める割合が、50〜97.5質量%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【0012】
(4)剥離速度300mm/min、剥離距離150mm、試験体幅20mmの180°剥離試験条件で測定した、シリコン酸化膜面に貼付して0.5時間経過後の剥離強度が0.01〜1.00N/20mmであることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着フィルムによれば、粘着剤層の主剤として、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)との割合が異なる2種以上のM−A−M型トリブロック共重合体を含むトリブロック共重合体混合物を用い、これにフタル酸エステル系可塑剤が配合されているので、シリコン酸化膜面であっても良好な接着性と密着性とを得ることができる。そのため、ウエハと粘着フィルムとの間に水や薬液が浸入しない。また、本発明の粘着フィルムによれば、シリコン酸化膜面から剥離除去する際には特別な処理を行うことなく容易に剥離することができる。さらに、本発明の粘着フィルムによれば、カッティング等の加工の際に粘着フィルム由来の糊カスが発生しないのでウエハの汚染を生じない。したがって、シリコン酸化膜面保護用として好適な粘着フィルムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
本発明のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム(以下、粘着フィルムとする。)は、基材上に、粘着剤層と、剥離層とが順次形成され、粘着剤層が、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)とからなる質量平均分子量10,000〜200,000のM−A−M型トリブロック共重合体を2種以上含むトリブロック共重合体混合物と、質量平均分子量300〜1000のフタル酸エステル系可塑剤と、を含有し、該トリブロック共重合体混合物は、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が70質量%以上であるトリブロック共重合体(X)と、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が60質量%以下であるトリブロック共重合体(Y)と、を含み、該トリブロック共重合体混合物における該トリブロック共重合体(X)の占める割合が50質量%以上であり、該フタル酸エステル系可塑剤が、該トリブロック共重合体混合物100質量部に対して15〜32.5質量部配合されている。
【0016】
本発明では、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が異なる2種以上のM−A−M型トリブロック共重合体を含むトリブロック共重合体混合物とフタル酸エステル系可塑剤とを粘着剤層に使用し、粘着フィルムの物性を調整した点に特徴がある。トリブロック共重合体(X)やトリブロック共重合体(Y)におけるアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合、トリブロック共重合体混合物におけるトリブロック共重合体(X)の占める割合、及びフタル酸エステル系可塑剤の配合量を調整することで、シリコン酸化膜面に対する高い密着性、剥離除去の際の易剥離性、及びカッティング等の加工の際の非汚染性といった特性を粘着フィルムに付与することができる。以下、本発明の粘着フィルムについて、基材、粘着剤層、剥離層の順で説明する。
【0017】
[基材]
基材は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されず、一般的には合成樹脂フィルムが用いられる。合成樹脂フィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ(4−メチル−ペンテン−1)系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、パラ系アラミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。なお、本発明では、この中でも、剛性、伸長性、寸法安定性、柔軟性、積層適性等、耐薬品性の観点から、特に、ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられるが、この中でも、取り扱い易さ、低価格等の観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0019】
基材の厚みは、特に限定されないが、好ましくは12〜188μm、より好ましくは25〜100μmである。上記範囲であれば、粘着フィルムの形態を維持することができるので、粘着フィルムの貼付や剥離等の作業性が良好となる。
【0020】
[粘着剤層]
本発明の粘着フィルムを形成する粘着剤層には、トリブロック共重合体混合物と、フタル酸エステル系可塑剤と、が含まれる。そして、トリブロック共重合体混合物は、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)との占める割合が異なる2種以上のM−A−M型トリブロック共重合体を含有する。そして、該M−A−M型トリブロック共重合体の少なくとも2種は、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が70質量%以上であるトリブロック共重合体(X)と、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が60質量%以下であるトリブロック共重合体(Y)とであり、トリブロック共重合体混合物におけるトリブロック共重合体(X)の占める割合は50質量%以上であり、好ましくは50〜97.5質量%であり、より好ましくは50〜85質量%である。アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が上記範囲であるトリブロック共重合体(X)とトリブロック共重合体(Y)とを含み、且つ、該トリブロック共重合体(X)の占める割合が上記範囲であれば、後述するフタル酸エステル系可塑剤との配合比を調整することで、シリコン酸化膜面に対して高い密着性を有するので薬液等の侵入を防止することができ、また、剥離除去の際には、ウエハが破損することなく容易に剥離することができ、さらに、カッティング等の加工の際には、粘着フィルム由来の糊カスが発生しないので、ウエハ等に対して非汚染性の粘着フィルムを形成することができる。
【0021】
なお、粘着剤層に含まれるトリブロック共重合体混合物は、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が72〜80質量%であるトリブロック共重合体(X)と、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が45〜55質量%であるトリブロック共重合体(Y)とからなることが好ましい。上記範囲であれば、後述するフタル酸エステル系可塑剤との配合比を調整することで、シリコン酸化膜面に対して良好な接着性と密着性と非汚染性とを併せ持つ粘着フィルムを形成することができる。
【0022】
上記の質量平均分子量とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合とを満たすトリブロック共重合体(X)としては、特に限定されないが、具体的には、例えばLA2140e(クラレ社製)、LA410L(クラレ社製)等の商品名で市販されているものを好適に使用することができる。また、上記の質量平均分子量とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合とを満たすトリブロック共重合体(Y)についても、特に限定されるものではなく、具体的には、例えばLA4285(クラレ社製)の商品名で市販されているものを好適に使用することができる。
【0023】
M−A−M型トリブロック共重合体の質量平均分子量(GPCによる測定)は、各々10,000〜200,000であり、好ましくは45,000〜200,000である。上記範囲であれば、粘着剤層として十分な凝集力を示す。
【0024】
粘着剤層に含まれるフタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ヘプチルノニル(HNP)、フタル酸ジ−n−オクチル(DNOP)、フタル酸ジ−i−オクチル(DCapP)、フタル酸ジ−i−デシル(DIDP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ブチルベンジル(BDP)、エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)、ブチルフタリルブチルグリコレート(BPBG)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用してもよい。なお、本発明では、この中でも、汎用性の観点から、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)を用いることが好ましい。
【0025】
フタル酸エステル系可塑剤の配合量は、トリブロック共重合体混合物100質量部に対して15〜32.5質量部であり、好ましくは15〜30質量部である。なお、2種以上を併用する場合には、全体としての配合量を意味する。上記範囲であれば、シリコン酸化膜面に対する高い密着性と、剥離除去の際の易剥離性と、カッティングの際のウエハに対する非汚染性と、を併せ持つ粘着フィルムを形成することができる。なお、フタル酸エステル系可塑剤の質量平均分子量(GPCによる測定)は、300〜1000であり、好ましくは300〜700である。上記範囲であれば、粘着剤溶液への溶解性が良好である。
【0026】
その他、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、金属キレート剤、界面活性剤、酸化防止剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、着色剤、耐電防止剤、防腐剤、消泡剤、ぬれ性調整剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0027】
粘着剤層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、印刷、コーティング等による方法が挙げられる。また、粘着剤層の厚みは、シリコン酸化膜面の状態、形状等を勘案し、シリコン酸化膜面に対する接着性と密着性とを損なわない範囲で適宜選択することができ、通常、10〜60μm、好ましくは20〜50μmである。上記範囲であれば、貼付の際にはシリコン酸化膜面に対して高い密着性を有し、且つ、剥離除去の際には易剥離性を有する粘着フィルムを形成することができる。
【0028】
[剥離層]
剥離層は、粘着剤層の上に積層された剥離性を有する剥離部材からなり、粘着剤層の表面を保護する機能を有する。剥離部材は、必要な強度や柔軟性を有するものであれば、特に限定されず、一般的にはシリコーン離型処理した合成樹脂フィルムが用いられる。合成樹脂フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等ポリエステル系樹脂が好ましい。なお、剥離層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは25〜125μmである。
【0029】
本発明の粘着フィルムは、有機溶剤に溶解させた粘着剤(以下、粘着剤溶液とする。)を基材に塗布し、これを乾燥して、所望の厚さの粘着剤層を形成することにより製造できる。有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸ブチル、アセトン、これらの混合溶液等が挙げられる。基材に粘着剤溶液を塗布する方法としては、従来公知の方法、例えばロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、コンマコート法等が挙げられる。塗布された粘着剤の乾燥条件は、特に限定されないが、通常、40〜120℃の温度範囲において30秒〜3分間乾燥する。本発明の粘着フィルムの厚みは、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、47〜373μmである。
【0030】
本発明の粘着フィルムは、剥離速度300mm/min、剥離距離150mm、試験体幅20mmの180°剥離試験(「JIS Z0237」に準拠)条件で測定した、シリコン酸化膜面に貼付して0.5時間経過後の剥離強度が0.01〜1.00N/20mmであることが好ましく、0.01〜0.30N/20mmであることがより好ましい。上記範囲であれば、シリコン酸化膜面と粘着フィルムとの間の薬液等の侵入を防止することができ、粘着フィルムを剥離除去する際には特別な処理を行うことなく、容易に剥離することができる。
【0031】
本発明の粘着フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲において、印刷層等の他の層が積層されていてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[材料]
<トリブロック重合体(X)>
LA2140e(クラレ社製):アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合72〜80質量%、固形分100%、分子量約80,000
LA410L(クラレ社製):アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合72〜80質量%、固形分100%、分子量約160,000
<トリブロック重合体(Y)>
LA4285(クラレ社製)アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合45〜55質量%、固形分100%、分子量約67,000
<フタル酸エステル系可塑剤>
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)(ジェイプラス社製)、分子量390.6
【0034】
[粘着フィルムの形成方法]
アプリケータを用いて、基材(PETフィルム,商品名「S105」,膜厚50μm,東レ社製)のコロナ処理面に乾燥後の膜厚が40μmとなるように、表1,2に示す組成の粘着剤溶液(希釈溶剤:トルエン100gに溶解)を塗工し、粘着剤層を形成した。次いで、粘着剤層中の希釈溶剤をオーブンにより揮発させ(90℃,1分間)、乾燥後の粘着剤層の塗工面に剥離層(PETセパレーターフィルム,商品名「0010BD」,膜厚50μm,藤森工業社製)の剥離処理面をラミネートし、常温常湿にて1日間のエージング処理を行い、粘着フィルムを形成した。
【0035】
上記方法により形成した各粘着フィルムについて、以下の項目の評価を行った。結果を表1(比較例1〜37)、表2(実施例1〜15、比較例38〜52)、及び表3(実施例16〜30、比較例53〜68)に示す。
【0036】
[剥離強度]
粘着フィルムを20mm幅に切断し、試験片を作製した。この試験片を、CVD炉にて、ターゲット:20Å、雰囲気:ヘリウムガスベース,モノシラン,酸素ガス、温度:400℃、保持時間:15秒の条件でCZ法により単結晶シリコンウエハ面にCVD酸化膜を形成した酸化膜面に2kgローラーを用いてラミネートし、常湿常温下にて0.5時間放置した。そして、引張り試験機(RTF−1150−H)を用いて、常湿常温下での剥離強度を測定(速度:300mm/min,剥離距離:150mm,剥離角:180°)した(JIS Z0237に準拠)。そして、剥離強度が0.01〜0.30N/20mmの場合を◎、0.30N/20mmを超えて、1.00N/20mmまでの場合を○、0.01N/20mm未満等貼着不可の場合と、1.00N/20mmを超える場合とを×として評価した。
【0037】
[フッ化水素酸処理後のシリコン酸化膜端部における干渉縞の幅の確認]
粘着フィルムとシリコン酸化膜面との密着性を調べるために、フッ化水素酸処理後のシリコン酸化膜端部における干渉縞の幅を測定した。粘着フィルムとシリコン酸化膜面との密着性が低いと、薬液の侵入により、シリコン酸化膜端部の干渉縞の幅が広くなる。
粘着フィルムを2cm×10cmの大きさにカッターナイフにて切断し、試験片を作製した。この試験片を、CVD炉にて単結晶シリコンウエハ面にCVD酸化膜を形成した酸化膜面に、2kgローラーを用いて貼付した。なお、酸化膜の形成は、CZ法(ターゲット:20Å、雰囲気:ヘリウムガスベース,モノシラン,酸素ガス、温度:400℃、保持時間:15秒)により行った。酸化膜に試験片を貼付し、常湿常温下にて0.5時間放置した後、フッ化水素酸処理を行った。その後、試験片を剥離し、酸化膜端部の干渉縞幅を高倍率顕微鏡(VHX−600、キーエンス社製、倍率2,000)にて確認し、その幅を測定した。そして、干渉縞幅が30μm未満の場合を○、30〜40μmの場合を△、40μmを超える場合を×として評価した。なお、試験片の剥離は、引張り試験機(RTF−1150−H)を用い、速度300mm/min、剥離距離150mm、剥離角180°の条件にて行った。
【0038】
[学振摩擦試験後における糊カスの発生の確認]
学振摩擦試験(JIS L0849準拠)後における粘着剤由来の糊カス(幅1mm以上)発生の有無を確認した。試験装置にJIS L0849準拠のAB−301学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業製)を用い、粘着フィルムの試験片の大きさは、3cm×22cmとした。摩擦子の先端にJIS L0803準拠のJIS染色堅牢度試験用綿(財団法人 日本規格協会製)をかぶせ、200gの荷重にて、試験台(表面半径:200mm,形状:かまぼこ板型)上に固定した試験片22cmの間を毎分30回の往復速度で20回往復摩擦した後、試験片上の糊カスの発生の有無を確認した。確認は目視及び光学顕微鏡(VHX−600、キーエンス社製、倍率100)にて行った。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3に示す対ウエハ剥離強度、干渉縞の幅、及び糊カスの発生の結果より、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が70質量%以上であるトリブロック重合体(X)LA2140e又はLA410Lと、アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が60質量%以下であるトリブロック重合体(Y)LA4285と、フタル酸エステル系可塑剤であるDOPとの配合比を調整することで、シリコン酸化膜面に対する高い密着性、剥離除去の際の易剥離性、及びカッティング等の加工の際の非汚染性といった特性を併せ持つ粘着フィルムを形成できることが確認された。また、トリブロック重合体(X)としてLA410Lを用いた粘着フィルムは、LA2140eを用いた粘着フィルムに比して、対ウエハ剥離強度の評価結果が優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、粘着剤層と、剥離層とが順次形成された粘着フィルムにおいて、
該粘着剤層が、メタクリル酸メチル重合体ブロック(M)とアクリル酸ブチル重合体ブロック(A)とからなる質量平均分子量10,000〜200,000のM−A−M型トリブロック共重合体を2種以上含むトリブロック共重合体混合物と、質量平均分子量300〜1000のフタル酸エステル系可塑剤と、を含有し、
該トリブロック共重合体混合物は、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が70質量%以上であるトリブロック共重合体(X)と、該アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が60質量%以下であるトリブロック共重合体(Y)と、を含み、
該トリブロック共重合体混合物における該トリブロック共重合体(X)の占める割合が50質量%以上であり、
該フタル酸エステル系可塑剤が、該トリブロック共重合体混合物100質量部に対して15〜32.5質量部配合されていることを特徴とするシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【請求項2】
前記トリブロック共重合体混合物は、前記アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が72〜80質量%であるトリブロック共重合体(X)と、前記アクリル酸ブチル重合体ブロック(A)の占める割合が45〜55質量%であるトリブロック共重合体(Y)と、からなることを特徴とする請求項1に記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【請求項3】
前記トリブロック共重合体混合物における前記トリブロック共重合体(X)の占める割合が、50〜97.5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。
【請求項4】
剥離速度300mm/min、剥離距離150mm、試験体幅20mmの180°剥離試験条件で測定した、シリコン酸化膜面に貼付して0.5時間経過後の剥離強度が0.01〜1.00N/20mmであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のシリコン酸化膜面保護用粘着フィルム。

【公開番号】特開2010−163597(P2010−163597A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216432(P2009−216432)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】