説明

シリコーンエラストマー多孔質体

【課題】小さなセルサイズを有する実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体を提供する。
【解決手段】硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から調製され、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とするシリコーンエラストマー多孔質体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンエラストマー多孔質体に係り、より具体的には、実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンエラストマー多孔質体は、種々の分野で利用されており、例えば、複写機、レーザプリンタなどの作像部品、例えば、現像ローラ、トナー供給ローラ、転写ローラ、ドラムクリーニングローラに、また複写機、各種プリンタ、プロッタの用紙搬送ローラに使用され、さらには定着装置の加圧ローラにも使用されている。
従来、多孔質体は、主に、発泡現象を利用して製造されている。発泡を生じさせる発泡剤として、化学発泡剤を用いる手法、気体を用いる手法、および水を用いる手法がある。シリコーンエラストマー多孔質体の製造も例外ではなく、ほとんどの場合、これら発泡剤を用いて製造されている。しかしながら、従来のシリコーンエラストマー多孔質体の製造方法では、シリコーンゴムの硬化と発泡を同時に行っているため、得られる多孔質体中のセル(気泡)のサイズが均一でなく、大きくばらつくばかりでなく、微細なサイズのセルを形成させることが困難である。
【0003】
これに対し、特許文献1には、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン、特定の架橋剤、硬化触媒、乳化剤等を含有する室温硬化型のオルガノポリシロキサンエマルジョンを冷凍して凍結し、解凍することなく水を昇華させて乾燥することによってシリコーンエラストマー多孔質体を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法でも、均一で微細なサイズのセルを有する多孔質体を製造することが困難である。また、この方法によって得られる多孔質体は、連続気泡型である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−287348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発泡剤を用いて製造されたシリコーンエラストマー多孔質体は、セルのサイズが大きく不均一あるため、加熱時の形状が安定しないとともに、トルクがかかったときにその力を均一に分散させることができず、破断しやすいという問題がある。また、セルのサイズが大きいと、多孔質体を例えば加圧ローラに使用したとき、セル目が画像に現れてしまう。また、多孔質体が連続気泡型である場合には、破断しやすいという問題もある。従って、セルサイズが小さく均一な独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体が望まれている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、小さなセルサイズを有する実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から調製され、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とするシリコーンエラストマー多孔質体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1で作製したシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【図2】実施例2で作製したシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【図3】比較例1のシリコーンエラストマー多孔質体の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体は、シリコーンエラストマーで作られた母体(マトリックス)とこの母体中に分散・分布した多数の閉じたセル(独立気泡)を含むものと表現することができる。
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とする実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体である。
以後詳述する独立気泡数の割合の指標となる単泡率が、60%未満であると、多孔質体の強度が弱くなる。
【0009】
さらに、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、セルの径が0.1μm〜70μmの範囲内にあり得、さらにセルの径は、0.1〜60μmの範囲内にあり得る。また、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、50μm以下の径を有するセルが全セル数の80%以上を占めることができる。
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体では、下記式(A)
(A):0≦(m−n)/m≦0.5
(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される長径と短径との関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占めることができる。
式(A)は、セルがどの程度真球に近いか(真球度)を表す尺度である。本発明のシリコーンエラストマー多孔質体においては、下記式(B)によって与えられる条件をも満足するセルが、全セル数の80%以上を占めることができる。
(B):0≦(m−n)/n≦0.5
ここで、セルの長径mとは、シリコーンエラストマー多孔質体の断面に現れる各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最大2点間直線距離を意味し、短径nとは、各セルについて、そのほぼ中心を通る、セルの輪郭上の最小2点間距離を意味する。より具体的には、シリコーン多孔質体の任意の断面をSEMで撮影し、100〜250個程度のセルが存在する領域で各セルの長径mと短径nを計測する。この計測は、ノギスを用いて手作業で行うことができる。なお、平均セル径は、画像処理により行うこともできる。画像処理は、例えば、TOYOBO製解析ソフト「V10 for Windows (登録商標)95 Version 1.3」を用いて行うことができる。
【0010】
各セルの径は、各セルの長径mと短径nの和を2で除した値に相当する。
いうまでもなく、セルが真球の場合には、m=nとなる。
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、30μm以下、さらには10μm以下の平均セル径を有することができる。
上記100〜250個程度のセルが存在する領域におけるセルサイズ特性が、多孔質体全体のセルサイズ特性を表すほど、本発明の多孔質体は、セル径が均一である。いいかえると、本発明の多孔質体は、その任意断面において、100〜250個のセルが存在する矩形領域において、上記本発明で規定するセルサイズ特性(セルサイズ、平均セルサイズ、50μm以下のセルサイズを有するセルの占める割合、真球度等)を示す。このような断面積の任意領域におけるセルサイズ特性は、多孔質体の全体のセルサイズ特性、例えば、160mm(幅)×400mm(長さ)×15mm(厚さ)までの大きさの多孔質体の全体のセルサイズ特性を表し得ることが確認されている。従来、100〜250個のセルが存在する矩形領域において、本発明で規定するセルサイズ特性を示す多孔質体は存在しなかった。
【0011】
既述のように、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、実質的に独立気泡型のものである。多孔質体の全セル数のうち、閉じたセル(独立気泡)がどの程度の割合で存在するかは、「単泡率」で表現することができる。この単泡率は、以下の実施例の項で説明したように測定することができる。本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、60%以上の単泡率を有することができ、さらには80%以上の単泡率を有することができる。
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、基本的に、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、および水を含有する油中水型エマルジョンから製造することができる。その際、液状シリコーンゴム材が低い粘度を有する場合には、液状シリコーンゴム材と水を十分に攪拌し、エマルジョンを生成させ、その後すぐに加熱して硬化させることができる。しかしながら、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材および水とともに、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を含有する油中水型エマルジョンから好適に製造することができる。
【0012】
液状シリコーンゴム材は、加熱により硬化してシリコーンエラストマーを生成するものであれば特に制限はないが、いわゆる付加反応硬化型液状シリコーンゴムを使用することが好ましい。付加反応硬化型液状シリコーンゴムは、主剤となる不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンを含む。不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンにおいて、不飽和脂肪族基は、両末端に導入され、側鎖としても導入され得る。そのような不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンは、例えば、下記式(1)で示すことができる。
【化1】

【0013】
式(1)において、R1は、不飽和脂肪族基を表し、各R2は、C1〜C4低級アルキル基、フッ素置換C1〜C4低級アルキル基、またはフェニル基を表す。a+bは、通常、50〜2000である。R1によって表される不飽和脂肪族基は、通常、ビニル基である。各R2は、通常、メチル基である。
【0014】
活性水素含有ポリシロキサン(ハイドロジェンポリシロキサン)は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンに対し架橋剤として作用するものであり、主鎖のケイ素原子に結合した水素原子(活性水素)を有する。水素原子は、活性水素含有ポリシロキサン1分子当たり3個以上存在することが好ましい。そのような活性水素含有ポリシロキサンは、例えば、下記式(2)で示すことができる。
【化2】

【0015】
式(2)において、R3は、水素またはC1〜C4低級アルキル基を表し、R4は、C1〜C4低級アルキル基を表す。c+dは、通常、8〜100である。R3およびR4で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。
【0016】
これら液状シリコーンゴム材は、市販されている。なお、市販品では、付加反応硬化型液状シリコーンゴムを構成する不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとは別々のパッケージで提供され、以後詳述する両者の硬化に必要な硬化触媒は、活性水素含有ポリシロキサンに添加されている。いうまでもなく、液状シリコーンゴム材は、2種類以上を併用して用いることができる。
界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、エマルジョン中に水を安定に分散させるための分散安定剤として作用するものである。すなわち、この界面活性作用を有するシリコーンオイル材は、水に対し親和性を示すとともに、液状シリコーンゴム材に対しても親和性を示すものである。このシリコーンオイル材は、エーテル基等の親水性基を有することが好ましい。また、このシリコーンオイル材は、通常3〜13、好ましくは4〜11のHLB値を示す。より好ましくは、HLB値が3以上異なる2種類のエーテル変性シリコーンオイルを併用する。その場合、さらに好ましくは、7〜11のHLB値を有する第1のエーテル変性シリコーンオイルと、4〜7のHLB値を有する第2のエーテル変性シリコーンオイルとを組み合わせて使用する。いずれのエーテル変性シリコーンオイルも、ポリシロキサンの側鎖にポリエーテル基を導入したものを用いることができ、例えば、下記式(3)で示すことができる。
【化3】

【0017】
式(3)において、R5は、C1〜C4低級アルキル基を表し、R6は、ポリエーテル基を表す。e+fは、通常、8〜100である。R5で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。また、R6により表されるポリエーテル基は、通常、(C24O)x基、(C36O)y基、または(C24O)x(C36O)y基を含む。主に、x、yの数により、HLB値が決定される。これら界面活性作用を有するシリコーンオイル材は市販されている。
【0018】
水は、いうまでもなく、上記油中水型エマルジョン中において、粒子(水滴)の形態で不連続相として分散して存在する。後に詳述するように、この水粒子の粒径が、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体のセル(気泡)の径を実質的に決定する。
【0019】
上記油中水型エマルジョンは、液状シリコーンゴム材を硬化させるために、硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、それ自体既知のように、白金触媒を用いることができる。白金触媒の量は、白金原子として、1〜100重量ppm程度で十分である。硬化触媒は、シリコーンエラストマー多孔質体を製造する際に上記油中水型エマルジョンに添加してもよいが、上記油中水型エマルジョンを製造する際に配合することもできる。
【0020】
上記油中水型エマルジョンにおいて、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、界面活性作用を有するシリコーンオイル材を0.2〜5.5重量部の割合で、水を10〜250重量部の割合で使用することが、水分散安定性に特に優れたエマルジョンを得る上で好ましい。そのような水分散安定性に優れたエマルジョンを使用することにより、良好な多孔質体をより一層安定に製造することができる。
界面活性作用を有するシリコーンオイル材が、前記第1のエーテル変性シリコーンオイルと前記第2のエーテル変性シリコーンオイルとの組合せからなる場合、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、第1のエーテル変性シリコーンオイルを0.15〜3.5重量部の量で、第2のエーテル変性シリコーンオイルを0.05〜2重量部の量(合計0.2〜5.5重量部)で用いることが好ましい。また、液状シリコーンゴム材が不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せからなる場合、前者と後者の重量比は、6:4〜4:6であることが好ましい。
【0021】
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、その用途に応じて、種々の添加剤を含有することができる。そのような添加剤としては、着色料(顔料、染料)、導電性付与材(カーボンブラック、金属粉末等)、充填材(シリカ等)を例示することができる。これら添加剤は、上記油中水型エマルジョンに配合することができる。さらに、上記油中水型エマルジョンは、例えば、脱泡を容易にすること等を目的としてエマルジョンの粘度を調整するために、分子量の低い、非反応性のシリコーンオイルを含有することができる。上記油中水型エマルジョンは、1cSt〜20万cStの粘度を有すると、脱泡が容易に行え、取り扱いに都合がよい。
【0022】
上記油中水型エマルジョンは、種々の方法により製造することができる。一般的には、液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を、必要に応じてさらなる添加剤とともに、混合し、十分に撹拌することによって製造される。液状シリコーンゴム材が、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せにより提供される場合には、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の一部を混合・撹拌して第1の混合物を得、他方活性水素含有ポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の残りを混合・撹拌して第2の混合物を得ることができる。ついで、第1の混合物と第2の混合物を混合・撹拌しながら、徐々に水を添加して、撹拌することにより所望のエマルジョンを得ることができる。いうまでもなく、上記油中水型エマルジョンの製造方法はこれに限定されるものではない。液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水、並びに必要に応じて添加される添加剤の添加順序は、どのようなものでもよい。好適な油中水型エマルジョンを形成させるための撹拌は、例えば、300rpm〜1000rpmの攪拌器回転速度で行うことができる。エマルジョン形成後、油中水型エマルジョンを、加熱することなく、例えば真空減圧機を用いて、脱泡処理に供してエマルジョン中に存在する空気を除去することができる。
【0023】
上記油中水型エマルジョンを用いてシリコーンエラストマー多孔質体を製造するためには、硬化触媒の存在下に、上記油中水型エマルジョンを液状シリコーンゴム材の加熱硬化(一次加熱)条件に供することができる。一次加熱では、エマルジョン中の水を揮発させることなく、液状シリコーンゴム材を加熱硬化させるために、130℃以下の加熱温度を用いることが好ましい。一次加熱の際の加熱温度は、通常、80℃以上であり、加熱時間は、通常、5分〜60分程度である。この一次加熱により、液状シリコーンゴム材が硬化し、エマルジョン中の水粒子をエマルジョン中の状態のまま閉じ込める。硬化したシリコーンゴムは、以下述べる二次加熱による水分の蒸発の際の膨張力に耐える程度までに硬化する。
【0024】
次に、水粒子を閉じ込めた硬化シリコーンゴムから水分を除去するために、二次加熱を行う。この二次加熱は、70℃〜300℃の温度で行うことが好ましい。加熱温度が70℃未満では水の除去に長時間を要し、加熱温度が300℃を超えると、硬化したシリコーンゴムが劣化し得る。70℃〜300℃の加熱では、1時間〜24時間で水分は揮発除去される。二次加熱により水分が揮発除去されるとともに、シリコーンゴム材の最終的な硬化も達成される。揮発除去された水分は、硬化したシリコーンゴム材(シリコーンエラストマー)中に、水粒子の粒径にほぼ等しい径を有するセルを残す。
【0025】
このように、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、発泡現象を伴うことなく上記油中水型エマルジョンから製造することができる。上記油中水型エマルジョン中の水粒子は、一次加熱により硬化したシリコーンゴムに閉じ込められ、二次加熱の際には、単に揮発するだけである。
【0026】
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、種々の分野で利用することができる。例えば、複写機、レーザプリンタなどの作像部品、例えば、現像ローラ、トナー供給ローラ、転写ローラ、ドラムクリーニングローラに、また複写機、各種プリンタ、プロッタの用紙搬送ローラに使用することができ、さらには定着装置の加圧ローラにも使用することができる。いずれのローラも基本構成は同じであり、芯金の周りに、本発明のシリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を有する。弾性層の厚さは、個々のローラにより異なるが、一般的に、0.1mm〜15mm程度であり、長さは通常、400mmまでである。芯金の外径も、個々のローラにより異なるが、通常、5mm〜50mm程度である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
以下の例において、シリコーンエラストマー多孔質体の単泡率は以下のようにして求めた。
<単泡率の測定>
本発明のシリコーンエラストマー多孔質体は、表面張力が高く、そのセルは微細であるため、水が侵入しにくい。そこで、シリコーンエラストマー多孔質体の水に対する濡れ性を向上させるために、界面活性剤を用いる。
すなわち、製造したシリコーンエラストマー多孔質体の表層(表面から約1.0mm程度)を除去し、その多孔質体の重量(吸水前多孔質体重量)を測定する。この多孔質体を水100重量部と親水性シリコーンオイル(ポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製KF−618))1重量部との混合溶液に浸漬し、減圧(70mmHg)下で10分間放置する。その後、大気圧に戻し、混合溶液から多孔質体を取り出し、多孔質体表面に付着している水をきれいに拭き取り、多孔質体の重量(吸水後多孔質体重量)を測定する。下記式から吸水率、連泡率、単泡率を順次算出する。
吸水率(%)={(吸水後多孔質体重量−吸水前多孔質体重量)/吸水前多孔質体重量}×100
連泡率(%)=(多孔質体比重×吸水率/100)/{混合溶液の比重−(多孔質体比重/シリコーンエラストマーの比重)}×100
単泡率(%)=100−連泡率(%)
ここで、シリコーンエラストマーの比重は、液状シリコーンゴム材をそのまま硬化させたものの比重であり、製品カタログにも記載されている。
【0028】
実施例1
本実施例では、液状シリコーンゴム材として、信越化学社から入手した液状シリコーンゴム(商品名KE−1353)を用いた。この液状シリコーンゴムは、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:16Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:15Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者をシリコーンゴムA剤、後者をシリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。また、分散安定剤としては、いずれも信越化学社製ポリエーテル変性シリコーンオイルであるKF−618(HLB値:11);以下、「分散安定剤I」)およびKF−6015(HLB値:4);以下、分散安定剤II)を用いた。本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.04である(カタログ値)。
【0029】
50重量部のシリコーンゴムA剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、50重量部のシリコーンゴムB剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0030】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0031】
得られたエマルジョンを真空減圧機内で脱泡させ、混入空気を除去した後、深さ6mmの圧縮成形金型に流し込み、プレス盤を用いて、設定温度100℃で30分間加熱(一次加熱)し、成形した。得られた成形体(多孔質体前駆体)を電気炉中、150℃で5時間加熱(二次加熱)し、水を除去した。こうして、長さ42mm、幅20mm、厚さ6mmの矩形板状のシリコーンエラストマー多孔質試験片を作製した。この試験片を幅方向に切断し、その切断面をSEMで観察し、セルの長径および短径をノギスで測定し、セルサイズ特性を求めた。また、この試験片について単泡率を測定した。結果を下記表1に示す。また、本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.66であり、硬度(Asker−C)は、40であった。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図1に示す。このように、非常に微細で、均一なセル径を有する独立気泡型多孔質体が得られた。
実施例2
本実施例では、液状シリコーンゴム材として、東レ・ダウコーニング社から入手した液状シリコーンゴム(商品名DY35−7002)を用いた。この液状シリコーンゴムは、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:15Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:7.5Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者をシリコーンゴムA剤、後者をシリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。また、分散安定剤としては、上記分散安定剤I分散安定剤IIを用いた。本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.03である(カタログ値)。
【0032】
50重量部のシリコーンゴムA剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、50重量部のシリコーンゴムB剤に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0033】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0034】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.55であり、硬度(Asker−C)は、56であった。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図2に示す。このように、極めて微細で、均一なセル径を有する独立気泡型多孔質体が得られた。
実施例3
実施例2で用いたシリコーンゴムA剤とシリコーンゴムB剤とを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0035】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本実施例で得られた多孔質エラストマーの比重を測定したところ、0.53であり、硬度(Asker−C)は、58であった。
【0036】
実施例4
本実施例では、実施例2で用いた液状シリコーンゴム材と、東レ・ダウコーニング社から入手した液状シリコーンゴム(商品名DY35−615)を用いた。この液状シリコーンゴムDY35−615は、活性水素含有ポリシロキサン(粘度:113Pa・S)と、ビニル基含有ポリシロキサン(粘度:101Pa・S)とが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者を本シリコーンゴムA剤、後者を本シリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。
【0037】
本シリコーンゴムA剤と実施例2で用いたシリコーンゴムA剤との体積比50:50の混合物50重量部に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Aを調製した。他方、本シリコーンゴムB剤と実施例2で用いたシリコーンゴムB剤との体積比50:50の混合物50重量部に、0.7重量部の分散安定剤Iと0.3重量部の分散安定剤IIとを予め混合した混合物を添加し、ハンドミキサーで5分間撹拌し、十分に分散させて混合物Bを調製した。
【0038】
得られた混合物Aと混合物Bを混合し、ハンドミキサーで3分間撹拌しながら、10重量部の水を添加した後、さらに2分間撹拌した。この混合物をハンドミキサーで撹拌しながら、90重量部の水を徐々に添加し、エマルジョンを調製した。
【0039】
このエマルジョンを用いて、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマー多孔質体試験片を作製し、実施例1と同様にセルサイズ特性を測定し、単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本実施例で用いた液状シリコーンゴム材から得られるシリコーンエラストマー自体の比重は、1.07であった。また、本実施例で得られた多孔質体の比重は、0.60であり、硬度(Asker−C)は、35であった。
【0040】
比較例1
富士ゼロックス社製プリンタAble 1405から加圧ローラを取り外し、その弾性層であるシリコーンエラストマー多孔質体(発泡剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルを用いて発泡させたもの)から試験片を切り出した。この試験片について、実施例1と同様に、セルサイズ特性と単泡率を測定した。結果を下記表1に併記する。なお、本試験片の切断面のSEM写真(倍率100倍)を図3に示す。
【表1】

【0041】
以下に、原出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とする実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体。
[2]式(A):0≦(m−n)/m≦0.5
(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占める上記[1]に記載の多孔質体。
[3]式(B):0≦(m−n)/n≦0.5
で示される関係をも満たすセルが、全セル数の50%以上を占める上記[2]に記載の多孔質体。
[4]30μm以下の平均セル径を有することを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の多孔質体。
[5]80%以上の単泡率を有することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の多孔質体。
[6]セルの径が0.1μm〜70μmの範囲内にあることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の多孔質体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、界面活性作用を有するシリコーンオイル材、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から調製され、50μm以下の径を有するセルが全セル数の50%以上を占め、かつ60%以上の単泡率を有することを特徴とするシリコーンエラストマー多孔質体。
【請求項2】
式(A):0≦(m−n)/m≦0.5
(ここで、mは、セルの長径を表し、nは、セルの短径を表す)で示される関係を満たすセルが、全セル数の50%以上を占める請求項1に記載の多孔質体。
【請求項3】
式(B):0≦(m−n)/n≦0.5
で示される関係をも満たすセルが、全セル数の50%以上を占める請求項2に記載の多孔質体。
【請求項4】
30μm以下の平均セル径を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の多孔質体。
【請求項5】
80%以上の単泡率を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の多孔質体。
【請求項6】
セルの径が0.1μm〜70μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の多孔質体。
【請求項7】
液状シリコーンゴム材が、前記下記式(1)で示されるビニル基含有ポリシロキサンおよび下記式(2)で示される活性水素含有ポリシロキサンを含み、前記シリコーンオイル材が、下記式(3)で示され、HLB値が7〜11である第1のエーテル変性シリコーンオイルおよび下記式(3)で示され、HLB値が4〜7である第1のエーテル変性シリコーンオイル含み、前記第1のエーテル変性シリコーンオイルのHLB値と前記第2のエーテル変性シリコーンオイルのHLB値が3以上異なることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔質体。
式(1):
【化1】

(式(1)において、R1は、ビニル基を表し、各R2は、C1〜C4低級アルキル基を表す。a+bは、50〜2000である。)
式(2):
【化2】

(式(2)において、R3は、C1〜C4低級アルキル基を表し、R4は、C1〜C4低級アルキル基を表す。c+dは、8〜100である。)
式(3):
【化3】

(式(3)において、R5は、C1〜C4低級アルキル基を表し、R6は、ポリエーテル基を表す。e+fは、8〜100である。)
【請求項8】
前記油中水型エマルジョンが、前記液状シリコーンゴム材100重量部当たり、前記第1のエーテル変性シリコーンオイルを0.15〜3.5重量部の割合で、前記第2のエーテル変性シリコーンオイルを0.05〜2重量部の割合で、水を10〜250重量部の割合で含有することを特徴とする請求項7に記載の多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−26617(P2011−26617A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247522(P2010−247522)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【分割の表示】特願2004−141406(P2004−141406)の分割
【原出願日】平成16年5月11日(2004.5.11)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】