説明

シリコーンゴム系硬化性組成物、シリコーンゴムの製造方法、シリコーンゴム、成形体および医療用チューブ

【課題】引張強度および引裂き強度に優れたシリコーンゴムが得られるシリコーンゴム系硬化性組成物、かかるシリコーンゴム系硬化性組成物が用いられたシリコーンゴムの製造方法およびシリコーンゴム、かかるシリコーンゴムが用いられた成形体、ならびに、かかる成形体をチューブ状に形成してなる医療用チューブを提供すること。
【解決手段】
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)と、白金または白金化合物(E)とを含有し、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリコーンゴム系硬化性組成物、シリコーンゴムの製造方法、シリコーンゴム、成形体および医療用チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、難燃性、化学的安定性、耐候性、耐放射線性、電気特性等に優れていることから、幅広い分野において様々な用途に使用されている。
【0003】
例えば、LEDの封止材等の光学材料に、高い透明性を有するシリコーン系樹脂が、キーパッド照光用バックライト装置の光導波板用の材料に、高い強度かつ高い透明性を有するシリコーン系樹脂が用いられている。
【0004】
特に、シリコーンゴムは、生理的に不活性であると共に、生体に触れた場合の体組織に対する反応が少ないため、医療用各種カテーテルや、医療用シーリング材等、医療器具の材料としても利用されている。
【0005】
例えば、医療用カテーテルは、胸腔や腹腔等の体腔、消化管や尿管等の菅腔部、血管等に挿入し、体液の排出や、薬液、栄養剤および造影剤等の注入に用いられる管である。このため、医療用カテーテルには、生体適合性の他、耐傷付き性(耐引裂き性)、耐キンク性(引張強度)、透明性、柔軟性(引張り伸び性)等が要求される。かかる医療用カテーテルの具体例としては、例えば、術後の血液や膿等の排液除去用吸引器のドレナージチューブや、経皮的内視鏡下胃ろう造設術(PEG)等の術後の栄養摂取用チューブ等が挙げられる。
【0006】
また、カテーテル用にシリコーンゴムをチューブ状に形成する場合、シリコーンゴムとなるシリコーンゴム組成物には、押出成形時に良好な成形性が求められる。また、シリコーンゴムを極細チューブ状に成形する場合、シリコーンゴム組成物は、さらに高い引張強度を有さないと千切れてしまう。
【0007】
なお、カテーテルに限らないが、製品中の流動物や液量等を視認するためには、シリコーンゴムが透明性を有することが必要であり、また製品を肉厚にしても内部の視認性を確保できる高い透明性が、シリコーンゴムには求められる場合がある。
【0008】
ここで、医療用カテーテルの材料としては、シリコーンゴムの他、軟質ポリ塩化ビニル等も一般的に使用されている。ポリ塩化ビニル等と比較して、シリコーンゴムは、生体適合性および柔軟性の点において優れるものの、引裂き強度や引張強度等の強度、特に引裂き強度の向上が求められている。シリコーンゴムの引裂き強度が充分でないと、施術中の針や刃物等による傷によってカテーテルが破けたり、あるいはシリコーンゴムの引張強度が充分でないと、カテーテルが折れ曲がって降伏して閉塞(キンク)し、排出されるべき体液や注入されるべき薬液等がカテーテル内で滞留してしまう。
【0009】
そこで、シリコーンゴムの引裂き強度や引張強度を高めるべく、様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜7)。シリコーンゴムに高い引裂き性を付与するための具体的な方法としては、シリコーンゴムにシリカ微粒子等の無機充填材を添加する方法、シリコーンゴムの架橋密度を疎密化させる(シリコーンゴムの系中に架橋密度が高い領域と低い領域とを分布させる)方法等が挙げられる。架橋密度の疎密化による引き裂き性の向上は、架橋密度の高い領域が、引裂き応力に対する抗力として作用することによるものと考えられている。
【0010】
より具体的には、特許文献1では、高粘度および低ビニル基含有量のオルガノポリシロキサン(生ゴム(A))を主体とし、これに、低粘度および高ビニル基含有量のオルガノポリシロキサン(シリコーンオイル(B))、ビニル基含有オルガノポリシロキサン共重合体(ビニル基含有シリコーンレジン(C))、オルガノ水素シロキサン(架橋剤(D))、白金または白金化合物(硬化触媒(E))、および微粉末シリカ(充填剤(F))を配合した硬化性シリコーンゴム組成物が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1のように、ビニル基含有量が高いオルガノポリシロキサンを用い、かつ、ビニル基の含有量が異なるオルガノポリシロキサンと組み合わせて配合しても、架橋点の増加によりシリコーンゴムの引張強度を高めることはできるが、シリコーンゴムに十分な引裂き強度を付与できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−331079号公報
【特許文献2】特開平7−228782号公報
【特許文献3】特開平7−258551号公報
【特許文献4】米国特許3,884,866号公報
【特許文献5】米国特許4,539,357号公報
【特許文献6】米国特許4,061,609号公報
【特許文献7】米国特許3,671,480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、引張強度および引裂き強度に優れたシリコーンゴムが得られるシリコーンゴム系硬化性組成物、かかるシリコーンゴム系硬化性組成物が用いられたシリコーンゴムの製造方法およびシリコーンゴム、かかるシリコーンゴムが用いられた成形体、ならびに、かかる成形体をチューブ状に成形してなる医療用チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的は、下記(1)〜(13)に記載の本発明により達成される。
(1) ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)と、白金または白金化合物(E)とを含有し、
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)を含有することを特徴とするシリコーンゴム系硬化性組成物。
【0015】
(2) 前記分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、下記平均組成式(c)で示されるものである上記(1)に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
平均組成式(c):(H(R3−aSiO1/2(SiO4/2
(式(c)において、Rは一価の有機基、aは1〜3の範囲の整数、mはH(R3−aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。)
【0016】
(3) 前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、下記式(2)で示されるものである上記(1)または(2)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化1】

(式(2)中、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数であり、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。ただし、複数のRおよびRのうちの少なくとも2つがヒドリド基である。)
【0017】
(4) 前記混合物(B3)は、前記分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とを重量比1:2〜1:4で含む上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【0018】
(5) 前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、下記式(1)で示されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含有する上記(1)ないし(4)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化2】

(式(1)中、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数であり、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。ただし、RおよびRの少なくとも一方が、炭素数1〜10の置換または非置換のアルケニル基を含む炭化水素基である。)
【0019】
(6) 前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、下記式(4)で示されるビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含有する上記(1)ないし(5)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化3】

(式(4)中、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、「−O−Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表す。)
【0020】
(7) 前記シランカップリング剤(D)は、前記シリカ粒子(C)が備える水酸基と、加水分解後に脱水縮合反応する加水分解性基を有する上記(1)ないし(6)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【0021】
(8) 前記シランカップリング剤(D)は、疎水性基を有する上記(7)に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【0022】
(9) 前記シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有する上記(7)または(8)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【0023】
(10) ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを含有する混練物を得る工程と、
前記混練物に、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)と、白金または白金化合物(E)とを混練することによりシリコーンゴム系硬化性組成物を得る工程と、
前記シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることにより、シリコーンゴムを形成する工程とを有することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。
【0024】
(11) 上記(1)ないし(9)のいずれか1つに記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させて形成されたものであることを特徴とするシリコーンゴム。
【0025】
(12) 上記(11)に記載のシリコーンゴムを用いてなることを特徴とする成形体。
【0026】
(13) 上記(12)に記載の成形体をチューブ状に形成してなることを特徴とする医療用チューブ。
【発明の効果】
【0027】
本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化して得られるシリコーンゴムは、引張強度および引裂き強度に優れるものとなる。したがって、得られたシリコーンゴムを用いて形成された成形体、さらには、この成形体で構成される医療用チューブは、引張強度や引裂き強度等の機械的強度が高いものとなる。
【0028】
ここで、医療用カテーテルの材料としてシリコーンゴムを用いる場合、シリコーンゴムには、ある程度の硬度を有することが求められる。例えば、硬度の低い材料から構成されるカテーテルは、目的部位(例えば、胸腔)への挿入時に挿入抵抗による変形(いわゆる腰がない)、耐キンク性が低いことによる閉塞等の問題が生じやすい。これに対して、シリコーンゴムの硬度およびモジュラスを高めることで、かかるシリコーンゴムで構成されるカテーテルでは、上記問題点が解消する。
【0029】
さらに、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることにより、形成されるシリコーンゴムは、さらに機械的強度に優れたものとなる。
【0030】
また、シランカップリング剤として、ビニル基を有するシランカップリング剤を用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬度およびモジュラスをさらに高めることができる。
【0031】
また、シランカップリング剤として、疎水性基を有するシランカップリング剤を用いることで、シリコーンゴムの機械的強度が向上するとともに、透明性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物、シリコーンゴムの製造方法、シリコーンゴム、成形体および医療用チューブを好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
<シリコーンゴム系硬化性組成物>
まず、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物について説明する。
【0034】
本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)と、白金または白金化合物(E)とを含有し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)を含有することを特徴とする。
【0035】
以下、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物を構成する各成分について、順次説明する。
【0036】
<<ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)>>
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0037】
このビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)とビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)とに分類される。本発明では、これらビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)とビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)との一方を単独で用いても、これらの双方を用いてもよい。
【0038】
<ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)>
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基がシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化時の架橋点となる。
【0039】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、0.01〜15モル%であるのが好ましく、0.05〜12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。
【0040】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0041】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、好ましくは3000〜10000程度、より好ましくは4000〜8000程度の範囲内となっている。
【0042】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9〜1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0043】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0044】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるのが好ましい。
【0045】
【化4】

【0046】
式(1)中、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0047】
また、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0048】
ただし、RおよびRの少なくとも一方が、炭素数1〜10の置換または非置換のアルケニル基を含む炭化水素基である。
【0049】
また、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0050】
さらに、式(1)中のRおよびRの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0051】
なお、式(1)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、RおよびRについても同様である。
【0052】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数である。mは、好ましくは40〜700であり、nは、好ましくは3600〜8000である。
【0053】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1−1)で表されるものが挙げられる。
【0054】
【化5】

【0055】
式(1−1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0056】
さらに、以上のようなビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が0.05〜0.2モル%である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)と、ビニル基含有量が0.5〜12モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)とを含有するものであるのが好ましい。
【0057】
シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)とを組み合わせることで、シリコーンゴム系硬化性組成物中においてビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂き強度を高めることができる。
【0058】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1−1)において、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、0.05〜0.2モル%含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)と、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、0.5〜12モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)とを用いるのが好ましい。
【0059】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)は、ビニル基含有量が0.1〜0.15モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)は、ビニル基含有量が、0.8〜8.0モル%であるのが好ましい。
【0060】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)とを組み合わせて配合する場合、(A1−1)と(A1−2)との比は、特に限定されないが、通常、重量比で(A1−1):(A1−2)が1:0.05〜1:0.6であるのが好ましく、1:0.08〜1:0.5であるのがより好ましい。
【0061】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)および(A1−2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
<ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)>
ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(高ビニル低粘度オルガノポリシロキサン)(A2)は、分岐構造を有するため、シリコーンゴムに架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、ビニル基がシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化時の架橋点となる。そのため、シリコーンゴムの硬度およびモジュラスが極端に高くなるのを抑制しつつ、シリコーンゴムの引張強度を向上させることができる。
【0063】
ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、0.05〜20.0モル%であるのが好ましく、0.1〜12.0モル%であるのがより好ましく、0.5〜7.5モル%が最も好ましい。これにより、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)中におけるビニル基の量が最適化され、高架橋密度のシリコーンゴムを形成することができるため、シリコーンゴムの引張強度および引裂き強度をより優れたものとすることができる。
【0064】
また、前記上限値を超えると、シリコーンゴムのモジュラスが極端に高くなるおそれがあり、前記下限値よりも小さくなると、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)の補強効果が十分に得られないおそれがある。
【0065】
なお、シリコーンゴムとしての使用感の変化を防止する観点からは、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を添加しても、その50%歪みモジュラスが20%以下であるのが好ましく、12%以下であるのがより好ましく、6%以下であるのがさらに好ましい。50%歪みモジュラスが20%以上であれば、明らかにシリコーンゴムの使用感に変化が生じて調整が必要となる場合がある。
【0066】
ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)は、重合度4000以下であることが好ましいが、重合度4000を超える場合であっても問題はない。重合度4000以下であれば、液状または油状であるため、シリコーンゴム系硬化性組成物の他の成分への添加(混練)が容易である。重合度4000を超え粘性が高い場合でも、溶媒等で希釈して他の成分と混練することができるし、時間をかければ希釈せずとも他の成分と混練することができる。
【0067】
また、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)は、粘度が4000〜70000cStの範囲であるのが好ましい。
【0068】
さらに、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)は、比重が、特に限定されないが、0.95〜1.1の範囲であるのが好ましい。
【0069】
ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)として、上記のような範囲内の重合度、粘度および比重を有するものを用いることにより、得られる成形体の化学的安定性の向上を図ることができる。
【0070】
以上のようなビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)としては、下記平均組成式(d)で示されるものが好ましい。
【0071】
平均組成式(d):(CH=CH(RSiO1/2m(SiO4/2
式(d)において、Rはビニル基を有しない一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。Rとしては、特にメチル基が好ましい。
【0072】
また、式(d)において、mはCH=CH(RSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)は、分岐状構造を有し、nに対するmの比m/nが2〜5の範囲である。m/nは、好ましくは3〜4の範囲である。
【0073】
ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)の具体例としては、下記式(4)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0074】
【化6】

【0075】
式(4)中、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0076】
なお、式(4)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0077】
また、式(4)中、「−O−Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0078】
なお、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
ここで、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)およびビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)の双方を含有する場合、シリコーンゴムに架橋密度が高い領域と低い領域とが形成される。すなわち、シリコーンゴムの系中に架橋密度が異なる疎密構造が形成される。これに起因して、得られるシリコーンゴムは、特に、引張強度および引裂き強度に優れたものとなる。
【0080】
また、この場合、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)とビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)との配合比は、重量比で(A1):(A2)が好ましくは1:0.001〜1:0.4に、より好ましくは1:0.005〜1:0.2に、最も好ましくは1:0.01〜1:0.1に設定される。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)へのビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)の添加量が最適化されるため、シリコーンゴムにおける架橋密度が高い領域の形成領域も最適化される。その結果、シリコーンゴムは、引張強度および引裂き強度により優れたものとなる。
【0081】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類される。本発明では、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)が用いられる。
【0082】
<分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)>
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、分岐構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si−H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0083】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、分岐構造を有するため、シリコーンゴムに架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。
【0084】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の比重は、0.9〜0.95の範囲であるのが好ましい。
【0085】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0086】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0087】
平均組成式(c):(H(R3−aSiO1/2(SiO4/2
(式(c)において、Rは一価の有機基、aは1〜3の範囲の整数、mはH(R3−aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。)
【0088】
式(c)において、Rは一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0089】
また、式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1〜3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0090】
また、式(c)において、mはH(R3−aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0091】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では1.8〜2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では0.8〜1.7の範囲となる。
【0092】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0093】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0094】
【化7】

【0095】
式(3)中、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0096】
なお、式(3)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0097】
また、式(3)中、「−O−Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0098】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)とにおいて、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)中のビニル基1モルに対し、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との合計のヒドリド基量が、0.5〜5モルとなる量が好ましく、1〜3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0100】
<直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)>
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、直鎖構造を有し、かつ、上記分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si−H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0101】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000〜10000であることがより好ましい。
【0102】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の重量平均分子量は、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0103】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0104】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0105】
【化8】

【0106】
式(2)中、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0107】
また、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0108】
なお、式(2)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。Rについても同様である。ただし、複数のRおよびRのうちの少なくとも2つがヒドリド基である。
【0109】
また、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1〜8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0110】
なお、式(2)中のR,R,Rの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0111】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数である。好ましくは、mは0〜150の整数、nは(150−m)の整数である。
【0112】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とを組み合わせて配合する場合、(B1)と(B2)の比は、重量比で(B1):(B2)が好ましくは1:2〜1:4に設定され、具体的には0.14:0.42または0.12:0.35に設定される。
【0114】
<<シリカ粒子(C)>>
シリカ粒子(C)は、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上を目的として添加される成分である。
【0115】
このシリカ粒子(C)は、比表面積が50〜400m/g程度であるのが好ましく、100〜400m/g程度であるのがより好ましい。また、その平均粒径が1〜100nm程度であるのが好ましく、5〜20nm程度であるのがより好ましい。
【0116】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、上述したシリカ粒子(C)としての機能を顕著に発揮させることができる。
【0117】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が挙げられる。
【0118】
なお、シリカ粒子(C)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
<<シランカップリング剤(D)>>
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有するものであるのが好ましい。この加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シランカップリング剤(D)は、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0120】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するものであることが好ましい。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下する(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)。その結果、該組成物中のシリカ粒子(C)の分散性が向上すると推測される。
【0121】
このようなことから、シリカ粒子(C)とシリコーンゴムのマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子(C)の補強効果が増大する。さらに、シリコーンゴムのマトリックスが変形する際には、マトリックス内でのシリカ粒子(C)の滑り性が向上すると推測される。そして、上記シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂き強度など)が向上し、さらには、その透明性も向上する。
【0122】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有しているのが好ましい。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物が硬化する際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与する。このため、シリコーンゴムのネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの硬度およびモジュラスをより高めることができる。
【0123】
ここで、医療用カテーテルの材料としてシリコーンゴムを用いる場合、シリコーンゴムには、ある程度の硬度を有することが求められる。例えば、硬度の低い材料から構成されるカテーテルは、目的部位(例えば、胸腔)への挿入時に挿入抵抗による変形(いわゆる腰がない)、耐キンク性が低いことによる閉塞等の問題が生じやすい。これに対して、シリコーンゴムの硬度およびモジュラスを高めることで、かかるシリコーンゴムで構成されるカテーテルでは、上記問題点が解消する。
【0124】
このようなシランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(5)で表わされるものが挙げられる。
−Si−(OR)4−n ・・・ (5)
【0125】
上記式(5)中、nは1〜3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。ORは、加水分解性基を表わす。
【0126】
疎水性基は、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0127】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0128】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(5)中の(Y−Si−)の構造を2つ有するものとなる。
【0129】
上記式(5)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。官能基として疎水性基を有するシランカップリング剤(D)としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。
【0130】
また、官能基としてビニル基を有するシランカップリング剤(D)としては、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。
【0131】
中でも、上記記載を考慮すると、特に、疎水性基を有するシランカップリング剤(D)としては、ヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するシランカップリング剤(D)としては、ジビニルテトラメチルジシラザンであるのが好ましい。
【0132】
なお、シランカップリング剤(D)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
<<白金または白金化合物(E)>>
白金または白金化合物(E)は、シリコーンゴム系硬化性組成物(重合可能な成分)を硬化させる際の触媒として作用する成分であり、その添加量は触媒量である。
【0134】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0135】
なお、触媒成分である白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
<<水(F)>>
また、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)〜(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0137】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。
【0138】
さらに、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)〜(F)成分の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される公知の成分を含有していてもよい。例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等が挙げられる。その他、シリコーンゴム系硬化性組成物には、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
【0139】
なお、シリコーンゴム系硬化性組成物において、各成分の含有割合は特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。
【0140】
すなわち、シリカ粒子(C)の含有量は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)およびオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の合計量100重量部に対し、10〜100重量部の範囲であるのが好ましく、35〜75重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シリコーンゴムの引張強度を目的とする範囲まで確実に向上させることができる。
【0141】
シランカップリング剤(D)の含有量は、シリカ粒子(C)100重量部に対し、5〜100重量部の範囲であるのが好ましく、10〜40重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シリカ粒子(C)のシリコーンゴム系硬化性組成物中における分散性を確実に向上させることができる。
【0142】
白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的には、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)およびオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の合計量100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲であるのが好ましく、0.02〜0.2重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応をより確実に進行させることができる。
【0143】
さらに、水(F)を含有する場合、その含有量は、適宜設定することができるが、具体的には、シランカップリング剤(D)100重量部に対して、10〜100重量部の範囲であるのが好ましく、30〜70重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0144】
かかる構成のシリコーンゴム系硬化性組成物では、上述したようなシリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とが含まれているため、シリコーンゴム系硬化性組成物中において、シリカ粒子(C)のシランカップリング剤(D)による表面改質が進行することとなる。したがって、シリコーンゴム系硬化性組成物中におけるシリカ粒子(C)の分散性が段階的に向上し、これに起因して、かかるシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることにより得られるシリコーンゴムの強度(特に、引張強度および引裂き強度)が向上するものと推察される。
【0145】
かかる構成のシリコーンゴム系硬化性組成物およびシリコーンゴムは、例えば、次のようにして製造される。
【0146】
以下、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製し、その後、このシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを製造する場合について説明する。
【0147】
<シリコーンゴムの製造方法>
シリコーンゴムは、上述した各成分を、任意の混練装置により、均一に混合してシリコーンゴム系硬化性組成物を調製し、その後、このシリコーンゴム系硬化性組成物加熱して硬化させることによって得ることができるが、以下に示すような工程により製造することで、強度により優れたシリコーンゴムを得ることができる。
【0148】
[1] まず、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置により、混練することで、これらの成分(A)、(C)および(D)を含有する混練物を得る。
【0149】
なお、この混練物は、予めビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とシランカップリング剤(D)とを混練し、その後、これにシリカ粒子(C)を混練(混合)して得るのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)(主剤)中におけるシリカ粒子(C)の分散性がより向上する。
【0150】
また、この混練物を得る際には、水(F)を必要に応じて、各成分(A)、(C)および(D)に添加するようにしてもよい。
【0151】
さらに、これらの成分(A)、(C)および(D)の混練は、第1温度で加熱する第1ステップと、第2温度で加熱する第2ステップとを経るようにするのが好ましい。これにより、第1ステップにおいて、シリカ粒子(C)の表面をカップリング剤(D)で表面処理することができるとともに、第2ステップにおいて、シリカ粒子(C)とカップリング剤(D)との反応で生成した副生成物を混練物中から確実に除去することができる。
【0152】
第1温度は、40〜120℃程度であるのが好ましく、60〜90℃程度であるのがより好ましい。第2温度は、130〜210℃程度であるのが好ましく、160〜180℃程度であるのがより好ましい。
【0153】
また、第1ステップにおける雰囲気は、窒素雰囲気下のような不活性雰囲気下であるのが好ましく、第2ステップにおける雰囲気は、減圧雰囲気下であるのが好ましい。
【0154】
さらに、第1ステップの時間は、0.3〜1.5時間程度であるのが好ましく、0.5〜1.2時間程度であるのがより好ましい。第2ステップの時間は、0.7〜3.0時間程度であるのが好ましく、1.0〜2.0時間程度であるのがより好ましい。
【0155】
第1ステップおよび第2ステップを、上記のような条件とすることで、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
【0156】
[2] 次に、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)と、白金または白金化合物(E)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置を用いて、前記工程[1]で調製した混練物に、これらの成分(B1)または(B3)および(E)を混練することで、シリコーンゴム系硬化性組成物を得る。
【0157】
なお、これらの成分(B1)または(B3)および(E)の混練の際には、予め前記工程[1]で調製した混練物の一部と、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)または混合物(B3)とを混練するとともに、前記工程[1]で調製した混練物の残部と、白金または白金化合物(E)とを混練し、その後、これらの混練物同士を混練するのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)((B1)および/または(B2))との反応を進行させることなく、各成分(A)〜(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中に確実に分散させることができる。
【0158】
各成分(B1)または(B3)および(E)を混練する際の温度は、ロール設定温度として、10〜70℃程度であるのが好ましく、25〜30℃程度であるのがより好ましい。
【0159】
さらに、混練する時間は、5分〜1時間程度であるのが好ましく、10〜40分程度であるのがより好ましい。
【0160】
かかる温度範囲とすることで、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)((B1)および/または(B2))との反応の進行をより的確に防止または抑制することができ、さらに、混練時間をかかる範囲とすることで、各成分(A)〜(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中により確実に分散させることができる。
【0161】
なお、各工程[1]および[2]において使用される混練装置としては、特に限定されないが、例えば、ニーダー、2本ロール、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、加圧ニーダー等を用いることができる。
【0162】
[3] 次に、シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを形成する。
【0163】
このシリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化は、例えば、140〜180℃で5〜15分間加熱(1次硬化)した後、200℃で4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
以上のような工程を経ることで、シリコーンゴムが得られる。
【0164】
さらに、上記のようなシリコーンゴムを用いることで、機械的強度に優れた成形体を得ることができる。
【0165】
そして、このような成形体を用いることで、シリコーンゴム製の医療用チューブ、医療用シーリング材、パッキン材およびキーパッドが得られる。
【0166】
特に、かかる成形体をチューブ状に形成して医療用チューブに適用することで、この医療用チューブは、耐キンク性、耐傷付き性及び挿入性に優れ、さらに透明性に優れたものとなる。
【0167】
なお、耐キンク性は、引張強度と硬度とに関連し、挿入性は、引張強度と関連している。
【0168】
また、上記のようなシリコーンゴムは、50%歪みモジュラスの変化が小さく、使用感が変化せず引張強度に優れたものとなる。
【0169】
なお、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)として、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)とビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)との双方を用いる場合、前記工程[1]において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)と、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを含有する混練物を得た後に、前記工程[2]において、この混練物にオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)((B1)または(B3))と、白金または白金化合物(E)とを混練することにより、シリコーンゴム系硬化性組成物を得ることができる。
【0170】
また、前記工程[1]において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを含有する混練物を得た後に、前記工程[2]において、この混練物にビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)((B1)または(B3))と、白金または白金化合物(E)とを混練することにより、シリコーンゴム系硬化性組成物を得るようにしてもよい。
【0171】
以上、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物、シリコーンゴムの製造方法、シリコーンゴム、成形体および医療用チューブについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0172】
例えば、本発明のシリコーンゴム系硬化性組成物、シリコーンゴムの製造方法、シリコーンゴム、成形体および医療用チューブには、上記成分と同様の機能を発揮し得る、任意の成分が添加されていてもよい。
【実施例】
【0173】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0174】
1.原材料の調製
まず、実施例および参考例で用いた原材料を以下に示す。
【0175】
(1) 第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)(ビニル基含有量0.13モル%;低ビニルゴム):以下の合成スキームにより合成した。
(2) 第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)(ビニル基含有量0.92モル%;高ビニルゴム):以下の合成スキームにより合成した。
(3) 分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1):GELEST社製、「HQM−105」を用意した。
(4) 直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2):モメンティブ社製、「88466」を用意した。
【0176】
(5) シリカ粒子(C):シリカ微粒子(比表面積300m/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」を用意した。
(6) シランカップリング剤(D1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelst社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」を用意した。
(7) シランカップリング剤(D2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelst社製、「1,3−DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」を用意した。
(8) 白金または白金化合物(E):白金化合物、Gelest社製、「PLATINUM DIVINYLTETRAMETHYLDISILOXANE COMPLEX in xylene(SIP6831.2)」を用意した。
【0177】
[第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)の合成]
下記式(6)にしたがって、第1のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A1−1)を合成した。
【0178】
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、2,4,6,8−テトラメチル2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン0.086g(0.25mmol)およびカリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
【0179】
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
【0180】
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーとを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−1)を得た(Mn=277,734、Mw=573,906、IV値(dl/g)=0.89)。
【0181】
【化9】

【0182】
[第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)の合成]
上記(A1−1)の合成において、2,4,6,8−テトラメチル2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサンを、0.86g(2.5mmol)用いたこと以外は、前記と同様にすることで、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1−2)を合成した。
【0183】
2.シリコーンゴム系硬化性組成物の調製
[実施例1]
まず、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)100重量部[(A1−1):(A1−2)=80重量部:20重量部]に、ヘキサメチルジシラザン(D1)10重量部と、ジビニルテトラメチルジシラザン(D2)0.5重量部と、水(F)5.25重量部とを予め混練し、その後、これにシリカ粒子(C)55重量部を加えて混練することで混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
【0184】
なお、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60〜90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160〜180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行った。
また、得られた混練物は、室温にまで冷却させた。
【0185】
次に、この混練物100重量部に、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)0.33重量部と、白金(E)0.05重量部とを添加物として加えた後、ロールで混練することによりシリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0186】
[実施例2〜4]
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の添加量を、表1に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製した。
【0187】
[実施例5、6]
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の添加量を、表1に示すように調整し、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)に加えて直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)を、表1に示すような添加量で添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製した。
【0188】
[参考例1〜4]
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)に代えて直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)を、表1に示すような添加量で添加し、シリカ粒子(C)の添加量を、表1に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製した。
【0189】
3.評価
得られた各実施例および各参考例のシリコーンゴム系硬化性組成物を、以下の方法で評価した。
【0190】
3−1.引張強度、破断時伸び、50%歪モジュラス、引裂き強度およびストロークの評価
各実施例および各参考例のシリコーンゴム系硬化性組成物を、170℃、10MPaで10分間プレスし、1mmのシート状に成形すると共に、1次硬化した。続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化した。
【0191】
そして、得られたシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片、ならびに、JIS K6252(2001)に準拠してクレセント形試験片を作製し、JIS K6251(2004)によるダンベル状3号形試験片の引張り強さ、破断時伸び、および50%歪モジュラス、ならびに、JIS K6252(2001)によるクレセント形試験片の引裂き強さおよびストロークを測定した。
【0192】
ただし、引張強度、破断時伸び、50%歪モジュラス、引裂き強度およびストロークの測定に用いた試験片の厚みは、1mmとした。
【0193】
3−2.硬度の評価
各実施例および各参考例のシリコーンゴム系硬化性組成物について、上記引張強度、ひずみ、引裂き強度およびストロークと同様にして、シート状シリコーンゴムを作製し、JIS K6253(1997)に準拠してタイプAデュロメータ硬さを測定した。試験片の厚みは、1mmのシートを積層し、6mm以上とした。
【0194】
3−3.全線透過率およびヘイズの評価
全光線透過率およびヘイズ値はJIS K 7105、測定方法Aに準拠し、積分球式全光線透過率測定装置(日本電色社製、「NDH2000」)を用いて測定した。測定に用いた試験片の厚みは、1mmとした。
【0195】
以上のようにして得られた各実施例および各参考例のシリコーンゴム系硬化性組成物における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
【0196】
【表1】

【0197】
表1に示すように、実施例1〜6では参考例1〜4と比較して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)を含有することで、引張強度および引裂き強度にさらに優れたシリコーンゴムが得られた。
【0198】
これは、かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)として、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を用いることにより、シリコーンゴムの架橋密度がより密となったことに起因すると推測される。
【0199】
なお、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)に加えてビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を添加して、前記各実施例と同様にして、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製すると、その硬化物(シリコーンゴム)は、引張強度および引裂き強度がより上昇する傾向を示した。
【0200】
この傾向は、ビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)をビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)とともに混練して、混練物を得た後、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製した場合も、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含有する混練物を得た後、この混練物にビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を混練してシリコーンゴム系硬化性組成物を調製した場合も同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)と、白金または白金化合物(E)とを含有し、
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)を含有することを特徴とするシリコーンゴム系硬化性組成物。
【請求項2】
前記分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、下記平均組成式(c)で示されるものである請求項1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
平均組成式(c):(H(R3−aSiO1/2(SiO4/2
(式(c)において、Rは一価の有機基、aは1〜3の範囲の整数、mはH(R3−aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。)
【請求項3】
前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、下記式(2)で示されるものである請求項1または2のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化1】

(式(2)中、mは0〜300の整数、nは(300−m)の整数であり、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。ただし、複数のRおよびRのうちの少なくとも2つがヒドリド基である。)
【請求項4】
前記混合物(B3)は、前記分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と前記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とを重量比1:2〜1:4で含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【請求項5】
前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、下記式(1)で示されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化2】

(式(1)中、mは1〜1000の整数、nは3000〜10000の整数であり、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、Rは炭素数1〜10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。ただし、RおよびRの少なくとも一方が、炭素数1〜10の置換または非置換のアルケニル基を含む炭化水素基である。)
【請求項6】
前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、下記式(4)で示されるビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【化3】

(式(4)中、Rは炭素数1〜8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、「−O−Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表す。)
【請求項7】
前記シランカップリング剤(D)は、前記シリカ粒子(C)が備える水酸基と、加水分解後に脱水縮合反応する加水分解性基を有する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【請求項8】
前記シランカップリング剤(D)は、疎水性基を有する請求項7に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【請求項9】
前記シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有する請求項7または8のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物。
【請求項10】
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを含有する混練物を得る工程と、
前記混練物に、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)、または分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)との混合物(B3)と、白金または白金化合物(E)とを混練することによりシリコーンゴム系硬化性組成物を得る工程と、
前記シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることにより、シリコーンゴムを形成する工程とを有することを特徴とするシリコーンゴムの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させて形成されたものであることを特徴とするシリコーンゴム。
【請求項12】
請求項11に記載のシリコーンゴムを用いてなることを特徴とする成形体。
【請求項13】
請求項12に記載の成形体をチューブ状に形成してなることを特徴とする医療用チューブ。

【公開番号】特開2013−82907(P2013−82907A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−211569(P2012−211569)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】