シリコーンゴム組成物および絶縁開閉装置

【課題】シリコーンゴム組成物の酸化劣化を抑制し、絶縁開閉装置の絶縁性能を良好に維持する。
【解決手段】シリコーンゴムを所定形状の金型に流し込み加熱することにより、シリコーンゴムの硬化物を得る。その後、前記の硬化物において、温度(表面改質処理の温度)300℃〜750℃の範囲内にて加熱することにより、表面改質処理されたゴム組成物を得る。前記の表面改質処理の時間は、表面改質処理の温度に応じて調整する。筐体内に開閉機器を備えた絶縁開閉装置において前記のゴム組成物を適用する場合、そのゴム組成物を開閉機器の導体の表面に被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物および絶縁開閉装置に関するものであって、例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器の絶縁構成に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、密封された筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた絶縁開閉装置等の高電圧機器は変電所や発電所にて用いられ、その高電圧機器における開閉機器の絶縁構成としては、例えばエポキシ樹脂等のレジンをモールド成型して成る部材(固体絶縁;以下、モールド絶縁部材と称する)を導体に用いたり(例えば、導体のギャップを形成する部分の表面にモールド絶縁部材を被覆したり)、内部に前記の導体が配置された筐体内に六フッ化硫黄(以下、SF6と称する)ガス等の絶縁ガスを充填するアーク消弧が挙げられる。
【0003】
前記のモールド絶縁部材を用いた絶縁開閉装置の場合は、メンテナンス(例えば、絶縁性能を維持するためのメンテナンス)を行う必要が殆ど無く、その原理的な観点から高信頼性を有するとされていたが、そのモールド絶縁部材が比較的高い剛性を有するため、例えば導体(モールド絶縁部材に係る導体)に対する機械的物性(例えば、線膨張率,弾性率等)を十分考慮して設計しないと、該モールド絶縁部材等においてクラックが発生してしまう恐れがあると共に、そのクラックを想定し例えばクッション材等から成る構成を設置して防護する等の大掛かりな工程が必要になる等の点で、その使用が懸念されていた。
【0004】
また、前記のモールド絶縁部材に関して各材料の配合,構成等の改良も行われていたが、現在のエポキシ樹脂等のモールド技術においては、そのモールド絶縁部材と導体との間に発生する熱応力を完全に排除することができず、例えば大型の絶縁開閉装置においては前記の熱応力が顕著となるため適用することが事実上不可能とされていた。
【0005】
一方、SF6ガス等の絶縁ガスを用いた絶縁開閉装置の場合は、絶縁性,遮断性等において優れた特性を有する絶縁媒体として用いられていた。しかしながら、前記のSF6ガスは温室効果ガスとして認定され、将来の地球環境保全の観点から国際的に使用量削減の対象となっている。
【0006】
前記のSF6ガス使用量を低減する方法として、例えば絶縁開閉装置の容量を小さくしたり、窒素ガス等を併用する技術(例えば、非特許文献1,2)が報告されているが、特に72/84kVクラスの絶縁開閉装置に関して、SF6ガスを削減または使用しない技術は報告されていない。
【非特許文献1】リ・ミン等(Li Ming,et,al),「インプルーブメント・イン・ザ・エレクトリカル・パフォーマンス・オブ・エアー−インシュレイテッド・システム・バイ・エアー/ポリマー・インシュレーション(Improvement・In・The・Electrical・Performance・Of・Air−Insulated・System・by・Air/polymer・Insulation)」,ノルディック・インシュレーション・シンポジウム(Nordic・Insulation・Symposium),1999,p261。
【非特許文献2】24kV脱SF6形ガス絶縁スイッチギア,「C−GIS2100」,富士技報,vol.75,No.8,2002,p485。
【0007】
近年、前記のモールド絶縁部材において、応力発生を事実上無視できる絶縁性のゴム組成物を適用し、SF6を用いない絶縁構成が検討されている。この絶縁構成は、高圧の絶縁ガス中において高電界を発生する導体に対し、絶縁性のゴムから成るモールド絶縁部材(以下、ゴムモールド部材と称する)を備え、前記の電界を緩和するものである。
【0008】
前記のゴムモールド部材による絶縁構成では、絶縁開閉装置の筐体内にガス(例えば、酸素,窒素を含んだ混合ガス(空気等))を充填し高圧に保持して絶縁性を確保する必要があるため、絶縁開閉装置の筐体には密閉構造のものが用いられる。また、ゴムとしては、特にシリコーンゴムを用いることが検討され、その性能評価が種々行われている。
【0009】
シリコーンゴム以外の一般的なゴム(例えば、天然ゴム,ウレタンゴム等)の組成物は、例えば温度200℃程度の高温雰囲気下に曝すと酸素(空気中の酸素)を吸収して該組成物自体が酸化劣化し、非弾性化(または液化),クラック等を引き起こしてしまう。
【0010】
このため、前記の一般的なゴム組成物を絶縁開閉装置のゴムモールド部材として適用した場合には、前記の酸化劣化に伴って該絶縁性能が損なわれてしまう。また、例えば絶縁開閉装置の筐体内に空気が充填されている場合、その空気中の酸素が吸収されると筐体内のガスの組成が変化および圧力が低下(例えば、空気を充填した直後と比較して4/5程度に低下)し、その筐体内には主に窒素が残存してしまう。このように絶縁開閉装置の筐体内において主に窒素が残存すると、空気が充填されている場合と比較して絶縁性能が低くなってしまう(およびバラツキが大きくなってしまう)ことが知られている。
【0011】
一方、シリコーンゴム組成物においては、例えば温度200℃程度の高温雰囲気下に曝されても、一般的なゴム組成物のように酸化劣化を引き起こさず、たとえ絶縁開閉装置のゴムモールド部材として適用しても、その絶縁開閉装置の筐体内のガス組成が変化することは無いものと仮定されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、シリコーンゴム組成物においても、例えば密閉構造内にて高温雰囲気下に曝すと一般的なゴム組成物のように少なからず酸素を吸収してしまい、酸化劣化を引き起こし該組成物の性質が変化してしまう恐れがあることを判明した。
【0013】
例えば、筐体内に空気が充填された絶縁開閉装置において前記のシリコーンゴム組成物を適用し、その絶縁開閉装置の筐体内の酸素がシリコーンゴム組成物に吸収された場合には、該絶縁開閉装置の筐体内のガス組成が変化および絶縁性能が変化してしまう。
【0014】
本発明は前記課題に基づいてなされたものであり、所定の条件の表面改質処理により酸化劣化を抑制したシリコーンゴム組成物、および絶縁性能を良好に維持(または、従来の絶縁開閉装置と比較して絶縁性能の低下を抑制)できる絶縁開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の課題の解決を図るためのものであって、シリコーンゴムを硬化し該硬化物を表面改質処理して得たシリコーン組成物であって、前記の表面改質処理は、温度300℃〜700℃の範囲内で行ったことを特徴とする。
【0016】
また、前記の表面改質処理は、温度300℃〜350℃未満の範囲内で10分超、温度350℃〜550℃の範囲内で5分以上、温度550℃超〜600℃の範囲内で40分未満、温度600℃超〜650℃の範囲内で20分未満、温度650℃超〜700℃の範囲内で10分未満のうち、何れかの条件で行ったことを特徴とする。
【0017】
さらに、密封された筐体内に開閉機器が備えられると共に少なくとも酸素,窒素を含んだ混合ガスが充填された絶縁開閉装置であって、前記の開閉機器の導体における少なくともギャップを形成する部分の表面は、前記の表面改質処理されたシリコーン組成物により被覆したことを特徴とする。
【0018】
本発明のように、シリコーンゴム組成物において温度300℃〜700℃の範囲内で表面改質処理することにより、その組成物の表面からの酸素吸収が抑制される。
【0019】
また、表面改質処理の温度に応じて該表面改質処理に要する時間を調整することにより、シリコーンゴム組成物の表面からの酸素吸収が抑制されると共に、その表面改質処理時のシリコーンゴム組成物の不具合(例えば、組成物表面において気泡発生,剥離,灰化等の不具合)を防止できる(すなわち、製品歩留まりを良好に維持できる)。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、シリコーンゴム組成物を温度300℃〜700℃の範囲内で表面改質処理することにより、そのシリコーンゴム組成物の酸化劣化を抑制(単にシリコーンゴムを硬化して得た組成物と比較して抑制)できる。また、表面改質処理の温度に応じて該表面改質処理に要する時間を調整することにより、該組成物の歩留まりを良好に維持できる。
【0021】
さらに、絶縁開閉装置の絶縁性能を良好に維持できると共に、地球環境保全に貢献することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態におけるシリコーンゴム組成物および絶縁開閉装置を図面等に基づいて詳細に説明する。
【0023】
本実施の形態では、シリコーンゴムを硬化し該硬化物を所定の温度(表面改質処理の温度;300℃〜700℃の範囲内),時間(表面改質処理に要する時間;硬化物の表面改質処理の温度に応じた所定の時間)で表面改質処理したシリコーン組成物によれば、酸化劣化が抑制されることを見出したものである。また、前記のシリコーンゴム組成物を絶縁開閉装置の開閉機器の絶縁構成に適用(例えば、導体のギャップを形成する部分の表面にシリコーンゴム組成物を被覆)することにより、その絶縁性能が良好に維持(例えば、従来の絶縁開閉装置と比較して絶縁性能の低下を抑制)されることを見出したものである。
【実施例】
【0024】
一般的な絶縁開閉装置において、その筐体内に空気(窒素と酸素との混合ガス;酸素の比率は21%)を充填した絶縁構成の場合、その筐体内のガス組成が窒素のみになると(例えば、筐体内の酸素がゴムモールド部材に吸収されると)該筐体内におけるせん絡電圧は低下してしまう。一方、前記の筐体内のガス組成において酸素が5%以上残存した状態であれば、空気が充填されている場合と同様のせん絡電圧を確保される。
【0025】
そこで、本実施例では、シリコーンゴムの硬化物を種々の温度(表面改質処理の温度),時間(表面改質処理の時間)で表面改質処理して試料を得、それら試料に関して以下に示す方法により酸素吸収を調べた。
【0026】
まず、液状のシリコーンゴム(GE東芝シリコーンのTSE3331)を所定形状の金型(後述の試料を作製するための金型)に流し込み、温度40℃で4時間加熱することにより、シート状(100mm×100mm×5mm)のシリコーンゴムの硬化物を得た。
【0027】
その後、前記の硬化物を高温炉内に配置し、温度150℃〜750℃の範囲内で5分〜60分間加熱することにより、表面改質処理された試料S1〜S60を得た(なお、各試料S1〜S60のそれぞれの表面改質処理の温度,時間は、後述の表1に示す)。
【0028】
そして、前記の各試料S1〜S60について、空気(窒素と酸素との混合ガス;酸素の比率は21%)が充填された密閉容器(容積1000cm3,大気圧)内にそれぞれ配置し、それら密閉容器を温度150℃の炉内にて1000時間放置した後、前記の各密閉容器内のガス組成(容器内に残存する酸素濃度;目標5%以上)を調べた。
【0029】
前記のガス組成の結果については、図1の表面改質処理の時間に対する残存酸素濃度特性図と下記表1に示す。なお、下記表1中の記号において、「NG1」は試料表面に気泡が発生した場合、「NG2」は試料表面が剥離してしまった場合、「NG3」は試料表面の少なくとも一部が灰化してしまった場合を示すものとする。
【0030】
【表1】

【0031】
図1および前記の表1に示す結果において、表面改質処理を温度350℃〜550℃の範囲内で5分以上(5分〜60分)行ったの試料S16〜S40は、該試料表面に不具合が生じることなく、密閉容器内の酸素濃度を5%以上に保つことができることを確認できた。
【0032】
また、表面改質処理の温度が300℃〜350℃未満の範囲内であっても,その表面改質処理の時間が20分以上(20分〜60分)の試料S13〜S15は、該試料表面に不具合が生じることなく、密閉容器内の酸素濃度を5%以上に保つことができることを確認できた。
【0033】
さらに、表面改質処理の温度が550℃超〜600℃の範囲内、600℃超〜650℃の範囲内、650℃超〜700℃の範囲内であっても、それぞれ表面改質処理の時間が40分未満(5分〜40分未満)の試料S41〜S43、20分未満(5分〜20分未満)の試料S46,S47、10分未満(5分〜10分未満)の試料S51は、該試料表面に不具合が生じることなく、密閉容器内の酸素濃度を5%以上に保つことができることを確認できた。
【0034】
一方、表面改質処理の温度が150℃〜250℃の範囲内の試料S1〜S10は、該試料表面に不具合が生じることはなかったが、たとえ前記の表面改質処理を60分間行っても、密閉容器内の酸素濃度を5%以上に保つことができないことを確認できた。
【0035】
また、表面改質処理の温度が750℃の試料S56〜S60は該試料表面に不具合が生じてしまい(劣化してしまい)、たとえ前記の表面改質処理を5分間だけ行っても試料表面に気泡が発生し、前記の表面改質処理を10分以上行った場合には試料表面が剥離したり灰化することを確認できた。
【0036】
さらに、表面改質処理の温度が550℃超〜600℃の範囲内、600℃超〜650℃の範囲内、650℃超〜700℃の範囲内で、それぞれ表面改質処理時間が40分以上(40分〜60分)の試料S44,S45、20分以上(20分〜60分)の試料S48〜S50、10分以上(10分〜60分)の試料S52〜S55においても、試料表面に気泡が発生したり該試料表面が剥離することを確認できた。
【0037】
ここで、酸素と窒素との混合ガスが筐体内に充填された絶縁開閉装置において、その開閉機器の絶縁構成として前記の試料S13〜S43,S46,S47,S51のように表面改質処理されたゴムモールド部材を導体表面に被覆し、それら各絶縁開閉装置を使用したところ、それぞれゴムモールド部材の酸化劣化は起こらず絶縁性能が良好に維持(または、従来の絶縁開閉装置と比較して絶縁性能の低下を抑制)されることを確認できた。
【0038】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施例における表面改質処理時間に対する残存酸素濃度特性図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムを硬化し該硬化物を表面改質処理して得たシリコーン組成物であって、
前記の表面改質処理は、温度300℃〜700℃の範囲内で行ったことを特徴とするシリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記の表面改質処理は、温度300℃〜350℃未満の範囲内で10分超、温度350℃〜550℃の範囲内で5分以上、温度550℃超〜600℃の範囲内で40分未満、温度600℃超〜650℃の範囲内で20分未満、温度650℃超〜700℃の範囲内で10分未満のうち、何れかの条件で行ったことを特徴とする請求項1記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
密封された筐体内に開閉機器が備えられると共に少なくとも酸素,窒素を含んだ混合ガスが充填された絶縁開閉装置であって、
前記の開閉機器の導体における少なくともギャップを形成する部分の表面はシリコーン組成物によって被覆され、
前記のシリコーン組成物は、シリコーンゴムを硬化し該硬化物を温度300℃〜700℃の範囲内で表面改質処理して得たことを特徴とする絶縁開閉装置。
【請求項4】
前記の表面改質処理は、温度300℃〜350℃未満の範囲内で10分超、温度350℃〜550℃の範囲内で5分以上、温度550℃超〜600℃の範囲内で40分未満、温度600℃超〜650℃の範囲内で20分未満、温度650℃超〜700℃の範囲内で10分未満のうち、何れかの条件で行ったことを特徴とする請求項3記載の絶縁開閉装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37938(P2008−37938A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211529(P2006−211529)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】