説明

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤

【課題】シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズにケトチフェン及び/又はその塩を接触させた場合に生じる該レンズの変色(黄変)を効果的に抑制できるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を提供。
【解決手段】(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を併用して、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトチフェン及び/又はその塩とシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させた場合に生じる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの黄色への変色(黄変)を抑制することができる点眼剤に関する。また、本発明は、ケトチフェン及び/又はその塩により生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色(黄変)を抑制する方法、及び点眼剤に該変色(黄変)を抑制する作用を付与する方法に関する。また、本発明は、ケトチフェン及び/又はその塩を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色(黄変)を抑制するための剤に関する。更に、本発明は、当該変色(黄変)を抑制できる変色抑制物質をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一般に、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に対して適用される点眼剤については、ソフトコンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは素材が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に適用される点眼剤は、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0005】
一方、ケトチフェン及びその塩は、抗アレルギー効果の付与を目的として点眼剤に使用されているが(特許文献1−2参照)、これらの成分がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの色調に及ぼす影響については明らかにされていない。ましてや、ケトチフェン及び/又はその塩と、プラノプロフェン及び/又はその塩との併用が、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの色調に及ぼす影響については、推認すらできないのが現状である。
【特許文献1】特開2004−175771号公報
【特許文献2】特開2004−315365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、各種ソフトコンタクトレンズについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、SHCLと略記することもある)に対して、ケトチフェン及び/又はその塩を含有する点眼剤を適用すると、他のソフトコンタクトレンズに適用した場合には認められない化学変化によるレンズの著しい黄変が生じるという、全く新しい知見を得た。このようなレンズの著しい黄変という化学変化は、レンズ使用者の不安や不快感を駆り立てる原因となるばかりでなく、レンズ装用者の視界に変化をきたすおそれがあり、ひいては黄変したレンズを装用し続けることにより、視力低下などの重篤な問題を引き起こす危険性もある。また黄変したレンズを装用することにより、装用者の眼の色調(特に白目の部分の色調)に変化が生じ、装用者の印象に影響を与える恐れも懸念される。
【0007】
そこで、SHCLにケトチフェン及び/又はその塩を接触させた場合に生じるSHCLの変色(黄変)を効果的に抑制できるSHCL用点眼剤、とりわけSHCLの装用中に点眼可能であってケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色を抑制できるケトチフェン及び/又はその塩を含有する点眼剤の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ケトチフェン及び/又はその塩に加えて、プラノプロフェン及び/又はその塩を組み合わせて用いると、ケトチフェン及び/又はその塩とSHCLとを接触させた場合に生じるSHCLの変色(黄変)を著しく抑制することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を提供する。
項1. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項2. (A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項3. (B)成分として、プラノプロフェンを含む、項1又は2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項4. 更に(C)塩化物イオンを含有する、項1乃至3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項5. 更に(E)等張化剤を含有する、項1乃至4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項6.更に(G)緩衝剤を含有する、項1乃至5のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項7. (A)成分の配合割合が0.01w/v%以上である、項1乃至6のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項8. (B)成分の配合割合が0.001w/v%以上である、項1乃至7のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項9. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズがイオン性である、項1乃至8のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項10. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが、酸素プラズマ処理により表面処理されているレンズである、項1乃至9に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項11. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが、シリコン含有ビニルカーバメートモノマー及びシリコン含有ビニルカルボネートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のシリコン含有モノマーと、親水性モノマーを含むコポリマーを素材とするレンズである、項1乃至10に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項12. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが、トリス(トリメチルシロシキ)シリルプロピルビニルカーバメートとN-ビニル−2−ピロリドンとを構成モノマーとして含むコポリマーを素材とするレンズである、項11に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項13. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが、酸素透過率80Dk/Lより大きいレンズである、項1乃至12のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項14. シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが、含水率20%以上のレンズである、項1乃至13のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【0010】
また、本発明は、下記に掲げるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色(黄変)抑制方法、及び点眼剤にシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色(黄変)を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項15. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制する方法。
項16. (A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制する作用を該点眼剤に付与する方法。
【0011】
また、本発明は、下記に掲げる変色(黄変)抑制剤を提供する。
項17. (B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制するための剤。
【0012】
更に、本発明は、下記に掲げる変色(黄変)抑制物質のスクリーニング方法を提供する。
項18. ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制できる変色抑制物質をスクリーニングする方法であって、
(a)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と被験物質とを含む被験溶液を調製する工程、
(b)上記被験溶液とシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色の程度を測定する工程、及び
(c)シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色の抑制が認められる被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記変色抑制物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のSHCL用点眼剤によれば、ケトチフェン及び/又はその塩を含んでいながら、ケトチフェン及び/又はその塩とSHCLとを接触させた場合に生じるSHCLの変色(黄変)を抑制できるので、SHCLの装用者に対して、視力低下のおそれ等を生じさせず、また外観上の不都合や不快感等を与えることもなく、しかも安全に、ケトチフェン及び/又はその塩による抗アレルギー効果を享受させることができる。更に、本発明のSHCL用点眼剤に含まれるプラノプロフェン及び/又はその塩は、SHCLの変色(黄変)を抑制する作用だけでなく、眼粘膜等での抗炎症作用等をも発揮するので、本発明のSHCL用点眼剤は炎症性眼疾患の改善にも有効である。
【0014】
更に、本発明のスクリーニング方法は、ケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色(黄変)を抑制できる変色抑制物質の取得を可能にするので、ケトチフェン及び/又はその塩を含んでいながら、SHCL装用中に使用しても該SHCLの変色(黄変)が抑制される点眼剤の開発に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(I) SHCL用点眼剤
本発明のSHCL用点眼剤は、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。ケトチフェンは、4,9−ジヒドロ−4−(1−メチル−4−ピペリジリデン)−10H−ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2−b]チオフェン−10−オンとも称される化合物である。ケトチフェン及びその塩は、抗アレルギー剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0016】
本発明で使用される上記(A)成分の内、ケトチフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくは有機酸塩、更に好ましくは多価カルボン酸塩、より更に好ましくはフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはフマル酸塩が挙げられる。これらのケトチフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明のSHCL用点眼剤には、(A)成分として、ケトチフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明に使用される(A)成分として、好ましくはケトチフェンの塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくはケトチフェンの有機酸塩、更に好ましくはケトチフェンの多価カルボン酸塩、より更に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩及び/又はマレイン酸塩、特に好ましくはケトチフェンのフマル酸塩(フマル酸ケトチフェン)が挙げられる。
【0018】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(A)成分の配合割合は、該(A)成分の種類、他の配合成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該点眼剤の総量に対して、該(A)成分が総量で0.01w/v%以上、好ましくは0.01〜1w/v%、より好ましくは0.02〜0.7w/v%、更に好ましくは0.03〜0.5w/v%、特に好ましくは0.05〜0.1w/v%が例示される。
【0019】
更に、本発明のSHCL用点眼剤は、上記(A)成分に加えて、プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(B)成分を配合することによって、上記(A)成分によって生じるSHCLの変色(黄変)を有効に抑制させることが可能になる。
【0020】
プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0021】
本発明で使用される上記(B)成分の内、プラノプロフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、無機塩基との塩[例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等]や、有機塩基との塩[例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等との塩]等が挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明のSHCL用点眼剤には、(B)成分として、プラノプロフェン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明に使用される(B)成分として、好ましくはプラノプロフェンが挙げられる。
【0023】
上記(B)成分の中でも、上記(A)成分によって生じるSHCLの変色を一層有効に抑制させるとの観点から、好ましくは、プラノプロフェンが挙げられる。
【0024】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(B)成分の配合割合は、該(B)成分の種類、他の配合成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該点眼剤の総量に対して、該(B)成分が総量で0.001w/v%以上、好ましくは0.002〜1.0w/v%、より好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.2w/v%、特に好ましくは0.05〜0.1w/v%が例示される。
【0025】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、上記(A)成分に起因するSHCLの変色をより効果的に抑制させるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が2〜1000重量部、好ましくは10〜400重量部、更に好ましくは50〜200重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0026】
更に、本発明のSHCL用点眼剤には、上記(A)及び(B)成分に加えて、塩化物イオンを含有することが好ましい。このように、塩化物イオンを含むことによって、本発明の効果をより確実に得ることができる。
【0027】
本発明のSHCL用点眼剤に塩化物イオンを含有させるには、水溶液中で塩化物イオンを遊離させる化合物を添加すればよい。水溶液中で塩化物イオンを遊離させる化合物としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の塩化物;塩化マグネシウム、塩化カルシウム等のアルカリ土類金属の塩化物;ヒスチジン塩酸塩、アルギニン塩酸塩、リジン塩酸塩等のアミノ酸の塩酸塩;塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、dl-塩酸メチルエフェドリン、塩化ベルベリン、塩化リゾチーム、塩酸ジフェンヒドラミン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸等が例示される。これらの中でも、本発明の効果をより確実に獲得するという観点から、好ましくはアルカリ金属の塩化物が挙げられ、更に好ましくは塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウム、特に好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。これらの水溶液中で塩化物イオンを遊離させる化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明のSHCL用点眼剤に塩化物イオンを含ませる場合、点眼剤中の塩化物イオンの最終的な含有割合については、塩化物イオンの由来となる化合物の種類等に応じて適宜設定できる。塩化物イオンの最終的な含有割合の一例として、該点眼剤の総量に対して塩化物イオンが最終的に総量で、15〜1000mM、好ましくは30〜200mM、更に好ましくは50〜150mMが例示される。
【0029】
本発明のSHCL用点眼剤は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用点眼剤に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムは、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用点眼剤に好適に使用される。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明のSHCL用点眼剤に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0031】
本発明のSHCL用点眼剤は、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用点眼剤に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等)、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)、アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、リン酸緩衝剤及びホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用点眼剤に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明のSHCL用点眼剤に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該点眼剤の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0033】
本発明のSHCL用点眼剤には、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用点眼剤に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0034】
本発明のSHCL用点眼剤に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のSHCL用点眼剤に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明のSHCL用点眼剤に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のSHCL用点眼剤に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0035】
本発明のSHCL用点眼剤において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE-POPブロックコポリマー類;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、POE-POPブロックコポリマー;より好ましくはポリソルベート80が用いられる。
【0037】
本発明のSHCL用点眼剤に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、SHCL用点眼剤の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%が例示される。
【0038】
本発明のSHCL用点眼剤のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用点眼剤のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜8.5、更に好ましくは5.5〜8.0となる範囲が挙げられる。本発明のSHCL用点眼剤をかかるpH範囲となるように調整すれば、上記(B)成分によるSHCLの変色の抑制効果を一層有効に奏させることができる。
【0039】
また、本発明のSHCL用点眼剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のSHCL用点眼剤の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0040】
本発明のSHCL用点眼剤は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、及びこれらの塩等。
【0041】
また、本発明のSHCL用点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0042】
本発明のSHCL用点眼剤は、例えば、精製水、生理食塩水等の水性担体等に、所望量の上記(A)及び(B)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加し、常法に準じて調製される。
【0043】
本発明のSHCL用点眼剤において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。とりわけイオン性のSHCLは、上記(A)成分により変色(黄変)する傾向を強く示すが、本発明のSHCL用点眼剤はこのように変色を受け易いSHCLに対しても、有効に変色を抑制することができる。かかる本発明の効果を鑑みれば、本発明のSHCL用点眼剤の適用対象として、イオン性のSHCLが好適である。なお、ここでイオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%以上であることをいう。
【0044】
更に、適用対象となるSHCLの好適な例として、下記(i)〜(iv)の1又は2以上、好ましくは(i)〜(iv)の全ての特徴を備えるものが挙げられる。下記(i)〜(iv)の1又は2以上、とりわけ(i)〜(iv)の全て特徴を有するSHCLは、上記(A)成分による変色(黄変)が強くなる傾向を示すが、本発明のSHCL用点眼剤によれば、このようなSHCLに対しても、上記(A)成分による変色を効果的に抑制可能である。
(i) 酸素プラズマ処理により表面処理されている。
(ii) SHCLを構成する主要な素材が、シリコン含有ビニルカーバメートモノマー及びシリコン含有ビニルカルボネートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のシリコン含有モノマーと、親水性モノマーを含むコポリマーである。
(iii) 酸素透過率が80Dk/Lより大きい、好ましくは100〜120Dk/L以上である。
(iv) 含水率が20%以上、好ましくは30%以上であって、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下である。
【0045】
なお、上記(ii)において、シリコン含有モノマーであるシリコン含有ビニルカーバメートモノマー及びシリコン含有ビニルカルボネートモノマーとしては、特に制限されるものではないが、具体的には、1,3−ビス[4−ビニルオキシカルボニルオキシ)ブト−l−イル]テトラメチル−ジシロキサン;3−(トリメチルシリル)プロピルビニルカルボネート;3−(ビニルオキシカルボニルチオ)プロピル−[トリス(トリメチルシロキシ)シラン];トリス(トリメチルシロシキ)シリルプロピルビニルカーバメート(TRISVC);3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルアリルカーバメート;3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルボネート;t−ブチルジメチルシロキシエチルビニルカルボネート;トリメチルシリルエチルビニルカルボネート;およびトリメチルシリルメチルビニルカルボネート等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、トリス(トリメチルシロシキ)シリルプロピルビニルカーバメート(TRISVC)が挙げられる。これらのシリコン含有モノマーは、SHCLを構成する主要素材のコポリマーにおいて、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、親水性モノマーとしては、特に制限されないが、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド等のアミド化合物;N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)等の環状ラクタム化合物;モノメタクリレートを含むポリジエチレングリコール、ジメタクリレートを含むポリジエチレングリコール等の(メト)アクリレート化(ポリアルケングリコール);米国特許第5070215号に記載の親水性ビニルカーボネートモノマー及びビニルカルバメートモノマー;米国特許第4910277号に記載の親水性オキサゾロンモノマー等が例示される。これらの中でも、好ましくは、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)が挙げられる。これらの親水性モノマーは、SHCLを構成する主要素材のコポリマーにおいて、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明のSHCL用点眼剤の好適な適用対象として、SHCLを構成する主な素材が、TRISVCとNVPとを構成モノマーとして含むコポリマーが例示される。
【0046】
また、上記(iv)の含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0047】
本発明のSHCL用点眼剤は、SHCLを装用中の眼に直接点すことができ、またSHCLを装着する前に眼に点すこともできる。
【0048】
本発明のSHCL用点眼剤は、上記(A)成分に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の予防乃至緩和剤としても有用である。更に、本発明のSHCL用点眼剤は、上記(B)成分に基づいて眼粘膜等での抗炎症作用等をも発揮できるので、本発明のSHCL用点眼剤は、炎症性眼疾患(例えば、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症等)の治療乃至予防に有効であり、炎症性眼疾患の治療乃至予防剤、とりわけコンタクトレンズ装用により誘発される炎症性眼疾患の治療乃至予防剤としても有用である。
【0049】
(II)ケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色の抑制方法、及びケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色を抑制する作用を点眼剤に付与する方法
前述するように、上記(A)成分によって生じるSHCLの変色(黄変)を上記(B)成分によって抑制することができる。
【0050】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制する方法を提供する。また、本発明は、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該(A)成分を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制する作用を該点眼剤に付与する方法をも提供する。
【0051】
これらの方法において、使用する(A)及び(B)成分の種類や配合割合、その他に配合される成分の種類や配合割合や含有割合、SHCL用点眼剤の適用対象となるSHCLの種類等については、前記「(I)SHCL用点眼剤」と同様である。
【0052】
(III)ケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色を抑制するための剤
前述するように、上記(A)成分によって生じるSHCLの変色(黄変)を上記(B)成分によって抑制することができる。
【0053】
従って、本発明は、更に別の観点から、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの変色を抑制するための剤を提供する。
【0054】
該剤において、有効成分である(B)成分の種類、適用対象となるSHCL、変色を引き起こす(A)成分の種類等については、前記「(I)SHCL用点眼剤」と同様である。
【0055】
(IV)ケトチフェン及び/又はその塩により生じるSHCLの変色を抑制できる物質のスクリーニング方法
また、前述するように、本発明者によって、SHCLが上記(A)成分の接触によって変色(黄変)するという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより生じるSHCLの変色(黄変)を抑制できる変色抑制物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)〜(c)工程を包含する方法である:
(a)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と被験物質とを含む被験溶液を調製する工程、
(b)上記被験溶液とSHCLとを接触させ、SHCLの変色(黄変)の程度を測定する工程、及び
(c)SHCLの変色(黄変)の抑制が認められる被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記変色抑制物質として選択する工程
を含むスクリーニング方法。
【0056】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記変色抑制物質の候補物質である。また、候補物質は、SHCL用点眼剤に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0057】
上記(a)工程において、被験溶液は、水や緩衝液等の水性担体に、ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を、例えば0.01〜1w/v%を添加し、更に被験物質を適当量添加することにより調製される。ここで、被験物質は段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を含む被験溶液を調製しておくことが望ましい。
【0058】
また、上記(b)工程において、上記被験溶液とSHCLとを接触させるには、特に限定されるものではないが、上記被験溶液中に、室温で12〜24時間程度、SHCLを浸漬させればよい。また、上記(b)工程においてSHCLの変色(黄変)の程度の測定は、例えば、目視にてSHCLの変色の程度を定性的に測定してもよく、また分光測色計や色彩色差計を用いて変色の程度を定量的に測定してもよい。
【0059】
上記(c)工程において、SHCLの変色の抑制が認められる被験溶液を選択するには、スクリーニングに供した被験溶液の内、上記(c)工程においてSHCLが変色されていないもの、或いはSHCLが殆ど変色されていないものを選択すればよい。また、本(c)工程において、SHCLの変色の抑制が認められる被験溶液を正確に選びだすために、被験物質を含まない以外は上記被験溶液と同組成の比較溶液と、SHCLとを上記(b)工程と同条件で接触させた場合のSHCLの変色の程度と比較してもよい。即ち、上記比較溶液よりも被験溶液の方が変色の程度が低い場合、被験溶液はSHCLの変色を抑制しているとより正確に判定できる。
【0060】
斯くして選ばれた被験溶液に含まれる被験物質が、ケトチフェン及び/又はその塩を接触させることにより生じるSHCLの変色を抑制できる物質(変色抑制物質)として選択される。
【0061】
本スクリーニング方法により得られる変色抑制物質は、ケトチフェン及び/又はその塩を接触させた場合に生じるSHCLの変色を抑制するために、ケトチフェン及び/又はその塩を含むSHCL用点眼剤に配合することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考試験例1:フマル酸ケトチフェン含有点眼剤が、SCLの色調に及ぼす影響の検討
フマル酸ケトチフェンを含有する点眼剤がSCLの色調に対して及ぼす影響を検討するために、以下の試験を行った。なお、本試験で使用したSCLは、表1に示すシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(レンズA)及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(レンズB)である。
【0063】
【表1】

【0064】
表2で示される試験液1又は2を各々ガラスバイアルに10ml充填し、表1に示すレンズをそれぞれ一枚づつ浸し密封した。34℃、120rpm条件下で18時間振とうした後、レンズを引上げ表面の水分を十分に拭い去り、白色台紙に透明テープでできるだけ平面になるように貼り付け、分光測色計(CM3500d、株式会社ミノルタ製)を用いてレンズ中心部の色を測定した(n=3)。また、コントロールとして、各レンズの未開封品の色を同様に測定した。試験実施後の各レンズとコントロールとの色差(△E*ab)を算出した。また、同様に、レンズAを試験液1〜4に浸漬し、同条件で試験を実施し、試験実施後のレンズAとコントロールとの色差(△E*ab)を算出した。
【0065】
【表2】

【0066】
試験液1〜2を用いてレンズA及びBの色差(△E*ab)を測定した結果を図1に示す。また、試験液1〜4を用いてレンズAの色差(△E*ab)を測定した結果を図2に示す。
【0067】
図1から明らかなように、SHCLであるレンズAではフマル酸ケトチフェンを含有する試験液2と接触させた際に著しく高い色差(△E*ab)を示した。なかでもb*の変化量が大きく、レンズに著しい黄変が発生していることが判明した。この黄変は非シリコーンハイドロゲルレンズであるレンズBでは生じないものであり、SHCLに特有の問題であると言える。事実、レンズAは、肉眼でもはっきりと認識できる程度の黄変が生じており、使用上問題となることは明らかであった。また、図2に示すように、フマル酸ケトチフェンを含有する試験液3又は4にSHCLであるレンズAを接触させた場合にも、試験液2の場合と同様に、レンズの黄変が起こることが確認された。
【0068】
参考試験例2:フマル酸ケトチフェン含有点眼剤中の緩衝剤が、SHCLの色調に及ぼす影響の検討
フマル酸ケトチフェンにより生じるSHCLの黄変に対する緩衝剤の影響を検討するために、表1に示すレンズA(SHCL)を用い、表3に示す試験液を使用して、上記参考試験例1と同様の試験を実施した。
【0069】
【表3】

【0070】
結果を図3に示す。図3から明らかなように、リン酸緩衝剤を使用した場合(試験液6)でも、ホウ酸緩衝剤(試験液2〜4)を使用した場合と同様に、フマル酸ケトチフェンによりSHCLの黄変が起こることが確認された。以上の結果から、フマル酸ケトチフェンによるSHCLの黄変は、緩衝剤の種類によって影響を受けないことが明らかとなった。
【0071】
試験例1:SHCLのフマル酸ケトチフェンによる黄変の抑制
表1に示すレンズA(SHCL)を、表4に示す各試験液10mlに一枚づつ浸し34℃、120rpm条件下で24時間振とうした(サンプル群)。フマル酸ケトチフェンのコンタクトレンズへの吸着量を測定するために、各試験液のみを10ml充填したもの(ブランク群)も同様の条件で振とうした。
【0072】
振とう終了後、サンプル群及びブランク群の試験液を適量回収し、それぞれのフマル酸ケトチフェン濃度をHPLC法により定量し、SHCLへの吸着量を算出した。またサンプル群で浸漬されたレンズAについて、上記参考試験例1と同様の方法で、コントロール(未開封品のレンズA)との色差(△E*ab)を求めた(n=3)。
【0073】
レンズAの色差(△E*ab)を測定した結果を図4に示す。また、レンズA 1枚当たり吸着したフマル酸ケトチフェンの量(mg/CL/24hrs)の測定結果を表4に示す。図4から明らかなように、比較例2の試験液と接触させたSHCLは比較例1より著しく高い△E*ab値を有しており、レンズが黄変を起こしていることが分かった。一方、驚くべきことに、実施例1〜2の試験液と接触させたSHCLは、b*の変化量も抑えられて黄変が著しく抑制されることが明らかとなった。これらの結果から、プラノプロフェンが特に0.05%以上あれば、フマル酸ケトチフェンによるSHCLの黄変抑制効果を格段顕著に奏し得ることが明らかとなった。
【0074】
またレンズの黄変の原因として、レンズへのフマル酸ケトチフェンの吸着が関与する可能性が考えられたものの、表4に示すように各試験液に浸漬したレンズへのフマル酸ケトチフェンの吸着量は同程度であったことから、SHCLの黄変とフマル酸ケトチフェンの吸着量との間には相関関係がないことが確認された。
【0075】
【表4】

【0076】
製剤例
表5に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例3−14)が調製される。
【0077】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】参考試験例1において、フマル酸ケトチフェンがSCLの色調に対して及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
【図2】参考試験例1において、フマル酸ケトチフェンがSHCLの色調に対して及ぼす影響を検討した結果を示す図である。
【図3】参考試験例2において、フマル酸ケトチフェンにより生じるSHCLの黄変に対する緩衝剤の影響を検討した結果を示す図である。
【図4】試験例1において、試験液(実施例1−2及び比較例1−2)のフマル酸ケトチフェンにより生じるSHCLの黄変を抑制する効果(△E*ab)を評価した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケトチフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)プラノプロフェン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【請求項2】
(A)成分として、フマル酸ケトチフェンを含む、請求項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143882(P2010−143882A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324510(P2008−324510)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】