説明

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】本発明の目的は、テルペノイドを含有していながら、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対して適用しても、該シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのテルペノイドの吸着を抑制できる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】(A)テルペノイドと共に、(B)ビタミンE類を組み合わせて使用し、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルペノイドを含みながら、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのテルペノイドの吸着が抑制されたシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのテルペノイドの吸着を抑制する方法に関する。更に、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制する方法に関する。また更に、本発明は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法、テルペノイドにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのサイズの膨張を抑制する方法、及びシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一方、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、従来のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて、涙液層や化粧品などに由来する脂質の汚れが付きやすいことが指摘されている(非特許文献1)。こうした脂質汚れは、レンズのくもりなどを誘発して装用者に不快感を与え、QOL(Quality of Life)を害することとなる。また、こうしたコンタクトレンズの汚れは、当該レンズが本来備えるべき視力矯正力にも悪影響を与えるおそれがある。さらに近年、このようなコンタクトレンズの脂質汚れが、角膜ステイニングと呼ばれる角膜上皮障害の発生に影響を与えることも指摘されている。
【0005】
また、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献2)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0006】
また一般に、コンタクトレンズに使用される眼科組成物については、コンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズに使用される眼科組成物は、対象となるソフトコンタクトレンズの特性に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0007】
一方、テルペノイドは、刺激を緩和して不快感を軽減させたり、清涼感や冷感を付与するための清涼化剤としてこれまでにも眼科組成物に使用されている。そして、テルペノイドは、SCLの中でも、シリコンハイドロゲルタイプのSCLに対して特に吸着し易くなる傾向を示すことが知られている(特許文献1)。
【0008】
また、ビタミンE類は、眼細胞の新陳代謝を促進して目の疲れを解消させること等を目的として、これまでにも眼科用組成物に使用されている。しかしながら、上述のようなソフトコンタクトレンズに使用される眼科組成物の製剤設計の困難性から、SCL(シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを含む)に対して適用可能なビタミンE類を含有する眼科組成物はこれまで市販されていない。
【0009】
そして、ビタミンE類とテルペノイドとを組み合わせてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに適用した場合の影響については一切知られておらず、全く推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO2007/145344号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】塩谷浩、あたらしい眼科Vol.25、No.7、907〜912頁、2008
【非特許文献2】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のように、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、「SHCL」と表記することもある)は、従来のハイドロゲルレンズに比べてテルペノイドを非常に吸着させ易いことが公知であるが、このようにSHCLに点眼剤の配合成分が多量に吸着すると、吸着した成分がレンズに留まることによる影響が懸念されるほか、ソフトコンタクトレンズの変色や光透過率の減少、変形等を生じさせる惧れがある。そのため、SHCLへのテルペノイドの吸着を効果的に抑制する更なる有用な手段の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、(A)テルペノイドと共に、(B)ビタミンE類を組み合わせて使用することにより、SHCLに対するテルペノイドの吸着を顕著に抑制できることを見出した。
【0014】
また、本発明者等は更に検討を進めたところ、驚くべきことに、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを組み合わせることにより、非イオン性SHCLへの脂質吸着をも抑制できることを見出した。更に、本発明者等は、この非イオン性SHCLに対する脂質吸着抑制効果は、上記(A)及び(B)成分に加えて、更に(C)ネオスチグミン、アミノエチルスルホン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を併用することによって、より一層向上させることが可能であることも見出した。
【0015】
また更に、本発明者等は、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを組み合わせて用いることにより、(i)イオン性SHCLの摩擦をも大きく低減できること、(ii)SHCLへの細菌付着をも抑制できることを見出した。
【0016】
更に、本発明者らは、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を、(B)ビタミンE類を併用することにより抑制でき、更にはネオスチグミン及び/又はその塩をも組み合わせて用いることにより一層効果的に抑制できることも確認した。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0018】
即ち、本発明は、下記に掲げるSHCL用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.(A)成分として、メントール及びカンフルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3.(A)成分を総量で0.00001〜0.5w/v%含有する、項1-1又は1-2に記載のシリコーン
ハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.(B)成分として、酢酸トコフェロールを含む、項1-1〜1-3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.(B)成分を総量で0.0005〜0.25w/v%含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.更に、(C)ネオスチグミン、アミノエチルスルホン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1-1〜1-5のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.(C)成分として、メチル硫酸ネオスチグミン、及びアミノエチルスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-6に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8.(C)成分を総量で0.00005〜2.5w/v%含有する、項1-6又は1-7に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9.更に、界面活性剤を含有する、項1-1〜1-8のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10.界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を含む、項1-9に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11.界面活性剤を総量で0.001〜1.0w/v%含有する、項1-10に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12.更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-11のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13.緩衝剤としてホウ酸緩衝剤を含む、項1-12に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-14.緩衝剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-12又は1-13に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-15.更に、等張化剤を含有する、項1-1〜1-14のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-16.等張化剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-15に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-17.等張化剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-15又は1-16に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-18.点眼剤である、項1-1〜1-17のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-19.イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用である、項1-1〜1-18のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-20.非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用である、項1-1〜1-18のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げる、SHCLへのテルペノイドの吸着抑制方法を提供する。
項2.(A)テルペノイドと(B)ビタミンE類とを併用することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の吸着を抑制する方法。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げる、SHCLへのテルペノイドの吸着抑制作用を付与する方法を提供する。
項3.(A)テルペノイドを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)ビタミンE類を配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの該(A)成分の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げる、SHCLへのテルペノイドの吸着を抑制するための剤を提供する。
項4.(B)ビタミンE類を含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのテルペノイドの吸着を抑制するための剤。
【0022】
また、本発明は、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。
項5.(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する方法。
【0023】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項6.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法。
【0024】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLの摩擦を低減する方法を提供する。
項7.(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法。
【0025】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLの摩擦を低減する作用を付与する方法を提供する。
項8.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物にイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を付与する方法。
【0026】
また、本発明は、下記に掲げるSHCLへの細菌の付着を抑制する方法を提供する。
項9.(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する方法。
【0027】
また、本発明は、下記に掲げるSHCLへの細菌の付着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項10.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物にシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの細菌の付着を抑制する作用を付与する方法。
【0028】
また、本発明は、下記に掲げる、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する方法を提供する。
項11.(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを併用することを特徴とする、テルペノイドにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのサイズ膨張を抑制する方法。
【0029】
また、本発明は、下記に掲げる、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項12.(A)テルペノイドを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(B)ビタミンE類を配合することを特徴とする、テルペノイドにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのサイズ膨張を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0030】
また、本発明は、下記に掲げる、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制するための剤を提供する。
項13.(B)ビタミンE類を含有する、テルペノイドにより生じるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのサイズ膨張を抑制するための剤。
【発明の効果】
【0031】
本発明のSHCL用眼科組成物によれば、テルペノイドを含んでいながら、当該成分がSHCLに吸着するのを効果的に抑制できる。従って、本発明のSHCL用眼科組成物により、SHCLへのテルペノイドの吸着によって引き起こされるレンズの変形や変色等の惧れを生じさせず、SHCLをより快適且つ安全に使用させることが可能になる。
【0032】
更に、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着を顕著に抑制することができる。従って、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLの脂質汚れを防止して、非イオン性SHCLのくもりなどを防止し、また非イオン性SHCL本来の視力矯正力を維持することができ、更に非イオン性SHCLへの脂質吸着により引き起こされる角膜ステイニングなどの角膜上皮障害を効果的に防止して、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが可能になる。
【0033】
更に、本発明者等は、イオン性SHCLは、著しく摩擦が大きいことを確認した。このことは、イオン性SHCL装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得る。さらに、摩擦の大きなコンタクトレンズは、眼瞼の裏側の粘膜とコンタクトレンズ表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上でコンタクトレンズが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。これに対して、本発明によれば、イオン性SHCL表面の摩擦を顕著に抑制することができるので、イオン性SHCL装用時の不快感や目の疲れ等を低減でき、また角結膜上皮障害を防止して、快適且つ安全にイオン性SHCLを使用することが可能になる。
【0034】
また、SHCLは角膜に十分量の酸素を供給できるという大きなメリットがあるものの、結膜常在細菌が付着し易いという欠点も併せ持っている(M. D. P. Willcox et al., Bacterial interactions with contact lenses; effects of lens material, lens wear and microbial physiology、Biomaterials 22(2001),3235-3247)。また、結膜常在細菌の多くは非病原性であるが、過剰な付着や増殖がおこると、付着・増殖した細菌から分泌される菌体外物質によりSHCL表面にバイオフィルムが形成され、病原性微生物の温床となる危険性がある。更にSHCLは高い酸素透過性を有するが故に最長1ヶ月間連続装用される場合もあることから、装用中に細菌の付着を助長し易い傾向があるといえ、細菌感染症のリスク要因の一つであるとも指摘されている。これに対して、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、SHCLへの細菌の付着を抑制できるので、病原性微生物の増殖を抑制することができ、且つ長期間のSHCL装用でも細菌感染症のリスクを低減でき、SHCLを安全に使用することが可能になる。
【0035】
また更に、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、テルペノイドを含んでいながら、SHCLのサイズの膨張を抑制することができ、SHCLをより快適且つ安全に使用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】試験例1において、試験液(実施例1及び比較例1)を用いて、SHCLへのメントールの吸着量を測定した結果を示す図である。
【図2】試験例2において、試験液(実施例2及び比較例2)を用いて、SHCLへのメントールの吸着量を測定した結果を示す図である。
【図3】試験例3において、試験液(実施例1−2及び比較例1−2)を用いて、SHCLへのカンフルの吸着量を測定した結果を示す図である。
【図4】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズにおける脂質の吸着特性を評価した結果を示す図である。
【図5】試験例4において、試験液(実施例3−5及び比較例3−9)について、非イオン性SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図6】試験例5において、試験液(実施例6及び比較例10)について、イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果を評価した結果を示す図である。
【図7】試験例6において、試験液(実施例7及び比較例11〜13)について、SHCLへの細菌付着を抑制する効果を評価した結果を示す図である。
【図8】試験例7において、試験液(実施例8及び比較例14)について、SHCL及び非シリコーンハイドロゲルレンズへの細菌付着を抑制する効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
1.SHCL用眼科組成物
本発明のSHCL用眼科組成物は、テルペノイド(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0038】
テルペノイドは、イソプレンユニットを構成単位とする構造を有し、清涼化剤として汎用されている公知の化合物である。
【0039】
テルペノイドとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されない。テルペノイドとして、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイドとして、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
これらのテルペノイドの中でも、好ましくは、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール及びカンフル、より好ましくはl-メントール、dl-メントール、d-カンフル及びdl-カンフルが挙げられ、特に好ましくはl-メントール及びd-カンフルが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0041】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合は、該(A)成分の種類、SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該(A)成分が総量で0.00001〜0.5w/v%、好ましくは0.0001〜0.15w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%が例示される。なお、(A)成分として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記配合割合を満たすように設定される。
【0042】
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、ビタミンE類(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(A)成分と共に(B)成分を含有することによって、SHCLへの(A)成分の吸着を抑制することが可能となる。また、これらの成分の併用によって、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用、イオン性SHCLへの摩擦低減作用、 SHCLへの細菌の付着を抑制する作用、或いは(A)成分により生じるSHCLサイズ膨張を抑制する作用を備えさせることも可能になる。
【0043】
ビタミンE類としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に限定されないが、具体的には、トコフェロール、トコトリエノール、及びこれらの誘導体、並びにこれらの塩が挙げられる。上記トコフェロール及びトコトリエノールは、α-, β-, γ-,及びδ-のいずれであってもよく、またd体又はdl体のいずれであってもよい。好ましくはトコフェロールであり、より好ましくはα−トコフェロールであり、更に好ましくはdl−α−トコフェロールである。
【0044】
トコフェロールの誘導体としては、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、リノレン酸トコフェロール等のトコフェロール有機酸エステル等が挙げられる。これらの誘導体は1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0045】
トコフェロール、トコトリエノール及びこれらの誘導体の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に限定されないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。トコフェロール、トコトリエノール及びこれらの誘導体の塩は、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分は、トコフェロール、トコトリエノール、及びこれら誘導体、並びにこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。SHCLへの(A)成分の吸着抑制作用をより一層向上させるという観点から、(B)成分として、好ましくはトコフェロール、その誘導体、及びこれらの塩、より好ましくはトコフェロールの誘導体、更に好ましくはトコフェロール有機酸エステル、特に好ましくは酢酸トコフェロールが挙げられる。また、ここで例示する(B)成分は、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を有効に抑制するという観点、イオン性SHCLの摩擦を有効に低減させるという観点、SHCLへの細菌付着を有効に抑制するという観点、或いは(A)成分により生じるSHCLサイズ膨張を抑制するという観点からも好適である。
【0047】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合については、 (A)成分の種類、該(B)成分の種類、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.0005〜0.25w/v%、好ましくは0.001〜0.15w/v%、更に好ましくは0.005〜0.1w/v%が例示される。
【0048】
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、SHCLへの(A)成分の吸着をより効果的に抑制するという観点から、(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分の総量が0.1〜250000重量部、好ましくは1〜150000重量部、更に好ましくは10〜5000重量部となる範囲が例示される。なお、(A)成分として、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記比率を満たすように設定される。また、上記比率を充足することによって、非イオン性SHCLへの脂質吸着をより効果的に抑制すること、イオン性SHCLの摩擦をより有効に低減させること、SHCLへの細菌付着をより有効に抑制すること、或いはテルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張をより有効に抑制することも可能となる。
【0049】
また、本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、更に(C)ネオスチグミン、アミノエチルスルホン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有することが好ましい。このように更に(C)成分を含むことによって、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層向上させることが可能になる。また、このように更に(C)成分を含むことによって、SHCLへの細菌付着抑制作用を一層向上させること、或いはテルペノイドによるSHCLのサイズ膨張を一層有効に抑制することも可能になる。
【0050】
(C)成分の内、ネオスチグミンは、N-(-3-ジメチルカルバモイルオキシフェニル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムとも称される化合物である。ネオスチグミン及びその塩は、目のピント調節機能改善剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0051】
ネオスチグミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、メチル硫酸塩(メチル硫酸ネオスチグミン)、臭化物塩(臭化ネオスチグミン)等が例示される。これらの塩の中でも、好ましくはメチル硫酸塩が挙げられる。これらのネオスチグミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0052】
ネオスチグミン及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点、或いはテルペノイドにより生じるSHCLのレンズサイズの膨張を一層有効に抑制するという観点から、好ましくはネオスチグミンの塩、更に好ましくはメチル硫酸ネオスチグミンが挙げられる。
【0053】
また、(C)成分の内、アミノエチルスルホン酸は、タウリンとも称される公知の化合物である。
【0054】
アミノエチルスルホン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。アミノエチルスルホン酸の塩として、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらのアミノエチルスルホン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0055】
アミノエチルスルホン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点、或いはSHCLへの細菌付着をより有効に抑制できるという観点から、好ましくはアミノエチルスルホン酸が挙げられる。
【0056】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(C)成分は、ネオスチグミン、アミノエチルスルホン酸、及びこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよいが、テルペノイドにより生じるSHCLのレンズサイズの膨張をより有効に抑制するという観点からは、ネオスチグミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、SHCLへの細菌付着をより有効に抑制できるという観点からは、アミノエチルスルホン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。本発明で使用される(C)成分の好適な一例として、メチル硫酸ネオスチグミン、及びアミノエチルスルホン酸が挙げられる。
【0057】
本発明のSHCL用眼科組成物に(C)成分を配合する場合、該(C)成分の配合割合については、該(C)成分の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。(C)成分の配合割合の一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、該(C)成分が総量で、0.00005〜2.5w/v%、好ましくは0.001〜1.5w/v%が例示される。より具体的には、SHCL用眼科組成物の総量に対する各(C)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がネオスチグミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.00005〜0.025w/v%、好ましくは0.0001〜0.015w/v%、更に好ましくは0.001〜0.01w/v%;
(C)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.01〜2.5w/v%、好ましくは0.05〜2w/v%、更に好ましくは0.1〜1.5w/v%。
【0058】
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分に対する(C)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点、SHCLへの細菌付着を一層有効に抑制するという観点、或いはテルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を一層有効に抑制するという観点から、(A)成分の総量100重量部当たり、上記(C)成分の総量が0.01〜2500000重量部、好ましくは2〜100000重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの各(C)成分の比率として、以下の範囲が例示される:
(C)成分がネオスチグミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.01〜25000重量部、好ましくは0.1〜15000重量部、更に好ましくは2〜500重量部;
(C)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常2〜2500000重量部、好ましくは35〜1500000重量部、更に好ましくは200〜100000重量部。
【0059】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有してもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0060】
本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0061】
本発明のSHCL用眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE・POPブロックコポリマー類;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類が用いられる。
【0063】
本発明のSHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0064】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用眼科組成物に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明のSHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0066】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0067】
本発明のSHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0068】
本発明のSHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0069】
また、本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0070】
本発明のSHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム等。
消炎剤:例えば、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0071】
また、本発明のSHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0072】
本発明のSHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0073】
本発明のSHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0074】
本発明のSHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってSHCLに接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、SHCL用点眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、SHCL用洗眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、SHCL装着液、SHCLケア用液剤(SHCL消毒液、SHCL保存液、SHCL洗浄液、及びSHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。
【0075】
これらの中でも、SHCL用点眼剤は、他の眼科組成物に比べて一般に1日当たりの使用頻度が高い製剤であり、SHCLに上記(A)成分が多量に吸着し易かったり、(A)成分によるSHCLサイズ膨張を引き起こし易い傾向がある。本発明によれば、このような(A)成分が吸着し易い点眼剤においても効果的に(A)成分の吸着を抑制することができ、またサイズ膨張を効果的に抑制することができる。また、SHCL用点眼剤は、SHCL装用中に手軽に使用できるので、SHCL装用中に脂質汚れが付着するのを効果的に抑制でき、SHCL装用中の不快感を防止して快適にSHCLを装用することを可能にするという点で好適である。更に、SHCL用点眼剤は、イオン性SHCL装用中に該レンズの摩擦に起因する不快感や目の疲れを感じたときに手軽に使用でき、またSHCLを長期間連続装用しているときにも細菌付着を抑制するために手軽に使用できるという観点からも好適である。これらの観点に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な一例として、SHCL用点眼剤を挙げることができる。
【0076】
また、本発明のSHCL用眼科組成物の使用方法としては、該SHCL用眼科組成物をSHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、SHCL用点眼剤の場合、SHCLの装着前又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、SHCL用洗眼剤の場合も、SHCLの装着前又は装用中、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。なお、本発明のSHCL用眼科組成物がSHCL用点眼剤又はSHCL用洗眼剤である場合、SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、SHCL装着液の場合、SHCLの装着時にSHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中にSHCLを浸漬したり、該ケア用液剤にSHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
【0077】
本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、イオン性又は非イオン性の別を問わず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。とりわけ、イオン性SHCLは、テルペノイドを吸着する性質が強いという性質が認められているが、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このようにテルペノイドを吸着させ易いイオン性SHCLへのテルペノイドの吸着を効果的に抑制することができる。また、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、イオン性SHCLの摩擦を効果的に低減することができる。かかる観点に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例としてイオン性SHCLを挙げることができる。更に別の観点から、非イオン性SHCLは脂質を著しく吸着させ易いという特有の課題が明らかになっているが、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、テルペノイドの吸着抑制のみならず、かかる非イオン性SHCLへの脂質吸着をも効果的に抑制することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例として非イオン性SHCLを挙げることもできる。なお、ここでイオン性とは、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%以上であり、非イオン性とは、米国FDA基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。
【0078】
また、適用対象となるSHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。
【0079】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0080】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0081】
また、一般に材質が柔らかい非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比べ、材質が硬いSHCLは、異物の吸着によるレンズの変形等により、使用感の悪化を感じさせ易く、眼粘膜障害を引き起こし易い傾向にある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように使用感悪化や眼粘膜障害を引き起こし易い硬い材質のSHCLへの(A)成分の吸着や脂質の吸着を有効に抑制することができ、それによりレンズの変形や変質を防いで、使用感の悪化や眼粘膜障害を効果的に防止することもできる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象として、硬度が比較的高いSHCLが挙げられる。好ましくは、適用対象となるSHCLの硬度は、下記のテクスチャーアナライザーによる測定方法により測定した場合の硬度が、3g以上、好ましくは4g以上、より好ましくは6g以上、更に好ましくは8g以上である。また、適用対象となるSHCLの硬度の上限値については、特に制限されないが、好ましくは15g以下、更に好ましくは12g以下である。
【0082】
コンタクトレンズの硬度は、テクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて、具体的に以下のようにして測定され得る。
【0083】
まず、測定対象となるコンタクトレンズをパッケージから取り出し、余分な水分をふき取って、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)で濯いだ後、生理食塩水を満たしたプラスチックシャーレの底に凸面が上方になるように配置する。次いで、測定器のプローブの真下に該コンタクトレンズが来るように調節し、以下の測定条件下で測定を行う。
【0084】
[測定条件]
測定器の設定:
テストモード 圧縮測定
プローブタイプ φ10mmシリンダープローブ
Target Mode Distance
Distance 2.5mm
Triger Type Auto
Triger Force 0.1g
Test Speed 1.0mm/sec
プローブがレンズ頂点を押し下げ始めてから2.5mm(2.5秒)レンズを押しつぶす際の応力を測定し、その最大値を硬度として記録する。
【0085】
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に基づく固有の生理活性を発揮でき、様々な用途に使用することができる。例えば、(A)成分や(B)成分に基づいて、清涼感の付与、眼精疲労改善、疲れ目改善等の用途に使用され得る。
【0086】
また、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着が一因となって引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止できるので、かかる角膜上皮障害の予防剤として用いられることもできる。
【0087】
また、SHCLは、細菌が付着し易いことが分かっており、更に長期間の連続装用も可能になっているため、装用中に細菌の付着が助長され易い使用形態で用いられることもある。これに対して、本発明によれば、SHCLへの細菌の付着を有効に抑制できるので、眼粘膜の細菌感染症の予防乃至緩和剤としても使用できる。
【0088】
2.SHCLへのテルペノイドの吸着抑制方法、SHCLへのテルペノイドの吸着吸着抑制作用を付与する方法、及びSHCLへのテルペノイドの吸着を抑制するための剤
前述するように、SHCLへの上記(A)成分の吸着を上記(B)成分によって抑制することができる。
【0089】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)テルペノイドと(B)ビタミンE類とを併用することを特徴とする、SHCLへの該(A)成分の吸着を抑制する方法を提供する。また、本発明は、(A)テルペノイドを含有するSHCL用眼科組成物に、(B)ビタミンE類を配合することを特徴とする、SHCLへの該(A)成分の吸着を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0090】
また、本発明は、(B)ビタミンE類を含有する、SHCLへのテルペノイドの吸着を抑制するための剤をも提供する。
【0091】
これらの方法及び剤において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるSHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0092】
3.非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法、及び非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制することができる。
【0093】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するSHCL用眼科組成物を、非イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
【0094】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0095】
4.イオン性SHCLの摩擦を低減する方法、及びイオン性SHCLの摩擦を低減する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、イオン性SHCLの摩擦を低減することができる。
【0096】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するSHCL用眼科組成物を、イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、イオン性SHCLの摩擦を低減する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物にイオン性SHCLの摩擦を低減する作用を付与する方法を提供する。
【0097】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるイオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0098】
5. SHCLへの細菌の付着を抑制する方法、及びSHCLへの細菌の付着を抑制する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、SHCLへの細菌の付着を抑制することができる。
【0099】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有するSHCL用眼科組成物を、SHCLと接触させることを特徴とする、SHCLへの細菌の付着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物に、SHCLへの細菌の付着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
【0100】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるSHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0101】
6.テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する方法、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する作用の付与方法、及びテルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制するための剤
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制することができる。
【0102】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを併用することを特徴とする、該(A)成分により生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する方法を提供する。更には、(A)テルペノイドを含有するSHCL用眼科組成物に、(B)ビタミンE類を配合することを特徴とする、該(A)成分により生じるSHCLのサイズ膨張を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0103】
また、本発明は、(B)ビタミンE類を含有する、テルペノイドにより生じるSHCLのサイズ膨張を抑制するための剤をも提供する。
【0104】
これらの方法及び剤において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるSHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0106】
試験例1:メントールの吸着抑制試験(1)
下記表1に記載の3種のSHCLを用いて、メントールの吸着量について評価を行った。
【0107】
【表1】

【0108】
なお、各ソフトコンタクトレンズの硬度は、上述のようにテクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて測定した値である。
【0109】
まず、表1に記載の3種のSHCLを5mLの生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)中に1枚ずつ浸漬し、72時間静置した(レンズの前処理)。下記の表2に従って試験液(実施例1及び比較例1)を調製し、各試験液を密閉性の高い10mL容量ヘッドスペースバイアルに10mLずつ充填した。これらの試験液に、前処理を終えた各SHCLを浸漬し、34℃で120回/minにて24時間振とう処理を行った(サンプル群)。また、ブランク群としてSHCLを浸漬しない各試験液のバイアルを設け、サンプル群と同様の振とう処理を行った。各サンプル群のバイアルからSHCLを引き上げた後、サンプル群及びブランク群の各試験液中のメントール量を、常法に従いガスクロマトグラフィーを用いて定量した。ブランク群のメントール量からサンプル群のメントール量を差し引くことにより、各試験液におけるSHCLへのメントール吸着量を算出した。
【0110】
【表2】

【0111】
結果を図1に示す。図1に示されるように、比較例1の試験液を用いた場合には3種のいずれのSHCLでも多量のメントールの吸着が認められた。中でも、イオン性SHCLであるレンズ1に対してメントールが多量に吸着し易い傾向があることが認められた。一方、テルペノイド(メントール及びカンフル)と共に酢酸トコフェロールを配合した試験液(実施例1)を用いた場合には、レンズ1〜3のいずれのSHCLに対してもメントールの吸着を抑制できることが明らかとなった。
【0112】
また、酢酸トコフェロールの代わりに、他のビタミン類であるシアノコバラミン(ビタミンB12類の一種)やフラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム(ビタミンB2類の一種)を用いた場合には、このようなSHCLへのメントール吸着を抑制する効果は全く認められなかった(データは示さず)。従って、SHCLに対するメントールの吸着を抑制する効果は、酢酸トコフェロールを用いた場合に特異的に発揮される特有の効果であることが明らかとなった。
【0113】
試験例2:メントールの吸着抑制試験(2)
SHCLとして、上記試験例1で特に高いメントールの吸着が認められたレンズ1(イオン性SHCL)を用いて、下記表3に記載の試験液(実施例2及び比較例2)について、上記試験例1と同様の方法により、SHCLへのメントールの吸着量について評価を行った。
【0114】
【表3】

【0115】
この結果を図2に示す。図2に示されるように、テルペノイドを可溶化させる溶解補助剤として用いられる非イオン性界面活性剤の種類を変更しても、上記試験例1と同様に、酢酸トコフェロールを使用することによって、SHCLへのメントールの吸着を抑制できることが明らかとなった。
【0116】
試験例3:カンフルの吸着抑制試験
カンフルについても、メントールと同様のSHCL吸着抑制効果が得られるか否かを確認するため、上記試験例1及び2において、SHCL浸漬処理後のレンズ1(イオン性SHCL)の各試験液中のカンフル量とブランク群の各試験液中のカンフル量をガスクロマトグラフィーにより測定し、レンズ1へのカンフルの吸着量についても評価を行った。
【0117】
この結果を図3に示す。図3に示されるように、カンフルについても、酢酸トコフェロールを用いることによりSHCL吸着抑制効果が得られることが明らかとなり(実施例1−2)、酢酸トコフェロールによる吸着抑制効果は、任意のテルペノイドに対して奏されることが明らかとなった。
【0118】
参考試験例1:各種ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性の評価
表4に示す各種ソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0119】
【表4】

【0120】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)を1mg/mlの濃度で含むクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。各ソフトコンタクトレンズは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。サンプル群は、24ウェルマイクロプレートにおいて蛍光脂質溶液1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として生理食塩水1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、サンプル群と同様の振とう処理を行った。24時間後、各ソフトコンタクトレンズを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を、吸着脂質量の指標として算出した。
【0121】
結果を図4に示す。図4より明らかなように、非イオン性SHCL(レンズA及びB)の脂質吸着量は、イオン性SHCL(レンズC)及び、従来のハイドロゲルレンズ(レンズD〜F)と比較して著しく多く、脂質汚れの問題が深刻であることが確認された。
【0122】
試験例4:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表5に示す各試験液を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
【0123】
【表5】

【0124】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mlクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。
【0125】
次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに1000μLの各試験液(実施例3−5、及び比較例3−9)を入れ、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った。振とう処理を終えたレンズAを、蛍光脂質溶液1000μLが入った24ウェルマイクロプレートに移して再度、34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。またブランク群として、1000μLの生理食塩水を入れたウェルを作製し、その中に各試験液で処理したレンズAを一枚ずつ浸漬して同様に振とう処理を行った。24時間後、振とう処理を終えた各レンズAを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、コントロール(比較例3)を100%とした場合の各試験液の値を算出した。
【0126】
この結果を図5に示す。図5に示されるように、メントールと酢酸トコフェロールをそれぞれ単独で用いた場合には、コントロールと比較して脂質吸着抑制効果が殆ど又は全く無いことが認められた(比較例4及び5)。一方、全く予想外なことに、メントールと酢酸トコフェロールとを組み合わせて用いた場合では、非イオン性SHCLに対する脂質吸着を相乗的に抑制できることが示された(実施例3)。更に、メチル硫酸ネオスチグミンやアミノエチルスルホン酸自体には脂質吸着抑制効果は殆ど又は全く無く(比較例6及び7)、またこれらの成分をメントールと組み合わせた場合にも脂質吸着抑制効果は殆ど認められなかったが(比較例8及び9)、これらの成分をメントール及び酢酸トコフェロールと共に更に組み合わせて用いた場合には、脂質吸着抑制効果を飛躍的に向上させることができることも明らかとなった(実施例4及び5)。
【0127】
参考試験例2:イオン性SHCL表面の摩擦の評価
イオン性SHCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性等の様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、イオン性SHCL表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用したイオン性SHCLはレンズI(イオン性SHCL、主要構成モノマー:TrisVC、NVP(USAN:BalafilconA)、含水率36.0%、BC 8.6、DIA 14.0mm)であり、市販品である。
【0128】
このイオン性SHCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定条件は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で測定を実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以って、イオン性SHCL表面の摩擦の評価を行った。
【0129】
ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。レンズIについて測定した結果、その対数減衰率は約0.23と著しく高い値であった。従って、イオン性SHCLは対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0130】
試験例5:イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価
イオン性SHCLとして上記参考試験例2で使用したレンズIを使用して、レンズ表面の摩擦低減効果について以下の方法により評価を行った。
【0131】
先ず、表6に示される各試験液(比較例10及び実施例6)を調製した。イオン性SHCL(レンズI)を滅菌生理食塩水に4時間浸漬させた(レンズの前処理)。次いで、レンズ表面の生理食塩水を拭き取った後、10mlの各試験液中に1枚ずつ浸漬させ、一晩静置した。翌日、レンズ表面の水分を軽くふき取り、25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0132】
【表6】

【0133】
この結果を図6に示す。図6に示されるように、イオン性SHCLであるレンズIを用いた場合、コントロール(比較例10)と比較して、メントール及び酢酸トコフェロールの配合(実施例6)により対数減衰率の著しい減少が認められた。
【0134】
以上の結果より、メントールと酢酸トコフェロールとを組み合わせて用いることにより、イオン性SHCL表面の摩擦を顕著に抑制できることが明らかとなった。
【0135】
試験例6:SHCLへの細菌付着性評価試験
表7に示す試験液(比較例11〜13及び実施例7)を用いて、各種ソフトコンタクトレンズへのStaphylococcus aureus(ATCC No.6538)の付着性について評価した。レンズは、SHCLとしてレンズII(非イオン性SHCL、主要構成モノマー:N,N−ジメチルアクリルアミド、ピロリドン系化合物、ケイ素含有メタクリレート系化合物、ケイ素含有アクリレート系化合物(USAN:AsmofilconA)、含水率40%、BC8.60、DIA14.0)を用いた。
【0136】
【表7】

【0137】
まず、各レンズを1枚あたり滅菌生理食塩水5mL中に4時間以上浸漬させた(レンズの前処理)。次いで、各試験液(比較例11〜13及び実施例7)1mLを24穴マルチプレートに入れ、それぞれに前処理を終えたレンズの表面の水分を不織布で吸い取った後、1枚ずつ入れた。24時間後に各レンズの表面の水分をプレートのふちで軽くきった後、107~8CFU/mLのS. aureus菌液(生理食塩水中に懸濁したもの)5mLを入れた6穴マルチプレートに入れ、30分間室温にて保存した。30分後、ピンセットで生理食塩水5mLを入れた6ウェルプレートに各レンズを移し、1分間振とうした。次いで、各レンズを、新しい生理食塩水5mLの入ったスピッツ管に移し,3分間超音波(38kHz)にかけた後、1分間試験管ミキサーにて攪拌することで、各レンズに付着した細菌を剥がし、付着菌液とした。
【0138】
得られた付着菌液を適当な濃度になるように希釈し、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト・寒天培地(SCDLP寒天培地)上に播種した。33℃にて一晩培養後、観察されたコロニー数をカウントし、希釈倍率で補正することにより、各レンズに対する付着細菌数(生菌数)を求めた。
【0139】
この結果を、以下の図7に示す。図7に示されるように、カンフル、酢酸トコフェロールをそれぞれ単独で含有する試験液(比較例12及び比較例13)で処理した場合は、SHCLへの細菌付着を抑制することができないのに対して、カンフル及び酢酸トコフェロールを含有する試験液(実施例7)で処理した場合は、SHCLへの細菌付着を抑制することができた。
【0140】
試験例7:SHCLへの細菌付着性評価試験
表8に示す試験液(比較例14及び実施例8)を用いて、各種ソフトコンタクトレンズへのStaphylococcus aureus(ATCC No.6538)の付着性について評価した。レンズは、SHCLとして上記試験例6のレンズIIを、非シリコーンハイドロゲルレンズ(非SHCL)として上記参考試験例1のレンズFを用いた。
【0141】
【表8】

【0142】
試験は、上記試験例6と同様の方法で行った。
【0143】
この結果を、以下の図8に示す。図8に示されるように、SHCLは非シリコーンハイドロゲルレンズに比べて著しくS.aureusを付着させ易いことが認められた(比較例14)。そして、メントールと酢酸トコフェロールとアミノエチルスルホン酸の三成分を組み合わせて含有する試験液(実施例8)で処理した場合には、かかるSHCLへの細菌付着を抑制できることが認められた。一方、非シリコーンハイドロゲルレンズを用いた場合には、上記三成分を組み合わせて用いても細菌付着抑制効果は全く認められなかった。
【0144】
以上の結果より、メントール、酢酸トコフェロール、及びアミノエチルスルホン酸の三成分を組み合わせて用いることにより、SHCLへの細菌付着を顕著に抑制できることが明らかとなった。更に、この抑制効果は、SHCL特異的であることも明らかとなった。
【0145】
製剤例
表9に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例9−15)、SHCL装着液(実施例16)、SHCL装着液兼点眼液(実施例17)、SHCL用洗眼剤(実施例18)、及びSHCL洗浄液(実施例19)が調製される。
【0146】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テルペノイドと、(B)ビタミンE類とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(A)成分として、メントール及びカンフルからなる群より選択される少なくとも1種を
含む、請求項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
(B)成分として、酢酸トコフェロールを含む、請求項1又は2に記載のシリコーンハイ
ドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
更に、(C)ネオスチグミン、アミノエチルスルホン酸、及びそれらの塩からなる群より
選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1〜4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−132227(P2011−132227A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266256(P2010−266256)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】