説明

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】本発明の目的は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への脂質吸着を抑制できる、或いは花粉タンパク質のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの吸着を抑制できる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用して、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。より詳細には、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制することができる、或いはイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できる、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用の眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制する方法に関する。また、本発明は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(以下、CLと表記することもある)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(以下、SCLと表記することもある)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、SHCLと表記することもある)は、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一方、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、従来のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて、涙液層や化粧品などに由来する脂質の汚れが付きやすいことが指摘されている(非特許文献1)。こうした脂質汚れは、レンズのくもりなどを誘発して装用者に不快感を与え、QOL(Quality of Life)を害することとなる。また、こうしたコンタクトレンズの汚れは、当該レンズが本来備えるべき視力矯正力にも悪影響を与えるおそれがある。さらに近年、このようなコンタクトレンズの脂質汚れが、角膜ステイニングと呼ばれる角膜上皮障害の発生に影響を与えることも指摘されている。
【0005】
それゆえ、コンタクトレンズに使用される眼科組成物については、コンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズに使用される眼科組成物は、対象となるソフトコンタクトレンズの特性に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0006】
また、花粉症は、花粉に含まれる花粉タンパク質が抗原となって粘膜等と接触することにより引き起こされるアレルギー症状である。近年、花粉症の患者が増加しており、大きな社会問題になりつつある。眼科分野でも、花粉症の予防や悪化抑制に有用な眼科組成物の開発が強く求められている。
【0007】
一方、従来、ポリヘキサニド及びその塩には、消毒作用が知られており、眼科組成物に使用されている(特許文献1参照)。また、クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩についても、抗アレルギー作用、消炎作用、目のピント調節機能改善作用等の有用作用が知られており、眼科組成物に使用されている。しかしながら、これらの成分がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの汚れに及ぼす影響については明らかにされていない。ましてや、これらの中の特定の成分の組み合わせが、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに与える影響については、全く推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−501605号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】塩谷浩、あたらしい眼科Vol.25、No.7、907〜912頁、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズの脂質の吸着特性について種々検討を行ったところ、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと表記することもある)は、ソフトコンタクトレンズの中でも、脂質が著しく吸着し易いことを確認した。こうした著しい脂質汚れは、レンズのくもりなどを誘発して装用者のQOL(Quality of Life)を害し、またレンズの視力矯正力にも悪影響を与えかねない。更にこのような脂質汚れは、角膜ステイニングなどの角膜上皮障害を誘発する惧れもある。そのため、非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制することにより、レンズのくもりを防止して装用感を向上させ、また該レンズ本来の視力矯正力を維持し、さらに角膜上皮障害の発生を予防して、快適且つ安全にSHCLを使用することを可能にする手段の開発が求められている。
【0011】
更に、本発明者等は、各種のソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質の吸着特性について種々検討していたところ、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、イオン性SHCLと表記することもある)には花粉タンパク質が著しく吸着し易いという全く新しい知見を得た。一般に、タンパク質は、SHCLに対しては吸着し難いと考えられており、かかる知見は全く意外なものである。そして一般的に、コンタクトレンズ装用時には、眼が乾き易くなり、その結果、涙液による洗浄作用が低下して、花粉等の異物が眼に滞留し易くなるため、花粉症の発症リスクが高くなると考えられている。そのうえ、コンタクトレンズに花粉タンパク質が多量に吸着し蓄積していくとすれば、花粉症の発症リスクを著しく高めることになり、アレルギー症状を誘発または重篤化する一因にもなりかねない。更に、コンタクトレンズに吸着した花粉タンパク質の除去が不十分になれば、コンタクトレンズの装用感が損なわれて不快感やコンタクトレンズの曇りを誘発し、使用期間が短縮化されることにもなる。そのため、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できるような手段の開発が求められている。
【0012】
そこで、本発明の目的の一つは、非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制できるSHCL用眼科組成物を提供することである。また、本発明の他の目的の一つは、花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積を抑制できる、又はイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質の洗浄を行うことができる、SHCL用眼科組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することにより、非イオン性SHCLへの脂質吸着を相乗的に著しく抑制できることを見出した。また、本発明者等は、上記成分の併用は、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することを可能にし、イオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を効果的に洗浄できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記に掲げるSHCL用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.(A)成分として、下記一般式(1)で示される化合物及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【化1】

[式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)に示される基又はアミノ基であり、nは1〜500の整数を示す。]
【化2】

項1-3.式(1)中、R1はアミノ基であり、且つR2は一般式(2)に示される基である、項1-2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.(A)成分として、ポリヘキサニドの塩酸塩を含む、項1-1〜1-3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.(A)成分を総量で0.000005〜0.002w/v%含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6.(B)成分として、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム及びメチル硫酸ネオスチグミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-5のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7.(B)成分を総量で0.0005〜3.5w/v%含有する、項1-1〜1-6のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8. 更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-7のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9. 緩衝剤としてホウ酸緩衝剤を含む、項1-8に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10. 緩衝剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-8又は1-9に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11. 更に、等張化剤を含有する、項1-1〜1-10のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12. 等張化剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-11に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13. 等張化剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-11又は1-12に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-14. 更に、界面活性剤を含有する、項1-1〜1-13のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-15. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項1-14に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-16. 界面活性剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-14又は1-15に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-17. 点眼剤である、項1-1〜1-16のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-18. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用である、項1-1〜1-17のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-19. イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用である、項1-1〜1-17のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0015】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。
項2.(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する方法。
【0016】
また、本発明は、下記に掲げるSHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着抑制作用を付与する方法を提供する。
項3.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ポリヘキサニド、
及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法。
【0017】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法を提供する。
項4.(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる、SHCL用眼科組成物にイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を付与する方法を提供する。
項5.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物において、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着を顕著に抑制することができる。従って、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLの脂質汚れを防止して、非イオン性SHCLのくもりなどを防止し、非イオン性SHCLの使用感を良好に保ち、また非イオン性SHCL本来の視力矯正力を維持することができ、さらにSHCLへの脂質汚れの吸着により引き起こされる角膜ステイニングなどの角膜上皮障害を効果的に防止して、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが可能になる。
【0020】
更に、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、イオン性SHCLの装用中に花粉タンパク質とイオン性SHCLが接触しても、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止することで、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できる。従って、花粉症又は花粉症予備軍の使用者にとってアレルギー症状の発症リスクを低減させることができる。更に、本発明のSHCL用眼科組成物によれば、イオン性SHCLの装用中又は装用前後にイオン性SHCLを清潔に保持することもでき、イオン性SHCLの使用感を良好に保つこともできる。
【0021】
このように、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性及びイオン性SHCLの装用時に懸念される問題点を一挙に解決できるので、SHCLの使用において高い安全性と快適性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズにおける脂質の吸着特性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1-1〜1-5及び比較例1-1〜1-6)について、SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図3】試験例1において、試験液(実施例1-6〜1-11及び比較例1-7〜1-12)について、SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図4】試験例1において、試験液(実施例1-12〜1-16及び比較例1-13〜1-18)について、SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図5】参考試験例2において、各種ソフトコンタクトレンズへの花粉タンパク質の吸着性を評価した結果を示す図である。
【図6】試験例2において、試験液(実施例2-1〜2-2、比較例2-1〜2-3)がイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を除去する効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.SHCL用眼科組成物
本発明のSHCL用眼科組成物は、ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(A)成分又はPHMBと表記することもある)を含有する。
【0024】
本発明で使用されるポリヘキサニドについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、具体的には、下記一般式(1)に示される化合物が例示される。
【0025】
【化3】

【0026】
一般式(1)中、R1及びR2は、同一又は異なって、下記一般式(2)で示される基又はアミノ基を示す。好ましくはR1がアミノ基であり、且つR2が一般式(2)で示される基又はアミノ基であり、更に好ましくはR1がアミノ基であり、R2が一般式(2)で示される基である。
【0027】
【化4】

【0028】
また、一般式(1)中、nは、1〜500の整数を示す。好ましくは、2〜200の整数、更に好ましくは4〜100の整数、特に好ましくは8〜20の整数を示す。
【0029】
ポリヘキサニドの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものである限り、特に制限されない。ポリヘキサニドの塩として、具体的には、塩酸、臭化水素、硫酸、ホウ酸等の無機酸塩;酢酸、グルコン酸、マレイン酸、アスコルビン酸、ステアリン酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸塩が例示される。これらのポリヘキサニドの塩の中でも、好ましくは無機酸塩であり、更に好ましくは塩酸塩である。これらのポリヘキサニドの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分は、ポリヘキサニド、及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。(A)成分の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはポリヘキサニド又はその無機酸塩、更に好ましくはポリヘキサニド又はその塩酸塩、特に好ましくはポリヘキサニドの塩酸塩が挙げられる。
【0031】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合は、(A)成分の種類、併用する(B)成分の種類、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.000005〜0.002w/v%、好ましくは0.00001〜0.001w/v%、更に好ましくは0.00005〜0.0003w/v%が例示される。
【0032】
上記(A)成分の配合割合は、非イオン性SHCLに対する脂質吸着抑制作用を一層高め、また花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から好適である。
【0033】
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を有効に抑制させることが可能になり、またイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制させることが可能になる。
【0034】
また、(B)成分の内、クロモグリク酸は、5,5'-[(2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジイル)ビス(オキシ)]ビス[4-オキソ-4H-1-ベンゾピラン-2-カルボン酸]とも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0035】
クロモグリク酸の塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属との塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは、アルカリ金属塩であり、更に好ましくはナトリウム塩である。これらのクロモグリク酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0036】
また、クロモグリク酸及びその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0037】
クロモグリク酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはクロモグリク酸の塩、更に好ましくはクロモグリク酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクロモグリク酸ナトリウムが挙げられる。
【0038】
また、(B)成分の内、クロルフェニラミンは、3-(4-クロロフェニル)-N,N-ジメチル-3-ピリジン-2-イル-プロパン-1-アミンとも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0039】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、例えば、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0041】
クロルフェニラミン及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはマレイン酸の有機酸塩、特に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0042】
また、(B)成分の内、プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0043】
プラノプロフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩等の金属との塩;メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩等の有機塩基との塩等が挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
また、プラノプロフェン及びその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0045】
プラノプロフェン及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはプラノプロフェンが挙げられる。
【0046】
グリチルリチン酸は、20β-カルボキシ-11-オキソ-30-ノルオレアナ-12-エン-3β-イル=(β-D-グルコピラノシルウロン酸)-(1→2)-α-D-グルコピラノシドウロン酸とも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成又は抽出してもよく市販品として入手することもできる。
【0047】
グリチルリチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩;アンモニウム塩等が挙げられる。より具体的には、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム等のアルカリ金属との塩;グリチルリチン酸モノアンモニウム等のアンモニウム塩等が例示される。これらの中でも、好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、更に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。これらのグリチルリチン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0048】
グリチルリチン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはグリチルリチン酸の塩、更に好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。
【0049】
また、(B)成分の内、ネオスチグミンは、N-(-3-ジメチルカルバモイルオキシフェニル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムとも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0050】
ネオスチグミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、例えば、メチル硫酸塩(メチル硫酸ネオスチグミン)、臭化物塩(臭化ネオスチグミン)等が例示される。ネオスチグミンの塩の中でも、好ましくはメチル硫酸塩が挙げられる。これらのネオスチグミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0051】
ネオスチグミン及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはネオスチグミンの塩、更に好ましくはメチル硫酸ネオスチグミンが挙げられる。
【0052】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分は、クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明で使用される(B)成分の好適な一例として、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム及びメチル硫酸ネオスチグミンが挙げられる。
【0053】
本発明で使用される(B)成分の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくは、クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、及びこれらの塩;更に好ましくはプラノプロフェンが例示される。
【0054】
また、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、(B)成分として、好ましくはグリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩;更に好ましくは、ネオスチグミン、及びその塩が例示される。
【0055】
とりわけ、(B)成分の内、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩は、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用と、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用の双方の作用が優れており、好適である。
【0056】
本発明のSHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合は、(B)成分の種類、併用する(A)成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.0005〜3.5w/v%、好ましくは0.001〜2.5%が例示される。より具体的には、(B)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分がクロルフェニラミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜0.1w/v%、好ましくは0.006〜0.03w/v%、更に好ましくは0.01〜0.03w/v%;
(B)成分がクロモグリク酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.05〜3w/v%、好ましくは0.1〜2w/v%、更に好ましくは0.5〜1w/v%;
(B)成分がプラノプロフェン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜0.2w/v%、好ましくは0.01〜0.1w/v%、更に好ましくは0.01〜0.05w/v%;
(B)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜0.5w/v%、好ましくは0.005〜0.3w/v%、更に好ましくは0.05〜0.25w/v%;
(B)成分がネオスチグミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.0005〜0.01w/v%、好ましくは0.0007〜0.007w/v%、更に好ましくは0.001〜0.005w/v%。
【0057】
上記(B)成分の配合割合は、非イオン性SHCLに対する脂質吸着抑制作用を一層高め、またイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から好適である。
【0058】
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高める、或いは花粉タンパク質のイオン性SHCLへの吸着抑制作用を一層高めるという観点から、(A)成分1重量部当たり、上記(B)成分の総量が1〜10万重量部、好ましくは1〜5万重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量1重量部当たりの(B)成分の比率として、以下の範囲が例示される:
(B)成分がクロルフェニラミン及び/又はその塩の場合:通常10〜2000重量部、好ましくは20〜1000重量部、更に好ましくは30〜600重量部;
(B)成分がクロモグリク酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常500〜10万重量部、好ましくは1000〜5万重量部、更に好ましくは1500〜2万重量部;
(B)成分がプラノプロフェン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常10〜5000重量部、好ましくは20〜2000重量部、更に好ましくは30〜1000重量部;
(B)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常50〜20000重量部、好ましくは100〜10000重量部、更に好ましくは150〜5000重量部;
(B)成分がネオスチグミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常1〜500重量部、好ましくは2〜200重量部、更に好ましくは3〜100重量部。
【0059】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に清涼化剤を含有することが好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる清涼化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる清涼化剤の具体例として、例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等が挙げられる。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、またこれらを含有する精油であってもよい。このような精油としては、ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等が挙げられる。これらの清涼化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、メントール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、ベルガモット油、ユーカリ油が挙げられ、更に好ましくはメントール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオールが挙げられ、特に好ましくはメントール、カンフルが挙げられ、更に特にこのましくはメントールが挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本発明のSHCL用眼科組成物に清涼化剤を配合する場合、該清涼化剤の配合割合については、使用する清涼化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該清涼化剤が総量で0.0001〜1w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.002〜0.03w/v%、特に好ましくは、0.005〜0.02w/v%となる割合が例示される。
【0061】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有することが好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムが挙げられ、更に好ましくは塩化ナトリウム又はグリセリンが挙げられ、特に好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0062】
本発明のSHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0063】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に緩衝剤を含有することが好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明のSHCL用眼科組成物に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0064】
本発明のSHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0065】
本発明のSHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0066】
本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン又はその塩(例えば、塩酸塩等)等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のSHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。
【0067】
本発明のSHCL用眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0068】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、又はPOE・POPブロックコポリマー類;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポロクサマー407が用いられる。
【0069】
本発明のSHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0070】
本発明のSHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のSHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0071】
また、本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のSHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0072】
本発明のSHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0073】
また、本発明のSHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0074】
本発明のSHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0075】
本発明のSHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明のSHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第十五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0076】
本発明のSHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってSHCLに接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、SHCL用点眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、SHCL用洗眼剤(SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、SHCL装着液、SHCLケア用液剤(SHCL消毒液、SHCL保存液、SHCL洗浄液、及びSHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。
【0077】
これらの中でも、SHCL用点眼剤は、1日当たりの使用頻度が高い製剤であり、SHCLへの脂質吸着を効果的に抑制することが可能である。かかる脂質吸着抑制作用に鑑みれば、SHCL用眼科組成物の好適な製剤形態の一例として、SHCL用点眼剤が例示される。
【0078】
また、SHCL用点眼剤、SHCL用洗眼剤、SHCL用洗浄剤、特にSHCL用点眼剤は、花粉タンパク質のイオン性SHCLへの蓄積抑制作用が強く求められる製剤形態である。かかる観点に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な一例として、SHCL用点眼剤、SHCL用洗眼剤、及びSHCL用洗浄剤、特に好ましくはSHCL用点眼剤を挙げられる。
【0079】
また、本発明のSHCL用眼科組成物の使用方法としては、該SHCL用眼科組成物をSHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、SHCL用点眼剤の場合、SHCLの装着前又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよく、特にSHCLを装着したまま点眼することが好ましい。また、SHCL用洗眼剤の場合も、SHCLの装着前又は装用中、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよく、特にSHCLを装着したまま洗眼することが好ましい。なお、本発明のSHCL用眼科組成物がSHCL用点眼剤又はSHCL用洗眼剤である場合、SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、SHCL装着液の場合、SHCLの装着時にSHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中にSHCLを浸漬したり、該ケア用液剤にSHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
【0080】
本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの種類については特に制限されず、イオン性又は非イオン性の別を問わず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのSHCLを適用対象にできる。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLを適用対象とする場合には、非イオン性SHCLに対する脂質の吸着を抑制できる。また、イオン性SHCLを適用対象とする場合には、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することができる。なお、ここでイオン性とは、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%以上であることをいい、非イオン性とは、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。
【0081】
また、本発明のSHCL用眼科組成物において、適用対象となるSHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。
【0082】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0083】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0084】
また、一般に材質が柔らかい非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比べ、材質が硬いSHCLは、異物の吸着によるレンズの変形や濡れ性低下により、使用感の悪化を感じさせ易く、眼粘膜障害を引き起こし易い傾向にある。本発明のSHCL用眼科組成物によれば、このように使用感悪化や眼粘膜障害を引き起こし易い硬い材質のSHCLへの脂質や花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制することができ、それによりレンズの変形や変質を防いで、使用感の悪化や眼粘膜障害を効果的に防止することもできる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のSHCL用眼科組成物の好適な適用対象として、硬度が比較的高いSHCLが挙げられる。好ましくは、適用対象となるSHCLの硬度は、下記のテクスチャーアナライザーによる測定方法により測定した場合の硬度が、3g以上、好ましくは4g以上、より好ましくは6g以上、更に好ましくは8g以上である。また、適用対象となるSHCLの硬度の上限値については、特に制限されないが、好ましくは15g以下、更に好ましくは12g以下である。
【0085】
コンタクトレンズの硬度は、テクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて、具体的に以下のようにして測定され得る。
【0086】
まず、測定対象となるコンタクトレンズをパッケージから取り出し、余分な水分をふき取って、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)で濯いだ後、生理食塩水を満たしたプラスチックシャーレの底に凸面が上方になるように配置する。次いで、測定器のプローブの真下に該コンタクトレンズが来るように調節し、以下の測定条件下で測定を行う。
【0087】
[測定条件]
測定器の設定:
テストモード 圧縮測定
プローブタイプ φ10mmシリンダープローブ
Target Mode Distance
Distance 2.5mm
Triger Type Auto
Triger Force 0.1g
Test Speed 1.0mm/sec
プローブがレンズ頂点を押し下げ始めてから2.5mm(2.5秒)レンズを押しつぶす際の応力を測定し、その最大値を硬度として記録する。
【0088】
本発明のSHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に基づく固有の生理活性を発揮でき、様々な用途に使用することができる。例えば、(A)成分に基づいて、防腐、殺菌、消毒の用途に使用してもよく、また(B)成分に基づいて、抗アレルギー、消炎、目のピント調節機能改善等の用途に使用することもできる。
【0089】
また、本発明のSHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着が一因となって引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止できるので、角膜上皮障害の予防剤として用いられることもできる。
【0090】
更に、本発明のSHCL用眼科組成物は、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制できる。よって、コンタクトレンズ上に吸着された花粉タンパク質が、長時間眼に接触し続けるのを防ぎ、花粉によるアレルギーの予防や悪化の防止にも有効である。従って、花粉症又は花粉症予備軍のイオン性SHCL使用者への適用に好適である。
【0091】
2.非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法、及び非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制することができる。
【0092】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するSHCL用眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物に、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
【0093】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0094】
3.イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法、及びイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を付与する方法
また、前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、イオン性SHCL装用眼が花粉に晒されても、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着を防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することが可能になる。従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有するSHCL用眼科組成物を、イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、SHCL用眼科組成物において、(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0095】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるイオン性SHCLの種類等については、前記「1.SHCL用眼科組成物」と同様である。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0097】
参考試験例1:各種SCLの脂質吸着性の評価
表1に示す各種ソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0098】
【表1】

【0099】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)を1mg/mlの濃度で含むクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。各ソフトコンタクトレンズは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。サンプル群として、24ウェルマイクロプレートにおいて蛍光脂質溶液1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として生理食塩水1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、サンプル群と同様の振とう処理を行った。24時間後、各ソフトコンタクトレンズを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を、吸着脂質量の指標として算出した。
【0100】
結果を図1に示す。図1より明らかなように、非イオン性SHCL(レンズA及びB)の脂質吸着量は、イオン性SHCL(レンズC)及び、従来のハイドロゲルレンズ(レンズD〜F)と比較して著しく多く、脂質汚れの問題が深刻であることが確認された。
【0101】
試験例1:SHCL脂質吸着抑制評価
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表2〜7に示す各試験液(実施例1-1〜1-16及び比較例1-1〜1-18)を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
【表6】

【0107】
【表7】

【0108】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mlクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに200μLの各試験液(実施例1-1〜1-11及び比較例1-1〜1-12)及び1000μLの蛍光脂質溶液を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。また、ブランク群として200μLの各試験液(実施例1-1〜1-11及び比較例1-1〜1-12)及び1000μLの生理食塩水を入れたウェルを作成し、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して同様に振とう処理を行った(ブランク群)。24時間後、振とう処理を終えた各レンズAを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、塩化ナトリウム、ホウ酸緩衝剤及び精製水からなる試験液(コントロール試験液)の吸着脂質量を100%とした場合の各試験液の吸着脂質量の相対値(%)を算出した。具体的には、実施例1-1〜1-5及び比較例1-2〜1-6の試験液については比較例1-1をコントロール試験液、実施例1-6〜1-11及び比較例1-8〜1-12の試験液については比較例1-7をコントロール試験液として、各試験液の吸着脂質量の相対値(%)を求めた。
【0109】
尚、試験液として実施例1-12〜1-16及び比較例1-13〜1-18を用いた場合については、サンプル群として各試験液600μL及び蛍光脂質溶液600μLを入れたウェルを作成し、ブランク群として各試験液600μL及び生理食塩水600μLを入れたウェルを作成し、上記と同様に試験を行った。各試験液の吸着脂質量の相対値(%)は、実施例1-12〜1-16及び比較例1-14〜1-18の試験液については比較例1-13をコントロール試験液として、上記と同様に求めた。
【0110】
得られた結果を図2〜4に示す。図2〜4に示されるように、PHMB、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、又はメチル硫酸ネオスチグミンを単独で用いた場合では、有効な脂質吸着抑制効果は認められなかった。一方、全く予想外なことに、PHMBと共に、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、又はメチル硫酸ネオスチグミンとを組み合わせて用いた場合(実施例1-1〜1-16)では、非イオン性SHCLに対する脂質吸着を相乗的に抑制できることが示された。
【0111】
また、実施例1-1〜1-16の試験液を点眼剤として調製し、非イオン性SHCL装用中に点眼した結果、非イオン性SHCLの使用感は良好に保たれた。
【0112】
参考試験例2:ソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質吸着特性の評価
表8に示す4種のソフトコンタクトレンズを試験に用いて、ソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質の吸着特性を評価した。
【0113】
まず、試験に使用するレンズを、生理食塩液4mLに1枚ずつ浸漬させ、室温にて一晩保存した(レンズの前処理)。
【0114】
花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を、生理食塩液に溶解し、5mg/30mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、花粉タンパク質液1.0mLを入れ、前処理済みのレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬し、34℃120rpmにて18時間振とうを行った。次いで、レンズを取り出し、生理食塩液100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、ビーカーのふちを使って軽く水分を切り、24穴プレートの各穴に入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS含有水溶液)1mLに浸漬させた。34℃120rpmで3時間振とうし、レンズに吸着した花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
【0115】
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中の花粉タンパク質量を、アルブミン換算値として定量し、レンズに対する花粉タンパク質吸着量を求めた。
【0116】
【表8】

【0117】
なお、各ソフトコンタクトレンズの硬度は、上述のようにテクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて測定した値である。
【0118】
結果を図5に示す。図5に示されるように、イオン性SHCLであるレンズ1を用いた場合には、非シリコンソフトコンタクトレンズであるレンズ3及びレンズ4や、非イオン性SHCLであるレンズ2と比較すると、顕著に高い花粉タンパク質の吸着が認められた。この結果から、花粉タンパク質は、ソフトコンタクトレンズの中でもイオン性SHCLに対して極めて多量に吸着する傾向があり、イオン性SHCLには、花粉タンパク質を非常に吸着し易いという特有の課題が存在することが確認された。
【0119】
試験例2:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価
上記参考試験例2にて花粉タンパク質の顕著な吸着が確認されたレンズ1(イオン性SHCL)を用いて、下記の試験を実施した。
【0120】
先ず、レンズ1を、5mLの生理食塩液に1枚ずつ浸漬させ、5時間室温にて保存した(レンズの前処理)。花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を生理食塩液に溶解し、5mg/50mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、1.0mLの花粉タンパク質液を入れ、前処理したレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬させ、34℃、400rpmで24時間振とうを行った。
【0121】
花粉タンパク質液に浸漬させたレンズ1を取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、水分をふき取り、24穴プレートに入れた表9に記載の各試験液(実施例2-1〜2-2、及び比較例2-1〜2-4)1.0mLにそれぞれ浸漬して34℃、400rpmで18時間振とうを行った。その後、レンズ1を取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、ビーカーのふちを使って、軽く水分を切り、24穴プレートに入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS含有水溶液)0.5mLに浸漬させた。34℃、400rpmで3時間振とうし、レンズに吸着していた花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
【0122】
また、各試験液の影響を差し引くことによって、より正確に花粉タンパク質吸着量を算出するために、ブランク群として、花粉タンパク質液で処理する工程を生理食塩水での処理に変更した以外は、上記と同様に各試験液での処理と花粉タンパク質分離用液での処理を行ったものを用意した。
【0123】
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中に存在する花粉タンパク質の量を、アルブミン換算値として定量し、レンズ1から脱離した花粉タンパク質の量(花粉タンパク質吸着量)を求めた。なお、花粉タンパク質吸着量の算出に際して、各サンプルの吸光度から、上記ブランク群の吸光度を差し引いて、アルブミン換算値として算出することにより、花粉タンパク質吸着量を求めた。次いで、次式に従い、比較例2-4の試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量に対する、各比較例及び実施例の試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量の割合から、花粉タンパク質吸着改善率(%)を算出した。
【0124】
【数1】

【0125】
【表9】

【0126】
結果を図6に示す。この結果から、PHMB、グリチルリチン酸二カリウム又はメチル硫酸ネオスチグミンは、いずれも単独で使用した場合(比較例2-1〜2-3)には、花粉タンパク質の蓄積を改善しなかった。一方、全く予想外なことに、PHMBと共に、グリチルリチン酸二カリウム又はメチル硫酸ネオスチグミンとを組み合わせて用いた場合(実施例2-1及び2-2)には、花粉タンパク質吸着改善率が相乗的に著しく高められ、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の吸着量を効果的に低減でき、蓄積を抑制できることが明らかとなった。
【0127】
製剤例
表10に記載の処方で、SHCL用点眼剤(実施例3−7)、SHCL装着液(実施例8)、SHCL装着兼点眼液(実施例9)、SHCL用洗眼剤(実施例10)、及びSHCL洗浄液(実施例11−12)が調製される。
【0128】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリヘキサニド、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)クロルフェニラミン、クロモグリク酸、プラノプロフェン、グリチルリチン酸、ネオスチグミン及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(A)成分として、ポリヘキサニドの塩酸塩を含む、請求項1に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
(B)成分として、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム及びメチル硫酸ネオスチグミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
点眼剤である、請求項1〜3のいずれかに記載のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−136980(P2011−136980A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260198(P2010−260198)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】