説明

シリコーンブランケット

【課題】PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造できる上、長寿命のシリコーンブランケットを提供する。
【解決手段】円筒状のスリーブ2の外周面に直接に、またはシリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の下層3を介して、外周面5の表面粗さRaが0.1μm以下である、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層4を形成したシリコーンブランケット1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷法等において中間転写体として用いられる、表面層がシリコーンゴムからなるシリコーンブランケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷法等の印刷法は、インキパターンを簡易に、かつ少ない工程数で効率よく多量に、しかも安価に形成できる利点を有しており、また近年に至って印刷精度の向上が図られていることから、特にエレクトロニクス分野等の精密印刷において利用が広まりつつある。
例えば電気配線のパターンや蛍光体のパターン、あるいはプラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LCD)の構成部品等における各種のパターンといった、微細でかつ高精度のパターンの形成が求められる分野において、従来のフォトリソグラフ法によるパターン形成に代えて印刷法が普及してきている。
【0003】
このうちオフセット印刷法では、版の表面にパターン形成したインキを、中間転写体としてのブランケットの表面に転写させたのち被印刷体の表面に再転写させることで、前記被印刷体の表面に所定のパターンが印刷される。
ブランケットとしては、少なくとも前記表面を構成する表面層を、インキに対する離型性に優れたシリコーンゴムによって形成したシリコーンブランケットが広く用いられる。
【0004】
近年、前記印刷法の利点を活かしながら、前記PDPやLCDの構成部品等(以下「精密印刷物品」と略記する場合がある)の生産性をさらに向上し、製造コストをより一層引き下げることを目指して、いわゆるロール・ツー・ロール(roll to roll)方式による連続印刷を採用することが検討されている。
ロール・ツー・ロール方式による連続印刷では、従来、円筒状の外周面を備えた胴の前記外周面に、平板状(シート状)のブランケットを円筒状に巻きつけた、いわゆるゴム胴(ブランケット胴)を用いるのが一般的である。
【0005】
そして、ロール状に巻いた長尺の被印刷体を一定速度で連続的に繰り出し、かつ前記ゴム胴を、前記繰り出しに合わせて同期回転させるとともに、ゴム胴の外周面であるブランケットの表面に連続的にインキパターンを転写しながら被印刷体の表面に連続的に接触させることにより、前記被印刷体の表面に、連続的に印刷をすることができる。
しかしゴム胴の外周面にはブランケットの継ぎ目(ギャップ)が存在し、前記ギャップをまたいで印刷した場合には正常なパターンを印刷できないため、前記ゴム胴を用いたロール・ツー・ロール方式による連続印刷は印刷の歩留まりが低いという問題がある。
【0006】
薄いニッケル箔等からなる円筒状の基材の外周面に、ゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層を直接に、あるいは何らかの下層を介して形成した、いわゆるギャップレスブランケットと呼ばれる円筒状のブランケットが知られている(例えば特許文献1等参照)。
前記ギャップレスブランケットを用いれば、ギャップの問題を解消してロール・ツー・ロール方式による連続印刷における印刷の歩留まりをさらに向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3376500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし従来のギャップレスブランケットは、精密印刷物品を印刷するために特に考慮されたものではなく、通常印刷用であって、表面層は、インキに対する離型性等を考慮せずに、シリコーンゴム以外の他のゴムで形成されることが多い。
またシリコーンゴムで形成されている場合も含めて、前記表面層は、印刷精度等を特に考慮して、その外周面の表面状態が設定されていないため、本来的に精密印刷物品の印刷には適していない。
【0009】
また、表面層は継ぎ目のない円筒状に形成されていても、例えば印圧の微調整等のために前記表面層の下に設けられる下層は、エラストマ含浸繊維強化材料等からなる長尺のシートを、前記円筒状の基材の外周面にらせん状に巻きつける等して形成されており、かかる下層には、表面層の外周面の平滑性に影響を及ぼす継ぎ目が存在する(例えば引用文献1の図11、図12等)。
【0010】
そのため、前記のように表面層のインキに対する離型性が考慮されていないこと、印刷の精度等を考慮して前記表面層の外周面の表面状態が設定されていないこと、さらには下層に継ぎ目が存在すること等が相まって、従来のギャップレスブランケットを精密印刷物品の印刷に使用しても、求められる印刷精度を満足する良好な精密印刷物品を製造できないという問題がある。
【0011】
また表面層をシリコーンゴムで形成する場合、前記シリコーンゴムは離型性が高いことから、前記表面層は、下層を形成する他のゴム等との接着性も低く、前記下層から剥離しやすい。そのため、シリコーンゴムからなる表面層と下層との積層構造を有するギャップレスブランケットは前記両層間で界面剥離を生じやすく、寿命が短いという問題もある。
本発明の目的は、前記PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造できる上、長寿命のシリコーンブランケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、円筒状の外周面を備えた基材、および前記外周面に直接に、またはシリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の下層を介して形成された、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層を備えるとともに、前記表面層の外周面の表面粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とするシリコーンブランケットである。
本発明によれば、インキと直接に接触する表面層を、前記インキの離型性に優れたシリコーンゴムによって継ぎ目のない円筒状に形成するとともに、前記表面層の外周面を、表面粗さRaが0.1μm以下の平滑面に仕上げており、しかも下層を含む場合は前記下層をも継ぎ目のない円筒状に形成して、前記継ぎ目が表面層の外周面の平滑性に影響を及ぼすのを防止している。
【0013】
そのため本発明によれば、先に説明したPDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を、高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造することが可能となる。
なお本発明によれば、前記表面層と基材との間に下層を設ける場合、前記下層を、表面層と同じもしくは同系のシリコーンゴムによって形成することで、前記下層に対する表面層の接着性を向上し、両層間で界面剥離を生じるのを防止して、シリコーンブランケットをこれまでよりも長寿命化することもできる。
【0014】
また前記のように両層は、ともにシリコーンゴムからなり、互いに接着性に優れているため、シリコーンゴムからなる下層を形成した上にシリコーンゴムを塗布して硬化反応させるだけで、前記下層と良好に一体化された表面層を形成できる。そのため、前記表面層のもとになるシリコーンゴムの塗布に先立って下層の外周面を研磨したり、前記下層の外周面にプライマや接着剤の層を形成したりする工程を省略することができ、シリコーンブランケットの生産性を向上することもできる。
【0015】
なお表面層は、インキの転写性をさらに向上することを考慮すると、シリコーンゴムの中でも2液付加反応型シリコーンゴムによって形成するのが好ましい。また下層は、前記表面層の接着性をさらに向上することを考慮すると、シリコーンゴムの中でも、表面層を形成するのと同系である、2液付加反応型シリコーンゴムによって形成するのが好ましい。
【0016】
また基材は、繊維強化プラスチックからなる円筒状のスリーブであるのが好ましい。
前記繊維強化プラスチックからなるスリーブは耐久性に優れるため、印刷機のブランケット胴に繰り返し着脱することができる上、リサイクルも可能である。
しかも繊維強化プラスチックを円筒状に形成したスリーブは軽量で、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0017】
前記表面層は、前記基材または下層の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、前記基材を周方向に回転させながら硬化反応させることで、前記シリコーンゴムの持つセルフレベリング性により、外周面の表面粗さRaが0.1μm以下に形成されているのが好ましい。
前記表面層の、外周面の表面粗さRaを、例えば研磨等によって前記範囲内とするのは容易でなく、仕上げるためには長時間を有し、そのことがシリコーンブランケットの生産性を低下させる原因となる。
【0018】
これに対し、基材または下層の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、前記基材を周方向に回転させると、当該シリコーンゴムが、自身の持つセルフレベリング性によって均一に均されながら硬化反応するため、研磨工程を経ることなしに、外周面の表面粗さRaが0.1μm以下の表面層を形成することができる。そのため、シリコーンブランケットの生産性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を、ロール・ツー・ロール方式により、高い印刷精度でもって、これまでよりも生産性良く製造できる上、長寿命のシリコーンブランケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシリコーンブランケットの、実施の形態の一例を示す、一部を拡大した斜視図である。
【図2】前記シリコーンブランケットの、実施の形態の他の例を示す、一部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明のシリコーンブランケットの、実施の形態の一例を示す、一部を拡大した斜視図である。
図1を参照して、この例のシリコーンブランケット1は、基材としての、全体が円筒状に形成されたスリーブ2、前記スリーブ2の外周面に形成された、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の下層3、および前記下層3の外周面に形成された、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層4を備えている。
【0022】
前記のうちスリーブ2としては、先に説明した薄いニッケル箔等の金属製のものも使用可能であるが、特に繊維強化プラスチック(FRP)によって筒状に形成したスリーブを用いるのが好ましい。
前記FRPからなるスリーブは耐久性に優れるため、印刷機のブランケット胴に繰り返し着脱することができる上、リサイクルも可能である。
しかも前記スリーブ2は軽量で、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0023】
前記FPR製のスリーブ2としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維等の各種繊維からなる織布または不織布を筒状に編成するとともに、例えば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させ、硬化反応させて形成されたもの等を用いることができる。
スリーブ2の径方向の厚みは、前記スリーブ2に適度な強度を持たせることを考慮すると1mm以上であるのが好ましい。また重量の増加を制限して取扱性の低下を防止することを考慮すると3mm以下であるのが好ましい。
【0024】
下層3としては、例えばシリコーンブランケット1の印圧を微調整する機能等を備えた種々の下層が挙げられる。
かかる印圧を微調整する機能を備えた下層3としては、例えば表面層4よりも軟らかい層(印圧を低下させる)や、逆に表面層4よりも硬い層(印圧を上昇させる)等が挙げられる。
【0025】
このうち表面層4よりも軟らかい下層3は、例えば前記表面層4を形成するシリコーンゴムよりも硬化後のゴム硬さが小さいシリコーンゴムを用いて形成したり、シリコーンゴム中に中空微小粒子(マイクロカプセル)等を分散させて多孔質化したり、この両方法を併用したりすることで形成される。
また表面層よりも硬い下層3は、前記表面層4を形成するシリコーンゴムよりも硬化後のゴム硬さが大きいシリコーンゴムを用いて形成される。
【0026】
前記下層3を形成するシリコーンゴムの種類は限定されないが、後述する表面層4と同じもしくは同系のシリコーンゴムによって形成するのが好ましい。特に表面層4を2液付加反応型シリコーンゴムで形成する場合は、下層3を、同系で、例えば硬化後のゴム硬さが異なる2液付加反応型シリコーンゴムで形成するのが好ましい。
これにより、下層3に対する表面層4の接着性を向上し、両層間で界面剥離を生じるのを防止して、シリコーンブランケット1をこれまでよりも長寿命化することができる。
【0027】
また、表面層4のもとになるシリコーンゴムの塗布に先立って下層3の外周面を研磨したり、前記下層3の外周面にプライマや接着剤の層を形成したりする工程を省略することができ、シリコーンブランケット1の生産性を向上することもできる。
下層3は、スリーブ2の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、例えば室温ないし100℃程度で硬化反応させることにより形成される。
【0028】
硬化温度が100℃以下であるのが好ましいのは、前記範囲を超える場合、特にFRP製のスリーブ2に影響が出るおそれがあるためである。また、下層3の形成に要するエネルギーが増加したり、加熱に要する時間が長くかかりすぎたりして、シリコーンブランケット1の生産性が低下するおそれがあるためである。
下層3の径方向の厚みは、当該下層3に付与する機能(例えばゴム硬さ等)に応じて任意に設定することができる。
【0029】
塗布は1回で所定厚みとなるようにしても良いし、数回に別けて所定厚みとなるようにしても良い。塗布にはバーコーター等を用いる。
塗布後、スリーブ2を周方向に回転させながら硬化反応させるのが好ましい。これにより、シリコーンゴムが、自身の持つセルフレベリング性によって均一に均されながら硬化反応するため、研磨工程等を経ることなしに、下層3の厚みを均一化することができる。
【0030】
表面層4を形成するシリコーンゴムの種類は特に限定されないが、インキの転写性をさらに向上することを考慮すると、2液付加反応型シリコーンゴムが好ましい。
また、先に説明したように同系である2液付加反応型シリコーンゴムからなる下層3の外周面に2液付加反応型シリコーンゴムを塗布したのち硬化反応させることで、下層3に対する表面層4の接着性を向上し、両層間で界面剥離を生じるのを防止して、シリコーンブランケット1をこれまでよりも長寿命化することができる。
【0031】
また、表面層4のもとになるシリコーンゴムの塗布に先立って下層3の外周面を研磨したり、前記下層3の外周面にプライマや接着剤の層を形成したりする工程を省略することができ、シリコーンブランケット1の生産性を向上することもできる。
表面層4は、下層3の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、例えば室温ないし100℃程度で硬化反応させることにより形成される。
【0032】
硬化温度が100℃以下であるのが好ましいのは、前記範囲を超える場合、特にFRP製のスリーブ2に影響が出るおそれがあるためである。また、表面層4の形成に要するエネルギーが増加したり、加熱に要する時間が長くかかりすぎたりして、シリコーンブランケット1の生産性が低下するおそれがあるためである。
表面層4は、印刷に使用するインキや形成する印刷パターンに応じて、その径方向の厚みやゴム硬さ等の物理的特性、あるいはインキの濡れ性等の化学的特性などを任意に設定することができる。例えばシリコーンブランケット1の印圧を適度な範囲に調整することを考慮すると、表面層4の径方向の厚みは0.2mm以上であるのが好ましく、3mm以下であるのが好ましい。
【0033】
塗布は1回で所定厚みとなるようにしても良いし、数回に別けて所定厚みとなるようにしても良い。塗布にはバーコーター等を用いる。
表面層4は、その外周面5の表面粗さRaが0.1μm以下である必要がある。これにより、前記表面層4やその下の下層3をいずれもシリコーンゴムによって継ぎ目のない円筒状に形成したことと相まって、PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を、高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造できるシリコーンブランケット1が得られる。
【0034】
表面粗さRaを前記範囲内に調整するには、シリコーンゴムを塗布し、硬化反応させて形成した表面層4の前記外周面5を研磨等してもよい。
しかし、前記下層3の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、スリーブ2を周方向に回転させながら硬化反応させることで、前記シリコーンゴムの持つセルフレベリング性により、外周面の表面粗さRaを0.1μm以下に形成するのが好ましい。
【0035】
すなわち下層3の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、スリーブ2を周方向に回転させると、当該シリコーンゴムが、自身の持つセルフレベリング性によって均一に均されながら硬化反応するため、研磨工程を経ることなしに、外周面5の表面粗さRaが0.1μm以下の表面層4を形成することができる。そのため、シリコーンブランケットの生産性を向上することができる。
【0036】
スリーブ2を回転させながらシリコーンゴムを硬化反応させる際の条件は特に限定されないが、回転時間は、室温で0.5時間以上であるのが好ましい。回転時間が前記範囲未満では、表面層4の外周面5の表面粗さRaを前記範囲内に調整できないおそれがある。
また回転速度は、シリコーンゴムの粘度や塗布厚み等にもよるが、30rpm以上、600rpm以下であるのが好ましい。回転速度が前記範囲を外れる場合には、表面層4の外周面5の表面粗さRaを前記範囲内に調整できないおそれがある。
【0037】
また、前記のようにスリーブ2を回転させながらシリコーンゴムを硬化反応させることで表面層4の外周面5の表面粗さRaを0.1μm以下とするためには、使用するシリコーンゴムが例えば充てん剤を含む場合、その粒径をできるだけ小さく、また配合割合をできるだけ少なくするのも好ましい。あるいは充てん剤は配合しなくてもよい。
特に充てん剤の配合割合は、シリコーンゴム全体の比重が1.10以下となるように設定するのが好ましい。
【0038】
なお表面さRaは、印刷精度を向上することを考慮すると、前記範囲内でも小さければ小さいほど好ましいが、たとえ前記充てん剤を全く配合しなかったとしても、あるいは回転の条件を前記範囲内に設定したとしても、スリーブ2を回転させながらシリコーンゴムを硬化反応させることで表面粗さRaを小さくできる範囲には限界があり、前記表面粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上であるのが好ましい。
【0039】
なお表面粗さRaを、本発明では日本工業規格JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」において規定された輪郭曲線の算術平均高さRaでもって表すこととする。
前記各部を備えた、この例のシリコーンブランケット1によれば、PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を、高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造することが可能である。その上、前記シリコーンブランケット1は生産性に優れる上、長寿命である。
【0040】
図2は、前記シリコーンブランケットの、実施の形態の他の例を示す、一部を拡大した斜視図である。
図2を参照して、この例のシリコーンブランケット1は、下層3を省略して、スリーブ2の外周面に直接に、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層4を設けた点が先の例と相違している。
【0041】
前記スリーブ2、および表面層4は、先の例と同様に構成される。
すなわちスリーブ2は、FRPによって円筒状に形成するのが好ましい。
前記FRPからなるスリーブは耐久性に優れるため、印刷機のブランケット胴に繰り返し着脱することができる上、リサイクルも可能である。
しかも前記スリーブ2は軽量で、取り扱いも容易である。
【0042】
また、表面層4は任意のシリコーンゴムによって形成可能であるが、インキの転写性をさらに向上することを考慮すると、特に2液付加反応型シリコーンゴムを用いて形成するのが好ましい。
前記表面層4は、その外周面5の表面粗さRaが0.1μm以下である必要がある。また前記表面粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上であるのが好ましい。
【0043】
表面層4の径方向の厚みは0.2mm以上であるのが好ましく、3mm以下であるのが好ましい。さらに、FRP製のスリーブ2の径方向の厚みは1mm以上であるのが好ましく3mm以下であるのが好ましい。
前記表面層4は、前記スリーブ2の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、スリーブ2を周方向に回転させながら硬化反応させることで、前記シリコーンゴムの持つセルフレベリング性により、外周面の表面粗さRaを0.1μm以下に形成するのが好ましい。
【0044】
これらの理由は、先に説明したとおりである。
前記各部を備えたこの例のシリコーンブランケット1によれば、PDPやLCDの構成部品等の精密印刷物品を、高い印刷精度でもって、しかもロール・ツー・ロール方式によりこれまでよりも生産性良く製造することが可能である。その上、前記シリコーンブランケット1は生産性に優れる上、長寿命である。
【0045】
なお本発明の構成は、以上で説明した図の例のものには限定されない。
例えばスリーブ2としては、FRP製のものに限らず、種々の材質のものを用いることができる。その場合、下層3あるいは表面層4の密着性を向上するべく、前記スリーブ2の外周面にプライマや接着剤の層を形成したりしてもよい。
また図1の例では下層3を1層のみ設けていたが、機能の異なる2層以上の下層を積層しても良い。
【0046】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を施すことができる。
【実施例】
【0047】
〈実施例1〉
(スリーブ)
スリーブとしては、径方向の厚み2mm、幅300mmのFRP製のスリーブを用意した。
(表面層用のシリコーンゴムの調製)
硬化後のゴム硬さ(JIS A硬さ)が30となる2液液状付加型シリコーンゴムの主剤100質量部と硬化剤10質量部とを混合して、表面層用のシリコーンゴムを調製した。シリコーンゴムの比重は1.02であった。
【0048】
(シリコーンブランケットの製造)
前記表面層用のシリコーンゴムを、先のスリーブの外周面に、バーコーターを用いて厚み1mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて表面層を形成し、シリコーンブランケットを製造した。
【0049】
前記表面層の外周面の表面粗さRaは0.05μmであった。
〈実施例2〉
(下層用のシリコーンゴムの調製)
硬化後のゴム硬さ(JIS A硬さ)が20となる2液液状付加型シリコーンゴムの主剤100質量部に、外殻がポリアクリロニトリルを主成分とするマイクロカプセル2質量部を加えて混合した後、前記2液液状付加型シリコーンゴムの硬化剤10質量部を加えてさらに混合して、下層用のシリコーンゴムを調整した。
【0050】
(シリコーンブランケットの製造)
実施例1で使用したのと同じスリーブの外周面に、まず前記下層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて、多孔質構造を有する下層を形成した。
【0051】
次いで前記下層の外周面に、実施例1で調製したのと同じ表面層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて表面層を形成し、シリコーンブランケットを製造した。
前記表面層の外周面の表面粗さRaは0.05μmであった。
【0052】
〈実施例3〉
(下層用のシリコーンゴムの調製)
硬化後のゴム硬さ(JIS A硬さ)が70となる2液液状付加型シリコーンゴムの主剤100質量部と硬化剤10質量部とを混合して、下層用のシリコーンゴムを調整した。
(シリコーンブランケットの製造)
実施例1で使用したのと同じスリーブの外周面に、まず前記下層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて、非多孔質構造を有する下層を形成した。
【0053】
次いで前記下層の外周面に、実施例1で調製したのと同じ表面層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて表面層を形成し、シリコーンブランケットを製造した。
前記表面層の外周面の表面粗さRaは0.05μmであった。
【0054】
〈比較例1〉
(下層用のゴム糊の調製)
NBR(ニトリルゴム)とその架橋成分とを溶剤に溶解してゴム糊を調製した。
(シリコーンブランケットの製造)
実施例1で使用したのと同じスリーブの外周面に、まず前記下層用のゴム糊を、バーコーターを用いて塗布し、次いで160℃で5分間加熱してNBRを架橋させた後、外周面を研磨して厚み0.5mm、ゴム硬さ(JIS A硬さ)が50である下層を形成した。
【0055】
次いで前記下層の外周面に、実施例1で調製したのと同じ表面層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて表面層を形成し、シリコーンブランケットを製造した。
前記表面層の外周面の表面粗さRaは0.05μmであった。
【0056】
〈比較例2〉
(表面層用のシリコーンゴムの調製)
硬化後のゴム硬さ(JIS A硬さ)が30となる2液液状付加型シリコーンゴムの主剤100質量部と硬化剤10質量部とを混合し、さらに充てん剤としてのシリカを20質量部配合して、表面層用のシリコーンゴムを調製した。シリコーンゴムの比重は1.30であった。
【0057】
(シリコーンブランケットの製造)
実施例1で使用したのと同じスリーブの外周面に、前記表面層用のシリコーンゴムを、バーコーターを用いて厚み0.5mmとなるように塗布した後、前記スリーブをその軸を中心として周方向に周方向に300rpmで回転させ続けながら室温で24時間、前記シリコーンゴムを硬化反応させて表面層を形成し、シリコーンブランケットを製造した。
【0058】
前記表面層の外周面の表面粗さRaは0.52μmであった。
〈接着性評価〉
前記実施例、比較例で製造したシリコーンブランケットを構成する各層の接着性を評価するため、前記シリコーンブランケットのスリーブを固定しながら表面層を剥離した。そして剥離の状態を観察して、下記の基準で接着性を評価した。
【0059】
○:表面層または下層が凝集破壊した。接着性良好。
×:表面層または下層が界面剥離した。接着性不良。
〈印刷試験〉
前記実施例、比較例で製造したシリコーンブランケットを、それぞれロール・ツー・ロール方式のオフセット印刷機に装着し、凹版オフセット印刷法によって、被印刷体としての長尺のPETフィルムの表面に、連続的に格子状のパターンを印刷した。
【0060】
インキとしては、ポリエステル樹脂、溶剤および銀粉末を3本ロールで混練して調製した銀ペーストを用いた。また凹版としては、金属製の基板に線幅80μm、深さ20μm、ピッチ300μmのストライプ状の凹部が形成されたものを用いた。
印刷の条件は、凹版からシリコーンブランケットの外周面への銀ペーストの転写速度を100mm/s、シリコーンブランケットの外周面からPETフィルムの表面への銀ペーストの転写速度を100mm/sに設定した。
【0061】
印刷し、乾燥させた格子状のパターンを観察して、下記の基準で印刷の精度を評価した。
○:線幅のばらつきやエッジの乱れ等は見られなかった。精度良好。
×:線幅がばらついたりエッジが乱れたりしているのが観察された。精度不良。
以上の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、下層をNBRで形成した比較例1は界面剥離を生じたことから接着性が不良であることが判った。これに対し実施例1〜3はいずれも凝集破壊を生じたことから、スリーブと表面層との接着性(実施例1)や、あるいはスリーブと下層、下層と表面層との接着性(実施例2、3)に優れていること判った。
また表面層の外周面の表面粗さRaが0.1μmを超える0.52μmであった比較例2は印刷の精度が低下することが判った。これに対し、前記表面粗さRaを0.1μm以下の0.05μmとした実施例1〜3は、いずれも印刷の精度が良好であることが判った。
【符号の説明】
【0064】
1 シリコーンブランケット
2 スリーブ
3 下層
4 表面層
5 外周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外周面を備えた基材、および前記外周面に直接に、またはシリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の下層を介して形成された、シリコーンゴムからなる継ぎ目のない円筒状の表面層を備えるとともに、前記表面層の外周面の表面粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とするシリコーンブランケット。
【請求項2】
前記表面層、および下層は、ともに2液付加反応型シリコーンゴムからなる層である請求項1に記載のシリコーンブランケット。
【請求項3】
前記基材は、繊維強化プラスチックからなる円筒状のスリーブである請求項1または2に記載のシリコーンブランケット。
【請求項4】
前記表面層は、前記基材または下層の外周面に液状のシリコーンゴムを塗布したのち、前記基材を周方向に回転させながら硬化反応させることで、前記シリコーンゴムの持つセルフレベリング性により、外周面の表面粗さRaが0.1μm以下に形成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシリコーンブランケット。

【図1】
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【図2】
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