シリコーンモノマー、その製造方法、単量体組成物及び重合体
【課題】シリコーン含量が大きく、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合したとき、高い透明度及び酸素透過率が想定できる、眼に適用するのに好適なシリコーンモノマー、その製造方法、該モノマーを用いた単量体組成物及び重合体を提供する。
【解決手段】シリコーンモノマーの一例を次に示す。
該モノマーは、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に有用である。
【解決手段】シリコーンモノマーの一例を次に示す。
該モノマーは、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜等の眼科デバイスを製造する際に利用可能な、重合性を有するシリコーンモノマー、その製造方法、該シリコーンモノマーを用いた単量体組成物及び重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
生体用デバイスを含む種々の物品は、例えば、有機ケイ素化合物含有材料から形成されている。ソフトコンタクトレンズなどの生体用デバイスに有用な有機ケイ素化合物材料の一つにケイ素含有ヒドロゲル材料が挙げられる。一般に、ケイ素系の材料は、水よりも高い酸素透過性を有するので、より高い酸素透過性を有する物品が提供できる。
従来ハードコンタクトレンズに用いられている有機ケイ素化合物材料は、高酸素透過性であるが、ソフトコンタクトレンズに用いられる材料よりも硬い。また、このような有機ケイ素化合物材料は疎水性であるため、これを用いてレンズを製造するには、親水性表面を提供するための追加の処理を必要とする。
例えば、眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーとして、下記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)が知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】
【0004】
TRISも疎水性のモノマーであるため、眼用レンズ素材として用いる場合には、例えば、親水性モノマーと共重合させることが考えられる。しかし、TRISは、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、このような親水性モノマーと共重合させた場合、透明ポリマーが得られず、レンズ素材として使用できないという欠点がある。また、N−ビニルピロリドンやN,N−ジメチルアクリルアミドなど、他の親水性モノマーとの組み合わせの多くは含水時に表面が強く撥水するために、TRISはソフトコンタクトレンズ用素材として使用しにくいことが知られている。
これを改善する目的で、特許文献2および特許文献3には、SiGMA(ジメチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレート)が提案され、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用途に相溶化剤モノマーとして使用されている。SiGMAは、適度な酸素透過性能を有するために酸素透過製剤としての役割も果たしている。該SiGMAは水酸基を有していることから良好な親水性を発現することが知られている。
【化2】
【0005】
また、レンズの装用感に悪影響を与えるオリゴマー架橋成分を低減する方法として、特許文献4に該モノマーの新たな製造方法も提案されている。しかしながら、モノマー1分子内のシロキサニル基が占める質量割合をシリコーン含量と定義したとき、SiGMAはシリコーン含量が52.4%(SiGMAの1分子中のシロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は221であり、SiGMAの分子量が422であるから、このときのシリコーン含量は、221/422×100=52.4%と計算できる。)であり、TRISのシリコーン含量72%と比較して、ケイ素含量が低いため、十分な酸素透過性を得ることが困難であった。
【0006】
特許文献5には分子内にアミド結合を有する下記式で示されるシリコーンモノマーTMSAAが提案されている。該シリコーンモノマーは、アミド基を有することからTRISと比較して親水性が向上している。
しかし、十分な親水性を得るには至っておらず、これを用いてソフトコンタクトレンズを調製した際にはレンズ表面が疎水性になり、表面の親水化処理等を行なう必要がある。そのため、製造工程が複雑になるという問題があった。
【化3】
【0007】
特許文献6には、メタクリル酸ハライドとオリゴエチレングリコール変性直鎖シリコーンとの反応による新たなモノマーが提案されている。オリゴエチレングリコールは、分子内のエーテル基と共に末端の遊離水酸基が大きく親水性に寄与するが、該モノマーの水酸基はエステル結合を形成しているため十分に機能せず、親水性を得るためには、エーテル構造の繰り返し単位を多くする必要がある。そのため、モノマー中のシリコーン含量は下がる傾向にあり、レンズの表面親水性と酸素透過性とを同時に満たすことは困難であった。
【0008】
特許文献7には、3級アミンとハロゲン化アルキルとの反応により得られる、式(3)で表される分子内に4級アンモニウムを有するシリコーンモノマーが提案されている。このモノマーは、重合によりレンズ表面の親水性は達成されるが、シリコーン含量は295/587=50.3%とSiGMAと同程度であり、酸素透過性を満足することが困難である。また該モノマーはカチオン性であるため、これを用いたレンズではタンパク質吸着など、レンズ表面の白濁汚れが懸念される。
【化4】
【0009】
以上の事情から、眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーの分野では、新たな分子構造の親水性を有するシリコーンモノマーであって、製造が容易で、一日使い捨てレンズのような安価な用途にも使用可能な、且つモノマー1分子内にシロキサニル基が占める割合(シリコーン含量)が大きいシリコーンモノマーの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3808178号明細書
【特許文献2】特開昭54−061126号公報
【特許文献3】特開平11−310613号公報
【特許文献4】特開2008−510817号公報
【特許文献5】米国特許第4711943号明細書
【特許文献6】特開2008−202060号公報
【特許文献7】特開2009−521546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、シリコーン含量が大きく、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合した際に、透明度及び酸素透過率が高いと想定される、眼に適用するのに好適なシリコーンモノマー、その製造方法、該シリコーンモノマーを用いた単量体組成物及び重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、式(1)で表されるシリコーンモノマーが提供される。
【化5】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは式(2a)〜式(2f)から選ばれる基を示す。nは0または1を表す。)
【化6】
【0013】
また本発明によれば、アミノ酸及び(メタ)アクリル酸を反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸と、ハロゲン化アルキル変性シリコーンとを反応させる工程を含む上記式(1)で示されるシリコーンモノマーの製造方法が提供される。
更に本発明によれば、上記シリコーンモノマー20〜60質量%と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミドまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマー40〜80質量%とを含む単量体組成物が提供される。
更にまた本発明によれば、上記単量体組成物を重合させて得た重合体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコーンモノマーは、シリコーン含量が高く、また分子内に親水性アミノ酸に由来するアミド基、エステル基を有することから親水性が高く、他の(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと相溶性が高いため、共重合させる目的で用いたとき、透明性と酸素透過性を同時に満足すると考えられ、眼科デバイスの原料に用いられるシリコーンモノマーとして有用である。また、本発明の単量体組成物及び重合体は、本発明のシリコーンモノマーを利用するので、透明性と酸素透過性を同時に満足するコンタクトレンズ等の眼科デバイスの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例1で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図3】実施例2で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図4】実施例2で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図5】実施例3で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図6】実施例3で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図7】実施例4で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図8】実施例4で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図9】実施例5で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図10】実施例5で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図11】実施例6で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図12】実施例6で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のシリコーンモノマーは、上記式(1)で示されるアミノ酸誘導体のシリコーンモノマーであることを特徴とする。ここで、アミノ酸とは、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物を意味する。該モノマーは具体的には、アミノ酸が有するアミンとカルボン酸により、アミド基とエステル基を介して不飽和重合性基とシロキサニル基が化学結合しているモノマーである。
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。nは0または1を表す。
【0017】
式(1)中、Xは上記式(2a)〜(2f)から選ばれる基を示す。
本発明のシリコーンモノマーは、1分子中に占めるシロキサニル基の割合がなるべく大きい方が好ましく、この観点から、例えば、式(1)において、Xが式(2a)である化合物、式(1)において、Xが式(2c)である化合物、および式(1)において、Xが式(2d)である化合物が特に好ましく挙げられる。
式(1)において、Xが式(2a)であり、Rがメチル基、n=1で表される化合物は式(4a)で表される。
【0018】
【化7】
式(4a)で表されるモノマーの分子量は493であり、シロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は295であることから、このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0019】
式(1)において、Xが式(2d)であり、Rが水素原子、n=1で表される化合物は式(4b)で表される。
【化8】
式(4b)で表されるモノマーの分子量は493であり、シロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は295であることから、このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0020】
式(4a)または式(4b)のシリコーンモノマーは、モノマー中のシリコーン含量の割合が約60%と高く、得られる共重合体の酸素透過性を効果的に高められると考えられ、眼科デバイスの中でもコンタクトレンズ用のシリコーンモノマーとしての利用が期待できる。
【0021】
本発明のシリコーンモノマーは、アミノ酸及び(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、例えば、(メタ)アクリル酸クロライドを反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸(誘導体)と、ハロゲン化アルキル変性シリコーン、例えば、3−ヨードプロピル[トリス(トリメチル)シロキシ]シランとを反応させる本発明の製造方法等により得ることができる。
具体的には、式(5)(式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い炭素数1〜6の2価の有機基を示す。)で表される(メタ)アクリロイルアミノ酸と、式(6)(式(6)中、Yはハロゲンであり、好ましくはBr、またはIである。nは0または1を表す。Yはハロゲンであり、好ましくはBr、またはIである。)で表されるシリコーン化合物とを反応させる方法により得られる。
【0022】
【化9】
【0023】
該反応は、例えば、式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸5〜60質量%を含む有機溶媒中に、式(6)で示されるシリコーン化合物を式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸のカルボン酸に対して、10モル%〜100モル%混合し、恒温槽中、20〜100℃の温度で行なうことが好ましい。
前記有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。
【0024】
上記式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸は、公知の方法により得られる。例えば、氷冷下、アミノ酸のナトリウム塩水溶液に塩化(メタ)アクリロイルを滴下することにより合成できる(Journal of Applied Polymer Science,24,1551,1979、米国特許第4172934号明細書)。
上記式(6)で示されるシリコーン化合物は、得られるシリコーンモノマーの純度に影響するので高純度品であることが好ましく、例えば、Dokl.Akad.Nauk,SSSR,1976,227,607〜610、J.Organomet.Chem.,1988,340,31〜36、特開2002−68930号公報に示される、トリアルコキシシランまたはトリクロロシランと、ヘキサメチルジシロキサンとから得ることができ、抽出や蒸留精製により高純度化することができる。
【0025】
上記反応は、反応速度を上げるために塩基の存在下行うことが好ましい。好ましい塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の有機塩基が挙げられる。より好ましくは炭酸カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。
前記塩基の使用量は、式(6)で示されるシリコーン化合物1モルに対して、1モル〜3モル程度である。
【0026】
反応に際しては、(メタ)アクリル基が重合しないように重合禁止剤を用いるのが好ましい。重合禁止剤としては、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。上記禁止剤は、反応液へ100ppm〜10000ppm添加することが望ましい。
【0027】
反応後に得られるシリコーンモノマーは高沸点を有する液体であり、再結晶や蒸留操作の利用が困難であるため、分液洗浄、吸着剤処理等による精製が望ましい。
洗浄により精製する場合は、反応液をn−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素に溶解させて得られる溶液(疎水相)を、イオン交換水、アルカリ水溶液、アルコール水溶液等(親水相)で洗浄することが望ましい。この時用いるアルカリとしては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが望ましい。アルコール水溶液に用いるアルコールとしては、分液状態を形成するために極性が高いメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールから選択されるもの又はこれらの混合物を水と混合して用いることが望ましい。
前記疎水相を形成するために、反応液に対して炭化水素を質量比で0.5〜3倍量加えるのが好ましい。0.5倍未満では分液させることが困難であり、3倍より多いと経済的に不利である。前記洗浄液の使用量は炭化水素と同程度が好ましい。
【0028】
上記洗浄後、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等の脱水剤を使用して、反応液中に含まれる少量の水を脱水し、固体をろ別した後、例えばエバポレータを使用して溶媒を除去することにより目的物を得ることができる。溶媒の除去は約50℃以下で行い、真空ポンプにより10mmHg以下で1時間程度行なうのが望ましい。
【0029】
本発明のシリコーンモノマーは、例えば、眼科デバイスを形成するポリマーの原料として使用することができる。該シリコーンモノマーを用いて眼科デバイスを製造するには、例えば、本発明のシリコーンモノマーと共重合可能な、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基などの炭素−炭素不飽和結合を有する他のモノマー、好ましくは得られる重合体表面の十分な親水性がさらに改善される、水酸基、アミド基、両性イオン等の親水基を有する他のモノマーと混合し、重合させることにより得ることができる。
眼科デバイスを製造する際の本発明のシリコーンモノマーの使用量は、用いる他のモノマーの種類等により異なるが、得られる眼科デバイスの表面親水性の改善や、柔軟性をコントロールするために、原料モノマー中10〜80質量%が好ましい。
【0030】
本発明の単量体組成物は、上述の本発明のシリコーンモノマーと、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスフェートまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマーとを含み、例えば、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの重合用組成物として用いることができる。
本発明の単量体組成物において、本発明のシリコーンモノマーの含有割合は、組成物全量基準で20〜60質量%であり、上記親水性モノマーの合計の含有割合は、組成物全量基準で40〜80質量%である。本発明のシリコーンモノマーの含有割合が20質量%未満では、重合して得られる重合体の酸素透過性が低い恐れがあり、60質量%を超える場合には重合して得られる重合体の表面濡れ性が低下する恐れがある。
【0031】
前記単量体組成物には、本発明のシリコーンモノマーの上記特性を損なわない範囲で、必要に応じて、他のモノマーを適宜含有させることもできる。他のモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート、(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の非イオン性単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等の酸を含有するアニオン性単量体;2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基又はアンモニウム基を含有するカチオン性単量体;N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、3−[[2−(メタクリロイルオキシ)エチル](ジメチル)アンモニオ]−1−プロパンスルホネート等の両性イオン単量体が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記他のモノマーを用いる場合の含有割合は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜決定することができるが、単量体組成物全量基準で、その合計量が、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0032】
本発明の重合体は、本発明の単量体組成物を重合させて得られたものであり、例えば、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に利用することができる。
前記重合は、例えば、熱重合、光重合、モールド重合等の任意の重合方法を利用して、公知の条件や方法に準じて行うことができる。この際、重合法に応じて適宜公知の重合開始剤を用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、例中の各測定は以下の機器等を用いて行った。
1)シリコーンモノマー純度測定法(GC法)
ガスクロマトグラフ:Agilent社製GC system 7890A、
キャピラリーカラム:J&W社 HP−1(0.53mm、30m、2.65μm)、
注入口温度:250℃、
昇温プログラム:80℃(0分)→20℃/分→250℃(20分)、
検出器:FID、250℃、キャリアガス:ヘリウム(5ml/分)、スプリット比: 5:1、注入量:2μl。
2)1H−NMR測定法
日本電子社製JNM−AL400、溶媒;CDCl3又はCD3OD (TMS基準)。
3)赤外線吸収(IR)測定法
測定法:液膜法、積算回数:16回
4)質量測定法(LC−MS法)
LC部:Waters社 2695 Separations Module、
MS部;Waters 2695 Q−micro、
LC溶離液条件:アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム水溶液(9/1)。
【0034】
実施例1−1
MAglyS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−メタクリロイルグリシネート)の合成(シリコーン含量59.8%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド701.7g、メタクリロイルグリシン55.4g(0.387モル)、p−メトキシフェノール(以下、MQと記す)0.35gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.258モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水350g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相へメタノール800gを混合してメタノール相へ抽出し、メタノールを減圧除去して透明液体101.8gを得た(収率82%)。GCによる得られたシリコーン化合物の純度は94%であった。各測定結果を以下、並びに図1及び図2に示す。
【0035】
1H−NMR測定
CH2=C−:5.78ppm(1H)、5.43ppm(1H)、−CH2−:4.92ppm(2H)、4.00ppm(2H)、1.70ppm(2H)、0.50ppm(2H)
−CH3:1.96ppm(3H)、0.10ppm(27H)。
IR測定結果
3345cm-1、3090cm-1、2960cm-1、1745cm-1、1670cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量493であることから、上記式(4a)で表される化合物(MAglyS)であることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0036】
実施例1−2
MalaS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−メタクリロイルアラニネート)の合成(シリコーン含量58.2%)
1Lナスフラスコに、N,N−ジメチルホルムアミド701.7g、メタクリロイルアラニン60.87g(0.387モル)、MQ0.18gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.387モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水700g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去してMalaS108.0gを得た(収率85%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は93%であった。各測定結果を以下、並びに図3及び図4に示す。
【0037】
1H−NMR測定
CH2=C−:5.75ppm(1H)、5.43ppm(1H)、
【化10】
−CH2−:4.09ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.96ppm(3H)、1.44ppm(3H)、0.13ppm(27H)。
IR測定結果
3335cm-1、3090cm-1、2960cm-1、1740cm-1、1660cm-1、1625cm-1、1550cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量507であることから、MalaSは、式(7)で表されることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/507×100=58.2%である。
【0038】
【化11】
【0039】
実施例1−3
AbalS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−アクリロイル−β−アラニネート)の合成(シリコーン含量59.8%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド701.7g、アクリロイル−β−アラニン55.43g(0.387モル)、MQ0.18gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.387モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水700g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去してAbalS105.5gを得た(収率85%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は93%であった。各測定結果を以下、並びに図5及び図6に示す。
【0040】
1H−NMR測定結果
CH2=CH−:6.21ppm(2H)、5.63ppm(1H)、−CH2−:4.04ppm(2H)、3.51ppm(2H)、2.58ppm(2H)、1.67ppm(2H)、0.48ppm(2H)、−CH3:0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3290cm-1、3075cm-1、2955cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1630cm-1、1440cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量507であることから、上記式(4b)で表される化合物(AbalS)であることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0041】
実施例1−4
AglyglyS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]アクリロイルグリシルグリシン)の合成(シリコーン含量56.5%)
300mLナスフラスコに、ジメチルスルホキシド65.6g、N−(N−アクリロイルグリシル)グリシン6.41g(0.0344モル)、MQ0.082gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム2.97g(0.0215モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン10.0g(0.0215モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン65.6gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水65.6g、続いて30%エタノール(w/w)水溶液65.6gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して白色固体6.8gを得た(収率60%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は82%であった。各測定結果を以下、並びに図7及び図8に示す。
【0042】
1H−NMR測定
CH2=CH−:6.28ppm(2H)、5.69ppm(1H)、−CH2−:4.08ppm(2H)、3.97ppm(4H)、1.69ppm(2H)、0.49ppm(2H)、−CH3:0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3295cm-1、3080cm-1、2960cm-1、1745cm-1、1665cm-1、1630cm-1、1440cm-1、1255cm-1、1052cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量507であることから、式(8)で表されるAglyglySであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/522×100=56.5%である。
【0043】
【化12】
【0044】
実施例1−5
MAserS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]メタクリロイルセリン)の合成(シリコーン含量58.0%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド96.1g、N−メタクリロイルセリン8.38g(0.0484モル)、MQ0.012gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム4.46g(0.0323モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン15.0g(0.0323モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン120gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水120g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液120gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して粘調性液体13.2gを得た(収率80%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は90%であった。各測定結果を以下、並びに図9及び図10に示す。
【0045】
1H−NMR測定
CH2=CH−:5.81ppm(2H)、5.46ppm(1H)、−CH−:4.50ppm(1H)、4.32ppm(1H)、−CH2−:4.11ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.99ppm(3H)、1.20ppm(3H)、0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3435cm-1、3090cm-1、2955cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1060cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量509であることから、式(9)で表されるMAserSであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/509×100=58.0%である。
【0046】
【化13】
【0047】
実施例1−6
MAthrS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]メタクリロイルトレオニン)の合成(シリコーン含量56.4%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド96.1g、メタクリロイル−DL−トレオニン9.06g(0.0484モル)、MQ0.012gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム4.46g(0.0323モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.0323モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン96gで希釈し、ヘプタン相を、イオン交換水96g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液96gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して粘調性液体13.5gを得た(収率80%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は92%であった。各測定結果を以下、並びに図11及び図12に示す。
【0048】
1H−NMR測定
CH2=CH−:5.81ppm(2H)、5.46ppm(1H)、−CH−:4.50ppm(1H)、4.32ppm(1H)、−CH2−:4.11ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.99ppm(3H)、1.20ppm(3H)、0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3440cm-1、3085cm-1、2960cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量523であることから、式(10)で表されるMAthrSであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/523×100=56.4%である。
【0049】
【化14】
【0050】
実施例2−1
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)60質量部と、実施例1−1で調製した式(4a)で表される化合物(MAglyS)40質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.27質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させ、透明なゲル状重合体を得た。得られた重合体について以下の評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[配合物均一性確認方法]
重合前の混合物を無色透明な容器へ入れ、以下の評価基準で目視確認を行なった。
○:透明、×:白濁又は沈殿。
[透明性評価方法]
膨潤させて得られたゲル状の重合体の透明性を以下の評価基準で目視確認した。
○:透明、△:微濁、×:白濁。
[表面濡れ性]
膨潤させて得られたゲル状の重合体を生理食塩水から引き上げ、表面の水膜が切れるまでの時間を計測した。判断基準を以下に示す。
○:30秒以上、×:30秒未満。
[酸素透過性測定方法]
酸素透過率測定装置(201T、Rehder社)の平面電極セルを使用して、ISO18369−4(FATT法)に定められている方法により酸素透過係数(Dk)を測定した。
【0052】
実施例2−2〜2−5
実施例2−1と同様の方法で重合し、生理食塩水へ浸漬させることで透明なゲル状重合体を得た。各モノマーの配合比率を表1に示す。
【0053】
比較例1
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)30質量部と式(4a)で表される化合物(MAglyS)70質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.27質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させ、透明なゲル状重合体を得た。この重合体は十分な表面親水性を得られなかった。
【0054】
比較例2
N−ビニルピロリドン(Vp)90質量部と式(4a)で表される化合物(MAglyS)90質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.04質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させたが、得られたゲル状重合体は白濁していた。
【0055】
比較例3
式(4a)で表される化合物(MAglyS)の替わりに3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレートを使用した以外は実施例2−1と同様にモノマーを混合したが、均一溶解しなかった。
【0056】
【表1】
MAglyS:式(4a)で表される化合物、
TRIS:3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、
DMA:N,N−ジメチルアクリルアミド、
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート、
Vp:N−ビニルピロリドン、
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート、
AIBN:α,α'‐アゾビスイソブチロニトリル、
DK:酸素透過係数(単位は、×10-11 (cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg))。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のシリコーンモノマー、単量体組成物及び重合体は、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に好適に使用される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜等の眼科デバイスを製造する際に利用可能な、重合性を有するシリコーンモノマー、その製造方法、該シリコーンモノマーを用いた単量体組成物及び重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
生体用デバイスを含む種々の物品は、例えば、有機ケイ素化合物含有材料から形成されている。ソフトコンタクトレンズなどの生体用デバイスに有用な有機ケイ素化合物材料の一つにケイ素含有ヒドロゲル材料が挙げられる。一般に、ケイ素系の材料は、水よりも高い酸素透過性を有するので、より高い酸素透過性を有する物品が提供できる。
従来ハードコンタクトレンズに用いられている有機ケイ素化合物材料は、高酸素透過性であるが、ソフトコンタクトレンズに用いられる材料よりも硬い。また、このような有機ケイ素化合物材料は疎水性であるため、これを用いてレンズを製造するには、親水性表面を提供するための追加の処理を必要とする。
例えば、眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーとして、下記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)が知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】
【0004】
TRISも疎水性のモノマーであるため、眼用レンズ素材として用いる場合には、例えば、親水性モノマーと共重合させることが考えられる。しかし、TRISは、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、このような親水性モノマーと共重合させた場合、透明ポリマーが得られず、レンズ素材として使用できないという欠点がある。また、N−ビニルピロリドンやN,N−ジメチルアクリルアミドなど、他の親水性モノマーとの組み合わせの多くは含水時に表面が強く撥水するために、TRISはソフトコンタクトレンズ用素材として使用しにくいことが知られている。
これを改善する目的で、特許文献2および特許文献3には、SiGMA(ジメチルジ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレート)が提案され、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用途に相溶化剤モノマーとして使用されている。SiGMAは、適度な酸素透過性能を有するために酸素透過製剤としての役割も果たしている。該SiGMAは水酸基を有していることから良好な親水性を発現することが知られている。
【化2】
【0005】
また、レンズの装用感に悪影響を与えるオリゴマー架橋成分を低減する方法として、特許文献4に該モノマーの新たな製造方法も提案されている。しかしながら、モノマー1分子内のシロキサニル基が占める質量割合をシリコーン含量と定義したとき、SiGMAはシリコーン含量が52.4%(SiGMAの1分子中のシロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は221であり、SiGMAの分子量が422であるから、このときのシリコーン含量は、221/422×100=52.4%と計算できる。)であり、TRISのシリコーン含量72%と比較して、ケイ素含量が低いため、十分な酸素透過性を得ることが困難であった。
【0006】
特許文献5には分子内にアミド結合を有する下記式で示されるシリコーンモノマーTMSAAが提案されている。該シリコーンモノマーは、アミド基を有することからTRISと比較して親水性が向上している。
しかし、十分な親水性を得るには至っておらず、これを用いてソフトコンタクトレンズを調製した際にはレンズ表面が疎水性になり、表面の親水化処理等を行なう必要がある。そのため、製造工程が複雑になるという問題があった。
【化3】
【0007】
特許文献6には、メタクリル酸ハライドとオリゴエチレングリコール変性直鎖シリコーンとの反応による新たなモノマーが提案されている。オリゴエチレングリコールは、分子内のエーテル基と共に末端の遊離水酸基が大きく親水性に寄与するが、該モノマーの水酸基はエステル結合を形成しているため十分に機能せず、親水性を得るためには、エーテル構造の繰り返し単位を多くする必要がある。そのため、モノマー中のシリコーン含量は下がる傾向にあり、レンズの表面親水性と酸素透過性とを同時に満たすことは困難であった。
【0008】
特許文献7には、3級アミンとハロゲン化アルキルとの反応により得られる、式(3)で表される分子内に4級アンモニウムを有するシリコーンモノマーが提案されている。このモノマーは、重合によりレンズ表面の親水性は達成されるが、シリコーン含量は295/587=50.3%とSiGMAと同程度であり、酸素透過性を満足することが困難である。また該モノマーはカチオン性であるため、これを用いたレンズではタンパク質吸着など、レンズ表面の白濁汚れが懸念される。
【化4】
【0009】
以上の事情から、眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーの分野では、新たな分子構造の親水性を有するシリコーンモノマーであって、製造が容易で、一日使い捨てレンズのような安価な用途にも使用可能な、且つモノマー1分子内にシロキサニル基が占める割合(シリコーン含量)が大きいシリコーンモノマーの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3808178号明細書
【特許文献2】特開昭54−061126号公報
【特許文献3】特開平11−310613号公報
【特許文献4】特開2008−510817号公報
【特許文献5】米国特許第4711943号明細書
【特許文献6】特開2008−202060号公報
【特許文献7】特開2009−521546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、シリコーン含量が大きく、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合した際に、透明度及び酸素透過率が高いと想定される、眼に適用するのに好適なシリコーンモノマー、その製造方法、該シリコーンモノマーを用いた単量体組成物及び重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、式(1)で表されるシリコーンモノマーが提供される。
【化5】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは式(2a)〜式(2f)から選ばれる基を示す。nは0または1を表す。)
【化6】
【0013】
また本発明によれば、アミノ酸及び(メタ)アクリル酸を反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸と、ハロゲン化アルキル変性シリコーンとを反応させる工程を含む上記式(1)で示されるシリコーンモノマーの製造方法が提供される。
更に本発明によれば、上記シリコーンモノマー20〜60質量%と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミドまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマー40〜80質量%とを含む単量体組成物が提供される。
更にまた本発明によれば、上記単量体組成物を重合させて得た重合体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコーンモノマーは、シリコーン含量が高く、また分子内に親水性アミノ酸に由来するアミド基、エステル基を有することから親水性が高く、他の(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと相溶性が高いため、共重合させる目的で用いたとき、透明性と酸素透過性を同時に満足すると考えられ、眼科デバイスの原料に用いられるシリコーンモノマーとして有用である。また、本発明の単量体組成物及び重合体は、本発明のシリコーンモノマーを利用するので、透明性と酸素透過性を同時に満足するコンタクトレンズ等の眼科デバイスの製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例1で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図3】実施例2で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図4】実施例2で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図5】実施例3で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図6】実施例3で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図7】実施例4で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図8】実施例4で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図9】実施例5で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図10】実施例5で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【図11】実施例6で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図12】実施例6で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のシリコーンモノマーは、上記式(1)で示されるアミノ酸誘導体のシリコーンモノマーであることを特徴とする。ここで、アミノ酸とは、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物を意味する。該モノマーは具体的には、アミノ酸が有するアミンとカルボン酸により、アミド基とエステル基を介して不飽和重合性基とシロキサニル基が化学結合しているモノマーである。
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。nは0または1を表す。
【0017】
式(1)中、Xは上記式(2a)〜(2f)から選ばれる基を示す。
本発明のシリコーンモノマーは、1分子中に占めるシロキサニル基の割合がなるべく大きい方が好ましく、この観点から、例えば、式(1)において、Xが式(2a)である化合物、式(1)において、Xが式(2c)である化合物、および式(1)において、Xが式(2d)である化合物が特に好ましく挙げられる。
式(1)において、Xが式(2a)であり、Rがメチル基、n=1で表される化合物は式(4a)で表される。
【0018】
【化7】
式(4a)で表されるモノマーの分子量は493であり、シロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は295であることから、このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0019】
式(1)において、Xが式(2d)であり、Rが水素原子、n=1で表される化合物は式(4b)で表される。
【化8】
式(4b)で表されるモノマーの分子量は493であり、シロキサニル基を構成する各原子の原子量の合計は295であることから、このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0020】
式(4a)または式(4b)のシリコーンモノマーは、モノマー中のシリコーン含量の割合が約60%と高く、得られる共重合体の酸素透過性を効果的に高められると考えられ、眼科デバイスの中でもコンタクトレンズ用のシリコーンモノマーとしての利用が期待できる。
【0021】
本発明のシリコーンモノマーは、アミノ酸及び(メタ)アクリル酸ハロゲン化物、例えば、(メタ)アクリル酸クロライドを反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸(誘導体)と、ハロゲン化アルキル変性シリコーン、例えば、3−ヨードプロピル[トリス(トリメチル)シロキシ]シランとを反応させる本発明の製造方法等により得ることができる。
具体的には、式(5)(式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い炭素数1〜6の2価の有機基を示す。)で表される(メタ)アクリロイルアミノ酸と、式(6)(式(6)中、Yはハロゲンであり、好ましくはBr、またはIである。nは0または1を表す。Yはハロゲンであり、好ましくはBr、またはIである。)で表されるシリコーン化合物とを反応させる方法により得られる。
【0022】
【化9】
【0023】
該反応は、例えば、式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸5〜60質量%を含む有機溶媒中に、式(6)で示されるシリコーン化合物を式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸のカルボン酸に対して、10モル%〜100モル%混合し、恒温槽中、20〜100℃の温度で行なうことが好ましい。
前記有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が好ましく挙げられる。
【0024】
上記式(5)で示される(メタ)アクリロイルアミノ酸は、公知の方法により得られる。例えば、氷冷下、アミノ酸のナトリウム塩水溶液に塩化(メタ)アクリロイルを滴下することにより合成できる(Journal of Applied Polymer Science,24,1551,1979、米国特許第4172934号明細書)。
上記式(6)で示されるシリコーン化合物は、得られるシリコーンモノマーの純度に影響するので高純度品であることが好ましく、例えば、Dokl.Akad.Nauk,SSSR,1976,227,607〜610、J.Organomet.Chem.,1988,340,31〜36、特開2002−68930号公報に示される、トリアルコキシシランまたはトリクロロシランと、ヘキサメチルジシロキサンとから得ることができ、抽出や蒸留精製により高純度化することができる。
【0025】
上記反応は、反応速度を上げるために塩基の存在下行うことが好ましい。好ましい塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の有機塩基が挙げられる。より好ましくは炭酸カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。
前記塩基の使用量は、式(6)で示されるシリコーン化合物1モルに対して、1モル〜3モル程度である。
【0026】
反応に際しては、(メタ)アクリル基が重合しないように重合禁止剤を用いるのが好ましい。重合禁止剤としては、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。上記禁止剤は、反応液へ100ppm〜10000ppm添加することが望ましい。
【0027】
反応後に得られるシリコーンモノマーは高沸点を有する液体であり、再結晶や蒸留操作の利用が困難であるため、分液洗浄、吸着剤処理等による精製が望ましい。
洗浄により精製する場合は、反応液をn−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素に溶解させて得られる溶液(疎水相)を、イオン交換水、アルカリ水溶液、アルコール水溶液等(親水相)で洗浄することが望ましい。この時用いるアルカリとしては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが望ましい。アルコール水溶液に用いるアルコールとしては、分液状態を形成するために極性が高いメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールから選択されるもの又はこれらの混合物を水と混合して用いることが望ましい。
前記疎水相を形成するために、反応液に対して炭化水素を質量比で0.5〜3倍量加えるのが好ましい。0.5倍未満では分液させることが困難であり、3倍より多いと経済的に不利である。前記洗浄液の使用量は炭化水素と同程度が好ましい。
【0028】
上記洗浄後、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム等の脱水剤を使用して、反応液中に含まれる少量の水を脱水し、固体をろ別した後、例えばエバポレータを使用して溶媒を除去することにより目的物を得ることができる。溶媒の除去は約50℃以下で行い、真空ポンプにより10mmHg以下で1時間程度行なうのが望ましい。
【0029】
本発明のシリコーンモノマーは、例えば、眼科デバイスを形成するポリマーの原料として使用することができる。該シリコーンモノマーを用いて眼科デバイスを製造するには、例えば、本発明のシリコーンモノマーと共重合可能な、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基などの炭素−炭素不飽和結合を有する他のモノマー、好ましくは得られる重合体表面の十分な親水性がさらに改善される、水酸基、アミド基、両性イオン等の親水基を有する他のモノマーと混合し、重合させることにより得ることができる。
眼科デバイスを製造する際の本発明のシリコーンモノマーの使用量は、用いる他のモノマーの種類等により異なるが、得られる眼科デバイスの表面親水性の改善や、柔軟性をコントロールするために、原料モノマー中10〜80質量%が好ましい。
【0030】
本発明の単量体組成物は、上述の本発明のシリコーンモノマーと、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスフェートまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマーとを含み、例えば、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの重合用組成物として用いることができる。
本発明の単量体組成物において、本発明のシリコーンモノマーの含有割合は、組成物全量基準で20〜60質量%であり、上記親水性モノマーの合計の含有割合は、組成物全量基準で40〜80質量%である。本発明のシリコーンモノマーの含有割合が20質量%未満では、重合して得られる重合体の酸素透過性が低い恐れがあり、60質量%を超える場合には重合して得られる重合体の表面濡れ性が低下する恐れがある。
【0031】
前記単量体組成物には、本発明のシリコーンモノマーの上記特性を損なわない範囲で、必要に応じて、他のモノマーを適宜含有させることもできる。他のモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)クリレート、(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の非イオン性単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等の酸を含有するアニオン性単量体;2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基又はアンモニウム基を含有するカチオン性単量体;N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン、3−[[2−(メタクリロイルオキシ)エチル](ジメチル)アンモニオ]−1−プロパンスルホネート等の両性イオン単量体が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記他のモノマーを用いる場合の含有割合は、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜決定することができるが、単量体組成物全量基準で、その合計量が、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0032】
本発明の重合体は、本発明の単量体組成物を重合させて得られたものであり、例えば、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に利用することができる。
前記重合は、例えば、熱重合、光重合、モールド重合等の任意の重合方法を利用して、公知の条件や方法に準じて行うことができる。この際、重合法に応じて適宜公知の重合開始剤を用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、例中の各測定は以下の機器等を用いて行った。
1)シリコーンモノマー純度測定法(GC法)
ガスクロマトグラフ:Agilent社製GC system 7890A、
キャピラリーカラム:J&W社 HP−1(0.53mm、30m、2.65μm)、
注入口温度:250℃、
昇温プログラム:80℃(0分)→20℃/分→250℃(20分)、
検出器:FID、250℃、キャリアガス:ヘリウム(5ml/分)、スプリット比: 5:1、注入量:2μl。
2)1H−NMR測定法
日本電子社製JNM−AL400、溶媒;CDCl3又はCD3OD (TMS基準)。
3)赤外線吸収(IR)測定法
測定法:液膜法、積算回数:16回
4)質量測定法(LC−MS法)
LC部:Waters社 2695 Separations Module、
MS部;Waters 2695 Q−micro、
LC溶離液条件:アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム水溶液(9/1)。
【0034】
実施例1−1
MAglyS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−メタクリロイルグリシネート)の合成(シリコーン含量59.8%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド701.7g、メタクリロイルグリシン55.4g(0.387モル)、p−メトキシフェノール(以下、MQと記す)0.35gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.258モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水350g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相へメタノール800gを混合してメタノール相へ抽出し、メタノールを減圧除去して透明液体101.8gを得た(収率82%)。GCによる得られたシリコーン化合物の純度は94%であった。各測定結果を以下、並びに図1及び図2に示す。
【0035】
1H−NMR測定
CH2=C−:5.78ppm(1H)、5.43ppm(1H)、−CH2−:4.92ppm(2H)、4.00ppm(2H)、1.70ppm(2H)、0.50ppm(2H)
−CH3:1.96ppm(3H)、0.10ppm(27H)。
IR測定結果
3345cm-1、3090cm-1、2960cm-1、1745cm-1、1670cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量493であることから、上記式(4a)で表される化合物(MAglyS)であることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0036】
実施例1−2
MalaS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−メタクリロイルアラニネート)の合成(シリコーン含量58.2%)
1Lナスフラスコに、N,N−ジメチルホルムアミド701.7g、メタクリロイルアラニン60.87g(0.387モル)、MQ0.18gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.387モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水700g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去してMalaS108.0gを得た(収率85%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は93%であった。各測定結果を以下、並びに図3及び図4に示す。
【0037】
1H−NMR測定
CH2=C−:5.75ppm(1H)、5.43ppm(1H)、
【化10】
−CH2−:4.09ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.96ppm(3H)、1.44ppm(3H)、0.13ppm(27H)。
IR測定結果
3335cm-1、3090cm-1、2960cm-1、1740cm-1、1660cm-1、1625cm-1、1550cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量507であることから、MalaSは、式(7)で表されることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/507×100=58.2%である。
【0038】
【化11】
【0039】
実施例1−3
AbalS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピル−N−アクリロイル−β−アラニネート)の合成(シリコーン含量59.8%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド701.7g、アクリロイル−β−アラニン55.43g(0.387モル)、MQ0.18gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム35.7g(0.387モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.258モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン700gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水700g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液700gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去してAbalS105.5gを得た(収率85%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は93%であった。各測定結果を以下、並びに図5及び図6に示す。
【0040】
1H−NMR測定結果
CH2=CH−:6.21ppm(2H)、5.63ppm(1H)、−CH2−:4.04ppm(2H)、3.51ppm(2H)、2.58ppm(2H)、1.67ppm(2H)、0.48ppm(2H)、−CH3:0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3290cm-1、3075cm-1、2955cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1630cm-1、1440cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1
LC−MSによる分子量測定の結果、分子量507であることから、上記式(4b)で表される化合物(AbalS)であることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/493×100=59.8%である。
【0041】
実施例1−4
AglyglyS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]アクリロイルグリシルグリシン)の合成(シリコーン含量56.5%)
300mLナスフラスコに、ジメチルスルホキシド65.6g、N−(N−アクリロイルグリシル)グリシン6.41g(0.0344モル)、MQ0.082gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム2.97g(0.0215モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン10.0g(0.0215モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン65.6gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水65.6g、続いて30%エタノール(w/w)水溶液65.6gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して白色固体6.8gを得た(収率60%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は82%であった。各測定結果を以下、並びに図7及び図8に示す。
【0042】
1H−NMR測定
CH2=CH−:6.28ppm(2H)、5.69ppm(1H)、−CH2−:4.08ppm(2H)、3.97ppm(4H)、1.69ppm(2H)、0.49ppm(2H)、−CH3:0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3295cm-1、3080cm-1、2960cm-1、1745cm-1、1665cm-1、1630cm-1、1440cm-1、1255cm-1、1052cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量507であることから、式(8)で表されるAglyglySであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/522×100=56.5%である。
【0043】
【化12】
【0044】
実施例1−5
MAserS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]メタクリロイルセリン)の合成(シリコーン含量58.0%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド96.1g、N−メタクリロイルセリン8.38g(0.0484モル)、MQ0.012gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム4.46g(0.0323モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン15.0g(0.0323モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン120gで希釈し、ヘプタン相を、1%重曹水120g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液120gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して粘調性液体13.2gを得た(収率80%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は90%であった。各測定結果を以下、並びに図9及び図10に示す。
【0045】
1H−NMR測定
CH2=CH−:5.81ppm(2H)、5.46ppm(1H)、−CH−:4.50ppm(1H)、4.32ppm(1H)、−CH2−:4.11ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.99ppm(3H)、1.20ppm(3H)、0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3435cm-1、3090cm-1、2955cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1060cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量509であることから、式(9)で表されるMAserSであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/509×100=58.0%である。
【0046】
【化13】
【0047】
実施例1−6
MAthrS(N−[3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル]メタクリロイルトレオニン)の合成(シリコーン含量56.4%)
1Lナスフラスコに、ジメチルスルホキシド96.1g、メタクリロイル−DL−トレオニン9.06g(0.0484モル)、MQ0.012gを入れ攪拌した後、炭酸カリウム4.46g(0.0323モル)を加え、反応液を40℃まで昇温した。さらに3−ヨードプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン120.0g(0.0323モル)を加え、40℃にて6時間攪拌を行った。冷却後、3L分液ロートへ反応液を移した後、ヘプタン96gで希釈し、ヘプタン相を、イオン交換水96g、続いて50%エタノール(w/w)水溶液96gで洗浄した。洗浄後、ヘプタン相を減圧除去して粘調性液体13.5gを得た(収率80%)。GCによる該シリコーン化合物の純度は92%であった。各測定結果を以下、並びに図11及び図12に示す。
【0048】
1H−NMR測定
CH2=CH−:5.81ppm(2H)、5.46ppm(1H)、−CH−:4.50ppm(1H)、4.32ppm(1H)、−CH2−:4.11ppm(2H)、1.71ppm(2H)、0.51ppm(2H)、−CH3:1.99ppm(3H)、1.20ppm(3H)、0.11ppm(27H)。
IR測定結果
3440cm-1、3085cm-1、2960cm-1、1740cm-1、1680cm-1、1625cm-1、1455cm-1、1255cm-1、1065cm-1、840cm-1。
LC−MSによる構造特定の結果、分子量523であることから、式(10)で表されるMAthrSであることが特定された。このモノマーのシリコーン含量は295/523×100=56.4%である。
【0049】
【化14】
【0050】
実施例2−1
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)60質量部と、実施例1−1で調製した式(4a)で表される化合物(MAglyS)40質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.27質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させ、透明なゲル状重合体を得た。得られた重合体について以下の評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[配合物均一性確認方法]
重合前の混合物を無色透明な容器へ入れ、以下の評価基準で目視確認を行なった。
○:透明、×:白濁又は沈殿。
[透明性評価方法]
膨潤させて得られたゲル状の重合体の透明性を以下の評価基準で目視確認した。
○:透明、△:微濁、×:白濁。
[表面濡れ性]
膨潤させて得られたゲル状の重合体を生理食塩水から引き上げ、表面の水膜が切れるまでの時間を計測した。判断基準を以下に示す。
○:30秒以上、×:30秒未満。
[酸素透過性測定方法]
酸素透過率測定装置(201T、Rehder社)の平面電極セルを使用して、ISO18369−4(FATT法)に定められている方法により酸素透過係数(Dk)を測定した。
【0052】
実施例2−2〜2−5
実施例2−1と同様の方法で重合し、生理食塩水へ浸漬させることで透明なゲル状重合体を得た。各モノマーの配合比率を表1に示す。
【0053】
比較例1
ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)30質量部と式(4a)で表される化合物(MAglyS)70質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.27質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させ、透明なゲル状重合体を得た。この重合体は十分な表面親水性を得られなかった。
【0054】
比較例2
N−ビニルピロリドン(Vp)90質量部と式(4a)で表される化合物(MAglyS)90質量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.04質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.04質量部を混合し、均一溶解させた。厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間放置することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させたが、得られたゲル状重合体は白濁していた。
【0055】
比較例3
式(4a)で表される化合物(MAglyS)の替わりに3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレートを使用した以外は実施例2−1と同様にモノマーを混合したが、均一溶解しなかった。
【0056】
【表1】
MAglyS:式(4a)で表される化合物、
TRIS:3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、
DMA:N,N−ジメチルアクリルアミド、
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート、
Vp:N−ビニルピロリドン、
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート、
AIBN:α,α'‐アゾビスイソブチロニトリル、
DK:酸素透過係数(単位は、×10-11 (cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg))。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のシリコーンモノマー、単量体組成物及び重合体は、コンタクトレンズ等の眼用デバイスの製造に好適に使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるシリコーンモノマー。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは式(2a)〜式(2f)から選ばれる基を示す。nは0または1を示す。)
【化2】
【請求項2】
アミノ酸及び(メタ)アクリル酸クロライドを反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸と、ハロゲン化アルキル変性シリコーンとを反応させる工程を含む請求項1記載の式(1)で示されるシリコーンモノマーの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のシリコーンモノマー20〜60質量%と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスフェートまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマー40〜80質量%とを含む単量体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の単量体組成物を重合させて得た重合体。
【請求項1】
式(1)で表されるシリコーンモノマー。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。Xは式(2a)〜式(2f)から選ばれる基を示す。nは0または1を示す。)
【化2】
【請求項2】
アミノ酸及び(メタ)アクリル酸クロライドを反応させてなるN−(メタ)アクリロイルアミノ酸と、ハロゲン化アルキル変性シリコーンとを反応させる工程を含む請求項1記載の式(1)で示されるシリコーンモノマーの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のシリコーンモノマー20〜60質量%と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスフェートまたはこれら2種以上の混合物からなる群より選ばれる親水性モノマー40〜80質量%とを含む単量体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の単量体組成物を重合させて得た重合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−17285(P2012−17285A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155105(P2010−155105)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】
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