説明

シリコーンレジン被膜形成剤

【目的】 各種基材に対して密着性に優れたシリコーンレジン被膜を形成することができ、かつアルカリ水溶液により極めて容易に除去できるシリコーンレジン被膜を形成することができるシリコーンレジン被膜形成剤を提供することにある。
【構成】 一般式 (a)(HMe2SiO1/2)n(SiO4/2)m(式中、Meはメチル基を表す。nとmはそれぞれ0を越える数である。n/mは 0.2以上である。)で表わされ、軟化点が40℃以上であるか、もしくは軟化点が存在しないシリコ−ンレジンと有機溶剤からなることを特徴とするシリコーンレジン被膜形成剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シリコ−ンレジン被膜形成剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、シリコーンレジンを主成分とする被膜形成剤としては、メチルトリクロロシラン,ジメチルジクロロシラン,フェニルトリクロロシラン,フェニルメチルジクロロシラン等のオルガノクロロシラン類を共加水分解し重合して得られたシリコーンレジンを主成分とする組成物が知られており、これらの組成物はシリコーンワニスと呼ばれ、耐熱性,電気絶縁性,撥水性を要求される各種基材のコーティング材,シーリング材,接着剤(結合剤)として多用されている[プラスチック材料講座9,けい素樹脂,第141頁〜第163頁,日刊工業新聞社,昭和53年2月10日発行参照]。ところが、これらの従来のワニスから形成されたシリコーンレジン被膜は、耐熱性,電気絶縁性に優れているが、金属,ガラス,有機系レジスト材,シリコン等各種基材に対する密着性,基材からの被膜除去性においては十分満足できるものではなく、その用途が限られるという問題点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は上記問題点を解消するために研究した結果、特定の化学構造を有するシリコーンレジンから形成される被膜が各種基材に対して、密着性を有し、特に、アルカリ水溶液により極めて容易に分解することを見出し本発明に到達した。本発明の目的は、各種基材に対して密着性に優れたシリコーンレジン被膜を形成することができ、かつアルカリ水溶液により極めて容易に除去できるシリコーンレジン被膜を形成することができるシリコーンレジン被膜形成剤を提供することにある。
【0004】
【課題の解決手段とその作用】本発明は、一般式 (a)(HMe2SiO1/2)n(SiO4/2)m(式中、Meはメチル基を表す。nとmはそれぞれ0を越える数である。n/mは 0.2以上である。)で表わされ、軟化点が40℃以上であるか、もしくは軟化点が存在しないシリコ−ンレジンと有機溶剤からなることを特徴とするシリコーンレジン被膜形成剤に関する。
【0005】このようなシリコ−ンレジンは次のような方法によって製造される。即ち、一般式 (b)HMe2SiX(式中、Xは塩素,臭素で例示されるハロゲン原子またはメトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,ブトキシ基等で例示されるアルコキシ基である。)で表される有機ケイ素化合物と、一般式 (c)SiX4(式中、Xは前記と同じである。)で表わされる有機ケイ素化合物とを有機溶剤と酸性水溶液の存在下で共加水分解し、次いで、得られたシリコ−ンレジン溶液を水洗,中和,脱水することによって製造される。ここで、一般式(b)で表される有機化合物と一般式(c)で表される有機化合物とを共加水分解する方法としては、例えば、これらの混合物を有機溶剤の溶液とし、この溶液を水層に撹拌しながら滴下する方法、または、その有機溶剤の溶液中に撹拌しながら水を滴下する方法がある。水は酸性水溶液であってもよい。有機溶剤は、上記一般式(b)で表される化合物、上記一般式(c)で表される化合物、さらに、生成するシリコ−ンレジンを溶解するものが好ましい。かかる有機溶剤を例示すると、ベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族系有機溶剤;ヘキサン,ヘプタン等のアルカン類;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類,メチルイソブチルケトン等のケトン類などが例示される。これらの中でも、水の溶解性が小さい、ヘキサン,ヘプタン,トルエン,キシレンなどが好ましい。上記一般式(b)および一般式(c)で表される化合物の有機溶剤中の濃度は、通常、得られるシリコーンレジンの有機溶剤中の濃度が、10〜80重量%になるように調製される。酸性水溶液としては硫酸,硝酸,塩酸等の酸の水溶液が用いられるが、塩酸の水溶液が好ましい。滴下時および滴下後の温度は、0〜100℃が適当である。
【0006】一般式(b)で表される有機ケイ素化合物と一般式(c)で示される有機ケイ素化合物との共加水分解により得られたシリコーンレジン溶液は、必要に応じて、有機溶剤あるいは水を加えて、静置し、水層は分離される。シリコ−ンレジンを含む有機溶剤層は中性になるまで水洗される。さらに脱水するのが望ましい。この脱水は、水の溶解性の少ない有機溶剤であれば、水分分離管を用い有機溶剤の共沸下でおこなえばよい。得られたシリコ−ンレジンは、若干の残存シラノ−ル基を含んでいるので、一般式 (d)(HR′2Si)aQ(式中、R′は炭素数1〜8の置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1もしくは2であり、aが1の場合はQは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、−NR″2,−ONR″2または−OCOR″であり、aが2の場合はQは−O−もしくは−NR″−であり、R″は水素原子またはアルキル基である。)で表される有機ケイ素化合物により、シリコーンレジン中の残存シラノ−ル基をキャッピング(封鎖)してもよい。シリコ−ンレジンの有機溶媒溶液の安定性という点では、残存シラノ−ル基を縮合するこの操作が好ましい。一般式(d)で示される有機ケイ素化合物は、シラノ−ル基と反応しやすい化合物である。式中、R′は、炭素数1〜8の1価炭化水素基である。1分子のR′は同種であってよくまた異種であってもよい。aは1もしくは2であり、aが1の場合はQは水素原子,ハロゲン原子,水酸基,アルコキシ基,−NR″,−ONR″2 または−OCOR″である。ハロゲン原子およびアルコキシ基は前記一般式(b)で示される有機ケイ素化合物で例示したものが挙げられる。aが2の場合は、Qは−O−もしくは−NR″であり、R″は水素原子もしくはアルキル基であり、アルキル基としてはメチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基が例示される。この有機ケイ素化合物の使用量は、シラノ−ル基の残存量によるが、前記平均単位式(a)で示されるシリコ−ンレジン100重量部に対し、5〜70重量部で十分であり、過剰な分は除去される。一般式(d)で表される有機ケイ素化合物はシリコ−ンレジンの溶液に添加され、必要により加熱される。その後、シリコ−ンレジンの溶液は、中性になるまで水洗され、同様に脱水し、最後に有機溶媒をストリッピングすることにより本発明に使用するシリコ−ンレジンが得られる。尚、一般式(d)で示される有機ケイ素化合物を使用した場合には、平均単位式(a)で示される以外のシロキサン単位であるHR′2SiO1/2単位が少量含まれることになるが、本発明の範囲に含まれる。また平均単位式(a)で示されるシリコ−ンレジンに、他のメチルシロキサン単位少量が含まれた場合でも、本発明の目的を損わない限り差し支えない。
【0007】これを説明すると、本発明に使用されるシリコ−ンレジンは、上式中、HMe2SiO1/2単位のモル数nと SiO4/2単位のモル数mは、それぞれ0を越える数であり、その軟化点が40℃以上もしくは軟化点が存在しない、常温で固体のシリコーンレジンである。ここで、n/mが小さい程その軟化点は上昇し、軟化点が40℃以上になるには、n/mが 0.2以上である。そしてn/mの好ましい比率はn/mが0.2〜1.5の範囲内にある。n/mが 0.2未満では無機成分であるSiO4/2成分が多過ぎて、有機溶剤に溶解しなくなる。本発明に使用される有機溶剤は、上記シリコーンレジンを溶解するものであればよく、特に限定されない。このような有機溶剤としては、ベンゼン,トルエン等の芳香族系の有機溶剤、ヘキサン,ヘプタン等の脂肪族炭化水素系の有機溶剤、ジエチルエ−テル,テトラヒドロフラン等のエ−テル類,メチルイソブチルケトン等のケトン類などが例示される。このような有機溶剤の使用量は、本発明の被膜形成剤の使用目的に応じて適宜変えられるが、通常、上記シリコーンレジン100重量部に対して10〜2000重量部の範囲内である。
【0008】本発明のシリコーンレジン被膜形成剤から被膜を形成するには、これを基材表面に塗布,吹き付け,含浸等従来公知のシリコーンワニス,シリコーン被膜形成剤に使用されている方法に従って被覆し、その後必要に応じて加熱する。
【0009】以上のような本発明のシリコ−ンレジンの被膜形成剤は、被膜形成を有し、色々な用途に利用されるが、これは、形成される被膜中にSiO成分を含有し、かつ反応性の高いケイ素原子結合水素原子を有するためである。また、本発明の被膜形成剤から形成されたシリコ−ンレジン被膜は、アルカリ水溶液と接触させると、ただちに分解し、そのシリコーンレジン被膜が除去されるという特徴を有する。それは、HMe2SiO 基が、アルカリ(例えば、ZOH)に極めて弱く、ただちに反応して、水溶性のHO−SiMe2O基または、ZO−SiMe2O基になるためである。SiO2成分はもともと水溶性の成分である。かかる特性を利用して、本発明の被膜形成剤は、半導体製造工程中の一つである3層レジスト工程の中間層、層間絶縁膜などに有用である。
【0010】
【実施例】次に、本発明の実施例をあげる。実施例中、Meはメチル基を表す。
【0011】
【実施例1】フラスコに水 9.5g、メタノ−ル10g、イソプロピルアルコ−ル10gを入れ、攪拌し、10℃以下に氷冷しながら、HMe2SiCl9.5g(0.1モル)とテトラメトキシシラン30.4g(0.2モル)の混合物を、30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに15℃以下で2時間撹拌を続けた。次いで、メチルイソブチルケトン100ml、ジエチルエ−テル100ml、水100mlを加え、混合、静置し、有機層を採取した。有機層は、水で繰り返し洗浄した。最後にこの有機層に、無水硫酸ナトリウムを加えて1日脱水し、濾過後、溶媒をストリッピングした。13gの白色固体が得られた。この白色固体は、300℃まで軟化点を示さなかった。この白色固体の分析結果は以下の通りであった。
29SiNMR δ(ppm):2(0.43Si,br,HMe2SiO1/2
−16(0.07Si,br,ROMe2SiO1/2
−100(0.45Si,br,ROSiO3/2
−108(0.55Si,br,SiO4/2
(RはMe または Hである。)
また、13CNMRでは、0ppmに、Si−CH3、52ppmにメトキシ基の吸収が確認された。GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフィー)では、Mw(重量平均分子量)=4.3×103であった。得られた白色固体のシリコーンレジンは、末端に残存水酸基,エトキシ基を有し、平均単位式:(HMe2SiO1/20.43(SiO4/21で示される化学構造を有する化合物であることが判明した。この白色固体 2.5gを、トルエン10mlに溶解して、シリコ−ンレジン被膜形成剤とした。このシリコーンレジン被膜形成剤をシリコンウェハ−上に2000rpmでスピナ−塗布した。その後、この塗布物を80℃で1時間加熱したところ、シリコ−ンレジン被膜が形成された。この被膜はシリコーンウエハーによく接着しており、その表面は撥水性を示した。さらに、このシリコーンレジン被膜の表面に15%のテトラメルチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を液滴の直径が1cmになるように落下したところ、このシリコーンレジン被膜は発泡しながら1分以内に溶解した。その部分は、親水性になった。
【0012】
【実施例2】実施例1において、HMe2SiCl の仕込み量を、6.6g(0.07モル)としたほかは、実施例1と同様にして、室温で固体のシリコ−ンレジン 12.0gを得た。このものは、300℃まで軟化点を示さなかった。この白色固体の分析結果は以下の通りであった。
29SiNMR δ(ppm):2(0.29Si,br,HMe2SiO1/2
−16(0.08Si,br,ROMe2SiO1/2
−100(0.47Si,br,ROSiO3/2
−108(0.53Si,br,SiO4/2
(RはMe または Hである。)
また、13CNMRでは、0ppmに、Si−CH3、52ppmにメトキシ基の吸収が確認された。GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフィー)では、Mw(重量平均分子量)=4.9×103であった。得られた白色固体のシリコーンレジンは、末端に残存水酸基,エトキシ基を有し、平均単位式:(HMe2SiO1/20.29(SiO4/21で示される化学構造を有する化合物であることが判明した。この白色固体2.5gを、トルエン10mlに溶解して、シリコ−ンレジン被膜形成剤とした。このシリコーンレジン被膜形成剤をシリコンウェハ−上に2000rpmでスピナ−塗布した。その後、この塗布物を80℃で1時間加熱したところ、シリコ−ンレジン被膜が形成された。このシリコーンレジン被膜はシリコーンウエハーによく接着していた。さらに、このシリコーンレジン被膜の表面に15%のテトラメルチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液の液滴を落下したところ、このシリコーンレジン被膜は発泡しながら1分以内に溶解した。
【0013】
【実施例3】実施例1において、HMe2SiCl の仕込み量を、13.2g(0.14モル)とした以外は、実施例1と同様に行ない、室温で固体のシリコ−ンレジン 17.5gを得た。このものを、トルエン 40.8gに溶解し、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン3.3g(0.025モル)を加え、還流温度にて3時間攪拌した。反応後、中和,水洗し溶媒を除去して、室温で固体のシリコーンレジン19.8gを得た。このものの軟化点は150℃であった。 また分子量は、GPCにより、Mw(重量平均分子量)=4.9×103であった。得られた白色固体のシリコーンレジンは、末端に残存水酸基,エトキシ基を有し、平均単位式:(HMe2SiO1/20.8(SiO4/21で示される化学構造を有する有機ケイ素化合物であることが判明した。この白色固体の破片を、15%のテトラメルチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液中に落としたところ、この白色固体は発泡しながら1分以内に溶解した。この白色固体2.5gを、トルエン10mlに溶解して、シリコ−ンレジン被膜形成剤とした。この溶液は、室温で6ヵ月間保存しても安定であり、沈降物が発生しなかった。
【0014】
【発明の効果】本発明のシリコ−ンレジン被膜形成剤は上記の通り特殊なシリコーンレジンを主成分としているので、各種基材に対して密着性に優れたシリコーンレジン被膜を形成することができ、かつ、アルカリ水溶液により、極めて容易に除去できるシリコーンレジン被覆を形成することできるという特徴を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式 (a)(HMe2SiO1/2)n(SiO4/2)m(式中、Meはメチル基を表す。nとmはそれぞれ0を越える数である。n/mは 0.2以上である。)で表わされ、軟化点が40℃以上であるか、もしくは軟化点が存在しないシリコ−ンレジンと有機溶剤からなることを特徴とするシリコーンレジン被膜形成剤。
【請求項2】 シリコーンレジンが、アルカリ水溶液に易分解性である、請求項1記載のシリコ−ンレジン被膜形成剤。
【請求項3】 シリコーンレジンが、一般式 (b)HMe2SiX(式中、Xはハロゲン原子またはアルコキシ基であり、Meはメチル基である。)で表される有機ケイ素化合物と、一般式 (c)SiX4(式中、Xは前記と同じである。)で表わされる有機ケイ素化合物とを有機溶剤と酸性水溶液の存在下で共加水分解し、次いで、得られたシリコ−ンレジン溶液を水洗,中和,脱水することにより、製造されたものである請求項1または請求項2記載のシリコ−ンレジン被膜形成剤。
【請求項4】 シリコーンレジンが、一般式(b) HMe2SiX(式中、Xはハロゲン原子またはアルコキシ基であり、Meはメチル基である。)で表される有機ケイ素化合物と、一般式 (c)SiX4(式中、Xは前記と同じである。)で表わされる有機ケイ素化合物とを有機溶剤と酸性水溶液の存在下で共加水分解し、次いで、得られたシリコ−ンレジン溶液を水洗,中和,脱水し、しかる後、一般式 (d)(HR′2Si)aX(式中、R′は炭素数1〜8の置換または非置換の1価炭化水素基であり、aは1もしくは2であり、aが1の場合はXは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、−NR″2,−ONR″2または−OCOR″であり、aが2の場合はXは−O−もしくは−NR″−であり、R″は水素原子またはアルキル基である。)で表される有機ケイ素化合物により前記シリコーンレジン中の残存シラノ−ル基をキャッピングすることにより製造されたものである請求項1または請求項2または請求項3記載のシリコ−ンレジン被膜形成剤。

【公開番号】特開平5−86330
【公開日】平成5年(1993)4月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−277093
【出願日】平成3年(1991)9月27日
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社 (338)