説明

シリコーン化合物用溶剤組成物

【課題】シリコーン化合物の塗布性が良好であり、かつ、不燃性や低毒性の性質を有し、取り扱いが極めて容易なシリコーン化合物用溶剤組成物を提供すること。
【解決手段】1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤、もしくは(A)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、と、(B)1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、及び、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む、シリコーン化合物用溶剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン化合物の溶解、希釈に用いる溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーン化合物の希釈溶剤としては、不燃性であり、化学的および熱的安定性に優れることから、ジクロロペンタフルオロプロパン(R225)、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(R141b)等のハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類が広く使用されてきたが、HCFC類は、塩素を含むということもあり、オゾン破壊係数(ODP)が大きく地球環境への影響が懸念されるため、将来全廃されることになっている。
【0003】
近年、HCFC類に代わる溶剤の一つとして、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類やハイドロフルオロエーテル(HFE)類の使用や開発が進められている。HFC類やHFE類は、不燃性であり、化学的、熱的安定性および乾燥性に優れ、オゾン破壊係数がない等の利点を有する。
【0004】
しかしながら、HFC類やHFE類はシリコーン系化合物の溶解性が十分でないため、これまで、シリコーン化合物との溶解性を向上させるために、各種有機系溶媒を添加する方法が検討されてきている。
【0005】
例えば、HFE類とシリコーン化合物の相溶性を向上させるために、ヘキサメチルジシロキサンを4〜30質量%添加する方法(特許文献1)、ノルマルへキサンなどの炭化水素類やアルコール類などを15〜60質量%添加する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−274173号公報
【特許文献2】特開2007−332301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリコーン化合物を金属や樹脂などの各種物品にコーティングする場合、溶剤中のシリコーン化合物の濃度を所定の濃度に調整したものを使用するが、各種物品毎にシリコーン化合物の濃度を調整する必要がある。
【0008】
特許文献1に記載の方法では、添加するヘキサメチルジシロキサンの含有割合が少なくなると、シリコーン化合物の溶解性が小さくなり、ヘキサメチルジシロキサンの含有割合が多くなると、溶剤組成物の粘度が高くなりシリコーン化合物の塗布性が悪くなることや、引火点が低くなることなどから取り扱いが容易でない。
【0009】
同様に、特許文献2に記載の方法においても、添加する炭化水素類やアルコール類の含有割合を多くすると、引火点の問題から取り扱いが難しく、安全に取り扱うための対策が必要となる。例えば、特許文献2に記載の方法では、ヘキサンを15〜60質量%添加する必要があり、引火性の問題点が懸念される。
【0010】
このように、HFE類は環境への悪影響が少ないシリコーン化合物に対する溶剤として検討されているが、HFE類とシリコーン化合物との相溶性が十分でないため、使用目的(例えば、使用するシリコーン化合物濃度を調整する等)によって、各種有機溶媒を添加する必要があり、それによって、シリコーン化合物の塗布性の悪化や引火性など、安全面の観点において、取り扱いが容易ではないという問題点があった。
【0011】
また、シリコーン化合物を溶解する溶剤としては、シリコーン化合物を塗布する際の塗布性や乾燥性などから、沸点が低すぎると、溶剤が蒸発しやすいため、塗布しにくい。一方、沸点が高すぎると、溶剤を蒸発させるために、高温に加熱する必要があり、シリコーン化合物を塗布する物品に変形や損傷を与えてしまう場合がある。そのため、沸点ができるだけ常温に近く、取り扱いが容易なシリコーン化合物の溶剤が望まれている。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、シリコーン化合物の塗布性が良好であり、かつ、不燃性や低毒性の性質を有し、取り扱いが極めて容易なシリコーン化合物用溶剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シリコーン化合物に対する溶剤として、含フッ素不飽和炭化水素である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いることによって、上記課題を解決するに至った。
【0014】
これまで、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをシリコーン化合物に対する溶剤として使用することは報告されていなかった。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明9]に記載した発明を提供する。
【0016】
[発明1]1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤。
【0017】
[発明2](A)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、と、(B)1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、及び、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む、シリコーン化合物用溶剤組成物。
【0018】
[発明3]1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン40〜80質量%と1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン60〜20質量%からなる発明2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【0019】
[発明4]1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン60〜80質量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン40〜20質量%からなる発明2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【0020】
[発明5]1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン70〜80質量%と1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン30〜20質量%からなる、発明2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【0021】
[発明6]シリコーン化合物と、発明1乃至発明5の何れかに記載のシリコーン化合物用溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布溶液。
【0022】
[発明7]前記シリコーン化合物が、ストレートシリコーンであることを特徴とする発明6に記載のシリコーン化合物塗布溶液。
【0023】
[発明8]発明6又は発明7に記載のシリコーン化合物塗布溶液を物品表面に塗布し、前記塗布溶液中のシリコーン化合物用溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させることを特徴とする、シリコーン化合物の塗布方法。
【0024】
[発明9]物品が金属又は樹脂であることを特徴とする発明8に記載のシリコーン化合物の塗布方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の溶剤組成物では、シリコーン化合物に対する溶解性が高く、乾燥性に優れ、かつ、不燃性や低毒性の性質を有する1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをシリコーン化合物用溶剤として用いる。そのため、可燃性等の問題が懸念される有機系溶媒を添加することなく、シリコーン化合物の塗布性が良好であり、かつ、不燃性や低毒性の性質を有し、取り扱いが極めて容易なシリコーン化合物用溶剤組成物を提供することが可能となる。
【0026】
さらに、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、シス体(Z体)およびトランス体(E体)ともに、沸点が常温に近い。そのため、本発明の溶剤組成物は、シリコーン化合物を溶解し、シリコーン化合物を塗布し乾燥する際の取り扱いが非常に容易であるという特徴を有する。
【0027】
さらに、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、オゾン破壊係数(ОDP)や地球温暖化係数(GWP)が著しく小さいという性質を持つため、本発明の溶剤組成物は、地球温暖化係数が小さく、かつ、温室効果の小さい特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<シリコーン化合物用溶剤組成物>
本発明のシリコーン化合物用溶剤組成物は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含むものである。
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
(1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)
含フッ素不飽和炭化水素の一つである1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、二重結合を有するため、大気中のOHラジカルとの反応性が大きく、オゾン破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)が著しく小さくなる。また、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは不燃性であり、不燃性かつ低GWPの特性を有する組成物である。
【0031】
本発明で用いる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、文献記載の公知化合物であり、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピンへの塩化水素の付加反応、または、3−クロロ−1,1,1−トリフルオロ−3−ヨードプロパンの水酸化カリウムによる脱ヨウ化水素反応などで製造することができる。
【0032】
さらに、本発明で用いられる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをクロム触媒による気相フッ素化反応あるいは無触媒で液相フッ素化反応を行うことによっても得ることができる。
【0033】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、置換基の種類により、立体異性体としてシス体(Z体)及びトランス体(E体)が存在するが、両者の異性体は、蒸留により分離、精製することができる。なお、シス体(Z体)の沸点は39.0℃であり、トランス体(E体)の沸点は21.0℃である。
【0034】
なお、これらの立体異性体は特に制限はなく、トランス体(E体)、シス体(Z体)の何れか一方、もしくは混合物を使用することができる。
【0035】
(他の溶剤組成物)
本発明において、シリコーン化合物を溶解させる溶剤として、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを単独でも使用できるが、用途によって、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに他の溶剤を添加することもできる。
【0036】
本願発明で用いる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、それ自身溶解能力が非常に高く好ましい溶剤であるが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン単独で用いる場合、樹脂部材に損傷を与えてしまうことがある。そのため、溶解能力の調整を目的とし、シリコーン化合物を塗布する物品の種類に応じ、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(HFE−254pc)や1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE−347pc−f)、メチルノナフルオロイソブチルエーテル(HFE−7100)などを混合することが好ましい。
【0037】
上記に例示した溶剤を、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに混合する場合に適用できる樹脂部材としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、などの熱硬化性樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの熱可塑性樹脂、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂が挙げられる。また、ゴム部材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、シリコンゴム、ウレタンゴムなどの合成ゴム、または、天然ゴムなどが挙げられる。
【0038】
樹脂部材またはゴム部材からなる物品にシリコーン化合物をコーティングする場合には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、上記に例示した溶剤を添加することで、樹脂部材またはゴム部材からなる物品に対する損傷を与えることなくシリコーン化合物を表面に塗布することができる。なお、上記に例示した溶剤を1種類、又は2種類以上を混合させることができる。
【0039】
次に、具体的な溶剤組成物における各成分の好ましい組成比について説明する。
【0040】
各成分の好ましい組成物比は、シリコーン化合物の溶解性とシリコーン化合物溶剤組成物の取り扱いやすさ(引火性など)を考慮して調整されることが好ましい。
【0041】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(HFE−254pc)を混合する場合は、混合割合として、それぞれ1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを40〜80質量%、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(HFE−254pc)を60〜20質量%にすることが好ましい(後述の実施例2、3参照)。
【0042】
なお、混合する割合については、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合割合を80質量%より大きくすると、アクリルやポリカーボネートなどの樹脂部材に損傷を及ぼすことがある。また、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合割合を40質量%より小さくすると、シリコーン化合物に対する溶解性が小さくなることがある。
【0043】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)を混合する場合は、混合割合として、それぞれ1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを60〜80質量%、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)を40〜20質量%にすることが好ましい(後述の実施例4参照)。
【0044】
1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE−347pc−f)を混合する場合は、混合割合として、それぞれ1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを70〜80質量%、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE−347pc−f)を30〜20質量%にすることが好ましい(後述の実施例5参照)。
【0045】
<シリコーン化合物塗布溶液>
本発明では、上述したシリコーン化合物用溶剤組成物とシリコーン化合物とを混合させることで、シリコーン化合物塗布溶液として使用する。本発明に使用されるシリコーン化合物としては、例えば、表面コーティング用に使用されている各種のシリコーンを使用することができる。
【0046】
中でも、メチル基、フェニル基、水素原子を置換基として結合したジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル、また、ストレートシリコーンオイルから二次的に誘導された構成部分を持つ、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルなどが挙げられる。本発明のシリコーン化合物溶剤組成物は、特に、ストレートシリコーンを溶かしやすく好適である(実施例参照)。
【0047】
また、アミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体を主成分とするもの、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とするもの、側鎖又は末端にアミノ基を含有するシリコーンとポリジオルガノシロキサンからなるシリコーン混合物、アミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランおよび両末端にシラノール基を有するシリコーンを反応させて得られたシリコーンと非反応性シリコーンとの混合物等が挙げられる。
【0048】
コーティング用シリコーン溶液における本発明のシリコーン化合物の割合は0.1〜80質量%、特には、1〜20質量%であるのが好ましい。0.1質量%未満では、十分な膜厚のコーティング被膜が形成されにくく、80質量%を超えると均一な膜厚のコーティング被膜が得られにくい。
【0049】
<塗布方法>
本発明においては、物品表面に上述したシリコーン化合物塗布溶液を塗布し、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン等のシリコーン化合物溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成する。本発明の方法を適用できる物品としては、金属部材、樹脂部材、セラミックス部材、ガラス部材などの各種材質に適用することができ、特に、注射針の針管部や、ディスペンサー(液体定量噴出装置)のスプリングやバネ部分等に適用することが好ましい。
【0050】
例えば、注射針の針管部などに適用する場合、シリコーン化合物を注射針の針管部に塗布する方法としては、注射針の針管部を、シリコーン化合物塗布溶液に浸漬させ、針管部の外表面に塗布した後、室温あるいは加温下に放置して溶剤組成物を蒸発させ、シリコーン化合物の被膜を形成させるディップコート法が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を、例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。
【0052】
(シリコーン化合物の溶解性試験)
以下の方法に従い、本発明における溶剤組成物を用いてシリコーン化合物の溶解性試験を行った。
【0053】
表1〜表5に示す溶剤組成物20gをガラス製試料瓶に入れ、シリコーン化合物として、表1〜表5に示す量のシリコーンオイル(信越化学工業(株)製ストレートシリコーンオイル、品名:KF−96−500CS、100質量%)をそれぞれ、0.1gずつ滴下して溶解性を目視確認した。なお、溶剤組成物の温度は常温(25℃)に設定して、溶解性試験を行った。表2〜5に記載されているシリコーンオイル添加量(0.1〜80g)は、表1の0.1g、1g、5g、30g、80gを表す。
【0054】
(塗布及び乾燥性試験)
以下の方法に従い、本発明におけるシリコーン化合物用溶剤組成物を用いてシリコーン化合物の塗布試験及び乾燥性試験を行った。表1〜表5に示すシリコーン化合物溶剤組成物とシリコーンオイルとの混合物であるシリコーン化合物塗布溶液を各種ステンレス製の金属板(SUS)に塗布し、乾燥性を評価した。また、乾燥(自然乾燥)後の塗布膜を目視で確認し、塗布性について評価した。乾燥性および塗布性について表1〜表5に表記した。
【0055】
[実施例1−1〜1−5及び比較例1−1]
【表1】

【0056】
表1の結果より、シス体である(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン単独の溶剤組成物に対するシリコーン化合物の溶解性は良好であり、シリコーン化合物を幅広い濃度に調製することが可能であった。また、シリコーン化合物を混合した塗布溶液の乾燥性に優れており、塗布性も良好であった。比較例1−1として、含フッ素不飽和炭化水素である、シス体の(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(沸点、9℃)を用いてシリコーン化合物の溶解性試験を行ったところ、十分な溶解性が得られずうまく塗布することができなかった。
【0057】
[実施例2−1〜2−2及び比較例2−1]
【表2】

【0058】
[実施例3−1〜3−3及び比較例3−1]
【表3】

【0059】
[実施例4−1〜4−2及び比較例4−1]
【表4】

【0060】
[実施例5−1及び比較例5−1]
【表5】

【0061】
例えば、表2の実施例2−1では、5つのテストサンプル(シリコーンオイル添加量:0.1g、1g、5g、30g、80g)の全てが表2の結果を示した。同様に、その他の実施例の各々でも、5つのテストサンプルの全てが表2〜5の結果を示した。
表2、表4〜表5の結果より、シス体である(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(254pc)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(347pc−f)など他の組成物を添加した場合においても、混合割合を調整することによって、シリコーン化合物に対して良好な溶解性を示し、乾燥性および塗布性も良好であった。
【0062】
また、表2および表3より、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとして、シス体(Z体)とトランス体(E体)のどちらを用いた場合でも、シリコーン化合物の溶解性、乾燥性および塗布性において良好であり、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのシス体とトランス体はシリコーン化合物に対して同等の溶解性を示していることが分かる。
(引火性試験)
本発明におけるシリコーン化合物用溶剤組成物に関して、タグ密閉式引火点試験器(TAG−E型、吉田科学器械製)を用いて、引火点の測定を行った。
【0063】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(HFE−254pc)のシリコーン化合物用溶剤組成物の引火点測定を行った。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとしては、シス体(1233Z)、トランス体(1233E)の両方の場合において引火点を測定した。
【0064】
各組成物として、それぞれ1233Z/254pc=40/60(質量比)、30/70(質量比)、20/80(質量比)、15/85(質量比)、1233E/254pc=40/60(質量比)、35/65(質量比)、20/80(質量比)、参考例として254pc単独、の組成物を用いた。なお、引火点測定における昇温速度は、1℃/minとした。その結果を表6、7に示す。
【0065】
表6、7の結果より、1233Z/254pc=40/60(質量比)、30/70(質量比)、および、1233E/254pc=40/60(質量比)、35/65(質量比)の割合において、引火点は認められなかった。一方、1233Z/254pc=20/80(質量比)、15/85(質量比)および、1233E/254pc=20/80(質量比)の割合において、引火点は、それぞれ、30℃、21℃、−6℃であった。
【0066】
表6、表7の結果より、単独では引火点が存在する254pcに、引火点の存在しない1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを適切な組成比で混合することによって、引火点がなく、取り扱いが容易なシリコーン化合物用溶剤組成物として使用することが可能となることがわかる。例えば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをおよそ30質量%以上加えると、引火点がなくなることが分かる。また、引火点に関して、シス体(1233Z)とトランス体(1233E)の場合において大きな差異はないことがわかる。
【表6】

【表7】

【0067】
また同様に、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc)のシリコーン化合物用溶剤組成物の引火点測定を行った。1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとしては、シス体(1233Z)の場合において引火点を測定した。
【0068】
各組成物として、それぞれ1233Z/365mfc=10/90(質量比)、5/95(質量比)、参考例として365mfc単独の組成物を用いた。なお、引火点測定における昇温速度は、1℃/minとした。その結果を表8に示す。
【0069】
表8の結果より、1233Z/365mfc=10/90(質量比)、5/95(質量比)の割合において、引火点は認められなかった。
【0070】
表8の結果より、1233Zと365mfcを混合した組成物は、引火点がほとんどなく、幅広い混合組成比において、取り扱いが非常に容易であることが分かる。1233Zを5質量%以上加えると、引火点をなくすことができることが分かる。
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤。
【請求項2】
(A)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、と、(B)1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、及び、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む、シリコーン化合物用溶剤組成物。
【請求項3】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン40〜80質量%と1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン60〜20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【請求項4】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン60〜80質量%と1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン40〜20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【請求項5】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン70〜80質量%と1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン30〜20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。
【請求項6】
シリコーン化合物と、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のシリコーン化合物用溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布溶液。
【請求項7】
前記シリコーン化合物が、ストレートシリコーンであることを特徴とする請求項6に記載のシリコーン化合物塗布溶液。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のシリコーン化合物塗布溶液を物品表面に塗布し、前記塗布溶液中のシリコーン化合物用溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させることを特徴とする、シリコーン化合物の塗布方法。
【請求項9】
物品が金属又は樹脂であることを特徴とする請求項8に記載のシリコーン化合物の塗布方法。

【公開番号】特開2011−46688(P2011−46688A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152586(P2010−152586)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】