説明

シリコーン多孔体

【課題】機械的負荷の緩衝性を備え、動きに追従するための十分な伸張性を有するとともに優れた透湿性を発揮する新規材料の提供。
【解決手段】水に分散可能な非水溶性固体粒子が連続孔内に存在するシリコーン多孔体を提供する。このシリコーン多孔体は、オルガノポリシロキサン、水に分散可能な非水溶性固体粒子、界面活性剤、及び水を少なくとも含む油中水型エマルションから得ることができ、連続孔内に、水蒸気が通過することを阻害しない程度に前記非水溶性固体粒子が存在あるいは偏在しているため、優れた透湿性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン多孔体に関する。より詳しくは、特に体表面接触材料として好適なシリコーン多孔体等に関する。
【背景技術】
【0002】
患部の治療及び保護などのために、患部形状に合わせて体表面を被覆可能な装具(体表面接触装具)が使用されている。体表面接触装具の具体例として、サポーターや義肢、ギプス、キャスト、スプリントなどの下巻きに用いられるスリーブ状や帯状の装具がある。
【0003】
シリコーン樹脂は、生体親和性に優れ、柔軟性及び弾力性を備え機械的負荷の緩衝性に優れるため、体表面接触装具の材料として採用されている。一方で、シリコーン樹脂は通気性及び透湿性がないため、シリコーン樹脂からなる体表面接触装具においては、発汗や不感蒸泄による汗の貯留や蒸れ、皮膚の浸軟や障害を防止することを目的として、通気性及び透湿性を付与するための工夫がなされてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、表面に複数の空孔を有する繊維基材と、この繊維基材上に形成された、前記空孔に対向する貫通孔を有するシリコーン樹脂層とからなる複合材料から構成された体表面接触装具が開示されている。この体表面接触装具は、体表面への密着性及び通気性が良好で、長時間装着しても装具のずれや蒸れによる不快感が起こりにくいとされている。
【0005】
本発明に関連して、特許文献2には、オルガノポリシロキサンの油中水型エマルションを硬化して得た湿潤状態のシリコーンフォームから水分を除去して製造されるシリコーンフォームが開示されている。このシリコーンフォームは気孔の大きさが小さく、剛性及び断熱性に優れたものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−142264号公報
【特許文献2】特開2004−91569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
体表面接触材料は、体表面に3次元方向にわたって負荷される機械力を応力緩衝し、緩衝機能を充分に発揮し得る厚みを有することが必要であるが、一方で、一般的に緩衝材料の厚みを増すと透湿性が低下するという問題がある。また、従来のシリコーン樹脂材料では厚みの如何に関わらず非透湿性であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、機械的負荷の緩衝性を備え、動きに追従するための十分な伸張性を有するとともに優れた透湿性を発揮する新規材料を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、水に分散可能な非水溶性固体粒子が連続孔内に存在するシリコーン多孔体を提供する。このシリコーン多孔体は、前記連続孔内に、水蒸気が通過することを阻害しない程度に前記非水溶性固体粒子が存在あるいは偏在しているため、優れた透湿性を示す。
このシリコーン多孔体は、少なくともオルガノポリシロキサンと水に分散可能な非水溶性固体粒子とを含有する連続孔構造を有するシリコーン多孔体であってよく、オルガノポリシロキサン、水に分散可能な非水溶性固体粒子、界面活性剤、及び水を少なくとも含む油中水型エマルションから得ることができる。
油中水型エマルションとしては、オルガノポリシロキサン35〜75重量%、水に分散可能な非水溶性固体粒子5〜25重量%、界面活性剤0.05〜5重量%、及び水15〜60重量%を少なくとも含み、必要に応じて発泡剤を含むものが好適に用いられる。
【0010】
また、本発明は、上記のシリコーン多孔体を含んでなる体表面接触材料を提供する。本発明の上記シリコーン多孔体は、防水性透音透湿材料としても用いることができる。
【0011】
さらに、本発明は、オルガノポリシロキサン、水に分散可能な非水溶性固体粒子、界面活性剤、及び水を少なくとも含む油中水型エマルションを用い、前記オルガノポリシロキサン間の架橋反応と、前記水の除去とを行う、水に分散可能な非水溶性固体粒子が連続孔内に存在するシリコーン多孔体の製造方法をも提供する。
このシリコーン多孔体の製造方法において、前記油中水型エマルションには、オルガノポリシロキサン35〜75重量%、水に分散可能な非水溶性固体粒子5〜25重量%、界面活性剤0.05〜5重量%、及び水15〜60重量%を少なくとも含むものが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機械的負荷の緩衝性を備え、動きに追従するための十分な伸張性を有するとともに優れた透湿性を発揮する新規材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のシリコーン多孔体の表面の走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図2】実施例1のシリコーン多孔体を厚み方向に切断した切断面の走査型電子顕微鏡像(低倍率)を示す図面代用写真である。
【図3】実施例1のシリコーン多孔体を厚み方向に切断した切断面の走査型電子顕微鏡像(高倍率)を示す図面代用写真である。
【図4】実施例において、引張強さ、破断時伸び及び100%伸張時引張応力の測定に用いたサンプル試験片の形状を示す図である。
【図5】実施例において、引裂き強さの測定に用いたサンプル試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
1.シリコーン多孔体とその製造方法
(1)シリコーン多孔体
本発明に係るシリコーン多孔体は、界面活性剤の作用によって、オルガノポリシロキサンの油相中に、非水溶性固体粒子を含有する水相が分散された油中水型エマルションを加熱、成形することによって得られる。非水溶性固体粒子は、水相中で分散させるために、親水性の固体粒子を用いることが好ましい。
【0016】
油中水型エマルションを加熱すると、油相中のオルガノポリシロキサン間の反応が進行し、硬化したシリコーン樹脂が多孔体の骨格を形成する。オルガノポリシロキサン間の反応の進行により、オルガノポリシロキサンの平均分子量が増加すると、油相中における水相の最大内相率が低下し、水相がエマルションから脱離する。水相は、硬化したシリコーン樹脂が形成する骨格の間隙に脱離し連続化して、後に連続孔となる領域を多孔体内に形成する。このとき、非水溶性固体粒子が親水性を備えていると、水相から形成される連続孔内に親水性固体粒子が偏在した状態で多孔化される。
【0017】
オルガノポリシロキサンを含有する油中水型エマルションの加熱成形工程と同時にあるいは加熱成形後の工程で、シリコーン樹脂骨格間隙に脱離した水を乾燥し除去することにより連続孔が形成され、水相に含まれていた非水溶性固体粒子はその連続孔内に残存する。そして、非水溶性固体粒子が、連続孔に水蒸気が通過することを阻害しない程度に存在した状態のシリコーン多孔体が得られる。
【0018】
本発明に係るシリコーン多孔体は連続孔を有するため、透湿性に優れる。さらに連続孔内に非水溶性固体粒子が存在しているため、圧縮してもシリコーン樹脂の自着性により連続孔が閉塞することがなく、圧縮後も透湿性が維持される。また、連続孔内に非水溶性固体粒子が存在しているため、高伸張性樹脂を用いても一旦形成した連続孔の形状を維持でき、シリコーン多孔体に高伸張性を付与できる。
【0019】
(2)シリコーン多孔体の製造方法
[スラリーの調製]
非水溶性固体粒子に界面活性剤、水を加え、撹拌してスラリーを調製する。
【0020】
非水溶性固体粒子としては、水とのスラリーを形成し得る固体粒子であればよい。具体的には、非水溶性固体粒子と水との懸濁液(サスペンション)を形成し得る固体粒子であればよく、親水性を有するものが好ましい。
【0021】
非水溶性固体粒子としては、親水性無機粒子であり、例えば、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化ルテニウム、酸化銅、酸化カドミウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホルミウム、酸化ネオジム、酸化イリジウム、さらには珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウムのような無機酸化物の複合酸化物などを用いることができる。
【0022】
これらの非水溶性固体粒子は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。非水溶性固体粒子は粉末状のものを用いることが好ましい。非水溶性固体粒子として、有機ケイ素化合物、親水化アクリルビーズなどを用いることもできる。
【0023】
非水溶性固体粒子としては、二酸化ケイ素が好適に用いられる。二酸化ケイ素はシリカあるいは無水ケイ酸とも呼称され、沈殿法、ゲル法などの湿式法、または燃焼法などの乾式法により製造される。二酸化ケイ素は、いずれの製造方法によって製造されたものでもよく、粒子表面にシラノール基を有し、親水性を示すものであればよい。
【0024】
二酸化ケイ素の平均一次粒子径は30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがさらに好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。二酸化ケイ素の平均二次粒子径は1〜40μmであることが好ましく、1〜20μmであることがさらに好ましい。二酸化ケイ素のBET比表面積は100m/g以下であることが好ましく、150m/g以下であることがさらに好ましく、200m/g以下であることがさらに好ましい。平均一次粒子径、平均二次粒子経及びBET比表面積を上記の範囲とすることで、加熱成形時に所定の連続孔を形成しやすいスラリー粘度及びシリカ含水量に調整することができる。また、異なる平均一次粒子径、平均二次粒子径、及びBET比表面積を有する二酸化ケイ素を併用しても良い。
【0025】
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を用いることができる。油中水型エマルションの外相であるシリコーンとの親和性が良いことから特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0026】
シリコーン系界面活性剤としては直鎖状、分岐状又は環状のジメチルポリシロキサン等の、シロキサン構造とアルキル基とのみで構成されるシリコーンオイル;フェニル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル等の、アルキル基が各種の官能基で変性されたシリコーンオイル;などを用いることができる。このうち、ポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましい。
【0027】
界面活性剤はシリコーンを外相、水を内相とした油中水型エマルションを形成するためにHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が3〜8のものが好ましい。
【0028】
[油中水型エマルションの調製]
非水溶性固体粒子と水と界面活性剤とで調製したスラリーに、オルガノポリシロキサンを混合撹拌して油中水型エマルションを調製する。油中水型エマルションを調製する際の材料投入順序は、特に限定されず、スラリーに対してオルガノポリシロキサンを投入し攪拌する方法、オルガノポリシロキサンに対してスラリーを投入し攪拌する方法のいずれの方法を用いても良い。また、非水溶性固体粒子と水とで調製したスラリーに界面活性剤を混合したオルガノポリシロキサンをブレンドしても良いし、オルガノポリシロキサン、非水溶性固体粒子、界面活性剤、及び水を一度に混合攪拌しても良い。
【0029】
オルガノポリシロキサンとしては、特に限定されず、付加反応硬化型、過酸化反応硬化型及び縮合反応硬化型のシリコーンプレポリマーのいずれを使用してもよいが、付加反応硬化型のシリコーンプレポリマーが好ましい。
【0030】
付加反応硬化型シリコーンプレポリマーは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)とヒドロシリル基(Si−H)を有するオルガノポリシロキサン(ハイドロジェンオルガノポリシロキサン)とを、塩化白金酸等の白金化合物触媒を用いて、付加反応(ヒドロシリル化反応)させるものである。
【0031】
付加反応型シリコーンプレポリマーは、その合成に用いるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの量や、オルガノハイドロジェンポリシロキサン分子内のヒドロシリル基(Si−H)の量を変化させることによって、架橋密度を調整できる。これにより、シリコーン樹脂の硬さやタックを容易に調整できる。
【0032】
シリコーン多孔体を体表面接触材料に用いる場合、人の動きに追従することが可能な柔軟性及び伸張性を備える多孔体を得るため、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量は、15,000〜150,000の範囲が好ましい。
【0033】
油中水型エマルション中の非水溶性固体粒子の配合比は、全重量に対して5〜25重量%である。非水溶性固体粒子の量が全重量に対して5重量%未満であると、樹脂の自着による連続孔の閉塞を防止できない。一方、25重量%を超えると、多孔体が硬くなり、柔軟さと伸張性が失われる。
【0034】
界面活性剤の配合比は、全重量に対して0.05〜5重量%である。界面活性剤の配合比が全重量に対して0.05重量%未満であると、油中水型エマルションの乳化分散状態が不均一になるために均一な微細孔を有する多孔体が得られない。一方、5重量%を超えると、乳化能力が強く発現しすぎるために親水性の非水溶性固体粒子をシリコーン相内に分配させてしまい、樹脂の自着による連続孔の閉塞を防止できない。
【0035】
オルガノポリシロキサンの配合比は、全重量に対して35〜75重量%である。オルガノポリシロキサンの配合比が全重量に対して35重量%未満であると、多孔体密度が小さいため高強度の多孔体が得られない。一方、75重量%を超えると油中水型エマルション中の水に起因する孔の連続化が充分に達成されず、非透湿性となってしまう。
【0036】
水の配合比は、全重量に対して15〜60重量%である。水の配合比が全重量に対して15%未満であると孔の連続化が充分に達成されず、非透湿性となってしまい、60重量%を超えると高強度の多孔体が得られない。
【0037】
[その他の混合物]
本発明に係るシリコーン多孔体を形成する油中水型エマルションには、多孔体の密度調整のために、中空ガラスビーズ等の中空ビーズ、熱膨張性ビーズ、及び化学発泡剤等の水以外の発泡剤を本発明の目的を損なわない程度において適宜配合してもよい。
【0038】
さらに、本発明に係るシリコーン多孔体には、薬剤、カルボキシメチルセルロース等の吸水性高分子、粉体、pH緩衝剤、防腐剤、着色剤等のその他の調整剤などを、本発明の目的を損なわない程度において適宜配合することができる。
【0039】
一例を挙げると、薬剤としては、生理活性剤、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、麻酔剤、抗真菌剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、冠血管拡張剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、ビタミン剤、性ホルモン剤、抗うつ剤、脳循環改善剤、制吐剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。これらの薬剤は、経皮吸収により全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは接触した部位において局所的に効果を発揮する。
【0040】
本発明に係るシリコーン多孔体には、皮膚の生理機能(皮膚バリア機能等)を保持又は向上させる目的で、局所的な効果を発揮する生理活性剤を添加してもよい。生理活性剤の具体例としては、スフィンゴ脂質、尿素、グリコール酸、アミノ酸(アルギニン、システイン、グリシン、リシン、プロリン、セリン等)及びその誘導体、タンパク質加水分解物(コラーゲン、エラスチン、ケラチン等)、ムコ多糖(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等)及びその誘導体、ビタミンB群(チアミン、リボフラビン、ニコチン酸、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ビオチン、葉酸、シアノコバラミン等)、アスコルビン酸(ビタミンC及びその誘導体)、レチノイド(ビタミンA、レチナール、レチノイン酸等)、ビタミンD(D2、D3等)、ビタミンE及びその誘導体、カロチノイド(カロチン、リコピン、キサントフィル等)、酵素、補酵素、γ―オリザノール等を挙げることができる。これらの生理活性剤は、単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0041】
生理活性剤はスフィンゴ脂質が好ましい。スフィンゴ脂質としては、スフィンゴシンと脂肪酸とが結合したセラミド及びセラミドと糖とが結合したスフィンゴ糖脂質が好ましい。セラミドは、天然、合成いずれのものを使用してもよく、タイプ1〜7のセラミドを挙げることができるが、タイプ2、5、7のセラミドが特に好ましい。スフィンゴ糖脂質としては、セレブロシド、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミドなどが好ましい。
【0042】
[成形・脱水]
シリコーン樹脂の硬化方法は、特に限定されず、例えばプレス成形と同時に加熱を行って付加反応進行させ、所定形状のシリコーン多孔体を得る方法を採用できる。
【0043】
シリコーン多孔体からの脱水は、加熱成形工程と同時に、あるいは加熱成形後の乾燥工程によって行うことができる。特に限定されないが、加熱成形工程と同時に行う場合、成形金型から水蒸気を逃すベント等を設け、所定のタイミングにて水蒸気として脱水するような方法を用いることができる。また、加熱成形工程後に行う場合、乾燥炉等の加熱装置を用いて温風乾燥により脱水するような方法を用いることができる。
【0044】
2.シリコーン多孔体の物性
本発明に係るシリコーン多孔体は、透湿性、弾性、伸張性及び柔軟性に優れる。具体的には、本発明に係るシリコーン多孔体は以下の物性を示す。
【0045】
[透湿度]
本発明に係るシリコーン多孔体は、ミリメートルオーダーの厚みにおいて、500g/m・24時間を超える透湿度を示す。例えば、本発明に係るシリコーン多孔体は、厚み5mmの構造体にて1400g/m・24時間の透湿度を示す。
【0046】
シリコーン多孔体を体表面接触材料として用いる場合、発汗や不感蒸泄による汗の貯留や蒸れ、皮膚の浸軟や障害を防止するために、1〜10mmの厚みの構造体において透湿度が500g/m・24時間以上であることが好ましく、1000g/m・24時間以上であることがより好ましく、3000g/m・24時間以上であることがさらに好ましく、5,000g/m・24時間以上であることが特に好ましい。また、衝撃からの緩衝性、体表面との密着性を維持するために透湿度は15,000g/m・24時間未満であることが好ましい。
【0047】
[引張強さ]
本発明に係るシリコーン多孔体は均一な連続多孔構造体であり、連続孔内に非水溶性固体粒子が存在しているため、柔軟性及び伸張性を有しながら強度に優れる。シリコーン多孔体を体表面接触材料として用いる場合、1〜10mmの厚みの構造体において、引張強さが0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることが好ましく、1.5MPa以上であることがさらに好ましい。
【0048】
[破断時伸び]
本発明に係るシリコーン多孔体は柔軟で伸張性のシリコーン樹脂をマトリクスとした連続多孔構造体であり、連続孔内に非水溶性固体粒子が存在しているため、透湿性を有しながら伸張性に優れる。シリコーン多孔体を体表面接触材料として用いる場合、人の動きに追従するために、1〜10mmの厚みの構造体において、破断時伸びが100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、400%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
[引裂き強さ]
一般に、シリコーン樹脂は、他の樹脂と比較して耐引裂き性に乏しい。これに対して、本発明に係るシリコーン多孔体は均一な連続多孔構造体であり、連続孔内に非水溶性固体粒子が存在しているため、柔軟性及び伸張性を有しながら引裂き強さに優れる。シリコーン多孔体を体表面接触材料として用いる場合、人の動きに追従する際に伸縮を繰り返すことや、接触面に摩擦が生じることなどから切欠きを生じやすく、切欠きを基点とした破壊の進行が生じやすくなる。このため、引裂き強さは、1〜10mmの厚みの構造体において、2.0N/mm以上であることが好ましく、4.0N/mm以上であることがより好ましい。
【0050】
[100%伸張時引張応力]
本発明に係るシリコーン多孔体は連続孔内に非水溶性固体粒子が存在している連続多孔体であり、圧縮しても樹脂の自着により連続孔が閉塞することがないため、柔軟性及び伸張性に優れる。シリコーン多孔体を体表面接触材料として用いる場合、変形抵抗が小さく柔軟であることにより体表面に負荷される機械力を緩衝でき、3次元方向にわたって負荷される機械力を応力分散できる柔軟性を有することが望ましい。このため、100%伸張時引張応力は、1〜10mmの厚みの構造体において、2.0MPa未満であることが好ましく、1.0未満であることがより好ましく、0.6MPa未満であることがさらに好ましく、0.3未満であることが特に好ましい。
【0051】
これらの物性に関し、例えば、本発明に係るシリコーン多孔体は、厚み2〜5mmの構造体にて、500g/m・24時間以上の透湿度を示し、0.5MPa以上の引張強さを示し、200%以上の破断時伸びを示し、2.0N/mm以上の引裂き強さを示し、2.0MPa未満の100%伸張時引張応力を示す(実施例参照)。
【0052】
3.体表面接触材料
本発明に係るシリコーン多孔体は、機械的負荷の緩衝性を備え、動きに追従するための十分な伸張性を有するとともに優れた透湿性を発揮するため、体表面に接触させるための材料として好適である。
【0053】
体表面接触材料としては、例えば医療及びスポーツなどの分野で使用される、筋肉や関節用のサポーター、義肢や外固定材(硬性装具、ギプス、キャスト、スプリント等)の下巻き材料(義肢ライナー、断端袋、アンダースリーブ、巻軸包帯等)、靴や足用装具のインソール、外反母趾用や糖尿病等の足病を有する患者の除圧用パッド、寝具や椅子(車椅子、乗物用シート等を含む)等におけるクッション材、プロテクター等の、摩擦、衝撃、圧力等を緩衝するための材料として使用できる。さらに、創傷治療用パッド、スキンケア用パッド、消炎鎮痛用パッド、薬剤徐放用のパッド、耳栓などの、その他の体表面接触材料として利用しても良い。
【0054】
これらの体表面接触材料は、長時間装着しても発汗や不感蒸泄による汗の貯留や蒸れ、皮膚の浸軟や障害が起き難く、体表面の動きや伸びによく順応し、体表面に3次元方向にわたって負荷される機械力を充分に応力分散して衝撃を吸収する。
【実施例】
【0055】
〔実施例1〕
親水性シリカ(東ソー・シリカ株式会社、商品名「NIPSIL LP」)14.41重量%、HLBが5のポリエーテル側鎖変性シリコーンオイルである界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社、商品名「SH3775M」)0.22重量%、イオン交換水29.93重量%を混合してスラリーを調製した。
【0056】
ビニル基置換ポリジメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金触媒を主体とする2成分型の付加反応型シリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング株式会社、商品名「DOW CORNING C6−540 LIQUID SILICONE RUBBER,KIT」)55.43重量%と調製したスラリーとを混合して油中水型エマルションを調製した。
【0057】
得られた油中水型エマルションを金型温度80℃の金型に充填し、プレス成形機を用いて厚み5mmのシート形状に成形し、次いで、金型温度を150℃まで昇温させてシリコーン樹脂を硬化させた。20分間の加熱工程の後、金型を開放して成形物を取り出し、その後、熱風乾燥機を用いて150℃にて1時間乾燥した。
【0058】
得られたシリコーン多孔体の表面の走査型電子顕微鏡写真を図1に、厚み方向に切断した切断面の走査型電子顕微鏡写真を図2及び図3に示す。樹脂に連続孔が形成され、親水性シリカ粒子が連続孔内に存在していることが確認される。さらに、親水性シリカ粒子は、硬化したシリコーン樹脂が形成する骨格中に比べて、骨格間隙の連続孔内により多量に含まれ、連続孔内に偏在していることが確認できる。
【0059】
得られたシリコーン多孔体について、以下に示す方法によって物性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
<透湿度>
JIS K6404、及びJIS L1099 A−2「ウォーター法」に準じて測定した。予め測定環境温度に調整した透湿カップに測定環境温度の水を約42ml入れ、透湿カップに(1)試験片、(2)パッキン、(3)リングを順次載せ、ちょうナットで固定し、装着側面をビニル粘着テープでシールする。透湿カップを含む試験体全質量を測定し、初期重量とする。温度40℃、相対湿度50%の試験環境下に透湿カップを2時間晒した後の試験体全質量を測定し、さらに試験開始後24時間後の試験体全質量を測定して下記式に従って透湿度を算出した。
【0061】
T=((C24−C)/S)×24/22
(式中、Tは透湿度(g/m2・24hr)、Cは測定開始2時間後の試験体質量(g)、C24は測定開始24時間後の試験体質量(g)、Sはカップの透湿面積(m2)を示す。)
【0062】
<引張強さ・破断時伸び・100%伸張時引張応力>
JIS K 6251の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、断面積25mmのダンベル型試験片(図4参照)について、引張強さ、破断時伸び及び100%伸長時の引張応力を、引張試験機(島津製作所社製 商品名「オートグラフAG−I」)を用いて、引張速度500mm/min、チャック間距離20mmの条件で測定した。荷重又は伸長時の標点間断面積は25mmとなる。
【0063】
<引裂き強さ>
JIS K 6252の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム―引裂強さの求め方」に準じて、クレセント型試験片(図5参照)について、引裂き強さを、引張試験機(島津製作所社製 商品名「オートグラフAG−I」)を用いて、引張速度500mm/min、チャック間距離70mmの条件で測定した。
【0064】
<密度>
シリコーン多孔体の体積と重量を計測し、計算により導出した。
【0065】
【表1】

【0066】
〔実施例2〕
実施例1で用いた界面活性剤、シリコーンポリマーをそのままに、親水性シリカを変えてシリコーン多孔体を作製した。親水性シリカ(日本アエロジル株式会社、商品名「Aerosil 300」)15.92重量%、界面活性剤0.31重量%、イオン交換水41.90重量%を混合してスラリーを調製した。付加反応型シリコーンポリマー41.86重量%と調製したスラリーとを混合して油中水型エマルションを調製した。得られた油中水型エマルションを用いて実施例1と同様の方法で成形、乾燥し、シリコーン多孔体を得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例3〕
実施例2で用いた親水性シリカ、界面活性剤をそのままに、シリコーンポリマーを変えてシリコーン多孔体を作製した。親水性シリカ10.89重量%、界面活性剤0.17重量%、イオン交換水22.57重量%を混合してスラリーを調製した。ビニル基置換ポリジメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金触媒を主体とする2成分型の付加反応型シリコーンポリマー(信越化学工業株式会社、商品名「KE−1950−40」)66.37重量%と調製したスラリーとを混合して油中水型エマルションを調製した。得られた油中水型エマルションを用いて実施例1と同様の方法で厚み2mmのシート形状に成形、乾燥し、シリコーン多孔体を得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0068】
〔実施例4〕
実施例1で用いた親水性シリカ、界面活性剤、シリコーンポリマーをそのままに、化学発泡剤を添加してシリコーン多孔体を作製した。親水性シリカ14.41重量%、界面活性剤0.22重量%、イオン交換水29.93重量%を混合してスラリーを調製した。付加反応型シリコーンポリマー52.43重量%とアゾビス化合物系発泡剤(信越化学工業株式会社、商品名「KE−P−26」)3.00重量%と調製したスラリーとを混合して油中水型エマルションを調製した。得られた油中水型エマルションを用いて実施例1と同様の方法で成形、乾燥し、シリコーン多孔体を得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1で用いたシリコーンポリマー80重量%に熱膨張性ビーズを混合し、熱プレス成形機を用いて厚み3.5mmのシート状成形体とした。成形された発泡体は非透湿性の独立発泡体であった。
【0070】
〔比較例2〕
実施例1で用いた界面活性剤とシリコーンポリマーを用いて、シリコーンポリマー54重量%、界面活性剤6重量%、イオン交換水40重量%を混合して油中水型エマルションを調製した。得られた油中水型エマルションを用いて実施例1と同様の方法で厚み2mmのシート形状への成形を試みたところ、不均一な発泡状態となり、さらに乾燥後には収縮が発生し多孔体を形成できなかった。
【0071】
〔比較例3〕
実施例1で用いた界面活性剤を用いてシリコーン多孔体を作製した。界面活性剤5重量%、イオン交換水50重量%、ビニル基置換ポリジメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金触媒を主体とする2成分型の付加反応型シリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング株式会社、商品名「DOW CORNING TORAY SILPOT 184 W/C」)45重量%とを混合して油中水型エマルションを調製した。得られた油中水型エマルションを用いて実施例1と同様の方法で厚み2mmのシート形状に成形、乾燥し、シリコーン多孔体を得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0072】
表1に示すように、実施例1〜4のシリコーン多孔体は透湿性に優れ、高伸張性で柔軟な材料であった。また、柔軟性及び伸張性を有しながら引張強さ、引裂き強さに優れていた。従って、本発明に係るシリコーン多孔体は、体表面に3次元方向にわたって負荷される機械力を応力緩衝し、緩衝機能を充分に発揮し得る厚みを持ち、人の動きに追従することが可能で、かつ長時間装着しても蒸れによる不快感が起こりにくい生体安全性の高い体表面接触材料となり得るものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係るシリコーン多孔体は、柔軟な粘弾性体をマトリクスとしており、機械的負荷の緩衝性を備え、伸張性を有するとともに優れた透湿性を発揮するため、体表面接触材料として好適に利用される。
【0074】
また、本発明に係るシリコーン多孔体は、透湿性フィルター、防水性透湿フィルター、透湿透音材料、工業用衝撃吸収材などの体表面接触材料以外の用途にも適用が可能である。特に、防水性透音透湿材料としての使用が好適である。従来、スピーカー、マイクロフォンを防水する場合、音質伝搬性の良い疎水性フィルム(シリコーンシート、ゴアテックス)などで遮蔽、コーティングすることが行われてきたが、音質がこもったり、聞きづらいという問題があった。この点、本発明に係るシリコーン多孔体を使用した高透湿性材料シートで遮蔽することにより、防水機能がありながら、連続発泡を形成していることで音を透過させることができる。これにより、音質及びこもり音を改善でき、万が一発泡セル中に水が進入した場合にも、セル中のシリカが吸水、膨潤することによって防水機能を保つことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に分散可能な非水溶性固体粒子が連続孔内に存在するシリコーン多孔体。
【請求項2】
少なくともオルガノポリシロキサンと水に分散可能な非水溶性固体粒子とを含有する連続孔構造を有するシリコーン多孔体であって、
前記連続孔内には水蒸気が通過することを阻害しない程度に前記非水溶性固体粒子が存在している請求項1記載のシリコーン多孔体。
【請求項3】
前記非水溶性固体粒子が前記連続孔内に偏在している請求項1又は2に記載のシリコーン多孔体。
【請求項4】
オルガノポリシロキサン、水に分散可能な非水溶性固体粒子、界面活性剤、及び水を少なくとも含む油中水型エマルションから得られる請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリコーン多孔体。
【請求項5】
オルガノポリシロキサン35〜75重量%、水に分散可能な非水溶性固体粒子5〜25重量%、界面活性剤0.05〜5重量%、及び水15〜60重量%を少なくとも含む油中水型エマルションから得られる請求項4記載のシリコーン多孔体。
【請求項6】
さらに発泡剤を含む油中水型エマルションから得られる請求項4又は5に記載のシリコーン多孔体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリコーン多孔体を含んでなる体表面接触材料。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリコーン多孔体を含んでなる防水性透音透湿材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18903(P2013−18903A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154752(P2011−154752)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【出願人】(000225740)南部化成株式会社 (41)
【Fターム(参考)】