説明

シリコーン成形体及びその使用方法

【課題】 手すり等への取り付け作業や取り外し作業を簡略化でき、いったん被装着体に被着させた後、簡易に剥離し、再使用することが可能なシリコーン成形体を提供する。
【解決手段】 本発明のシリコーン成形体1は、シリコーンゴム弾性体と熱可塑性樹脂とを含み、少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されるものであり、主収縮方向の両端部1X、1Yには、被装着体に装着する際に互いに重なる位置に、一対又は複数対の貫通孔10A、10Bが形成されており、該貫通孔に固定具40の少なくとも一部を嵌め込むことで、被装着体に装着する際に、重なり部分が固定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手すり等の被装着体の被着に用いて好適なシリコーン成形体、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム弾性体を主成分とし、これに常温で延伸状態を保持するポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、シリコーンレジン等の熱可塑性樹脂や、無機質充填剤を配合してなるシリコーン組成物(特許文献1、2等)を、成形及び加熱延伸してなるシリコーン成形体が知られている。
シリコーン成形体を被装着体に近接させ、延伸状態が解除される温度で加熱することで、シリコーン成形体が被装着体の形状に沿って熱収縮するので、被装着体をシリコーン成形体にて被覆することができる。
【0003】
かかるシリコーン成形体の形態としては、チューブ状や、シート状、短冊状等がある。その使用方法としては、(1)管状の被装着体の外表面に沿って、それよりも径の大きいチューブ状のシリコーン成形体を嵌め、これを熱収縮させることで、被装着体を被覆する、(2)同様の被装着体の外表面に、シート状や短冊状のシリコーン成形体の短手方向一端部を固定して巻き廻し、先に固定した一端部と他端部とを重ねて接着や粘着にて固定した後、両端部間を熱収縮させることで、被装着体を被覆する等が挙げられる。
【特許文献1】特公昭51−7704号公報
【特許文献2】特公昭56−9182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
病院の手すり等では衛生であることが要求されるが、頻繁な洗浄・除菌作業は煩わしい。そこで、被着させたシリコーン成形体を取り外し、これを洗浄・除菌されたものに交換することが好ましい。しかしながら、従来は、被着させたシリコーン成形体の被装着体への密着性が高く、これを簡易に剥離し、取り外すことが困難となっている。
特に、チューブ状のものでは、剥離する際の起点がないため、切断等が必要であり、そのままの形態で取り外すことは不可能である。シート状や短冊状のものでは、そのままの形態で取り外すことも可能ではあるが、重なり部分が接着や粘着にて固定されたものでは、固定部分を破壊して取り外す必要があり、一度使用したシリコーン成形体は、再使用は困難となっている。
【0005】
加えて、チューブ状のものでは、手すり等、被装着体が構造物に固定されている場合、被装着体を構造物から外して装着作業を行い、装着後にこれを再度取り付ける必要があり、取り付け作業が極めて煩雑である。シート状や短冊状のものでは、シリコーン成形体の一端部を固定するための凸状部材等をあらかじめ被装着体に取り付けたり、重なり部分を接着や粘着にて固定する作業が必要であり、取り付け作業はやはり煩雑である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、手すり等への取り付け作業や取り外し作業を簡略化でき、いったん被装着体に被着させた後、簡易に剥離し、再使用することが可能なシリコーン成形体、及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討し、以下のシリコーン成形体、及びその使用方法を発明した。
【0008】
本発明のシリコーン成形体は、シリコーンゴム弾性体と熱可塑性樹脂とを含み、少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されるシリコーン成形体において、主収縮方向の両端部には、被装着体に装着する際に互いに重なる位置に、一対又は複数対の貫通孔が形成されており、該貫通孔に固定具の少なくとも一部を嵌め込むことで、被装着体に装着する際に、重なり部分が固定されることを特徴とする。
本発明のシリコーン成形体は、前記両端部を除く部分のみが加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されることが好ましい。
【0009】
本発明のシリコーン成形体としては、
(A)下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン100質量部と、
SiO(4−a)/2・・・(1)
(但し、式中、Rは置換若しくは無置換の一価炭化水素基を示す。aはRの平均モル数であり、1.85〜2.10である。Rで示される全一価炭化水素基のうち、50モル%以上がメチル基、0〜5.0モル%がビニル基である。)
(B)熱可塑性樹脂10〜100質量部と、
(C)無機質充填剤5〜50質量部と、
(D)架橋剤及び/又は硬化触媒と
を含むシリコーン組成物を成形してなるものが好適である。
前記シリコーン組成物は、さらに、(E)抗菌剤0.3〜5質量部を含むことが好ましい。
【0010】
本発明のシリコーン成形体の使用方法は、上記の本発明のシリコーン成形体の使用方法であって、
少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体に近接させる工程と、主収縮方向の両端部を重ねて、重なり部分を前記貫通孔に嵌め込んだ前記固定具にて固定する工程と、加熱延伸部分を熱収縮させて被着させる工程とを順次有することを特徴とする。
本発明では、被装着体に被着させた後、被装着体から取り外し、再度少なくとも一部を加熱延伸させることで、繰り返し使用することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、手すり等への取り付け作業や取り外し作業を簡略化でき、いったん被装着体に被着させた後、簡易に剥離し、再使用することが可能なシリコーン成形体、及びその使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のシリコーン成形体は、シリコーンゴム弾性体と熱可塑性樹脂とを含み、少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されるシリコーン成形体において、主収縮方向の両端部には、被装着体に装着する際に互いに重なる位置に、一対又は複数対の貫通孔が形成されており、該貫通孔に固定具の少なくとも一部を嵌め込むことで、被装着体に装着する際に、重なり部分が固定されることを特徴とする。
【0013】
本発明のシリコーン成形体はその形態に特徴のあるものであるが、形態の説明に先立ち、組成や製造方法の概略について説明する。
組成は特に制限されないが、(A)ジオルガノポリシロキサンと、(B)熱可塑性樹脂と、(C)無機質充填剤と、(D)架橋剤及び/又は硬化触媒とを含むシリコーン組成物を成形してなるものが好ましい。
以下、各成分について詳述する。
【0014】
「(A)成分」
(A)ジオルガノポリシロキサンは、(D)架橋剤及び/又は硬化触媒の存在下で、加熱又は電離放射線等の活性エネルギー線の照射により架橋し、シリコーンゴム弾性体となる成分である。本発明では、下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。(A)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
SiO(4−a)/2・・・(1)
式中、Rは置換若しくは無置換の一価炭化水素基であり、1種でも複数種でも良い。aはRの平均モル数であり、1.85〜2.10である。特性のバランスから、Rで示される全一価炭化水素基のうち、50モル%以上をメチル基とする。また、Rで示される全一価炭化水素基のうち、0〜5.0モル%、好ましくは0.05〜5.0モル%、特に好ましくは0.05〜0.5モル%をビニル基とする。
必要に応じて含まれるメチル基及びビニル基以外のRとしては、エチル基やプロピル基等のアルキル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、及びこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部がハロゲン原子やシアノ基等で置換された基(クロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等)が挙げられる。
【0016】
かかる構成の(A)成分を用いることで、シリコーン成形体を熱収縮させ、被装着体に被着させた後、適度なゴム弾性を保持させることができる。その結果、良好なゴム弾性触感を呈しつつ、被装着体に対して適度な密着性を発現させ、さらには交換等が必要になれば、被着させたシリコーン成形体を切断等することなくそのままの形態で簡易に剥離し、取り外すことができる。また、加熱延伸と熱収縮とを繰り返し実施することもできる。そして、そのままの形態で剥離できること、及び加熱延伸と熱収縮とを繰り返し実施できることから、シリコーン成形体を繰り返し再使用することができる。
【0017】
なお、Rの平均モル数a、Rで示される全一価炭化水素基に占めるメチル基量やビニル基量が上記範囲外では、得られるシリコーンゴム弾性体の強度等の物性が低下したり、架橋方法が制限されるなどの不都合があり、好ましくない。
【0018】
(A)成分の粘度(25℃)は特に制限はないが、得られるシリコーンゴム弾性体の物性やシリコーン組成物の調製容易性等の観点から、200万〜300万センチストークス(cs)程度が好ましい。
【0019】
「(B)成分」
(B)熱可塑性樹脂は、溶融温度未満でシリコーンゴム弾性体の弾性変形を束縛してシリコーン成形体全体の形状を保持する一方、溶融温度以上の加熱により軟化して、シリコーンゴム弾性体の束縛を解除し、シリコーンゴム弾性体の弾性変形を発現させる成分である。
(B)成分としては特に制限はないが、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリノルボルネン、ウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンレジン等が挙げられる。(B)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
(B)成分はペレット状、粉末状等、いかなる形態であっても良いが、平均粒子径が200μm以下、特に50μm以下の微粉末状が好ましい。かかる微粉末状の(B)成分を用いることで、シリコーン組成物中に均一に分散させることができ、その結果、熱収縮性、機械的強度等の物性に優れたシリコーン成形体が得られる。また、ペレット状の場合は、(B)成分の溶融温度以上の温度に加熱し、シリコーン組成物中に配合することで、(B)成分の分散性を高めることができ、好適である。
【0020】
(B)熱可塑性樹脂の配合量は、(A)ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、10〜100質量部、特に50〜100質量部が好ましい。(B)成分量が10質量部未満では、シリコーン成形体の熱収縮性が不充分となる場合があり、被装着体を良好に被着することが困難となり、100質量部超では、全体に占める(A)成分の割合が少なくなりすぎて、シリコーン成形体のゴム弾性が不充分となる場合がある。
【0021】
「(C)成分」
本発明では、シリコーン成形体に良好な硬度と機械的強度を付与するために、(C)無機質充填剤を用いる。
(C)成分としては特に制限はないが、シリコーンゴム弾性体の架橋反応を阻害せず、シリコーンゴム弾性体の耐熱特性を保持しつつ、引っ張り強度や引き裂き強度などの機械的強度を向上できることから、シリカ系無機質充填剤が好ましく用いられる。その具体例としては、乾式法で得られる微粉末状無水ケイ酸、天然ケイ酸、ケイ酸塩、湿式法で得られる含水ケイ酸、石英粉、及びこれらを各種シラン、低重合度オルガノポリシロキサン、シラザン等で表面処理したもの等が挙げられる。(C)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
(C)成分としては、物性向上効果と分散性の観点から、比表面積が100m/g以上、特に120〜400m/gの微粉末状の無機質充填剤が好ましく用いられる。
【0022】
(C)無機質充填剤の配合量は、(A)ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、5〜50質量部、特に20〜40質量部が好ましい。(C)成分量が5質量部未満では、機械的強度が不充分となる場合があり、50質量部超では、全体に占める(A)成分の割合が少なくなりすぎて、シリコーン成形体のゴム弾性が不充分となる場合がある。
【0023】
「(D)成分」
(D)架橋剤及び/又は硬化触媒は、(A)ジオルガノポリシロキサンを架橋できれば特に制限はなく、用いる(A)成分の種類等に応じて選定される。
具体例としては、(i)ベンゾイルパーオキサイド、ジ−オルソ−メチルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、(ii)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金金属や塩化白金酸塩等の白金系触媒との組合せからなるもの、(iii)3個以上の官能基を有するアルコキシシラン、アセトキシシラン、アミノキシシラン、オキシムキシシラン、或いはこれらの部分加水分解縮合物と、ジブチル錫ジラウレート等の有機酸金属塩との組合せからなるもの等が挙げられる。(D)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
(D)架橋剤及び/又は硬化触媒の使用量は、用いる(A)成分と(D)成分の組み合わせに応じて設定され、特に制限はないが、(A)ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.5〜4質量部が好ましい。
【0025】
「(E)成分」
シリコーン組成物には、(E)抗菌剤を添加することができる。これによって、菌等の繁殖を抑制する抗菌機能が発現し、病院の手すり等の被覆に適したシリコーン成形体が得られる。
(E)成分としては特に制限はないが、シリコーン組成物の成形時、被装着体への装着時(シリコーン成形体の熱収縮時)、洗浄・滅菌処理時等に曝される温度下で失効しない耐熱性を有する無機系抗菌剤が好ましく用いられる。その具体例としては、亜鉛系抗菌剤や銀系抗菌剤等が挙げられる。また、広範囲の菌や黴に対して有効で、使用環境下での変色が少ない耐候性を備え、化学的、物理的に安定で、安全性が高く、シリコーン組成物への分散性が良好なものを選定することが好ましい。(E)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
(E)成分の平均粒子径は特に制限はないが、分散性と抗菌性を考慮すれば、0.2〜10μmが好ましい。平均粒子径が0.2μm未満では、粒子が小さすぎて成形体の表面に出現し難く、充分な抗菌性が発現しない恐れがある。平均粒子径が10μm超では、同量を添加しても、粒子数が少なくなるので、成形体の表面に出現し難く、充分な抗菌性を発現するには添加量を多くする必要があり、不経済である。
【0027】
(E)成分の添加量は特に制限はないが、前記した平均粒子径の範囲で良好な抗菌効果を効率よく発現するには、0.3〜5質量部が好ましい。0.3質量部未満では抗菌効果が不充分となる恐れがあり、5質量部超では、これ以上の抗菌効果の向上は望めず、不経済である。
【0028】
「(F)成分」
シリコーン組成物には、(A)ジオルガノポリシロキサンと(B)熱可塑性樹脂との間の親和力の向上、延伸形状保持性、熱収縮性、保存安定性等の向上を図るため、更に、下記一般式(2)で表される(F)シランカップリング剤を添加することができる。
YSiX・・・(2)
(式中、Xは、アルコキシ基、アルコキシアルキル基等の加水分解性基であり、Yは、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基等の反応性有機官能基である。)
(F)シランカップリング剤としては、(B)熱可塑性樹脂に対して反応性及び親和性を持つ有機官能基Yを含有するものが好ましい。(F)成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
シランカップリング剤(F)の添加量は特に制限はないが、(A)ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0〜10質量部、特に1.5〜5質量部が好ましい。添加量が10質量部超では、硬化発現に対して過剰となり、余剰分が物性低下を招く恐れがある。
【0030】
「その他の成分」
その他、シリコーン組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。
【0031】
「シリコーン成形体の製造方法」
シリコーン組成物は、例えば、(A)〜(D)成分、及び必要に応じて他の任意成分を配合し、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー(インターナルミキサー)等の公知の混合機にて混練することで、調製できる。
これら成分は一括混練しても良いし、添加タイミングをずらして混練しても良いが、シリコーン組成物の調製中に架橋反応が進行しないように、添加順序や温度を調整する。例えば、(B)熱可塑性樹脂の分散性を高めるために、(B)成分の溶融温度以上に加熱しながら混練しても良いが、この場合、組成物が加熱架橋しないように、(B)成分を添加混練後、架橋反応が進行しない温度に降温させてから、(D)架橋剤及び/又は硬化触媒を添加する必要がある。
シリコーン組成物の調製に際しては、均一混合を容易とするため、公知の分散助剤を添加しても良い。
【0032】
上記のようにして得られるシリコーン組成物を、圧縮成形、押出成形、カレンダー成形、移送成形、射出成形等の公知のゴム成形に供し、シート状や短冊状等の予備成形体を得(この際にも架橋反応が進行しないように温度等を調整する。)、これをラジカル反応、付加反応、縮合反応等により架橋することで、シリコーン成形体が得られる。
架橋方法としては、加圧加熱架橋、常圧加熱架橋、常温架橋、電子線架橋、放射線架橋等が挙げられる。
例えば、常温下でシリコーン組成物を調製し、これを常温下でカレンダーロール等を用いて予備成形した後、加圧加熱プレス加工することで架橋させ、シリコーン成形体が得られる。
得られたシリコーン成形体に対して、貫通孔の穿孔等の機械的な加工を実施し、最後に、少なくとも一部を加熱延伸し、本発明のシリコーン成形体が得られる。
【0033】
使用方法の詳細については後記するが、本発明のシリコーン成形体は、少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供される。このシリコーン成形体は、加熱延伸部分が熱収縮することを利用して、被装着体に被着させることができるものである。
本発明のシリコーン成形体では、被装着体に対して適度な密着性を呈しつつ、交換等が必要になれば、そのままの形態で簡易に剥離し、取り外すこと、加熱延伸と熱収縮とを繰り返し実施することが可能である。したがって、本発明のシリコーン成形体は、繰り返し使用が可能である。
【0034】
「実施形態」
以下、図面に基づいて、本発明に係るシリコーン成形体の一実施形態について説明する。ここでは、手すり等、管状の被装着体の被着に用いて好適な短冊状のシリコーン成形体を例として説明する。図1において、(a)は平面図、(b)はA−A’線断面図、(c)はホック鋲を取り出して示す図である。なお、図毎に、縮尺等は適宜異ならせてある。
【0035】
図1に示すように、本実施形態のシリコーン成形体1では、主収縮方向(短冊状では短手方向、図示左右方向)の両端部1X、1Yに、被装着体に装着する際に互いに重なる位置に、複数対の貫通孔10A、10Bが形成されている。貫通孔10A、10Bは、手すり等の被着用では複数対設けられるが、用途等に応じて、一対のみ設けられる場合もある。
このシリコーン成形体1では、両端部1X、1Yが相対的に厚い非加熱延伸部分、両端部1X、1Yを除く部分1Zが相対的に薄い加熱延伸部分となっている。
【0036】
対をなす貫通孔10A、10Bには各々、互いに嵌合し合うホック鋲(固定具)40の雌具41と雄具42とが嵌め込まれている。雄具42は貫通孔10Bより若干径の大きい円盤状部材42Aの中央部に柱状部材42Bが突設されたもので、雌具41は貫通孔10Aより若干径の大きい円盤状部材の中央部に、雄具42の柱状部材42Bの一部が挿入される貫通孔41Aが形成されたもので、これらはポリエチレン等のシリコーン成形体1より硬い材質にて構成されている。
なお、本実施形態では、雌具41及び雄具42を完全に貫通孔内に埋め込む構成としたが、少なくとも一部を貫通孔内に嵌め込む構成とすれば足る。
【0037】
シリコーン成形体1では、貫通孔10A、10Bに嵌め込んだホック鋲(固定具)40の雌具41と雄具42とを嵌合させることで、被装着体に装着する際に、重なり部分を固定することができる。
【0038】
「製造方法」
本実施形態のシリコーン成形体1は以上のように構成されている。以下、図2に基づいて、この製造例について説明する。同図は、図1(b)に対応する断面図である。
【0039】
はじめに、段落[0031]、[0032]で説明したように、(A)成分が架橋された短冊状のシリコーン成形体を製造し、その両端部1X、1Yに貫通孔10A、10Bを穿孔する。
【0040】
得られた加熱延伸前の短冊状のシリコーン成形体1Pに対して、加熱延伸処理を行う。
詳細には、図2(a)に示すように、シリコーン成形体1Pの両端部1X、1Yを各々、チャック20にて把持する。チャック20には、シリコーン成形体1Pの一面側を保持する平板状部材21に突起21A、他面側を保持する平板状部材22に突起21Aが挿入される貫通孔22Aが、シリコーン成形体1Pの貫通孔10A、10Bの径やピッチに合わせて形成されており、各突起21Aをシリコーン成形体1Pの貫通孔10A、10Bに挿通させ、この先端部を貫通孔22A内に挿入することで、シリコーン成形体1Pの両端部1X、1Yを把持する。
【0041】
両端部1X、1Yをチャック20で把持したシリコーン成形体1Pを、必要に応じて、加熱炉等にて、(B)熱可塑性樹脂の溶融温度以上、好ましくは溶融温度より30〜100℃高い温度に予熱してから、図2(b)に示すように、(B)熱可塑性樹脂の溶融温度以上、好ましくは溶融温度より30〜100℃高い温度に加熱した温調曲面板30上に載置する。この際、シリコーン成形体1Pを温調曲面板30の形状に沿って配し、短手方向に延伸する。これによって、両端部1X、1Yを除く部分1Zのみが加熱延伸される。このように、ホック鋲40を嵌め込むための貫通孔10A、10Bを利用することで、両端部1X、1Yを除く部分1Zのみを加熱延伸することができる。
次いで、図2(c)に示すように、チャック20で把持したまま、延伸処理後のシリコーン成形体1を温調曲面板30から外して平坦面上に載置し、(B)熱可塑性樹脂の溶融温度以下、好ましくは溶融温度より10〜50℃低い温度に、自然冷却又は強制冷却する。これによって、延伸時の形状が保持される。その後、チャック20を取り外す。
【0042】
最後に、貫通孔10A、10Bにホック鋲40を嵌め込むことで、上記実施形態のシリコーン成形体1が完成する。
【0043】
「使用方法」
次に、図3に基づいて、シリコーン成形体1の使用方法について説明する。同図は、図1(b)に対応する断面図である。
【0044】
はじめに、図3(a)に示すように、シリコーン成形体1を、手すり等、管状の被装着体50に近接させて巻き廻し、両端部1Xと1Yとを重ねる。この際、シリコーン成形体1の幅(短手方向の長さ)は被装着体50の外周長さより大きく設定されているので、図示するように、シリコーン成形体1と被装着体50との間には、空隙が形成される。その後、ホック鋲40をなす雌具41と雄具42とを嵌合し、重なり部分を固定する。
次いで、図3(b)に示すように、延伸状態が解除される温度、すなわち(B)熱可塑性樹脂の溶融温度以上、好ましくは溶融温度よりも10〜50℃高い温度に加熱する。これにより、シリコーン成形体1は、被装着体50の形状に沿って加熱延伸部分1Zが熱収縮(形状回復)し、延伸処理前のシリコーン成形体1Pに戻る(図2(a)参照)。その結果、シリコーン成形体1Pが被装着体50に密着し、被装着体50を被覆することができる。
シリコーン成形体1では、ホック鋲40をなす雌具41と雄具42との嵌合を解除し、重なり部分の上部側を起点として引き剥がすことで、被装着体50に被着させたシリコーン成形体1Pを容易に剥離し、取り外すことができる。
【0045】
このように、本実施形態のシリコーン成形体1では、構造物に固定された手すり等の被装着体に対しても、これを構造物から取り外すことなく、被着することができる。また、重なり部分は、貫通孔10A、10Bに嵌め込んだホック鋲40にて固定する構成としているので、被装着体にあらかじめ一端部を固定するための凸状部材等を取り付けたり、両端部を接着や粘着にて固定する等の作業が不要である。したがって、従来に比して、取り付け作業を著しく簡略化できる。
さらに、重なり部分はホック鋲40にて固定され、接着や粘着等されていないので、重なり部分を容易に着脱することができる。また、シリコーン成形体1Pは、被装着体からの剥離性も良好であるので、そのままの形態で容易に取り外すことができる。したがって、従来に比して、取り外し作業も著しく簡略化できる。
【0046】
また、本実施形態では、両端部を除く部分1Zのみを加熱延伸する構成を採用しているので、貫通孔10A、10Bが延伸されることなく、孔径の寸法安定性に優れる。したがって、ホック鋲40が貫通孔10A、10Bから脱落する等の恐れもない。また、重なり部分となる両端部は加熱収縮も起こらないので、装着の際の位置合わせも容易である。
【0047】
取り外したシリコーン成形体1Pは、ホック鋲40を外し、再度、段落[0040]、[0041]で説明したように、両端部を除く部分1Zを加熱延伸処理し、ホック鋲40を取り付けることで、繰り返し使用することができる。
シリコーン成形体1(1P)は化学的安定性、熱的安定性に優れるので、取り外したシリコーン成形体1Pに対して、洗浄(水洗浄、中性洗剤やアルコール等を用いた洗浄等)や、滅菌(煮沸滅菌や加圧蒸気滅菌等)等を必要に応じて実施することができる。したがって、本発明のシリコーン成形体1は、衛生であることが要求される病院の手すり等の被着に好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明は下記例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例)
(A)ジオルガノポリシロキサンとして、分子鎖両末端がジメチルビニル基で封鎖されたジメチルポリオルガノシロキサン(25℃における粘度が5×10cs、メチル基含有量99.8モル%、ビニル基含有量0.2モル%)100質量部、(B)熱可塑性樹脂として、ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製 商品名:アクリペットMF−001)30質量部、(C)無機質充填剤として、シリカ系無機質充填剤(日本アエロジル社製 アエロジル 商品名:R−972、比表面積110m/g)30質量部、及び(F)シランカップリング剤(信越化学社製 商品名:KBM−403)3質量部を、200℃の加熱ロール(二本ロール)にて混練混合した。
【0050】
上記混合物を常温に冷却した後、この混合物100質量部に、さらに、(D)架橋剤として、ジ−オルソ−メチルベンゾイル−パーオキサイドの50質量%ペースト(信越化学社製 商品名:C−24)3質量部、及び(E)抗菌剤として、銀系無機抗菌剤(東亜合成社製 商品名:ノバロンVZ−100、平均粒径5μm、白色粉末)2質量部を添加し、常温下、二本ロールにて混練混合し、シリコーン組成物を調製した。
【0051】
上記シリコーン組成物を用い、段落[0038]〜[0042]で説明したように、本発明のシリコーン成形体を製造した。
詳細には、常温下でのカレンダー成形にて、厚み1.05mmの短冊状の予備シリコーン成形体を得、これに対して、150℃、5MPaの加圧加熱プレスを実施し、(A)成分が架橋された短冊状のシリコーン成形体(1.0mm厚み、115×450mmサイズ)を得た。このシリコーン成形体に対して、短手方向の両端部に、4mmφの貫通孔を70mmピッチで6箇所ずつ穿孔した。貫通孔は、末端から内側5mmの位置に設けた。
両端部をチャックで把持し、200℃の加熱炉で20分程予熱した。その後、加熱炉から取り出し、200℃に設定した温調曲面板を用いて、両端部を除く部分(幅95mm)を倍長(190mm)に延伸させた。加熱延伸後、温調曲面板から取り外して平坦面上に静置し、室温まで自然冷却させた。
最後に、チャックを取り外し、貫通孔にホック鋲を取り付け、本発明のシリコーン成形体を得た。加熱延伸部分の厚みは0.6mm程度であった。
【0052】
得られたシリコーン成形体を用い、段落[0043]、[0044]で説明したように、35mmφの手すりを被覆した。
すなわち、シリコーン成形体を手すりに巻き廻し、両端部を重ねてホック鋲で固定した後、200℃のブロアーで全体を加熱し、加熱延伸部分を熱収縮させ、被着させた。加熱延伸部分は熱収縮により、厚みが1.0mm程度に回復した。
【0053】
被着させたシリコーン成形体は、ホック鋲をなす雌具と雄具との嵌合を解除し、重なり部分の上部側を起点として引き剥がすことで、容易に手すりから剥離し、取り外すことができた。取り外したシリコーン成形体に対して、中性洗剤及びアルコールを用いた洗浄、加圧水蒸気釜を用いた110℃の滅菌処理を実施した。洗浄及び滅菌後のシリコーン成形体は、初回と同様に、加熱延伸処理、及び手すりへの被着ができ、繰り返し使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のシリコーン成形体、及びその使用方法は、病院の手すり等の被装着体の被着に好ましく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るシリコーン成形体の一実施形態の構造を示す図である。
【図2】本発明に係るシリコーン成形体の一実施形態の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明に係るシリコーン成形体の一実施形態の使用方法を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 シリコーン成形体
1X、1Y 両端部
10A、10B 貫通孔
40 ホック鋲(固定具)
50 被装着体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム弾性体と熱可塑性樹脂とを含み、少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されるシリコーン成形体において、
主収縮方向の両端部には、被装着体に装着する際に互いに重なる位置に、一対又は複数対の貫通孔が形成されており、該貫通孔に固定具の少なくとも一部を嵌め込むことで、被装着体に装着する際に、重なり部分が固定されることを特徴とするシリコーン成形体。
【請求項2】
前記両端部を除く部分のみが加熱延伸された状態で、被装着体の装着に供されることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン成形体。
【請求項3】
(A)下記平均組成式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン100質量部と、
SiO(4−a)/2・・・(1)
(但し、式中、Rは置換若しくは無置換の一価炭化水素基を示す。aはRの平均モル数であり、1.85〜2.10である。Rで示される全一価炭化水素基のうち、50モル%以上がメチル基、0〜5.0モル%がビニル基である。)
(B)熱可塑性樹脂10〜100質量部と、
(C)無機質充填剤5〜50質量部と、
(D)架橋剤及び/又は硬化触媒と
を含むシリコーン組成物を成形してなることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン成形体。
【請求項4】
前記シリコーン組成物が、
さらに、(E)抗菌剤0.3〜5質量部を含むことを特徴とする請求項3に記載のシリコーン成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシリコーン成形体の使用方法であって、
少なくとも一部が加熱延伸された状態で、被装着体に近接させる工程と、
主収縮方向の両端部を重ねて、重なり部分を前記貫通孔に嵌め込んだ前記固定具にて固定する工程と、
加熱延伸部分を熱収縮させて被着させる工程と
を順次有することを特徴とするシリコーン成形体の使用方法。
【請求項6】
被装着体に被着させた後、被装着体から取り外し、再度少なくとも一部を加熱延伸させることで、繰り返し使用することを特徴とする請求項5に記載のシリコーン成形体の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1025(P2006−1025A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176677(P2004−176677)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】