説明

シリコーン構造体の製造方法及び半導体装置

【課題】従来硬化が困難であった表面、特に、金などの貴金属層を有する基材表面上での熱伝導性シリコーン組成物の硬化を容易に行うことができるシリコーン構造体の製造方法及びこの方法によって得られる半導体装置を提供する。
【解決手段】少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面上に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を形成してなるシリコーン構造体を製造する方法において、熱伝導性シリコーン組成物の硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを用いたシリコーン構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、少なくとも表面に金などの貴金属層が形成されている基材の該表面に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を形成したシリコーン構造体の製造方法及びこれにより得られる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CPUやグラフィックなどの半導体素子とヒートスプレッダー等の放熱部材との間に介在させる熱伝導性シリコーン樹脂としては、その樹脂組成物を硬化させて介在させるものが一般的である。硬化させない放熱グリースなどを介在させると、熱衝撃などによりグリースがはみ出してしまい、著しく放熱性能が低下してしまうためである。硬化させるための硬化方法としては、一般的に付加反応を利用することが多い。その要因としては、熱による硬化時間が短くて済み、また硬化後の硬さをコントロールしやすいなどの理由がある。
【0003】
しかしながら、半導体素子の表面は金属シリコンである場合が多いが、その金属シリコン表面上に金が蒸着されている場合がある。金表面上では、付加反応は進行しにくく硬さのコントロールが非常に難しい。そのため、特開2008−106185号公報(特許文献1)のように、金表面にプライマーを処理する技術もあるが、プライマーの塗布、更には乾燥という工程が非常に煩わしく、また不経済であった。特開2009−256428号公報(特許文献2)に記載の方法では、特定の架橋剤を用いることで金表面上でも付加反応にて硬化させることができるが、金蒸着されていない基材に用いると極めて硬くなってしまう。使用する側とすれば、金蒸着されているものと、されていないものとで放熱材料を使い分けなければならず、より使い勝手のよい熱伝導性シリコーン組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−106185号公報
【特許文献2】特開2009−256428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来硬化が困難であった表面、特に、金などの貴金属層を有する基材表面上での熱伝導性シリコーン組成物の硬化を容易に行うことができるシリコーン構造体の製造方法及びこの方法によって得られる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、表面に金などの貴金属層を有する基材表面上に熱伝導性シリコーン組成物を硬化・積層する際に用いる硬化剤として、10時間半減期温度が80℃以上130℃未満の範囲のパーオキサイドを含有する熱伝導性シリコーン組成物を用いることで、熱伝導性シリコーン組成物の硬化物が容易に形成されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記のシリコーン構造体の製造方法及び半導体装置を提供する。
請求項1:
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面上に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を形成してなるシリコーン構造体を製造する方法において、熱伝導性シリコーン組成物の硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを用いたことを特徴とするシリコーン構造体の製造方法。
請求項2:
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面と放熱部材との間に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を介在させてなるシリコーン構造体を製造する方法において、熱伝導性シリコーン組成物の硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを用いたことを特徴とするシリコーン構造体の製造方法。
請求項3:
熱伝導性シリコーン組成物が、
(A)成分:ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン;100質量部、
(B)成分:熱伝導性充填剤、
(C)成分:10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイド;組成物全体の0.05〜0.5質量%
を含有するものである請求項1又は2記載の製造方法。
請求項4:
熱伝導性シリコーン組成物が、
更に、(D)成分:ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
を含有する請求項3記載の製造方法。
請求項5:
熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜の厚さが、20〜500μmである請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
請求項6:
上記基材が、表面に金の蒸着層を有する金属シリコンである請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
請求項7:
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面と放熱部材との間に、10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを硬化剤とする熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜が介在してなることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来硬化が困難であった表面に特に金などの貴金属層を有する基材上での熱伝導性シリコーン組成物の硬化が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の半導体装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】テストピースの作製及び接着力の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシリコーン構造体の製造方法は、少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面上に、硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを含む熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を形成させるものである。
【0011】
ここで、本発明で用いられる熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)成分:ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン
(B)成分:熱伝導性充填剤
(C)成分:10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイド
を必須成分とするものである。
【0012】
[(A)成分]
(A)成分は、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも1個、特に
1〜5個有するオルガノポリシロキサンであり、その分子構造は直鎖状、分岐状又は網状のいずれでもよいが、直鎖状であることが経済面から好ましい。
【0013】
また、(A)成分は、25℃における粘度が10mm2/sより小さいと揮発性が高いため組成が安定しない場合があり、また100,000mm2/sより大きいと組成物の粘度が高くなり、扱いが難しくなる場合があるため、10〜100,000mm2/sの範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜50,000mm2/sである。なお、この粘度は動粘度であって、オストワルド粘度計による25℃での測定値である(以下、同じ)。
【0014】
(A)成分のケイ素原子に結合するアルケニル基としては、炭素数2〜8のものが好ましく、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。ケイ素原子に結合するアルケニル基は分子中のどの位置に存在してもよいが、少なくとも分子鎖末端に存在することが望ましい。
【0015】
(A)成分のケイ素原子に結合するアルケニル基以外の有機基としては、炭素数1〜10のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、キシリル基等のアリール基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が例示される。
【0016】
(A)成分の分子鎖末端基としては、トリメチルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、メチルビニルフェニルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基、水酸基、アルコキシ基等が例示される。
【0017】
(A)成分中の有機基の種類、分子鎖末端封鎖基の種類及び粘度等は得られる熱伝導性シリコーン組成物の使用目的に応じて適宜選択することができる。また、粘度、構造が違う(A)成分を数種類使用してもよい。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分の熱伝導性充填剤は、熱伝導性シリコーン組成物に熱伝導性を付与するためのものである。例えば、アルミニウム粉末、銀粉末、銅粉末、ニッケル粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、酸化マグネシウム粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化ケイ素粉末、ダイヤモンド粉末、グラファイト粉末、亜鉛粉末、ステンレス粉末、及びこれらの2種以上の組み合わせより選択される。
【0019】
これら熱伝導性フィラーの平均粒径は、通常、0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmの範囲である。小さすぎると組成物の粘度が高くなりすぎて進展性の乏しいものとなる場合があり、大きすぎると得られる組成物が不均一になる場合がある。なお、この平均粒径は、レーザー回折・散乱法で求めることができる体積基準の平均粒径である。また、これら熱伝導性充填剤の形状は、球状、不定形状のどちらでもよい。
【0020】
これら熱伝導性充填剤の添加量は、前記熱伝導性シリコーン組成物中、50質量%より少ないと所望する熱伝導率が得られないし、98質量%より多いと得られる熱伝導性シリコーン組成物の粘度が高くなり取り扱いが悪くなるため50〜98質量%が好ましい。
【0021】
[(C)成分]
本発明で使用するパーオキサイドは、10時間半減期温度が80℃より低いと反応が早くなりすぎ、ポットライフの観点から取り扱いが悪くなるし、130℃以上であると、高い温度をかけないと反応が十分に進まないため使い勝手が悪くなるので、80℃以上130℃未満、好ましくは90℃以上120℃未満の範囲である。
【0022】
パーオキサイドとしては、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネート等が挙げられる。これらは市販品を用いることができ、例えばパーブチルC、パーブチルI、パーヘキサC(商品名;いずれも日本油脂(株)製)等を例示できる。
【0023】
パーオキサイドの含有量は、熱伝導性シリコーン組成物全体の0.05質量%より小さいとなかなか反応が進まないし、0.5質量%より大きくても効果は変わらず不経済であるため0.05〜0.5質量%の範囲が良い。より好ましくは0.1〜0.3質量%である。
【0024】
[(D)成分]
本発明の組成物には、接着性の点から、更に、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個、特に3〜30個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを添加混合しても良い。
【0025】
(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、分岐状又は網状のいずれでもよく、25℃における粘度が1〜10,000mm2/sであることが好ましく、より好ましくは5〜100mm2/sである。また、粘度の違う数種類の(D)成分を使用してもよい。
【0026】
(D)成分のケイ素原子に結合する水素原子以外の有機基としては、アルケニル基を除く炭素数1〜10のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が例示される。
【0027】
(D)成分を使用する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜50質量部、特に2〜30質量部である。
【0028】
また、本発明の組成物には、更に、必要に応じて(B)成分の(A)成分への濡れ性向上剤として、下記式(1)で表されるオルガノシランを配合してもよい。
1a2bSi(OR34-a-b (1)
(式中、R1は独立に炭素数9〜15のアルキル基であり、R2は独立に非置換又は置換の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、R3は独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、aは1〜3の整数であり、bは0〜2の整数であり、ただし、a+bは1〜3の整数である。)
【0029】
1は、独立に炭素数9〜15のアルキル基であり、その具体例としては、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等が挙げられる。
【0030】
2は、独立に非置換又は置換の炭素数1〜10、特に1〜8の飽和又は不飽和の一価炭化水素基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン置換炭化水素基等が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0031】
3は、独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0032】
aは、通常、1〜3の整数であるが、特に好ましくは1である。bは0〜2の整数である。ただし、a+bは1〜3の整数である。
【0033】
上記式(1)で表されるオルガノシランの具体例としては、
1021Si(OCH33
1225Si(OCH33
1225Si(OC253
1021Si(CH3)(OCH32
1021Si(C65)(OCH32
1021Si(CH3)(OC252
1021Si(CH=CH2)(OCH32
1021Si(CH2CH2CF3)(OCH32
等が挙げられる。
【0034】
このオルガノシランを使用する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜20質量部、特に0.01〜10質量部とすることが好ましい。
【0035】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(A)〜(C)成分、及び必要に応じて(D)成分、その他の添加剤等を常法により混合することにより調製できる。
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、硬化する前の回転粘度計により測定される25℃における絶対粘度が、10Pa・sより低いと(B)成分の熱伝導性充填剤が沈降しやすくなるし、1,000Pa・sより高いと硬すぎて容器などへの充填性が悪くなるため、10〜1,000Pa・sの範囲、好ましくは50〜500Pa・sの範囲である。
【0036】
本発明においては、表面に金などの貴金属層を有する基材の該表面と、ヒートスプレッダー等の放熱部材との間に本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を介在させることができるが、その厚みは20μm(硬化後)より小さいと、熱衝撃などによる構造体の反りに追随できなくなる場合があり、500μmより大きいと熱抵抗が大きくなるため放熱性能が乏しくなる場合があるので、20〜500μmの範囲が好ましい。より好ましくは20〜100μmの厚みが良い。
【0037】
硬化方法としては、パーオキサイドは一般的に酸素阻害を受け易いため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましいが、基材とヒートスプレッダー等との間に本発明の熱伝導性シリコーン組成物を介在させた場合、実質的には内部は影響されない。従って、大気中での硬化でも構わない。硬化温度及び時間は、構造体の大きさなどにもよるが、120℃より低いと反応の進みが遅くなる場合があり、200℃より高いと熱伝導性シリコーン組成物自体に劣化などの悪影響が出る場合があるため、120〜200℃の範囲、好ましくは130〜180℃の範囲が良く、5〜240分間、特に10〜120分間が好ましい。
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーン構造体は、上記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物(熱伝導性シリコーン)を、少なくとも表面に金などの貴金属層が形成されている基材表面に積層させてなるもので、この場合、該基材表面上に熱伝導性シリコーン組成物を配置し、加熱することにより得られる。
【0039】
ここで、基材としては、例えば半導体装置の半導体チップやこの半導体チップからの熱が伝導される放熱体等の半導体素子が挙げられ、これによって本発明の構造体は半導体装置として構成できる。この場合、これら基材は金属であっても非金属であってもよいが、シリコンが好ましく、また、特に基材の少なくとも表面に金などの貴金属層が形成されているものが本発明において有効であるが、これに限定されるものではない。なお、表面に金などの貴金属層を形成する方法としては、例えば蒸着、スパッタリング等の気相めっき法や、電気めっき、無電解めっき等にて形成することができる。
【0040】
上記基材表面に、上述した熱伝導性シリコーン組成物を塗着して加熱硬化させることにより、基材に熱伝導性シリコーン組成物の硬化物を積層させることができる。
【0041】
図1は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を硬化させることによって得られる半導体装置の一実施形態を示す縦断面図であり、図中、1は表面に金が蒸着された半導体素子(金蒸着された金属シリコン)を示す。この半導体素子1の金蒸着面上に熱伝導性シリコーン組成物膜2が形成されている。この熱伝導性シリコーン組成物膜2は、上記半導体素子1とヒートスプレッダー(放熱体)3との間に介在され、ヒートスプレッダーにより押圧されている。上記加熱条件において加熱することで熱伝導性シリコーン組成物2を硬化させ、これにより半導体装置10は完成する。なお、図中4は基板、5は半田、6はアンダーフィル剤である。
【実施例】
【0042】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
まず以下の組成物及び基板を用意した。
[調製例1]
<熱伝導性シリコーン組成物A>
両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン100gに、平均粒径4.9μmのアルミニウム粉末800g、平均粒径1.0μmの酸化亜鉛粉末を200g、更にカップリング剤であるC1021Si(OCH33を6g、及び下記式(2)のSi−H基含有のオルガノポリシロキサンを11.7g加え、5リッタープラネタリーミキサーにて70℃で1時間加熱攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、パーオキサイドとして日本油脂(株)製の商品名パーヘキサCを2.2g(10時間半減期温度:90.7℃、熱伝導性シリコーン組成物中約0.2質量%に相当する量)添加し、室温で15分間攪拌混合して、熱伝導性シリコーン組成物Aを得た。
【化1】

【0044】
[調製例2]
<熱伝導性シリコーン組成物B>
使用したパーオキサイドを日本油脂(株)製の商品名パーブチルI(10時間半減期温度:98.7℃)に変えた以外は全て調製例1と同じ方法で製造を行い、熱伝導性シリコーン組成物Bを得た。
【0045】
[調製例3]
<熱伝導性シリコーン組成物C>
使用したパーオキサイドを日本油脂(株)製の商品名パーブチルC(10時間半減期温度:119.5℃)に変えた以外は全て調製例1と同じ方法で製造を行い、熱伝導性シリコーン組成物Cを得た。
【0046】
[調製例4]
<熱伝導性シリコーン組成物D>
パーオキサイドの添加量を1.1g(熱伝導性シリコーン組成物中約0.1質量%に相当する量)にした以外は全て調製例1と同じ方法で製造を行い、熱伝導性シリコーン組成物Dを得た。
【0047】
[調製例5]
<熱伝導性シリコーン組成物E>
使用したパーオキサイドを日本油脂(株)製の商品名パークミルP(10時間半減期温度;145.1℃)に変えた以外は全て調製例1と同じ方法で製造を行い、熱伝導性シリコーン組成物Eを得た。
【0048】
[調製例6]
<熱伝導性シリコーン組成物F>
両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン100gに、平均粒径4.9μmのアルミニウム粉末800g、平均粒径1.0μmの酸化亜鉛粉末を200g、更にカップリング剤であるC1021Si(OCH33を6g加え、5リッタープラネタリーミキサーにて70℃で1時間加熱攪拌を行った。冷却後、1−エチニル−1−シクロヘキサノールの50質量%トルエン溶液を0.45g加え、更に白金−ビニルシロキサン錯体の0.5質量%トルエン溶液を0.2g、上記式(2)のSi−H基含有オルガノポリシロキサン11.7gをそれぞれ攪拌しながら順次加えていき、熱伝導性シリコーン組成物Fを得た(熱伝導性シリコーン組成物Fはパーオキサイドを含まない)。
【0049】
<シリコンウェハー>
10mm角のシリコンウェハーの片面に金を蒸着させたシリコンウェハーAを用意した。ULVAC社製の触針式表面形状測定器にて蒸着した金の膜厚を測定したところ0.15μmであった。
<ニッケル板>
25mm×100mmの鉄表面にニッケルコートしたニッケル板を用意した((株)テストピース製)。
【0050】
接着力及び厚さの測定は下記方法により行った。
〔接着力測定方法〕
図2に示すように、25mm×100mmの鉄表面にニッケルをコートしたニッケル板21((株)テストピース製)を用意し、このニッケル板21と金薄膜を形成したシリコンウェハー23との間に、金薄膜側が熱伝導性シリコーン組成物22と接するように挟み込んだ。この積層物21、22、23をオーブンに装入して下記温度及び時間で熱伝導性シリコーン組成物22を加熱硬化させ、テストピースを作製した。シリコンウェハー23の横方向からプローブ24で負荷を与え、破壊荷重を測定し、この値を接着力とした。接着力の測定機は、(株)レスカのボンディングテスターPTR−1000を用いた。なお、試験結果は3回行った結果の平均値を記載した。接着力を測ることで熱伝導性シリコーン組成物が硬化したか判断できる。20N以上を合格品とした。硬化しない場合、接着力はきわめて低くなる(10N以下程度)。
【0051】
〔熱伝導性シリコーン組成物硬化後の厚み測定〕
予め、シリコンウェハーA及びニッケル板を、(株)ミツトヨ製のマイクロゲージ(型番:MDE−25MJ)にて厚みを測定し、熱伝導性シリコーン組成物硬化後、全厚みを測定することで熱伝導性シリコーン組成物の厚みを算出した。
【0052】
[実施例1]
シリコンウェハーAの金蒸着面とニッケル板の間に熱伝導性シリコーン組成物Aを挟み込み、150℃のオーブンに60分間放置し、熱伝導性シリコーン組成物Aを硬化させた。熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ25μmであった。硬化後の接着力を測定したところ、接着力は43Nであった。
【0053】
[実施例2]
熱伝導性シリコーン組成物Aを熱伝導性シリコーン組成物Bに変えた以外は全て実施例1と同じにして硬化後の接着力を測定したところ39Nであった。このとき、熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ33μmであった。
【0054】
[実施例3]
熱伝導性シリコーン組成物Aを熱伝導性シリコーン組成物Cに変えた以外は全て実施例1と同じにして硬化後の接着力を測定したところ35Nであった。このとき、熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ36μmであった。
【0055】
[実施例4]
熱伝導性シリコーン組成物Aを熱伝導性シリコーン組成物Dに変えた以外は全て実施例1と同じにして硬化後の接着力を測定したところ32Nであった。このとき、熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ32μmであった。
【0056】
[比較例1]
熱伝導性シリコーン組成物Aを熱伝導性シリコーン組成物Eに変えた以外は全て実施例1と同じにして硬化後の接着力を測定したところ9Nであった。このとき、熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ31μmであった。
【0057】
[比較例2]
熱伝導性シリコーン組成物Aを熱伝導性シリコーン組成物Fに変えた以外は全て実施例1と同じにして硬化後の接着力を測定したところ5Nであった。このとき、熱伝導性シリコーン組成物の厚みを測定したところ29μmであった。
【符号の説明】
【0058】
1 表面に金が蒸着された半導体素子
2 熱伝導性シリコーン組成物膜
3 ヒートスプレッダー
4 基板
5 半田
6 アンダーフィル剤
10 半導体装置
21 ニッケル板
22 熱伝導性シリコーン組成物
23 シリコンウェハー
24 プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面上に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を形成してなるシリコーン構造体を製造する方法において、熱伝導性シリコーン組成物の硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを用いたことを特徴とするシリコーン構造体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面と放熱部材との間に熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜を介在させてなるシリコーン構造体を製造する方法において、熱伝導性シリコーン組成物の硬化剤として10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを用いたことを特徴とするシリコーン構造体の製造方法。
【請求項3】
熱伝導性シリコーン組成物が、
(A)成分:ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン;100質量部、
(B)成分:熱伝導性充填剤、
(C)成分:10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイド;組成物全体の0.05〜0.5質量%
を含有するものである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
熱伝導性シリコーン組成物が、
更に、(D)成分:ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
を含有する請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜の厚さが、20〜500μmである請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
上記基材が、表面に金の蒸着層を有する金属シリコンである請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
少なくとも表面に貴金属層を有する基材の該表面と放熱部材との間に、10時間半減期温度が80℃以上130℃未満のパーオキサイドを硬化剤とする熱伝導性シリコーン組成物の硬化膜が介在してなることを特徴とする半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−96361(P2012−96361A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243249(P2010−243249)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】