説明

シリコーン樹脂で封止された光半導体装置

【課題】リードの変色が無く且つ耐熱衝撃性に優れた、シリコーン樹脂で封止された光半導体装置を提供する。
【解決手段】光半導体素子10と、リード21a、21b、光半導体素子を載置するパッケージ20と、光半導体素子を封止するシリコーン樹脂組成物の硬化物30を備える光半導体装置であって、該硬化物の固体29Si−DD/MAS分析から求められる(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基を表す)の量が、0.13モル/100g〜0.37モル/100gである、光半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂の硬化物で封止された光半導体素子を備える光半導体装置、特に発光ダイオード(LED)装置、に関し、詳細には該シリコーン樹脂硬化物が所定量の(ΦSiO3/2)単位(ここでΦはフェニル基を表す)を含むことによって、リード表面の変色が無く且つ耐熱衝撃性に優れた光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体装置は、銀若しくは銀含有合金からなるリードまたは鉄、銅等からなる基体の表面に銀メッキが施されてなるリード上に、ダイボンド剤等の接着剤を介して載置された光半導体素子を備える。光半導体素子を外界から保護するためのコート材もしくは封止材として、シリコーン樹脂組成物、特に付加硬化型シリコーンゴム組成物が、耐候性、耐熱性、硬度、伸び等のゴム的性質に優れた硬化物を形成することから、使用されている(特許文献1、2)。ところが、近年、環境中の腐食性ガスがこれらの封止材を通って侵入することによるリードの変色が問題となっている。
【0003】
一般に、シリコーン樹脂は、ガス透過性が高い。そこで、上記変色の問題を解決する方法として、シリコーン樹脂に代えてガス透過性の低いエポキシ樹脂や、シリコーン樹脂であっても硬質の物を使用することが考えられる。しかし、これらの樹脂の硬化物は硬くてクラックの発生が起こり易く、半導体装置の耐熱衝撃性を損ない兼ねないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−339482号公報
【特許文献2】特開2005−76003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明はリードの変色が無く且つ耐熱衝撃性に優れた、シリコーン樹脂で封止された光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、封止樹脂硬化物が所定量の(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基である)を含むことによって、上記課題を解決することを見出した。即ち本発明は、光半導体素子と、該光半導体素子を封止するシリコーン樹脂組成物の硬化物を備える光半導体装置であって、該硬化物の固体29Si−DD/MAS分析から求められる(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基を表す)の量が、0.13モル/100g〜0.37モル/100gである、光半導体装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光半導体装置は、所定量の(ΦSiO3/2)単位を備える硬化物で封止されているので、リードの変色が無いだけでなく、且つ耐熱衝撃性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の光半導体装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示した光半導体装置の概略平面図である。
【図3】図2においてX−X線に沿う、該光半導体装置の概略断面図である。
【図4】固体29Si−DD/MASのNMRスペクトルチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光半導体装置の一例を、図面を参照して説明する。図1は、光半導体装置の一例を示す概略斜視図であり、図2は概略平面図である。図3は、図2の光半導体装置をX−X線に沿って切断した概略断面図である。光半導体装置は、光半導体素子10と、光半導体素子10を載置するパッケージ20と、光半導体素子10を覆う封止部材30と、を有する。パッケージ20には導電性を有するリード21(具体的には、4つのリード21a、21b、21c及び21d)が備えられている。パッケージ20は底面と側面を有するカップ形状の凹部を有しており、その底面にリード21の表面が露出している。リード21は銀若しくは銀を含有した合金からなるか、または鉄、銅等からなる基体の表面に銀メッキが施されてなる。光半導体素子10はダイボンド部材40(薄層であるので図3では略)を介してリード21aに接合されており、またワイヤ50aを介して別のリード21cに接合され、ワイヤ50bを介してリード21dに接合されている。別のリード21bにツェナーなどの保護素子11を載置してもよい。前記凹部を満たして、所定量の(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基である)を含む封止部材30が備えられている。封止部材30は光半導体素子10からの光を吸収し及び波長を変換する蛍光物質60を含有していても良い。
【0010】
光半導体素子10としては、窒化ガリウム(GaN)系半導体からなる青色発光のLEDチップや、紫外発光のLEDチップ、レーザダイオードなどが用いられる。その他、例えば、MOCVD法等によって基板上にInN、AlN、InGaN、AlGaN、InGaAlN等の窒化物半導体を発光層として形成させたものも使用できる。フェースアップ実装される光半導体素子や、フリップチップ実装される光半導体素子のいずれも使用することができる。また図1〜3の光半導体素子10は、同一平面上にn側電極とp側電極を持つ光半導体素子の例であるが、一方の面にn側電極、反対の面にp側電極を持つ光半導体素子も使用することができる。
【0011】
パッケージ20としてはリード21が一体成型されているもの、及びパッケージを成型した後にメッキなどにより回路配線としてリード21を設けたものを用いることができる。パッケージ20の凹部の底の形状は、平板状など種々の形態を採ることができる。パッケージを構成する樹脂としては、耐光性、耐熱性に優れた電気絶縁性のものが好適に用いられ、例えばポリフタルアミドなどの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ガラスエポキシ、セラミックスなどを用いることができる。また、光半導体素子10からの光を効率よく反射させるためにこれらの樹脂に酸化チタンなどの白色顔料などを混合させることができる。パッケージの成形法としては、前記リードを予め金型内に設置して行うインサート成形、射出成形、押出成形、トランスファ成型などを用いることができる。
【0012】
リード21は、光半導体素子と電気的に接続され、例えば、パッケージにインサートされた板状のリードや、ガラスエポキシやセラミックなどの基板に形成された導電パターンであってよい。リードの材質は、銀若しくは銀を含有した合金の他、銅や鉄などを主成分とするリードの一部上に銀若しくは銀を含有した合金がメッキされているものを用いることができる。
【0013】
封止部材30は、蛍光物質及び光拡散材などを含有してもよい。蛍光物質としては、光半導体素子からの光を吸収して蛍光を発することにより波長を変換するものであればよく、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体または酸窒化物系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩蛍光体、アルカリ土類硫化物蛍光体、アルカリ土類チオガレート蛍光体、アルカリ土類窒化ケイ素蛍光体、ゲルマン酸塩蛍光体、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される希土類アルミン酸塩蛍光体、希土類ケイ酸塩蛍光体、又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくとも1以上であることが好ましい。より好ましくは、(Y,Gd)(Al,Ga)12:Ce、(Ca,Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)Si:Eu、CaAlSiN:Euなどが使用される。
【0014】
封止部材30は、光半導体素子10からの光を効率よく外部に透過させると共に、外力、埃などから光半導体素子やワイヤなどを保護する作用を有する。これらの作用に加えて、本発明における封止部材30は、腐食性のガスの装置内への侵入を防ぐ。これにより、リードの銀が腐食してその光反射効率が低下することが防止される。該封止部材は、シリコーン樹脂組成物の硬化物からなり、該硬化物の固体29Si−DD/MAS分析から求められる(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基である)の量が、0.13モル/100g〜0.37モル/100g、好ましくは0.17モル/100g〜0.25モル/100gである。(ΦSiO3/2)単位、以下「T−Φ単位」という、の量が、前記下限値未満では、リードの変色を抑制する効果が不十分であり、一方、前記上限値を超えては、耐熱衝撃性に劣る傾向がある。
【0015】
本発明においては、T−Φ単位量(モル/100g)次のようにして求めた。
固体29Si−DD/MAS(Dipolar Decoupling/Magic Angle Spinning)は、核磁気共鳴装置(AVANCE700、ブルカー社製)を用い、固体試料(シリコーン硬化物)約100mgを外径4mmのジルコニア製ローターにつめ、9000Hzで回転させながら、30度パルスを30秒間隔で照射して、約1,000回積算して測定した。得られた29Si−DD/MASスペクトルの一例を図4に示す。こうして得られた29Si−DD/MASスペクトルから、試料を構成する全種のシロキサン単位の種類毎に含まれるケイ素原子の割合を、モル%で求めた。このケイ素原子の割合は当該種類のシロキサン単位の割合(モル%)と同じである。同様にして、すべての種類のシロキサン単位の割合(モル%)を求めた。次に、求めたおのおのの種類のシロキサン単位のモル%に、そのシロキサン単位の式量[例えばT−Φ単位であれば130(=29+77+16×3/2)]を乗じることにより、その種のシロキサン単位の質量基準の割合を求めた。次に、全種のシロキサン単位について求めた質量割合の和でT−Φ単位のモル%を除し、さらに100を乗じて、T−Φ単位量(モル/100g)を算出した。下表1に示すように、原料中の濃度からTΦ単位の理論量が既知の硬化物を4種類測定し、ほぼ理論量通りの結果が得られることが確認された。
【0016】
【表1】

【0017】
本発明の範囲のT−Φ単位量は、例えば、下記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物を用いることによって、実現することができる。以下、各成分について説明する。
【0018】
(A)成分は、(A−1)下記平均組成式(1)で表される脂肪族不飽和基含有シリコーンレジンと、

(OX)SiO(4−a−b−c−d)/2 (1)

(Rは独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はシクロヘキシル基、好ましくはメチル基であり、Rはフェニル基であり、Rは脂肪族不飽和基であり、Xは水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基、但し(OX)はその酸素原子を介してケイ素に結合されており、aは0.4〜1.6、bは1.6〜3.6、cは0.4〜0.8、dは0〜0.05であり、0<a+b+c+d<4である。)
(A−2)下記式(2)で示される、25℃における粘度が10〜500,000mPa・sである直鎖状の両末端に脂肪族不飽和基を有するオルガノポリシロキサンからなる。
【0019】
【化1】

【0020】
(R及びRは夫々に独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であり、Rはビニル又はアリル基であり、k、lは、夫々、0〜1,000の整数、但し、k+lが10〜1,000で、(l/k+l≦0.5であり、xは、1〜3の整数である。)
【0021】
(A−1)を表す式(1)において、Rは好ましくはメチル基であり、Rは例えばビニル基又はアリル基を示し、Xは水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基(即ち、このとき、OXはアルコキシ基)である。炭素原子数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0022】
式(1)において、bが前記下限値未満ではリードの腐食を防ぐ効果が十分ではなく、一方、前記上限値を超えては、硬化物の耐熱衝撃性が劣る場合がある。また、cが上記範囲の下限未満であると、硬化性が不十分になり、一方、上記範囲の上限を超えると、粘度が調整しにくいという問題があり好ましくない。dが前記上限値を超えては、硬化物表面にタック性が出るので好ましくない。
【0023】
また、この(A−1)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量が500〜100,000、特に1,000〜10,000の範囲にあることが、組成物の粘度の点から好適である。
【0024】
このようなレジン構造のオルガノポリシロキサンは、それを構成する各シロキサン単位の原料となるクロロシラン化合物又はアルコキシシラン化合物を、所要のモル比となるように組み合わせ、例えば酸の存在下で共加水分解縮合を行うことによって合成することができる。
【0025】
(RSiO3/2)単位、即ち、T単位の原料としては、MeSiCl3、EtSiCl3、PhSiCl3、プロピルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン等のクロロシラン類、これらそれぞれのクロロシラン類に対応するメトキシシラン類などのアルコキシシラン類などを例示できる。
【0026】
また、他の単位の原料としては、Me2ViSiCl、MeViSiCl2、Ph2ViSiCl、PhViSiCl2等のクロロシラン類、これらのクロロシランのそれぞれに対応するメトキシシラン類等のアルコキシシラン類などを例示することができる。
【0027】
(A−2)成分を表す上記式(2)のオルガノポリシロキサンとしては、下記のものを例示することができる。
【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
(上記各式において、k及びlは各々0〜1,000の整数で、かつ10≦k+l≦1,000、好ましくは90≦k+l≦800を満足し、さらに0≦l/(k+l)≦0.5を満足する整数である。)
【0034】
(A−1)と(A−2)の質量比は、20:80〜80:20、好ましくは40:60〜70:30である。
【0035】
(B)成分は、下記式(3)で示される、(B−1)直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、後述する(B−2)分岐状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの混合物である。
【0036】
【化7】

【0037】
(Rは夫々に独立にメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であり、p、qは、夫々、0〜100の整数、x及びyは独立に0、1、2又は3であり、但し、p+qが3以上であり、x+y+pは2以上の整数である。)
【0038】
該直鎖のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは3〜10個のケイ素原子結合水素原子を有するものである。一分子中のケイ素原子数(即ち、重合度)は5〜500であることが好ましく、より好ましくは5〜300である。かかる該直鎖のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記のものが挙げられる。
【0039】
【化8】

【0040】
(但し、n=1〜100の整数)
【0041】
【化9】

【0042】
(但し、m=1〜100の整数、n=1〜100の整数)
【0043】
【化10】

【0044】
(Phはフェニル基を表す)
【0045】
(B−2)分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に少なくとも1個の分岐、好ましくは1〜20個の分岐を有するとともに、少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは3〜10個のケイ素原子結合水素原子を有するものである。分岐はいわゆるT単位及び/又はQ単位により形成される。分子全体の構造は分岐した鎖状でも環状でもよいし、それらの組み合わせであってもよい。一分子中のケイ素原子数(即ち、重合度)は3〜100であることが好ましく、より好ましくは3〜10である。かかる(B−2)成分としては、下記のものが挙げられる。
【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】


【0051】
(B−1)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン/(B−2)分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの質量比は、70/30〜98/2、好ましくは90/10〜97/3である。該比が小さすぎるとリードの変色防止効果が十分ではなく、該比が大きすぎると硬化物にタック性(べたつき)が出る場合がある。
【0052】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、それが有するケイ素原子結合水素原子が、(A)成分中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、0.5〜4.0、さらには0.7〜2.0であることが好ましい。
【0053】
(C)成分は、(A)成分と(B)成分の付加硬化反応を促進させるために配合される白金族金属系触媒である。該触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがあり、コスト等の見地から白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・mH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・mH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・mH2O,PtO2・mH2O(ここで、mは1以上の整数)、及び、これらとオレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらの触媒は一種単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0054】
(C)成分の配合量は、硬化のための有効量でよく、通常、前記(A)、(B)、成分の合計量に対して白金族金属として質量換算で0.1〜500ppm、特に好ましくは0.5〜100ppmの範囲である。
【0055】
上述した(A)〜(C)成分以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲の量で、公知の各種の添加剤、例えば無機充填剤、接着助剤、硬化抑制剤等、を配合してよい。
【0056】
無機充填剤としては、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機充填剤、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤等を挙げることができる。これらの無機充填剤は、合計で、(A)〜(C)成分の合計量100質量部当り0〜600質量部の範囲で適宜配合することができる。
【0057】
但し、硬化物に透明性が求められる場合には、透明性を阻害しない範囲で、アエロジルのような超微細シリカ等を用いることが好ましい。硬化後のシリコーン樹脂組成物と同じ屈折率を備える無機質充填剤は、機械強度の向上や膨張係数を調整するため適宜配合することが出来る。
【0058】
接着助剤としては、例えば、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)、ケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばSi−CH=CH2基)、アルコキシシリル基(例えばトリメトキシシリル基)、エポキシ基(例えばグリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基)から選ばれる官能性基を少なくとも2種、好ましくは2種又は3種含有する直鎖状又は環状のケイ素原子数4〜50個、好ましくは4〜20個程度のオルガノシロキサンオリゴマー、下記一般式(4)で示されるオルガノオキシシリル変性イソシアヌレート化合物及び/又はその加水分解縮合物(オルガノシロキサン変性イソシアヌレート化合物)などが挙げられる。
【0059】
【化15】

【0060】
〔式中、Rは、下記式(5)で表される有機基、
【0061】
【化16】

【0062】
(ここで、Rは水素原子又は炭素原子数1〜6の一価炭化水素基であり、vは1〜6、特に1〜4の整数である。)
又は、脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基であるが、Rの少なくとも1個は式(5)の有機基である。〕
【0063】
脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6のアルケニル基、シクロヘキセニル基等の炭素原子数6〜8のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、式(5)におけるRの一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、上記Rについて例示したアルケニル基及びシクロアルケニル基、さらにフェニル基等のアリール基などの炭素原子数1〜8、特に1〜6の一価炭化水素基が挙げられ、好ましくはアルキル基である。
【0064】
さらに、接着助剤としては、1−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5−グリシドキシプロピル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1−グリシドキシプロピル−5−トリメトキシシリルエチル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン及び下記式に示されるものが例示される。
【0065】
【化17】

【0066】
(式中、g及びhは、夫々独立に、0〜100の範囲の整数であって、且つ、g+hが2〜50、好ましくは4〜20を満足するものである。)
【0067】
【化18】

【0068】
【化19】

【0069】
上記の有機ケイ素化合物の内、得られる硬化物に特に良好な接着性をもたらす点で、一分子中にケイ素原子結合アルコキシ基と、アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子(SiH基)とを有するものが好ましい。
【0070】
接着助剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、通常10質量部以下、好ましくは0.1〜8質量部、より好ましくは0.2〜5質量部程度配合することができる。多すぎると硬化物の硬度に悪影響を及ぼし、又、硬化物表面のタック性を高める恐れがある。
【0071】
硬化抑制剤は組成物を常温で保存性良く液状に保つために使用される。該硬化抑制剤としては、例えば、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンのようなビニル基高含有オルガノポリシロキサン、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシラン変性物及びシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイト、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール、並びにこれらの混合物が挙げられる。硬化抑制剤は(A)成分100質量部当り通常0.001〜1.0質量部、好ましくは0.005〜0.5質量部添加される。
【0072】
上記シリコーン樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することによって調製される。通常は、硬化が進行しないように、(A)成分と(B)成分が2液に分けて保存され、使用時に2液を混合して硬化を行う。硬化抑制剤を少量添加して1液として調製することもできる。この組成物は、常温で硬化するようにすることもできるが、通常は硬化抑制剤により常温での硬化を抑制し、必要な時に加熱することにより直ちに硬化するように調製される。
【0073】
この組成物を用いて、例えば、ディスペンスにて塗布し、光半導体素子にコートすることができる。二液タイプで保管し使用したほうが取り扱い上生産性を上げることが出来る。混合は使用前にミキサーやスクリューミキサーなどの混合装置を用い、直接混合したものを成形装置に注入し成形する。なお、硬化条件は特に制限されるものではないが、シリコーン樹脂組成物の硬化性にもよるが、40℃〜180℃の温度で30秒〜4時間程度で硬化させることが出来る。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明を説明する。
[合成例1](A−1)成分の合成
フェニルトリクロロシラン148.1g(70mol%)、およびジメチルビニルクロロシラン36.15g(30mol%)の混合物を、80℃に加熱した水250g及びトルエン100gの混合溶媒中に攪拌しながら1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間還流させることにより共加水分解縮合物のトルエン溶液を得た。この溶液を静置して室温まで冷却し水層を除去した後、トルエン層の水洗の洗浄廃水が中性になるまで行った。得られたオルガノポリシロキサンのトルエン溶液(有機層1)にKOHを当量でクロル分の20倍量加え2時間還流した。反応後、トリメチルクロロシランで中和し、水洗をトルエン層が中性になるまで行なった(有機層2)。有機層2を、無水芒硝を用いて脱水した後、ろ過して不純物を除去した。得られたろ液からトルエンを除去(減圧下)し、固形状のレジン(以下、樹脂A−1aという)が得られた。
【0075】
[合成例2](A−1)成分の合成
フェニルトリクロロシラン116.3g(55mol%)、ジメチルジクロロシラン19.35g(15mol%)およびメチルビニルジクロロシラン42.3g(30mol%)の混合物を、80℃に加熱した水250g及びトルエン100gの混合溶媒中に攪拌しながら1時間かけて滴下した。滴下終了後2時間還流させることにより共加水分解縮合物のトルエン溶液を得た。この溶液を静置して室温まで冷却し水層を除去した後、トルエン層の水洗の洗浄廃水が中性になるまで行った。得られたオルガノポリシロキサンのトルエン溶液(有機層1)にKOHを当量でクロル分の20倍量加え2時間還流した。反応後、トリメチルクロロシランで中和し、水洗をトルエン層が中性になるまで行なった(有機層2)。有機層2を、無水芒硝を用いて脱水した後、ろ過して不純物を除去した。得られたろ液からトルエンを除去(減圧下)し、固形状のレジン(以下、樹脂A−1bという)が得られた。
【0076】
[合成例3]接着助剤の合成
3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学製、KBM−402)67.7g、ジメトキシジメチルシラン370g、ビニルメチルジメトキシシラン20g、イソプロピルアルコール3,000mlを仕込んだ後、水酸化テトラメチルアンモニウムの25%水溶液25g、水270gを添加し、室温で3時間攪拌した。反応終了後、系内にトルエン1,000mlいれ、リン酸二水素ナトリウム水溶液で中和した。分液漏斗を用いて、残渣を熱水にて洗浄した。減圧下トルエンを除去して目的の接着助剤を得た。
【0077】
[比較例1]
合成例2のビニル基含有樹脂(樹脂A−1b)23g、下記の(6)で示され、25℃での粘度が4,000mPa・sである直鎖状ビニルシロキサン70gと、
【0078】
【化20】

【0079】
下記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン11.8gと、
【0080】
【化21】

【0081】
下記式(8)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン3gと、
【0082】
【化22】

【0083】
反応抑制剤としてアセチレンアルコール系化合物のエチニルシクロヘキサノール0.2g、及び塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金触媒)0.1gを、60℃に加温したプラネタリーミキサーでよく撹拌し、比較組成物1を調製した。該比較組成物を、テフロンコートをした深さ2mm幅17cm横13cmの金型に流し込み 150℃で4時間硬化させて硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び上記直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、1.9であった。
【0084】
[実施例1]
樹脂(A−1b)の量を31gに、上記の式(6)で示される直鎖状ビニルシロキサンの量を36gに、上記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を14.1gに、それぞれ変えた以外は、比較例1と同様にして組成物1を得た。該組成物1を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、1.5であった。
【0085】
[実施例2]
樹脂(A−1b)の代わりに合成例1のビニル基含有樹脂(樹脂A−1a)100gを使用し、そして、上記の式(6)で示される直鎖状ビニルシロキサンの量を100gに、上記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を79gに、それぞれ変えた以外は、比較例1と同様にして組成物2を得た。該組成物2を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、2.4であった。
【0086】
[実施例3]
樹脂(A−1b)の代わりに合成例1の樹脂(A−1a)60gを使用し、そして、上記の式(6)で示される直鎖状ビニルシロキサンの量を40gに、上記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を32.4gに、上記式(8)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を2.3gに変えた以外は、比較例1と同様にして組成物3を得た。該組成物3を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、1.7であった。
【0087】
[実施例4]
樹脂(A−1b)の代わりに合成例1の樹脂(A−1a)71.4gを使用し、そして、上記の式(6)で示される直鎖状ビニルシロキサンの量を30gに変更し、上記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を43.2gに変更し、上記式(8)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を1.5gに、それぞれ変えた以外は、比較例1と同様にして組成物4を得た。該組成物4を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、2.0であった。
【0088】
[実施例5]
樹脂(A−1b)の代わりに合成例1の樹脂(A−1a)76.9gを使用し、そして、上記の式(6)で示される直鎖状ビニルシロキサンの量を40gに、上記式(7)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を34.44gに、上記式(8)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を1.5gに、それぞれ変えた以外は、比較例1と同様にして組成物5を得た。該組成物5を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、1.5であった。
【0089】
[比較例2]
樹脂(A−1b)の代わりに合成例1の樹脂(A−1a)40.1gを使用し、そして上記の式(8)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの量を15.2gに変更した以外は、比較例1と同様にして比較組成物2を得た。該比較組成物2を比較例1と同様に加熱して硬化物を得た。なお、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子は、上記ビニル基含有樹脂及び直鎖状ビニルシロキサン中の脂肪族不飽和基に対して、モル基準で、1.2であった。
【0090】
実施例及び比較例の各組成物及びその硬化物について次の測定を行った。結果を表2に示す。
1)組成物の粘度(25℃)
BL型回転粘度計により測定した。
【0091】
2)硬化物の機械的物性
JIS K 6301に準拠し、引張強度(0.2mm厚)、硬度(タイプA型スプリング試験機を用いて測定)及び伸び率(0.2mm厚)を測定した。
【0092】
3)T−φ単位量の測定
核磁気共鳴装置(AVANCE700、ブルカー社製)を用い、硬化物から削り取った試料約100mgを外径4mmのジルコニア製ローターにつめ、9,000Hzで回転させながら、30度パルスを30秒間隔で照射して、約1,000回積算して固体29Si−DD/MAS測定を行なった。
【0093】
4)半導体装置リフロー試験
リフロー炉に半導体装置を通過させてクラックの有無を調べるリフロー試験を行った。半導体装置のパッケージとして、型番NSSW108(日亜化学工業株式会社製)を使用した。パッケージの凹部内の、リードフレーム上に光半導体素子がダイボンド剤により載置されており、ワイヤによって電極に接続されている。該凹部に各組成物を注入し、150℃/4時間の条件で硬化して、光半導体素子及びワイヤを封止した。こうして得られた半導体装置10個を、最高温度260℃のIRリフロー炉を通した後に、クラックの発生を光学顕微鏡(倍率×10)にて観察した。表2において、○はクラックが認められなかったことを、×はクラックが認められたことを示す。
【0094】
5)リードの変色試験
上記4)と同様に作製した10個の装置を、密閉容器内で25℃、HSガス0.1ppm雰囲気下で1ヶ月間保管したのち、光度を測定し、装置作成直後の光度を100%として光度の維持率を求めた。該維持率が高いほど、変色がないことを示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2に示すように、所定のT−φ量の封止材を備える実施例1〜5の装置は、光度の維持率が90%以上であり且つリフロー試験においてもクラックが発生することなく、良好なガスバリア性及び耐リフロー性を示した。これに対して、封止材のT−φ量が低過ぎると比較例1の装置は、リードの腐食により光度の維持率が低く、一方、T−φ量が高過ぎると比較例2の装置は、リフロー試験においてクラックが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る光半導体装置は、光度の維持が要求される各種用途、例えば液晶ディスプレイ、携帯電話または情報端末等のバックライト、LEDディスプレイ、及び屋内外照明などに利用することができる。また、本発明で用いられるシリコーン樹脂封止材は、LEDやレーザダイオードのような発光素子だけでなく、腐食防止が要求される受光素子、LSIやICなど光半導体素子以外の半導体素子の封止にも利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
10 光半導体素子
11 保護素子
20 パッケージ
21 リード
30 封止部材
40 ダイボンド部材
50 ワイヤ
60 蛍光物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体素子と、該光半導体素子を封止するシリコーン樹脂組成物の硬化物を備える光半導体装置であって、該硬化物の固体29Si−DD/MAS分析から求められる(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基を表す)の量が、0.13モル/100g〜0.37モル/100gである、光半導体装置。
【請求項2】
(ΦSiO3/2)単位(但しΦはフェニル基を表す)の量が、0.17モル/100g〜0.25モル/100gである、請求項1記載の光半導体装置。
【請求項3】
前記光半導体素子が、発光ダイオードである、請求項1または2記載の光半導体装置。
【請求項4】
前記シリコーン樹脂組成物が、
(A)(A−1)下記平均組成式(1):
(OX)SiO(4−a−b−c−d)/2 (1)

(Rは独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はシクロヘキシル基であり、Rはフェニル基であり、Rは脂肪族不飽和基であり、Xは水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基、但し(OX)はその酸素原子を介してケイ素に結合されており、aは0.4〜1.6、bは1.6〜3.6、cは0.4〜0.8、dは0〜0.05であり、0<a+b+c+d<4である。)
で表される脂肪族不飽和基含有シリコーンレジン、及び
(A−2)下記式(2):
【化1】

(R及びRは夫々に独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であり、Rはビニル又はアリル基であり、k、lは、夫々、0〜1,000の整数、但し、k+lが10〜1,000で、(l/k+l)≦0.5であり、xは、1〜3の整数である。)
で示される、25℃における粘度が10〜500,000mPa・sである直鎖状の両末端に脂肪族不飽和基を有するオルガノポリシロキサンからなる脂肪族不飽和基含有オルガノポリシロキサン、
(B)(B−1)下記式(3):


(Rは夫々に独立にメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であり、p、qは、夫々、0〜100の整数、x及びyは独立に0、1、2又は3であり、但し、p+qが3以上であり、x+y+pは2以上の整数である。)
で示される、直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び、
(B−2)分岐状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
からなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)白金族金属系触媒
を含むものである請求項1に記載の光半導体装置。
【請求項5】
前記組成物がさらに接着助剤を含む請求項4に記載の光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−226093(P2010−226093A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20606(P2010−20606)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】