説明

シリコーン樹脂組成物およびこれを用いたステアリング装置

【課題】ステアリング装置のブラケット17、コラムチューブ12および支軸38の摩擦部の音対策としてグリースをコーティングしている。使用されているうちに飛散や流出により摩擦面からグリースがなくなり、また、各部品の摩耗や塑性変形等により各部品間のがたが増えてくると、異音が発生してくる問題がある。
【解決手段】課題を解決するために、本発明は粘度が3000mm/S以下のシリコーン油と30重量%シリカを含み、摩擦係数が0.4から0.5であることを特徴とするコーティング用シリコーン樹脂組成物およびこれを用いた部品を使用するステアリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング被膜としてのシリコーン樹脂組成物およびこれを用いた部品を使用するステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリングコラムを車体に固定する場合は、構成部品であるブラケット、コラムチューブ、支軸間の摩擦部にはチルト操作をスムースにするため、また、各部品の摩耗や塑性変形等により各部品間のがたを防止するため潤滑剤としてグリースをコーティングしている。
【0003】
特許文献1には、従来固体潤滑被膜により潤滑性や耐スティックスリップ性を改良して、低摩擦化のコーティング被膜を実施されているが、耐摩耗性および耐久性のため、潤滑剤グリースが併用されている。
【0004】
また、特許文献2には、潤滑剤による対策として高粘度の潤滑剤グリースにより、耐久性を改良しているが、低温時の始動性や、高温時のグリースの流動性による、漏れによる耐久性の課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−114527号公報
【特許文献2】特開2007−238767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステアリング装置のブラケットにおけるチューブ、チルト支軸間の摩擦部(軸支部)で発生するスティックスリップによる音対策としてグリースをコーティングしている。しかし、使用されているうちに飛散や流出により摩擦面からグリースがなくなり、また、各部品の摩耗や塑性変形等により各部品間のがたが増えてくると、異音が発生してくる課題がある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、摩耗を起こしにくく、かつ異音が発生しにくく、グリースの不要な耐久性にすぐれたコーティング被膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、粘度が3000mm/S以下のシリコーン油と30重量%シリカと硬化触媒およびシリコーン樹脂とからなることを要旨としている。
【0009】
即ち、粘度が3000mm/S以下のシリコーン油と30重量%シリカと硬化触媒およびシリコーン樹脂で構成したので、潤滑成分が含まれているため、摩耗を起こしにくくかつ摩擦係数の変動が発生しない。
【0010】
請求項2に記載の発明は、シリコーン樹脂が3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる有機―無機ハイブリッド型シリコーン樹脂であり、摩擦係数が0.4〜0.5であることを要旨としている。
【0011】
即ち、シリコーン樹脂が3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる有機―無機ハイブリッド型シリコーン樹脂であり、摩擦係数が0.4〜0.5とすることで、摩擦係数を一定に保つことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、硬化触媒として、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物のいずれかを含むことを要旨としている。
即ち、硬化触媒として、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物のいずれかを含むことにより、加工時間の短い適正硬化物を得ることが出来る。
【0013】
請求項4に記載の発明は、シリコーン樹脂組成物をステアリングコラム部品であるブラケット、コラムチューブ、支軸間の摩擦部にコーティングしたことを要旨とする。
即ち、シリコーン樹脂組成物をステアリングコラム部品であるブラケット、コラムチューブ、支軸間の摩擦部にコーティングすることで、各部品の振動や荷重による相対運動を抑えて異音の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
摩耗を起こしにくく、かつ異音が発生しにくく、グリースの不要な耐久性にすぐれたコーティング被膜を提供できる。
また、コーティング被膜を行ったステアリング部品により、摺動速度や荷重条件に影響されないためスティックスリップの発生防止に効果があり、かつ、グリース等の特別の潤滑剤を使用せずに異音発生を防止できるため、耐久性がよい高品質のステアリング装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る位置調整式ステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1におけるII―II線に沿う位置調整式ステアリング装置の図解的な断面図である。
【図3】図2における矢視IIIから見た位置調整式ステアリング装置の一部の図解的な外観図である。
【図4】図2の一部を拡大した図である。
【図5】荷重変化時の摩擦係数の測定結果の図である。
【図6】摺動速度変化時の摩擦係数の測定結果の図である。
【符号の説明】
【0016】
1:位置調整式ステアリング装置、4:ステアリングシャフト(操舵軸)、11:アウターチュ−ブ、12:インナーチューブ、13:車体、17:コラム側ブラケット(インナーブラケット)、18:車体側ブラケット(アウターブラケット)、19:ロック機構、21:押圧部材、22:操作レバー、23:側板(インナーブラケットの側板)、30:側板(アウターブラケットの側板)、38:支軸、49:開口部、54:押圧部、X1:軸方向、Y1:周方向(インナーチューブの周方向)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る位置調整式ステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、位置調整式ステアリング装置1はステアリングホイール等の操舵部材2と、操舵部材2の操舵に連動して転舵輪(図示せず)を転舵するステアリング機構3とを備えている。ステアリング機構3としては、例えばラックアンドピニオン機構が用いられている。
【0018】
操舵部材2とステアリング機構3とは、ステアリングシャフト4および中間軸5等を介して機械的に連結されている。操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5等を介してステアリング機構3に伝達されるようになっている。また、ステアリング機構3に伝達された回転は、図示しないラック軸の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪が転舵される。
【0019】
ステアリングシャフト4は、例えばスプライン嵌合やセレーション嵌合によって相対摺動可能に嵌合された筒状のアッパーシャフト6およびロアーシャフト7を有している。操舵部材2は、アッパーシャフト6の上端部に連結されている。また、ステアリングシャフト4はその軸方向X1に伸縮可能である。ステアリングシャフト4は、筒状のステアリングコラム8の内周を挿通しており、複数の軸受9,10を介してステアリングコラム8に回転可能に支持されている。
【0020】
ステアリングコラム8は、相対摺動可能に嵌合されたアッパーチューブとしてのアウターチューブ11と、ロアーチューブとしてのインナーチューブ12とを有している。ステアリングコラム8は、その軸方向に伸縮可能である。アウターチューブ11は、軸受9を介してアッパーシャフト6を回転可能に支持するとともに、軸受9を介してステアリングシャフト4の軸方向X1に同行移動可能にアッパーシャフト6に連結されている。
【0021】
また、インナーチューブ12の外周には、車体13に固定された固定ブラケット14に、チルト用支軸15を介して回動可能に支持されたロア側ブラケット16が固定されている。
ステアリングコラム8およびステアリングシャフト4は、チルト用支持軸15を支点に回動可能となっている。チルト用支持軸15を支点にして、ステアリングシャフト4およびステアリングコラム8を軸方向X1に伸縮させることで、操舵部材2の高さを調整できるようになっている(いわゆるテレスコ調整)。
【0022】
アウターチューブ11にはコラム側ブラケット17が固定されており、このコラム側ブラケット17と車体13に固定された車体側ブラケット18とがロック機構19によって連結されることで、ステアリングコラム8の位置が車体13に対して固定され操舵部材2の位置が固定されるようになっている。本実施形態では、コラム側ブラケット17がインナーブラケットとして機能し、車体側ブラケット18がアウターブラケットとして機能する。
【0023】
また、ロック機構19は、カム状突起部20を有する押圧部材21を備えており、操作レバー22の操作によって押圧部材21が回動することで、インナーチューブ12がアウターチューブ11に押し付けられ、アウターチューブ11に対してインナーチューブ12が固定されるようになっている。
図2は、図1におけるII―II線に沿う位置調整式ステアリング装置1の図解的な断面図である。図3は図2における矢示IIIから見た位置調整式ステアリング装置1の一部の図解的な外観図である。
【0024】
図2を参照して、コラム側ブラケット17は、上向きに開放する溝形の部材であり、図2において、左右対称にされている。すなわち、コラム側ブラケット17は、図2における左右方向に相対向する一対の側版23と、この一対の側板の下端同士を連結する連結板24とを含む。各側板23と連結板24とは、それぞれ下側湾曲部25を介して連続的に連なっている。
【0025】
図2および図3を参照して、各側板23は、図3に示すように、概ね矩形状であり、その下端部には、軸方向X1に長手となるテレスコ用の長孔26が形成されている。ステアリングシャフト4およびステアリングコラム8は、この長孔26の軸方向長さの範囲で伸縮できるようになっている。図2に示すように、各側板23に形成された長孔26は、互いに対向している。
【0026】
また、図2に示すように、各側板23の上端部は、コラム側ブラケット17の内側に折り曲げられており、折り曲げ部27となっている。各側板23は、折り曲げ部27と主体部28とによって構成されている。各側板23は、その折り曲げ部27がアウターチューブ11の外周面に固定されている。また、折り曲げ部27と主体部28とは上側湾曲部29を介して連続的に連なっている。主体部28は、下側湾曲部25と上側湾曲部29との間に相当する部分である。(図3に示す二点鎖線L1と二点鎖線L2との間に相当する部分である)。
【0027】
図2および図3を参照して、車体側ブラケット18は、図2に示すように、下向きに開放する全体として溝形の部材であり、図2における左右方向に相対向する一対の側板30と、この一対の側板30の上端同士を連結する連結板31と、この連結板31の上面に固定され概ね上記左右方向に延びる板状の取付ステー32とを含む。ステアリングシャフト4、ステアリングコラム8およびコラム側ブラケット17は、図2において、車体側ブラケット18の一対の側板30の間に配置されている。また、車体側ブラケット18は、取付ステー32に連結された一対の取付体33を介して車体13に固定されている。
【0028】
各取付体33と取付ステー32とは、それぞれ取付ステー32を上下方向に貫通する破断可能な合成樹脂製のピン34によって連結されており、各取付体33は固定ボルト35によって車体13に固定されている。取付ステー32には、図3に示すように、その操舵部材2側の端部から軸方向X1に沿って延びる一対の切欠き36が形成されている。一対の固定ボルト35の頭部は、それぞれ、対応する切欠き36内に配置されている。
【0029】
また、各側板30は、図2に示すように、その内側面30bがコラム側ブラケット17の対応する側板23の外側面に対向しており、その下端部には、上下方向に長手となるチルト用の円弧状長孔37が形成されている。各側板30に形成された円弧状長孔37は、互いに対向している。また、図3に示すように、各側板30は、その円弧状長孔37が当該側板30に対応する側板23の長孔26に交差するように配置されている。図2に示すように、シリコーン樹脂組成物のコーティングをこのチルト用支軸38の外周面に形成されている。ロック機構19の一部であり開発材でコーティングされた支軸38は、テレスコ用の一対の長孔26およびチルト用の一対の円弧状長孔37を左右方向に挿通している。
【0030】
図2を参照して、ロック機構19は、図2における左右方向に車体側ブラケット18を挟持して当該車体側ブラケット18にコラム側ブラケット17を保持させるとともに、インナーチューブ12を押圧して、アウターチューブ11に対してインナーチューブ12を固定するためのものであり、上記支軸38と、この支軸の一端部に形成されたねじ部に螺合するナット39と、支軸38の外周に嵌合された環状のカム40および環状のカムフォロア41と、インナーチューブ12を押圧するための押圧部材21とを含む。
【0031】
カム40およびカムフォロワ41は支軸38の頭部38a側に配置されており、複数のカム突起が形成されたカム40の端部42およびカムフォロワ41の端部43は、互いに対向している。また、押圧部材21は、コラム側ブラケット17の一対の側板23の間において、支軸38の軸部38bの軸方向中間部に同行回転可能に連結されている。ナット39と押圧部材21との間には、ニードルベアリングやワッシャー等の介在部材44が介在している。
【0032】
介在部材44は、車体側ブラケット18の一方の側板30(図2において右側の側板30)の外側面30aに接触しており、当該外側面30aに接触する介在部材44の接触面44aは、図2においてほぼ鉛直な環状の面となっている。介在部材44の接触面44aは、車体側ブラケット18を挟持するための挟持面として機能する。カム40は、支軸38と同行回転可能に連結されており、操作レバー22の操作によって、支軸38がその中心軸の回りに回動すると、それに伴って回動するようになっている。カム40は、車体側ブラケット18の他方の側板30(図2において左側の側板30)と支軸38の頭部38aとの間に配置されている。
【0033】
また、カムフォロワ41は、支軸38の軸部38bの外周に相対回転可能に嵌合されている。カムフォロア41は、コラム側ブラケット17の一方の側板23(図2において左側の側板23)に形成された長孔26に係合することによって回動が規制されている。カムフォロワ41は、車体側ブラケット18の他方の側板30の外側面30aに接触しており、当該外側面30aに接触するカムフォロワ41の接触面41aは、図2においてほぼ鉛直な環状の面となっている。カムフォロワ41の接触面41aは、車体側ブラケット18を挟持するための挟持面として機能する。すなわち、本実施形態では、介在部材44の接触面44aとカムフォロワ41の接触面41aとが、車体側ブラケット18を挟持する一対の挟持面として機能する。
【0034】
また、図4に示すように、カム40およびカムフォロワ41の互いに対向する端部42、43の内周には、それぞれ、環状溝45、46が形成されている。この一対の環状溝45,46は互いに連通しており、一対の環状溝45,46と支軸38の軸部38bの外周との間には、環状の弾性部材47が介在している。弾性部材47としては、例えば、Oリングやゴム管、合成樹脂材等を用いることができる。
【0035】
弾性部材47は、カム40およびカムフォロワ41が噛み合っていない状態、または噛み合いが緩んだ状態において、カム40およびカムフォロワ41を支軸38の軸方向および径方向に付勢し、これらの部材40、41が振動しないようにしている。これにより、カム40およびカムフォロワ41の振動に起因する騒音の発生が防止されている。また、上記一対の環状溝45,46とチルト支軸38の軸部38bの外周との間に弾性部材47を配置することで、カム40とカムフォロワ41との噛み合いが阻害されないようになっている。
【0036】
図2を参照して、インナーチューブ12は、例えば金属製の金属製チューブ50と、この金属製チューブ50の外周に嵌合された例えば合成樹脂製の樹脂製チューブ51とを備えている。樹脂製チューブ51には、複数の凸部52がその周方向に間隔を隔てて形成されている。図示はしないが、この複数の凸部52は、樹脂製チューブ51の軸方向に間隔を隔てた複数の箇所に形成されている。なお、この凸部52は、金属製チューブ50に形成されていてもよい。
【0037】
また、押圧部材21は、筒状部48と、この筒状部48の軸方向中間部に突出形成されたカム状突起部20とを含む。押圧部材21は、支軸38の軸部38bに例えばセレーション嵌合またはスプライン嵌合されており、これによって、押圧部材21が支軸38に同行回転可能に連結されている。また、カム状突起部20は、筒状部48の周方向の一部から突出しており、その上端部は、アウターチューブ11に形成された開口部49を通ってアウターチューブ11の内部に進入している。カム状突起部20の上端面は、筒状部48の周方向に関して、筒状部48の中心からの距離が連続的に変化する円弧状の面となっている。(図1参照)
【0038】
具体的には、カム状突起部20の上端部に断面矩形の凹部53が形成され、この凹部53の左右両側が押圧部54となっている。各押圧部54の上端面は、筒状部48の軸方向に関して、金属製チューブ50の外周面の形状に対応する円弧状の面となっており、操作レバー22の操作に応じて、当該金属製チューブ50の外周面に当接または離反するようになっている。
【0039】
操作レバー22を所定の方向に回動させると、それに伴って支軸38およびカム40が回動し、図2の右方に向けてカム40がカムフォロワ41を押してカムフォロワ41が右方へ移動する。これにより、車体側ブラケット18の一対の側板30がロック機構19によって左右方向に挟持される。その結果、車体側ブラケット18は、一対の側板30の間隔が狭くなるように弾性的に撓む。そして、車体側ブラケット18の撓み量が所定の値を超えると、車体側ブラケット18の各側板30がコラム側ブラケット17の対応する側板23に圧接される。すなわち、コラム側ブラケット17の一対の側板23が車体側ブラケット18の一対の側板30に挟持され、コラム側ブラケット17が車体側ブラケット18に保持されて、コラム側ブラケット17がロックされる。
【0040】
またこのとき、操作レバー22が所定の方向に回動されると、これに伴って支軸38および押圧部材21が回動し、インナーチューブ12の周方向Y1に間隔を隔てた位置で、一対の押圧部54がそれぞれ金属製チューブ50の外周面に当接するようになっている。そして、一対の押圧部54がそれぞれ金属製チューブ50の外周面に当接すると、各押圧部54がインナーチューブ12を押圧し、その結果、インナーチューブ12がアウターチューブ11に対して当接されるようになっている。
【0041】
本実施形態では、押圧部材21の一対の押圧部54によって、インナーチューブ12の周方向Y1に間隔を隔てた複数の位置でインナーチューブ12を押圧することで押圧面を増やすことができるので、インナーチューブ12と押圧部材21とが接触している状態において、インナーチューブ12とアウターチューブ11間のガタを取り除くとともに、ステアリングコラム8全体に対する支持剛性を向上させて、共振周波数を高くすることができる。したがって、インナーチューブ12と押圧部材21とが接触している状態において、例えばアイドリング時においてステアリングコラム8が共振することを防止することができる。
【0042】
また、操作レバー22を所定の方向に回動させることにより、ステアリングコラム8の位置が車体13に対して固定され、上記チルト調整およびテレスコ調整が規制される。このとき、操作レバー22に加えられた操作力は、車体側ブラケット18がコラム側ブラケット17を挟持する力、すなわち、車体側ブラケット18によるコラム側ブラケット17の保持力として機能する。
【0043】
一方、ステアリングコラム8の位置が車体13に対して固定された状態で、操作レバー22を上記所定の方向と反対の方向に回動させて、操作レバー22の位置を元に戻すと、車体13に対するステアリングコラム8の位置のロックが解除され、上記チルト調整およびテレスコ調整ができるようになる。コラム側ブラケット17が車体側ブラケット18によって挟持された状態で、車体側ブラケット18の各側板30の一部は、コラム側ブラケット17の対応する側板23の形状に倣っており、コラム側ブラケット17の各側板23の主体部28の外側面28aと、これに対向する車体側ブラケット18の側板30の内側面30bとは互いに接している。
【0044】
一方、ロック機構19によって車体側ブラケット18を締め付けると。一対の側板30は、互いの間隔が狭くなるように弾性的に撓むが、その内側にコラム側ブラケット17の一対の側板23が配置されているので、撓みの量が所定の値を超えると、それぞれコラム側ブラケット17の一対の側板23に当接し、その内側面30bの形状が対応する側板23の外側面の形状に倣う。これにより、車体側ブラケット18の各側板30の内側面30bと、これに対向するコラム側ブラケット17の各側板23の主体部28の外側面28aとが互いに接する(図3において互いの接触部分にハッチングを施している)。すなわち、本実施形態では、コラム側ブラケット17と車体側ブラケット18との十分な接触面積が確保されている。
【0045】
以上のように本実施形態では、コラム側ブラケット17と車体側ブラケット18との十分な接触面積が確保されているので、車体側ブラケット18によるコラム側ブラケット17の保持力が十分に確保され、コラム側ブラケット17と車体側ブラケット18との接触部分の剛性が向上されている。これにより、例えばアイドリング時における車両の振動によって、ステアリングコラム8が共振することを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態では、主体部28の外側面28a、28a間の間隔が下方に向かうにしたがって狭くなるように設定されているので、操作レバー22に加えられた操作力だけでなく、コラム側ブラケット17およびステアリングコラム8の自重による力を、車体側ブラケット18がコラム側17を挟持する力、すなわち、車体側ブラケット18によるコラム側ブラケット17の保持力として作用させることができる。
【0047】
具体的には、コラム側ブラケット17およびステアリングコラム8の自重による力によって、コラム側ブラケット17の一対の側板23から車体側ブラケット18の一対の側板30に、当該車体側ブラケット18の一対の側板30の間隔を押し広げる力を作用させ、コラム側ブラケット17の各側板23を車体側ブラケット18の対応する側板30にさらに強く圧接させることができる。
【0048】
したがって、本実施形態に係る位置調整式ステアリング装置1では、操作レバー22に加える操作力を上げることなく、車体側ブラケット18によるコラム側ブラケット17の保持力を向上させることができる。さらに、本実施形態では、主体部28の外側面28a、28a間の間隔の上側と下側との差(第1の間隔W1と第2の間隔W2との差)が、所定の値に設定されているので、支軸38に過大の曲げ応力が加わったり、介在部材44やカムフォロワ41などの部材が緩んだりすることが防止されている。
【0049】
以下にコーティング用シリコーン樹脂組成物について詳細に説明する。
<潤滑コーティング用組成物>
本発明の潤滑コーティング用組成物は、変性シリコーン樹脂とその硬化触媒と反応性シリコーン油とを必須成分とする。また、必要に応じて、溶剤やその他の成分を含有する。これらの成分を適宜混合および攪拌することで、本発明の潤滑コーティング用組成物を調製することができる。
以下、構成成分ごとに説明する。
【0050】
<変性シリコーン樹脂>
本発明に用いる変性シリコーン樹脂は、特に制限は無く、従来より公知のものを問題なく使用することができる。他の成分との相溶性、反応性、耐熱性、耐圧性、可撓性、耐クラック性等必要特性の観点から適宜選択すればよい。本発明の潤滑コーティング用組成物においては、前記変性シリコーン樹脂として、アクリルシリコーン樹脂存在下で3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる有機−無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
前記変性シリコーン樹脂として好適な有機―無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂は、下地(被成型物との接触面)や後述するプライマーとの反応性、密着性に優れ、配合される反応性シリコーン油との相溶性、反応性に優れ、かつ高温、高圧にも耐え得る耐熱性、耐圧性、可撓性と耐クラック性に優れたものであることが好ましい。
【0052】
一般的にゾルゲル法により無機シリコーン樹脂を合成する場合、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)など4官能のシランモノマーを原料として使用するが、4官能シランモノマーにより形成される皮膜は架橋密度が高すぎてクラックが入り易く、上記所望の特性を得ることが比較的困難である。そこで、本発明においては、3官能シランモノマーを使用し、その樹脂骨格がアクリルシリコーン鎖であるものを使用することにより、下地の細かい凸凹にも追従し、また、例えば500μm程度の高膜厚であってもクラックが入らない可撓性の高いシリコーン系ハイブリッド樹脂を用いることが好ましい。
【0053】
即ち、有機―無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を合成するためには、(1)適当な溶媒中で加水分解性アルコキシシリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系モノマーとラジカル重合性単量体とをラジカル溶液重合により、共重合せしめアクリルシリコーン樹脂を合成し、(2)そのアクリルシリコーン樹脂の存在下で3官能のシランモノマーを適当な条件にて加水分解重縮合させて重合することにより、骨格にアクリルシリコーン樹脂を有し、その周りをポリシルセスキオキサン樹脂が共重合していく構造を有する共重合ハイブリッド型のアクリル−ポリシルセスキオキサン樹脂となる。これにより、アクリルの可撓性とポリシロキサンの耐熱性、架橋密度、反応性を有する樹脂を得ることができる。
【0054】
(1)のアクリルシリコーン樹脂の合成に使用する加水分解性アルコキシシリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、具体的には、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが例示される。
【0055】
また、これらと共重合してアクリルシリコーン樹脂を形成するラジカル重合性単量体としては、前述加水分解性アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル系モノマーと共重合するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類や、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の官能基含有(メタ)アクリレート類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルピロリドンなどビニル化合物が例示できる。
【0056】
(2)のゾルゲルシークエンス時に使用される3官能シランモノマーとしては、具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシランなどアルキルトリアルコキシシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなど芳香族シラン類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど官能基含有シランモノマーが例示される。これらは単独で使用されてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記(1)、(2)のシークエンスにより得られる有機―無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂としては、市販品が入手可能であり、本発明の潤滑コーティング用組成物における変性シリコーン樹脂の配合割合としては、10〜98質量%の範囲が好ましく、30〜80質量%の範囲がより好ましく、50〜70質量%の範囲がさらに好ましい。
【0058】
<硬化触媒>
本発明の潤滑コーティング用組成物に使用するに適した硬化触媒としては、用いる変性シリコーン樹脂を硬化させ得るものであればよく、特に制限はない。例えば、変性シリコーン樹脂として、上で述べた有機−無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を用いた場合には、これを硬化させ得る触媒として、湿気硬化性シリコーンオリゴマーを硬化させ得る触媒であれば特に制限されない。
【0059】
当該硬化触媒としては、具体的には例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクチレート、ジブチル錫ジラウレート、などの有機錫化合物や、アルミニウムトリス(アセチルアセトン)、アルミニウムトリス(アセトアセテートエチル)、アルミニウムジイソプロポキシ(アセトアセテートエチル)などの有機アルミニウム化合物や、ジルコニウム(アセチルアセトン)、ジルコニウムトリス(アセチルアセトン)、ジルコニウムテトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)などの有機ジルコニウム化合物や、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノエチルエーテル)、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノブチルエーテル)などの有機チタニウム化合物等の有機金属化合物;塩酸、硝酸、硫酸、燐酸などの鉱酸類や、蟻酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸類等の酸;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基や、エチレンジアミン、アルカノールアミンなどの有機塩基などのアルカリ;アミノ変性シリコーン、アミノシラン、シラザン、アミン類などのアミノ化合物などが挙げられる。これらのうち、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物が好ましい。
【0060】
本発明に使用可能な硬化触媒は、市販品として入手することができる。例えばD−20(信越化学社製)、DX−9740(信越化学社製)、DX−175(信越化学社製)などが挙げられる。
【0061】
これら硬化触媒の配合割合は、変性シリコーン樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲が好ましく、0.5〜10質量部の範囲がより好ましい。この範囲を超えて配合割合が低い場合は、硬化性が劣ることとなり、またこの範囲を超えて配合割合を多くするといわゆる可使時間(外気に晒してからコーティング完了までの時間≒コーティング作業可能時間)が短くなり実用上好ましくない。
【0062】
<反応性シリコーン油>
本発明における反応性シリコーン油は、特に制限は無く、従来より公知のものを問題なく使用することができる。変性シリコーン樹脂との反応性、潤滑機能発現性の観点から適宜選択すればよい。
【0063】
本発明の潤滑コーティング用組成物においては、2種類の反応性シリコーン油を併用することが好ましい。詳しくは、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が100mm2/S未満の低分子量のシリコーン油(以下、単に「低分子量シリコーン油」という場合がある。)と、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が2000mm2/S以上の高分子量のシリコーン油(以下、単に「高分子量シリコーン油」という場合がある。)との2種類である。
【0064】
なお、シリコーン油は、一般に低分子量のものが低粘度で高分子量のものが高粘度となる。そのため便宜的に「低分子量」「高分子量」と称して両シリコーン油を区別しているが、あくまでも動粘度で定義されるものであり、分子量の値で両者を厳密に定義付けることはできない。
【0065】
低分子量シリコーン油は、変性シリコーン樹脂、特に有機―無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサンに対する相溶性や反応性には優れるものの、耐熱性については若干劣る。一方、高分子量シリコーン油は上記相溶性や反応性には若干劣るものの、耐熱性、耐圧性には優れている。そのため、これら2種類の反応性シリコーン油を併用することにより、過酷な使用条件下でも耐久性の優れた潤滑コーティングとすることができる。
【0066】
本発明において使用可能な反応性シリコーン油は市販品として入手可能であり、例えば両末端シラノール型低分子量シリコーン油はYF3800(動粘度=80mm2/、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、両末端シラノール型高分子量シリコーン油はYF3057(動粘度=3000mm2/、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)などが挙げられる。両シリコーン油の配合割合としては、「低分子量」:「高分子量」として9:1〜1:9の範囲内であることが好ましく、7:3〜3:7の範囲内であることがより好ましい。
【0067】
本発明の潤滑コーティング用組成物における全反応性シリコーン油の配合割合としては、変性シリコーン樹脂有効成分(solid分)に対して、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.2〜10質量%の範囲がより好ましく、0.3〜5質量%の範囲がさらに好ましい。反応性シリコーン油の添加量が0.1質量%未満では良好な潤滑効果が得られ難いため好ましくなく、20質量%を超えると未反応成分が多くなり、いわゆる分離する場合があり生産上好ましくない。
【0068】
<溶剤>
本発明のコーティング用組成物には、溶剤を配合してもよい。溶剤を配合することにより、適宜濃度、粘度(動粘度)を調整することができる。使用可能な溶剤としては、必須構成成分である変性シリコーン樹脂、硬化触媒および反応性シリコーン油を溶解または分散できるものであれば、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶剤;ミネラルスピリットなどの石油系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチルのようなエステル系溶剤;オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの低重合度(低分子量)の環状メチルポリシロキサン(環状シリコーン)や、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサンなどの低重合度の直鎖状メチルポリシロキサン(直鎖状シリコーン)などのシリコーン系溶剤などが挙げられる。これら溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上併用してもかまわない。
【0069】
<その他の成分>
本発明のコーティング用組成物には、従来公知のその他各種添加剤を添加することもできる。添加可能な添加剤としては、形成される潤滑膜の性能に影響を与えない、若しくは軽微なものが好ましく、例えば各種消泡剤、レベリング剤、スリッピング剤、酸化防止剤、防錆剤等を挙げることができる。
【0070】
本発明は、被成型物との接触面に、下地層としてシリコーンアクリル系プライマー層が形成され、さらにその上に積層された上記本発明のコーティング用組成物を含む潤滑膜が形成されてなるものである。
【0071】
上記本発明のコーティング用組成物は、軸受鋼、炭素鋼からなる材料に対して、濡れ性、密着性が十分ではないため、これら金属に対する濡れ性、密着性に優れたシリコーンアクリル系プライマー層を下地層として形成した後に、さらにその上に積層して本発明のコーティング用組成物からなる膜を形成する。
【0072】
シリコーンアクリル系プライマー層を下地層とし上記本発明のコーティング用組成物からなる膜が積層形成された本発明の品物は、耐熱性、耐圧性など耐久性に優れ、また可撓性、耐クラック性にも優れた特性を持続でき、かつ、生産性、経済性に優れた極めて有用性の高いものとなる。
【0073】
シリコーンアクリル系プライマー層を形成する塗膜としては、シリコーンアクリル樹脂からなるプライマーとして従来公知のものをいずれも使用して形成することができる。シリコーンアクリル系プライマー層を形成する場合の膜全体の膜厚としては、寸法精度を考慮するとできるだけ薄膜であることが望ましく、あまりに薄過ぎると膜としての機能が発揮できない。そのため、シリコーンアクリル系プライマー層は2μm〜10μmの範囲とすることが好ましく、4μm〜6μmの範囲とすることがより好ましく、一方、上記本発明のコーティング用組成物による塗膜層は2μm〜10μmの範囲とすることが好ましく、4μm〜6μmの範囲とすることがより好ましい。本発明の品物の製造方法、すなわち膜の形成方法は、次項において詳述する。
【0074】
<膜の形成方法並びに製造方法>
本発明の膜の形成方法は、被コーティング対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーをコーティング後、焼付け硬化させること無く前記本発明のコーティング用組成物をコーティングし、次いでコーティング膜全体を焼付け硬化させることを特徴とするものである。
【0075】
本発明に使用し得る溶剤型シリコーンアクリル系プライマーは、被コーティング対象面となる基材表面との濡れ性、密着性に優れ、かつ、本発明のコーティング用組成物と反応して一体化する性質のものが好ましい。中でも特に、側鎖に第3級アミノ基を有するアクリルポリマー系主剤にグリシジル基含有シラン化合物を硬化剤として使用するシリコーンアクリル系プライマー用樹脂組成物は、各種金属への濡れ性に優れ、かつ本発明のコーティング用組成物との反応も見込めるため極めて好適である。かかるシリコーンアクリル系プライマー用樹脂としては市販品が入手可能である。
【0076】
被コーティング対象面に対するコーティング方法としては、特に制限されず、例えばコーティング剤をスポンジなどに含浸させてそのスポンジで塗装面を擦るなど、適宜公知の方法が用いられる。なお、コーティング方法は、その他、ディッピング法、刷毛塗り法、スプレーコーティング法など適宜選択することができる。
【0077】
これらコーティング方法にて被コーティング対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーをコーティング後、焼付け硬化させること無く、当該コーティング用組成物をコーティングし、次いでコーティング膜全体を焼付け硬化させること、すなわちいわゆる2コート1ベイクさせることが好ましい。このように2コート1ベイクさせることで、プライマーと当該コーティング層が一体化したコーティング膜層が形成され、表面平滑性に優れ、緻密な潤滑層となる。
【0078】
前記コーティング膜全体の焼付け硬化の温度条件としては、160℃〜220℃の範囲であることが好ましく、190℃〜210℃の範囲であることがより好ましい。温度が低過ぎると物性が発現せず、一方高過ぎると熱劣化や熱分解が起こり、それぞれ好ましくない。
【0079】
また、前記コーティング膜全体の焼付け硬化時間としては、10分〜60分の範囲であることが好ましく、20分〜40分の範囲であることが好ましい。焼付け硬化時間が短過ぎると均一な、一方長過ぎるといわゆる焼け現象が起こり外観を損なうため、それぞれ好ましくない。
【0080】
<実施例1、比較例1>
下記表1に示す組成に従い、プライマー、実施例1および比較例1のコーティング組成物を調製した。これらを用いて、炭素鋼基材にディッピングによりプライマーをコーティングし、さらにその上に各実施例乃至比較例のコーティング組成物をコーティングし、200℃で30分間熱硬化させていわゆる2コート1ベイク(比較例1は1コート1ベイク)のコーティング工程を経て試験板を得た。膜厚を含む各条件を下記表1にまとめる。
【0081】
【表1】

【0082】
なお、実施例および比較例に用いた配合成分の詳細を以下に記す。
<シリコーンアクリルプライマー主剤>
側鎖に第3級アミノ基を有するアクリル樹脂アクリディックA−9540(DIC(株)製、有効成分=45%、ガードナー形泡粘度(25℃):(X−Y)−Z2、アミン価:16、溶媒:トルエン/イソブタノール)100部をキシレン60部にて希釈して、シリコーンアクリルプライマー主剤を得た。
【0083】
<シリコーンアクリルプライマー硬化剤>
エポキシ系シランカップリング剤含有シリコーンアクリル樹脂硬化剤アクリディックA−9585(DIC(株)製、有効成分=80%、ガードナー形泡粘度(25℃):A5以下、エポキシ当量:530〜585、溶媒:キシレン)16部をキシレン144部にて希釈して、シリコーンアクリルプライマー硬化剤を得た。
【0084】
<ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂主剤>
N2導入管、温度計、サーモメーター、還流冷却器を取り付けた1リットル四つ口フラスコに353部のメタノールを仕込み60℃まで加温した。別にメチルメタクリレート(MMA)122部、ブチルメタクリレート(BMA)116部、エチルアクリレート(EA)163部、側鎖に加水分解性アルコキシシリル基含有メタクリル系モノマーKBM−503(信越化学工業(株)製)94部、アゾ系重合開始剤V−65(和光純薬(株)、2,2’−Azobis(2.4−dimethylvaleronitrile))5.9部の混合物を計り取り、滴下ロートにて3時間かけて上記フラスコに滴下した。滴下後更に2時間60℃にて反応させた後、V−651.5部を45部のメタノールで希釈したものを滴下し、ついで、3時間60℃反応を続けアクリルシリコーン樹脂溶液を得た(淡黄色透明粘性液体、有効成分=55%、ガードナー形泡粘度(25℃):XY+、Mw=121000)。
【0085】
次に、上で得られたアクリルシリコーン樹脂溶液121部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)459部、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)74部をN2導入管、温度計、サーモメーター、還流冷却器を取り付けた1リットル四つ口フラスコに仕込み、2mol/リットル希塩酸20部、蒸留水48部、メタノール78.7部を滴下ロートにて30分間かけて滴下した。その間、フラスコ内の温度は40℃に保った。更に30分間、40℃にて熟成させた後、昇温し、還流状態で3時間反応させた。 還流温度は65〜68℃であった。その後、還流冷却器を脱水コンデンサーに交換し、温度が135℃になるまで加熱し、2時間かけて反応系内の溶媒を留去せしめ、次いで冷却して、有機―無機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を得た。淡黄色透明粘性液体、有機/無機=20/80(質量基準)、有効成分=100%、ガードナー形泡粘度(25℃):W、Mw=1600。
【0086】
<評価試験>
得られた実施例および比較例の各試験板について、摩擦摩耗試験を実施した。
Ball−on−Disc型往復摩擦試験機を用い、室温下無潤滑条件で評価を行った。ディスク試験片(25×30mm、厚さ5mm)には各実施例乃至比較例の潤滑コーティング処理(プライマー+潤滑コーティング用組成物による塗装+乾燥硬化)したものを用い、相手材であるボールにはポリアセタール樹脂[ポリオキシメチレン(POM)、直径d=3/16inch≒4.76mm]を用いた。これらの試験片は、試験前にアセトン中で超音波洗浄を5分間行い、乾燥させた後に試験に供した。試験条件は平均線速度20mm/S(ストローク:10mm)及び荷重2Nの条件下において1500秒の試験を行い、1500秒経過時の摩擦係数を求めた。当該摩擦摩耗試験は、実施例1、比較例1について行った。
試験結果を図5に示す。
【0087】
図5に示すように、シリコーン樹脂とシリコーン油の場合、荷重に影響されず終始0.1以下の低い摩擦挙動をしめしたのに対して、実施例1のシリカを含む場合はいずれの試験荷重においても0.4〜0.45の安定して高い摩擦係数を示した。
【0088】
図6に摺動速度を変化させたときの摩擦係数の測定結果を示すが、速度が変化してもあまり、変化がみられず高い摩擦を示した。シリコーン樹脂にシリカを添加して、摩擦係数を調整が可能であり、また、高荷重では、シリコーン油で凝着を防止して摩擦は安定しており、摩擦はシリカと相手材の摩擦により発生してその量により調整が出来る。
【0089】
図6に示すように、摩擦のメカニズムは、シリカと相手材との干渉で発生しており、その量により比例して抵抗が比例し、これは、速度に依存しない特徴がある。また、一般に潤滑剤が存在すれば摩擦熱で粘度が低下し急激に摩擦トルクが低下するためスティックスリップなどの不都合が発生するが、このコーティングは潤滑剤の粘性の影響は小さいため、それほど影響がない。これは荷重を変化させて大きくしても変化しない特徴がある。
また、摺動速度に影響されないためスティックスリップの発生防止に効果がある。したがって、グリース等の特別の潤滑剤を使用せずに異音発生を防止できる。
【0090】
潤滑剤でスティックスリップを防止しようとすると極端に高粘度にするか、添加剤に固体潤滑剤を添加する必要があるが、潤滑剤の流出が問題となり耐久性に課題がある。この発明品は通常はシリコーン樹脂に固定されており、高荷重や高摺速条件ではシリコーン油は潤滑剤として溶着を防止して、安定した摩擦に制御することにより、摩擦変動をなくし、操作上の不具合を防止できる効果がある。また、高荷重では滲み出してきて、溶着を防止できる。
【0091】
シリコーン油の粘度は4000mm/S以下が最適で、あまり高粘度を使用すると低温時の流動性低下のため、高トルクになるため、適正範囲の粘度を設定する必要がある。そうすることで、低温から高温まで広い温度範囲で安定したトルクで使用できるとともに、スティックスリップも発生せず異音が防止できる。従来は速度に対して摩擦力が減少する、また、無負荷時に摩擦力が小さいと外部からの振動や小さい力で動き、中立の位置が安定せずふらつく問題がある。そのため外部からの荷重が小さくても摩擦が大きいため安定して中立を維持できる、そして、衝撃が発生した場合は大きな摩擦力でダンパーの役目を持ち、また、1度力がかかると速度に対して摩擦力が変化しないため、一定の操舵ができるため、安定感があり、摩擦力の変動がないため異音は発生しない効果がみられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が3000mm/S以下のシリコーン油と30重量%シリカと硬化触媒およびシリコーン樹脂とからなることを特徴とするシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
シリコーン樹脂が3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる無機−有機ハイブリッド型シリコーン樹脂であり、摩擦係数が0.4〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
硬化触媒として、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物のいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至2に記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリコーン樹脂組成物をステアリングコラム部品であるブラケット、コラムチューブ、支軸間の摩擦部にコーティングしたことを特徴とする請求項1から3何れかに記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31383(P2012−31383A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74654(P2011−74654)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】