説明

シリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法

【課題】本発明は、シリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用するシリコーン液に熱劣化によって生成される低分子量で低沸点の環状化合物をオンサイトで効率良く簡便に定量して予防保全を容易にする。
【解決手段】本発明のシリコーン液入り電気機器は、電気装置を内部に収容したタンクと、このタンク内に収容された電気装置を絶縁し冷却する絶縁冷却媒体のシリコーン液を有するシリコーン液入り電気機器において、タンク内のシリコーン液を採取するシリコーン液の採取配管と、この採取配管で採取されたシリコーン液を加熱してシリコーン液中に溶解している低分子量で低沸点の環状化合物を蒸発気化させるガス成分採取容器と、このガス成分採取容器で採取した環状化合物のガスを分析するガス分析装置を備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁・冷却媒体としてシリコーン液を用いたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁・冷却媒体を使用する電気機器である変圧器の絶縁・冷却媒体には鉱油等の絶縁油が用いられてきた。
【0003】
この鉱油に代えて変圧器の絶縁・冷却媒体として難燃性のシリコーン液を用いることにより、変圧器の防火性を向上させることができ、さらに運転温度を高くすることにより機器のコンパクト化等を図ることができる。
【0004】
しかしながら、絶縁・冷却媒体としてシリコーン液を用いる場合には、従来よりも電気機器の運転温度を高くすると、シリコーン液の熱劣化による低分子量で低沸点の分解物が生成する。
【0005】
シリコーン液にこの分解物が大量に生成するとシリコーン液の引火温度(以下引火点という)が低下してしまうので、シリコーン液が引火しやすくなるという問題点がある。この分解物の生成量は運転温度が高いほど多くなる。
【0006】
特開平10−332682号公報には、油入電気機器に使用される電気絶縁油を昇温加熱して化学発光数を測定することにより、電気絶縁油の劣化の度合いを評価する技術が開示されている。
【0007】
特開平3−187206号公報には、油入変圧器、油入リアクトル等の油入電気機器のタンク上部に複数個の気体検出器を配置するとともに、発生した可燃性ガスが効率よく各気体検出器に導入されるようなタンク構造にして油中ガス成分を分析する技術が開示されている。
【0008】
特開昭59−176683号公報には、電気絶縁用シリコーン液の熱重量曲線からシリコーン液の劣化を判定する技術が開示されている。
【0009】
特開昭54−114290号公報には、シリコーン液入り電機機器において、シリコーン液中のガス成分を常温でバブリングにより気相に抽出することにより分析する技術が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−332682号公報
【特許文献2】特開平3−187206号公報
【特許文献3】特開昭59−176683号公報
【特許文献4】特開昭54−114290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シリコーン液が熱劣化すると環量体が生成し、その主成分は3量体、4量体、5量体である。劣化が進行するほど、環量体の生成量が多くなることがわかっている。3量体、4量体、5量体は沸点が低く、蒸発し易い。劣化していない初期状態においては、環量体はほとんど含まれない。
【0012】
劣化により、低分子量の直鎖の化合物も生成する。しかし劣化していない初期状態においても、低分子量の直鎖の化合物は含まれている。したがって初期状態においても、ある程度低分子量の直鎖の化合物が蒸発する。
【0013】
したがって、環量体を分析することで、正確に劣化の状態を把握できる。
【0014】
しかしながら、前述した各特許文献に記載の技術では、絶縁・冷却媒体のシリコーン液入り電気機器の予防保全を図るうえで重要となる電気機器の稼動中にシリコーン液の熱劣化で生じる低分子量で低沸点の分解物である環状化合物の成分をオンサイトで簡便に分析、定量することはできなかった。
【0015】
即ち、シリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の分解物の主成分はシリコーン液と同じ基本化学構造を持つ環状の化合物である。このため、シリコーン液中ではシリコーン液の分解物である環状化合物を選択的に分析、定量することは困難である。
【0016】
したがって、絶縁・冷却媒体のシリコーン液入り電気機器の稼動中にシリコーン液の熱劣化で生じる分解物の環状化合物の成分をオンサイトで簡便に分析、定量することは困難であり、よってシリコーン液入り電気機器の予防保全をオンサイトで簡便に行うことはできなかった。
【0017】
本発明の目的は、シリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用するシリコーン液に熱劣化によって生成される低分子量で低沸点の環状化合物を、オンサイトで効率良く簡便に定量できるようにしてシリコーン液を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易にしたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のシリコーン液入り電気機器は、電気装置を内部に収容したタンクと、このタンク内に収容され電気装置を絶縁し冷却する絶縁冷却媒体のシリコーン液を有するシリコーン液入り電気機器において、タンク内のシリコーン液を採取するシリコーン液の採取配管と、この採取配管で採取されたシリコーン液を加熱してシリコーン液中に溶解している低分子量で低沸点の環状化合物を蒸発気化させるガス成分採取容器と、このガス成分採取容器で採取した環状化合物のガスを分析するガス分析装置を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明のシリコーン液入り変圧器は、鉄心とこの鉄心に装着された巻線とを内部に収容したタンクと、このタンク内に収容された鉄心と巻線とを絶縁し冷却するシリコーン液を有するシリコーン液入り変圧器において、タンク内のシリコーン液を採取するシリコーン液の採取配管と、この採取配管で採取されたシリコーン液を加熱してシリコーン液中に溶解している低分子量で低沸点の環状化合物を蒸発、気化させるガス成分採取容器と、このガス成分採取容器で採取した環状化合物のガスを分析するガス分析装置を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明のシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法は、電気装置を内部に収容したタンクと、このタンク内に収容され電気装置を絶縁し冷却する絶縁冷却媒体のシリコーン液を有するシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法において、シリコーン液入り電気機器が稼動中にタンク内のシリコーン液を採取し、この採取したシリコーン液を加熱してシリコーン液中に溶解している低分子量で低沸点の環状化合物を蒸発気化させ、この蒸発気化した環状化合物のガスの成分を分析するようにしたことを特徴とする。
【0021】
本願発明の特徴は、シリコーン液を加熱して前記環状化合物を気化し、気化された環状化合物を分析することによりシリコーン液中に含まれる環状化合物の分析をして、シリコーン液の状態の管理を行うことにある。本発明は、シリコーン液を用いた電気機器に使用することができる。
【0022】
シリコーン液を用いた電気機器としては、例えば、計器用変流器も含む変圧器、リアクトル、電圧調整器、コンデンサ、抵抗器などが挙げられる。また、上記のシリコーン液入り電気機器に用いられ、シリコーン液中に浸す電気装置は、例えば鉄芯と巻き線よりなるものなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用されているシリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の環状化合物を、オンサイトで効率良く簡便に定量できるようにしてシリコーン液を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易にしたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に本発明の実施例のシリコーン液入り電気機器について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明のシリコーン液入り電気機器の一例として、シリコーン液入り変圧器の構成を説明する。図1は本発明の一実施例であるシリコーン液入り変圧器の構成を示すものであり、このシリコーン液入り変圧器にはタンク1と、タンク1の内部に配置された鉄心2と、鉄心2に装着された内側巻線3と外側巻線4と、絶縁筒5とが夫々備えられている。
【0026】
タンク1の内部には、これらの鉄心2と内側巻線3及び外側巻線4とを絶縁し冷却するための絶縁・冷却媒体のシリコーン液6と、このシリコーン液6の上方に存在する窒素ガス7とが収容されている。
【0027】
タンク1の外部には、タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のシリコーン液6を冷却するための冷却器8が設置され、このタンク1と冷却器8とはその上部と下部とに夫々配設された冷却配管9a、9bを通じて接続されている。
【0028】
タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のシリコーン液6は、有機珪素化合物の重合体であり、下記の(1)式、或いは(2)式に示す化学構造式を有する直鎖状の化合物である。シリコーン油と称される場合もあるが、基本的に両者は同じものである。これらは単独で用いても混合してもよいが、(1)式に示すジメチルシリコーン液を用いることが好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
タンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のシリコーン液6は上部の冷却配管9aを通ってタンク1の内部から冷却器8の内部へ矢印で示すように流れ、冷却器8で冷やされた後に、下部の冷却配管9bを通って冷却器8から再びタンク1の内部に送り込まれて、タンク1の内部に備えられた鉄心2、内側巻線3、外側巻線4を冷却して、鉄心2、内側巻線3、外側巻線4から発生するジュール熱を奪うように機能している。
【0032】
鉄心2はその上部と下部に夫々取り付けられた締付金具10a、10bによって締め付けられて保持されている。
【0033】
内側巻線3と外側巻線4の上部には絶縁物11、12が夫々設置され、内側巻線3と外側巻線4の下部にも絶縁物13、14が夫々設置されている。また、鉄心2の中心側には鉄心2を冷却する冷却用の油導入部15が形成されている。
【0034】
本実施例のシリコーン液入り変圧器では、絶縁・冷却媒体のシリコーン液6の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の環状化合物を、シリコーン液6を加熱することによってシリコーン液6の液面上の気相部分に蒸発、気化させてガス成分として分析するために、次の構成からなる分解物分析装置を設けている。
【0035】
即ち、タンク1の下部に配設されてタンク1の内部のシリコーン液6を採取する配管16と、この配管16に接続して設置されて採取したシリコーン液6を加熱してガス成分を採取するためのガス成分採取容器17と、ガス成分採取容器17に接続して設置されてシリコーン液6から採取したガス成分をガス成分採取容器17から導くガス配管18と、このガス配管18に接続して設置されて導かれたシリコーン液6から採取したガス成分を分析するガス分析装置19とからこの分解物分析装置を構成している。
【0036】
また、採取したシリコーン液6中の環状化合物を蒸発、気化させるために、ガス成分採取容器17の外側にはシリコーン液6を加熱するヒータ20が設けられている。このガス成分採取容器17では、ヒータ20によって内部のシリコーン液6を加熱して熱劣化により生成した低分子量で低沸点の環状化合物を蒸発、気化させる加熱温度は約100℃〜220℃、好ましくは約150℃〜200℃に設定されている。
【0037】
図2にシリコーン液の加熱温度と環量体のイオン強度との関係の特性図を示す。図2は、劣化の指標として環量体を分析するため、シリコーン液の温度を高くした場合の3量体、4量体、5量体の各成分の蒸発・気化挙動を調べた結果である。
【0038】
観察は発生ガス分析法(EGA−MS:Evolved Gas Analysis − Mass Spectrometry)により行った。
【0039】
測定感度を上げるため、試料はシリコーン液の熱劣化品ではなく、シリコーン液にジメチルシリコーンの3量体(D3)、4量体(D4)、5量体(D5)を添加したものを用いた。試料をセルに入れた後He雰囲気で安定させて、昇温速度10℃/min で50℃から試料を昇温加熱し、300℃まで連続的に発生したガスを質量分析装置(mass spectrometer)に導入した。
【0040】
環量体D3、D4、D5各々に対応する特徴イオンとして、M/Z値が207、281、355のものを選択して、各イオン強度と、その全イオン流(Total
Ion Current)を測定した。50〜300℃までHe雰囲気下でシリコーン液を加熱し、M/Z値207を一点鎖線で表示し、M/Z値281を実線で表示し、M/Z値355を破線で表示した結果を図2に示す。
【0041】
いずれの環量体についても、80〜90℃程度で蒸発・気化が始まり、220℃程度で全ての環量体が放出された。従って、加熱温度は100℃〜220℃程度とすることができる。
【0042】
また、150℃〜220℃に加熱することにより観察時間を短縮でき、効率よく測定を行うことが可能である。なお、230〜250℃よりも高温にすると、再度環量体が検出された。これは、高温にすることにより、シリコーン液の分解と、分解生成物の蒸発・気化が始まったものと考えられる。
【0043】
図1に示したシリコーン液入り変圧器ガス成分採取容器17では、ヒータ20によってガス成分採取容器17の内部に収容した所定量のシリコーン液6を加熱することにより、シリコーン液6の熱劣化で生成した低分子量で低沸点の環状化合物をガス成分採取容器17の内部のシリコーン液面上の気相部分に蒸発、気化させてガス成分を形成させる。
【0044】
所定量のシリコーン液を採取する手段としては、例えばバルブ(21a)を一定時間開けることでほぼ一定量のシリコーン液を採取し、採取したシリコーン液の重量を測定する手段を設けておくことが挙げられる。
【0045】
加熱によってガス成分採取容器17の内部の気相部分に蒸発、気化した、シリコーン液6の熱劣化で生成した環状化合物のガス成分はガス配管18を通じてガス分析装置19に送られ、このガス分析装置19によって熱劣化で生成した低分子量で低沸点の環状化合物のガス成分をシリコーン液入り変圧器の稼動中にオンサイトで分析、定量する。
【0046】
ガス成分採取容器から、ガス分析装置に環状化合物を取り出す手段としては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを流すことが挙げられる。
【0047】
また、ガス成分採取容器17の内部にヒータで加熱できるようにした吸着剤を設置し、気相部分に蒸発、気化した環状化合物のガス成分をいったん吸着させた後、吸着剤を加熱して気化した環状化合物のガス成分を不活性ガスによってガス分析装置に導入することでも、効率良く環状化合物を取り出すことが可能である。
【0048】
また、予め3量体、4量体、5量体の量と、シリコーン液の引火点等の劣化状態の特性を関連付けておくことにより、ガス分析装置より得られる結果に基づく劣化の診断が可能である。
【0049】
例えば、ガス分析結果より得られた分析値や、算出される環状化合物の量が所定値以上になった場合に、シリコーン液が劣化したと判定する。
【0050】
その診断を行う判定装置は、例えば、ガス分析装置の測定結果を信号線により監視装置や記憶部に送信し、ガス分析結果より得られた環量体の量を監視する構成とすることができる。
【0051】
監視装置のモニター画面の模式図を図3に示す。図3には運転時間に対してガス分析装置より得られる環量体量をプロットしたものと、シリコーン液の劣化を判定するために予め適宜設定された環量体量の所定値(破線)とが示されている。
【0052】
シリコーン液の劣化が進行していない時には、環量体量が破線で示す値以下であり、モニター画面を確認することで容易にシリコーン液の劣化を判定することができる。
【0053】
シリコーン液が劣化していると判定された場合、機器の運転停止や、日常の点検項目において機器の異常の有無を確認したり、シリコーン液を採取してさらに状態を詳細に分析する。
【0054】
また、劣化の度合いに応じて、定期点検時等機器を停止した際に、シリコーン液の一部、または全部を交換することで変圧器の故障を未然に防ぐことが可能となる。
【0055】
また、劣化が診断された際に、シリコーン液の劣化を周知する手段を設けることにより、管理を容易にすることが可能である。
【0056】
例えば、環量体量が予め設定した所定値を超えた場合、シリコーン液が劣化したと判断しアラームを発する警報装置等を備えてもよい。
【0057】
電気機器のシリコーン液の劣化の確認の頻度は、週に一度、月に一度等である。従って上記劣化の判定を所定期間ごとに開始する制御装置を設けることができる。
【0058】
制御装置は、ポンプを所定の周期で作動させてタンク内のシリコーン液をガス成分採取容器に取りこむとともに、シリコーン液の加熱を開始し、かつガス分析装置を作動させる。
【0059】
まず、バルブを開放し、タンクと接続された採取配管からシリコーン液を採取し、バルブを閉めた後にヒータを作動して、ガス成分採取容器に一定量採取されたシリコーン液を加熱し、環量体を採取する。
【0060】
環量体量を分析後、ヒータを停止し、分析装置等に残留する成分を浄化する。シリコーン液は分解物が少ないものとなっているため、系外に排出せず、タンク内に戻してもよい。また、測定されるシリコーン液の量は少量(例:50ml)であるため、廃棄することにしてもよい。
【0061】
また、一台のガス分析装置、判定装置により、複数台の変圧器等の電気機器を監視することも可能である。
【0062】
上述の通り劣化の確認の頻度は、週に一度や月に一度等であるため、一の分析装置に対し、数台の電気機器と、配管の切替装置を有する、電気機器システムとしてもよい。
【0063】
複数台の電気機器より、それぞれのシリコーン液を採取し、各電気機器のシリコーン液の劣化の状態を把握することができる。
【0064】
一度の判定に使用するシリコーン液は、シリコーン液が多いと得られるガスの定量が容易であり、少ないとシリコーン液の加熱が容易となる。
【0065】
1〜50mlとすることが好ましく、1〜5ml程度でも充分な測定が可能である。判定後の成分採取容器に残留したシリコーン液は引火点を下げる低分子量の化合物を有していないので、タンクに戻して再利用することができる。
【0066】
その際、シリコーン液をタンクに戻す戻り配管と、その配管中にシリコーン液を環流させるポンプを設けることが好ましい。
【0067】
ポンプは、上述の制御装置により併せて制御させることができる。なお、劣化を判定した後のシリコーン液は、廃棄し、必要に応じて補充する構成としてもよい。
【0068】
上記した構成のシリコーン液入り変圧器によれば、変圧器の運転中にタンク1の内部に収容されている絶縁・冷却媒体のシリコーン液6の熱劣化によって生成してシリコーン液6中に溶解している環状化合物を、シリコーン液6を加熱することによってシリコーン液6の液面上の気相部分に蒸発、気化させてガスとして分析するようにしたことから、シリコーン液6の熱劣化によって生成する環状化合物はオンサイトで効率良く、簡便に定量できるので、シリコーン液入り変圧器の予防保全を容易に図ることができる。
【0069】
シリコーン液入り変圧器に用いられる絶縁・冷却媒体のシリコーン液6は、タンク1と冷却器8との間を、両者に接続された冷却配管9a、9bを介して循環し、冷却器8で冷却されたシリコーン液6をタンク1の内部に設置した鉄心2、内側巻線3と外側巻線4の巻線等に供給してこれらの機器を冷却するものであることから、シリコーン液6の粘度は低い方が好ましく、特に25℃における動粘性係数が50mm/s以下であるものが好ましい。
【0070】
一般に、シリコーン液6の引火点はその分子量に依存し、また、分子量が小さいほどシリコーン液6の粘度は低くなる。したがって、粘度が低いほどシリコーン液6の引火点は低く、その熱分解による低分子量で低沸点の分解物の生成物は多くなると考えられる。
【0071】
また、変圧器の防火性の向上、あるいは運転温度を高くすることによる機器のコンパクト化等を図るうえで、シリコーン液6は難燃性であることが好ましく、特に引火点が250℃を超えるものであることが好ましい。
【0072】
したがって、シリコーン液入り変圧器に用いられる絶縁・冷却媒体のシリコーン液6として、引火点が250℃を超え、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下であるシリコーン液6が有効である。
【0073】
なお、本実施例のシリコーン液6には鉱油入り変圧器で用いられている帯電防止剤等の添加剤を加えるようにしても良い。
【0074】
本実施例によれば、シリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用されているシリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の環状化合物を、オンサイトで効率良く簡便に定量できるようにしてシリコーン液を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易に可能にしたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法が実現できる。
【実施例2】
【0075】
次に図4を用いて本発明の他の実施例であるシリコーン液入り変圧器の構成を説明する。図4に示した本実施例のシリコーン液入り変圧器の変圧器では、ガス成分採取容器17が冷却器8の下部に設置された冷却配管9bと連通した配管16を介して配設されている構成となっている。このシリコーン液6を採取する配管16を、タンク1に直接連通させずに冷却配管9bに連通するように設置させているので、配管16の配設をより簡便に行うことができる。
【0076】
図4に示した本実施例のシリコーン液入り変圧器の構成は、図1に示した先の実施例1のシリコーン液入り変圧器と基本的な構成は同一なので、両者に共通する構成の説明は省略する。
【0077】
また、図4における本実施例によるシリコーン液入り変圧器を運転中に絶縁・冷却媒体のシリコーン液6の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の環状化合物をオンサイトで分析、定量するやり方も図1に示した先の実施例1と同じなのでここでの説明は省略する。
【0078】
上記した本実施例によっても、図1に記載した先の実施例と同様にシリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用されているシリコーン液の熱劣化により生成する低分子量で低沸点の環状化合物を、オンサイトで効率良く簡便に定量できるようにしてシリコーン液を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易に可能にしたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法が実現できる。
【実施例3】
【0079】
図5に別のシリコーン液入り電気機器の例を示す。本例はシリコーン液を分析装置内に循環させる例である。本実施例では、シリコーン液の採取口をタンク本体(1)、放出口を冷却器の配管(9b)とした。循環のためのポンプは省略した。
【0080】
バルブ(21a、21b)を開放して分析装置の配管中にシリコーン液を循環させ、充分に内部のシリコーン液が測定時のものに入れ替わった時点でバルブを閉め、ガス成分採取容器(17)内の所定量のシリコーン液を加熱して環量体量を測定する。
【0081】
測定後のシリコーン液は、環量体が減少したのみであるため、バルブを開放しタンクに戻すことができる。
【0082】
なお、冷却配管(9b)よりシリコーン液を採取してもかまわないが、分析時の加熱を軽減でするため、冷却配管(9a)、あるいはタンク本体の上部から採取するのが効率的である。
【0083】
また、冷却配管はシリコーン液の流速が早いため、放出口を配管とすることにより循環が生じ、ポンプの一部を省略できて好ましい。
【0084】
さらに、本実施例では、診断結果を知らせる機能を付した。ガス分析装置の測定結果は、信号線(22)により端子箱(23)を介して、警報信号線(25)、常時監視信号線(26)により、警報装置、監視装置や記憶部に送信される。
【0085】
管理者は、シリコーン液の劣化状態を確認し、機器の管理を行うことができる。例えば、環量体の放出量が予め設定した所定値を超えた場合、シリコーン液が劣化したと判断し警報を発する警報装置等を備えてもよい。
【0086】
設定値は、劣化させたシリコーン液より得られる測定値と、電気伝導性や着火温度等の特性を調べて設定する。
【0087】
なお、バルブや警報装置は適宜公知のものを採用可能であるが、電源停止時にバルブが開放され、警報がONとなるものが好ましい。
【実施例4】
【0088】
次に、ガス分析装置を備えたシリコーン液入り電気機器の運転パターンの一例について説明する。ガス分析装置による診断は、週に一度や月に一度などの設定された頻度や、または常時繰り返して行うことができる。
【0089】
以下、周期ごとに行う制御装置を用いた診断の例を説明する。ガス分析装置の運転は、主として測定準備、測定、清掃、定常状態の4段階に分けられる。
【0090】
【表1】

【0091】
なお、上記の表1の各段階に必要な時間は、配管の構成、シリコーン液の検査の頻度や、シリコーン液の使用期間等により適宜調整することができる。また、一定期間経過ごとに測定を行う場合には、複数台の電気機器と一台の分析装置を配管で接続することにより、配管の流路を切り替えて各電気機器の監視を行うことも可能である。
【0092】
測定準備段階では、ポンプ、バルブを開放し、タンクと接続された採取配管や、シリコーン液を採取するガス成分採取容器中のシリコーン液を循環させる。測定段階では、ポンプ、バルブを閉め、ヒータを作動して、ガス成分採取容器に一定量採取されたシリコーン液を加熱し、環量体を採取する。
【0093】
清掃段階では、ヒータを停止し、分析装置等に残留する成分や、シリコーン液を浄化・除去する。診断後のシリコーン液は環量体等が除去され、分解物が少ないものとなっているため、系外に排出せず、タンク内に戻してもよい。また、測定されるシリコーン液の量は少量(1〜50ml程度)であるため、廃棄することにしてもよい。
【0094】
測定時に検知された情報に基づき、管理者にシリコーン液の劣化を知らせる手段や、シリコーン液入り電気機器の運転を停止する手段の制御を行い、効率よく機器の異常を防止し、予防保全を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、シリコーン液入り電気機器の絶縁・冷却媒体として使用するシリコーン液に熱劣化によって生成される低分子量で低沸点の環状化合物を、オンサイトで効率良く簡便に定量できるようにしてシリコーン液を絶縁・冷却媒体に使用する電気機器の予防保全を容易にしたシリコーン液入り電気機器、シリコーン液入り変圧器、及びシリコーン液入り電気機器に使用されているシリコーン液中の環状化合物の測定方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の一実施例であるシリコーン液入り変圧器の構成を示す模式図。
【図2】シリコーン液の加熱温度と環量体のイオン強度との関係を示す特性図。
【図3】監視装置のモニター画面の模式図。
【図4】本発明の他の実施例であるシリコーン液入り変圧器の構成を示す模式図。
【図5】本発明の他の実施例であるシリコーン液入り変圧器の構成を示す模式図。シリコーン液を分析装置内に循環させる例。
【符号の説明】
【0097】
1:タンク、2:鉄心、3:内側巻線、4:外側巻線、5:絶縁筒、6:絶縁冷却媒体、7:窒素、8:冷却器、9a、9b:冷却配管、10a、10b:締付金具、11、12、13、14:絶縁物、15:油導入部、16a、16b:配管、17:ガス成分採取容器、18:ガス配管、19:ガス分析装置、20:ヒータ、21a、21b:バルブ、22:信号線、23:端子箱、24:電源線、25:警報信号線、26:常時監視信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気装置を内部に収容したタンクと、前記タンク内に収容された電気装置を絶縁し冷却するシリコーン液を有するシリコーン液入り電気機器において、前記シリコーン液を採取する採取配管と、前記採取配管で採取されたシリコーン液を加熱し、シリコーン液中に含有される環状化合物を蒸発気化させるガス成分採取容器と、前記ガス成分採取容器で採取された環状化合物を分析するガス分析装置を備えたことを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項2】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記ガス分析装置より得られた情報に基づきシリコーン液の劣化度を判定する判定装置を備えたことを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項3】
請求項2に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記判定装置の情報に基づき、シリコーン液の劣化を周知する警報装置を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項4】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記電気装置は鉄心と巻き線を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項5】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記シリコーン液入り電気機器は変圧器、リアクトル、電圧調整器、コンデンサ、抵抗器のいずれかであることを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項6】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記ガス成分採取容器は所定量のシリコーン液を採取する機能を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項7】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記成分採取容器に残留したシリコーン液を前記タンクに戻す戻り配管と、前記戻り配管にシリコーン液を環流させるポンプとを有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項8】
請求項7に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記ポンプを所定の周期で作動または停止させる制御装置を有し、前記制御装置は前記ポンプの停止時に前記ガス成分採取容器を加熱し、かつ前記ガス分析装置でガスを分析させる機能を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項9】
請求項1に記載されたシリコーン液入り電気機器において、前記ガス成分採取容器は、前記シリコーン液を100〜220℃で加熱する機能を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項10】
請求項1に記載したシリコーン液入り電気機器において、前記タンク内のシリコーン液を冷却する冷却器と、前記タンクと冷却器との間に配設されたシリコーン液を循環させる冷却配管とを有し、前記冷却配管に連通されたシリコーン液の採取配管を有することを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項11】
請求項1に記載したシリコーン液入り電気機器において、前記シリコーン液は引火点が250℃以上、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下であることを特徴とするシリコーン液入り電気機器。
【請求項12】
鉄心と前記鉄心に装着された巻線とを内部に収容したタンクと、前記鉄心及び巻線を絶縁し冷却する前記タンクに満たされたシリコーン液とを有するシリコーン液入り変圧器において、前記シリコーン液を採取する採取配管と、前記採取配管で採取されたシリコーン液を加熱し、前記シリコーン液中の環状化合物を気化させるガス成分採取容器と、前記ガス成分採取容器で採取した環状化合物を分析するガス分析装置を備えたことを特徴とするシリコーン液入り変圧器。
【請求項13】
請求項12に記載したシリコーン液入り変圧器において、前記採取配管は前記タンクに直接接続されて配設されていることを特徴とするシリコーン液入り変圧器。
【請求項14】
請求項12に記載したシリコーン液入り変圧器において、前記シリコーン液を冷却する冷却器と、前記タンクと前記冷却器との間に配設され、シリコーン液を循環させる冷却配管と、前記冷却配管に連通するよう配設されている採取配管とを有することを特徴とするシリコーン液入り変圧器。
【請求項15】
請求項12に記載したシリコーン液入り変圧器において、前記シリコーン液の引火点が250℃以上であり、かつ、25℃における動粘性係数が50mm/s以下であることを特徴とするシリコーン液入り変圧器。
【請求項16】
シリコーン液中に含まれる環状化合物の分析方法であって、前記シリコーン液を加熱して前記環状化合物を気化し、前記気化された環状化合物を分析することを特徴とするシリコーン液中の環状化合物の測定方法。
【請求項17】
電気装置を内部に収容したタンクと、前記電気装置を絶縁し冷却するシリコーン液とを有するシリコーン液入り電気機器の保全方法であって、前記シリコーン液入り電気機器の稼動中に、前記タンク内のシリコーン液を採取し、前記採取されたシリコーン液を加熱してシリコーン液中に含まれる環状化合物を気化し、前記気化された環状化合物を分析することを特徴とするシリコーン液入り電気機器の保全方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−182161(P2008−182161A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16168(P2007−16168)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(503020574)株式会社日本AEパワーシステムズ (56)
【Fターム(参考)】