説明

シリコーン表面処理水酸化マグネシウム

【課題】ベース樹脂への添加により充分な難燃性を付与することができ、そのとき、伸びなどの機械的物性が充分に維持される水酸化マグネシウム系難燃化剤、充分な難燃性と充分な機械的特性とを有する難燃性ポリエチレン樹脂組成物、及び、そのような難燃性ポリエチレン樹脂組成物からなる被覆層を有する被覆電線を提供する。
【解決手段】水素原子の結合したケイ素原子を含むシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%以下であるケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなるシリコーンオイルで表面処理をしたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性付与剤としてポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂(以下、これらを「ポリオレフィン系樹脂」という)などの結晶性熱可塑性樹脂に添加するシリコーン表面処理水酸化マグネシウム、そのようなシリコーン表面処理水酸化マグネシウムが添加されたポリオレフィン系樹脂組成物、及び、そのようなポリオレフィン系樹脂組成物からなる被覆層を有する被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲンフリー電線用被覆材のベース樹脂として広く用いられているポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂では、それらの著しく低い耐熱特性を改善するために、難燃化フィラーの多量添加が必要とされている。このような難燃化フィラーとしては、燃焼時の発煙性が低い安全な難燃材として主に表面が疎水化処理された水酸化マグネシウムが用いられている(特許文献1〜4)。
【0003】
ここで、従来の疎水化処理には疎水化処理剤として、ビニルシランやアミノシランなどのシランカップリング剤、ステアリン酸などの高級脂肪酸、あるいは、リン酸など用いられていた。
【0004】
しかしながら、このような表面が疎水化処理された水酸化マグネシウムは、疎水化処理なしの水酸化マグネシウムよりは改善されてはいるものの、やはり、配合したベース樹脂の伸びや柔軟性などの機械的物性の低下を来たす。すなわち、充分な伸びを確保しようとすると難燃性が不足しがちとなり、充分な難燃性を確保しようとすると伸びなどの機械的特性が低下する。
【0005】
ここで、従来、検討されてきた未処理及び表面処理水酸化マグネシウムの低密度ポリエチレン系ベース樹脂(プライムポリマー社製低密度ポリエチレン)への添加量と限界酸素量(LOI)との関係を表1に示す(表1中メチルハイドロジェンシリコーンオイルを用いたもの以外は市販の表面処理済みの水酸化マグネシウムを用いた。製品名がそれぞれ"Magnifin"のものはアルベマール社製、"キスマ"は協和化学工業社製、"Magseeds"は神島化学工業社製である)。
【0006】
【表1】

【0007】
表1より理解できるようにいずれの場合も添加量が40重量%以上でないと充分に高い難燃性が得られないが、これらの系すべてで添加量が40重量%以上となると伸びが著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−285162公報
【特許文献2】特開2001−226676公報
【特許文献3】特開2003−253266公報
【特許文献4】特開2003−129056公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、メチルハイドロジェンシリコーンオイルはその分子中の"Si−H"基により、水酸化マグネシウム表面と化学的に結合することが予想され、そのとき、機械的性能、及び、難燃性の格段の向上が期待された。
【0010】
しかしながら、実際に検討を行ってみると表1に併記したように、その効果は充分に発揮されないようであった。
【0011】
本発明は、このようなメチルハイドロジェンシリコーンオイルでの検討結果を踏まえ、さらに高い効果を得ることにより、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、ベース樹脂への添加により充分な難燃性を付与することができ、そのとき、伸びなどの機械的物性が充分に維持される水酸化マグネシウム系難燃化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、水素原子の結合したケイ素原子を含むシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%以下であるケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなるシリコーンオイルで表面処理をしたことを特徴とするシリコーン表面処理水酸化マグネシウムである。
【0013】
また、本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムにおいて、前記シリコーンオイルが、水素原子の結合したケイ素原子を含むシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均30モル%以下であるケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなるシリコーンオイルであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは、請求項3に記載の通り、請求項1または請求項2に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムにおいて、前記表面処理として、前記シリコーンオイルと水酸化マグネシウムとを混合した後、80℃以上250℃以下での加熱処理を行ったことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは、請求項4に記載の通り、請求項3に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムにおいて、前記表面処理において、前記水酸化マグネシウムと前記シリコーンオイルとの和を100重量部としたときに、前記シリコーンオイルが3重量部以上5重量部以下となるように配合されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムにおいて、前記シリコーンオイル中のシロキサン単位の繰返し数が平均値で20以上400以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは、請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムにおいて、前記シリコーンオイルで表面処理を行う水酸化マグネシウムが、高級脂肪酸で予め表面処理を行ったものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムによれば、ベース樹脂への添加により充分な難燃性を付与することができ、そのとき、伸びなどの機械的物性が充分に維持される。
【0019】
本発明の難燃性ポリエチレン樹脂組成物は少量の水酸化マグネシウム系難燃化剤の添加で、充分な難燃性と、例えば難燃性電線被覆層とした際に求められる、充分な伸びなどの機械的物性とが得られる。
【0020】
本発明の被覆電線は被覆層への少量の水酸化マグネシウム系難燃化剤の添加により、充分な難燃性と充分な伸びなどの機械的物性とが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムで用いられる水酸化マグネシウムとしては、難燃化剤として一般に入手できる粉状の水酸化マグネシウム、例えば粒径が0.1〜10μm程度のものを用いることができる。このとき、すでに高級脂肪酸またはそのアルカリ金属塩、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、シラン酸カップリング剤、チタネートカップリング剤などによりすでに疎水化されている水酸化マグネシウム(たとえば、協和化学工業社などから市販されている)も用いることができる。
【0022】
シリコーンオイルは、水素原子の結合したケイ素原子(すなわち、Si−H基)を含むケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなる。Si−H基を有するシロキサン単位の含有量は、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%以下であり、末端シロキサン単位、及び/または、ポリマー鎖中のシロキサン単位に位置することができる。このシリコーンオイルは直鎖状のシロキサンポリマーであることが好ましく、一部分岐状構造を含んでもよい。直鎖状のシロキサンポリマーとしては、RHSiO2/2で表されるシロキサン単位、および/または、R2XSiO1/2で表されるシロキサン単位、ならびにR2SiO2/2で表されるシロキサン単位を分子中に含有するものが好ましい。これらの式中、Rは、炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜8の、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは水素原子もしくはRを表す。上記一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフロロプロピル基、3-クロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基;ビニル基、アリル基、ヘキセニル基等のアルケニル基が例示され、好ましくはメチル基である。
【0023】
好ましいシリコーンオイルとしては、下記化学式(I)で示される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体が例示される。
【0024】
【化1】

式中、m>0であり、n>0であり、n/(m+n+2)≦0.5である。なお、20≦m+n≦400であることが好ましい。
【0025】
ここでSi−H基を有するシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%を超えると本発明の効果、すなわち、充分な難燃性付加と高い機械的特性とを合わせて得ることができない。ここで上記含有量が2.5%以上30%以下であることが好ましい。さらに良好な難燃性負荷とより改善された機械的特性とを得ることができるからである。
【0026】
このように、Si−H基を有するシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%以下のシリコーンオイルによって処理することで、メチルハイドロジェンシリコーンユニット単独の重合体のシリコーンオイルを用いた場合に比べて高い性能が得られることは、全く予想できず、まさに驚くべき効果と云うべきである。
【0027】
ここで、シリコーンオイル中の、RHSiO2/2で表されるシロキサン単位、R2XSiO1/2で表されるシロキサン単位、及び、R2SiO2/2で表されるシロキサン単位などの含有量は、シリコーンオイルをテトラエトキシシラン中でKOH触媒と共に加熱することで加水分解させ、得られたアルキルエトキシシラン類をガスクロマトグラフィーにて定量する方法や、NMR(核磁気共鳴法)などにより測定することができる。
【0028】
また、シリコーンオイル中のシロキサン単位の繰返し数が平均値で20以上400以下であることが好ましい。すなわち、これら繰返し数が20未満であると上記化学式(I)で示される化合物は蒸発しやすくなり、その結果、水酸化マグネシウムの表面処理が困難となり、充分な難燃効果が得られなくなりやすく、一方、400超であると共重合体の粘度が高くなり、その結果、充分な表面処理ができず、難燃効果が得られにくくなる。
【0029】
このような共重合体(シリコーンオイル)を用いて水酸化マグネシウムに対して表面処理を行うが、このとき、水酸化マグネシウムと前記シリコーンオイルとの重量和を100重量部としたときに、シリコーンオイルが3重量部以上5重量部以下となるように混合する。
【0030】
このとき、前記シリコーンオイルの分量が3重量部未満の場合には、本発明の効果が充分に得られにくく、また、前記シリコーンオイルを5重量部を越えて用いた場合には使用量の増加に見合う効果の増加は得られず、むしろ、ブリードアウトするなどの好ましくない影響が生じるおそれがある。
【0031】
これらの混合の際には前記シリコーンオイルが水酸化マグネシウム粒子の表面にできるだけ均一に付着するように、前記シリコーンオイルを水酸化マグネシウムに対してスプレーして供給する方法や、湿式表面処理、あるいは、乾式表面処理によって実施する。より具体的にはヘンシェルミキサー等を用いて水酸化マグネシウムを攪拌しながら、シリコーンオイルを加える。
【0032】
このように前記シリコーンオイルと水酸化マグネシウムとを混合した後に、80℃以上250℃以下での加熱処理を行うことが好ましい。
【0033】
このような温度での加熱処理を行わないと前記シリコーンオイルと水酸化マグネシウムが分離しやすくなり、また、250℃超での加熱処理を行った場合にはシリコーンオイルが分解することがある。加熱処理時間としては、10分以上180分以下であることが好ましい。10分未満であると充分な難燃効果が得られないおそれがあり、一方、180分を越えて加熱処理をしても、加熱処理時間延長に見合う効果の増加は得られない。
【0034】
このようにして、前記シリコーンオイルにより表面処理を行い、本発明に係るシリコーン表面処理水酸化マグネシウムが得られる。
【0035】
このようなシリコーン表面処理水酸化マグネシウムは一般的な疎水化処理水酸化マグネシウムと同様に、ベース樹脂に添加され、混合される。
【0036】
ベース樹脂としては、例えばノンハロゲン電線用の電線被覆用難燃樹脂組成物の場合にはベース樹脂として、ポリエチレン系樹脂化合物、ポリプロピレン系樹脂化合物等のポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0037】
これらベース樹脂としての混合はバンバリーミキサー、ロールミル、二軸混練機、加圧ニーダーなどを用いて充分に均一となるように行う。
【0038】
なお、ベース樹脂への配合の際には、最終製品で配合比とせずに、より高い配合比として添加・混合した後、例えば押出成形してペレット化し、最終製品とする(例えば被覆電線の場合には芯線の回りに押出成形する)時に、マスターパッチとして添加するなどの方法を用いても良い。
【0039】
ここで、前記シリコーン表面処理水酸化マグネシウムの配合比は、充分な難燃性と充分な伸びとを得るために、最終の樹脂組成物の30重量%以上60重量%以下となるように配合することが好ましい。30重量%未満であると充分な難燃性が得られにくく、60重量%を越えて添加すると充分な伸びが得られにくくなる。
【実施例】
【0040】
以下に本発明のシリコーン表面処理水酸化マグネシウムの実施例について具体的に説明する。
【0041】
<ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体>
ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体としては、東レ・ダウコーニング社製のものを用いた。化学式(I)のmとnの数はシリコーンオイルをテトラエトキシシラン中でKOH触媒と共に加熱することで加水分解させ、得られたアルキルエトキシシラン類をガスクロマトグラフィーにて定量することにより測定したもの(平均値)である。なお、以下、nまたはmが0と云う場合には、重合の段階でモノマーを1種だけとして重合させた場合である。
【0042】
なお、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体以外に、ポリジメチルシロキサン(化学式を化学式(II)に示す)、及び、ポリメチルハイドロジェンシロキサンも表面処理用シリコーンオイルとして用いた。
【0043】
【化2】

【0044】
<シリコーン表面処理水酸化マグネシウムの作製>
市販の樹脂混合用の難燃化剤である水酸化マグネシウム(ステアリン酸で表面処理されたもの、協和化学工業社製キスマ5AL)に対して、上記シリコーンオイルをそれぞれ所定の配合比になるように添加し、ヘンシェルミキサーを用いて1時間、攪拌しながら加熱処理(150℃)を行ってシリコーン表面処理水酸化マグネシウムを得た。
【0045】
<シリコーン表面処理水酸化マグネシウム配合難燃性樹脂組成物>
上記シリコーン表面処理水酸化マグネシウムを低密度ポリエチレン系ベース樹脂(プライムポリマー社製ミラソン3530)に所定の配合比となるようにロールミルを用いて、130℃で充分に均一分散させた。
【0046】
<難燃性樹脂組成物の評価>
上記で作製した難燃性樹脂組成物の評価としてその酸素指数(LOI)と伸び率について調べた。
【0047】
酸素指数(LOI)としては、上記難燃性樹脂組成物を加圧成形によって、3mm厚のシート状とした後、短冊状に打ち抜いた後、JIS K7201に準拠して評価した。
【0048】
一方、伸び率は上記難燃性樹脂組成物を加圧成形によって、1mm厚のシートとなるように成形した後、ダンベル状に打ち抜いて試料として、JIS K6251に準拠して評価した。
【0049】
<評価結果(1):ユニットの存在比率の検討>
式(I)において、mとnとの和、すなわち、シリコーンオイル中のシロキサン単位の繰返し数が45で、かつ、nの値を0〜45に変化させた、それぞれのシリコーンオイルを用い、水酸化マグネシウムとシリコーンオイルとの和を100重量部としたときに、シリコーンオイルが3重量部となるように水酸化マグネシウムと配合して表面処理を行ったシリコーン表面処理水酸化マグネシウムを40重量%となるように低密度ポリエチレン系ベース樹脂に配合してなる難燃性ポリエチレン樹脂組成物における、nの値と酸素指数及び伸び率との関係を図1に示す。
【0050】
ここで、nの値が0超で、かつ、22.5以下(すなわち、分子鎖中のジメチルシロキサン単位とメチルハイドロジェンシロキサン単位の中のメチルハイドロジェンシロキサン単位の含有量が50モル%以下である)の範囲のシリコーンオイルを用いた場合で高い酸素指数と高い伸び率とが同時に得られ、それらの結果は従来技術に係る、ポリメチルハイドロジェンシロキサン(n=45)を用いた場合に比べ、非常に高くなること、及び、ポリジメチルシロキサン(n=0)よりも高いことが判る。なお、伸び率評価時の降伏応力はいずれのサンプルでも10.2〜11.2であり、同等のレベルであった。
【0051】
<評価結果(2):シリコーンオイルと水酸化マグネシウムの配合比の検討>
上記と同様に、ただし、水酸化マグネシウムと化学式(I)で示されるシリコーンオイルとの和を100重量部としたときに、シリコーンオイルが1重量部、3重量部あるいは5重量部となるように配合して表面処理を行ったシリコーン表面処理水酸化マグネシウムを40重量%となるように低密度ポリエチレン系ベース樹脂に配合してなる難燃性ポリエチレン樹脂組成物について、酸素指数について評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より、表面処理において、前記水酸化マグネシウムと前記シリコーンオイルとの和を100重量部としたときに、前記シリコーンオイルが3重量部以上5重量部以下となるように配合された場合に特に高い酸素指数(27以上)が得られることが判る。
【0054】
<評価結果(3):他の表面処理剤との比較>
表面処理なしの水酸化マグネシウム(アルベマール社製マグニフィンH5、以下「表面処理なし」とも云う)、ステアリン酸による表面処理された水酸化マグネシウム(協和化学工業社製キスマ5AL、以下「ステアリン酸処理」とも云う)、上記同様に、ただし、ポリメチルハイドロジェンシロキサン(式(I)においてm=0でn=45)が3重量%となるように配合されて表面処理されたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム(以下「MHS処理」とも云う)、あるいは、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(式(I)においてm=40でn=5)がシリコーン表面処理水酸化マグネシウム中で3重量%となるように配合されて上記同様に表面処理されたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム(以下「DMS−MHS処理」とも云う)をそれぞれ30重量%、40重量%、あるいは50重量%となるようにベース樹脂に配合して得た難燃性ポリエチレン樹脂組成物について、難燃化剤配合量と伸び率との関係、及び、難燃化剤配合量と酸素指数との関係を、それぞれ図2及び図3に示す。
【0055】
本発明に係る難燃性ポリエチレン樹脂組成物ではいずれも他の難燃化剤を用いた場合に比べ、高い酸素指数と高い伸び率とが同時に得られることが判る。
【0056】
<評価結果(4):より高い分子量のシリコーンオイルでの検討>
上記(評価結果(1)での場合)同様に、ただし、上記化学式(I)におけるmとnの和、すなわち、シリコーンオイル中のシロキサン単位の繰返し数が45、90、及び、360のシリコーンオイル(それぞれnの値は、5、10、及び40)を用い、これらのいずれかのシリコーンオイルがシリコーン表面処理水酸化マグネシウム中に3重量%、あるいは5重量%となるように配合されて上記同様に表面処理されたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム(以下「DMS−MHS処理」とも云う)をそれぞれ40重量%となるようにベース樹脂に配合して得た難燃性ポリエチレン樹脂組成物について、その酸素指数を評価した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3より、上記いずれシリコーンオイルを用いた場合も、30付近あるいはそれ以上の高い酸素指数を得ることができることが判る。
【0059】
<評価結果(5):ステアリン酸による処理なしの水酸化マグネシウムを用いた検討>
上記(評価結果(1)での場合)同様に、ただし、ステアリン酸による処理なしの水酸化マグネシウム(アルベマール社製マグニフィンH5)を用いて上記化学式(I)におけるmが40、nが5のシリコーンオイルをシリコーン表面処理水酸化マグネシウム中に1重量%、3重量%、あるいは5重量%となるように配合されて上記同様に表面処理されたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム(以下「DMS−MHS処理」とも云う)をそれぞれ40重量%となるようにベース樹脂に配合して得た難燃性ポリエチレン樹脂組成物について、その酸素指数を評価したところ、それぞれ、25.6、29.2、あるいは30.4であり、上記同様、シリコーンオイルが3重量%及び5重量%の添加の系で特に高い酸素指数がえられることが確認された。また、このとき、伸び率についても評価を行ったが、予めステアリン酸処理を行った水酸化マグネシウムを用いた場合と同レベルの結果が得られた。
【0060】
<評価結果(6):表面処理時の温度の検討>
上記(評価結果(1)での場合)同様に、ただし、上記化学式(I)におけるmが40、nが5のシリコーンオイルをシリコーン表面処理水酸化マグネシウム中に3重量%となるように配合されて上記同様に、ただし処理温度を80℃、あるいは180℃として表面処理されたシリコーン表面処理水酸化マグネシウム(以下「DMS−MHS処理」とも云う)を40重量%となるようにベース樹脂に配合して得た難燃性ポリエチレン樹脂組成物について、その酸素指数、及び、伸び率を評価したところ、表面処理温度を150℃とした場合と同レベルであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】評価結果1における低密度ポリエチレン系ベース樹脂に配合してなる難燃性ポリエチレン樹脂組成物における、nの値と酸素指数及び伸び率との関係を示すグラフである。
【図2】評価結果(3)における難燃化剤配合量と伸び率との関係を示すグラフである。
【図3】評価結果(3)における難燃化剤配合量と酸素指数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素原子の結合したケイ素原子を含むシロキサン単位の含有量が、一分子中のシロキサン単位の平均50モル%以下であるケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなるシリコーンオイルで表面処理をしたことを特徴とするシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。
【請求項2】
前記シリコーンオイルが、水素原子の結合したケイ素原子を含むシロキサン単位の含有量が一分子中のシロキサン単位の平均30モル%以下であるケイ素原子結合水素原子含有ポリジオルガノシロキサンからなるシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。
【請求項3】
前記表面処理として、前記シリコーンオイルと水酸化マグネシウムとを混合した後、80℃以上250℃以下での加熱処理を行ったことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。
【請求項4】
前記表面処理において、前記水酸化マグネシウムと前記シリコーンオイルとの和を100重量部としたときに、前記シリコーンオイルが、3重量部以上5重量部以下となるように配合されたことを特徴とする請求項3に記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。
【請求項5】
前記シリコーンオイル中のシロキサン単位の繰返し数が、平均値で20以上400以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。
【請求項6】
前記シリコーンオイルで表面処理を行う水酸化マグネシウムが、予め高級脂肪酸で表面処理を行ったものであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシリコーン表面処理水酸化マグネシウム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−31271(P2010−31271A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156942(P2009−156942)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】