説明

シリルメチルペンタセン化合物及び組成物、並びにそれらの製造及び使用方法

シリルエチニルペンタセン及びシリルエチニルペンタセンを含む組成物を開示する。例示的なペンタセン化合物は、6,13−シリルエチニル置換され、シリルエチニル基の各ケイ素原子に1個以上の基(例えばR、R’及びR”)が共有結合している。シリルエチニルペンタセン及びシリルエチニルペンタセンを含む組成物の製造並びに使用方法についても開示する。シリルエチニルペンタセン及び組成物を含む基板及びデバイスについても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にはシリルエチルペンタセン及びシリルエチルペンタセンを含有する組成物に関する。本発明は更に、シリルエチルペンタセンを製造及び使用する方法、並びにシリルエチルペンタセンを含有する組成物に一般的に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ベースのトランジスタからなる電子デバイスは、無機トランジスタからなる電子デバイスと比較して性能面では見劣りがするもののより低コストで製造することができ、より大きな面積のフォーマットに適用することができる。一般に有機ベーストランジスタは、小型の分子又はポリマーを半導体材料として利用している。通常、小分子半導体材料は有機溶媒に対する溶解度が低いために薄膜を形成するには真空蒸着する必要がある。有用なデバイスを製造するための多層パターニングにはシャドーマスク又はフォトリソグラフィー法を必要とする。真空蒸着及びリソグラフィーは、真空蒸着及びリソグラフィーを必要としないプロセス(例えば溶液コーティング法)よりも大幅にコストがかかるプロセスを必要とする。
【0003】
安価な電子デバイスを製造するためのコスト効率の高いアプローチの1つとして、以下の代表的なコーティング法、すなわちスピンコーティング、ナイフコーティング、ロール・ツー・ロール・ウェブコーティング、及びディップコーティング、並びにインクジェット印刷、スクリーン印刷、及びオフセットリソグラフィーなどの印刷法のいずれかによって有機半導体材料を塗布することがある。しかしながら、上記に述べたように有機半導体材料は溶媒に溶けにくいことで有名であり、溶解するものも一般に溶液中で不安定である。不溶性及び不安定性の問題のため、安価な電子デバイスを作製するために上記のような安価なコーティング工程を使用して有機半導体材料を塗布する可能性は限定されている。
【0004】
6,13−シリルエチニル置換されたペンタセンに基づいた特定の有機半導体は、(i)有機溶媒に溶解し、(ii)溶液中で安定であり、(iii)有機電界トランジスタ(OFET)で高い性能を与えることが示されている。例えば、6,13−ビス[(トリイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(本明細書中では「TIPSペンタセン」とも呼ぶ)は、(i)有機溶媒中に一定の溶解度を有し、(ii)溶液中で一定の安定性を有し、(iii)有機電界トランジスタ(OFET)で高い性能を与えることが示されている。しかしながら、TIPSペンタセンであっても特定の有機溶媒に対する溶解度は限定されており、例えば電荷キャリア移動度の値によって測定されるような電子デバイス(例えばトランジスタ)において与えられる性能も限定されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
当該技術分野では、少なくとも以下の性質、すなわち、(i)1以上の有機溶媒への高い溶解度、(ii)特定の有機溶媒中に取り込まれた際の高い安定性、及び、(iii)例えば電子デバイスの電荷キャリア移動度の値によって測定される、半導体層として電子デバイスに組み込まれた際の高い性能、の少なくとも1つを与える有機化合物が求められている。
【0006】
本発明は、以下の性質、すなわち、(i)1つ以上の有機溶媒(例えばトルエン)への高い溶解度、(ii)特定の有機溶媒(例えばトルエン)中に取り込まれた際の高い安定性、及び、(iii)、電子デバイスの電荷キャリア移動度の値によって測定される、半導体層として電子デバイスに組み込まれた際の高い性能、の1つ以上を有する有機化合物、すなわち6,13−シリルエチニル置換されたペンタセン化合物の発見によって当該技術分野における特定の課題を解決するものである。本発明のペンタセン化合物は、電子デバイスの製造においてコーティング可能な組成物として利用することができる。更に、得られた電子デバイスは、約2.0cm/V−sよりも高い(例えば約2.4cm/V−sよりも高い、約3.0cm/V−sよりも高い、又はそれよりも高い)電荷キャリア移動度の値を示しうる。
【0007】
本発明は特定の6,13−シリルエチニル置換を有するペンタセン化合物に関する。例示的な一実施形態では、本発明は下記化学構造を有するペンタセン化合物に関する。
【0008】
【化1】

【0009】
(以後、「構造A」とも呼ぶ)
[式中、各Rは独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
各R’は独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
R”は、(i)水素、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iv)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(v)置換アリール基、(vi)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vii)アセチル基、又は(viii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、
x=1又は2であり、
y=1又は2であり、
z=0又は1であり、
(x+y+z)=3であり、
各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、(xi)ニトロ基を含むか、あるいは(xii)任意の2個の隣り合うX基同士が(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成し、
z=0であり、かつR及びR’がともに(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基の組み合わせを含む場合、ペンタセン化合物は、本発明のトランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法(後述、「TF及びCCMV試験方法」とも呼ぶ)によって測定される電荷キャリア最大移動度の値が2.0cm/V−s以上であるような半導体層の形成を可能とする。
【0010】
別の例示的実施形態では、本発明は、R、R’及びXが上記に定義したものであり、R”が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(iv)置換アリール基、(v)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vi)アセチル基、又は(vii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、かつ、x=y=z=1であるような上記構造Aを有するペンタセン化合物に関する。
【0011】
更なる別の例示的実施形態では、本発明は、R、R’及びXが上記に定義したものであり、R”が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(iv)置換アリール基、(v)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vi)アセチル基、又は(vii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、(x+y+z)=3であり、かつx又はy=2であってz=1であるような上記構造Aを有するペンタセン化合物に関する。
【0012】
更なる別の例示的実施形態では、本発明は、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に定義したものであり、R又はR’の少なくとも一方が(i)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を有するような上記構造Aを有するペンタセン化合物に関する。特定の実施形態では、ペンタセン化合物は上記構造Aであり、(a)R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に定義したものであり、(b)R又はR’の少なくとも一方が(i)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、(c)残りの基(すなわちR、R’、R”)が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基のいずれかを含むような構造Aを有する。
【0013】
本発明は更に、(i)R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有する少なくとも1つのペンタセン化合物と、(II)溶媒とを含む組成物に関する。本発明の組成物は、前記少なくとも1つのペンタセン化合物及び溶媒を、それら単独で又はポリマー添加剤などの1つ以上の更なる組成物成分と組み合わせて含みうる。
【0014】
本発明は更に、少なくとも1つのコーティング可能な表面と、前記少なくとも1つのコーティング可能な表面上にコーティングされた層とを有する基板であって、前記コーティング層が、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物を含む基板に関する。例示的な一実施形態では、前記基板は電子デバイス又は電子デバイス要素を含む。
【0015】
本発明は更に、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物を含むコーティング層を有する電子デバイスであって、電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−sよりも大きい電子デバイスにも関する。
【0016】
本発明は更に、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物の製造方法にも関する。
【0017】
本発明は更に、組成物(例えばインクジェット印刷用組成物)、コーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス要素、及び電子デバイスを形成するために、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有する少なくとも1つのペンタセン化合物を使用する方法に関する。
【0018】
本発明のこれら及びその他の特徴及び利点は、以下の開示される実施態様の詳細な説明及び添付の請求項を検討すれば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付の図面を参照しながら本発明を更に説明する。
【図1】本発明の少なくとも1つのペンタセン化合物を含む組成物の溶液成膜によって形成された半導体層を有する例示的な薄膜トランジスタの断面図。
【図2】本発明の少なくとも1つのペンタセン化合物を含む組成物の溶液成膜によって形成された半導体層を有する別の例示的な薄膜トランジスタの断面図。
【図3】掃引ゲートバイアスの関数としてトランジスタ出力(IDS及び(IDS1/2をプロットした代表的なプロット。
【図4】熱転移を示す、TIPSペンタセンの示差走査熱量測定グラフの代表的なサーモグラム。
【図5】本発明の少なくとも1つのペンタセン化合物を含む組成物の溶液成膜によって形成された半導体層を有する更なる別の例示的な薄膜トランジスタの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、下記化学構造(「構造A」とも呼ぶ)を有するペンタセン化合物に関する。
【0021】
【化2】

【0022】
[式中、各Rは独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
各R’は独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
R”は、(i)水素、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iv)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(v)置換アリール基、(vi)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vii)アセチル基、又は(viii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、
x=1又は2であり、
y=1又は2であり、
z=0又は1であり、
(x+y+z)=3であり、
各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、(xi)ニトロ基を含むか、あるいは(xii)任意の2個の隣り合うX基同士が(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成し、
z=0であり、かつR及びR’がともに(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基の組み合わせを含む場合、ペンタセン化合物は、本発明のトランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法(後述する)によって測定される最大電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−s以上であるような半導体層の形成を可能とする。
【0023】
本発明のペンタセン化合物を説明するためには多くの用語を使用する。本明細書中で使用する様々な用語を下記に定義する。
【0024】
「置換アルキル基」とは、1つ以上の置換基を有するアルキル基を指し、その1つ以上の置換基がそれぞれ、炭素及び水素以外の1つ以上の原子を有する1価の部分を、単独で(例えばFなどのハロゲン)あるいは炭素(例えばシアノ基)及び/又は水素原子(例えば水酸基又はカルボン酸基)と組み合わせて有するようなものを指す。
【0025】
「置換アルケニル基」とは、(i)1つ以上のC−C2重結合、及び(ii)1つ以上の置換基を有するアルケニル基であって、その1つ以上の置換基がそれぞれ、炭素及び水素以外の1つ以上の原子を有する1価の部分を、単独であるいは炭素及び/又は水素原子と組み合わせて有するようなものを指す。
【0026】
「置換アルキニル基」とは、(i)1つ以上のC−C3重結合、及び(ii)1つ以上の置換基を有するアルキニル基であって、その1つ以上の置換基がそれぞれ、炭素及び水素以外の1以上の原子(例えばSi)を有する1価の部分を、単独であるいは炭素及び/又は水素原子と組み合わせて有するようなものを指す。
【0027】
「シクロアルキル基」とは、環構造内の3個以上の炭素原子(すなわち環構造内の炭素原子のみ)からなる環構造であって、環構造の1個の炭素原子がシリル基のケイ素原子に直接結合しているものを指す。
【0028】
「置換シクロアルキル基」とは、1つ以上の置換基を有するシクロアルキル基であって、その1つ以上の置換基がそれぞれ、1つ以上の原子を有する1価の部分(例えばFなどのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0029】
「シクロアルキルアルキレン基」とは、環構造内の3個以上の炭素原子(すなわち環構造内の炭素原子のみ)からなる環構造であって、環構造が、1つ以上の炭素原子(一般的には1〜3個の炭素原子、より一般的には1個の炭素原子)を有する2価のアルキルスペーサー基によってシリル基のケイ素原子から分離されているようなものを指す。
【0030】
「置換シクロアルキルアルキレン基」とは、1つ以上の置換基を有するシクロアルキルアルキレン基であって、その1つ以上の置換基がそれぞれ、1つ以上の原子を有する1価の部分(例えばフッ素などのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0031】
「置換アリール基」とは、環構造内の5〜10個の炭素原子(すなわち環構造内の炭素原子のみ)からなる芳香環構造であって、環構造の1個の炭素原子がシリル基のケイ素原子に直接結合するとともに環構造が1つ以上の置換基を有し、その1つ以上の置換基のそれぞれが1個以上の原子を有する1価の部分(例えばFなどのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0032】
「アリールアルキレン基」とは、環構造内の5〜10個の炭素原子(すなわち環構造内の炭素原子のみ)からなる芳香環構造であって、芳香環構造が、1個以上の炭素原子(一般的には1〜3個の炭素原子、より一般的には1個の炭素原子)を有する2価のアルキレンスペーサー基によってシリル基のケイ素原子から分離されているようなものを指す。
【0033】
「置換アリールアルキレン基」とは、1つ以上の置換基を有するアリールアルキレン基であって、その1つ以上の置換基がそれぞれ、1個以上の原子を有する1価の部分(例えばFなどのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0034】
「置換複素環」又は「置換複素環基」とは、環構造内にO、N、S及びSeの少なくとも1つを有するとともに環構造の少なくとも1つ以上の環員に1つ以上の置換基が結合した複素環(すなわち飽和、部分飽和、又は不飽和複素環)であって、芳香族性又は非芳香族性であってよく、前記1つ以上の置換基のそれぞれが、1個以上の原子を有する1価の部分(例えばFなどのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0035】
「置換炭素環」とは、環構造内に炭素を有するとともに環構造の少なくとも1つ以上の環員に1つ以上の置換基が結合した環(すなわち飽和、部分飽和、又は不飽和炭素環)であって、前記1つ以上の置換基のそれぞれが、1個以上の原子を有する1価の部分(例えばFなどのハロゲン、アルキル基、シアノ基、水酸基、又はカルボン酸基)を有するようなものを指す。
【0036】
「置換アルコキシ基」とは、1つ以上の置換基を有するアルコキシ基を指し、その1つ以上の置換基がそれぞれ、炭素及び水素以外の1個以上の原子を有する1価の部分を、単独で(例えばFなどのハロゲン)あるいは炭素(例えばシアノ基)及び/又は水素原子(例えば水酸基又はカルボン酸基)と組み合わせて有するようなものを指す。
【0037】
「エーテル基」とは、Rが分枝又は非分枝のアルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、又はアリールアルキレン炭化水素であり、Rが分枝又は非分枝のアルキル、アリール、アルキルアリール、又はアリールアルキル炭化水素であるような−R−O−Rラジカルを指す。
【0038】
「電荷キャリア移動度値」とは、電荷キャリアのドリフト速度を測定するための任意の試験方法によって測定される、印加された単位電場(V/cm)当たりの電荷キャリアのドリフト速度を指し、その測定単位は「cm/V−s」である。
【0039】
「移動度値試験方法Iにより測定される電荷キャリア移動度値」又は「移動度値試験方法IIにより測定される電荷キャリア移動度値」とは、後述する実施例の試験方法の項において述べるような特定の移動度値試験方法I又は移動度値試験方法IIによって測定される電子デバイスの電荷キャリア移動度の値を指す。
【0040】
「トランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法によって測定される電荷キャリア移動度値」又は「TF及びCCMV試験方法によって測定される電荷キャリア移動度値」とは、特定のデバイス構造、特定のデバイス材料、及び特定のデバイス製造方法を用いて製造された電子デバイスの電荷キャリア移動度値であって、後述する実施例の試験方法の項において述べるような特定の移動度値試験方法によって測定される電荷キャリア移動度値を指す。
【0041】
上記の化学構造を有するペンタセン化合物は、以下の性質、すなわち、(i)異なる溶媒中への高い溶解度、(ii)異なる有機溶媒中での高い安定性、及び(iii)電子デバイスの半導体層として使用された場合の高い電荷キャリア移動度値、の少なくとも1つを有することが示されている。上記の化学構造中のR基(すなわちR、R’及びR”)及びX基を変えることにより、得られるペンタセン化合物を特定の用途(例えば電子デバイスの半導体層)に対して適合させることができる。
【0042】
例えば、本発明の特定のペンタセン化合物を用いて電子デバイス(例えばトランジスタ)の半導体層を形成しようとする場合、ペンタセン化合物が2次元積層性を示す(すなわち、個々の分子の2次元的な積層)を示す性質は重要な考慮点であり、得られる半導体層の電荷キャリア移動度値に大きな影響を与えるものである。所定の積層形態の次元性は、与えられた材料の単結晶X線構造を調べることによって容易に測定することができる。2次元性又はすなわち「レンガ積み」積層性を示す特定の材料は、芳香族炭素原子間の接点が概ね炭素のファンデルワールス半径(理想的には3.3〜3.6オングストローム)内に存在する4個の最近接した隣接分子を有することによって特徴付けられる。単純なペンタセン単位を考えると、ペンタセン環の平面よりも上側に2個の芳香族近接隣接分子を、ペンタセン環の平面よりも下側に2個の芳香族近接隣接分子を有するあらゆる材料は、2次元的相互作用すなわち2次元積層形態を有するものとして分類される。一般に、2次元的なπ積層構造を有する分子は、電界効果トランジスタ用途における優れた薄膜形態、及び固体状態における高い電荷移動性を示す。
【0043】
各分子が芳香環の平面よりも上側に1個の積層隣接分子を、芳香環の平面よりも下側に1個の積層隣接分子を有する1次元積層形態も一般的である。芳香環の面同士の間の間隔は好ましくは炭素のファンデルワールス半径の範囲内である(理想的には3.3〜3.6オングストローム)。一般に、1次元積層形態を示す材料は溶液からキャストした場合には高性能のトランジスタとはならないが、こうした材料は光起電力デバイスで高い性能を示す。こうした1次元積層材料は、例えば光起電力デバイスの電子供与要素としての使用に適しており、置換基Xが電子吸引基(例えばフルオロ、フルオロアルキル、シアノ、又はニトロ基)である場合には、こうした材料は光起電力デバイスの電子受容要素としての使用に潜在的に適している。
【0044】
本発明のペンタセン化合物の多くは2次元又は1次元積層形態を示す。R、R’及びR”が2個の立体的に似た基と1個の立体的に異なる基をともに含むような化学構造(すなわち構造A)を有するペンタセン化合物は、例えば単結晶X線解析によって示されるように結晶固体状態では2次元積層形態を示す。これらの化合物では、立体的に似た2個の基は、ペンタセン化合物の5個の環構造を通じて延びる平面の両側面に空間的に配向し、立体的に異なる基は、実質的に結晶固体状態のペンタセン化合物の5個の環構造を含む平面内、又は平面に沿って(すなわち平面とほぼ平行に)空間的に配向するものと考えられる。
【0045】
そのため、望ましい一実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、R、R’及びR”が2個の立体的に似た基及び1個の立体的に異なる基をともに含み、前記2個の立体的に似た基がペンタセン化合物の5個の環構造を通じて延びる平面の両側面に空間的に配向し、前記立体的に異なる基が実質的に前記平面(すなわちペンタセン化合物の5個の環構造を含む平面)内に位置するような構造Aを有する。更なる望ましい一実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、R、R’及びR”が2個の同じ基及び異なる1個の基をともに含み、前記2個の同じ基がペンタセン化合物の5個の環構造を通じて延びる平面の両側面に空間的に配向し、前記異なる基が実質的に前記平面(すなわちペンタセン化合物の5個の環構造を含む平面)内に位置するような構造Aを有する。
【0046】
例えば、ペンタセン化合物は、(a)(i)2個のR基が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基を含むか、又は(a)(ii)2個のR’基が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基を含み、かつ、(b)ケイ素原子に結合した残りの基が、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基以外の置換基を含む場合のように、ケイ素原子に共有結合した2個の同じ基を有してよい。他の実施形態では、ペンタセン化合物はケイ素原子に結合された2個の同じ基を有してよく、その場合2個の同じ基が(i)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、異なる基が(i)置換又は非置換のシクロアルキル基及び(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基(例えばアリル基又はイソプロピル基)以外の置換基を含む。
【0047】
特定の例示的実施形態では、ペンタセン化合物は、(a)z=0であり、(b)各Rが独立して(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、(c)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8のアルケニル基を含むような構造Aを有する。これらの例示的実施形態では、ペンタセン化合物は、(a)z=0であり、(b)各Rが独立してn個の炭素原子を有する分枝した非置換のアルキル基を含み、(c)各R’が独立してn個の炭素原子を有する分枝した非置換のアルケニル基を含み、(d)3≦n≦8、より望ましくはn=3又は4であるような構造式Aを有してよい。
【0048】
特定の例示的実施形態では、ペンタセン化合物は、(i)z=0であり、(ii)各Rが独立してn個の炭素原子を有する分枝したアルカン置換基を含み、(iii)各R’が独立してn個の炭素原子を有する分枝したアルケン置換基を含み、(iv)3≦n≦8であるような構造式Aを有する。例えば、特定の実施形態では、ペンタセン化合物は、Rがイソプロピルを含み、R’がイソプロペニルを含む構造Aを有する。特定の例示的実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、以下の化学構造の1つを有する。
【0049】
【化3】

【0050】
化合物I及びIIは、(i)各種の有機溶媒中で極めて高い溶解度及び安定性、及び/又は(ii)特定の電子デバイス(例えばTFT)に組み込まれた際に極めて高い移動度の値を与えることが見出された。化合物I、すなわち6,13−ビス(アリルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(本明細書では「アリルDIPS」とも称する)は、TIPS−ペンタセンのような公知のペンタセン化合物と比較してトルエンなどの特定の有機溶媒に高い溶解度を示すことが見出された。例えば化合物Iはトルエンに対して約21重量%以上の溶解度を示す。電子デバイスの半導体層に使用される場合、化合物Iは、TF及びCCMV試験方法(後述する)によって測定した場合に約2.0cm/V−sよりも高い(又は約2.1cm/V−sよりも高い、又は約2.2cm/V−sよりも高い、又は約2.3cm/V−sよりも高い、又は約2.4cm/V−sよりも高い)最大電荷キャリア移動度の値を半導体層に与えることができる。
【0051】
化合物II、すなわち6,13−ビス(イソプロペニルジソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(本明細書では「IP−DIPS」とも称する)は、TIPS−ペンタセンのような公知のペンタセン化合物と比較して同様の利点を与える。電子デバイスの半導体層に使用される場合、化合物IIは、TF及びCCMV試験方法によって測定した場合に約3.0cm/V−sよりも高い(又は約3.1cm/V−sよりも高い、又は約3.2cm/V−sよりも高い、又は約3.3cm/V−sよりも高い、又は約3.4cm/V−sよりも高い)最大電荷キャリア移動度の値を半導体層に与えることができる。
【0052】
化合物I、II及びIII以外に、(i)z=0であり、(ii)(a)少なくとも1つのR基が分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基を含むか、又は(ii)(b)少なくとも1つのR’基が分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含むような上記の化学構造を有する本発明の例示的なペンタセン化合物の多くを下記表1に示す。
【0053】
下記表1に示すように、本発明の他の例示的なペンタセン化合物には、(a)z=0であり、(b)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基(例えばC1〜C8アルキル)を含み、(c)各R’が独立して置換又は非置換のシクロアルキル基を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例えば、所望のペンタセン化合物は、(1)2個のR基が独立してイソプロピル基を含み、R’が置換又は非置換のシクロプロピル基又はシクロブチル基、より望ましくは下記に示す化合物IVのようにシクロプロピル基を含むか、又は(2)1個のR基がイソプロピル基を含み、各R’基が独立して置換又は非置換のシクロプロピル基又はシクロブチル基、より望ましくは下記に示す化合物VIIIのようにシクロプロピル基を含むような構造Aを有する。
【0054】
【化4】

【0055】
下記表1に示すように、本発明の他の例示的なペンタセン化合物には、(a)z=0であり、(b)各Rが独立して置換又は非置換のシクロアルキル基を含み、(c)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基((例えばC2〜C8アルケニル))を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例えば、あるペンタセン化合物は、2個のR基が独立して置換又は非置換のシクロプロピル基又はシクロブチル基、望ましくはシクロプロピル基を含み、R’がイソプロペニル基又は1個以上の置換基(例えば1個以上のフッ素原子)を有するイソプロペニル基のような分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含むような構造Aを有しうる。別のペンタセン化合物は、1つのR基が置換又は非置換のシクロプロピル基又はシクロブチル基、望ましくはシクロプロピル基を含み、2つのR’基がイソプロペニル基又は1個以上の置換基(例えば1個以上のフッ素原子)を有するイソプロペニル基のような分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含むような構造Aを有しうる。
【0056】
本発明の他の例示的ペンタセン化合物には、(a)z=0であり、(b)各Rが独立して、各シクロアルカン部分(例えばシクロプロパン)と各ケイ素原子との間に1〜3個の炭素原子、通常は1個の炭素原子(例、メチレン)を有する2価のアルキレンスペーサーを有する置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基(例えばシクロプロピルメチレン基)を含み、(c)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8のアルケニル基(イソプロペニル基)を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例示的なペンタセン化合物は、2個のR基が独立して置換又は非置換のシクロプロピルメチレン基又はシクロブチルメチレン基、望ましくはシクロプロピルメチレン基を含み、R’基がイソプロペニル基又は1つ以上の置換基(例えば1個以上のF原子)を有するイソプロペニル基のような分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含むような上記の化学構造を有しうる。別のペンタセン化合物は、1つのR基が置換又は非置換のシクロプロピルメチレン基又はシクロブチルメチレン基、望ましくはシクロプロピルメチレン基を含み、2つのR’基がイソプロペニル基又は1つ以上の置換基(例えば1個以上のF原子)を有するイソプロペニル基のような分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含むような構造Aを有しうる。下記表1の例示的化合物を参照されたい。
【0057】
【表1】

【0058】
本発明の他の例示的ペンタセン化合物には、(a)x又はy=1であり、かつ(b)z=1であるような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。この種のシリル置換を有する本発明の例示的ペンタセン化合物の多くを下記表2に示す。
【0059】
表2に示すように、本発明の例示的ペンタセン化合物には、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含み、(c)R”が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルキニル基、(ii)置換アリール基、(iii)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(iv)アセチル基、又は(v)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。望ましくは、本ペンタセン化合物は、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基(又はC1〜C4アルキル基)を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基(又はC2〜C4アルケニル基)を含み、(c)R”が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルキニル基、(ii)置換アリール基、(iii)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(iv)アセチル基、又は(v)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含むような構造Aを有する。
【0060】
例示的な一実施形態では、本発明のペンタセン化合物には、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基(又はイソプロピル基などのC1〜C4アルキル基)を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基(又はアリル基などのC2〜C4アルケニル基)を含み、(c)R”が置換又は非置換のアリール基(例えばp−トリル基又はp−メトキシフェニル)を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例として表2の例示的化合物XXIV及びXXXIIを参照されたい。
【0061】
別の例示的実施形態では、本発明のペンタセン化合物には、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基(又はイソプロピル基などのC1〜C4アルキル基)を含み、(b)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基(又はアリル基などのC2〜C4アルケニル基)を含み、(c)R”が各アリール部分と各ケイ素原子との間に1〜3個の炭素原子を有する2価のアルキレンスペーサーを有する置換又は非置換のアリールアルキレン基(例えばベンジル基)を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例として表2の例示的化合物XXV及びXXXIIIを参照されたい。
【0062】
本発明の他のペンタセン化合物には、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基(又はイソプロピル基などのC1〜C4アルキル基)を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基(又はアリル基などのC2〜C4アルケニル基)を含み、(c)R”がアセチル基を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例として表2の例示的化合物XXVI及びXXXIVを参照されたい。
【0063】
本発明の他の例示的なペンタセン化合物には、(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基(又はイソプロピル基などのC1〜C4アルキル基)を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基(又はアリル基などのC2〜C4アルケニル基)を含み、(c)R”が環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含むような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。例として表2の例示的化合物XXVII〜XXX、及びXXXV〜XXXVIIIを参照されたい。
【0064】
【表2】

【0065】
表2には示されていないが、本発明の他のペンタセン化合物は、環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環が、置換又は非置換のフラニル基、置換又は非置換のピロリル基、置換又は非置換のチエニル基、又は置換又は非置換のセレノフェニル基を含むような構造Aを有しうる点には注意を要する。
【0066】
本発明の他の例示的ペンタセン化合物には、(a)x=1であり、(b)y=1であり、かつ(c)z=1であるような構造Aを有するペンタセン化合物が含まれる。この種のシリル置換を有する本発明の例示的ペンタセン化合物の多くを下記表3に示す。
【0067】
表3に示されるように、本発明のペンタセン化合物には、任意のシリル基のケイ素原子に3つの異なるR基(例えばR、R’及びR”)が結合したペンタセン化合物が含まれる。こうしたペンタセン化合物は、異なるR基に基づいた特徴の組み合わせを与えるように適合させることができる。例えば、アリル基を用いることによって特定の溶媒(例えばトルエン)に対する得られるペンタセン化合物の溶解度を高めることができるのに対して、シクロプロピル基を用いることによって移動度の値を高めることができる。他の実施形態では、3つの似たR基(例えば3つのシクロプロピル基)を用いることができる。
【0068】
【表3】

【0069】
本発明の化合物の例示的な構造を幾つか下記に示す。
【0070】
【化5】

【0071】
【化6】

【0072】
式中、
VIII=6,13−ビス[(シクロブチルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
IX=6,13−ビス[(シクロペンチルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
X=6,13−ビス[(2−ブト−1−エニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
XI=6,13−ビス[(3−ブト−1−エニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
XXVI=6,13−ビス[(アセチルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
XXV=6,13−ビス[(ベンジルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
XXIX=6,13−ビス[(2−チエニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LV=6,13−ビス[(アリルジシクロプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LVI=6,13−ビス[((2−(1,3−ジチアニル)エチルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LVII=6,13−ビス[(1−ヒドロキシエチルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LVIII=6,13−ビス[(3,3−ジメチルブト−1−イニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LIX=6,13−ビス[(トリイソプロピルシリルエチニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン
上記に述べたように、本発明は上記の構造Aを有する多くのペンタセン化合物に関するものである。特定の実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、R又はR’の少なくとも1つが、(i)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含むような構造Aを有する。特定の実施形態では、ペンタセン化合物は、R、R’及びR”が、(i)1つ以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)1つ以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(iii)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキル基、及び(iv)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基の組み合わせを含むような構造Aを有する。更に特定の実施形態では、ペンタセン化合物は、R、R’及びR”が、(i)1つ以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、及び(iii)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキル基の組み合わせを含むような構造Aを有する。例えば化合物LVを参照されたい。
【0073】
上述の例示的ペンタセン化合物のすべてにおいて、R、R’及び/又はR”の1つ以上が1つ以上の置換基で置換されていてよい。上述のR基に適した置換基としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン、水酸基、アルキル基、シアノ基、アミノ基、カルボニル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、ニトロ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シリル基(例えば各アルキル基が1〜8個の炭素原子を有するトリアルキルシリル基)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらの例示的な組み合わせとして、ハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルケニル基の一般的な置換基としては、これらに限定されるものではないが、−F、−OH、−CN、及び−COOHが挙げられる。シクロアルキル基、シクロアルキルアルキレン基、アリール基、及びアリールアルキレン基の一般的な置換基としては、これらに限定されるものではないが、アルキル基、−F、−OH、−CN及び−COOHが挙げられる。
【0074】
更に、上記の例示的なペンタセン化合物のすべてにおいて、ペンタセン環が1つ以上の上記に述べた置換基Xを更に有してよい。1つ以上の置換基Xを用いることによって、特定のペンタセン化合物を特定の用途に対して更に適合させることができる。例えば、1つ以上の置換基Xを用いることによって、(1)特定のペンタセン化合物が2次元積層形態を示す性質を更に高め、(2)特定のペンタセン化合物の、他の似た若しくは異なるペンタセン化合物、又は組成物中に用いられる場合には他の成分(例えば特定の溶媒)との相溶性を高め、(3)例えば優位なキャリアのタイプをホールから電子に変えるなど、特定のペンタセン化合物の電子的特性を調整する、といった1つ以上の更なる効果を得ることができる(ただしこれらに限定されない)。
【0075】
上記に述べたように、各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、又は(xi)ニトロ基(−NO)を含むものでよい。特定の実施形態では、各Xは独立して(i)水素、又は(ii)フッ素(−F)などのハロゲンを含む。特定の実施形態では、各Xは独立して(i)水素、又は(ii)フルオロアルキル基(例えば−CF)などの分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基を含む。特定の実施形態では、各Xは独立して(i)水素、(ii)フェニル基などの置換又は非置換の芳香環構造(−C)、又は(iii)チエニル基(−CS)などの置換又は非置換の複素環基を含む。特定の実施形態では、各Xは独立して(i)水素、又は(ii)ニトロ基(−NO)を含む。
【0076】
更に上記に述べたように、任意の2つの隣り合うX基がともに(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成してもよい。この炭素環又は複素環は化合物のペンタセン部分の芳香環と縮合される。得られた縮合炭素環又は複素環は部分的に飽和又は完全に飽和していてもよい。特定の実施形態では、唯一の不飽和部分は化合物のペンタセン部分の一部をなす芳香環に基づくものである。すなわち、隣り合う2個のX基に基づいた縮合炭素環又は複素環の部分は飽和している。特定の実施形態では、隣り合う2個のX基はともに、環構造内に酸素を有する置換又は非置換の複素環を形成する(例えばジヒドロフラノ置換基)。
【0077】
特定の実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、少なくとも1つのXが(i)ハロゲン、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iii)置換又は非置換のアリール基、(iv)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vi)置換又は非置換の複素環基、(vii)シアノ基、(viii)エーテル基、又は(ix)ニトロ基を含むような上記の構造Aを有する。特定の実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、少なくとも1つのXが(i)フッ素原子、(ii)フルオロアルキル基、(iii)アリール基、(iv)置換又は非置換の複素環基、(v)シアノ基、又は(vi)ニトロ基を含むような上記の構造Aを有する。特定の実施形態では、本発明のペンタセン化合物は、少なくとも1つのXが(i)フッ素原子、(ii)トリフルオロメチル基、(iii)フェニル基、又は(v)チエニル基を含むような上記の構造Aを有する。
【0078】
本発明の化合物の例示的な構造を幾つか下記に示す。
【0079】
【化7】

【0080】
式中、
LXI=1,8−ジフルオロ−6,13−ビス[(シクロプロピル,ジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(及び1,11−ジフルオロ異性体);
LXII=2−シアノ−6,13−ビス[(トリシクロペンチルシリル)エチニル]ペンタセン;
LXIII=2,3,9,10−テトラメチル−6,13−ビス[(シクロプロピル,ジイソプロピルシリル)エチニル]−ペンタセン;
LXIV=2,9−ジフルオロ−6,13−ビス−[(シクロプロピルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン;
LXV=6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−1−フルオロペンタセン;及び
LXVI=6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2,3:9,10−ビス(c−ジヒドロフラノ)ペンタセン。
【0081】
上記に述べたように、本ペンタセン化合物は電気デバイス(例えばトランジスタ)などの用途に使用される場合に、最大電荷キャリア移動度の値が2.0cmV−s以上であるような半導体層の形成を可能とするようなものであることが望ましい。ペンタセン化合物は、いずれも下記実施例の試験方法の項で説明する移動度値試験方法I、移動度値試験方法II、及び/又はTF及びCCMV試験方法によって測定した最大電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−sであるような半導体層の形成を可能とするようなものであることがより望ましい。
【0082】
本発明は更に、(I)1つ以上の上記に述べたペンタセン化合物と、(II)溶媒とを含む組成物に関する。本発明の化合物を形成するうえで適当な一般的な溶媒としては、これらに限定されるものではないがケトン、芳香族炭化水素などの有機溶媒が挙げられる。好適な溶媒としては、これらに限定されるものではないが、トルエン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、イソホロン、アニソール、テトラヒドロナフタレン、及びシクロヘキサノンが挙げられる。例示的な一実施形態では、組成物は1つ以上の上記に述べたペンタセン化合物と、トルエン、ブチルベンゼン、アニソール又はシクロヘキサノンなどの溶媒とを含む。
【0083】
一般的に、1つ以上の上記に述べたペンタセン化合物は、組成物の全重量に対して少なくとも0.1重量%の濃度で組成物中に含まれる。上記に述べたように、特定の実施形態では、組成物を形成するために使用されるペンタセン化合物は、トルエンなどの特定の溶媒に対して最大で約21重量%の濃度(又は21重量%よりも高い濃度)で溶解する。特定のペンタセン化合物は特定の有機溶媒に対する溶解度が21重量%以上にも及ぶ場合もあるが、本発明の典型的な組成物は1以上の上記に述べたペンタセン化合物を約0.1重量%〜約5.0重量%、より一般的には約1.5重量%〜約3.0重量%の範囲の濃度で含む。
【0084】
特定の実施形態では、本発明の組成物は上記に述べたペンタセン化合物の少なくとも1つと、溶媒とを含む。他の実施形態では、本発明の組成物は、上記に述べたペンタセン化合物の少なくとも1つと溶媒とを、1つ以上の更なる組成物成分と組み合わせて含む。好適な更なる組成物成分が添加される場合、組成物成分としては、これらに限定されるものではないが、ポリマー添加剤、レオロジー改質剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。特定の例示的実施形態では、本組成物には、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(4−シアノメチルスチレン)、ポリ(4−ビニルフェノール)、又は、米国特許出願公開第2004/0222412 A1号若しくは米国特許出願公開第2007/0146426 A1号(これらの発明の主題をその全容にわたって本願に援用する)に開示される他の任意の好適なポリマーからなる群から選択されるポリマー添加剤が含まれる。特定の望ましい実施形態では、ポリマー添加剤には、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、又はポリビニルフェノールが含まれる。
【0085】
更なる組成物成分が添加される場合、各組成物成分(すなわちペンタセン化合物以外の成分)は組成物の全重量に対して0〜約50重量%の量で独立して加えられる。一般的に、更なる各組成物成分(すなわちペンタセン化合物以外の成分)は組成物の全重量に対して約1.0〜約10.0重量%の量で独立して加えられる。例えば、ポリマー添加剤(例えばポリスチレン)が組成物に加えられる場合、ポリマー添加剤は、組成物の全重量に対して一般的に0〜約5.0重量%、より一般的には約0.5〜約3.0重量%の量で加えられる。
【0086】
特定の実施形態では、得られる組成物が、従来のコーティング法によって基板上に組成物をコーティングすることができるような組成物としての性質(例えば組成物安定性、粘性など)を有することが望ましい。好適な従来のコーティング法としては、これらに限定されるものではないが、スピンコーティング、ナイフコーティング、ロール・ツー・ロール・ウェブコーティング、及びディップコーティング、並びにインクジェット印刷、スクリーン印刷、及びオフセットリソグラフィーなどの印刷法が挙げられる。望ましい一実施形態では、得られる組成物は印刷可能な組成物、更により望ましくはインクジェット印刷可能な組成物である。
【0087】
上記に述べた組成物は基板上にコーティングすることができる。得られる基板は、少なくとも1つのコーティング可能な表面と、その少なくとも1つのコーティング可能な表面上のコーティング層とを有し、コーティング層はR、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物を含む。上記に述べたように、コーティング層は更に、少なくとも1つの上記に述べたペンタセン化合物以外の1つ以上の更なる組成物成分を含んでもよい。
【0088】
本発明の組成物は各種の基板上にコーティングすることができる。好適な基板としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリイミドなどのポリマーフィルム、並びにシリカ、アルミナ、シリコンウェーハ、及びガラスなどの無機基板が挙げられる。例示的な一実施形態では、前記基板は電子デバイス又は電子デバイス要素を含む。例えば、本発明の組成物を基板上にコーティングすることによって、薄膜トランジスタ(TFT)又は有機発光ダイオード(OLED)のような電子デバイスの半導体層を形成することができる。本発明の組成物を基板上にコーティングすることによって、光起電力モジュール若しくはその内部の太陽電池、又はセンサーを形成することができる。
【0089】
上記に述べたペンタセン化合物及び当該化合物から調製される組成物は、電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−sよりも高い電子デバイス(例えばトランジスタ)を形成することを可能とするものである。例示的な一実施形態では、電子デバイスはコーティング層を有し、コーティング層はR、R’、R”、x、y及びzが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物を含む。得られる電子デバイスは、本願で開示する移動度値試験方法I及び/又は本願で開示する移動度値試験方法II及び/又は本願で開示するTF及びCCMV試験方法、及び/又は電子デバイスの電荷キャリア移動度の値を測定するための同様な方法によって測定される電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−sよりも高い(又は2.1よりも高い、又は2.2よりも高い、又は2.3よりも高い、又は2.4よりも高い、又は2.5よりも高い、又は2.6よりも高い、又は2.7よりも高い、又は2.8よりも高い、又は2.9よりも高い、又は3.0よりも高い、又は3.1よりも高い、又は3.2よりも高い、又は3.3よりも高い、又は3.4よりも高い、又は3.5よりも高い)。
【0090】
本発明の例示的な電子デバイスは、図1に示されるようなトップコンタクト/ボトムゲート型のTFT構造を有しうる。図1に示されるように、例示的な電子デバイス10は、基板11、ゲート電極16、誘電体層12、半導体層13、ソース電極14、及びドレイン電極15を有している。例示的電子デバイス10の基板11、ゲート電極16、誘電体層12、ソース電極14、及びドレイン電極15を形成するための材料は、TFT電子デバイスを形成するために通常使用される任意の材料であってよい。
【0091】
基板11を形成するうえで適当な材料としては、これらに限定されるものではないが、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリイミドが挙げられる。誘電体層12を形成するうえで適当な材料としては、これらに限定されるものではないが、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリ(メチルメタクリレート)、及びポリ(4−シアノメチルスチレン)などの各種のポリマーの任意のものが含まれ、これらは通常は溶液から成膜されるが、官能性モノマー及び/又はオリゴマーと硬化剤とを含む配合物を硬化させることによって定位置に形成することもできる。誘電体層12は、これらに限定されるものではないが、誘電体層12の誘電率を高める機能を有するBaTiO、SiO、ZrOなどの無機充填剤を更に含んでもよい。
【0092】
半導体層13を形成するうえで適当な材料には、上記に述べた本発明の組成物が含まれる。ゲート電極16、ソース電極14、及びドレイン電極15のそれぞれを形成するうえで適当な材料としては、これらに限定されるものではないが、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン(PANI)、金、銀、アルミニウム、銅、チタン、パラジウム、白金、クロム、及びこれらの混合物(例えば各種の電極材料の混合物、合金、多層複合体)が挙げられる。
【0093】
特定の場合では、基板11、ゲート電極16、及び誘電体層12は、熱酸化物を有する高濃度ドープしたn型シリコンウェーハ(例えばノエル・テクノロジー社(Noel Technologies, Inc.)(カリフォルニア州キャンベル)より市販されるもの)であり、その場合、高濃度ドープしたn型シリコンウェーハが基板及びゲート電極の両方として機能し、熱酸化物が誘電体層として機能する。
【0094】
特定の例示的実施形態では、以下の層、すなわち、ゲート電極16、誘電体層12、半導体層13、ソース電極14、及びドレイン電極15の内の1つ以上のものが印刷可能(例えばインクジェット印刷可能)な層である。例えば、誘電体層12、半導体層13、ゲート電極16、ソース電極14、及びドレイン電極15を形成するうえで適当な印刷可能な組成物が、現在米国特許第7,498,662号となっている米国特許出願公開第20070114516 A1号に開示されている(その発明の主題をその全容にわたって本願に援用する)。
【0095】
本発明の電子デバイスは、上記に述べたペンタセン化合物の少なくとも1つを含み、2.0cm/V−sよりも高い電荷キャリア移動度の値を有することが望ましい。こうした電子デバイスは、図2の例示的デバイス20に示されるような以下の特定のトップコンタクト/ボトムゲート型のTFT構造を有しうる。すなわち、ゲート電極層16(例えば、ノエル・テクノロジー社(Noel Technologies, Inc.)(カリフォルニア州キャンベル)より市販される高濃度n型ドープしたシリコンウェーハ)上に配置された熱酸化物(SiO)層の形態の第1の誘電体層12aを有する高濃度にn型ドープしたシリコンウェーハを含むゲート電極16、SARTOMER(商標)SR−368(サルトマー社(Sartomer Company Inc.)(ペンシルベニア州エクストン))(約8.5重量%)、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(オー・エス・アイ・スペシャルティーズ社(OSi Specialties)(ウェストバージニア州サウスチャールストン)より販売されるSilquest(登録商標)A−174シラン)により表面処理し、米国特許出願第11/771,787号及び同第11/771,859号(これらの発明の主題をその全容にわたって本願に援用する)(例えば、各出願の「調製例1−誘電体インク」を参照)に開示されるようにして形成したジルコニアナノ粒子(約40.0重量%)、IRGACURE(商標)184光開始剤(チバ社(Ciba Corporation)(デラウェア州ニューポート))(約1.5重量%)、及びイソホロン(シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー))(約50.0重量%)を含むポリマー誘電体組成物を含む第2の誘電体層12b、上記に述べたペンタセン化合物の少なくとも1つ(例えば化合物I、II、又はIV)(約2.0重量%)、ポリスチレン(ポリマー・ソース社(Polymer Source Inc.)(カナダ、モントリオール))(約1.0重量%)、及びブチルベンゼン(シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー))(約97.0重量%)を含む半導体層13、金を含むソース電極14、並びに金を含むドレイン電極15。
【0096】
上記に述べた本発明のペンタセン化合物は、R、R’及びR”置換基の所望の組み合わせを有する置換シリルアセチレンを形成する工程と、次いでこの置換シリルアセチレンを6,13−ペンタセンキノンと反応させる工程とを含む方法によって調製することができる。R、R’及びR”置換基の所望の組み合わせを有する置換シリルアセチレンを形成する工程は、特定のシリルアセチレン(例えばトリメチルシリルアセチレン)のケイ素原子に結合した1つ以上の第1の置換基を1つ以上の第2の置換基(例えばイソプロピル基)に置換する第1の置換反応、及びケイ素原子に結合した1つ以上の第2の置換基を1つ以上の第3の置換基(例えばイソプロペニル基)に置換する第2の置換反応(ただしこれに限定されない)を含む多くの反応工程を含みうる。
【0097】
本発明のペンタセン化合物を形成する方法は更に以下の方法工程の1つ以上を含みうる。すなわち、少なくとも1工程、場合によっては2又は3工程の再結晶化工程による、アセトンなどの適当な溶媒からの精製である。その場合、ペンタセン化合物を所定量の沸騰したアセトンに溶解して固形分をすべて溶解した後、光分解を防止するために溶液を光から保護しながら約0℃〜4℃に冷却する。この後、固形分を濾過により回収し、真空下で乾燥して残留アセトンを除去する。
【0098】
本発明のペンタセン化合物が一旦形成されたなら、溶媒及び1つ以上の更なる成分と合わせて印刷可能な組成物のような組成物とする。上記に述べたように、本発明のペンタセン化合物(例えば化合物I〜LIV)を上記に参照した有機溶媒(例えばトルエン)の少なくとも1つに含有させることによって、最大で21重量%又は21重量%よりも多くのペンタセン化合物を含む第1の組成物を形成することができる。上記に述べたような更なる組成物成分(例えばポリスチレン)を第1の組成物に含有させて最終的な組成物としてもよい。この最終組成物はインクジェット印刷装置によって印刷可能なものであることが望ましい。
【0099】
上記に述べた本発明のペンタセン化合物の少なくとも1つを含有する本発明の組成物(例えば第1の組成物、最終組成物、又はその両方)を使用することによって、様々なコーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス部品、及び電子デバイスを作製することができる。得られるコーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス部品、又は電子デバイスは、R、R’、R”、x、y、z及びXが上記に述べたものであるような構造Aを有するペンタセン化合物を含んでいることが望ましい。より望ましくは、コーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス部品、又は電子デバイスは、R、R’及びR”が2個の立体的に似た基と1個の立体的に異なる基とをともに含み、2個の立体的に似た基はペンタセン化合物の5個の環構造を通じて延びる平面の両側面に配向し、立体的に異なる基はペンタセン化合物の5個の環構造を通じて延びる平面内にほぼ位置するような構造Aを有するペンタセン化合物を含む。特定の所望の実施形態では、得られるコーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス部品、又は電子デバイスは、z=0であり、Rがイソプロピルを含み、R’がイソプロペニルを含むような構造Aを有するペンタセン化合物を含む。他の所望の実施形態では、得られるコーティング、コーティング層を有する基板、電子デバイス部品、又は電子デバイスは、上記に示したペンタセン化合物I、II及びIVの内の1つを含む。
【0100】
本発明を上記に説明し、更に下記に実施例により説明するが、実施例はいかなる意味においても発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。逆に本明細書を読むことでそれ自体当業者にとって示唆的となりうる様々な他の実施形態、改変及びその均等物を本発明の趣旨及び/又は添付した特許請求の範囲から逸脱することなく実施する余地がありうる点は明確に理解されるはずである。
【実施例】
【0101】
これらの実施例はあくまで説明を目的としたものであって、添付した特許請求の範囲の限定を目的とするものではない。実施例及び明細書の残りの部分における部、比率、比などは、特に断らないかぎりにおいてはすべて重量に基づいたものである。
【0102】
【表4−1】

【0103】
【表4−2】

【0104】
本発明で使用するシランA−174で表面処理されたジルコニアナノ粒子を形成する方法については、いずれもスリー・エム社(The 3M Company)(ミネソタ州セントポール)の出願人名で出願され、同社に譲渡された米国特許出願第11/771,787号及び同第11/771,859号(例えば各出願の「調製例1−誘電体インク」を参照)(これらの出願の発明の主題をその全容において本願に援用する)に開示されている。
【0105】
試験方法
移動度値の試験方法I
作製したトランジスタの性能特性を空気中、周辺照明下で、2台のソース測定ユニット(キースリー・インスツルメンツ社(Keithley Instruments,Inc.)(オハイオ州クリーブランド)より販売されるモデル2400)を使用して測定した。各装置をSignatone(商標)1160シリーズのプローブステーション上に置き、Signatone(商標)S−725−PRMマニピュレータ(シグナトーン社(カリフォルニア州ギルロイ))を使用してプローブを接続した。ドレイン−ソース間のバイアス電圧(VDS)を−40Vに保ち、ゲート・ソース間のバイアス電圧(VGS)を+10V〜−40Vの範囲で1V刻みに変化させた。図3は、例示的な測定パラメータをグラフで示したものである。
【0106】
図3で、「A」として示されるトレースは、測定されたドレイン電流(IDS)をVGSの関数として示したものである。「B」として示されるトレースは、測定されたドレイン電流(IDS)の平方根をVGSに対して示したものであり、「C」として示されるトレースは測定されたゲート電流(IGS)をVGSに対して示したものである。飽和電界効果移動度(μ)は、VGSに対するドレイン電流の平方根(トレース「B」)の傾き(m)から下式を用いて計算することができる。
【0107】
【数1】

【0108】
式中、Cはゲート誘電体の比静電容量、Wはチャネル幅、及びLはチャネル長さである。記録した電荷キャリア移動度値は、測定範囲において観察された最大電荷キャリア移動度の値である。
【0109】
GSに対するIDSの平方根の曲線(トレース「B」)を用いて直線フィットについてX軸外挿を行って閾値電圧(V)とした。IDS−VGS曲線の最小及び最大ドレイン電流(IDS)値間の差としてオン/オフ比をとった。
【0110】
移動度値の試験方法II
作製したトランジスタの性能特性を室温で空気中、半導体パラメータ分析装置(キースリー・インスツルメンツ社(Keithley Instruments,Inc.)(オハイオ州クリーブランド)より販売されるモデル4200)を使用して測定した。ドレイン−ソース電流(IDS)の平方根を、−40Vの一定のドレイン−ソース間バイアス電圧(VDS)について+10V〜−40Vまでのゲート−ソース間バイアス電圧(VGS)の関数としてプロットした。下式を用いた。
【0111】
DS=μC×W/L×(VGS−V/2
飽和電界効果移動度(μ)を、ゲート誘電体の比静電容量(C)、チャネル幅(W)及びチャネル長さ(L)を用いて曲線の直線部分から計算した。閾値電圧、サブ閾値の傾き、及びオン/オフ比は方法Iと同様にして求めた。
【0112】
トランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法(すなわちTF及びCCMV試験方法):
下記実施例4に述べるような特定の材料及び反応工程を用いてトランジスタを作製した。作製したトランジスタの電荷キャリア移動度の値を、上記に述べた移動度値試験方法Iを用いて測定した。
【0113】
熱分析試験方法
オートサンプラーを備えたティー・エー・インスツルメンツ社(TA Instrument)製モデルQ200の示差走査熱量計(DSC)を使用して特性評価を行った。2〜10mgの特性評価を行う材料をアルミニウムパン(ティー・エー・インスツルメンツ社(TA Instruments)より販売されるStandard又はTzero(商標))に入れ、使用した特定のパンの使用条件にしたがってかしめた。パンをオートサンプラーに入れてDSCの試料セル中に自動的に試料をロードした。同じタイプの空のパンを参照用に使用した。
【0114】
試料を0℃にまで冷却した後、制御された速度(5℃/分)で320℃にまで温度を上げて最初の走査を行った。この走査により、吸熱及び発熱反応が起こったことが分かった。各反応がおこった温度を用いて第2の走査の温度限界を決定し、第2の走査ではより低温での転移が可逆であるか否かを調べた。
【0115】
第2の走査は、新たに調製した試料を用い、固体/固体転移にともなう最も高い温度での吸熱反応よりも約10℃高い温度にまで温度を一定の速度で変化させ、溶解及びこれに続くディールス・アルダー反応が起こる温度よりも低い温度に保って行った。次いで温度を制御された速度(5℃/分)で最も低い温度の熱反応よりも低い温度にまで下げた後、再び5℃/分で材料が不可逆的に変化する(ディールス・アルダー反応)温度よりも高い温度にまで上げた。
【0116】
サーモグラムに見られる反応を、装置とともに提供される汎用解析ソフトウェアの分析メニューの「Integrate Peak Linear」又は「Onset Point」機能を使用して分析することによって、反応が起こった温度を求めるとともに試料が正確に秤量されている場合には転移にともなうエンタルピーを求めた。
【0117】
TIPSペンタセンの第2の走査の代表的なサーモグラムを図4に示す。図4は、124℃付近で起こる反応が180℃付近で起こる反応と同様、可逆的であることを示している。266℃付近では、吸熱反応が起こった後に大きな発熱反応が起きていることが分かる。TIPSペンタセンをFisher−John融点装置上で観察したところ、より低温における2つの熱反応は固体−固体転移であり、実際に材料が266℃付近で溶融する(固体−液体転移)ことが確認された。本発明のペンタセン化合物の熱分析の結果を下記表8に示す。
【0118】
実施例1−6,13−ビス(アリルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(アリルDIPS)の合成
アリルジイソプロピルシリルアセチレンの合成
ジクロロジイソプロピルシラン(4.00g,21.6mmol)及び無水THF(20mL)を、攪拌子を備えた乾燥した250mLの丸底フラスコに加えた。フラスコに乾式冷却器を取り付けた。臭化アリルマグネシウム(22.0mL,22.0mmol,1.0MTHF溶液)を冷却器から加えて第1の混合物を形成した。この第1の混合物を63℃に12時間加熱した後、室温にまで冷却した。
【0119】
トリメチルシリルアセチレン(2.36g,24.0mmol)及び無水THF(12mL)を、攪拌子を備えた別の乾燥した100mLの丸底フラスコに加えた。100mLフラスコの反応混合物を0℃にまで冷却し、n−ブチルリチウム(9.2mL,23mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下した後、90分間攪拌して第2の混合物を形成した。
【0120】
次いで250mLフラスコの反応混合物(第1の混合物)を0℃にまで冷却し、第2の混合物を注射器で滴下した。合わせた混合物を一晩攪拌した。次いで合わせた混合物を100mLの飽和塩化アンモニウム溶液中に注ぎ、ヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(100mL)で洗った。有機層を分離し、水層を50mLのヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(100mL)で再び抽出した。有機層の各部分を合わせ、水(50mL)及び食塩水(25mL)で洗った後、MgSO上で乾燥し、濾過してから回転蒸発によって濃縮した。
【0121】
生成物をTHF(50mL)に溶解し、KCOで飽和したMeOH(100mL)を加えた後、2時間攪拌した。水(50mL)及びヘキサン(100mL)を加え、有機層を分離した。水層を再び抽出し(20mlヘキサン)、各有機層を合わせた。合わせた有機層を水(20mL)で洗い、MgSO上で乾燥し、濾過してから溶媒を蒸発させた。生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:DCM=5:1)で精製して1.7gの無色油状物を得た(9.4mmol,44%)。生成物を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=5.87(m,1H),4.94(m,2H),2.39(s,1H),1.70(dt,J=1.4Hz,8Hz,2H),1.08(s,14H)。
【0122】
6,13−ビス(アリルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(アリルDIPS)の合成
上記で得たアリルジイソプロピルシリルアセチレン(1.62g,9.36mmol)及び無水THF(20mL)を、攪拌子を備えた乾燥した100mLの丸底フラスコに加え、0℃に冷却した。n−ブチルリチウム(3.1mL,7.8mmol,2.5Mヘキサン中)を滴下し、溶液を1時間温まらせた。6,13−ペンタセンキノン(1.22g,3.89mmol)を加え、混合物を48時間攪拌した。0.5mLの飽和塩化アンモニウム溶液を加えて反応を停止させた後、メタノール(60mL)で希釈して反応混合物を形成した。
【0123】
大型の三角フラスコ中で、MeOH(600mL)、SnCl・2HO(2.60g,11.5mmol)、及び25%塩酸(2.5mL)を攪拌下で合わせ、0℃に冷却して第2の溶液を形成した。反応混合物を第2の溶液にゆっくりと流し込み、更なるメタノールで洗ったものも加えた。更なる25%塩酸(3mL)を加え、混合物を20分間攪拌してから冷蔵庫に1時間入れた。混合物を濾過して1.3gの緑がかった青色の固体を得た。得られた固体を最小量のDCM(約5mL)に溶解してからヘキサン(200mL)で希釈し、厚いプラグ上に流した。余分なアセチレンをプラグをヘキサンで洗い流すことによって除去した。生成物をヘキサン:DCMの5:1混合物で溶出した。溶媒を除去して0.5gの青色の固体を得た。得られた固体を高温のアセトンに溶解し、熱いうちに濾過して緑色の不純物を取り除き、一晩結晶化させた。アセトンから再び再結晶化させることによって0.38gの青色の針状結晶を得た(0.62mmol,16%)。青色の針状結晶を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=9.3(s,4H),8.0(dd,J=3.4Hz,4H),7.4(dd,J=3.4Hz,4H),6.38(m,2H),5.1(m,4H),2.0(m,4H),1.3〜1.4(m,28H)。
【0124】
実施例2−6,13−ビス(イソプロペニルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(IP−DIPS)の合成
イソプロピルジイソプロピルシリルアセチレンの合成
2−ブロモプロペン(4.32g,38.6mmol)と無水THF(20mL)を、攪拌子を備えた乾燥した250mLの丸底フラスコ内で合わせて−78℃に冷却した。n−ブチルリチウム(14.8mL,37mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下した。攪拌を継続して温度を10分間維持した後、ジクロロジイソプロピルシラン(6.85g,37.0mmol)を滴下した。混合物を温まらせ、48時間攪拌して第1の混合物を形成した。
【0125】
攪拌子を備えた別の乾燥した100mLの丸底フラスコ中でトリメチリシリルアセチレン(3.93g,40.0mmol)と無水THF(10mL)を合わせて0℃に冷却した。n−ブチルリチウム(14.8mL,37mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、攪拌を2時間継続して第2の混合物を形成した。第1の反応混合液を0℃にまで冷却した。第2の混合液を第1の混合液に注射器で加え、攪拌を12時間継続した。反応フラスコの内容物をNHCl溶液(100mL)中に加え、ヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(100mL)を加えた。有機層を分離し、水層をヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(20mL)で再び抽出した。有機層の各部分を合わせ、水(20mL)及び食塩水(20mL)で洗った後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過してから回転蒸発によって濃縮した。
【0126】
混合生成物をTHF(50mL)に溶解した後、炭酸カリウムで飽和したメタノールを加え、攪拌を2時間継続した。水(100mL)及びヘキサン(100mL)を加え、有機層を分離してから水(20mL)で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥、濾過し、回転蒸発によって濃縮することにより4.6gの無色油状物を得た(26mmol,70%)。生成物を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=5.76(m,1H),5.51(m,1H),2.42(s,1H),1.88(s,3H),1.05(m,14H)。
【0127】
6,13−ビス(イソプロペニルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(IP−DIPS)の合成
上記で得たイソプロペニルジイソプロピルシリルアセチレン(3.00g,16.7mmol)と無水THF(16mL)を攪拌子を備えた乾燥した250mLの丸底フラスコ内で合わせた。フラスコを0℃に冷却した後、n−ブチルリチウム(5.6mL,14mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、攪拌を2時間継続した。6,13−ペンタセンキノン(1.4g,4.6mmol)を加え、混合物を48時間攪拌した。0.5mLの飽和NHCl溶液を加えて反応を停止させた後、メタノール(50mL)で希釈して第1の反応混合物を形成した。
【0128】
大型の三角フラスコ中、SnCl・2HO(5.8g,25mmol)をメタノール(800mL)に溶解し、25%塩酸(5mL)を加えて第2の混合物を形成した。第2の混合物を0℃に冷却した後、第1の反応混合物をゆっくりと流し込み、20分間攪拌してから冷蔵庫に1時間入れた。混合物を濾過して青緑色の固体を得、これを最小量のDCM(約5mL)に溶解し、ヘキサン(200mL)で希釈してから厚いシリカプラグ上に流した。余分なアセチレンをヘキサンで洗い流し、生成物をヘキサン:DCMの5:1混合物で溶出した。溶媒を除去して1.35gの青色固体を得た。アセトン(約400mL)から再結晶化することにより1.1gの青色の針状結晶を得た(1.74mmol,38%)。青色の針状結晶を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=9.3(s,4H),8.0(dd,J=3.2Hz,4H),7.4(dd,J=3.2Hz,4H),5.9(bm,2H),5.8(bm,2H),2.1(s,6H),1.3〜1.4(m,28H)、及びMS(70eV,EI)m/z634(100%,M)。
【0129】
実施例3−6,13−ビス(ジイソプロペニルイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(DIIP−IPS)
ジイソプロペニルイソプロピルシリルアセチレンの合成
2−ブロモプロペン(14.5g,120mmol)と無水THF(100mL)を、攪拌子を備えた乾燥した500mLの丸底フラスコ内で合わせて−78℃に冷却した。n−ブチルリチウム(47.5mL,119mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下した。攪拌を継続して温度を10分間維持した後、トリクロロジイソプロピルシラン(10.5g,59.4mmol)を滴下した。混合物を温まらせ、48時間攪拌して第1の反応混合物を形成した。
【0130】
攪拌子を備えた別の乾燥した250mLの丸底フラスコ中でトリメチリシリルアセチレン(7.37g,75.0mmol)と無水THF(20mL)を合わせて0℃に冷却した。n−ブチルリチウム(28mL,70mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、攪拌を2時間継続して第2の反応混合物を形成した。第1の反応混合物を0℃に冷却した後、第2の反応混合物を注射器で加え、攪拌を12時間継続した。反応フラスコの内容物を飽和NHCl溶液(100mL)中に加え、ヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(100mL)を加えた。有機層を分離し、水層をヘキサン:ジエチルエーテルの1:1混合物(20mL)で再び抽出した。有機層の各部分を合わせ、水(20mL)及び食塩水(20mL)で洗った後、MgSO上で乾燥し、濾過してから回転蒸発によって濃縮した。
【0131】
混合生成物をTHF(50mL)に溶解した後、KCOで飽和したMeOHを加え、攪拌を2時間継続した。水(100mL)及びヘキサン(100mL)を加え、有機層を分離してから水(20mL)で洗い、MgSO上で乾燥、濾過し、回転蒸発によって濃縮することにより2.1gの無色油状物を得た(11.8mmol,20%)。生成物を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=5.76(m,2H),5.55(m,2H),2.48(s,1H),1.88(m,6H),1.05(m,7H)。
【0132】
6,13−ビス(ジイソプロペニルイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(DIIP−IPS)の合成
上記で得たジイソプロペニルイソプロピルシリルアセチレン(1.00g,5.59mmol)と無水THF(10mL)を攪拌子を備えた乾燥した100mLの丸底フラスコ内で合わせた。フラスコを0℃に冷却した後、n−ブチルリチウム(2.1mL,5.3mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、攪拌を2時間継続した。6,13−ペンタセンキノン(0.79g,2.5mmol)を加え、混合物を48時間攪拌した。0.5mLの飽和NHCl溶液を加えて反応を停止させた後、Nでパージした。SnCl・2HO(2.26g,10.0mmol)及びHI(5〜6滴)を加え、反応液をN下で20分攪拌した。ヘキサン(50mL)及び水(20mL)を加え、混合物をマリンクロッド・ベーカー社(Mallinckrodt Baker, Inc.)(ニュージャージー州ピッツバーグ)より販売されるCelite(登録商標)545濾過物質によって濾過した。
【0133】
有機層を分離し、水で洗い、MgSO上で乾燥、濾過し、回転蒸発により濃縮して青緑色の固体を得た。生成物を最小量のDCM(約5mL)に溶解し、ヘキサン(200mL)で希釈してから厚いシリカプラグ上に流した。余分なアセチレンはヘキサンを用いて洗い流した。次いで生成物をヘキサン:DCMの9:1混合物で溶出した。溶媒を除去して0.13gの青色固体を得た。アセトン(約10mL)から再結晶して30mgの青色の針状小結晶を得た(0.048mmol,2%)。青色の針状結晶を分析して以下のデータを得た。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=9.3(s,4H),8.0(dd,J=3.2Hz,4H),7.4(dd,J=3.2Hz,4H),5.9(m,4H),5.8(m,4H),2.1(t,J=1.4Hz,12H),1.3〜1.4(m,14H)、及びMS(70eV,EI)m/z630(100%,M)。
【0134】
実施例4−Auトップコンタクトを有する電子デバイスの作製
熱酸化物を有するn型シリコンウェーハ(すなわち、ノエル・テクノロジー社(Noel Technologies, Inc.)(カリフォルニア州キャンベル)より販売される、0.005Ωcm未満の固有抵抗となるように高濃度にn+型ドープ(ヒ素)し、前面に1000オングストロームの熱酸化物(SiO)を与え、後面が100オングストロームのTiN及び5000オングストロームのアルミニウムでコーティングされたシリコン<100>ウェーハ)を、(i)アセトンで洗浄してからNで乾燥し、(ii)イソプロピルアルコール(IPA)で洗浄してからNで乾燥し、(iii)脱イオン水(DI)で洗浄してからNで乾燥し、(iv)更にUV/Oで10分間処理した。次いでウェーハ試料を、(i)スピンコーティング(加速率415RPM/秒、最終速度2000RPMで30秒)により15.3mPaの粘度を有する酢酸ジルコニウム(ZrOAc)溶液でコーティングし、(ii)次いでホットプレート上で100℃に10分加熱した後、(iii)窒素雰囲気中で紫外線(254nm殺菌ランプ)に15分曝露し、(iv)ホットプレート上で100℃に10分、加熱後処理した。酢酸ジルコニウム溶液は、8.5重量%のSARTOMER(商標)SR−368、40.0重量%のシランA−174で表面処理したジルコニアナノ粒子(米国特許出願第11/771,787号及び同第11/771,859号に記載されるもの)、1.5重量%のIRGACURE(商標)184光開始剤、及び50.0重量%のイソホロンを含むものを使用した。
【0135】
上記に述べたようにして以下の半導体インク配合物の1つを用いて3つの試料を基板上に調製した。TIPSペンタセンについては、インク配合物は2.0重量%のTIPSペンタセン及び1重量%のポリスチレン(PS)をn−ブチルベンゼンに加えた溶液であった。アリル−DIPSについては、インク配合物は2.0重量%のアリル−DIPS及び1重量%のポリスチレン(PS)をn−ブチルベンゼンに加えた溶液であった。イソプロペニル−DIPS(IP−DIPS)については、インク配合物は1.8重量%のイソプロペニル−DIPS(IP−DIPS)及び1重量%のポリスチレン(PS)をn−ブチルベンゼンに加えた溶液であった。
【0136】
各インク溶液を0.2ミクロンのフィルターを通じて濾過し、Dimatix(商標)2800シリーズのインクジェットプリンター(DMP、フジフィルム・ディマティックス社(Fujifilm Dimatix, Inc.)(カリフォルニア州サンタクララ)製)用に設計されたプリントカートリッジに充填した。以下のDMPパラメータを用い、半導体インクを使用して各試料に30mm×20mmの領域を印刷した。すなわち、10ピコリットル(pL)の液滴体積を有する液晶ポリマー(LCP)カートリッジ、カートリッジヘッド温度=28℃、プラテン温度=30℃、及び液滴間隔=20μm。基板上に1501×1001個の液滴のインクジェット液滴マトリクスを形成し、液滴同士がくっついてインク溶液が領域を覆うようにした。
【0137】
半導体層を室温で乾燥させた後、約1000オングストロームの金をシャドーマスクを介して半導体層上に蒸着して、個々の構造が図2に示す例示的デバイス20に似たデバイスのアレイを形成した。(図2に示す例示的デバイス20ではゲート電極16は単一層として示されているが、本実施例では3層構造、すなわち、高濃度ドープしたn型シリコンウェーハ層、中間の100オングストロームのTiN層、及び下側の5000オングストロームのアルミニウム層が、この例示的デバイスのゲート電極となっている。)
チャネル長さ(L)=100μm及びチャネル幅(W)=1000μmである、上記に述べたようにして作製した各デバイスは、移動度試験方法Iを用いて(すなわち、本発明のTF及びCCMV試験方法を用いて)測定した場合に下記表5に示すような以下の電荷キャリア移動度の値を示した。
【0138】
【表5】

【0139】
実施例5−Agトップコンタクトを有する電子デバイスの作製
実施例4と同様の熱酸化物を有するn型シリコンウェーハを、(i)アセトンで洗浄してからNで乾燥し、(ii)イソプロピルアルコール(IPA)で洗浄してからNで乾燥し、(iii)脱イオン水(DI)で洗浄してからNで乾燥し、(iv)更に紫外線で発生させたオゾン(UV/O)で10分間処理した。次いで実施例4で述べたようにこの試料にZrOAcの溶液をスピンコーティングして硬化させた。2.0重量%のTIPS−ペンタセン及び1重量%のポリスチレン(PS)をn−ブチルベンゼンに加えた溶液からなる半導体インクを調製した。このインク溶液を0.2μmのフィルターを通じて濾過し、実施例4で使用したDimatixドットマトリクスプリンター(DMP)用に設計されたプリントカートリッジに充填した。
【0140】
以下のDMPパラメータを用いてこの試料に半導体インクで30mm×20mmの領域を印刷した。すなわち、10pLの液滴体積を有するLCPカートリッジ、カートリッジヘッド温度=28℃、プラテン温度=30℃、及び液滴間隔=20μm。基板上に1501×1001個の液滴のインクジェット液滴マトリクスを形成し、液滴同士がくっついてインク溶液が領域を覆うようにした。半導体層を室温で乾燥させた後、50pLの液滴体積を有するSpectra(商標)インクジェットプリントヘッドSM−128及びCabot銀インクを使用して、銀のソース及びドレイン端子を304dpiで印刷した。この試料を120℃に10分加熱した。試料は、移動度試験方法Iによって測定した電荷キャリア移動度値が0.08〜0.122cm/V−sであった。
【0141】
実施例6−電子デバイスの作製
図5に示されるような構造を有する電子デバイスを以下のようにして作製した。高濃度にn型ドープしたシリコンウェーハをゲート電極層16として使用し、250nmの熱成長させた酸化物を誘電体層12として使用した。ソース及びドレイン電極14及び15はそれぞれ、高真空下でシャドーマスクを介して金又は銀を蒸発させることによって形成した。ソース及びドレイン電極14及び15はそれぞれ、チャネル幅(W)が1,000μm、チャネル長さ(L)が100μmであるチャネルを形成した。金電極を有するデバイスについては、基板を85℃で15分間、UV/Oに曝露することによって洗浄した。
【0142】
電極表面は、その主題の全容を本願に援用するIEEE Elect.Dev.Lett.(2001),22,571(Gundlachら)に開示されるように所定数のチオールベースの単層によって処理することによって半導体の結晶化性を高め、金属の仕事関数をシフトさせることによって電荷注入性を高めた。チオールベースの単層による処理としては、これらに限定されるものではないが、オクタンチオール、ドデカンチオール、デカンジチオール、ベンゼンチオール、4−メトキシベンゼンチオール、ペンタクロロベンゼンチオール、及びペンタフルオロベンゼンチオールが挙げられる。一般的に、ペンタフルオロベンゼンチオール処理された電極では最適な形態を有する薄膜が得られた。
【0143】
次いでデバイス基板をヘキサメチルジシラザン(HMDS)で処理した。純粋なHMDSをデバイスの表面全体にわたって塗布し、窒素ブランケット下でスピンにより振り落とした(1000rpmで30秒の後、4000rpmで120秒)。次いでデバイス基板を120℃のオーブンに2分間入れて単層をアニールした。
【0144】
半導体層13は、本発明のペンタセン化合物の少なくとも1つの1重量%溶液(トルエン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン又はクロロベンゼンに溶解したもの)をソース/ドレイン電極を覆ってドロップキャストすることによって成膜した。溶媒をゆっくりと蒸発させた(基板を時計皿で覆うことにより)。溶媒の大部分が蒸発し、半導体がデバイス表面に明瞭に結晶化した時点で基板を90℃のオーブンに120秒入れることによって残りの溶媒を飛ばした。
【0145】
各デバイスを上記に述べた移動度値試験方法IIを用いて評価した。TIPS−ペンタセンに対する一般的なデバイスパラメータは以下のようなものであった。
【0146】
−0.001〜0.45cm/V−sの範囲で変化する線形領域から抽出される電荷キャリア移動度値、
−−2〜11Vの範囲で変化する閾値電圧、及び
−10〜10の範囲で変化するオン/オフ電流比。
【0147】
Au電極上のDIIP−IPSペンタセンに対する一般的なデバイスパラメータ
−0.01〜0.09cm/V−sの範囲で変化する線形領域から抽出される電荷キャリア移動度値、
−12〜−22Vの範囲で変化する閾値電圧、及び
−10〜10の範囲で変化するオン/オフ電流比。
【0148】
Ag電極上のDIIP−IPSペンタセンに対する一般的なデバイスパラメータ
−0.005〜0.01cm/V−sの範囲で変化する線形領域から抽出される電荷キャリア移動度値、
−10〜−25Vの範囲で変化する閾値電圧、及び
−10〜10の範囲で変化するオン/オフ電流比。
【0149】
実施例7−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(シクロプロピルDIPS−ペンタセン)の合成
シクロプロピルジイソプロピルシリルアセチレンの合成
この物質は、臭化アリルマグネシウムを臭化シクロプロピルマグネシウムで単純に置き換え、実施例1でアリルジイソプロピルシリルアセチレンの調製に用いたものと同じ方法を用いて合成した。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=2.3(s,1H),1.1(br−m,14H),0.61(m,2H),0.45(m,2H),−0.44(m,1H)。
【0150】
6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(シクロプロピルDIPSペンタセン)の合成
この物質は、アリルジイソプロピルシリルアセチレンをシクロプロピルジイソプロピルシリルアセチレンで単純に置き換え、実施例1でアリルDIPSペンタセンの合成に用いたものと同様の方法を用いて調製した。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=9.2(s,4H),8.0(dd,J=3.2,5.6Hz,4H),7.4(dd,J=3.2,5.6Hz,4H),1.4(br−m,28H),0.85(m,8H),−0.21(m,2H)。
【0151】
実施例8−6,13−ビス((1−メチレンプロピル)ジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(2−ブト−1−エニルDIPSアセチレン)の合成
(1−メチレンプロピル)ジイソプロピルシリルアセチレンの合成
この物質は、臭化アリルマグネシウムを2−リチオ−1−ブテン(−78℃のテトラヒドロフラン中で2−ブロモ−1−ブテンをn−BuLiで処理することによりその場で生成される)で単純に置き換え、アリルジイソプロピルシリルアセチレンの調製(実施例1)に用いたものと同じ方法により合成した。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=5.76(q,J=1.2Hz,1H),5.55(quint,J=1.2Hz,1H),2.41(s,1H),1.06(br.s,14H),2.19(q,t,J=9.5,1.2Hz,2H),1.10(t,J=9Hz,3H)。
【0152】
6,13−ビス((1−メチレンプロピル)ジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンの合成
(2−ブト−1−エニルDIPS−ペンタセン)
この物質は、アリルジイソプロピルシリルアセチレンを(1−メチレンプロピル)ジイソプロピルシリルアセチレンで単純に置き換え、アリルDIPS−ペンタセンの合成(実施例1)に用いたものと同様の方法を用いて調製した。H−NMR(200MHz,CDCl)δ=9.33(s,4H),7.98(dd,J=3.4,6.6Hz,4H),7.41(dd,J=3.4,6.6Hz,4H),5.9(q,J=1Hz,2H),5.83(quint,J=1Hz,2H),2.19(q,t,J=8,1.1Hz,4H),1.39(br.s,28H),1.24(t,J=8Hz,6H)。
【0153】
実施例9−ディップコーティングを用いた電子デバイスの作製
実施例4と同様の1000オングストロームの熱酸化物を有する高濃度にドープしたn型シリコンウェーハを基板として使用した。500Wの出力設定及び1標準立方cm(sccm)/分の酸素流を使用してプラズマクリーニングシステム(イールド・エンジニアリング・システムズ社(Yield Engineering Systems, Inc.)(カリフォルニア州リバーモア)より販売されるモデルYES−G1000)で基板を3分間処理した。次いで試料を、(i)3mm/分の引き抜き速度でディップコーティング装置(ニーマ・テクノロジー社(Nima Technology LTD)(英国、コベントリー)より販売されるNIMA D1L)を使用して半導体溶液でコーティングし、(ii)次いで室温で乾燥させた。この試料に約800〜1000オングストロームの金をシャドーマスクを介して蒸着した。次いで移動度値試験方法Iにしたがってトランジスターの特性評価を行った。
【0154】
各半導体溶液は、使用に先立って濾過(ポールライフサイエンス社(Pall Life Sciences)Acrodisc(登録商標)CR25mm,0.2μmPTFEシリンジ型フィルター)した、n−ブチルベンゼンを溶媒とした1.8〜2.0重量%溶液である。半導体溶液を幅約50mm、深さ5mm、高さ30mmのディップコーティング槽に入れた。約5mLの溶液を使用した。コーティングの後、基板のSiO表面上に長い結晶が存在し、一般にディップ軸に対して平行に配向する。ソース及びドレイン端子は、結晶が端子間を架橋するように半導体結晶に対して方向付けた。
【0155】
本実施例で使用した半導体は、(i)TIPS−ペンタセン、(ii)6,13−ビス−[(イソプロペニルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(IP−DIPS)、(iii)6,13−ビス[(アリル−ジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(アリル−DIPS)、(iv)6,13−ビス((1−メチレンプロピル)ジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(2−ブト−1−エニルDIPS)、及び(v)6,13−ビス−[(シクロプロピルジイソプロピルシリル)エチニル]ペンタセン(シクロプロピルDIPS)である。
【0156】
ディップコーティングではしばしば基板は完全に覆われないため、デバイスの有効チャネル幅を測定する必要があった。結晶によって覆われた基板表面の比率を、(i)高倍率(100×)で基板のデジタル写真を撮影し、次いで(ii)アドビ社(Adobe)(登録商標)のPhotoshop(登録商標)写真編集用ソフトウェアのような写真編集用ツールを使用して曝露された基板の領域をL、a、b色空間内の均一な黒(0,0,0)の色彩として識別及びレンダリングし、次いで(iii)Photoshop(登録商標)写真編集用ソフトウェアのヒストグラム機能を使用して明度(L)<15の写真の比率を求め、次いで(iv)3つの写真の結果の平均をとって基板の表面被覆率の値を求めることによって測定した。次いで表面被覆率の値を用いてTFTの有効チャネル幅を計算し、この有効チャネル幅を用いて電荷キャリア移動度の値を計算した。有効チャネル幅の計算には下式を用いた。
【0157】
【数2】

【0158】
式中、Weffは有効チャネル幅であり、Wdepはソース及びドレイン端子の長さ(成膜時の)であり、Covは表面被覆率(%)である。例えば、ソース及びドレイン電極の長さが1000ミクロンであり、表面被覆率が80%である場合、有効チャネル幅は800ミクロンとなる。
【0159】
本実施例における半導体の電荷キャリア移動度の値を下記表6に示す。これらの値は上記に述べた移動度値試験方法Iによって測定したものである。
【0160】
【表6】

【0161】
実施例10−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−1−フルオロ−ペンタセンの合成
1−フルオロペンタセンキノンの合成
3−フルオロ−o−キシレン(1.2g,9.7mmol)を攪拌子を備えた丸底フラスコに加え、30mLのジクロロメタンに溶解した。N−ブロモサスクシンイミド(7.0g,39mmol)及び少量のAIBN(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル))を加え、環流冷却器を取付けた。混合物を6時間還流し、GC−MS分析を行ったところ、三臭化物が主要成分であることが示された。冷却後、水及びジクロロメタンを加え、有機層を分離して水及び希塩酸で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ジクロロメタンを溶離剤として用いてシリカゲルの薄いパッドに通じて流した。溶媒を除去して3.4gの混合生成物を得た。冷却器及び攪拌子を備えた100mLの丸底フラスコに12mLのジメチルホルムアミドを加え、次いで0.54g(2.07mmol)の上記で得られた三臭化物及び0.43g(2.1mmol)の1,4−アントラキノンを加えた。溶液に窒素を20分バブリングした後、2.1g(12mmol)のヨウ化カリウムを加え、反応液を110℃に3日間加熱した。反応液を冷却し、沈殿物を濾過して回収し、水、アセトン、及びジエチルエーテルで順次洗った。得られた固体を風乾して0.29g(0.88mmol,42%)の1−フルオロペンタセンキノンを淡褐色の固体として得た。
【0162】
6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−1−フルオロペンタセンの合成
火炎乾燥した100mlの丸底フラスコ(攪拌子付き)を窒素雰囲気下冷却して氷浴中に入れた。このフラスコに、8mLの無水THF及び1.5g(8.3mmol)の実施例7で得た(シクロプロピルジイソプロピルシリル)アセチレンを加えた。n−ブチルリチウム(2.6mL,2.5Mヘキサン溶液)を10分かけて加えた。反応液を1時間攪拌した後、0.98g(3.0mmol)の1−フルオロペンタセンキノンを加え、攪拌を一晩継続した。飽和塩化アンモニウムを数滴加え、次いで5mLのメタノールを加え、この溶液を、2.4g(11mmol)の塩化第一スズ二水和物及び2mLの10%塩酸を50mLのメタノールに加えた溶液に注ぎ、10分攪拌した。次いで30mLのメタノール及び3mLの10%塩酸を加え、攪拌を15分継続してから20mLのメタノールを加え、溶液を冷蔵庫に3時間入れた。溶液を濾過して青色の固体を得、これをヘキサンを溶離剤として用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。得られた青色固体をアセトンから再結晶化させて0.77g(1.2mmol,39%)の生成物を青色の針状結晶として得た。青色の針状結晶を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=9.5(s,1H),9.2(s,1H),9.2(s,1H),9.2(s,1H),8.0(dd,J=3.2Hz,6.8Hz,2H),7.7(d,J=8.8Hz,1H),7.4(dd,J=3.2Hz,6.4Hz,2H),7.3(m,1H),7.0(m,1H),1.4(m,28H),0.8(m,8H),−0.2(m,2H)。
【0163】
実施例11−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2.9(10)−ジフロオロ−ペンタセンの合成
2,9−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオン及び2,10−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンの合成
4−フルオロ−o−キシレン(5.7g,46mmol)を攪拌子を備えた丸底フラスコに加え、150mLのジクロロメタンに溶解した。N−ブロモサスクシンイミド(33.1g,186mmol)及び少量のAIBN(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル))を加え、環流冷却器を取付け、混合物を6時間還流した。GC−MS分析を行ったところ、三臭化物:四臭化物の90:10混合物であることが示された。冷却後、水及びジクロロメタンを加え、有機層を分離して水及び希塩酸で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ジクロロメタンを用いてシリカゲルの薄いパッドに通じて流した。溶媒を除去して16.3gの混合生成物を得、これをベンゾキノン(1.9g,18mmol)とともに120mLのジメチルホルムアミドに溶解した。この混合物を窒素ガスでパージし、ヨウ化カリウム(40g,240mmol)を加えて反応混合物を110℃に4日間加熱した。得られた沈殿物を冷却し、アセトンで希釈し、濾過によって単離し、更なるアセトン及び水で洗い、アセトンを加えて粉砕して1.3g(3.7mmol,21%)の生成物を淡褐色固体として得た。
【0164】
6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2.9(10)−ジフルオロペンタセンの合成
(シクロプロピルジイソプロピルシリル)アセチレン(1.6g,8.8mmol)及び無水THF(7mL)を、攪拌子を備えた乾燥した100mLの丸底フラスコに加え、氷浴中で冷却した。n−ブチルリチウム(3.0mL,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、溶液を30分攪拌した。2種類のキノン(2,9−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオン及び2,10−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオン)の異性体混合物(1.1g,3.1mmol)を加え、攪拌を12時間継続した。飽和塩化アンモニウムを4滴加えることによって反応を停止させた後、メタノール(20mL)で希釈した。別の三角フラスコ中で塩化第一スズ二水和物(2.1g,9.3mmol)をメタノール(200mL)及び10%塩酸(2mL)に溶解し、冷蔵庫で1時間冷やした。反応停止させた反応混合物を、冷やしたメタノール溶液に攪拌下でゆっくりと流し込み、20分攪拌した後、冷蔵庫に戻して1時間置いた。得られた固体を濾過によって回収し、風乾し、ヘキサン:ジクロロメタンの9:1混合物に溶かし、薄いシリカパッドを通じて流した。溶媒を除去して光沢のある青色粉末を得、これをアセトンから再結晶化させて青色の針状結晶を得た(0.1g,5%)青色の針状生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.2(s,2H,異性体A,2H,異性体B),9.1(s,2H,異性体A,2H異性体B),8.0(m,2H,異性体A,2H,異性体B),7.5(m,2H,異性体A,2H,異性体B),7.2(m,2H,異性体A,2H,異性体B,クロロホルムのシグナルと重なる),1.4(m,28H),0.8(m,8H),−0.2(m,2H)。
【0165】
実施例12−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−1,8(11)−ジフロオロ−ペンタセンの合成
1,8−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオン及び1,11−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンの合成
3−フルオロ−o−キシレン(5.7g,46mmol)を攪拌子を備えた丸底フラスコに加え、150mLのジクロロメタンに溶解した。N−ブロモサスクシンイミド(33.1g,186mmol)及び少量のAIBN(2,2’−アゾビス(33.1−メチルプロピオニトリル))を加え、環流冷却器を取付けた。混合物を6時間還流してからGC−MS分析を行ったところ、三臭化付加物が主生成物であることが示された。冷却後、水及びジクロロメタンを加え、有機層を分離して水及び希塩酸で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ジクロロメタンを用いてシリカゲルの薄いパッドに通じて流した。溶媒を除去して16.1gの混合生成物を得た。冷却器及び攪拌子を備えた100mLの丸底フラスコに12mLのジメチルホルムアミドを加え、次いで1.1g(約4.1mmol)の上記で得られた三臭化物及び0.22g(2.0mmol)のベンゾキノンを加えた。溶液に窒素を20分バブリングした後、2.1g(12mmol)のヨウ化カリウムを加え、反応液を110℃に3日間加熱した。反応液を冷却し、沈殿物を濾過して回収し、水、アセトン、及びジエチルエーテルで順次洗った。得られた固体を風乾して0.15g(0.42mmol,21%)のジフルオロペンタセンキノンの異性体混合物を淡褐色の固体として得た。
【0166】
6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−1,8(11)−ジフルオロペンタセンの合成
この物質は、2,9−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンと2,10−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンとの混合物を、1,8−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンと1,11−ジフルオロペンタセン−6,13−ジオンとの混合物に単純に置き換え、上記実施例11で6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2.9(10)−ジフルオロペンタセンの合成に用いたものと同様の方法を用いて調製した。生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.5(s,2H,異性体A),9.2(s,2H,異性体B),7.8(s,1H,異性体A),7.7(s,1H,異性体B),7.3(m,各異性体に対して2H,異性体A及びB),7.0(m,各異性体に対して2H,異性体A及びB),1.3(m,28H),0.8(m,8H),−0.2(m,2H)。
【0167】
実施例13−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2,3,9,10−テトラ−メチルペンタセンの合成
2,3,9,10−テトラメチルペンタセン−6,13−ジオンの合成
1.6g(10mmol)の4,5−ジメチルフタルアルデヒドを20mLのエタノールに加えた溶液に、0.56g(5mmol)のシクロヘキサン1,4−ジオンを加えた。開始物質が完全に溶解した時点で15%NaOH水溶液を2滴加えたところ、キノンの沈殿が直ちに始まった。この懸濁液を更に2時間攪拌した後、10倍量のメタノールで希釈し、固体を濾過して回収した。固体のキノンを大量のメタノール次いでエーテルで洗い、一晩風乾した。このキノン(1.5g,82%)を更に精製することなく用いた。
【0168】
6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2,3,9,10−テトラメチル−ペンタセンの合成
火炎乾燥した100mlの丸底フラスコ(攪拌子付き)を窒素雰囲気下冷却して氷浴中に入れた。注射器を使用して無水THF(6mL)を加えた後、1.4g(7.5mmol)(シクロプロピルジイソプロピルシリル)アセチレンを加えた。n−ブチルリチウム(2,4mL,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、反応液を1時間攪拌してから1.0g(2.7mmol)の2,3,9,10−テトラメチルペンタセン−6,13−ジオンを加えた。12時間攪拌した後、0.5mLの飽和塩化アンモニウムを加え、次いで1.9g(8.5mmol)の塩化第一スズ二水和物及び2mLの10%水性の塩酸を6mLのMeOHに加えた冷たい溶液を加えた。得られた混合物を40分攪拌した。次いで混合物を、100mLのMeOHに3mLの10%塩酸を加えた溶液に加え、更に10分攪拌してから冷蔵庫に入れた。2時間後、緑色の溶液を除去し、0.5gの塩化第一スズ二水和物及び1mLの10%水性の塩酸を加えて室温で15分攪拌してから冷蔵庫に戻して1.5時間置いた。次いで溶液を濾過し、MeOHで洗い、DCMに溶解し、DCMを溶離剤として短いシリカプラグに通過させた。得られた緑色の固体をトルエンから再結晶化して0.12g(0.17mmol,6.5%)の生成物を青緑色の針状結晶として得た。青緑色の針状生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.0(s,4H),7.7(s,4H),2.5(s,12H),1.3(m,28H),0.8(m,8H),−0.2(m,2H)。
【0169】
実施例14−6,13−ビス(シクロプロピルジイソプロピルシリルエチニル)−2,3:9,10−ビス(c−ジヒドロフラノ)ペンタセンの合成
2,3:9,10−ビス(c−ジヒドロフラノ)ペンタセン−6,13−ジオンの合成
スウェルン条件を用い、4,5−c−ジヒドロフラノ−1,2−ジヒドロキシメチルベンゼンを対応するアルデヒドに90%の収率で酸化した。得られた4,5−c−ジヒドロフラノ−1,2−ジホルミルベンゼンを、4重アルドール縮合の触媒として15%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、THF中で0.5当量のシクロヘキサン−1,4−ジオンと反応させて所望のキノンを60〜96%の収率で得た。
【0170】
火炎乾燥した100mlの丸底フラスコ(攪拌子付き)を窒素雰囲気下冷却して氷浴中に入れた。このフラスコに、5mLの無水THF及び0.90g(5.0mmol)の(シクロプロピルジイソプロピルシリル)アセチレンを加えた。n−ブチルリチウム(2.0mL,2.2Mヘキサン溶液)を滴下し、溶液を1時間攪拌した。次いで2,3:9,10−ビス(c−ジヒドロフラノ)ペンタセン−6,13−ジオン(0.78g,2.0mmol)を加え、反応液を12時間攪拌した。0.5mLの飽和塩化アンモニウムを加えることによって反応を停止させた後、1.6g(7.0mmol)の塩化第一スズ二水和物及び2mLの10%水性の塩酸を5mLのメタノールに加えた冷たい溶液を加えた。得られた混合物を氷浴中で30分攪拌した。次いで、1mLの10%HClを150mLのメタノールに加えた溶液を加えた。溶液を1時間攪拌してから冷蔵庫に入れ、3時間置いた。溶液を濾過することにより生成物を青緑色の固体として得、これをDCMを溶離剤として用いたクロマトグラフィーによって精製し、アセトンから2回再結晶化させて青色の針状結晶を得た(0.19g,0.26mmol,13%)。青緑色の針状生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.1(s,4H),7.8(s,4H),5.2(s,8H),1.4(m,28H),0.8(m,8H),−0.2(m,2H)。
【0171】
実施例15−6,13−ビス(アリルジシクロプロピルシリルエチニル)−ペンタセンの合成
(アリルジシクロプロピルシリル)アセチレンの合成
オーブン乾燥した250mlの丸底フラスコに(トリメチルシリル)アセチレン(3.2g,33mmol)及び無水THF(24mL)を加えた。この溶液を0℃に冷却してからn−ブチルリチウム(11.6mL,29mmol,2.5Mヘキサン中)を滴下した。溶液を1時間攪拌した後、次の段階を行った。別のオーブン乾燥した250mLの丸底フラスコ中、アリルトリクロロシラン(5.13g,29.2mmol)を無水THF(20mL)に溶解し、氷浴中で冷却した。この第2の溶液に更なる漏斗を取付け、そこから第1の反応混合物を加えた。第1の反応混合物は30分かけて第2の液体に滴下した。得られた溶液を一晩攪拌した。
【0172】
冷却器を備えた第3のオーブン乾燥した丸底フラスコ(500mL)中で、臭化シクロプロピル(9.1g,75mmol,40mLのEtO中)の無水ジエチルエーテル溶液を、無水ジエチルエーテル(7mL)にマグネシウム(1.7g,70mmol)を加えた溶液に加え、4時間還流することによって、70mmolの臭化シクロプロピルマグネシウムを形成した。次いでこの新たに形成されたグリニャール試薬を熱から外し、第1の段階から得られたアリルジクロロ(トリメチルシリルエチニル)シランの粗生成物をこの試薬に加え、一晩環流した。水を加えることによって反応を停止させてから希硫酸を加えて塩を溶解し、ヘキサン中に抽出した(2×50mL)。有機層を水(5×20mL)及び食塩水で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥、濾過し、真空下で濃縮して淡褐色の液体を得た。ヘキサンを溶離剤としてシリカゲルクロマトグラフィーで更に精製してトリメチルシリルでキャップされた生成物を無色の液体として得た。THF及びMeOHに15%の水酸化ナトリウム溶液を加えた溶液中で30分攪拌することによってトリメチルシリルキャップを除去した。水を加えた後、生成物をヘキサン中に抽出し(2×50mL)、水で洗い(3×20mL)、硫酸マグネシウム上で乾燥して、濾過し、真空下で濃縮して0.93g(5.3mmol,18%)の無色の液体を得た。無色の液体生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=5.9(m,1H),4.9(m,2H),2.3(s,1H),1.7(dt,J=8.2Hz,1.1Hz,2H),0.6(m,4H),0.4(m,4H),−0.4(m,2H)。
【0173】
6,13−ビス(アリルジシクロプロピルシリルエチニル)−ペンタセンの合成
オーブン乾燥した100mLの丸底フラスコ中、(アリルジシクロプロピルシリル)アセチレン(1.5g,8.8mmol)を9mLの無水THFに溶解し、塩化エチルマグネシウム(3.5mL,7mmol,2Mジエチルエーテル溶液)を滴下した。この溶液を60℃に1時間加熱し、熱から外した。ペンタセンキノン(0.94g,3.0mmol)を加えた後、再び60℃に加熱して12時間加熱を継続した。この間に反応液は固化した。2mLの飽和塩化アンモニウム溶液を加えることによって反応を停止させると固体は溶解し、これをメタノール(50mL)で希釈した。三角フラスコ中、塩化第一スズ二水和物(2.5g,12mmol)をメタノール(200mL)に溶解し、10%塩酸溶液(2mL)を加え、溶液を1時間冷却した。次いで反応停止させたジオールを塩化第一スズ溶液にゆっくりと流し込み、30分攪拌してから1時間冷却した。固体を濾過し、メタノールで洗い、最小量のジクロロメタンに再溶解してヘキサンで希釈し(ヘキサン:ジクロロメタン=約9:1)、ヘキサン:ジクロロメタンの9:1混合物を溶離剤として用いてシリカゲルパッドを通じて流した。溶媒を除去して750mgの粗生成物を青色の固体として得、これを約125mLのアセトンから再結晶化して0.58g(0.92mmol,キノンからの収率30%)の青色針状結晶を得た。青色の針状生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.2(s,4H),8.0(dd,J=3.3Hz,4H),7.4(dd,J=3.3Hz,6.6Hz,4H),6.2(m,2H),5.2(m,4H),2.0(dt,J=8.2Hz,1.1Hz,4H),0.83(m,16H),−0.025(m,2H)。
【0174】
実施例16−6,13−ビス((2−メチル−1,3−ジチアン)ジイソプロピルシリルエチニル)−ペンタセンの合成
ジイソプロピル(トリメチルシリルエチニル)シランの合成
火炎乾燥した250mlの丸底フラスコを窒素雰囲気下冷却して氷浴中に入れた。このフラスコに30mLのペンタン及び3.6g(36mmol)トリメチルシリルアセチレンを加えた。n−ブチルリチウム(13.2,2.5Mトルエン溶液)を12分かけて加え、反応液を1時間、0℃で攪拌した。次いでジイソプロピルクロロシラン(5.1g,34mmol)を加え、反応液を一晩攪拌した。溶液をペンタンで抽出し(2×40mL)、有機層を水で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過してから回転蒸発により注意深く濃縮した(生成物は揮発性であった)。ペンタンを溶離剤としたシリカクロマトグラフィーにより、6.9g(33mmol,99%)の所望の生成物を透明な油状物として得た。
【0175】
ジイソプロピル(トリメチルシリルエチニル)シリルブロミドの合成
攪拌子を備えた丸底フラスコ中でジイソプロピル(トリメチルシリルエチニル)シラン(6.9g,33mmol)をジクロロエタン(20mL)に溶解し、氷浴中に入れた。N−ブロモスクシンイミド(36mmol,6.5g)を30分かけてスクープですくって加え、更に15分又は溶液が明るいオレンジ色に変わり始めるまで攪拌を続けた。回転蒸発により溶媒を除去し、得られた固体にペンタンを加え、残った固体スクシンイミド残渣を濾過によって除去した。このペンタン溶液を再び蒸発させ、このプロセスを繰り返し、ペンタンを除去して8.6g(29mmol,89%)の生成物を淡褐色の油状物として得た。
【0176】
((2−メチル−1,3−ジチアン)ジイソプロピルシリル)アセチレンの合成
攪拌子を備えた250mlの丸底フラスコを火炎乾燥し、窒素雰囲気下で冷却して氷浴中に入れた。このフラスコに20mLのヘプタン、10mLの無水ジエチルエーテル、及び5.0g(37mmol)の2−メチル−1,3−ジチアンを注射器で加えた。n−ブチルリチウム(14.9mL,2.5Mヘキサン中)を30分かけて注射器で加えた。この溶液を0℃で1.5時間攪拌した後、室温で水浴中に入れ、更に1.5時間攪拌してから再び氷浴中に戻した。次いで10mLのヘプタンに溶解したジイソプロピル(トリメチルシリルエチニル)シリルブロミド(15.1g,51.0mmol)を注射器で6分かけて加え、反応液を一晩攪拌した。反応混合物を飽和塩化アンモニウム溶液に注ぎ、ヘキサン中に抽出し(2×50mL)、水及び食塩水で洗った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過してから回転蒸発下で濃縮した。粗生成物をヘキサン:ジクロロメタンの2:1溶液を溶離剤として用いてクロマトグラフィーで精製し、3.6g(11mmol,29%)のトリメチルシリルでキャップされたアセチレンを透明な油状物として得た。このアセチレンを24mLのメタノール:THFの1:1溶液に溶かし、次いで15%水酸化ナトリウム水溶液を3滴加えてから、反応液を室温で30分攪拌した。ヘキサン及び水を加え、更に30分攪拌した。得られた溶液をヘキサン中に抽出し(2×30mL)、有機層を合わせ、水で洗い、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を蒸発させた後、粗生成物をヘキサン:ジクロロメタンの2:1混合物を溶離剤として用いてクロマトグラフィーで精製し、2.2g(8.0mmol,開始物質である2−メチル−1,3−ジチアンからの全体の収率22%)の生成物を透明な油状物として得た。透明油状生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=3.3(m,2H),2.5(m,2H),2.5(s,1H),2.0(m,3H),1.6(m,2H),1.4(m,14H)。
【0177】
6,13−ビス((2−メチル−1,3−ジチアン)ジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンの合成
オーブン乾燥した100mLの丸底フラスコ中、((2−メチル−1,3−ジチアン)ジイソプロピルシリル)アセチレン(1.5g,5.6mmol)を無水THF(8mL)に溶解して氷浴中で冷却した。n−ブチルリチウム(1.34mL,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、溶液を30分攪拌した後、ペンタセンキノン(0.44g,1.4mmol)を加えて攪拌を12時間継続した。飽和塩化アンモニウム溶液を3滴加えることによって反応を停止させた後、塩化第一スズ二水和物(1.3g,6.2mmol)を2mLの塩酸に加えた溶液を加え、反応液を10分攪拌した。ジクロロメタン(20mL)及び水(25mL)を加え、溶液の全体を更なるジクロロメタンを用いてCelite(商標)濾過材を通じて流した。有機層を分離して硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過してから回転蒸発下で濃縮した。得られた油状物をジクロロメタン:ヘキサンの1:1混合物に溶かし、シリカゲルの媒質パッド上に流し、青色の生成物を同じ溶媒混合物を用いて溶出した。溶媒を除去すると粘稠な青色油状物が得られ、これにペンタンを加えると青色の固体が得られた。明るい青色の溶液からこの固体を回収し、トルエンから再結晶化して0.11g(0.13mmol,9%)の生成物を青色の板状物として得た。青色の生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.4(s,4H),7.9(dd,J=3.2Hz,6.6Hz,4H),7.4(dd,J=3.2Hz,6.6Hz,4H),3.2(m,4H),2.7(m,4H),2.3(s.6H),2.1(識別不能なマルチプレット),1.7(m,2H),1.5(m,28H)。
【0178】
実施例17−6,13−ビス−((3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルジイソプロピルシリル−エチニル)ペンタセンの合成
((3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルジイソプロピルシリル)アセチレンの合成
乾燥した250mLの丸底フラスコ中で、(3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル−トリクロロシラン(4.87g,13.5mmol)を無水THF(15mL)に溶解した。この溶液を氷浴中で冷却し、イソプロピルリチウム(41mL,28mmol,0.7Mペンタン中)を1時間かけて滴下してから12時間かけて室温にまで温めた。臭化エチニルマグネシウム(35mL,17mmol,0.5MTHF溶液)を加え、溶液を60℃に12時間加熱した。水をゆっくり加えることによって反応を停止させた後、希硫酸を加えてマグネシウム塩を溶解した。混合物をヘキサン中に抽出し(2×50mL)、水で洗い(5×10mL)、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濾過してから濃縮した。生成物をヘキサンを溶離剤として用いたシリカクロマトグラフィー(ヘキサン中のRf値=約0.6)で精製して2.4g(6.5mmol,48%)の無色の液体を得た。無色の液体生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=4.0(t,J=6.2Hz,2H),2.4(s,1H),1.8(m,2H),1.0(m,14H),0.6(m,2H)。
【0179】
6,13−ビス−((3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルジイソプロピルシリルエチニル)−ペンタセンの合成
オーブン乾燥した100mLの丸底フラスコ中、((3−ヘプタフルオロイソプロポキシ)−プロピルジイソプロピルシリル)アセチレン(2.0g,5.4mmol)を無水THF(5mL)に溶解し、氷浴中で冷却した。n−ブチルリチウム(1.8mL,4.5mmol,2.5Mヘキサン溶液)を滴下し、溶液を浴中で30分攪拌した。ペンタセンキノン(0.57g,1.8mmol)を加え、反応液を12時間攪拌した。別の三角フラスコ中で、塩化第一スズ二水和物(1.4g,6.4mmol)をメタノール(100mL)に溶解し、1mLの10%塩酸を加えた後、この溶液を1時間冷蔵した。反応混合物に0.5mLの飽和塩化アンモニウム溶液を加えて反応を停止させた後、メタノール(20mL)で希釈した。反応を停止させた反応混合物を攪拌下、塩化第一スズ混合物中にゆっくりと流し込み、更なるメタノールで洗ったものも加えた。攪拌を30分継続した後、混合物全体を3時間冷蔵した。固体を濾去し、周囲雰囲気中で乾燥し、溶離剤としてヘキサン:ジクロロメタンの9:1混合物を用いたシリカゲルクロマトグラフィーによって精製して0.68gの青色固体を得た。アセトン(約30mL)から再結晶化することにより、0.6g(0.6mmol,34%)の生成物を赤紫色の板状物として得た。赤紫色の生成物を分析して以下のデータを得た。1H−NMR(200MHz,CDCl3)δ=9.2(s,4H),7.9(dd,J=3.4Hz,7.0Hz,4H),7.4(dd,J=3.4Hz,7.0Hz,4H),4.1(t,J=6.0Hz,4H),2.1(m,4H),1.3(m,28H),1.0(m,4H)。
【0180】
実施例18−ディップコーティングを用いた電子デバイスの作製
実施例4と同様の1000オングストロームの熱酸化物を有する高濃度にドープしたn型シリコンウェーハを基板として使用した。500Wの出力設定及び1標準立方cm/分(sccm)の酸素流を使用してプラズマクリーニングシステム(イールド・エンジニアリング・システムズ社(Yield Engineering Systems, Inc.)(カリフォルニア州リバーモア)より販売されるモデルYES−G1000)で基板を3分間処理した。次いで試料を、(i)3mm/分の引き抜き速度でディップコーティング装置(ニーマ・テクノロジー社(Nima Technology LTD)(英国、コベントリー)より販売されるNIMA D1L)を使用して半導体溶液でコーティングし、(ii)次いで室温で乾燥させた。この試料に約800〜1000オングストロームの金をシャドーマスクを介して蒸着した。次いで移動度値試験方法Iにしたがってトランジスターの特性評価を行った。
【0181】
各半導体コーティング溶液は、2.0重量%の半導体及び1重量%のポリスチレン(PS)を、91重量%のn−ブチルベンゼン及び9重量%のデカンを含む溶媒混合物に加えたものである。半導体溶液は使用に先立って予め濾過した(ポールライフサイエンス社(Pall Life Sciences)Acrodisc(登録商標)CR 25mm,0.2μmPTFEシリンジ型フィルター)。半導体溶液を幅約50mm、深さ5mm、高さ30mmのディップコーティング槽に入れた。約5mLの溶液を使用した。コーティングの後、基板のSiO表面上に長い結晶が存在し、一般にディップ軸に対して平行に配向する。ソース及びドレイン端子は、結晶が端子間を架橋するように半導体結晶に対して方向付けた。
【0182】
本実施例で使用した半導体は、(i)6,13−ビス[(アリルジシクロプロピルシリル)−エチニル]ペンタセン(A−DCPS)、及び(ii)6,13−ビス−[(シクロプロピルジイソプロピルシリル)エチニル]−ペンタセン(シクロプロピルDIPS)である。
【0183】
移動度を計算する目的で、有効チャネル幅を実施例9と同様にして測定した。本実施例における半導体の電荷キャリア移動度の値を下記表7に示す。これらの値は上記に述べた移動度値試験方法Iによって測定したものである。
【0184】
【表7】

【0185】
実施例19−材料の熱分析
TIPSペンタセンは約124℃で結晶転移を示し、約266℃で溶融する際に不可逆反応を示すことが知られており、この不可逆反応は1つの分子の側基のアセチレンと、最低でも二量体を形成する別の分子の芳香族構造との間のディールス・アルダー反応であると考えられている。これらの転移及び反応は、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて容易に観察することができる。TIPSペンタセンでは温度を一定の割合で上昇させた場合、約124℃で吸熱(固体−固体結晶転移)、及び約266℃で吸熱(固体−液体転移)の開始が明らかに認められ、後者は発熱(ディールス・アルダー反応)によって乗り越えられる。124℃での吸熱の開始後に温度上昇を停止させて温度を一定の割合で低下させると、固体−固体転移は発熱反応が生じることによって可逆的となることが示される。266℃よりも高い温度に加熱することによって二量体が形成される場合、温度を一定の割合で低下させても最早こうした転移が起こる徴候は認められない。
【0186】
特定の用途では、こうした転移が生じないか、これらの半導体材料を用いて製造されたデバイスの予測される動作温度範囲よりも遥かに高い温度で生じるような材料を使用することが有利である場合がある。
【0187】
6,13−ビス(イソプロペニルジイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン、6,13−ビス(アリルジシクロプロピルシリルエチニル)−ペンタセン、及び6,13−ビス(シクロプロピル−ジイソプロピルシリルエチニル)−2,3,9,10−テトラメチル−ペンタセンのDSCによる特性評価により、これらの化合物は低温では固体−固体転移を起こさないことが示された。DSCによって調べたこれらの化合物の熱転移を下記表8に示す。
【0188】
【表8】

【0189】
以上、本明細書をその特定の実施形態について詳述してきたが、前述の事項を理解することにより、当業者がこれらの実施形態に対する変更、その変形、及びそれらの均等物を容易に想像できることは明らかである。したがって、本発明の範囲は、添付された請求項の範囲及びその均等物として評価されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学構造を有するペンタセン化合物。
【化1】

(式中、
各Rは独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
各R’は独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
R”は、(i)水素、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iv)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(v)置換アリール基、(vi)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vii)アセチル基、又は(viii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、
x=1又は2であり、
y=1又は2であり、
z=0又は1であり、
(x+y+z)=3であり、
各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、(xi)ニトロ基を含むか、あるいは(xii)任意の2個の隣り合うX基同士が(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成し、
z=0であり、かつR及びR’がともに(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基の組み合わせを含む場合、前記ペンタセン化合物は、トランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法によって測定される最大電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−s以上であるような半導体層の形成を可能とする。)
【請求項2】
R”が、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(iv)置換アリール基、(v)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vi)アセチル基、又は(vii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、かつ、x=y=z=1である、請求項1に記載のペンタセン化合物。
【請求項3】
R”が、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(iv)置換アリール基、(v)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vi)アセチル基、又は(vii)環内に酸素、窒素、硫黄、及びセレンの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、(x+y+z)=3であり、かつx又はy=2であってz=1である、請求項1に記載のペンタセン化合物。
【請求項4】
(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項5】
(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含み、(c)R”が(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルキニル基、(ii)置換アリール基、(iii)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(iv)アセチル基、又は(v)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項6】
(a)各Rが独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基を含み、(b)各R’が独立して分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基を含み、(b)R”が置換又は非置換のアリール基を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項7】
R又はR’の少なくとも1つが、(i)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(ii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項8】
R、R’及びR”が、(i)1以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)1つ以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(iii)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキル基、及び(iv)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基の組み合わせを含む、請求項1〜3又は7のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項9】
R、R’及びR”が、(i)1つ以上の分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、及び(iii)1つ以上の置換又は非置換のシクロアルキル基の組み合わせを含む、請求項1〜3又は7〜8のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項10】
(a)z=0であり、(b)各Rが独立して(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC1〜C8アルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、(c)各R’が独立して(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のC2〜C8アルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含む、請求項1に記載のペンタセン化合物。
【請求項11】
(a)z=0であり、(b)各Rが独立してn個の炭素原子を有する分枝した非置換のアルキル基を含み、(c)各R’が独立してn個の炭素原子を有する分枝した非置換のアルケニル基を含み、(d)n=3又は4である、請求項10に記載のペンタセン化合物。
【請求項12】
R、R’、R”の1つ以上が1つ以上の置換基で置換され、前記1つ以上の置換基が、ハロゲン、水酸基、アルキル基、シアノ基、アミノ基、カルボニル基、アルコキシ基、チオアルコキシ基、ニトロ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シリル基、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項13】
少なくとも1つのXが(i)ハロゲン、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iii)置換又は非置換のアリール基、(iv)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vi)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、又は(xi)ニトロ基を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項14】
少なくとも1つのXが(i)フッ素原子、(ii)フルオロアルキル基、(iii)アリール基、(iv)置換又は非置換の複素環基、(v)シアノ基、又は(vi)ニトロ基を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項15】
少なくとも2個の隣り合うX基同士が、(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のペンタセン化合物。
【請求項16】
溶媒を更に含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載のペンタセン化合物を含む組成物。
【請求項17】
ポリマーを更に含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ポリマーが、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(4−シアノメチルスチレン)、ポリ(4−ビニルフェノール)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1つのコーティング可能な表面と、前記少なくとも1つのコーティング可能な表面上にコーティングされた層とを有する基板であって、前記コーティング層が、
次の化学構造を有するペンタセン化合物を含む、基板。
【化2】

(式中、
各Rは独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
各R’は独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
R”は、(i)水素、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iv)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(v)置換アリール基、(vi)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vii)アセチル基、又は(viii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、
x=1又は2であり、
y=1又は2であり、
z=0又は1であり、
(x+y+z)=3であり、
各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、(xi)ニトロ基を含むか、あるいは(xii)任意の2個の隣り合うX基同士が(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成し、
z=0であり、かつR及びR’がともに(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、及び(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基の組み合わせを含む場合、前記ペンタセン化合物は、トランジスタ製造及び電荷キャリア移動度値試験方法によって測定される最大電荷キャリア移動度の値が2.0cm/V−s以上であるような半導体層の形成を可能とする。)
【請求項20】
コーティング層を有する電子デバイスであって、前記コーティング層が次の化学構造を有するペンタセン化合物を含む、電子デバイス。
【化3】

(式中、
各Rは独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
各R’は独立して、(i)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(ii)置換又は非置換のシクロアルキル基、又は(iii)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基を含み、
R”は、(i)水素、(ii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(iii)置換又は非置換のシクロアルキル基、(iv)置換又は非置換のシクロアルキルアルキレン基、(v)置換アリール基、(vi)置換又は非置換のアリールアルキレン基、(vii)アセチル基、又は(viii)環内にO、N、S、及びSeの少なくとも1つを有する置換又は非置換の複素環を含み、
x=1又は2であり、
y=1又は2であり、
z=0又は1であり、
(x+y+z)=3であり、
各Xは独立して、(i)水素、(ii)ハロゲン、(iii)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキル基、(iv)置換又は非置換のアリール基、(v)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルケニル基、(vi)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルキニル基、(vii)置換又は非置換の複素環基、(viii)シアノ基、(iv)エーテル基、(x)分枝又は非分枝、置換又は非置換のアルコキシ基、(xi)ニトロ基を含むか、あるいは(xii)任意の2個の隣り合うX基同士が(a)置換又は非置換の炭素環、又は(b)置換又は非置換の複素環を形成し、
前記電子デバイスは2.0cm/V−s以上の電荷キャリア移動度値を有する。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−521972(P2011−521972A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511852(P2011−511852)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/045667
【国際公開番号】WO2009/155106
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(510314301)アウトライダー テクノロジーズ (2)
【Fターム(参考)】