説明

シリル化ヌクレオシド合成法

【課題】高価な保護基および特殊な原料を用いることなく、2’−O−シリル化リボヌクレオシドを簡便かつ効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法;2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2’−O−シリル化ヌクレオシドの合成法などに関する。
【背景技術】
【0002】
化学的に合成されたオリゴリボヌクレオチド(オリゴRNA)は、遺伝子解析のRNAプローブ、RNA医薬品素材(アンチセンスRNA、リボザイム、RNAiを利用した遺伝子発現制御、アプタマー)として有用である。現在行われているRNAの化学合成法においては、リボヌクレオチドの2’−水酸基を、酸または塩基を用いない穏和な条件下で除去可能な保護基で保護したリボヌクレオチドホスホロアミダイトを用いた固相合成法が主流である。このような保護基として、tert−ブチルジメチルシリル基(TBDMS基)などのシリル基が汎用されている。シリル基は、テトラブチルアンモニウムフルオリドやトリエチルアミン三フッ化水素などで除去できるため、RNA合成に有用である。
【0003】
リボヌクレオシドの2’−水酸基に、TBDMS基等のシリル基を導入して、2’−O−シリル化ヌクレオシドを得る幾つかの方法が報告されている。
【0004】
例えば、Ogilvieらは、5’−水酸基が4,4’−ジメトキシトリチル基で保護されたリボヌクレオシド誘導体を、tert−ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl)と反応させて、2’−O−TBDMSリボヌクレオシド誘導体および3’−O−TBDMSリボヌクレオシドを含む混合物を調製すること、ならびに調製された混合物から2’−O−TBDMSリボヌクレオシド誘導体を精製することを開示している(非特許文献1、2)。
【0005】
Beigelmanらは、リボヌクレオシド誘導体の3’−水酸基および5’−水酸基をジ(tert−ブチル)シランジイル基(DTBS基)で保護し、次いで、遊離の2’−水酸基にTBDMSClを反応させることにより、2’−水酸基がTBDMSにより選択的に保護されたリボヌクレオシド誘導体を調製すること、ならびに調製された誘導体のDTBS基をフッ化水素ピリジンで選択的に除去して、2’−O−TBDMSリボヌクレオシドを得ることを開示している(非特許文献3)。
【0006】
Jonesらは、リボヌクレオシド 3’−ホスホネート誘導体を原料として用いて、2’−O−TBDMSリボヌクレオシド誘導体を調製することを開示している(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】テトラへドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、第15巻、2861−2864頁、1974年
【非特許文献2】カナディアン ジャーナル オブ ケミストリー(Canadian Journal of Chemistry)、第60巻、1106−1113頁、1982年
【非特許文献3】テトラへドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、第43巻、1983−1985頁、2002年
【非特許文献4】テトラへドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、第40巻、4153−4156頁、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの方法はいずれも、2’−O−シリル化リボヌクレオシドの効率的な合成の観点からは問題がある。
【0009】
Ogilvieらの方法では、TBDMS基が2’−水酸基および3’−水酸基の両方に導入され得るため、目的とする2’−O−TBDMSリボヌクレオシドの収率が低い。この方法はまた、2’−O−TBDMSリボヌクレオシドおよび3’−O−TBDMSリボヌクレオシドを分離精製するために、クロマトグラフィーなどの煩雑な操作を必要とする。
【0010】
Beigelmanらの方法では、DTBS基をリボヌクレオシドに導入する工程および導入されたDTBS基をリボヌクレオシドから除去する工程を必要とするため、2’−O−TBDMSリボヌクレオシドの合成が煩雑である。この方法はまた、DTBS基を導入するための試薬であるDTBSビストリフルオロメタンスルホネートが高価であるため、経済的でない。
【0011】
Jonesらの方法では、原料として用いられるリボヌクレオシド 3’−ホスホネート誘導体が特殊であり、その合成が煩雑であるため、結果として、2’−O−TBDMSリボヌクレオシドの合成も煩雑である。
【0012】
本発明の目的は、高価な保護基および特殊な原料を用いることなく、2’−O−シリル化リボヌクレオシドを簡便かつ効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、発明者らは、2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させることにより、RNAを構成するリボヌクレオチドの2’−水酸基に選択的にシリル基が導入されたシリル化RNAが得られること、ならびに得られたシリル化RNAを加水分解反応に供することにより、2’−O−シリル化ヌクレオシドが得られることなどを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
〔2〕前記RNAが天然RNAである、上記〔1〕の方法。
〔3〕前記2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAが、下記式(I):
【化1】

〔式(I)中、X、Yは、それぞれ同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
nは、0以上の整数を示し、
は、前記nの各整数に対応して同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、水素原子、リン酸基または5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子またはリン酸基を示す。〕により表わされるRNAであり、かつ
前記2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAが、下記式(II):
【化2】

〔式(II)中、X、Y、n、Wは、それぞれ、前記式(I)におけるX、Y、n、Wと同義であり、
は、水素原子、シリル基、リン酸基、または少なくとも一つの水酸基がシリル化されていてもよい5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
、R、Kは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはシリル基を示し、
ただし、R、R、Kのうちの少なくとも一つは、シリル基である。〕により表わされるシリル化RNAである、上記〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕前記nが0から10,000までの整数である、上記〔3〕の方法。
〔5〕前記塩が無機塩、有機塩または金属塩である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかの方法。
〔6〕前記シリル化剤が、下記式(V):
【化3】

〔式(V)中、R10、R11、R12は、それぞれ同一または異なって、C〜C10アルキルまたはC〜C10アリールを示し、
Lは、脱離基を示す。〕により表される化合物である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕前記シリル化剤がTBDMSClである、上記〔6〕の方法。
〔8〕2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、2’−O−シリル化リボヌクレオシドまたは2’−O−シリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
〔9〕前記2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAが、下記式(II):
【化4】

〔式(II)中、X、Yは、それぞれ同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
nは、0以上の整数を示し、
は、前記nの各整数に対応して同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、水素原子、シリル基、リン酸基、または少なくとも一つの水酸基がシリル化されていてもよい5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
、R、Kは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはシリル基を示し、
ただし、R、R、Kのうちの少なくとも一つは、シリル基である。〕であり、かつ
前記シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体が、下記式(III):
【化5】

〔式(III)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
、Rは、それぞれ同一または異なって、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
は、シリル基を示す。〕である、上記〔8〕の方法。
〔10〕前記式(III)により表される化合物が、下記式(IV):
【化6】

〔式(IV)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、シリル基を示す。〕により表されるシリル化ヌクレオシドである、シリル化ヌクレオシドの製造方法である、上記〔9〕の方法。
〔11〕前記加水分解反応が、酵素による加水分解反応である、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかの方法。
〔12〕(1)2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ること、ならびに
(2)前記シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
〔13〕下記(i)〜(iv)のいずれかである、シリル化RNAまたはその塩:
(i)少なくとも1個の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよび少なくとも1個のリボヌクレオチドを含有するシリル化RNA;
(ii)2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの総数が少なくとも100個である、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを少なくとも含有するシリル化RNA;
(iii)同種のリボヌクレオチドのみを含有し、かつ2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNA;および
(iv)RNAが天然RNAである、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNA。
〔14〕2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有する複数種のシリル化RNAまたはその塩を含む組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は、例えば、RNAの化学合成に用いられるホスホロアミダイト化合物の合成原料として有用であり得るシリル化リボヌクレオシド等の製造に有用である。本発明の方法によれば、高価な保護基および特殊な合成原料を用いることなく、リボースの2’−水酸基が選択的にシリル化され得る。
本発明のシリル化RNAまたはその塩、および本発明の組成物は、例えば、本発明の製造方法における原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、2’−O−TBDMSヌクレオシド混合物の溶出ピーク(保持時間:19.96分)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.本発明の製造方法I)
本発明は、シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法を提供する。本発明の方法は、2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させることを含む。
【0018】
本明細書中で用いられる場合、用語「リボヌクレオチド」とは、リボ核酸(RNA)の構成単位であって、核酸塩基部分、リボース部分、および3’−または5’−リン酸部分から構成される単位をいう。リボヌクレオチドは、主要リボヌクレオチドまたは修飾リボヌクレオチドであり得る。一方、用語「リボヌクレオシド」とは、RNAの構成単位であって、核酸塩基部分、およびリボース部分から構成される単位をいう。リボヌクレオシドは、主要リボヌクレオシドまたは修飾リボヌクレオシドであり得る。
【0019】
本明細書中で用いられる場合、用語「主要(major)リボヌクレオチド」とは、天然RNAを構成する主要なリボヌクレオチドである、アデノシン 5’−リン酸、グアノシン 5’−リン酸、シチジン 5’−リン酸、またはウリジン 5’−リン酸、アデノシン 3’−リン酸、グアノシン 3’−リン酸、シチジン 3’−リン酸、またはウリジン 3’−リン酸をいう。
【0020】
本明細書中で用いられる場合、用語「修飾(modified)リボヌクレオチド」とは、Administrative Instructions under the Patent Cooperation Treaty(2009年1月1日施行版),Annex C,Appendix 2,Table 2:List of Modified Nucleotidesに記載される修飾ヌクレオチドのうち、2’位が水酸基である修飾ヌクレオチド(3’−または5’−リン酸部分を有するもの)をいう。本資料中に記載される修飾リボヌクレオチドは、日本特許庁により公開されている「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン(平成14年7月)」の附属書2,表2:修飾塩基表に記載される修飾ヌクレオチドと同一である。したがって、修飾リボヌクレオチドについては、上記ガイドラインもまた参照できる。具体的には、修飾リボヌクレオチドとしては、5’位にリン酸部分が付加された、4−アセチルシチジン(ac4c)、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン(chm5u)、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン(cmnm5s2u)、5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン(cmnm5u)、ジヒドロウリジン(d)、β−D−ガラクトシルキュェオシン(gal q)、イノシン(i)、N6−イソペンテニルアデノシン(i6a)、1−メチルアデノシン(mla)、1−メチルプソイドウリジン(mlf)、1−メチルグアノシン(mlg)、1−メチルイノシン(mli)、2,2−ジメチルグアノシン(m22g)、2−メチルアデノシン(m2a)、2−メチルグアノシン(m2g)、3−メチルシチジン(m3c)、5−メチルシチジン(m5c)、N−メチルアデノシン(m6a)、7−メチルグアノシン(m7g)、5−メチルアミノメチルウリジン(mam5u)、5−メトキシアミノメチル−2−チオウリジン(mam5s2u)、β−D−マンノシルキュェオシン(man q)、5−メトキシカルボニルメチル−2−チオウリジン(mcm5s2u)、5−メトキシカルボニルメチルウリジン(mcm5u)、5−メトキシウリジン(mo5u)、2−メチルチオ−N−イソペンテニルアデノシン(ms2i6a)、N−((9−β−D−リボフラノシル−2−メチルチオプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン(ms2t6a)、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)N−メチルカルバモイル)トレオニン(mt6a)、ウリジン−5−オキシ酢酸−メチルエステル(mv)、ウリジン−5−オキシ酢酸(o5u)、ワイブトキソシン(osyw)、プソイドウリジン(p)、キュェオシン(q)、2−チオシチジン(s2c)、5−メチル−2−チオウリジン(s2t)、2−チオウリジン(s2u)、4−チオウリジン(s4u)、5−メチルウリジン(t)、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン(t6a)、ワイブトシン(yw)、および3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウリジン[(acp3)u]が挙げられる。
【0021】
本明細書中で用いられる場合、用語「主要(major)リボヌクレオシド」とは、天然RNAを構成する主要なリボヌクレオシドである、アデノシン、グアノシン、シチジン、またはウリジンをいう。
【0022】
本明細書中で用いられる場合、用語「修飾(modified)リボヌクレオシド」とは、Administrative Instructions under the Patent Cooperation Treaty(2009年1月1日施行版),Annex C,Appendix 2,Table 2:List of Modified Nucleotidesに記載される修飾ヌクレオチドのうち、2’位が水酸基である修飾ヌクレオチド(3’−および5’−リン酸部分を有しないもの)をいう。具体的には、修飾リボヌクレオシドとしては、上述したac4c、chm5u、cmnm5s2u、cmnm5u、d、gal q、i、i6a、mla、mlf、mlg、mli、m22g、m2a、m2g、m3c、m5c、m6a、m7g、mam5u、mam5s2u、man q、mcm5s2u、mcm5u、mo5u、ms2i6a、ms2t6a、mt6a、mv、o5u、osyw、p、q、s2c、s2t、s2u、s4u、t、t6a、yw、および(acp3)uが挙げられる。
【0023】
本明細書中で用いられる場合、用語「核酸塩基」とは、リボース部分および3’−または5’−リン酸部分以外のリボヌクレオチド中の部分、あるいはリボース部分以外のリボヌクレオシド中の部分をいう。核酸塩基は、主要核酸塩基または修飾核酸塩基であり得る。
【0024】
本明細書中で用いられる場合、用語「主要(major)核酸塩基」とは、天然RNAを構成する主要な核酸塩基であるアデニン、グアニン、ウラシルまたはシトシンをいう。
【0025】
本明細書中で用いられる場合、用語「修飾(modified)核酸塩基」とは、Administrative Instructions under the Patent Cooperation Treaty(2009年1月1日施行版),Annex C,Appendix 2,Table 2:List of Modified Nucleotidesに記載される修飾ヌクレオチド中の核酸塩基部分に対応する核酸塩基をいう。具体的には、修飾核酸塩基としては、上記リボヌクレオチドまたはリボヌクレオシド中の核酸塩基部分に対応する基が挙げられる。
【0026】
本明細書中で用いられる場合、用語「置換されていてもよい核酸塩基」とは、無置換の核酸塩基、または置換基で置換されている核酸塩基をいう。置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子(例、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子)、オキソ(=O)、チオ(=O)、ニトロが挙げられる。核酸塩基に結合し得る置換基の数は、1〜3個であり得るが、1または2個が好ましく、1個がより好ましい。
【0027】
アルキル基としては、直鎖状または分枝状の炭素数1〜10のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどのC〜C10アルキルが挙げられるが、C〜Cアルキルが好ましい。
【0028】
アルケニル基としては、直鎖状または分枝状の炭素数2〜10のアルケニル、例えば、アリル、クロチル、2−ペンテニル、3−ヘキセニルなどのC〜C10アルケニルが挙げられるが、C〜Cアルケニルが好ましい。
【0029】
アルキニル基としては、直鎖状または分枝状の炭素数2〜10のアルキニル、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ペンチニル、3−ヘキシニルなどのC〜C10アルキニルが挙げられるが、C〜Cアルキニルが好ましい。
【0030】
シクロアルキル基としては、環状の炭素数3〜10のシクロアルキル、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルが挙げられる。
【0031】
アリール基としては、炭素数6〜10のアリール、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチルが挙げられる。
【0032】
アラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル、例えば、フェニル−C〜Cアルキル(例、ベンジル、フェネチル)が挙げられる。
【0033】
アシル基としては、炭素数2〜10のアシル、例えば、炭素数2〜4のアルカノイル(例、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル)、あるいは炭素数6から10のアロイル(例、ベンゾイル、トルオイルなど)が挙げられる。
【0034】
アミノ基としては、上記アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アラルキルおよびアシルからなる群より選ばれる置換基でモノ置換またはジ置換されていてもよいアミノ、例えば、アミノ(−NH)、メチルアミノ、ジメチルアミノが挙げられる。
【0035】
本発明で用いられるRNAは、2以上のリボヌクレオチドを含むものであれば特に限定されない。例えば、RNAは、同一の種類のリボヌクレオチドから構成されるRNA(リボヌクレオチドのホモポリマー)であっても、異なる種類のリボヌクレオチドから構成されるRNA(リボヌクレオチドのヘテロポリマー)であってもよい。RNAはまた、天然RNAであっても、人工RNAであってもよい。また、本発明で用いられるRNAは、単離または精製されたものであってもよい。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、用語「天然RNA」とは、天然環境中に存在するRNAをいう。天然RNAとしては、例えば、天然の供給源(例、動物、植物、昆虫、藻類、細菌、真菌)から調製され得るRNAが挙げられる。天然RNAはまた、メッセンジャーRNA(mRNA)または非コーディングRNAあるいはこれらの混合物であり得る。非コーディングRNAとしては、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、マイクロRNA(miRNA)が挙げられる。また、天然RNAとしては、RNAウイルス(例、レトロウイルス)、ならびに天然の鋳型DNAの存在下で、RNAポリメラーゼを含むインビトロ転写系(無細胞系または細胞系)により転写された天然mRNAが挙げられる。天然RNAはまた、同位体(例、放射性同位体)を含むリボヌクレオチドを含有するRNAであってもよい。このような天然RNAの作製は、例えば、同位体を含むリボヌクレオチドを含有する無細胞系を用いて、RNAを合成することにより、または同位体を含むリボヌクレオチドを含有する培養系を用いて、細胞または細菌を培養し、次いで培養物からRNAを調製することにより、行なうことができる。
【0037】
本明細書中で用いられる場合、用語「人工RNA」とは、RNA材料から人工的に合成されるRNAをいう。RNA材料としては、例えば、リボヌクレオシドまたはリボヌクレオシドのホスフェート誘導体(例、リボヌクレオシド 5’−ホスフェートもしくはリボヌクレオシド 3’−ホスフェートであるリボヌクレオチド、またはリボヌクレオシド 5’−ジホスフェートもしくはリボヌクレオシド 5’−トリホスフェート)あるいはオリゴリボヌクレオチドまたはポリリボヌクレオチドが挙げられる。人工RNAの合成に用いられるRNA材料は、人工的に合成されたものであっても、天然RNAから調製されたものであってもよい。人工RNAとしては、例えば、生化学的に合成された人工RNA、および生物学的に合成された人工RNAが挙げられる。生化学的に合成された人工RNAとしては、例えば、RNA材料(例、同一または異なるヌクレオチド 5’−ジリン酸)をポリヌクレオチドホスホリラーゼの存在下で重合して得られるRNA、およびRNAリガーゼの存在下でRNA材料から連結されたRNAが挙げられる。生物学的に合成された人工RNAとしては、例えば、RNAベクター(例、外来遺伝子が導入されたRNAウイルスベクター)、および人工の鋳型DNAの存在下で、RNAポリメラーゼを含むインビトロ転写系(無細胞系または細胞系)により転写された非天然mRNAが挙げられる。人工RNAは、同位体(例、放射性同位体)原子を含むリボヌクレオチドを含むRNAであってもよい。
【0038】
RNA中のリボヌクレオチドの個数は、2以上であれば特に限定されないが、例えば、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。RNA中のリボヌクレオチドの個数はまた、特に制限されないが、例えば、100,000個未満、50,000個未満、10,000個未満、5,000個未満、3,000個未満であり得る。
【0039】
具体的には、2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAは、上記式(I)により表される化合物であり得る。
【0040】
式(I)中、X、Yは、それぞれ同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示す。置換されていてもよい核酸塩基は、上述したとおりである。X、Yは、好ましくは、アデニン(即ち、アデニン−9−イル)、グアニン(即ち、グアニン−9−イル)、ウラシル(即ち、ウラシル−1−イル)またはシトシン(即ち、シトシン−1−イル)であり得る。
【0041】
式(I)中、nは、Wを有するヌクレオチドの個数を示す。nの意味をより具体的に説明すると、n=0の場合、式(I)により表わされるRNAは、ジヌクレオチドである。n=8の場合、式(I)により表わされるRNAは、デカヌクレオチドである。nは、0以上の整数である限り特に限定されないが、例えば、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。nはまた、特に制限されないが、例えば、100,000個未満、50,000個未満、10,000個未満、5,000個未満、3,000個未満であり得る。
【0042】
式(I)中、Wは、前記nの各整数に対応して同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示す。異なるnに対応する異なるWは、それぞれ、同一の核酸塩基を示していてもよく、または異なる核酸塩基を示していてもよい。置換されていてもよい核酸塩基は、上述したとおりである。Wは、好ましくは、アデニン(即ち、アデニン−9−イル)、グアニン(即ち、グアニン−9−イル)、ウラシル(即ち、ウラシル−1−イル)またはシトシン(即ち、シトシン−1−イル)であり得る。
【0043】
式(I)中、Rは、水素原子、リン酸基(−HPO)、または5’−キャッピング部分を示す。本明細書中で用いられる場合、用語「5’−キャッピング部分」とは、真核生物由来mRNAの5’−末端に存在し得る、メチルGTPが5’−5’向きに結合した構造を有する部分をいう。Rが5’−キャッピング部分を示す式(I)により表される化合物は、mRNAに対応し得る。
【0044】
式(I)中、Rは、水素原子またはリン酸基(−HPO)を示す。
【0045】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAの塩は、特に限定されないが、例えば、金属塩、無機塩、有機塩が挙げられる。
【0046】
金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩、銅(I)塩、水銀(I)塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、カドミウム塩、ニッケル(II)塩、亜鉛塩、銅(II)塩、水銀(II)塩、鉄(II)塩、コバルト(II)塩、スズ(II)塩、鉛(II)塩、マンガン(II)塩、アルミニウム塩、鉄(III)塩、クロム(III)塩が挙げられる。
【0047】
無機塩としては、例えば、アンモニウム塩が挙げられる。
【0048】
有機塩としては、例えば、アルキル化されたアンモニウム塩が挙げられる。アルキル化されたアンモニウム塩としては、モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0049】
本明細書中で用いられる場合、用語「モノアルキルアンモニウム」とは、窒素原子上に、直線状、分岐状または環状の炭素数1から20の一つのアルキル基(例、置換されていてもよい核酸塩基における置換基として上述したアルキル基を含む)が結合したアンモニウムをいう。モノアルキルアンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、シクロプロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、イソブチルアンモニウム、sec−ブチルアンモニウム、tert−ブチルアンモニウム、シクロブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、イソペンチルアンモニウム、シクロペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、シクロヘキシルアンモニウム、ノニルアンモニウム、デシルアンモニウム、ウンデシルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、ラウリルアンモニウムが挙げられる。なお、モノアルキルアンモニウム塩におけるモノアルキル基は、炭素原子の総数が1から20までの基であれば特に限定されず、例えば、環状構造を有するシクロアルキルに、直線状または分岐状のモノアルキル基が結合した構造を有するもの(例、シクロヘキシルメチル)であってもよく、また、直線状または分岐状のモノアルキル基に、環状構造を有するシクロアルキルが結合した構造を有するもの(例、メチルシクロヘキシル)であってもよい。
【0050】
本明細書中で用いられる場合、用語「ジアルキルアンモニウム」とは、上記モノアルキルアンモニウムの窒素原子に結合した水素原子の一つが炭素数1から20の一つのアルキル基で置換されたジアルキルアンモニウムをいう。同様に、用語「トリアルキルアンモニウム」とは、上記ジアルキルアンモニウムの窒素原子に結合した水素原子の一つが炭素数1から20の一つのアルキル基で置換されたトリアルキルアンモニウムイオンをいう。用語「テトラアルキルアンモニウム」とは、上記トリアルキルアンモニウムの窒素原子に結合した水素原子が炭素数1から20の一つのアルキル基で置換されたテトラアルキルアンモニウムをいう。炭素数1から20の一つのアルキル基は、前段落でアンモニウム塩として上述したアルキル基、または置換されていてもよい核酸塩基における置換基として上述したアルキル基であり得る。
【0051】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAの塩は、RNAのリン酸部分中の各陰イオン部位で陽イオン(例、金属イオン、アンモニウムイオン)と対合して塩を形成し得る。2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAの塩は、各陰イオン部位において同一または異なる陽イオンと対合し得る。
【0052】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩は、天然の供給源から調製されたRNAまたはその塩そのものであり得る。RNAの塩の別の塩への変換が所望される場合、RNAの塩は、当業者に公知の方法に従って、所望される塩を形成するように調製された陽イオン交換カラムに、それを供することにより、調製できる。また、RNAの塩は、RNAまたはその塩の水溶液に、陽イオン(例、金属イオン、アンモニウムイオン)と任意の陰イオンからなる塩を添加することにより調製できる。このような陰イオンとしては、特に限定はされないが、例えば、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)の陰イオン、硫酸イオン、過塩素酸イオン、ホウフッ化水素酸イオン、スルホン酸イオン(例、トシル酸イオン)、カルボン酸イオン、リン酸イオンが挙げられる。調製されたRNAの塩は、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の方法により固体として単離することも可能である。
【0053】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩の混合物は、RNAの鎖長、RNAの構成リボヌクレオチドの組成(即ち、核酸塩基の種類)、および塩の種類からなる群より選ばれる要素のうち、少なくとも一つの要素が異なる複数種のRNAおよび/またはRNA塩を含む組成物である。具体的には、RNAまたはその塩の混合物としては、組成が異なるRNAを含む混合物(例、天然由来のrRNA、tRNA、mRNA等の複数種のRNAの抽出物を用いる場合)、塩の種類が異なるRNA塩を含む混合物(例、金属塩およびアンモニウム塩の混合物)、RNAおよびRNAの塩を含む混合物が挙げられる。
【0054】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物は、シリル化剤を用いてシリル化され得る。本明細書中で用いられる場合、用語「シリル化剤」とは、シリル化反応において、RNA中のリボヌクレオチドの2’−水酸基に、シリル基を付加し得る化合物をいう。
【0055】
このようなシリル化剤は、例えば、上記式(V)により表される化合物であり得る。したがって、このようなシリル化剤との反応により生成されるシリル化RNAは、例えば、下記式(VI):
【化7】

により表されるシリル基を有し得る。
【0056】
式(V)および(VI)中、R10、R11、R12は、C〜C10アルキルまたはC〜C10アリールを示す。C〜C10アルキルまたはC〜C10アリールは、上記「置換されていてもよい核酸塩基」における置換基「アルキル基」および「アリール基」と同様であり得る。シリル基の具体例としては、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、t−ブチルジメチルシリル(TBS/TBDMS)、t−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、ジメチルイソプロピルシリル(IPDMS)、ジエチルイソプロピルシリル(DEIPS)、ジメチルテキシルシリル(TDS)、トリフェニルシリル(TPS)、ジフェニルメチルシリル(DPMS)、ジ(t−ブチル)メチルシリル(DTBMS)が挙げられる。
【0057】
脱離基は、シリル化反応において、シリル基から脱離して、RNA中のリボヌクレオチドの2’−水酸基に、シリル基を付加し得る基である限り特に限定されない。このような脱離基としては、例えば、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメタンスルホキシ、1−アセチルプロペン−2−イルオキシ、トリフルオロアセトアミド、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、シアノ、イミダゾリル、アセトキシ、クロロアセトキシ、ジクロロアセトキシ、トリクロロアセトキシ、フルオロアセトキシ、ジフルオロアセトキシ、トリフルオロアセトキシ、オキサゾリジノン−3−イルなどが挙げられる。
【0058】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物のシリル化剤との反応は、例えば、以下のように行うことができる。先ず、RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を、非プロトン性溶媒中に、所定の濃度(例、0.01〜1.0M)になるように溶解する。次いで、この溶液に、ヌクレオチド残基1モルあたり0.1モルから50モルのシリル化剤を添加し、0℃から100℃の温度で5分から96時間反応させる。この反応において反応進行に伴い酸性物質が生成する場合は、有機アミンを添加して反応を行ってもよい。非プロトン性溶媒は、シリル化反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、ヘキサン、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンが挙げられる。反応系に添加され得る有機アミンとしては、その共役酸のpKa値が4から15の間の有機アミンが好ましい。このような有機アミンとしては、例えば、イミダゾール、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、コリジン、ルチジンが挙げられる。
【0059】
上述したような2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物のシリル化剤との反応により、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物が製造される。したがって、製造されるシリル化RNAは、原料として用いられた上述のRNAの1以上の特徴を有し得る。製造されるシリル化RNAはまた、本発明のシリル化RNAおよびそれを含む組成物において後述する1以上の特徴を有し得る。
【0060】
具体的には、製造されるシリル化RNAは、上記式(II)により表される化合物であり得る。
【0061】
式(II)中、X、Y、n、Wは、それぞれ、上記式(I)におけるX、Y、n、Wと同義である。
【0062】
式(II)中、Rは、水素原子、シリル基、リン酸基(−HPO)、または少なくとも一つの水酸基がシリル化されていてもよい5’−キャッピング部分を示す。シリル基は、上述したものと同様であり得、例えば、上記式(VI)により表されるシリル基であり得る。5’−キャッピング部分は、上記Rで上述したものと同様のもの(即ち、5’−キャッピング部分中の水酸基がシリル化されていないもの)であってもよく、または5’−キャッピング部分中の水酸基がシリル化されたものであってもよい。
【0063】
式(II)中、Rは、水素原子、シリル基またはリン酸基(−HPO)を示す。シリル基は、上述したものと同様であり得、例えば、上記式(VI)により表されるシリル基であり得る。
【0064】
式(II)中、R、R、Kは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはシリル基を示すが、R、R、Kのうちの少なくとも一つは、シリル基である。シリル化反応の効率が高ければ高いほど、R、R、Kは、多くのシリル基を有し得る。したがって、R、R、Kにおけるシリル基の個数は、RNA中のヌクレオチドの個数によっても異なるが、例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。R、R、Kにおけるシリル基の個数はまた、特に制限されないが、例えば、100,000個未満、50,000個未満、10,000個未満、5,000個未満、3,000個未満であり得る。また、R、R、Kについて、例えば、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上、あるいは100%のヌクレオチドがシリル化され得る。さらに、特定の場合、R、R、Kについて、例えば、100%未満、95%未満、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満のヌクレオチドがシリル化され得るような条件で、反応が行なわれてもよい。
【0065】
本発明の方法により製造され得る、シリル化RNAの塩、およびシリル化RNAまたはその塩の混合物は、それぞれ、「2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAの塩」で上述した塩、および「2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩の混合物」で上述した混合物と同様であり得る。例えば、シリル化RNAの塩の別の塩への変換が所望される場合、シリル化RNAの塩は、所定の陽イオン交換カラムに、それを供することにより、調製できる。また、シリル化RNAの塩は、シリル化RNAまたはその塩の水溶液に、陽イオンと任意の陰イオンからなる塩を添加することにより調製できる。調製されたシリル化RNAの塩は、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の方法により固体として単離することも可能である。
【0066】
また、シリル化RNAの有機塩(例、アルキルアンモニウム)が水溶性の有機溶媒に可溶である場合、有機塩を金属塩に変換することもできる。先ず、有機塩を、適切な水溶性の有機溶媒(例、アセトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ピリジン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホラストリアミド)に溶解して溶液を得る。次いで、この溶液中に、有機溶剤に可溶な金属塩(例、金属過塩素酸塩)またはその金属塩を含む水溶液を添加し、生じた沈殿を濾過することにより、シリル化RNAの金属塩を得ることができる。
【0067】
(2.本発明の製造方法II)
本発明は、シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法を提供する。本発明の方法は、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解することを含む。
【0068】
2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物としては、上述した本発明の製造方法Iにより製造されたものが用いられ得る。本発明で用いられるシリル化RNAは、単離または精製されたものであってもよい。
【0069】
したがって、シリル化RNA中のリボヌクレオチドの個数(2’−OH−リボヌクレオチドおよび2’−O−シリル化リボヌクレオチドの総数)は、2以上であれば特に限定されないが、例えば、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。RNA中のリボヌクレオチドの個数はまた、特に制限されないが、例えば、100,000個未満、50,000個未満、10,000個未満、5,000個未満、3,000個未満であり得る。
【0070】
具体的には、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAは、上記式(II)により表される化合物であり得る。
【0071】
加水分解反応による分解は、例えば、触媒として酸性物質またはアルカリ性物質を利用する加水分解反応、触媒として酵素を利用する加水分解反応または触媒として金属または錯体を利用する加水分解反応により行なわれ得る。加水分解反応において用いられる酸性物質としては、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、ジ亜リン酸、炭素数1から10のカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、フルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ジニトロベンゼンスルホン酸が挙げられる。加水分解反応において用いられるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、アンモニア、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、水酸化テトラアルキルアンモニウムが挙げられる。加水分解反応において用いられる酵素は、核酸分解酵素または脱リン酸化酵素であり得る。核酸分解酵素としては、例えば、ヌクレアーゼP1、蛇毒ホスホジエステラーゼ、マングビーンホスホジエステラーゼ、Bal31ヌクレアーゼ、大腸菌エキソヌクレアーゼI、ヌクレアーゼS1,牛脾臓ホスホジエステラーゼミクロカッカルヌクレアーゼが挙げられる。脱リン酸化酵素としては、例えば、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ、大腸菌アルカリホスファターゼ、大腸菌酸性ホスファターゼ、コムギ胚芽ホスファターゼ、ブタ脾臓酸性ホスファターゼ、ネズミ肝臓酸性ホスファターゼ、蛇毒5’−ヌクレオチダーゼ、牛精液5’−ヌクレオチダーゼ、ラット肝臓5’−ヌクレオチダーゼ、牛腸5’−ヌクレオチダーゼ、大腸菌5’−ヌクレオチダーゼ、酵母5’−ヌクレオチダーゼが挙げられる。加水分解反応において用いられる金属または錯体としては、例えば、ランタニドまたはその錯体が挙げられる。ランタニドとしては、例えば、Ln(III)、Ce(IV)、Eu(III)、Pr(III)、Nd(III)が挙げられる。ランタニド錯体としては、例えば、含窒素有機物あるいは多糖類(例、デキストラン)または単糖類に、上記ランタニドを結合させた錯体が挙げられる(例、非特許文献3〜5を参照)。これらの触媒は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。また、これらの触媒と同等の活性を有する物質が、組織(例、植物、藻、動物等に由来する組織)の破砕物、あるいは細胞(例、植物、藻類、動物等に由来する細胞)の培養液、または菌(例、真正細菌、古細菌)の培養液中に含まれる場合には、そのような破砕物あるいは培養液を用いてもよい。
【0072】
加水分解反応による分解は、温度、pH、緩衝液の組成、基質濃度、触媒の濃度などの条件を、選択した触媒に応じて適切に設定することにより、行なうことができる。例えば、分解は、pH5.0から10.0の間で室温から90℃の温度で行うことができる。
【0073】
加水分解反応による分解により、2’−O−シリル化リボヌクレオシド、または2’−O−シリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩、あるいはそれらの混合物が製造される。2’−O−シリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体としては、2’−O−シリル化リボヌクレオシド 5’−ホスフェート、および2’−O−シリル化リボヌクレオシド 3’−ホスフェートが挙げられる。
【0074】
具体的には、製造されるシリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体は、上記式(III)により表される化合物であり得る。
【0075】
式(III)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示す。置換されていてもよい核酸塩基は、上述したものと同様であり得る。Qは、好ましくは、アデニン(即ち、アデニン−9−イル)、グアニン(即ち、グアニン−9−イル)、ウラシル(即ち、ウラシル−1−イル)またはシトシン(即ち、シトシン−1−イル)であり得る。
【0076】
式(III)中、R、Rは、それぞれ同一または異なって、水素原子、シリル基またはリン酸基(−HPO)を示す。シリル基は、上述したものと同様であり得、例えば、上記式(VI)により表されるシリル基であり得る。
【0077】
式(III)中、Rは、シリル基を示す。シリル基は、上述したものと同様であり得、例えば、上記式(VI)により表されるシリル基であり得る。
【0078】
一実施形態では、本発明の製造方法IIは、シリル化リボヌクレオシドあるいはその混合物を特異的に製造する方法であり得る。この場合、上記した触媒のうち、例えば、上記の核酸分解酵素と脱リン酸化酵素の任意の組み合わせで行うことができる。また、ヌクレアーゼP1、蛇毒ホスホジエステラーゼおよび仔ウシ腸アルカリホスファターゼの組合せなどのように複数の核酸分解酵素と脱リン酸化酵素を混合して用いてもよい。
【0079】
具体的には、製造されるシリル化ヌクレオシドは、上記式(IV)により表される化合物であり得る。
【0080】
式(IV)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示す。置換されていてもよい核酸塩基は、上述したものと同様であり得る。Qは、好ましくは、アデニン(即ち、アデニン−9−イル)、グアニン(即ち、グアニン−9−イル)、ウラシル(即ち、ウラシル−1−イル)またはシトシン(即ち、シトシン−1−イル)であり得る。
【0081】
式(IV)中、Rは、シリル基を示す。シリル基は、上述したものと同様であり得、例えば、上記式(IV)により表されるシリル基であり得る。
【0082】
別の実施形態では、本発明の製造方法IIは、シリル化リボヌクレオシドの5’−ホスフェート誘導体(即ち、シリル化リボヌクレオチド)またはその塩あるいはそれらの混合物を特異的に製造する方法であり得る。この場合、上記した触媒のうち、核酸分解の結果として5’−水酸基がリン酸化された生成物を与える反応を触媒する酵素(例、ヌクレアーゼP1、蛇毒ホスホジエステラーゼ、マングビーンホスホジエステラーゼ、Bal31ヌクレアーゼ、大腸菌エキソヌクレアーゼI、ヌクレアーゼS1)を単独または任意の組合せで用いて、脱リン酸化酵素の非存在下で反応を行うことにより、シリル化リボヌクレオシドの5’−ホスフェート誘導体を特異的に製造することができる。
【0083】
さらに別の実施形態では、本発明の製造方法IIは、シリル化リボヌクレオシドの3’−ホスフェート誘導体またはその塩あるいはそれらの混合物を特異的に製造する方法であり得る。この場合、上記した触媒のうち、核酸分解の結果として3’水酸基がリン酸化された生成物を与える反応を触媒する酵素(例、ウシ脾臓ホスホジエステラーゼ、ミクロコッカルヌクレアーゼ)を単独または任意の組合せで用いて、脱リン酸化酵素の非存在下で反応を行うことにより、シリル化リボヌクレオシドの3’−ホスフェート誘導体を特異的に製造することができる。
【0084】
加水分解反応の生成物が、混合物(例、異なる核酸塩基を有するヌクレオシドの混合物)として得られる場合、この混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、再結晶、再沈殿などの当業者に公知の精製法を用いて、単一の化合物に分離または精製することができる。
【0085】
(3.本発明の製造方法III)
本発明は、下記(1)および(2)を含む、シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法を提供する:
(1)2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ること:ならびに
(2)前記シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
【0086】
本発明の製造方法IIIにおける工程(1)および(2)は、本発明の製造方法IおよびIIと同様にして行なうことができる。
【0087】
(4.本発明のシリル化RNAおよびそれを含む組成物)
本発明は、本発明の製造方法Iにより製造され得るシリル化RNAまたはその塩を提供する。したがって、本発明のシリル化RNAまたはその塩は、例えば、本発明の製造方法Iにおいて上述した特徴を有し得る。本発明のシリル化RNAまたはその塩はまた、後述する1以上の特徴を有し得る。
【0088】
例えば、本発明のシリル化RNAまたはその塩は、少なくとも1個の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよび少なくとも1個のリボヌクレオチド(即ち、2’−OH−リボヌクレオチド)を含有していてもよい。本発明のシリル化RNAまたはその塩中の2’−O−シリル化リボヌクレオチドの個数は、1個以上であれば特に限定されないが、例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。本発明のシリル化RNAまたはその塩中の2’−OH−リボヌクレオチドの個数は、1個以上であれば特に限定されないが、例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、50個以上、100個以上、200個以上、300個以上、500個以上、1,000個以上であり得る。
【0089】
本発明のシリル化RNAまたはその塩はまた、RNA成分である2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよびリボヌクレオチド(即ち、2’−OH−リボヌクレオチド)の総数が少なくとも100個であってもよい。換言すれば、本発明のシリル化RNAまたはその塩は、少なくとも100個の上記成分から構成される全長を有する。この場合、本発明のシリル化RNAまたはその塩は、2’−OH−リボヌクレオチドを含有する必要はなく、例えば、少なくとも100個の2’−O−シリル化リボヌクレオチドのみから構成されていてもよい。本発明のシリル化RNAまたはその塩中の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよび2’−OH−リボヌクレオチドの個数はまた、2’−OH−リボヌクレオチドを含有する必要がない点を除き、本発明の製造方法I、または本発明のシリル化RNAおよびそれを含む組成物において言及した個数であってもよい。
【0090】
本発明のシリル化RNAまたはその塩はまた、同種のリボヌクレオチドのみを含有するシリル化RNAまたはその塩であってもよい。シリル化RNAが同種のリボヌクレオチドのみを含有する場合、リボヌクレオチドは、本発明の製造方法Iにおいて上述した核酸塩基を有し得る。この場合、シリル化RNA中の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよびリボヌクレオチド(即ち、2’−OH−リボヌクレオチド)の個数は、本発明の製造方法I、または本発明のシリル化RNAおよびそれを含む組成物において言及した個数であってもよい。
【0091】
本発明のシリル化RNAまたはその塩はまた、天然RNAのシリル化RNAまたはその塩であってもよい。天然RNAは、本発明の製造方法Iにおいて上述したとおりである。したがって、本発明のシリル化RNAまたはその塩は、天然の供給源(例、動物、植物、昆虫、藻類、細菌、真菌)に由来するmRNAまたは非コーディングRNA(rRNA、tRNA、snRNA)またはそれらの塩であり得る。天然RNAは、特徴的な構造を有し得る。例えば、mRNAは、5’−末端に5’−キャッピング部分、および3’−末端にポリAテイル(例えば、少なくとも5個(例、10個以上、15個以上))のアデノシンを有し得る。tRNAは、種々の特徴的なドメイン、およびAGCU以外のヌクレオチド(例、イノシン、シュードウラシル、ジヒドロウリジン)を有し得、アミノアシル化tRNAである場合には、3’−末端のヌクレオチドの水酸基がアミノアシル化されている。rRNAは、原核生物・真核生物等の生物種に応じて、独特なヌクレオチド組成を有し得る。また、rRNAおよびtRNAのサイズは、一定の範囲に制限されている。したがって、このような天然RNAから製造されたシリル化RNAも同様に、このような独特なリボヌクレオチド組成およびサイズを有し得、したがって、新規なものである。なお、rRNAおよびtRNAは、細胞中のRNA成分のうちの大部分を占めるRNA成分であるため、天然の供給源から天然RNAを抽出して、本発明の製造方法Iに用いた場合、シリル化RNAとして、多量のシリル化rRNAおよびシリル化tRNAが製造され得る。この場合、シリル化RNA中の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよびリボヌクレオチド(即ち、2’−OH−リボヌクレオチド)の個数は、本発明の製造方法I、または本発明のシリル化RNAおよびそれを含む組成物において言及した個数であってもよい。
【0092】
本発明はまた、本発明のシリル化RNAまたはその塩を含む組成物を提供する。本発明の組成物は、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有する複数種のシリル化RNAまたはその塩を含む。したがって、本発明の組成物は、上述した1以上の特徴を有し得る、異なる種類のシリル化RNAまたはその塩を含み得る。
【0093】
本発明の組成物はまた、複数種の天然RNAを含み得る。例えば、本発明の組成物は、複数種のrRNA、複数種のtRNA、複数種のmRNA、rRNAとtRNAとの組合せ(各RNAは、単一種のRNAであってもよく、複数種のRNAであってもよい。以下、同様。)、rRNAとmRNAとの組合せ、tRNAとmRNAとの組合せ、rRNAとtRNAとmRNAとの組合せを含み得る。勿論、本発明の組成物は、これらの組合せに加えて、他のRNA(例、他の非コーディングRNA)をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本実施例により本発明が限定されるものではない。
【0095】
原料合成例1:RNA塩の製造
RNA塩の製造には、RNA−FN(日本製紙ケミカル株式会社)を用いた。RNA−FNは、酵母から抽出したリボ核酸をさらに精製することにより得られるリボ核酸ナトリウムであり、酵母由来のmRNAおよび非コーディングRNA(例、rRNA、tRNA)を含む。RNA−FN 688mgを、65℃(内温)に加熱した蒸留水120mLに溶かし、室温まで冷却した。別途、ジメチルジラウリルアンモニウムブロミド925mgをメタノール3mL中に溶かしたものを、120mLの蒸留水に溶かして、溶液を作製した。この溶液を、上記のとおり調製したRNA−FN水溶液に注いだ。生じた沈殿を吸引濾過して、850mgのRNA−ジメチルジラウリルアンモニウム塩を得た。
【0096】
実施例1:シリル化RNAの製造
RNA−ジメチルジラウリルアンモニウム塩0.5gを、N,N−ジメチルホルムアミド5mLに溶解し、イミダゾール360mg、TBDMSCl 316mgを加えて、室温で5.5時間攪拌した。反応液を酢酸エチル(20mL)で希釈し、水(20mL)で2回洗浄した。有機層を減圧下濃縮し、残渣をメタノール(0.15mL)に溶かし、さらに0.6M NaClO/アセトン(1.5mL)を加えて、生じた沈殿を濾過した。沈殿を蒸留水(10mL)に懸濁し、ジエチルエーテル(10mL)で2回洗浄した後、水層を凍結乾燥して、シリル化RNAを得た。
【0097】
実施例2:シリル化リボヌクレオシドの製造
実施例1で合成したシリル化RNA(2OD260nm)を、50mM NaCl、10mM Tris−HCl、10mM MgCl、1mM DTTの溶液(pH7.9)に溶解し、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(4ユニット)、蛇毒ホスホジエステラーゼI(10μg)、ヌクレアーゼP1(3ユニット)を加え、38℃で23時間反応させた。反応後、生成物を、C18逆相HPLCで分析した。HPLC分析は、0.03M 酢酸アンモニウムを移動相に用いて、アセトニトリルの濃度を毎分2%ずつ増やすことにより、行なった。その結果、保持時間19.96分に溶出ピークが認められたことから、2’−O−TBDMSヌクレオシド混合物が得られたことが確認された(図1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
【請求項2】
前記RNAが天然RNAである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAが、下記式(I):
【化1】

〔式(I)中、X、Yは、それぞれ同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
nは、0以上の整数を示し、
は、前記nの各整数に対応して同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、水素原子、リン酸基または5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子またはリン酸基を示す。〕により表わされるRNAであり、かつ
前記2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAが、下記式(II):
【化2】

〔式(II)中、X、Y、n、Wは、それぞれ、前記式(I)におけるX、Y、n、Wと同義であり、
は、水素原子、シリル基、リン酸基、または少なくとも一つの水酸基がシリル化されていてもよい5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
、R、Kは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはシリル基を示し、
ただし、R、R、Kのうちの少なくとも一つは、シリル基である。〕により表わされるシリル化RNAである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記nが0から10,000までの整数である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記塩が無機塩、有機塩または金属塩である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記シリル化剤が、下記式(V):
【化3】

〔式(V)中、R10、R11、R12は、それぞれ同一または異なって、C〜C10アルキルまたはC〜C10アリールを示し、
Lは、脱離基を示す。〕により表される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記シリル化剤がTBDMSClである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、2’−O−シリル化リボヌクレオシドまたは2’−O−シリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
【請求項9】
前記2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAが、下記式(II):
【化4】

〔式(II)中、X、Yは、それぞれ同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
nは、0以上の整数を示し、
は、前記nの各整数に対応して同一または異なって、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、水素原子、シリル基、リン酸基、または少なくとも一つの水酸基がシリル化されていてもよい5’−キャッピング部分を示し、
は、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
、R、Kは、それぞれ同一または異なって、水素原子またはシリル基を示し、
ただし、R、R、Kのうちの少なくとも一つは、シリル基である。〕であり、かつ
前記シリル化ヌクレオシドまたはシリル化ヌクレオシドのホスフェート誘導体が、下記式(III):
【化5】

〔式(III)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
、Rは、それぞれ同一または異なって、水素原子、シリル基またはリン酸基を示し、
は、シリル基を示す。〕である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記式(III)により表される化合物が、下記式(IV):
【化6】

〔式(IV)中、Qは、置換されていてもよい核酸塩基を示し、
は、シリル基を示す。〕により表されるシリル化ヌクレオシドである、シリル化ヌクレオシドの製造方法である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記加水分解反応が、酵素による加水分解反応である、請求項8〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
(1)2以上のリボヌクレオチドを含有するRNAまたはその塩あるいはそれらの混合物をシリル化剤と反応させて、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を得ること、ならびに
(2)前記シリル化RNAまたはその塩あるいはそれらの混合物を加水分解反応により分解して、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物を得ることを含む、シリル化リボヌクレオシドまたはシリル化リボヌクレオシドのホスフェート誘導体もしくはその塩あるいはそれらの混合物の製造方法。
【請求項13】
下記(i)〜(iv)のいずれかである、シリル化RNAまたはその塩:
(i)少なくとも1個の2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよび少なくとも1個のリボヌクレオチドを含有するシリル化RNA;
(ii)2’−O−シリル化リボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの総数が少なくとも100個である、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを少なくとも含有するシリル化RNA;
(iii)同種のリボヌクレオチドのみを含有し、かつ2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNA;および
(iv)RNAが天然RNAである、2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有するシリル化RNA。
【請求項14】
2’−O−シリル化リボヌクレオチドを含有する複数種のシリル化RNAまたはその塩を含む組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84495(P2011−84495A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237339(P2009−237339)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業「顕在化ステージ」、「天然由来RNAの直接修飾による高効率RNA合成技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】