説明

シリル化ピペリジン誘導体

式Iの化合物(式中、R4及びR5の少なくとも1つは、置換基としてSi(R6)3を含む。)は、Aβ(1−42)産生を選択的に減弱させ、ゆえにアルツハイマー病及び関連状態の治療において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト身体の治療処置での使用のための化合物に関する。特に、本発明は、アルツハイマー病などの脳でのβ−アミロイドペプチドの沈着に関連する疾患を治療するか又はこのような疾患が関連する認知症発症を予防するか又は遅延させるのに有用な、カルボキシ−官能性1,2−二置換ピペリジン及び関連化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知症の最も多い形態である。その診断は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、第4版、American Psychiatric Association(DSM−IV)により出版、に記載されている。これは神経変性疾患であり、臨床的には、記憶及び全般的な認知機能の進行性喪失を特徴とし、病理学的には、患者の脳皮質領及び脳連合野における細胞外タンパク性プラークの沈着を特徴とする神経変性障害である。これらのプラークは、β−アミロイドペプチド(Aβ)の原線維凝集体を主に含む。Aβは、酵素β−セクレターゼ及びγ−セクレターゼを含む、別個の細胞内タンパク質分解現象を介して、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から形成される。γ−セクレターゼにより仲介されるタンパク質分解の部位が多様なので、その結果、Aβの鎖長は様々なものとなる(例えばAβ(1−38)、Aβ(1−40)及びAβ(1−42))。おそらくβ−セクレターゼにより仲介されるタンパク質分解の部位における多様性の結果である、Aβ(4−42)などのN末端短縮型も脳において見られる。便宜上、本明細書で使用される「Aβ(1−40)」及び「Aβ(1−42)」などの表現には、このようなN末端短縮型変異体が含まれる。細胞外媒体への分泌後、Aβは、最初は可溶性である凝集体を形成するが、この凝集体はADにおける主要な神経毒性作用物質であると広く考えられており(Gongら、PNAS、100(2003)、10417−22参照)、最終的にADの病理学的特徴である不溶性沈着物及び高密度の神経突起プラークとなる。
【0003】
脳におけるAβの沈着が関連するその他の認知障害の状態には、脳アミロイド血管症、オランダ型のアミロイド症を伴う遺伝性脳出血(HCHWA−D)、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症及びダウン症候群が含まれる。
【0004】
プラーク形成プロセスにおける各種介入が、ADに対する治療的処置として提案されている(例えば、Hardy及びSelkoe、Science、297(2002)、353−6参照)。提案されているこのような治療方法の1つは、例えばβ−又はγ−セクレターゼの阻害によって、Aβの産生を阻止するか又は減弱させる方法である。グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3(GSK−3)の阻害、特にGSK−3αの阻害により、Aβの産生を阻止することができることも報告されている(Phielら、Nature、423(2003)、435−9参照)。提案されているその他の治療方法には、Aβの凝集を阻止する化合物の投与、及びAβに選択的に結合する抗体の投与が含まれる。
【0005】
しかし、最近の報告(Pearson及びPeers、J.Physiol.、575.1(2006)、5−10)により、AβがADにおけるその役割から独立した重要な生理的作用を及ぼし得ることが示唆されており、Aβの産生を阻止することにより、望ましくない副作用がもたらされ得ることが暗に示される。さらに、γ−セクレターゼは、APP(例えばノッチ)以外にいくつかの異なる基質に作用することが知られており、これを阻害することにより、望まれない副作用が起こり得る。従って、Aβの産生を完全に抑制することなく、γ−セクレターゼの作用を阻害することのないAD治療法に関心が持たれる。
【0006】
提案されるこのような治療の1つには、Aβ(1−42)の産生を選択的に減弱させるようにγ−セクレターゼの作用を調整することが含まれる。この結果、より鎖長が短いAβのアイソフォームが優先的に分泌されるが、これは自己凝集及びプラーク形成する傾向が低く、ゆえに脳からより容易に除去され、及び/又は神経毒性が低いと考えられる。この効果を示す化合物には、ある種の非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)及びこれらの類似体が含まれる(WO01/78721及びUS2002/0128319及びWeggenら、Nature、414(2001)212−16;Moriharaら、J.Neurochem.、83(2002)1009−12;及びTakahashiら、J.Biol.Chem.、278(2003)18644−70参照)。PPARα及び/又はPPARδの活性を調節する化合物も、Aβ(1−42)を減少させる効果を有することが報告されている(WO02/100836)。動物モデルにおいて、酸化窒素を放出できるNSAID誘導体は、抗神経炎症作用が向上しており、及び/又は脳内のAβ沈着を減少させることが報告されている(WO02/092072;Jantzenら、J.Neuroscience、22(2002)、226−54)。US2002/0015941は、容量性カルシウム流入の活性を増強する作用物質が、Aβ(1−42)を低下させ得ることを教示する。
【0007】
WO2005/054193及びWO2005/013985、WO2006/008558、WO2005/108362及びWO2006/043064では、Aβ(1−42)産生を選択的に減弱させることができる化合物のさらなるクラスが開示されている。前述のWO2006/043064は、特に、様々なN−置換ピペリジニル酢酸誘導体を開示するが、本発明の化合物を開示も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第01/78721号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0128319号明細書
【特許文献3】国際公開第02/100836号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/092072号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2002/0015941号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/054193号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2005/013985号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2006/008558号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2005/108362号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2006/043064号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」、第4版、American Psychiatric Association(DSM−IV)
【非特許文献2】Gong他、PNAS、100、2003年、p.10417−22
【非特許文献3】Hardy及びSelkoe、Science、297、2002年、p.353−6
【非特許文献4】Phiel他、Nature、423、2003年、p.435−9
【非特許文献5】Pearson及びPeers、J.Physiol.、575.1、2006年、p.5−10
【非特許文献6】Weggenら、Nature、414、2001年、p.212−16
【非特許文献7】Moriharaら、J.Neurochem.、83、2002年、p.1009−12
【非特許文献8】Takahashiら、J.Biol.Chem.、278、2003年、p.18644−70
【非特許文献9】Jantzenら、J.Neuroscience、22、2002年、p.226−54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の化合物は、高い効力でAβ(1−42)産生を選択的に減弱させ、望ましくない副作用が起こる可能性が低い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により、式Iの化合物:
【0012】
【化1】

又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物(式中、
pは0、1又は2であり;
nは0、1、2又は3であり;
−C(R−Z部分はピペリジン環の3、4又は5位に連結され;
Zは、COH又はテトラゾール環を表し;
各Rは、独立にH又は6個以下の炭素原子の非芳香族炭化水素基を表すか;又は2個のR基がC3−6脂環式基を完成し;
各Rは独立に6個以下の炭素原子の非芳香族炭化水素基を表すか;又は、隣接する環炭素原子に連結された2個のR基が7個以下の原子の縮合炭素環を完成し得;
各Rは独立に、ハロゲン、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルキル、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルコキシ、C2−6アルケニル又はSi(Rを表し;
は、
(i)H;
(ii)Het−A−(Aは結合、CH又は1,4−フェニレンを表し、Hetは、ハロゲン、C1−4アルキル、CF、Si(R、C1−4アルコキシ及びC1−4アルコキシカルボニルから選択される3個以下の置換基を有していてもよいか又はハロゲン、C1−4アルキル、Si(R、C1−4アルコキシ又はC1−4アルコキシカルボニルによりそれ自身置換されていてもよいフェニル置換基を有していてもよい、10個以下の環原子の複素環系を表す。);及び
(iii)ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素
から選択され;
は、
(i)H;
(ii)ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素;及び
(iii)CO(式中、Rは、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素を表す。)
から選択され;
各Rは、独立に6個以下の炭素原子の炭化水素基を表し;
ただし、R及びRは両者ともはHを表さず、並びにR及びRの少なくとも1個が置換基としてSi(Rを含む。)が提供される。
【0013】
特定の実施形態において、各Rは、独立に、ハロゲン、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルキル、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルコキシ又はC2−6アルケニルを表す。
【0014】
式Iにおいて可変因子が複数回出現する場合、この可変因子の個々の出現は、別段の指定がない限り、互いに独立している。
【0015】
本明細書中で使用する場合、「炭化水素基」という表現は、炭素原子及び水素原子のみからなる基を示す。別段の指示がない限り、このような基は、炭素原子の指定された最大数と一致する、単独で又は何らかの組合せでの、直鎖状、分枝状又は環状の構造を含み得、別段の指示がない限り、芳香族を含め、飽和又は不飽和であり得る。炭化水素基の特定の例には、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルアルキル及び(許容されるならば)フェニル、アルキルフェニル及びフェニルアルキルが含まれる。
【0016】
本明細書中で使用する場合、xが1より大きい整数である「C1−xアルキル」という表現は、構成炭素原子の数が1からxの範囲である、直鎖状及び分枝状アルキル基を指す。特定のアルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、及びt−ブチルである。「C2−6アルケニル」、「ヒドロキシC1−6アルキル」、「ヘテロアリールC1−6アルキル」、「C2−6アルキニル」及び「C1−6アルコキシ」などの派生表現は、同様に解釈されるものとする。
【0017】
「ペルフルオロC1−4アルキル」という表現は、全ての水素原子がフッ素原子により置換されている4個以下の炭素原子の直鎖状又は分枝状アルキル基を指す。
【0018】
「C3−6脂環式」という表現は、3から6個の環炭素原子を含有する環状非芳香族炭化水素基を指す。例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンテニル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが含まれる。
【0019】
「複素環式」という用語は、少なくとも1個の環原子がN、O及びSから選択される、単環又は二環式環系を指す。別段の指示がない限り、この用語には、飽和及び不飽和系の両方が含まれる(芳香族系を含む。)。複素環式基は、別段の指示がない限り、環炭素又は環窒素を介して結合され得る。
【0020】
本明細書中で使用する場合、「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含み、別段の指示がない限り、フッ素及び塩素が好ましい。
【0021】
医療分野での使用の場合、式Iの化合物は、医薬的に許容可能な塩の形態であり得る。しかし、その他の塩も、式Iの化合物又はそれらの医薬的に許容可能な塩の調製に有用であり得る。本発明の化合物の医薬的に許容可能である適切な塩には、例えば、本発明による化合物の溶液を、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸などの医薬的に許容可能な酸の溶液と混合することにより形成され得る酸付加塩が含まれる。あるいは、医薬的に許容可能な塩は、適切な塩基によるカルボン酸基の中和により形成され得る。このようにして形成される医薬的に許容可能な塩の例には、ナトリウム塩又はカリウム塩などのアルカリ金属塩;アンモニウム塩;カルシウム塩又はマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアミン塩(ピリジニウム塩を含む。)及び四級アンモニウム塩など、適切な有機塩基で形成される塩が挙げられる。
【0022】
式Iにより包含される全ての立体異性体型が、光学及び幾何異性体の両方とも、単独で又は何らかの割合での混合物として、本発明の範囲内に入ることを理解されたい。従って、部分:
【0023】
【化2】

は、ピペリジン環に対してシス−又はトランス−立体配置であり得る。さらに、あるシス−又はトランス−立体配置のある化合物は2種類の鏡像異性体型を有し、その両者とも、単一のホモキラル化合物であろうと又は何らかの割合でのラセミ混合物であろうと、本発明の範囲内である。あらゆる疑義を避けるために、本明細書中で使用する場合、(A):
【0024】
【化3】

などの構造式は、別段の断りがない限り、星印を付された炭素原子の相対的立体配置であり、その絶対配置ではないことを理解されたい。
【0025】
式Iにおいて、−C(R−Z部分はピペリジン環の3、4又は5位に連結される。特定の実施形態において、−C(R−Z部分はピペリジン環の4位に連結される。
【0026】
Zは、COH又はテトラゾール環を表し、特にZは、COH又は1,2,3,4−テトラゾール−5−イルを表すが、好ましくはCOHを表す。
【0027】
各Rは、独立にH又は6個以下の炭素原子の非芳香族炭化水素基を表すか;又は2個のR基がC3−6脂環式基(シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンテニル又はシクロペンチルなど)を完成する。ある実施形態において、1個のR基がHであり、他方がH又はメチル、エチル、プロピル又はブチルなどのC1−6アルキルである。別の実施形態において、両方のR基がメチルを表すか又は一緒になって脂環式基を完成する。さらなる実施形態において、両方のR基がHを表す。
【0028】
(存在する場合)により表される基は、−C(R−Z部分が連結される炭素原子を含め、ピペリジン環上の何れかの利用可能な位置に連結され得るが、しかし、好ましくは、(R−C5−n−部分が連結される炭素原子に連結されない。特定の実施形態において、pは0又は1であり、さらなる実施形態において、pは0であり、Rは存在しない。Rとして適切なものには、メチル、エチル又はn−プロピルなどのC1−6アルキル及びアリルなどのC2−6アルケニルが含まれる。
【0029】
代替的実施形態において、pは2であり、R基は、隣接する環位置に連結され、一緒になって7個以下の原子の縮合炭素環を完成する。この縮合炭素環は、完全に飽和しているか又はあらゆる程度不飽和であり得る(芳香族を含む。)。例としては、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロペンタン及びシクロヘキサン、特にベンゼン及びシクロヘキサンが挙げられる。
【0030】
式Iにおいて、nは、好ましくは1又は2であり、最も好ましくは1である。各Rは、独立に、ハロゲン(特にF)、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルキル、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルコキシ、Si(R(例えばSiMe)又はC2−6アルケニルを表す。1個のRが存在する場合、非常に適切には4位で連結される(が必ずしも必要ではない。)。(Rとして一般的なものには、2−CF、3−CF、4−CF、2,4−ジ(CF)、2−F−4−CF、4−OCF、4−アリル、4−SiMe、4−n−プロピル、4−イソプロピル及び4−tert−ブチルが含まれる。ある実施形態において、(Rは、4−CF又は4−n−プロピル、特に4−CFを表す。
【0031】
がHet−Aを表す実施形態において、Hetは、通常、第二の5−又は6−員環に縮合されていてもよい、5−又は6−員複素環を表す。この第二の5−又は6−員環は炭素環式又は複素環式であり得、Hetが炭素環式環に縮合された複素環を含む基を表す場合、その分子の残りの部分への連結は、これらの環の何れかを介し得る。Hetで表される群により含まれる何れの環も、飽和又は不飽和であり得る(芳香族を含む。)。Hetの定義内の複素環式系の例には、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フラン、ベンゾフラン、フラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、トリアゾール、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピペリジン及びテトラヒドロフランが含まれる。Het基は、置換されていない又は既に定義されるように置換され得る。好ましい置換基(存在する場合)には、CF、C1−4アルキル(特にメチル)、C1−4アルコキシカルボニル(t−ブトキシカルボニルなど)、フェニル及びトリフルオロメチルフェニルが含まれる。
【0032】
Aが1,4−フェニレンを表す場合、Hetは通常、フェニル又は置換フェニル置換基を持たない単環式系を表す。
【0033】
この実施形態内で、Rにより表される基の例には、3−ピリジル、6−トリフルオロメチル−3−ピリジル、2−フリル、5−(2−トリフルオロメチルフェニル)−2−フリル、2−チエニル、3−チエニル、ベンゾチオフェン−3−イル、3−キノリニル、ベンゾフラン−2−イル、6−キノリニル、1−フェニル−5−メチルピラゾール−4−イル、フラン−3−イル、4−(ピリジン−2−イル)フェニル、4−(ピラゾール−1−イル)フェニル、4−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)フェニル、4−(チオフェン−2−イル)フェニル、テトラヒドロピラン−4−イル、(テトラヒドロチオピラン−4−イル)メチル、1−(t−ブトキシカルボニル)ピペリジン−4−イル、(テトラヒドロピラン−4−イル)メチル、4−(ピリジン−4−イル)フェニル、4−(ピリジン−3−イル)フェニル及びテトラヒドロフラン−2−イルが含まれる。
【0034】
代替的実施形態において、Rは、H又は、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素を表す。Rにより表される炭化水素基は、直鎖状、分枝状もしくは環状であり得るか、又は、最大で12炭素原子を有する、直鎖状、分枝状もしくは環状部分の何らかの組み合わせを含み得る。この炭化水素基は、完全に飽和しているか又は1以上の二重もしくは三重結合を含有し得るか又はその何れかの組み合わせであり得る(芳香族環を含む。)。Rにより表される炭化水素基の典型例には、12個以下の炭素原子を含有する、直鎖又は分枝鎖アルキル、アルケニル及びアルキニル基、C3−6脂環式基、C3−6脂環式C1−4アルキル基、フェニル基及びフェニルC1−4アルキル基が含まれる。
【0035】
この炭化水素基は置換されていないか又は既に定義されるような3個以下の置換基を有し得る。しかし、特定の炭化水素基上に複数の置換基が存在する場合、この置換基は通常、フェニル環に連結される。特定の実施形態において、Rにより表される炭化水素基が有する置換基は1個である。好ましい置換基(存在する場合)には、ハロゲン(例えばCl又はF)、C1−4ペルフルオロアルキル(例えばCF又はC)及びSi(R(式中、Rは既に定義されるとおりである。)が含まれる。
【0036】
がCOを表す実施形態において、Rは、Rに関して上記で述べられるような置換されていてもよい炭化水素基と同じ範囲から選択される。特定の実施形態において、Rは、置換されていないか又は一置換C1−6アルキルを表す(この場合、この置換基は、ハロゲン(例えばCl又はF)、C1−4ペルフルオロアルキル(例えばCF又はC)及びSi(R(式中、Rは既に定義されるとおりである。)から選択される。)。
【0037】
が置換されていてもよい炭化水素基を表す実施形態において、この炭化水素基は、Rに関して上記で述べられるような、置換されていてもよい炭化水素基と同じ範囲から選択される。
【0038】
及びRは、これらの少なくとも1がH以外であるように選択される。特定の実施形態において、RもRもHを表さない。別の実施形態において、R及びRの1つがHであり、(Rは縮合ベンゼン又はシクロヘキサン環、特に、縮合シクロヘキサン環を表す。R及びRはまた、これらの少なくとも1つがSi(R(式中、Rは既に定義されるとおりである。)により表されるシリル置換基を含むようにも選択される。Rとして適切なものには、C1−6アルキル(メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル及びt−ブチルなど)及びフェニルが含まれ、Si(Rにより表されるシリル置換基の具体例には、トリメチルシリル、トリエチルシリル及びt−ブチルジメチルシリルが含まれる。
【0039】
特定の実施形態において、R及びRはそれぞれ独立に、既に定義されるとおり置換されていてもよい炭化水素基を表すが、ただし、R及びRの少なくとも1つは、Si(Rにより表されるシリル置換基を含む。R又はRにより表される置換されていてもよい炭化水素基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、3−メチルブチル、2,2−ジメチルプロピル、2−エチルブチル、4−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、4,4−ジメチルペンチル、3−メチル−1−ブテニル、3−メチル−3−ブテニル、3−メチル−3−ブテン−1−イニル、4−メチル−1−ペンチニル、3,3−ジメチル−1−ブチニル、シクロヘキシル、2,2,2−トリフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、4,4,4−トリフルオロブチル、2−フェニルエチル、3−メトキシプロプ−1−イニル、シクロヘキシルエチニル、1−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、ヒドロキシメチル、イソプロポキシメチル、ジフルオロメトキシメチル、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチニル、4−ヒドロキシ−3−メチルブチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロヘキシルエチル、2−(シクロヘキセン−1−イル)エチル、2−(1−ヒドロキシシクロペンチル)エチル、2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)エチル、4−(トリフルオロメチル)フェニル、4−(トリフルオロメチル)フェニルエチニル、2−(3−フルオロフェニル)エチル、2−(3,5−ジフルオロフェニル)エチル、2−(2,4−フルオロフェニル)エチル、2−(3−メチルフェニル)エチル、2−(4−t−ブチルフェニル)エチル、2−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]エチル、2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]エチル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(トリエチルシリル)エチル、2−(t−ブチルジメチルシリル)エチル及び4−(トリメチルシリル)フェニルが含まれる。
【0040】
又はRにより表される置換されていてもよい炭化水素基の具体例には、3,3,3−トリフルオロプロピル、4−(トリフルオロメチル)フェニル、3,3−ジメチル−1−ブチニル、3,3−ジメチルブチル、2−フェニルエチル、シクロヘキシル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(トリエチルシリル)エチル、2−(t−ブチルジメチルシリル)エチル及び4−(トリメチルシリル)フェニルが含まれる。
【0041】
本発明の化合物のサブセットは、式IIの化合物:
【0042】
【化4】

及び医薬的に許容可能な該化合物の塩及び水和物からなる(式中、n、p、R、R、R、R及びRは既に記載のものと同じ意味を有し、同じ具体的正体をとる。)。特定の実施形態において、相対的な立体化学は式IIAで示されるとおりである:
【0043】
【化5】

本発明の化合物のさらなるサブセットは、式IIIの化合物:
【0044】
【化6】

及び医薬的に許容可能な該化合物の塩及び水和物からなる(式中、
4aは、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素を表し;
は、Si(R、分枝型C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル又は、ハロゲン、C1−4アルキル及びCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよいフェニルを表し;
ただし、RがSi(R以外である場合、R4aは少なくとも1個のSi(R置換基を有し、n、R、R及びRは、既に記載されるものと同じ意味及び同じ具体的正体をとる。)。
【0045】
本発明による化合物の具体例には、pが0であり、nが1であり、Rが4位で連結されるCFを表し、R、R及びRが次の表:
【0046】
【表1】

で示されるとおりである式IIAの化合物及び医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物が含まれる。
【0047】
本発明による化合物のさらなる例には、pが2であり、R基が縮合炭素環を完成し、nが1であり、Rが4位でのCFを表し、各RがHであり、R、R及びこの縮合環の正体が次の表:
【0048】
【表2】

に示されるとおりである、式IIAの化合物及び医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物が含まれる。
【0049】
ZがCOHである式Iの化合物は通常、対応するエステル(1):
【0050】
【化7】

の加水分解により得られる(この場合、Rはメチル又はエチルなどのC1−6アルキルを表し、n、R、Rz、RJ、R及びRは前出と同じ意味を有する。)。この加水分解は通常、THF水中のLiOH又はメタノール中のNaOHもしくはKOHとともに還流させることにより行われる。
【0051】
対応するニトリルへのエステル(1)の変換と、それに続くトリブチル錫オキシドの存在下での還流トルエン中でのアジドトリメチルシランによる処理により、Zが1H−テトラゾール−5−イルを表す対応する化合物を得ることが可能である。トルエン中の塩化アンモニウム懸濁液へトリメチルアルミニウムを添加し、次いでエステル(1)を添加し、混合物を還流し、固体の酒石酸カリウムナトリウムで処理することにより、ニトリルへの変換を行い得る。
【0052】
CH−L:
【0053】
【化8】

との化合物(2)の反応により、エステル(1)を得ることができる(式中、Lは、ハロゲン化物(特に臭化物又はヨウ化物)、トシレート、メシレート又はトリフレートなどの離脱基であり、R、n、R、R、R、R及びRは前出と同じ意味を有する。)。通常のアルキル化条件が使用され得る(例えば炭酸カリウムなどの塩基存在下でのDMF溶液中での加熱)。
【0054】
あるいは、アルデヒド又はケトン官能基を含有する基RCH−の前駆体を用いて、化合物(2)に対して還元的アルキル化を行い得る。このような場合、水の共沸除去を行い酸触媒の存在下でトルエン中でR−CO−Rとともに化合物(2)を還流し、ナトリウムトリアセトキシボロヒドリドを用いて、得られた付加物を還元し得る。RがH以外であり、Rがアルキン−1−イル基である場合に有用な、この経路の好ましい変法において、例えば水中での70℃でのマイクロ波加熱を介して、臭化金(III)の存在下でR−CHO及びR−Hと化合物(2)を反応させる。
【0055】
別の変法において、水の共沸除去を行いながら、化合物(2)、R4−CHO及びベンゾトリアゾールをトルエン中で還流させ、得られた付加物をR−Zn−Halと反応させる(式中、Halはハロゲン化物(好ましくは塩化物)を表す。)。この反応は、例えば10℃以下など低温でジクロロメタンなどの無水非プロトン溶媒中で適切に行われる。
【0056】
PtO触媒においてメタノールHCl中で、対応するピリジンの水素化により、ピペリジン(2)を得ることができる(3a):
【0057】
【化9】

(式中、R、n、p、R、R及びRは前出と同じ意味を有する。)。
【0058】
リチウムジエチルアミドなどの強塩基存在下でのCO(OR)(式中、Rは前出と同じ意味を有する。)での処理により、対応するメチルピリジン(3b)から、両方のR基がHであるピリジン(3a)を得ることが可能である。標準的方法を介して、両方のR基がHであるピリジン(3a)のモノ又はジアルキル化により、1又は両方のR基がH以外であるピリジン(3a)を得ることが可能である。
【0059】
アリールボロン酸(5)とのクロロピリジン(4)のカップリングにより、化合物(3b)を得ることができる
【0060】
【化10】

(式中、n、p、R及びRは前出と同じ意味を有する。)。この反応は、標準的なSuzukiカップリング条件下で、例えば炭酸ナトリウム及びPd(PPh存在下、ジメトキシエタン水中で行われる。
【0061】
pが0であり、両方のR基がHであり、CHCOR部分が4位に連結されるピペリジン(2)に対する代替経路は、(RO)P(O)CHCORとのピペリドン(6)の縮合及びそれに続く、得られたオレフィン(7)の水素化を含む:
【0062】
【化11】

(式中、Cbzはベンジルオキシカルボニルを表し、R、n及びRは前出と同じ意味を有する。)。NaH存在下でTHF中で縮合が行われ、一方で水素化は、エタノール中のPd/C又はPd(OH)触媒において行われ得、同時にCbz保護基が切断される。
【0063】
例えば−78℃にてTHF中のL−Selectrideなどのホウ化水素還元剤を用いて、ジヒドロピリドン(8):
【0064】
【化12】

の還元によりピペリドン(6)を得ることが可能である(式中、Cbz、n及びRは前出と同じ意味を有する。)。
【0065】
Comins、J Heterocyclic Chem.(1999)、36、1491−1500に記載の手順によって、クロロギ酸ベンジル及び適切なグリニャール試薬(R5−nMgBrとの4−メトキシピリジンの反応により、ジヒドロピリドン(8)を得ることが可能である。
【0066】
−L(式中、R2及びLは前出と同じ意味を有する。)を用いて、中間体(8)及び/又は(6)のモノ又はジアルキル化によりpが0以外であるピペリジン(2)を与えるために、化合物(8)及び(6)を含む上述の経路を適応させ得る。あるいは、−78℃から−10℃のTHF中でのCuIの存在下又はCuBr及びBF−EtO存在下での、RMg−ハロゲン化物とジヒドロピリドン(8)の反応によって、6位にR置換基を導入し得る(Comins(同書に記載)により記載のように)。
【0067】
さらなる代替法において、L−CHCORでのジヒドロピリドン(8)のアルキル化及びそれに続く前出のような対応するピペリドンに対するホウ化水素還元、続く、ジチオケタールを形成するための1,2−エタンジチオールとの反応及び続くラネーニッケルでの処理によるケトン基の除去を介して、C(RCOR部分が3位に連結されるピペリジン(2)を得ることができる。
【0068】
ピペリジン(2)に対するこれら及びその他の合成経路は、参照により本明細書中に組み込まれるWO2006/043064に記載されている。
【0069】
有機合成分野の熟練者にとって公知の結合形成又は切断の標準的技術により、式Iによるある種の化合物又はその前駆体を、式Iによる異なる化合物又はその前駆体に変換し得る。例えば、各RがHである対応する化合物の標準的方法によるアルキル化により、少なくとも1つのRがH以外である式(1)のエステルを調製し得る。同様に、R及び/又はRが不飽和を含むエステル(1)を水素化して(例えばラネーNiで)、部分的又は完全に飽和した類似体を得る。
【0070】
それら自身が市販されていない場合、上述の合成スキームのための出発物質は、市販の材料の直接的な化学修飾により入手可能である。
【0071】
本発明によるある一定の化合物は、1以上の不斉中心の存在により、又はその分子の全体的非対称性のために、光学異性体として存在し得る。ラセミ体でこのような化合物を調製し得るか、又は鏡像異性体特異的合成又は分割の何れかにより、個々の鏡像異性体を調製し得る。例えば、分取HPLCなどの標準的技術又はジ−p−トルオイル−D−酒石酸及び/又はジ−p−トルオイル−L−酒石酸などの光学活性のある酸での塩形成によるジアステレオマー対の形成及びそれに続く分別結晶及び遊離塩基の再生により、新規化合物をその成分鏡像異性体に分割し得る。本新規化合物はまた、ジアステレオマーエステル又はアミドの形成と、それに続くクロマトグラフィー分離及びキラル補助剤の除去によっても分割し得る。あるいは、上述の技術により式Iの化合物の調製におけるラセミ中間体を分割し、続く段階で望ましい鏡像異性体を使用し得る。例えば、キラルクロマトグラフィーによって、又はL−マンデル酸での塩形成を介して、ラセミピペリジン誘導体(2)を分割し得る。
【0072】
上記の合成順序の何れの間も、関係のあるあらゆる分子上の感受性又は反応性のある基を保護することが必要とされ得る及び/又は所望され得る。これは、「Protective Groups in Organic Chemistry」、J.F.W.McOmie編、Plenum Press、1973;及びT.W.Greene & P.G.M.Wuts、「Protective Groups in Organic Syntehsis」、John Wiley & Sons、第3版、1999に記載のものなどの従来の保護基によって達成され得る。保護基は、当技術分野から公知の方法を用いて、従来の続く段階で除去され得る。
【0073】
本発明の化合物は、Aβの1−42アイソフォームの形成を選択的に減少させるようにアミロイド前駆体タンパク質におけるγ−セクレターゼの作用を調節するという有用な特性を有し、ゆえに、Aβ(1−42)が介在する疾患、特に脳でのβ−アミロイドの沈着を含む疾患に対する処置の開発において有用である。
【0074】
本発明のさらなる態様によると、脳におけるβ−アミロイド沈着に関連する疾患の治療又は予防用薬物の製造のための、上記で定義されるような式Iによる化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物の使用が提供される。
【0075】
脳におけるAβ沈着に関連する疾患は、通常、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症、HCHWA−D、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群、好ましくはADである。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、アルツハイマー病に関連する認知症、脳アミロイド血管症、HCHWA−D、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群を、治療、予防又は発症遅延のための薬物の製造における、上記で定義される式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物の使用を提供する。
【0077】
本発明は、脳におけるAβ沈着を伴う疾患の治療又は予防を必要とする患者に、上記で定義される式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物の治療有効量を投与することを含む、脳におけるAβ沈着を伴う疾患を治療又は予防する方法も提供する。
【0078】
さらなる態様において、本発明は、アルツハイマー病に関連する認知症、脳アミロイド血管症、HCHWA−D、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群の、治療、予防又は発症遅延を必要とする患者に、上記で定義される式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物の治療有効量を投与することを含む、アルツハイマー病に関連する認知症、脳アミロイド血管症、HCHWA−D、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群の、治療、予防又は発症遅延のための方法を提供する。
【0079】
式Iの化合物は、Aβ(1−40)などのより短鎖のアイソフォームの産生を顕著に低下させることなく、Aβの(1−42)アイソフォームの産生を選択的に減弱させるように、γ−セクレターゼの作用を調節する。この結果、分泌されるAβの、自己凝集及び不溶性沈着物形成傾向が低下し、脳からの除去がより容易になり、及び/又は神経毒性が低下する。従って、本発明のさらなる態様は、脳におけるAβの蓄積を遅延させるか、停止させるか又は予防することを必要とする対象者に、上記で定義される式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩の治療的有効量を投与することを含む、脳におけるAβ蓄積を遅延させるか、停止させるか又は予防するための方法を提供する。
【0080】
式Iの化合物は、γ−セクレターゼ活性の抑制とは逆方向に調節するため、副作用、例えば、γ−セクレターゼにより制御されるその他のシグナル伝達経路(例えばノッチ)の途絶から生じ得る副作用のリスクが低いものであると同時に、上記の治療的利益が得られると考えられる。
【0081】
本発明のある実施形態において、式Iの化合物は、AD、脳アミロイド血管症、HCHWA−D、多重梗塞性認知症、ボクサー認知症又はダウン症候群、好ましくはADに罹患している患者に投与される。
【0082】
本発明の代替的実施形態において、式Iの化合物は、軽度認知障害又は加齢性認知低下に罹患している患者に投与される。このような治療の好ましい成果は、ADの予防又は発症遅延である。加齢性認知低下及び軽度認知障害(MCI)は、記憶障害はあるが認知症に対するその他の診断基準がない状態である(Santacruz及びSwagerty、American Family Physician、63(2001)、703−13)。(「The ICD−10 Classification of Mental and Behavioural Disorders」、Geneva:World Health Organisation、1992、64−5も参照)。本明細書中で使用する場合、「加齢性認知低下」は、記憶及び学習;注意及び集中;思考;言語;及び視空間機能のうち少なくとも1つにおいて少なくとも6カ月の間低下しており、かつMMSEなどの標準化された神経心理学試験において基準より標準偏差値を超えて低いスコアであることを意味する。特に、記憶における進行性の低下が認められ得る。より重篤な状態のMCIにおいては、記憶障害の程度が患者の年齢に対して正常と思われる範囲外であるが、ADは発症していない。MCI及び軽度ADの鑑別診断は、Petersenら、Arch.Neurol.、56(1999)303−8により記載されている。MCIの鑑別診断に対するさらなる情報は、Knopmanら、Mayo Clinic Proceedings、78(2003)、1290−1308により提供される。高齢対象者の研究において、Tuokkoら(Arch、Neural.、60(2003)577−82)は、初期のMCIを呈している対象者は、5年以内に認知症を発症するリスクが3倍増大することを見出した。
【0083】
Grundmanら(J.Mol.Neurosci.、19(2002)、23−28)は、MCI患者において基底海馬体積がより小さいことが、その後のADに対する予後指標であることを報告している。同様に、Andreasenら(Acta Neurol.Scand、107(2003)47−51)は、総タウの高CSFレベル、ホスホ−タウの高CSFレベル及びAβ42のCSFレベル低下が全て、MCIからADに進行するリスク増大に関連することを報告している。
【0084】
この実施形態の範囲内において、式Iの化合物は、記憶機能障害があるが認知症の症状を呈しない患者に有利に投与される。通常、記憶機能のこのような障害は、下垂体機能不全によって引き起こされる発作又は代謝障害などの全身性又は大脳疾患に起因するものではない。このような患者は、特に55歳以上の者、とりわけ60歳以上の者であり得、好ましくは65歳以上の者である。このような患者は、患者の年齢に対する成長ホルモン分泌のパターン及びレベルが正常であり得る。しかし、このような患者は、アルツハイマー病発症に対する1以上のさらなるリスク因子を有し得る。このような因子には、疾患の家族歴;疾患に対する遺伝性素因;血清コレステロール上昇;及び成人発症型糖尿病が含まれる。
【0085】
本発明の特定の実施形態において、式Iの化合物は、疾患の家族歴;疾患に対する遺伝性素因;血清コレステロール上昇;成人発症型糖尿病;基底海馬体積の増大;総タウのCSFレベル上昇;ホスホ−タウのCSFレベル上昇;及びAβ(1−42)のCSFレベル低下から選択される、AD発症に対する1以上のリスク因子をさらに有する、加齢性認知低下又はMCIに罹患している患者に投与される。
【0086】
(特に早発型ADに関する)遺伝性素因は、APP、プレセニリン1及びプレセニリン2の遺伝子を含め、多数の遺伝子の1以上における点突然変異から生じ得る。また、アポリポタンパクE遺伝子のε4アイソフォームに対してホモ接合型である対象は、AD発症のリスクが高くなる。
【0087】
患者の認知低下又は障害の程度を、本発明による治療過程の前、その間、及び/又はその後に、その治療過程での変化(例えば、認知低下の進行を遅らせるか又は停止させることなど)を検出し得るように、有利には定期的に評価する。この目的に対する技術分野において、規準を年齢及び教育に適合させたミニメンタルステート検査(MMSE)(Folsteinら、J.Psych.Res.、12(1975)、196−198、Anthonyら、Psychological Med.、12(1982)、397−408;Cockrellら、Psychopharmacology、24(1988)、689−692;Crumら、J.Am.Med.Assoc’n.18(1993)、2386−2391)など、様々な神経心理学的試験が知られている。MMSEは、成人における認知状態の簡潔な定量的測定手段である。認知低下又は障害をスクリーニングし、所定の時点で認知低下又は障害の重症度を推定し、経時的に個々における一連の認知変化を追跡し、治療に対する個々の反応を記録するために使用することができる。別の適切な試験として、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)(特にその認知サブスケール(ADAS−cog))がある(Rosenら、Am.J.Psychiatry、141(1984)、1356−64参照)。
【0088】
式Iの化合物は通常、1以上の式Iの化合物及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物の形態で使用される。従って、さらなる態様において、本発明は、上記で定義される式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩と、医薬的に許容可能な担体と、を含む医薬組成物をさらに提供する。好ましくは、これらの組成物は、経口、非経口、鼻腔内、舌下もしくは直腸投与のための、又は吸入もしくは吹送による投与のための、錠剤、丸薬、カプセル、散剤、顆粒、滅菌非経口溶液又は懸濁液、定量エアロゾル又は液体スプレー剤、点滴剤、アンプル、経皮パッチ、自動注入装置又は坐剤などの単位剤形である。通常、本発明の化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩を含有する均一な予備処方組成物を形成するために、医薬担体、例えば、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及び第二リン酸カルシウムなどの従来の錠剤化成分、又はガム、分散剤、懸濁剤又は界面活性剤、例えば、ソルビタンモノオレエート及びポリエチレングリコールなど、及びその他の医薬希釈剤、例えば水、と、主な活性成分を混合する。これらの予備処方組成物を均一と呼ぶ場合、錠剤、丸薬及びカプセルなど、同等に有効である単位剤形に組成物を容易に細分し得るように、活性成分が組成物全体に均等に分散していることを意味する。次いで、この予備処方組成物を本発明の活性成分が0.1から約500mg含有される上述のタイプの単位剤形に細分する。通常の単位剤形は、活性成分を1から100mg、例えば、1、2、5、10、25、50又は100mg含有する。持続性作用の利点が得られる剤形を得るために、組成物の錠剤又は丸薬を被覆するか、あるいは調合することができる。例えば、錠剤又は丸薬は、内部投与量及び外部投与量成分を含み得、後者が前者を覆う外被の形態になり得る。この2つの成分は、胃での崩解を阻止して内部の成分をそのまま十二指腸へと通過させるか、又は放出遅延させる役割を有する腸溶性の層により分離することができる。多数のポリマー酸及び、セラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースなどの材料とポリマー酸との混合物を含む材料などの様々な材料を、このような腸溶性の層又はコーティングのために使用し得る。
【0089】
本発明において有用な組成物が経口又は注入による投与のために組み込まれ得る液状形態には、水溶液、液体又はゲル充てんカプセル、適切に香味付けされたシロップ、水性又は油性の懸濁液、及び綿実油、ゴマ油、やし油又は落花生油などの食用油で香味付けした乳濁液、ならびにエリキシル及び同様の医薬ビヒクルが含まれる。水性懸濁液用の適切な分散剤又は懸濁剤には、トラガカント、アラビアゴム、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)又はゼラチンなどの合成及び天然ゴムが含まれる。
【0090】
アルツハイマー病の治療又は予防の場合、適切な投与量レベルは、1日あたり活性化合物約0.01から250mg/kg、好ましくは1日あたり約0.01から100mg/kg、より好ましくは1日あたり約0.05から50mg/kg(体重)である。本化合物は、1日あたり1から4回の投与計画で投与し得る。しかし、場合によっては、これらの範囲外の投与量を使用し得る。
【0091】
式Iの化合物は、AD又はその症状の治療又は予防において有用であることが知られている1以上のさらなる化合物と任意に組み合わせて投与され得る。従って、このようなさらなる化合物には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル及びガランタミン)、NMDAアンタゴニスト(例えばメマンチン)又はPDE4阻害剤(例えば、ArifloTM及びWO03/018579、WO01/46151、WO02/074726及びWO02/098878で開示される化合物のクラス)などの認知促進薬が含まれる。このようなさらなる化合物にはまた、スタチン、例えば、シンバスタチンなどのコレステロール低下薬も含まれる。このようなさらなる化合物には、(γ−セクレターゼ阻害剤、β−セクレターゼ阻害剤及びGSK−3α阻害剤を含む)Aβの分泌を阻害する化合物、Aβの凝集を阻害する化合物及びAβに選択的に結合する抗体など、脳におけるAβの産生又はプロセシングを変化させることが知られている化合物(「アミロイド変更物質」)も同様に含まれる。このようなさらなる化合物には、WO2004/110443で開示されるような成長ホルモン分泌促進物質も含まれる。
【0092】
本発明のこの実施形態において、アミロイド変更物質は、Aβの分泌を阻害する化合物、例えば、γ−セクレターゼ阻害剤(WO01/90084、WO02/30912、WO01/70677、WO03/013506、WO02/36555、WO03/093252、WO03/093264、WO03/093251、WO03/093253、WO2004/039800、WO2004/039370、WO2005/030731、WO2005/014553、WO2004/089911、WO02/081435、WO02/081433、WO03/018543、WO2004/031137、WO2004/031139、WO2004/031138、WO2004/101538、WO2004/101539及びWO02/47671で開示されるものなど)又はβ−セクレターゼ阻害剤(WO03/037325、WO03/030886、WO03/006013、WO03/006021、WO03/006423、WO03/006453、WO02/002122、WO01/70672、WO02/02505、WO02/02506、WO02/02512、WO02/02520、WO02/098849及びWO02/100820で開示されるものなど)又はWO98/28268、WO02/47671、WO99/67221、WO01/34639、WO01/34571、WO00/07995、WO00/38618、WO01/92235、WO01/77086、WO01/74784、WO01/74796、WO01/74783、WO01/60826、WO01/19797、WO01/27108、WO01/27091、WO00/50391、WO02/057252、US2002/0025955及びUS2002/0022621で開示されるものを含み、またGSK−3阻害剤、特にPhielら、Nature、423(2003)、435−9で開示されるような、GSK−3α阻害剤(リチウムなど)も含む、Aβの形成又は放出を阻害する何らかのその他の化合物であり得る。
【0093】
あるいは、アミロイド変更物質は、Aβの凝集を阻害するか、あるいはこの神経毒性を減弱させる化合物であり得る。適切な例には、クリオキノール(Gouras及びBeal、Neuron、30(2001)、641−2)及びWO99/16741で開示される化合物、特にDP−109として知られている化合物など(Kalendarevら、J Pharm.Biomed.Anal.、24(2001)、967−75)などのキレート剤が含まれる。本発明での使用に適切であるAβ凝集のその他の阻害剤には、ApanTM(Praecis)として知られている化合物を含むWO96/28471、WO98/08868及びWO00/052048;WO00/064420、WO03/017994、WO99/59571(特に、トラミプロセート又はAlzhemedTMとしても知られている3−アミノプロパン−1−スルホン酸);WO00/149281及びPTI−777及びPTI−00703(ProteoTech)として知られている組成物;WO96/39834、WO01/83425、WO01/55093、WO00/76988、WO00/76987、WO00/76969、WO00/76489、WO97/26919、WO97/16194及びWO97/16191で開示される化合物が含まれる。さらなる例には、US4847082で開示されるようなフィチン酸誘導体及びUS2004/0204387で教示されるようなイノシトール誘導体が含まれる。
【0094】
あるいは、アミロイド変更物質は、Aβに選択的に結合する抗体であり得る。
【0095】
この抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであり得るが、好ましくはモノクローナルであり、好ましくはヒト又はヒト化抗体である。好ましくは、この抗体は、WO03/016466、WO03/016467、WO03/015691及びWO01/62801に記載のように、体液から可溶性Aβを封鎖することができる。適切な抗体には、(WO01/62801に記載の)ヒト化抗体266、及びWO03/016466に記載のその修飾型が含まれる。
【0096】
本明細書中で使用する場合、「組み合わせて」という表現は、式Iの化合物及びさらなる化合物の両方の治療的有効量を対象者に投与することを必要とするが、これを達成する方法に制限はない。従って、対象者に同時投与するため、単一剤形でこの2種類の化合物を組み合わせるか又は対象者に同時投与又は逐次投与するために別個の剤形で提供し得る。逐次投与は時間を長く空けずに行うか又は時間を長く空けて行い得、例えば、一方を午前に、他方を夕方に投与する。個々の化合物を同じ頻度で投与するか又は異なる頻度で投与し得、例えば、一方を1日1回、他方を1日2回以上投与し得る。可能であれば、両種類とも経口投与が好ましいが、個々の化合物を同じ経路で投与しするか又は異なる経路で投与し得、例えば、一方を経口で、他方を非経口で投与し得る。さらなる化合物が抗体である場合、一般に、式Iの化合物とは別に非経口で投与される。
【実施例】
【0097】
次のアッセイを使用して、式Iの化合物がAβ(1−42)の産生を選択的に阻害する能力を求め得る。
【0098】
細胞を用いたγ−セクレターゼアッセイ
播種前に4時間、直接的なγ−セクレターゼ基質SPA4CTを過剰発現するヒトSH−SY5Y神経芽腫細胞を酪酸ナトリウム(10mM)で誘導した。フェノールレッド不含MEM/10%FBS、50mM HEPES、1%グルタミン中で、96ウェルプレートにおいて35000細胞/ウェル/100μLになるように細胞を播種し、37℃、5%COで2時間温置した。
【0099】
試験のための化合物をMeSO中で希釈して、10点の用量反応曲線を作成した。通常、MeSO中のこれらの希釈化合物10μLを希釈緩衝液(フェノールレッド不含MEM/10%FBS、50mM HEPES、1%グルタミン)182μl中でさらに希釈し、96ウェルプレート中の細胞に各希釈液10μlを添加した(最終MeSO濃度0.5%)。適切なビヒクル及び阻害剤対照を使用して、アッセイ領域を決定した。
【0100】
37℃、5%COで一晩温置した後、それぞれAβ(40)及びAβ(42)ペプチドの検出のために、25μL及び50μLの培養液を標準的Mesoアビジン被覆した96ウェルプレートに移した。25μLのMesoアッセイ緩衝液(PBS、2%BSA、0.2%Tween−20)をAβ(40)ウェルに添加し、次いでそれぞれの抗体のプレミックス25μLをウェルに添加した。
【0101】
Aβ(40)プレミックス:Origen緩衝液中で希釈された、1μg/mLルテニル化G2−10抗体、4μg/mLビオチン化4G8抗体、
Aβ(42)プレミックス:Origen緩衝液中で希釈された、1μg/mLテニル化G2−11抗体、4μg/mLビオチン化4G8抗体
(Signet Pathology Ltdから供給されたビオチン化4G8抗体;Chemiconから供給したG2−10及びG2−11抗体)
【0102】
アッセイプレートを振盪器上で4℃で一晩温置した後、Meso Scale Sector 6000 Imagerを製造業者の説明書に従って較正した。ウェルあたりPBS 150μLでプレートを3回洗浄した後、150μL Meso Scale Discovery読み取り緩衝液を各ウェルに添加し、製造業者の説明書に従い、Sector 6000 Imager上で読み取った。
【0103】
培養液を除去した後、Aβアッセイのために、MTS(オーエン試薬)のホルマザンへの生体内還元を利用する細胞増殖比色アッセイ(CellTiter96TMAQアッセイ、Promega)により、製造業者の説明書に従って、対応する細胞中で細胞生存性を測定した。簡潔に述べると、恒温器に戻す前に、10xMTS/PES 5μLを培養液の残り50μlに添加した。約4時間後、495nmで光学密度を読み取った。
【0104】
適切なソフトウェア(例えばExcel fit)を使用して、非線形回帰フィット解析により、Aβ(40)及びAβ(42)の阻害に対するLD50及びIC50値を算出した。総シグナル及びバックグラウンドは、対応するMeSO及び阻害剤対照により規定した。
【0105】
次の実施例で列挙される化合物は全て、Aβ(1−40)阻害に対する対応するIC50値よりも少なくとも2倍、通常は少なくとも5倍、好ましくは少なくとも50倍低いAβ(1−42)阻害に対するIC50値を与えた。
【0106】
中間体1:(±)−メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}アセテート塩酸塩
【0107】
【化13】

【0108】
段階1:4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン
【0109】
【化14】

DME(40mL)及びNaCO水溶液(2M、40mL)中の、2−クロロ−4−メチルピリジン(1.9mL、21.6mmol)及び4−(トリフルオロメチル)ベンゼンボロン酸(5.0g、26mmol)の混合物を脱気した(Firestone(R)valve x3)。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.15g、1.0mmol、5mol%)を添加し、さらなる脱気後(Firestone(R)valve x3)、この混合物を16時間加熱還流した。この反応物を室温まで冷まし、HO(100mL)及びEtOAc(150mL)で希釈した。Celite(R)パッドを通じてこの混合物をろ過し、EtOAcにより洗い流した。この相を分離し、EtOAc(200mL)で水層を抽出した。合わせた抽出物をHO(100mL)及び塩水(x1)で洗浄し、次いで乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。10%EtOAc/イソヘキサンで溶出するシリカでのクロマトグラフィーにより残留物を精製し、エステル(3.5g、68%)を白色固体として得た。H NMR(360MHz,CDCl)δ:2.44(3H,s)、7.13(2H,d,J5.0)、7.58(1H,s)、7.72(2H,d,J8.2)、8.09(2H,d,J8.2)、8.57(1H,d,J5.0)。
【0110】
段階2:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−4−イル}アセテート
【0111】
【化15】

下で、内部温度が<70℃であるようにして、無水THF(300mL)中の4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン(10.5g、44mmol)の撹拌溶液に、LDA(THF/ヘプタン/エチルベンゼン中2M、44mL、88mmol)の溶液を滴下添加した。この温度で1時間後、ジメチルカーボネート(8.9mL、106mmol)を添加した。30分後、冷却槽を取り外した。内部温度が−20℃に到達したら、反応物を−10℃の冷却槽に移し、次いで0℃までゆっくりと温めた。0℃で1時間後、NHCl水溶液(半分飽和、100mL)を用いて反応を停止させた。反応混合物を真空で濃縮した。残留物をHO(200mL)で希釈し、EtOAc(2x200、mL)で抽出した。合わせた抽出物を塩水(x1)で洗浄し、次いで乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。10−30%EtOAc/イソヘキサンで溶出するシリカでのクロマトグラフィーにより残留物を精製し、淡黄色の液体としてエステル(9.2g、71%)を得た。H NMR(400MHz,CDCl)δ:3.72(2H,s)、3.75(3H,s)、7.24(1H,dd,J1.4、5.0)、7.72(3H,t,J8.4)、8.11(2H,d,J8.2)、8.68(1H,d,J5.0)。
【0112】
段階3:(±)−メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}アセテート塩酸塩
MeOH(100mL)中の、メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−4−イル}アセテート(6.2g、21mmol)、PtO(200mg、0.9mmol)及びHCl溶液(ジオキサン中4N、5.8mL、23mmol)の混合物に対して、Parr(R)装置にて20psiで5時間、水素添加した。ろ過により触媒を除去し、ろ液を真空蒸発させ、白色固体として所望のピペリジンを得た(7.1g、定量分析)。H NMR(400MHz,CDOD)δ:1.58−1.72(1H,m)、1.75−1.85(1H,m)、2.08(1H,d,J14.2)、2.19(1H,t,J14.2)、2.28−2.38(1H,m)、2.45(2H,d,J6.9)、3.24−3.32(1H,m)、3.51−3.57(1H,m)、3−67(3H,s)、4.46(1H,d,J10.2)、7.72(2H,d,J8.3)、7.79(2H,d,J8.4)。
【0113】
NaHCO(aq)での処理及びDCMへの抽出により、遊離塩基を得た。有機抽出物を乾燥させ、ろ過し、蒸発させた。
【0114】
中間体2:(+)−メチル{(2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}アセテート
【0115】
【化16】

(±)−シスメチル4−(トリフルオロメチル)フェニルピペリジン−4−イル)アセテート(中間体1[遊離塩基]、32.6g、0.108mol)を熱イソプロパノール(100mL)中で溶解させ、その溶液を熱イソプロパノール(170mL)中のL−(+)−マンデル酸(9g、0.054mol)の溶液に添加し、得られた溶液を一晩室温で静置した。白色結晶性固体が沈殿し(17.55g、36%)、これをろ過した。母液を蒸発させ、残留物を炭酸ナトリウムで中和し(2M、100mL)、ジクロロメタン(3x100mL)で抽出した。合わせた抽出物を塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。この抽出物を熱イソプロパノール(100mL)中で溶解させ、熱イソプロパノール(170mL)中のD−(−)−マンデル酸(9g、0.054mol)の溶液に添加し;すぐに結晶化が起こり、混合物を2時間静置した。ろ過により白色結晶性固体を単離し(21g、44%)、酢酸イソプロピル(250mL)から再結晶化させて、白色結晶性物質として生成物(19.8g、40%)を得た。ee>99.5%。この物質を炭酸ナトリウムで中和し(2M、100mL)、ジクロロメタン(3x100mL)で抽出した。合わせた抽出物を塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させて、遊離塩基を得た:α(c=1、MeOH)+23°;H NMR(360MHz,CDCl)δ:1.23(6H,d,J6.9)、2.88(1H,qn,J6.9)、4.27(2H,s)、7.15−7.21(4H,m)、7.71(2H,d,J8.2)、8.10(2H,d,J8.2)。
【0116】
中間体3:(±)−メチル{(2R,3S)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−3−イル}アセテート
【0117】
【化17】

【0118】
段階1:(±)−ベンジル4−オキソ−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−3,4−ジヒドロピリジン−1(2H)−カルボキシラート
【0119】
【化18】

無水THF(30mL)中の屑状マグネシウム(0.729g、30mmol)に、4−トリフルオロメチルブロモベンゼン(4.2mL、30mmol)を分割して添加し、1,2−ジブロモエタン2滴を添加し、反応を開始させた。得られた褐色の溶液を−25℃に冷却した。4−メトキシピリジン(3.0mL、30mmol)、次いでクロロギ酸ベンジル(4.3mL、30mmol)を添加した。−20℃で30分間、反応物を撹拌し、次いで2N HClで反応停止させた。10分間撹拌した後、混合物をEtOAcで抽出した(x3)。合わせた抽出物を塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。残留物をクロマトグラフィーにより精製し(シリカ、10−40%EtOAc/ヘキサン)、ジヒドロピリジン(9.30g、83%)を得た。H NMR(500MHz,CDCl)δ:2.77(1H,d,J16.6)、3.18(1H,dd,J7.7,16.6)、5.20(1H,d,J12.0)、5.27(1H,d,J12.0)、5.42(1H,d,J8.3)、5.77(1H,d,J6.3)、7.24−7.37(7H,m)、7.54(2H,d,J8.2)、8.00(1H,m)。
【0120】
段階2:(±)−ベンジル(2R,3S)−3−(2−メトキシ−2−オキソエチル)−4−オキソ−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−3,4−ジヒドロピリジン−1(2H)−カルボキシラート
【0121】
【化19】

無水THF(80mL)中の段階1からのジヒドロピリジン(3.00g、8.0mmol)の溶液を−78℃に冷却し、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド(THF中1.0M、9.6mL、9.6mmol)を滴下添加した。−78℃で1時間撹拌した後、ブロモ酢酸メチル(2.2mL、24mmol)を添加した。反応物を−78℃で1時間撹拌し、次いで0℃で1.5時間撹拌した。この反応をNHCl飽和溶液で反応停止させた。混合物をEtOAcで抽出し(x3)、合わせた抽出物を塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。残留物をクロマトグラフィーにより精製し(シリカ、40%EtO/ヘキサン)、エステルを得た(2.74g、77%)。H NMR(360MHz,CDCl)δ:2.61−2.69(2H,m)、3.15(1H,dd,J5.0,9.8)、3.74(3H,s)、5.18−5.28(2H,m)、5.39(1H,d,J8.5)、5.70(1H,s)、7.18−7.33(7H,m)、7.54(2H,d,J8.3)、8.08(1H,d,J8.6)。
【0122】
段階3:(±)−ベンジル(2R,3S)−3−(2−メトキシ−2−オキソエチル)−4−オキソ−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−1−カルボキシラート
【0123】
【化20】

無水THF(40mL)中の段階2からのエノン(1.650g、3.7mmol)の溶液を−78℃に冷却し、L−selectride(R)(THF中1.0M、4.6mL、4.6mmol)を添加した。反応物を2分間拌し、次いでNHCl飽和溶液で反応停止させた。混合物をEtOAcで抽出し(x3)、合わせた抽出物を塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。クロマトグラフィーにより残留物を精製して(シリカ、40−50%EtO/ヘキサン)ケトンを得た(1.473g、89%)。H NMR(360MHz,CDCl)δ:2.24(1H,dd,J4.9,16.8)、2.57−2.70(3H,m)、3.46−3.52(1H,m)、3.58(3H,s)、3.80−3.89(1H,m)、4.57(1H,dd,J5.2,14.2)、4.93−4.98(2H,m)、5.10(1H,d,J12.1)、7.07(2H,s)、7.26−7.41(5H,m)、7.57(2H,d,J8.1)。
【0124】
段階4:(±)−メチル{(6S,7R)−7−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,4−ジチア−8−アザスピロ[4.5]デク−6−イル}アセテート
【0125】
【化21】

DCM(20mL)中の段階3からのケトン(0.772g、1.7mmol)の溶液を0℃に冷却し、1,2−エタンジチオール(0.43mL、5.1mmol)及びBFOEt(1.27mL、10mmol)を添加した。反応物をRTで48時間撹拌し、次いで、EtOAcで希釈した。混合物を1N NaOH溶液、次いで塩水で洗浄し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。クロマトグラフィーにより残留物を精製し(シリカ、30%EtOAc/ヘキサン)、ジチアン(0.420g、63%)を得た。H NMR(360MHz,CDCl)δ:2.03−2.11(1H,m)、2.20−2.26(1H,m)、2.35−2.43(1H,m)、2.73−2.83(2H,m)、3.06−3.16(2H,m)、3.24(3H,s)、3.25−3.32(4H,m)、3.50(1H,d,J9.9)、7.47−7.58(4H,m)。
【0126】
段階5:(±)−メチル{(2R,3S)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−3−イル}アセテート
MeOH(20mL)中の段階4からのジチアン(0.418g、1.1mmol)の溶液にラネーニッケル(水中スラリー)を分割して添加した。3時間反応物を加熱還流し、次いで冷却した。Hyflo(R)を通じて反応物をろ過し、溶媒を蒸発させた。得られた混合物をDCMで抽出し、乾燥させ(MgSO)、ろ過し、蒸発させた。クロマトグラフィーにより残留物を精製し(シリカ、2%MeOH/DCM)、ピペリジン(0.168g、52%)を得た。H NMR(360MHz,CDCl)δ:1.21−1.26(1H,m)、1.69−1.75(2H,m)、1.90−2.10(4H,m),2.72−2.80(1H,m)、3.16(1H,m)、3.36(1H,d,J9.7)、3.50(3H,s)、7.48(2H,d,J8.1)、7.57(2H,d,J8.2)。
【0127】
中間体4:メチル2−メチル−2−{(2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}プロパノアート
【0128】
【化22】

【0129】
段階1:メチル2−メチル−2−{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−4−イル}プロパノアート
【0130】
【化23】

THF(8mL)中のメチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−4−イル}アセテート(中間体1、段階2)(1.0g、3.39mmol)を−78℃に冷却し、内部温度が<−70℃であるようにして、NaHMDS(2M、3.7mL、7.4mmol)を滴下して処理した。45分後、MeI(0.46mL、7.37mmol)を滴下添加した。反応後、混合物を−70℃で1時間撹拌し、冷却槽を取り外し、混合物をゆっくりと0℃に上昇させた。LC/MSにより、それがモノ−及びジ−メチル生成物の混合物であることが示された。反応混合物を−78℃に再び冷却し、NaHMDS(2M、2.0mL、4.0mmol)を滴下添加し、−70℃で40分後、MeI(0.25mL、4.0mmol)を滴下添加した。50分後、反応混合物を0℃に温め、NHCl水溶液で反応を停止させ、CHClで抽出し、有機相を塩水で洗浄し、MgSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。粗生成物をクロマトグラフィーにより精製し(シリカ、12−100%EtOAc/ヘキサン)、ジメチルピリジンエステル(0.59g、54%)を得た。H NMR(600MHz,CDCl)δ1.57(6H,s)、3.62(3H,s)、7.20(1H,dd,J2.0,5.3)、7.63(1H,s)、7.65(2H,dd,J1.1,10.6)、8.03(2H,d,J8.0)、8.58(1H,dd,J0.9,5.3)。
【0131】
段階2:メチル2−メチル−2−{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}プロパノアート
【0132】
【化24】

段階1(0.44g、1.35mmol)からのジメチルピリジンエステル、PtO(45mg)、HCl溶液(ジオキサン中4N、0.36mL)及びMeOH(6mL)の混合物に、Parr装置にて24psiで6時間、水素添加した。ろ過により触媒を除去し、ろ液を蒸発させて白色固体を得て、それをNaHCO(飽和)で処理し、DCMに抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、MgSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮し、ジメチルピペリジンエステル(0.41g、92%)を得て、MS(ESI+)により確認した:計算値[M+H]330.2、実測値330.0。
【0133】
段階3:メチル2−メチル−2−{(2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}プロパノアート
Chiralcel OJカラム(溶媒:15%IPA/ヘプタン)で段階2からのラセミジメチルピペリジンエステル(0.41g)を分割し、メチル2−メチル−2−{(2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}プロパノアート(100.7mg)及びメチル2−メチル−2−{(2R,4S)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ピペリジン−4−イル}プロパノアート(77.0mg)を得た。
【0134】
(実施例1)
((2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{(1S)−4,4,4−トリフルオロ−1−[2−(トリメチルシリル)エチル]ブチル}−4−ピペリジニル)酢酸
【0135】
【化25】

【0136】
段階1
O(3.0mL)中の、中間体2(1.00g、3.32mmol)、4,4,4−トリフルオロブチルアルデヒド(628mg、4.98mmol)、トリメチルシリルアセチレン(920□L、6.64mmol)及びAuBr(72mg、0.166mmol)の溶液を75℃で4時間加熱した。反応混合物を濃縮し、CHCl(2mL)中で溶解させ、フラッシュクロマトグラフィーにより精製し(0−100%EtO/ヘキサン)、無色の油状物質として所望のアセチレン713mg(42%)を得て、MS(ESI+)により確認した:計算値[M+H]508.2、実測値508.2。
【0137】
段階2
EtOH(10mL)中の段階1からのアセチレン(713mg、1.40mmol)の溶液に、PtO(200mg、0.881mmol)を添加した。60psi H下で18時間後、反応混合物をCeliteでろ過し、濃縮した。粗製油状物質をフラッシュクロマトグラフィーにより精製し(0−50%EtO/ヘキサン)、無色の油状物質として飽和シランピペリジンメチルエステル88mg(12%)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]512.2、実測値512.2。
【0138】
段階3
THF(0.8mL)、MeOH(0.2mL)及び水(0.2mL)中の段階2からのピペリジンメチルエステル(88mg、0.172mmol)の溶液に、LiOH(4.9mg、0.21mmol)を添加した。室温で16時間後、反応混合物を1N HCl(0.3mL)で処理した。溶液を濃縮し、逆相HPLCにより精製し(0.05%TFA含有25−100%CHCN/HO)、((2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{(1S)−4,4,4−トリフルオロ−1−[2−(トリメチルシリル)エチル]ブチル}−4−ピペリジニル)酢酸TFA塩77mg(73%)を白色粉末として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]498.2、実測値498.2。H NMR(600MHz,CDOD)δ−0.15(m,2H)、−0.05(s,9H)、1.17(m,1H)、1.65(m,1H)、1.95(m,1H),2.17(sextet(六重線)、4H,J=15.0)、2.33(m,3H)、3.42(t,1H,J=11.8)、3.60(d,1H,J=11.7)、4.00,(dd,1H,J=10.9,3.1)、4.92(d,2H,J=11.5)、7.52(d,2H,J=8.1)、7.78(d,2H,J=8.1)、7.86(s,2H)、7.92(d,2H,J=7.8)。
【0139】
(実施例2−13)
段階1で中間体2及び適切なアルデヒド及びアセチレンを用いて実施例1における手順により実施例2−13を調製した。
【0140】
【表3】


【0141】
(実施例14)
2−メチル−2−((2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{(1S)−4,4,4−トリフルオロ−1−[2−(トリメチルシリル)エチル]ブチル}ピペリジン−4−イル)プロパン酸
【0142】
【化26】

【0143】
段階1
O(0.4mL)中の、中間体4(67mg、0.203mmol)、4,4,4−トリフルオロブチルアルデヒド(90.1mg、0.715mmol)、トリメチルシリルアセチレン(77mg、0.784mmol)及びAuBr(15.1mg、0.035mmol)の溶液を75℃で2時間加熱した。反応混合物をCHClで希釈した。有機層をNaHCO(飽和)で洗浄し、乾燥させ、濃縮し、粗生成物を得て、これを逆相HPLCにより精製し、TFA塩(80.6mg)を得た。塩基抽出後、反応により所望のアセチレン(54.8mg、50%)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]536.2、実測値536.0。
【0144】
段階2
EtOH(1mL)中の段階1からのアセチレン(54.8mg、0.102mmol)の溶液に、10%Pd/C(36.2mg)を添加した。得られた混合物にr.t.で水素添加した。20時間後、混合物をMeOHで希釈し、Celiteを通じてろ過した。ろ液を濃縮し、粗製飽和シランジメチルピペリジンエステル(77.5mg)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]540.3、実測値540.1。この粗生成物を直接加水分解した。
【0145】
段階3
THF(0.3mL)、MeOH(0.2mL)及び水(0.2mL)中の段階2からの粗製ジメチルピペリジンエステル(77.5mg、0.144mmol)の溶液に、LiOH(8.0mg、0.334mmol)を添加した。マイクロ波下で120℃で10分間、160℃で20分間、連続してバイアルを加熱した。次いで、反応混合物を1N HClでpH〜4まで酸性化し、逆相HPLCにより精製し(0.05%TFA含有25−100%CHCN/HO)、2−メチル−2−((2S,4R)−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{(1S)−4,4,4−トリフルオロ−1−[2−(トリメチルシリル)エチル]ブチル}ピペリジン−4−イル)プロパン酸TFA塩16.3mg(18%)を白色固体として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]526.2、実測値526.0。H NMR(600MHz,CDOD)δ0.04(9H,s)、0.01−0.10(1H,m)、0.44(1H,dt,J=4.4,14.0)、1.17(3H,s)、1.18(3H,s)、1.40−1.51(1H,m)、1.85−2.38(10H,m)、2.75(1H,br s)、3.15−3.28(1H,m)、3.71(1H,d,J=9.4)、4.73(1H,br s)、7.71(2H,br s)、7.83(2H,d,J=7.6)。
【0146】
(実施例15)
段階1で中間体4及び4−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒドを用いて実施例14の手順により実施例15を調製した。
【0147】
【表4】

【0148】
(実施例16)
2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{4,4,4−トリフルオロ−1−[2−トリメチルシリル)エチル]ブチル}−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル)酢酸
【0149】
【化27】

段階1:4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン
【0150】
【化28】

EtOH(110mL)中の、2−クロロレピジン(4.67g、26.3mmol)、4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(5.0g、26.3mmol)及びNaCO(13.94g、132mmol)の脱気混合物に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.52g、1.315mmol)を添加した。反応混合物を4時間還流し、次いで室温に冷却し、EtOAc(200mL)で希釈し、Celiteパッドを通じてろ過し、EtOAc(25mL)で洗浄した。溶液を濃縮し、0−50%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより精製し、橙色の油状物質として所望のアリールキノリン7.56g(定量的収率)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]288.3、実測値288.0。
【0151】
段階2:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]キノリン−4−イル}アセテート
【0152】
【化29】

内部温度が−70℃以下であるようにして、THF(45mL)中のLDA(110mmol、ジイソプロピルアミン15.5mLに2.5Mブチルリチウム44mLを添加することにより調製)の冷却(−78℃)溶液に、THF(50mL)中の段階1からのアリールキノリン(10.52g、36.6mmol)を滴下添加し、次いでTMEDA(6.6mL)を添加した。−78℃で1時間撹拌した後、炭酸ジメチル(9.25mL、110mmol)を滴下添加した。内部温度が−10℃に到達したら、反応物を冷却槽で0℃まで温めた。0℃で1時間後、NHCl飽和水溶液(25mL)で反応を停止させ、真空濃縮した。残留物をHO(25mL)で希釈し、EtOAc(2x50mL)で抽出した。合わせた抽出物を塩水(25mL)で洗浄し、次いでNaSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。10−30%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより残留物を精製し、黄色のろう様固体として所望のメチルエステル8.90g(70%)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]346.3、実測値346.0。
【0153】
段階3:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル}アセテート
【0154】
【化30】

MeOH(47mL)及び酢酸(3mL)中の段階2からのメチルエステル(3.15g、9.12mmol)及びPtO(621mg、2.74mmol)の混合物をParr(R)振盪器にて50psi H下で1時間、還元した。ろ過により触媒を除去し、ろ液を真空蒸発させた。NaHCO(水溶液)での処理及びDCMへの抽出により遊離塩基を得た。合わせた抽出物を塩水で洗浄し、次いで乾燥させ(NaSO)、ろ過し、蒸発させた。2%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより残留物を精製し、黄色のろう様固体として所望のテトラヒドロキノリン1.62g(51%)を得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]350.4、実測値350.0。
【0155】
段階4:メチル(2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{4,4,4−トリフルオロ−1−(トリメチルシリル)エチニル]ブチル}−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル)アセテート
【0156】
【化31】

O(1mL)中の、段階3からのテトラヒドロキノリン(253mg、0.72mmol)、4,4,4−トリフルオロブチルアルデヒド(365mg、2.70mmol)、トリメチルシリルアセチレン(401μL、6.64mmol)及びAuBr(95mg、0.22mmol)の溶液を75℃で一晩加熱した。反応混合物をアルデヒド、アセチレン及び触媒とともにさらに2回再度同じように加熱し、75℃でさらに30時間加熱した。反応混合物をEtOAcで希釈し、Celiteパッドを通じてろ過し、EtOAcで洗浄した。溶液を濃縮し、11−13%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより精製し、所望のトリメチルシリルアセチレン250mg(62%)を無色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]556.6、実測値556.0。
【0157】
段階5:メチル(2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{4,4,4−トリフルオロ−1−[2−(トリメチルシリル)エチル]ブチル}−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル)アセテート
【0158】
【化32】

EtOH(3.25mL)中の段階4からのトリメチルシリルアセチレン(250mg、0.45mmol)の溶液に、10wt%Pd/C(96mg、0.090mmol)を添加し、1atm H下で室温で22時間撹拌した。反応混合物をDCM(5mL)で希釈し、Celiteでろ過し、同時に、さらなるDCM(5mL)、次いでMeOH(5mL)ですすいだ。溶液を濃縮し、5%MeOH/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより残留物を精製し、シランメチルエステル240mg(81%)を無色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]560.7、実測値560.0。
【0159】
段階6:2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−{(1S)−4,4,4−トリフルオロ−1−[2−トリメチルシリル)エチル]ブチル}−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル)酢酸
【0160】
【化33】

THF(1.2mL)中の段階5からのシランメチルエステル(240mg、0.43mmol)の溶液に、LiOH水溶液(51mg、1.2mL HO中2.14mmol)を添加し、反応混合物を55℃で一晩撹拌した。反応混合物をDCM(2mL)で希釈し、1M HCl(3mL)で酸性化し、DCM(3x5mL)で抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、濃縮し、20−55%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより精製し、所望の酸87mg(37%)を黄褐色の固体として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]546.6、実測値546.0。H NMR(600MHz,CDCl)δ:−0.12(9H,四重線,J=4.9)、0.14(1H,s)、0.33(1H,六重線,J=7.3)、1.45−1.63(4H,m)、1.63−1.75(1H,m)、1.86−1.99(2H,m)、2.19(1H,dd,J=16.2,9.3)、2.35(1H,qd,J=7.6,4.3)、2.85(1H,dd,J=16.2,5.1)、3.24(1H,dt,J=9.2,4.6)、3.35(1H,s)、4.51(1H,dd,J=8.9,5.8)、6.77(1H,m)、6.84(1H,d,J=7.9)、7.02(1H,d,J=7.6)、7.15(1H,四重線,J=5.1)、7.38(2H,d,J=8.1)、7.52(2H,d,J=8.1)。
【0161】
(実施例17)
{2−[4−(フルオロメチル)フェニル]−1−[3−(トリメチルシリル)プロピル]デカヒドロキノリン−4−イル}酢酸
【0162】
【化34】

【0163】
段階1:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]デカヒドロキノリン−4−イル}アセテート
【0164】
【化35】

MeOH(104mL)及び酢酸(13mL)中の実施例16、段階2からのアリールキノリン(8.11g、23.5mmol)及びPtO(1.067g、4.70mmol)の混合物をParr(R)シェーカーで一晩、50psi H下で還元した。次いで、反応混合物をろ過し、真空濃縮した。NaHCO飽和水溶液(50mL)での処理及びDCM(3x75mL)への抽出により遊離塩基を得た。合わせた有機物を塩水(1x25mL)で洗浄し、次いでNaSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。0−10%MeOH/1:1ヘキサン/DCMで溶出するクロマトグラフィーにより残留物を精製し、デカヒドロキノリンジアステレオマーのシス/トランス混合物6.88g(82%)を黄色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]356.4、実測値356.1。
【0165】
段階2:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−[3−(トリメチルシリル)プロプ−2−イン−1−イル]デカヒドロキノリン−4−イル}アセテート
【0166】
【化36】

O中の、デカヒドロキノリンジアステレオマーのシス/トランス混合物(1.20g、3.48mmol)、HO中の37wt%溶液としてのホルムアルデヒド(1.1mL、13.9mmol)、トリメチルシリルアセチレン(963μL、6.95mmol)及びAuBr(455mg、1.04mmol)の溶液を75℃で一晩加熱した。アリコートのLC/MSにより、反応が完了していなかったことが示された。反応混合物にHO中の37wt%溶液としてのホルムアルデヒドの第二の分量(1.1mL、13.9mmol)及びトリメチルシリルアセチレン(963μL、6.95mmol)を入れ、75℃でさらに72時間加熱した。反応混合物をEtOAcで希釈し、Celiteパッドを通じてろ過し、EtOAc(25mL)で洗浄した。溶液を濃縮し、0−20%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより精製し、シス−デカヒドロキノリントリメチルシリルアセチレン413mg(26%)を無色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]466.6、実測値466.1。
【0167】
段階3:メチル{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−[3−(トリメチルシリル)プロピル]デカヒドロキノリン−4−イル}アセテート
【0168】
【化37】

EtOH(3.2mL)中の段階2からのシス−デカヒドロキノリントリメチルシリルアセチレン(413.3mg、0.736mmol)の溶液に、10wt%Pd/C(96mg、0.090mmol)を添加し、1atm H下で24時間、室温で撹拌した。反応混合物をDCM(5mL)で希釈し、Celiteでろ過し、同時に、DCM(5mL)、次いでMeOH(5mL)ですすいだ。溶液を濃縮し、0−15%EtOAc/ヘキサンで溶出するクロマトグラフィーにより残留物を精製し、シランメチルエステル220mg(53%)を無色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]470.7、実測値470.1。
【0169】
段階4:{2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1−[3−(トリメチルシリル)プロピル]デカヒドロキノリン−4−イル}酢酸
【0170】
【化38】

THF(750μL)中の段階3からのシランメチルエステル(220mg、0.468mmol)の溶液に、KOH水溶液(500μL水中、131mg、2.342mmol)を添加し、反応混合物を55℃で一晩撹拌した。次いでMeOH(250μL)を添加し、反応混合物を60℃でさらに48時間加熱した。反応混合物をDCM(2mL)で希釈し、1M HCl(5mL)で酸性化し、DCM(3x5mL)で抽出した。合わせた有機物を塩水(1x5mL)で洗浄し、濃縮し、0−10%MeOH/DCMで溶出するクロマトグラフィーにより精製し、所望の酸87mg(41%)を無色の油状物質として得て、MS(ESI+)で確認した:計算値[M+H]456.6、実測値456.1。H NMR(600MHz,CDCl)δ:−0.10−0.21(9H,m)、−0.036(1H,ddd,J=15.4,10.1,4.5)、0.01−0.02(1H,m)、1.18−1.35(4H,m)、1.35−1.56(4H,m)、1.56−1.72(2H,m)、1.87(2H,dd,J=23.1,12.6)、2.03(1H,d,J=13.9)、2.06−2.24(2H,m)、2.107(1H,s)、2.29(1H,dd,J=15.1,6.0)、2.46(1H,t,J=11.1)、2.71(1H,s)、3.57(1H,d,J=4.8)、7.34−7.79(4H,m)。
【0171】
(実施例18−23)
中間体1の段階1で適切なアリールボロン酸を用いて、実施例1と類似の手順により、実施例18−23を調製した。
【0172】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:
【化39】

又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物(式中、
pは0、1又は2であり;
nは0、1、2又は3であり;
−C(R−Z部分はピペリジン環の3、4又は5位に連結され;
Zは、COH又はテトラゾール環を表し;
各Rは、独立にH又は6個以下の炭素原子の非芳香族炭化水素基を表すか;又は2個のR基がC3−6脂環式基を完成し;
各Rは独立に6個以下の炭素原子の非芳香族炭化水素基を表すか;又は隣接する環炭素原子に連結された2個のR基が7個以下の原子の縮合炭素環を完成し得;
各Rは独立に、ハロゲン、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルキル、0−3個のフッ素置換基を有するC1−6アルコキシ、C2−6アルケニル又はSi(Rを表し;
は、
(i)H;
(ii)Het−A−(Aは結合、CH又は1,4−フェニレンを表し、並びにHetは、ハロゲン、C1−4アルキル、CF、Si(R、C1−4アルコキシ及びC1−4アルコキシカルボニルから選択される3個以下の置換基を有していてもよいか又はハロゲン、C1−4アルキル、Si(R、C1−4アルコキシ又はC1−4アルコキシカルボニルによりそれ自身置換されていてもよいフェニル置換基を有していてもよい、10個以下の環原子の複素環系を表す。);及び
(iii)ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素
から選択され;
は、
(i)H;
(ii)ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素;及び
(iii)CO(Rは、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素を表す。)
から選択され;並びに
各Rは、独立に6個以下の炭素原子の炭化水素基を表し;
ただし、R及びRは両者ともはHを表さず、並びにR及びRの少なくとも1個は置換基としてSi(Rを含む。)。
【請求項2】
−C(R−Z部分がピペリジン環の4位に連結される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
及びRが、それぞれ独立に、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素基を表し;ただし、R及びRの少なくとも1個がSi(Rにより表されるシリル置換基を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
式II:
【化40】

により定義される請求項1に記載の化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物。
【請求項5】
相対的立体化学が式IIA:
【化41】

で示されるとおりである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
式III:
【化42】

により定義される請求項5に記載の化合物及び医薬的に許容可能な該化合物の塩及び水和物(式中、
4aは、ハロゲン、ペルフルオロC1−4アルキル、CN、Si(R、OH、C1−4アルコキシ及びOCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよい12個以下の炭素原子の炭化水素を表し;
は、Si(R、分枝型C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル又は、ハロゲン、C1−4アルキル及びCFから選択される3個以下の置換基を有していてもよいフェニルを表し;
ただし、RがSi(R以外である場合、R4aは少なくとも1個のSi(R置換基を有する。)。
【請求項7】
pが0であり、nが1であり、Rが4位で連結されるCFを表し、並びにR、R及びRが次の表:
【表6】

で示されるとおりである請求項5に記載の化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物。
【請求項8】
pが0であり、nが1であり、Rが4位で連結され、各RがHであり、並びにR、R及びRが次の表:
【表7】

で示されるとおりである請求項5に記載の化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物。
【請求項9】
請求項1に記載の化合物及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項10】
脳でのAβの沈着に関連する疾患の治療又は予防を必要とする患者に、請求項1で定義されるような式Iの化合物又は医薬的に許容可能な該化合物の塩もしくは水和物の治療的有効量を投与することを含む、脳でのAβの沈着に関連する疾患を治療又は予防する方法。

【公表番号】特表2010−513486(P2010−513486A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542823(P2009−542823)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/025639
【国際公開番号】WO2008/085301
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】