説明

シリル置換シクロメタル化遷移金属錯体およびこれを用いた有機電界発光素子

【課題】シリル置換シクロメタル化遷移金属錯体およびこれを用いた有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体およびこれを用いた有機電界発光素子。


(Mは遷移金属、XはC、S、OまたはN、CY1およびCY2は芳香族環または脂肪族環、A−Bは1価のアニオン性の二座キレート配位子、mは1または2。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリル置換シクロメタル化遷移金属錯体およびこれを用いた有機電界発光素子に係り、より詳細には、三重項MLCT(Metal−to−Ligand Charge−Transfer)により青色領域から赤色領域までの光の発光が可能であり、熱安定性に優れたシクロメタル化遷移金属錯体、およびこれを有機膜の形成材料として用いている有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(有機EL素子)は、蛍光性または燐光性有機化合物薄膜(以下、有機膜とも称する)に電流を流すと、電子と正孔とが有機膜で結合することによって光が発生する現象を用いた自発光型表示素子である。有機EL素子は軽量、部品が単純、製作工程が簡単、および高画質で、かつ広視野角を確保できるといった利点を有している。また、有機EL素子は、高色純度および動映像を完璧に具現でき、加えて低消費電力、低電圧駆動といった携帯用電子機器に適した電気的特性を有している。
【0003】
一般的な有機EL素子は、基板上にアノードが形成されており、このアノードの上部にホール輸送層、発光層、電子輸送層、およびカソードが順次に形成されている構造を有している。ここで、ホール輸送層、発光層、及び電子輸送層は、有機化合物を含む有機膜である。前記のような構造を有する有機EL素子の駆動原理は、次の通りである。前記アノードおよびカソード間に電圧を印加すると、アノードから注入されたホールは、ホール輸送層を経て発光層に移動する。一方、電子は、カソードから電子輸送層を経て発光層に注入され、発光層領域でキャリアが再結合して励起子を生成する。この励起子が放射減衰することにより、物質のバンドギャップに相当する波長の光が放出される。
【0004】
前記有機EL素子の発光層の形成材料は、その発光メカニズムにより一重項状態の励起子を利用する蛍光物質と、三重項状態を利用する燐光物質とに区別される。発光層は、このような蛍光物質もしくは燐光物質を単独で形成されるか、または蛍光物質もしくは燐光物質を適切なホスト物質にドーピングすることにより形成され、電子励起が起こると、ホストに一重項励起子および三重項励起子が形成される。この時、一重項励起子と三重項励起子との統計的な生成比率は1:3である。
【0005】
発光層の形成材料として蛍光物質を用いた有機EL素子は、ホストで生成された三重項励起子が浪費されるという不利な点を有する。一方、発光層の形成材料として燐光物質を用いた有機EL素子は、一重項励起子および三重項励起子の両方を使用できるので、内部量子効率が100%に到達可能であるという利点を有している(非特許文献1参照)。したがって、燐光物質で形成された発光層は、蛍光物質で形成された発光層よりもはるかに高い発光効率を有しうる。
【0006】
発光層を形成する有機分子にIr、Pt、Rh、Pdのような重金属を導入すれば、重金属原子の効果により発生するスピン軌道カップリングが起こり、三重項状態と一重項状態とが混在するようになる。これによって禁制遷移が誘発され、常温でも効果的に燐光が発生しうる。
【0007】
最近、内部量子効率が100%に至る燐光を用いた高効率の緑色領域の物質、赤色領域の物質が開発された。
【0008】
燐光を用いた高効率の発光材料として、Ir、Ptなどの遷移金属を含む多様な物質が発表されている。しかし、高効率のフルカラーディスプレイや低消費電力の白色発光の応用を実現するために要求される特性を満足させる物質は、緑色領域または赤色領域に限定されており、青色領域の適切な燐光物質が開発されていないため、燐光性のフルカラーディスプレイの開発に障害となっている。
【0009】
前記の問題点を解決するために青色領域で発光する物質が開発されている(特許文献1および特許文献2参照)。また、分子配列を変形することによってHOMO−LUMOのエネルギー差を大きくできる、バルキーな官能基や配位子場強度の大きい官能基(例:シアノ基)を導入した有機金属錯体が開発されている(非特許文献2参照)。
【0010】
また、特許文献3には、窒素原子と炭素原子とを含むシクロメタル化遷移金属錯体およびこれを含む有機EL素子が開示されており、特許文献4には、フェニルキノリネート配位子を含む燐光有機金属錯体が開示されている。
【特許文献1】国際公開第02/15645A1号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0064681A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0134984号明細書
【特許文献4】米国特許第6,835,469号明細書
【非特許文献1】Baldo,et al.、Nature、Vol.395、151〜154、1998
【非特許文献2】Mat.Res.Soc.Symp.Proc.708、119、2002;3rd Chitose International Forum on Photonics SCIEnce and Technology、 Chitose、 Japan、 6〜8、 October、 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記の燐光物質は、色純度や発光効率、寿命、熱安定性などの面で満足できるほどの物性を示していない実情である。
【0012】
本発明は、かかる現状を鑑みてなされたものであり、解決しようとする第一の課題は、三重項MLCTにより青色領域から赤色領域に至る光を効率的に発光でき、熱安定性に優れたシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を提供することである。
【0013】
本発明が解決しようとする第二の課題は、青色領域から赤色領域に至る光を効率的に発光でき、熱安定性に優れた有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は、下記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を提供する。
【0015】
【化1】

【0016】
前記化学式1中、Mは遷移金属であり、Xは、C、S、O、またはNであり、CY1およびCY2は、芳香環、縮合環、または脂肪族環であり、A−Bは、1価のアニオン性の二座キレート配位子であり、CY1、CY2、およびA−Bのうち少なくとも一つは、SiRで表されるシリル基を有し、この際、R、R、およびRは、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、またはアリールオキシ基であり、mは1または2である。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、前記化学式1中の、下記化学式2で表される配位子は、下記化学式3で表される基からなる群より選択されるいずれか1つでありうる。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3−1】

【0020】
【化3−2】

【0021】
前記化学式3中、Zは、S、O、またはNRであり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、およびアミノ基からなる群より選択されるいずれか1つでありうる。
【0022】
本発明の他の実施形態によれば、前記化学式1中、A−Bは、下記式のうちいずれか一つでありうる。
【0023】
【化4】

【0024】
前記化学式4中、Yは、C、S、O、またはNであり、Rは、アルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基であり、この際、アリールアルキル基またはアリールオキシ基中の芳香環は、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基で置換されていてもよい。
【0025】
本発明はまた、一対の電極間に有機膜を含む有機EL素子において、前記有機膜が前記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を含むことを特徴とする有機EL素子を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、3重項MLCTにより青色から赤色領域までの光を効率的に発光できる。このようなシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、有機EL素子の有機膜の形成時に利用可能であり、高効率の燐光材料であって、400〜650nmの波長領域で発光するだけでなく、緑色発光物質または赤色発光物質と共に使用して白色光を発光することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0028】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、錯体中の遷移金属の主となる配位子および補助配位子の少なくとも一つに、シリル置換基を備えることによって、熱安定性に優れ、高性能の効率的な青色発光が可能となる。
【0029】
本発明のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、下記化学式1で表される構造を有する。
【0030】
【化5】

【0031】
前記化学式1中、Mは遷移金属であり、Xは、C、S、O、またはNであり、CY1およびCY2は、芳香環、縮合環または脂肪族環であり、A−Bは、1価のアニオン性の二座キレート配位子であり、CY1、CY2、およびA−Bのうち少なくとも一つは、SiRで表されるシリル基を有し、この際、R、R、およびRは、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、またはアリールオキシ基であり、mは1または2である。
【0032】
前記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、金属に配位された配位子のうちの少なくとも一つが、シリル基を有することにその特徴がある。シリル基が存在することによって、有機EL素子の効率が大きく向上し、かつ熱的安定性が増大する効果がある。
【0033】
前記化学式1中の、下記化学式2で表される配位子は、下記化学式3で表される基からなる群より選択されるいずれか1つでありうる。
【0034】
【化6】

【0035】
【化7−1】

【0036】
【化7−2】

【0037】
前記化学式3中、Zは、S、O、またはNRであり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、およびアミノ基からなる群より選択されるいずれか1つでありうる。
【0038】
前記化学式1中のA−Bは、下記化学式4で表される配位子のいずれか1つでありうる。
【0039】
【化8】

【0040】
前記化学式4中、Yは、C、S、O、またはNであり、Rは、アルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基であり、この際、アリールアルキル基またはアリールオキシ基中の芳香環は、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基で置換されていてもよい。
【0041】
前記化学式1のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体のうち、下記化学式5で表される化合物が望ましい。
【0042】
【化9】

【0043】
前記化学式1中、遷移金属Mは、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、またはAuが望ましく、Irがより望ましい。
【0044】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、400nmないし650nmの波長領域で発光特性を有する。
【0045】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、例えば、MがIrである場合、シクロメタル化部分を提供する出発物質である[Ir((CY1)−(CY2))Cl]誘導体を利用して、ワッツらにより報告された方法(F.O.Garces,R.J.Watts、Inorg.Chem.1988、(35)、2450)によって合成可能である。
【0046】
以下、本発明の化学式1で表される化合物の一実施形態である、アセチルアセトネート配位子を有するシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体の合成経路を説明する。
【0047】
下記反応式1を参照すれば、CY1にシリル置換基を有する[Ir((CY1)−(CY2))Cl]誘導体および2,4−ペンタンジオンを、THFとメチルアルコールとの混合溶媒(体積比 4:1)中、50℃の温度で8時間反応させることによって、本発明のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を合成できる。
【0048】
【化10】

【0049】
前記反応式1中、X、R、R、R、CY1、およびCY2は、前記化学式1で定義した通りである。
【0050】
本発明の有機EL素子は、本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を利用して有機膜、特に、発光層を形成して製作される。この際、前記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、発光層の形成物質である燐光ドーパント材料として非常に有用であり、青色波長領域で優れた発光特性を示す。
【0051】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を燐光ドーパントとして使用する場合、有機膜は、高分子ホスト、高分子ホストと低分子ホストとの混合物、低分子ホスト、および非発光高分子マトリックスからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含みうる。ここで、高分子ホスト、低分子ホスト、および非発光高分子マトリックスとしては、有機EL素子用の発光層形成時に一般的に使われるものであれば、いずれも使用可能である。高分子ホストの例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリフルオレンなどがあり、低分子ホストの例としては、4,4’−ビス(カルバゾール)ビフェニル(CBP)、4,4’−ビス[9−(3,6−ビフェニルカルバゾリル)]−1,1’−ビフェニル、9,10−ビス[2’,7’−ジ(t−ブチル)−9’,9”−スピロビフルオレニル]アントラセン、テトラフルオレンなどがあり、非発光高分子マトリックスの例としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネートなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体の含量は、発光層形成材料の総質量100質量部を基準として、1ないし30質量部であることが望ましい。そして、このようなシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を発光層に導入しようとする場合には、真空蒸着法、スパッタリング法、プリンティング法、コーティング法、インクジェット方法、電子ビームを用いた方法などを利用できる。
【0053】
また、本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、緑色発光物質または赤色発光物質と共に使用して白色光を発光できる。
【0054】
有機膜の厚さは、30ないし100nmであることが望ましい。ここで、前記有機膜とは、発光層以外に電子輸送層、正孔輸送層のように有機EL素子で一対の電極の間に形成される、有機化合物から形成される膜を意味する。このような有機EL素子は、一般的に知られているように、正極/発光層/負極、正極/バッファ層/発光層/負極、正極/正孔輸送層/発光層/負極、正極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/負極、正極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/負極、正極/バッファ層/正孔輸送層/発光層/正孔遮断層/負極などの構造を有しうるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記バッファ層の素材としては、特に制限はなく一般的に使われる物質を使用でき、望ましくは、フタロシアニン銅、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、またはこれらの誘導体であるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
前記正孔輸送層の素材としては、特に制限はなく一般的に使われる物質を使用でき、望ましくは、ポリトリフェニルアミンであるが、これに限定されるものではない。
【0057】
前記電子輸送層の素材としては、特に制限はなく一般的に使われる物質を使用でき、望ましくは、ポリオキサジアゾールであるが、これに限定されるものではない。
【0058】
前記正孔遮断層の素材としては、特に制限はなく一般的に使われる物質を使用でき、望ましくは、TAZ、BCP、TBAP、LiF、BaF、またはMgFであるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明の有機EL素子の製造は、特別の装置や方法を必要とせず、通常の発光材料を用いた有機EL素子の製造方法によって製造可能である。
【0060】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、400ないし650nmの波長領域で発光できる。このようなシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を用いた発光ダイオードは、フルカラー表示用の光源照明、バックライト、屋外掲示板、光通信、内部装飾などに使用可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明が下記実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(参考例1.TMS(py)FCNppyダイマーの合成)
【0063】
【化11】

【0064】
一般的な鈴木カップリング(Suzuki Coupling)を経由して合成した2−(2,4-ジフルオロ−3−シアノフェニル)−4−トリメチルシリルピリジンとIrCl・nHOとを用いて、薄い緑色の粉末であるTMS(py)FCNppyダイマーを合成した。この時、合成法は、J.Am.Che.Soc.、1984、106、6647〜6653を参考にした。
【0065】
(参考例2.FCNppyダイマーの合成)
【0066】
【化12】

【0067】
一般的な鈴木カップリングを経由して合成した2−(2,4-ジフルオロ−3−シアノフェニル)ピリジン)単量体と、IrCl・nHOとを用いて薄い黄色粉末であるFCNppyダイマーを合成した。この時、合成法は、J.Am.Che.Soc.、1984、106、6647〜6653を参考にした。
【0068】
(実施例1.下記化学式6の化合物([(FCNpTMSpy)Ir(PIC)])の合成)
【0069】
【化13】

【0070】
温度計、磁気攪拌器、および還流コンデンサが装着された100mlの2口フラスコを用いて、窒素雰囲気下で、参考例1で製造した[(TMS(py)FCNppy)IrCl]0.16g(0.1mmol)とピリジン−2−カルボン酸0.030g(0.25mmol)とをTHFに溶解させ、50℃で15時間還流させた。反応終了後、室温に冷却し、溶媒全量を真空下で除去した。残った固体を、クロロホルムに溶解させろ過した。ろ液をカラムクロマトグラフィを用いて精製した。溶離液は、クロロホルムとメタノール(体積比 10:1)との混合溶液を使用した。このようにして黄色の表題化合物を得た(収率:80%)。合成された化合物は、H−NMRおよびMS(図1A)で同定した。
【0071】
(実施例2.下記化学式7の化合物([(FCNpTMSpy)Ir(acac)])の合成)
【0072】
【化14】

【0073】
ピリジン−3−カルボン酸の代わりに2,4−ペンタンジオン0.025g(0.25mmol)を使用し、THFの代わりにTHFとMeOHとの混合物(体積比 4:1)を溶媒として使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法で、表題化合物0.120g(収率:80%)を純粋な黄色の固体として得た。得られた生成物は、H−NMRおよびMS(図1B)で確認した。
【0074】
(比較例 化学式8の化合物[(FCNppy)IrPIC]の合成)
【0075】
【化15】

【0076】
2−(2,4−ジフルオロ−3−シアノフェニル)−4−トリメチルシリルピリジンの代わりに2−(2,4−ジフルオロ−3−シアノフェニル)ピリジン0.131g(0.1mmol)を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で、表題化合物0.118g(収率:80%)を純粋な黄色の固体として得た。
【0077】
前記実施例1〜2、および比較例によって得た化合物の発光特性は、下記の方法により調べた。
【0078】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)94重量部と前記実施例1〜2および比較例により合成した化合物6重量部とを溶媒に溶かし、スピンコーティングによりフィルムを製造して、フィルム状態での発光特性を調べた。
【0079】
前記実施例及び比較例で得た化合物に対する最大発光波長(λmax)、色座標(CIE)、分解温度およびHOMOレベルを下記表1に要約した。
【0080】
【表1】

【0081】
前記実施例1〜2および比較例で合成した化合物は、下記の構造を有し、発光面積は9mmである多層型の有機EL素子を製造するために用いられた。
【0082】
【表2】

【0083】
素子の製作方法は、下記の通りである。
【0084】
あらかじめ洗浄されたITOに、PEDOT:PSSを40nmの厚さで蒸着させた後、PS 24%、mCP 72%、およびドーパント 6%を混合して、40nmの厚さにコーティングした。ここに熱蒸着方式で正孔遮断層(HBL)としてBAlqを40nmの厚さで、電子輸送層(ETL)としてLiFを2nmの厚さで、最後に正極としてAlを200nmの厚さで、それぞれコーティングした。
【0085】
デバイス性能評価結果(最大発光波長、色座標、最大発光効率(η)、および外部発光効率(ηex))を、表3にまとめた。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示したように、実施例1の場合、比較例と比較すると色座標はほぼ同じであるが、発光効率が約20%程度上昇する。また、実施例2の場合(配位子の1つがアセチルアセトナート)は、実施例1の場合(配位子の1つがピコリネート)より色座標のy値が上昇するが、発光効率がはるかに良く、熱的に安定したことが分かる(表1参照)。
【0088】
前述のように、本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体は、優れた燐光特性を有するドーパントを形成し、青色燐光材料として適しているということが分かる。また、多様な配位子を導入することによって、赤色、緑色、および青色のフルカラーの具現が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体およびこれを用いた有機EL素子は、有機EL素子の関連技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1A】本発明の実施例1により合成された化合物の質量スペクトルである。
【図1B】本発明の実施例2により合成された化合物の質量スペクトルである。
【図2A】本発明の実施例1により合成された化合物のTGA−DSCのグラフである。
【図2B】本発明の実施例2により合成された化合物のTGA−DSCのグラフである。
【図3】実施例1、2、および比較例1により合成された化合物の光ルミネセンス(PL)スペクトルである。
【図4】実施例1、2、および比較例1により合成された化合物の電界発光(EL)スペクトルである。
【図5】実施例1、2、および比較例1により合成された化合物の発光効率を示したグラフである。
【図6A】実施例1、2、および比較例1により合成された化合物を用いた有機EL素子の、電圧−電流密度特性を示したグラフである。
【図6B】実施例1、2、および比較例1により合成された化合物を用いた有機EL素子の、電圧−輝度特性を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体:
【化1】

前記化学式1中、
Mは、遷移金属であり、
Xは、C、S、O、またはNであり、
CY1およびCY2は、芳香環、縮合環、または脂肪族環であり、
A−Bは、1価のアニオン性の二座キレート配位子であり、
CY1、CY2、およびA−Bのうち少なくとも一つは、SiRで表されるシリル基を有し、この際、R、R、およびRは、それぞれ独立してアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、またはアリールオキシ基であり、
mは、1または2である。
【請求項2】
前記化学式1中の、下記化学式2で表される配位子は、下記化学式3で表される配位子からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項1に記載のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体:
【化2】

【化3−1】

【化3−2】

前記化学式3中、
Zは、S、O、またはNRであり、
、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、およびアミノ基からなる群より選択されるいずれか一つである。
【請求項3】
前記二座キレート配位子A−Bは、下記化学式4で表される配位子から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載のシリル置換されたシクロメタル化遷移金属錯体:
【化4】

前記式中、Yは、C、S、O、またはNであり、
Rは、アルキル基、アリールアルキル基、アルコキシ基、またはアリールオキシ基であり、この際、アリールアルキル基またはアリールオキシ基中の芳香環は、ハロゲン原子、CF基、CN基、シリル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基で置換されていてもよい。
【請求項4】
前記MがRu、Rh、Os、Ir、Pt、またはAuであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体。
【請求項5】
前記MがIrであることを特徴とする、請求項4に記載のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体。
【請求項6】
前記化学式1で表されるシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体が、下記化学式5で表される化合物のうちいずれか1つであることを特徴とする、請求項1に記載のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体。
【化5】

【請求項7】
一対の電極の間に有機膜を含む有機電界発光素子において、
前記有機膜が、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のシリル置換シクロメタル化遷移金属錯体を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項8】
前記有機膜が高分子ホスト、高分子ホストと低分子ホストとの混合物、低分子ホスト、および非発光高分子マトリックスからなる群より選択される少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記有機膜が緑色発光物質または赤色発光物質をさらに含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の有機電界発光素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2006−290891(P2006−290891A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110282(P2006−110282)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】