説明

シリンジ

【課題】注射針の格納機能を備えたシリンジにおいて、良好な組付作業性を確保し生産性に優れたシリンジを提供すること。
【解決手段】薬液を注射するために操作される押子32を含むシリンジ本体1Cと、注射針100Aを格納する筒状の針カバー11Bと、圧縮された状態で針カバー11Bに保持されたスプリング18と、を備えたシリンジ1Bであって、針カバー11Bは、スプリング18の両端にそれぞれ当接して位置を規制する一対の座部153A、155Aを有していると共に、注射後に押子32がさらに押し込まれたときに座部155Aに変形を生じてスプリング18の規制を解除するように構成され、規制が解除されたスプリング18は、シリンジ本体1Cに当接し、これにより針カバー11Bを付勢して注射針100Aが格納される位置まで針カバー11Bを移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針の格納機能を備えたシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
病院等の医療の現場では、様々な種類のシリンジが医療行為に活用されている。最近では、プラスチック製のディスポーザブルタイプのシリンジが主流となっている。このようなシリンジとしては、取り外し可能なキャップを注射針に被せたシリンジが最も一般的である。注射を行うまで注射針にキャップを取り付けておけば、針刺し事故によるけが等を未然に回避できる。また、注射の後、注射針にキャップを被せれば、シリンジを廃棄する際の針刺し事故等を回避できる。特に、注射の後では、患者が感染しているウィルス等によって注射針が汚染されているおそれがあるため、針刺し事故を確実に回避する必要がある。
【0003】
そこで、近年、注射後の針刺し事故等をより確実に防止できるように注射針(ニードル)の自動格納機能を備えたシリンジが提案されている。例えば、圧縮状態のコイルスプリングによって後退側に付勢された針保持部材と、針保持部材の後退を規制する規制部材と、が設けられたシリンジが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。これらのシリンジでは、注射後に押子(注射ピストン)をさらに押し込むと規制部材が変形あるいは変位して規制が解除され、針保持部材が後退して注射針が格納される。また、例えば、後退側に付勢された針保持部材と、針保持部材の後退を規制するラッチ機構と、を有するシリンジの提案もある(例えば、特許文献3参照。)。このシリンジでは、注射完了時にラッチ機構が解除され、これにより、針保持部材が後退して注射針が格納される。
【0004】
しかしながら、上記従来の注射針の自動格納機能を備えたシリンジでは、次のような問題がある。すなわち、注射針を保持する針保持部材がスプリングによって付勢された状態であるため、針保持部材の組み付けに当たっては、スプリングを徐々に圧縮させていきながら組み付け作業を行う必要があり、良好な組付作業性を実現できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−142204号公報
【特許文献2】特開平5−337180号公報
【特許文献3】特表2008−532657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、注射針の格納機能を備えたシリンジにおいて、良好な組付作業性を確保し生産性に優れたシリンジを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、注射針、薬液を収容する液室、及びこの液室に収容された薬液を前記注射針から注射するために所定方向に操作される操作部、を含むシリンジ本体と、
前記注射針を格納する筒状の針カバーと、
前記注射針の軸方向に沿って圧縮された状態で前記針カバーに保持された弾性部材と、を備え、
前記針カバーは、前記弾性部材の前記軸方向の両端にそれぞれ当接して位置を規制する一対の座部を有し、当該一対の座部の間隙に前記弾性部材を保持していると共に、
注射が終了した後で前記操作部が前記所定方向に操作されたときに前記一対の座部のうちのいずれか一方の座部に変形を生じて前記弾性部材の一方の端部の位置的な規制を解除するように構成され、
前記弾性部材は、前記一方の座部の変形に応じて前記一方の端部が前記シリンジ本体側に当接し、これにより前記針カバーを付勢して前記注射針が格納される位置まで該針カバーを移動させるシリンジにある(請求項1)。
【0008】
本発明の第2の態様は、薬液が充填された有底筒状の薬液容器と、
前記薬液容器の筒方向に移動可能な状態で該薬液容器の開口部を封止する封止部材と、
該封止部材を前記薬液容器に押し込み可能な状態で、該封止部材に取り付けられる針収容部と、を備え、
該針収容部は、一方の端部から注射針を突出させると共に、他方の端部から穿孔針を突出させる略円柱状の保持部材と、
有底の第1の中空部を有し、前記注射針の軸方向に当たる前記第1の中空部の開口方向に沿って底側から延設されていると共に前記保持部材の外周側面に外接する少なくとも2本以上の柱状部により該保持部材を把持する第1のスライダ部が設けられていると共に、前記軸方向における2カ所に配設された一対の座部に前記軸方向の両端位置を規制されて圧縮された弾性部材を保持する第1のホルダ部材と、
有底の第2の中空部を有し、前記軸方向に当たる前記第2の中空部の開口方向に沿って底側から延設されていると共に前記保持部材の外周側面に外接する少なくとも2本以上の柱状部により該保持部材を把持する第2のスライダ部、及び底側の端部に前記封止部材に対する取付部が延設された第2のホルダ部材と、を含み、
前記第1及び第2のホルダ部材は、前記保持部材を把持する前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記軸方向において他方のスライダ部の柱状部と互いに重複していない状態において、前記保持部材の回りに相対的に回転可能であると共に、
前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記保持部材の周りに互い違いに配置される状態において、何れか一方のホルダ部材の中空部に他方のホルダ部材が挿入されていくことで軸方向に縮小可能である一方、前記第1及び第2のスライダ部の柱状部の先端面が他方のスライダ部の柱状部の先端面と対面する状態において前記軸方向に縮小不可能な状態となり、
前記保持部材を保持する前記第1及び第2のホルダ部材は、前記軸方向に縮小されたとき、前記封止部材を貫通して前記薬液容器の内部に前記穿孔針を突出させると共に前記注射針を外部に突出させ、
注射の終了後に前記軸方向にさらに縮小されたとき、前記第1のホルダ部材が備える前記一対の座部のうちのいずれか一方の座部に変形を生じて前記弾性部材の一方の端部の位置的な規制を解除するように構成され、
前記弾性部材は、前記一方の座部の変形に応じて前記一方の端部が前記第2のホルダ部材に直接あるいは間接的に当接し、これにより前記注射針が格納されるように前記第1及び第2のホルダ部材を前記軸方向に伸張させるシリンジにある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシリンジでは、前記針カバーあるいは前記第1のホルダ部材のみによって予め圧縮された前記弾性部材が保持されている。前記シリンジの組付作業においては、予め前記弾性部材を組み付けた前記針カバーあるいは前記第1のホルダ部材を取り扱いできるので、他の部品に対する組付作業を行いながら前記弾性部材を弾性変形させていく必要がない。それ故、本発明に係るシリンジでは、前記注射針の格納機能を実現するために必要な前記弾性部材に起因して組付作業の効率が低下するおそれが少なくなっている。
【0010】
以上のように、本発明に係るシリンジは、組付作業の効率低下を招来することなく前記注射針の格納機能が実現された優れた特性のシリンジである。組付作業の効率の低下を抑制できれば、製品コストの上昇を回避できコスト的に有利なシリンジを提供できる。
【0011】
本発明の好適な一態様のシリンジにおける前記一方の座部は、前記針カバーあるいは前記第1のホルダ部材の内周側に突出する略ヘアピン形状の屈曲部により形成されていると共に、該屈曲部が真っ直ぐに近づくように延びて変形し、
前記弾性部材は、この変形に応じて前記一方の端部の位置的な規制が解除される(請求項2、請求項5)。
この場合には、前記屈曲部が引き延ばされて真っ直ぐに近づくという極めて単純な動作を契機として前記注射針の格納を実現できる。
【0012】
本発明の好適な一態様のシリンジにおける前記一方の座部は、注射が終了するまでの間、前記屈曲部の保持状態を維持すると共に、注射の終了後に前記操作部が前記所定方向に操作されたときに当該保持状態を解除するラッチ機構を備えている(請求項3、請求項6)。
この場合には、注射行為が完了するまでの間、前記ラッチ機構の作用により前記弾性部材の圧縮状態を確実性高く保持できる。
【0013】
本発明の前記第2の態様のシリンジでは、前記第1及び第2のホルダ部材の相対回転位置に応じて前記針収容部が軸方向に縮小可能な状態と、縮小不可能な状態と、を切り換えできる。軸方向に縮小不可能な状態では、一方のホルダ部材の前記柱状部の先端面が他方のホルダ部材の前記柱状部の先端面と対面する状態となり、軸方向の縮小が確実性高く規制される。この状態であれば、前記注射針が外部に向けて不用意に突出することがないため、針刺し事故の発生を確実性高く回避できる。
【0014】
注射を実施するに当たっては、一方のホルダ部材を他方のホルダ部材に押し込むようにして前記針収容部を軸方向に縮小すれば、前記薬液容器側の後端から前記穿孔針を突出させると共に、その先端側から前記注射針を外部に突出させることができる。前記穿孔針は前記封止部材を貫いて前記薬液容器の内部に到達する。この状態で、前記針収容部全体を前記薬液容器に押し込めば、前記薬液容器の内部で前記封止部材を前進させ、その前進に応じて前記注射針から薬液を注射できる。
【0015】
注射を終えた後で前記第1及び第2のホルダ部材を軸方向にさらに縮小させれば、前記弾性部材の弾性復帰に応じて前記第1及び第2のホルダ部材の軸方向の伸張を生じさせ、注射針を格納できる。その後、前記第1及び第2のホルダ部材を相対回転させれば、一方のホルダ部材の前記柱状部の先端面が他方のホルダ部材の前記柱状部の先端面と対面する状態を設定でき、軸方向に縮小不可能な状態を再設定することも可能である。
【0016】
本発明の好適な前記第2の態様のシリンジが備える針収容部は、注射後において前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記軸方向において他方のスライダ部の柱状部と互いに重複しない位置まで上記第1及び第2のホルダ部材を前記軸方向に伸張させた後、前記第1及び第2のホルダ部材を相対的に回転させることで前記軸方向に縮小不可能な状態を再設定可能なように構成され、
前記弾性部材は、バネ用線材がコイル状に巻回されたスプリングであって、周方向に捩られて回転方向の回転弾性力を蓄えた状態で前記第1のホルダ部材に保持されていると共に、前記一方の端部の位置的な規制が解除されたとき、前記回転弾性力の全部あるいは一部を蓄えた状態で前記第2のホルダ部材に設けられた座部に当接し、まず、前記第1及び第2のホルダ部材が相対的に回転可能な状態になるまで両者を前記軸方向に伸張させ、その後、前記回転弾性力により前記第1及び第2のホルダ部材を相対的に回転させて前記軸方向に縮小不可能な状態に移行させる(請求項7)。
この場合には、前記注射針の格納動作に伴って、該注射針が再突出不可能な状態を自動的に設定できる。
なお、前記弾性部材としては、上記のコイルスプリングのほか、ゴム材料等の弾性材料よりなる部材や、空気等が圧縮された状態で封入されたアクチュエータ等を適用できる。
【0017】
本発明の好適な前記第2の態様のシリンジは、前記第1及び前記第2のスライダ部に外挿された状態で、前記保持部材の周りの前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を規制する略円筒状の外挿スリーブを備え、
前記針収容部は、製品状態において前記軸方向に縮小不可能な状態にあると共に、注射に際して前記第1及び第2のホルダ部材を前記保持部材を中心として相対的に回転させることで前記軸方向に縮小可能な状態を設定可能であり、
前記外挿スリーブは、製品状態においては前記保持部材を中心とした前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を許容し、かつ、注射後において前記針収容部が前記軸方向に縮小可能な状態から前記軸方向に縮小不可能な状態が再設定されたとき、前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を規制する(請求項8)。
【0018】
この場合には、注射が終わって前記軸方向に縮小不可能な状態を設定した後、前記第1及び第2のホルダ部材の相対回転を規制できる。この相対回転を規制できれば、前記第1及び第2のホルダ部材が軸方向に縮小可能な状態へ逆行するおそれを確実に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における、製品状態のプレフィルドシリンジを示す斜視図。
【図2】実施例1における、注射状態のプレフィルドシリンジを示す斜視図。
【図3】実施例1における、ガスケットで密封されたバイアルの断面構造を示す断面図。
【図4】実施例1における、製品状態の針ユニットの組み付け構造を示す斜視図。
【図5】実施例1における、製品状態の針ユニットを示す斜視図。
【図6】実施例1における、製品状態の針ユニットの組み付け構造を示す斜視図。
【図7】実施例1における、第1のホルダ部材の断面構造を示す断面図。
【図8】実施例1における、第1のホルダ部材のクリップ部を示すA−A線矢視断面図。
【図9】実施例1における、加工途中のホルダポストを示す側面図。
【図10】実施例1における、ホルダボディを示す正面図。
【図11】実施例1における、外挿スリーブを示す図。
【図12】実施例1における、外挿スリーブの断面構造を示す断面図。
【図13】実施例1における、針ユニットの動作を示す説明図。
【図14】実施例1における、注射状態の針ユニットの組み付け構造を示す斜視図。
【図15】実施例1における、軸方向に縮小可能な状態の針ユニットを示す斜視図。
【図16】実施例1における、注射状態の針ユニットを示す斜視図。
【図17】実施例1における、第1のホルダ部材の屈曲部が伸張した状態を示す断面図。
【図18】実施例2における、スプリングを示す側面図。
【図19】実施例3における、注射中のシリンジの断面構造を示す断面図。
【図20】実施例3における、注射針が格納された状態のシリンジの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、使い捨てのプレフィルドシリンジ1A(薬液充填済みシリンジ)に関する例である。この内容について、図1〜図17を用いて説明する。
本例のプレフィルドシリンジ1Aは、図1〜図3のごとく、薬液が充填された有底筒状のバイアル2(薬液容器)と、薬液を押し出すためにバイアル2の筒方向に移動可能な状態で開口部を封止するガスケット25(封止部材)と、ガスケット25に取り付けられる針ユニット1(針収容部)と、を備えている。製品状態のプレフィルドシリンジ1Aは、全長約80mmで、指掛け部159を除く最大径が約17mmである。なお、全長60〜100mm程度、最大径15〜25mm程度に設定すれば、使い易いシリンジを実現できる。
【0021】
バイアル2は、図1〜図3のごとく、薬液を充填するための有底略円筒状の容器である。バイアル2は、内挿されたガスケット25により密封され、開口端にはガスケット25の脱落を防止する抜止め23が取り付けられている。この抜止め23は、バイアル2の本体部21の内径よりも小径の開口部230を備えている。バイアル2の内側の底面には、穿孔針100B(図4参照。)の底突きを回避するための凹み211が設けられている。
【0022】
ガスケット25は、図3のごとく、バイアル2(本体部21)に内挿されるエストラマー製の略円柱状の部材である。ガスケット25は、バイアル2の底側に向かって前進するピストンとして機能する。バイアル2に内挿されたときに外側に面するガスケット25の端面には、内周ネジが形成された有底の取付孔250が開口している。この取付孔250は、針ユニット1を螺入して取り付けるための孔である。
【0023】
針ユニット1は、図1、図2、図4〜図6のごとく、注射針100A及び穿孔針100Bが両端に突出する略円柱状の保持部材10と、この保持部材10を収容する第1及び第2のホルダ部材11A、12と、保持部材10の外周側に当たる位置で第1及び第2のホルダ部材11A、12に収容される外挿スリーブ13と、により構成されている。なお、図4及び図5では、外挿スリーブ13を省略して図示し、図6では、保持部材10を省略して図示している。
【0024】
保持部材10は、図4のごとく、ポリプロピレンよりなる略円柱状の部材である。保持部材10では、その中心軸に沿ってステンレス管100が貫通配置されている。このステンレス管100は、保持部材10の軸方向の両端側に突出し、注射針100A、穿孔針100Bを形成している。一方の注射針100Aは、注射部位である人体の皮膚等に刺される針先であり、他方の穿孔針100Bは、ガスケット25(図3)の隔壁251を貫通する針先である。
【0025】
針ユニット1では、保持部材10を介して第1及び第2のホルダ部材11A、12が同軸で連結されている。針ユニット1は、先端側の第1のホルダ部材11Aに第2のホルダ部材12が内挿されて収容される構造により軸方向に縮小可能となっている。バイアル2を取り付けた針ユニット1を軸方向に縮小させると、ガスケット25を介して穿孔針100Bをバイアル2の内部に突出させると共に、注射針100Aを外部に突出させることが可能である(図2参照。)。この状態で、針ユニット1をバイアル2に押し込めば、ガスケット25の前進に応じて注射針100Aから薬液を注射可能である。
【0026】
本例の保持部材10は、図4のごとく、端面10U及び10Vにより挟まれた小径部105を軸方向の中間に有している。軸方向における小径部105の両側には、略同一直径の第1軸部10A及び第2軸部10Bが形成されている。この保持部材10は、第1軸部10Aが第1のホルダ部材11A側に位置し、第2軸部10Bが第2のホルダ部材12側に位置するように組み付けられる。
【0027】
第1軸部10Aの外周面には、図4のごとく、周方向における略等間隔6箇所の位置に外周側に突出する畝部10Pが設けられている。各畝部10Pは、軸方向に沿って延設されている。第1軸部10Aの外周面では、周方向において隣り合う畝部10Pに挟まれた領域が6面形成されている。この6面のうち1面おきの3面には、軸方向に沿う進退溝10Mが同じ仕様で設けられている。
【0028】
第2軸部10Bの外周面には、図4のごとく、周方向における略等間隔3箇所の位置に外周側に突出する畝部10Rが設けられている。各畝部10Rは、軸方向に沿って延設されている。第2軸部10Bの外周面では、周方向において隣り合う畝部10Rに挟まれた領域が3面形成されている。この3面は、それぞれ、周方向約120度に渡って形成されている。さらに、第2軸部10Bの外周面には、周方向における略等間隔3箇所の位置に軸方向に沿う溝状の進退溝10Nが設けられている。第2軸部10Bの進退溝10Nは、第1軸部10Aの進退溝10Mから約60度ずつずれて位置している。
【0029】
第1のホルダ部材11Aは、図4〜図7のごとく、ポリプロピレンよりなるホルダボディ15とキャップ11とを組み合わせた部材である。ホルダ部材11Aは、全体として、有底略円筒状をなし、外周側に張り出すように対向配置された一対の指掛け部159を開口端に有している。ホルダ部材11Aは、底側がプレフィルドシリンジ1Aの先端側に位置する状態で組み付けられる。このホルダ部材11Aの内部空間である第1の中空部11Hの内径は、バイアル2を挿入可能な程度にその外径と略同一に形成されている。中空部11Hには、保持部材10を把持可能な第1のスライダ部110が設けられている。なお、図7は、図4中の破線Lに沿う断面を示している。
【0030】
キャップ11は、指掛け部159とは反対側のホルダボディ15の端部に外挿され、ホルダ部材11Aの底部を形成する部材である。底側に当たるキャップ11の先端面には、注射針100Aを突出させる突出孔118が穿孔されている。キャップ11の内側の底面には、スライダ部110を構成する3本の柱状部111が中空部11Hの軸方向(開口方向)に沿うように立設されている。なお、柱状部111の本数は、本例の3本に代えて、2本、4本等であっても良い。
【0031】
3本の柱状部111は、全て同じ仕様となっており、ホルダ部材11Aの軸芯を中心とした周方向における等間隔の3カ所に当たる位置に設けられている。さらに、キャップ11の底面には、突出孔118を介して対向する位置に係止部115が立設されている。係止部115は、先端側から打抜き加工により、底面から略U字状にぶら下がるように形成されている(図8参照。)。係止部115には、ホルダボディ15が備える後述するクリップ部151Aが係合する。
【0032】
ホルダボディ15は、図7のごとく、指掛け部159が設けられた略円筒状の筒部150と、筒部150から軸方向に延設された一対のホルダポスト151と、を有している。一対のホルダポスト151は、筒部150の軸芯を介して対向するように配置されている。ホルダポスト151は、先端のクリップ部151Aと、中間に位置する屈曲部155と、を有している。クリップ部151Aは、内周側にカギ状に突出するように形成されている。ホルダボディ15では、クリップ部151Aの突出形状によりスプリング18の座部153Aが形成されている。屈曲部155は、ヘアピンの先端形状のように内周側に折り返されて形成されている。屈曲部155により形成される棚面は、座部153Aに対面するスプリング18の反対側の座部155Aを形成している。
【0033】
樹脂成形直後の加工途中のホルダポスト151は、図9及び図10のごとく、屈曲部155が直角に押し拡げられたようなカギ状を呈している。ホルダポスト151では、屈曲部155の両側にラッチ156とキャッチャ157とが設けられている。ホルダポスト151の根本側に位置するラッチ156は、軸方向に対して90度をなすように形成された屈曲部155と分岐するように軸方向に延設された部分である(図9参照。)。一方、先端側の外側面に設けられたキャッチャ157は、ラッチ156が係合する凹状の窪みである。ラッチ156は、先端側が幅広に形成された突出片である。キャッチャ157の開口部は、ラッチ156の幅狭の根本部分に対応して幅狭に形成され、奥側は幅広に形成されている。ラッチ156とキャッチャ157との組合せは、屈曲部155のヘアピン形状(図7参照。)を保持するラッチ機構を形成している。
【0034】
ホルダポスト151は、図9のカギ状の屈曲部155をヘアピン形状になるまで折り曲げて完成される。ヘアピン形状になるまで屈曲部155が折り曲げられたとき、図10のごとくラッチ156がキャッチャ157に収容される係合構造が実現され、この係合構造により屈曲部155のヘアピン形状が確実性高く保持される。
【0035】
屈曲部155がヘアピン形状に屈曲されたホルダポスト151には、図7のごとく、コイル状のスプリング(弾性部材)18が組み付けられている。スプリング18は、軸方向に圧縮された状態で一対の座部153A、155Aの間隙に保持されている。このようにスプリング18を保持するホルダボディ15は、クリップ部151Aが係止部115に係合する状態でキャップ11に組み付けられている。
【0036】
第2のホルダ部材12は、図4〜図6のごとく、有底略円筒状をなし、小径の取付部125が底側の端面に立設されたポリカーボネード製の部材である。このホルダ部材12は、バイアル2の開口部230(図3)よりも小径に形成されている。取付部125は、ガスケット25に螺入可能なように外周面にネジ山を有している。取付部125は、その立設面に当たるホルダ部材12の端面がガスケット25に密着するまで螺入される。反対側の開口端には、外周側に突出するつば状の座部129が対向配置されている。対向する一対の座部129は、注射針100Aの自動格納時において、ホルダ部材11Aの座部155Aに代わるスプリング18の新たな座となる。なお、図4及び図6等では、一対の座部129のうちの片側のみが図示されている。なお、本例に代えて、ガスケット25側の孔に対して取付部125を圧入することにより、ガスケット25に対して針ユニット1を固定する構造を採用することもできる。
【0037】
第2のホルダ部材12の内部空間である第2の中空部12Hの内径は、外挿スリーブ13(図6)を内挿可能な程度に設定されている。第2の中空部12Hには、保持部材10を把持可能な第2のスライダ部120が設けられている。このスライダ部120は、中空部12Hの底側から軸方向(開口方向)に延設された3本の柱状部121により構成されている。
【0038】
3本の柱状部121は、全て、前記第1のホルダ部材11Aの柱状部111と同じ仕様であり、柱状部111と同様に周方向における等間隔の3カ所に設けられている。3本の柱状部121は、断面略円形状の内周空間を形成している。スライダ部120は、保持部材10の外周側面に柱状部121が外接する状態でその内周空間に保持部材10を把持する。
【0039】
柱状部111及び柱状部121の断面形状は、周方向に互い違いに組み合わされたとき、重複することなく互いに隙間を補完することでほぼ完全な円環が形成され得る形状となっている。柱状部111、121が周方向に互い違いに配置された状態では、柱状部111、121が櫛歯状に噛み合う状態で軸方向にホルダ部材11A、12を縮小可能である。
【0040】
柱状部111、121は、図4〜図6のごとく、外周面に3種類の溝111A〜C、121A〜Cを有し、先端の内周面に凸部111T、121Tを有している。
内周側に突出する凸部111T及び121Tは、柱状部111、121の内周面に1箇所ずつ形成されている。各ホルダ部材11A、12の3カ所の凸部111T、121Tの突出面が形成する内径は、保持部材10の小径部105の外径とほぼ等しくなっている。第1のホルダ部材11A側の凸部111Tは、保持部材10に対してホルダ部材11Aが軸方向に進退する際、第2軸部10Bの進退溝10Nを進退する。第2のホルダ部材12側の凸部121Tは、保持部材10に対してホルダ部材12が軸方向に進退する際、第1軸部10Aの進退溝10Mを進退する。
【0041】
進退溝111A、121Aは、図4〜図6のごとく、柱状部111、121の外周面において、周方向における略中央に軸方向に沿って延設された溝である。この進退溝111A、121Aは、柱状部111、121の根元の手前から始まって、先端の手前まで形成されている。
テーパ溝111B、121Bは、ホルダ部11A、12の開口側から奥側を見込んだときに進退溝111A、121Aの左回転側に当たる位置に形成された溝である。テーパ溝111B、121Bは、周方向に沿って延設されていると共に、上記左回転側に次第に深くなり、柱状部111、121の側面に開口している。
【0042】
テーパ溝111C、121Cは、柱状部111、121の先端部分において、進退溝111A、121Aの未形成部分に軸方向に沿って設けられた溝である。その周方向の位置は、進退溝111A、121Aと一致している。テーパ溝111C、121Cは、軸方向先端側に向けて次第に深くなり、柱状部111、121の先端面に開口している。
【0043】
外挿スリーブ13は、図6、図11及び図12のごとく、スライダ部110、120に外挿された状態でホルダ部材11A、12の内部に収容されるポリカーボネード製の略円筒状の部材である。外挿スリーブ13では、軸方向の中間部130を中心として、第1のホルダ部材11A側に組み込まれる第1形成部131、及び第2のホルダ部材12側に組み込まれる第2形成部132が設けられている。第1形成部131及び第2形成部132には、周方向略等間隔で6片ずつのロック片133が設けられている。各ロック片133は、中間部130側が付け根となるよう、第1形成部131あるいは第2形成部132の外周壁がコの字状に切り込まれて形成された部分である。第1形成部131のロック片133と、第2形成部132のロック片133とは、周方向における形成位置が略一致している。
【0044】
全てのロック片133は、図11及び図12のごとく、その先端側に、内側に向けて突出するカギ状部134を有している(図11のA−A断面を参照。)。カギ状部134は、中間部130に向けて次第に突出高さが高くなる略くさび状の断面形状を呈している。
【0045】
第1形成部131と第2形成部132とでは、図12のごとく、このカギ状部134の形状及び構成が相違している。第1形成部131のカギ状部134としては、2種類のカギ状部がある。第1のカギ状部134Aは、同図中のB−B断面図のごとく、内側に向かう突出高さが周方向に略一定のカギ状部である。第2のカギ状部134Bは、同図のごとく、内側に向かう突出高さが周方向に略一定の部分134pと、突出高さが周方向に次第に低くなる傾斜部134tと、を含むカギ状部である。第1形成部131における第2のカギ状部134Bでは、同図のB−B断面における左回転側に傾斜部134tが配置されている。
【0046】
第2形成部132のカギ状部134Cは、図12のごとく、全て同じ仕様になっている。カギ状部134Cは、同図中のC−C断面図に図示するごとく、内側に向かう突出高さが略一定の部分134pと、突出高さが周方向に次第に低くなる傾斜部134tと、を含むカギ状部である。第2形成部132における各カギ状部134Cでは、第1形成部131の第2のカギ状部134Bと同様、同図のC−C断面における左回転側に傾斜部134tが配置されている。なお、外挿スリーブ13に対してホルダ部材11A、12を組み付ける際には、カギ状部134は、ホルダ部材11A、12に設けられたテーパ溝111C、121C(図6参照。)を利用して軸方向に乗り上げ、進退溝111A、121Aに収容される。
【0047】
以上のような部品構成の本例のプレフィルドシリンジ1A(製品状態)では、第2のホルダ部材12の取付部125がガスケット25に螺入されてバイアル2に固定された状態(図1参照。)にある。第1のホルダ部材11Aは、凸部111Tが小径部105に外接する状態で保持部材10を把持している。第2のホルダ部材12は、凸部121Tが小径部105に外接する状態で保持部材10を把持している。第1のホルダ部材11Aと第2のホルダ部材12とは、保持部材10を介して同軸で連結されている。このとき、第1のホルダ部材11Aと第2のホルダ部材12とは、互いのスライダ部110、120(柱状部111、121)が軸方向において重複しない状態で保持部材10を介して連結されている(図5参照。)。また、第1及び第2のホルダ部材11A、12のスライダ部110、120の外周には、外挿スリーブ13が配置されている(図6参照。)。
【0048】
製品状態のスライダ部110、120、外挿スリーブ13及び保持部材10は、図13中の最上段のA、Dのごとく、組み合わせられている。なお、同図中左側のA〜Cは、第1のホルダ部材11Aのテーパ溝111Bを含む断面をプレフィルドシリンジ1Aの先端側から見込む断面図である。同図中右側のD〜Fは、第2のホルダ部材12のテーパ溝121Bを含む断面をプレフィルドシリンジ1Aの先端側から見込む断面図である。A〜Cでは、外周側から、外挿スリーブ13の第1形成部131、ホルダ部材11Aのスライダ部110、保持部材10の第1軸部10Aの各断面が図示されている。D〜Fでは、外周側から、外挿スリーブ13の第2形成部132、ホルダ部材12のスライダ部120、保持部材10の第2軸部10Bの各断面が図示されている。
【0049】
図13中のA、Dのごとく、製品状態のプレフィルドシリンジ1Aでは、第1のホルダ部材11Aの柱状部111と、第2のホルダ部材12の柱状部121と、の周方向位置が略一致している(図5参照。)。この状態では、柱状部111の先端面と、柱状部121の先端面と、が対面して軸方向に縮小不可能な状態となっている。保持部材10は、第1及び第2のホルダ部材11A、12の内部に完全に収容され、先端側の注射針100A、バイアル2側の穿孔針100Bが収納された状態にある(図1参照。)。
【0050】
第1のホルダ部材11Aの各柱状部111は、図13中のAのごとく、保持部材10の第1軸部10Aの外周面のうち、畝部10Pによって周方向に区画された6面のうち、進退溝10Mが形成されていない外周面に外接している。第1のホルダ部材11Aは、周方向6箇所の畝部10Pにより、保持部材10との相対回転が規制されている。柱状部111の進退溝111Aには、外挿スリーブ13の第2のカギ状部134B(第1形成部131)が収容されている。上記のごとく、この第2のカギ状部134Bには、同図中、左回転側に傾斜部134tが形成されている。
【0051】
一方、第2のホルダ部材12の各柱状部121は、図13中のDのごとく、保持部材10の第2軸部10Bの外周面のうち、畝部10Rによって区画された3面の外周面にそれぞれ外接している。これら周方向120度に渡る外周面に対して、第2のホルダ部材12が同図中、右回転側に回転し切ったような状態となっている。柱状部121の外周面の進退溝121Aには、外挿スリーブ13のカギ状部134C(第2形成部132)が収容されている。上記のごとく、このカギ状部134Cには、同図中、左回転側に傾斜部134tが形成されている。
【0052】
次に、本例のプレフィルドシリンジ1Aの使用について説明する。注射に際しては、第1のホルダ部材11A及び保持部材10に対して、第2のホルダ部材12を図13中、左回転方向に約60度回転させる。第2のホルダ部材12の柱状部121の周方向の幅は、いずれも周方向約60度である。一方、同図Dのごとく、柱状部121が外接する保持部材10の第2軸部10Bでは、周方向における略等間隔の3箇所の位置に畝部10Rが設けられ、外周面が周方向約120度ずつに区分されている。保持部材10の第2軸部10Bに柱状部121が外接する状態の第2のホルダ部材12は、保持部材10に対して約60度の範囲で相対回転可能である。一方、第2のホルダ部材12が左回転したとき、進退溝121Aとカギ状部134Cとの係合構造により外挿スリーブ13が従動して左回転する。
【0053】
一方、第1のスライダ部110の進退溝111Aに係合する第2のカギ状部134Bでは、図13Aのごとく、左回転側に傾斜部134tが形成されている。また、柱状部111では、周方向のテーパ溝111Bが右回転側に形成されている。上記のごとく第2のホルダ部材12の左回転に従動して外挿スリーブ13が左回転する際、図13A、Bのごとく、傾斜部134tを利用して第2のカギ状部134Bが進退溝111Aを脱出でき、テーパ溝111Bの斜面状の底面を利用して第1のカギ状部134Aが進退溝111Aに乗り入れる。
【0054】
このように第2のホルダ部材12が外挿スリーブ13と共に左回転すると、図13B、Eの注射状態が実現され得る。この注射状態では、第1のホルダ部材11Aの柱状部111と、第2のホルダ部材12の柱状部121との周方向位置が互い違いになっている。このように柱状部111、121が互い違いに配置された状態であれば、針ユニット1が軸方向に縮小可能である(図14〜図16参照。)。
【0055】
例えば、指掛け部159に人差し指と中指を掛けると共にバイアル2の底面210に親指を当てて軸方向に縮小させると、まず、針ユニット1が軸方向に縮小する(図2参照。)。針ユニット1が軸方向に縮小し、注射針100A及び穿孔針100Bを含めた保持部材10の全長よりも軸方向の長さが短くなると、第2のホルダ部材12の取付部125側から穿孔針100Bが突出すると共に、第1のホルダ部材11Aの先端側から注射針100Aが突出する。穿孔針100Bは、ガスケット25(図3参照。)の隔壁251を貫通し、その先端がバイアル2の内部に達する。針ユニット1を軸方向に最も縮小させたとき、注射針100A及び穿孔針100Bが突出し切った状態となる。針ユニット1をバイアル2の底側に向けて押し込むことによりさらにプレフィルドシリンジ1Aを軸方向に縮小させれば、ガスケット25の前進に応じて薬液を注射可能である。
【0056】
注射状態のプレフィルドシリンジ1Aでは、図13Bのごとく、第1のスライダ部110の進退溝111Aには、外挿スリーブ13(第1形成部131)の第1のカギ状部134Aが収容されている。また、同図Eのごとく、畝部10Rによって区画された周方向120度に渡る外周面に対して、第2のホルダ部材12が左回転側に回転し切った状態となっている。なお、同図DからEに至る過程では、第2のホルダ部材12の左回転に外挿スリーブ13が従動するため、第2のスライダ部120の進退溝121Aに収容されるカギ状部134Cの入れ替えは生じない。注射後の取り扱いにおいて、このカギ状部134Cに設けられた左回転側の傾斜部134tが極めて重要な作用効果を実現する。
【0057】
次に、本例のプレフィルドシリンジ1Aの注射後の処理について説明する。注射が終わった後、針ユニット1に対してさらにバイアル2を押し込むと、図17のごとく、第1のホルダ部11Aのキャッチャ157(図10参照。)からラッチ156が引き抜かれ、屈曲部155が伸張される。そうすると、第1のホルダ部材11Aによって圧縮状態で保持されていたスプリング18の規制が解除され、屈曲部155側の端部が第2のホルダ部材12の座部129に押し当たる。なお、図17では、理解のし易さを優先し、第2のホルダ部材12のスライダ部120や外挿スリーブ13やラッチ156等の図示を省略すると共に、座部129の周方向位置を変更してある。実際には、座部129は、屈曲部155とは周方向において約90度離れて位置している。
【0058】
このスプリング18の付勢力は、針ユニット1を軸方向に伸張させるように作用する。針ユニット1は、第1のスライダ部110の進退溝111Aの終端に外挿スリーブ13のカギ状部134Aが達すると共に、第2のスライダ部120の進退溝121Aの終端にカギ状部134Cが達するまで伸張する。なお、針ユニット1の軸方向の伸張は、柱状部111、121に設けられた凸部111T、121Tと、保持部材10の端面10U、10Vと、の係合によっても規制され、これによりホルダ部材11A、12の最大伸張位置が確実性高く規制されている。
【0059】
上記のように針ユニット1が軸方向に伸張した後、第2のホルダ部材12を、図13中、右回転方向に60度回転させる。ここで、上記のごとく、第1のスライダ部110の進退溝111Aに収容されるカギ状部は、傾斜部134tを持たない第1のカギ状部134Aである(同図B)。この第1のカギ状部134Aは、第1のホルダ部材11Aとの間に相対回転力が生じても、進退溝111Aから脱出できないカギ状部である。それ故、同図Bの状態は、第1のホルダ部材11Aと外挿スリーブ13との相対回転が規制された状態となる。
【0060】
一方、図13Eのごとく、第2のスライダ部120の進退溝121Aに収容されるカギ状部134Cは、左回転側に傾斜部134tが形成されている。それ故、第2のホルダ部材12を右回転させた場合には、傾斜部134tを利用してカギ状部134Cが進退溝121Aから脱出可能である。外挿スリーブ13に対して第2のホルダ部材12が相対的に右回転すると、第2のスライダ部120が新たなカギ状部134Cに接近する。このカギ状部134Cもまた、左回転側に傾斜部134tを有しているため、この傾斜部134tを利用してスライダ部120の進退溝121Aに乗り入れ可能である。したがって、図13Eの状態で第2のホルダ部材12を右回転させたときには、外挿スリーブ13を従動させずに、第2のホルダ部材12のみを右回転させることができる。
【0061】
このように、図13B、Eの注射状態を起点として、第2のホルダ部材12を同図中、右回転させると、同図C、Fの廃棄状態が得られる。この廃棄状態では、第1のホルダ部材11Aの柱状部111と、第2のホルダ部材12の柱状部121との周方向位置が略一致している。すなわち、この状態は、柱状部111の先端面と、柱状部121の先端面と、が対面して軸方向に縮小不可能な状態である。
【0062】
図13Cのごとく、第1のスライダ部110の進退溝111Aには、傾斜部134tを持たない第1のカギ状部134Aが収容されている。それ故、この状態では、第1のホルダ部材11Aに対して外挿スリーブ13が相対的に回転不可能である。さらに、第1軸部10Aの外周には、6箇所の畝部10Pが形成されているため、保持部材10に対して第1のホルダ部材11Aが相対的に回転することも不可能である。
【0063】
図13Fのごとく、第2のスライダ部120の進退溝121Aに、左回転側に傾斜部134tを備えたカギ状部134Cが収容されている。第2のホルダ部材12は、進退溝121Aとカギ状部134Cとの係合により同図中、左回転が規制され、柱状部121が右回転側に接触する畝部10Rにより同図中、右回転が規制される。そのため、第2のホルダ部材12は、保持部材10に対して相対回転不可能である。
【0064】
このように、使用後に第2のホルダ部材12を右回転させて図13C、Fの状態に移行させた場合には、外挿スリーブ13を含めて構成される回転規制機構の作用により、第1のホルダ部材11Aと第2のホルダ部材12とを相対的に回転不可能な状態を設定できる。
【0065】
さらに、図13Cの状態では、第1軸部10Aの進退溝10Mの周方向位置と、第1のホルダ部材11Aの凸部111Tとの周方向位置とが異なっている。それ故、小径部105と第1軸部10Aとの端面10Uに凸部111Tが係合して、保持部材10からの第1のホルダ部材11Aの軸方向の引き抜きが規制される。同様に、図13Fの状態では、第2軸部10Bの進退溝10Nの周方向位置と、第2のホルダ部材12の凸部121Tとの周方向位置とが異なっている。それ故、小径部105と第2軸部10Bとの端面10Vに凸部121Tが係合して、保持部材10からの第2のホルダ部材12の軸方向の引き抜きが規制される。
【0066】
以上のように構成された本例のプレフィルドシリンジ1Aは、非常にコンパクト、かつ、安全性の高いシリンジである。このプレフィルドシリンジ1Aは、注射に要する手間が非常に少なく、かつ、注射の後、注射針100Aが格納された状態をワンタッチで設定できる優れた製品である。
【0067】
なお、屈曲部155のラッチ機構としては、本例のラッチ156とキャッチャ157との組合せに代えて、キノコ状の凸部と凹部とを組み合わせたラッチ機構や、末広がりの断面形状を呈する凸状のレールと、このレールを収容する凹状の溝と、の組み合わせによるジップロック(R)のようなラッチ機構等を採用することも良い。
【0068】
なお、本例では、座部155Aを形成する屈曲部155の変形に応じてスプリング18の規制を解除している。これに代えて、注射後の押し込み操作に応じて座部155Aが破断あるいは切断されて変形してスプリング18の規制が解除される構成や、押し込み操作に応じて座部155Aが弾性的に変位(後退等)してスプリング18の規制が解除される構成等を採用することも良い。
【0069】
さらに、本例では、スプリング18の規制が解除された後の新たな座部として、第2のホルダ部材12の座部129を設定している。これに代えて、弾性復帰したスプリング18の端部をバイアル2に押し当てることにより、間接的に第2のホルダ部材12を付勢しても良い。
【0070】
(実施例2)
本例は、実施例1のプレフィルドシリンジを基にして、注射後の動作をさらに自動化した例である。この内容について、図18を参照して説明する。
本例のプレフィルドシリンジは、実施例1とはスプリングに相違点がある。本例のスプリング18は、回転方向に捩られた状態で回転止めされて第1のホルダ部材11Aにより保持されている。スプリング18は、巻回端を折り曲げて軸方向に突出させた突出端181、182を両端に有している。突出端181、182は、座部153A、155Aの側面に係合して回転止めされている。なお、スプリング18が捩られた回転方向は、第2のホルダ部材12を図13中の右回転方向に付勢する回転弾性力が蓄えられる方向である。
【0071】
注射後の押し込み操作によりスプリング18の規制が解除されると、その端部が第2のホルダ部材12の座部129に当接すると共に、突出端182が座部129の側面に係合し上記回転弾性力の一部又は全部がそのまま保持される。第1のホルダ部材11Aに対して第2のホルダ部材12が相対回転可能になる位置まで針ユニット1が伸張すると、回転弾性力を蓄えたスプリング18に付勢されて第2のホルダ部材12が図13中の右回転方向に回転する。この右回転は、実施例1の注射後の針ユニット1における第2のホルダ部材12の60度の右回転(図13)と同様である。
なお、その他の構成及び作用効果は実施例1と同様である。
(実施例3)
本例は、実施例1の第1のホルダ部材を応用した針カバーを採用したシリンジ1Bの例である。この内容について、図19及び図20を参照して説明する。
本例の針カバー11Bは、実施例1の第1のホルダ部材(図7の符号11A)からスライダ部(同符号110)を取り除くと共に軸方向に伸張し、開口端の内周面に抜止め158を設けた部材である。この針カバー11Bを組み合わせるシリンジ本体1Cは、注射筒31に対して押子(操作部)32を押し込みして液室の薬液を注射するシリンジであり、注射筒31の外周面に抜止め158に対応する凸部310を有している。
【0072】
注射に当たっては、針カバー11Bの指掛け部159に指を掛けて押子32を押し込むことで薬液を注射できる。注射が終了した後、押子32をさらに押し込むと屈曲部155が変形して真っ直ぐに近づき、スプリング18の規制が解除されて注射筒31の先端面311に当接する(図20参照。)。これにより、針カバー11Bが前進して注射針100Aが格納される。
その他の構成及び作用効果は、実施例1と同様である。
【0073】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形あるいは変更した技術を包含している。
【符号の説明】
【0074】
1 針ユニット(針収容部)
1A プレフィルドシリンジ
1B シリンジ
1C シリンジ本体
10 保持部材
11 キャップ
11A、12 ホルダ部材
11B 針カバー
11H、12H 中空部
100A 注射針
100B 穿孔針
110、120 スライダ部
111、121 柱状部
125 取付部
129 座部
13 外挿スリーブ
134 カギ状部
15 ホルダボディ
153A 座部
155 屈曲部
155A 座部
159 指掛け部
18 スプリング(弾性部材)
2 バイアル(薬液容器)
210 底面
230 開口部
25 ガスケット(封止部材)
250 取付孔
32 押子(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針、薬液を収容する液室、及びこの液室に収容された薬液を前記注射針から注射するために所定方向に操作される操作部、を含むシリンジ本体と、
前記注射針を格納する筒状の針カバーと、
前記注射針の軸方向に沿って圧縮された状態で前記針カバーに保持された弾性部材と、を備え、
前記針カバーは、前記弾性部材の前記軸方向の両端にそれぞれ当接して位置を規制する一対の座部を有し、当該一対の座部の間隙に前記弾性部材を保持していると共に、
注射が終了した後で前記操作部が前記所定方向に操作されたときに前記一対の座部のうちのいずれか一方の座部に変形を生じて前記弾性部材の一方の端部の位置的な規制を解除するように構成され、
前記弾性部材は、前記一方の座部の変形に応じて前記一方の端部が前記シリンジ本体側に当接し、これにより前記針カバーを付勢して前記注射針が格納される位置まで該針カバーを移動させるシリンジ。
【請求項2】
請求項1において、前記一方の座部は、前記針カバーの内周側に突出する略ヘアピン形状の屈曲部により形成されていると共に、該屈曲部が真っ直ぐに近づくように延びて変形し、
前記弾性部材は、この変形に応じて前記一方の端部の位置的な規制が解除されるシリンジ。
【請求項3】
請求項2において、前記一方の座部は、注射が終了するまでの間、前記屈曲部の保持状態を維持すると共に、注射の終了後に前記操作部が前記所定方向に操作されたときに当該保持状態を解除するラッチ機構を備えているシリンジ。
【請求項4】
薬液が充填された有底筒状の薬液容器と、
前記薬液容器の筒方向に移動可能な状態で該薬液容器の開口部を封止する封止部材と、
該封止部材を前記薬液容器に押し込み可能な状態で、該封止部材に取り付けられる針収容部と、を備え、
該針収容部は、一方の端部から注射針を突出させると共に、他方の端部から穿孔針を突出させる略円柱状の保持部材と、
有底の第1の中空部を有し、前記注射針の軸方向に当たる前記第1の中空部の開口方向に沿って底側から延設されていると共に前記保持部材の外周側面に外接する少なくとも2本以上の柱状部により該保持部材を把持する第1のスライダ部が設けられていると共に、前記軸方向における2カ所に配設された一対の座部に前記軸方向の両端位置を規制されて圧縮された弾性部材を保持する第1のホルダ部材と、
有底の第2の中空部を有し、前記軸方向に当たる前記第2の中空部の開口方向に沿って底側から延設されていると共に前記保持部材の外周側面に外接する少なくとも2本以上の柱状部により該保持部材を把持する第2のスライダ部、及び底側の端部に前記封止部材に対する取付部が延設された第2のホルダ部材と、を含み、
前記第1及び第2のホルダ部材は、前記保持部材を把持する前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記軸方向において他方のスライダ部の柱状部と互いに重複していない状態において、前記保持部材の回りに相対的に回転可能であると共に、
前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記保持部材の周りに互い違いに配置される状態において、何れか一方のホルダ部材の中空部に他方のホルダ部材が挿入されていくことで軸方向に縮小可能である一方、前記第1及び第2のスライダ部の柱状部の先端面が他方のスライダ部の柱状部の先端面と対面する状態において前記軸方向に縮小不可能な状態となり、
前記保持部材を保持する前記第1及び第2のホルダ部材は、前記軸方向に縮小されたとき、前記封止部材を貫通して前記薬液容器の内部に前記穿孔針を突出させると共に前記注射針を外部に突出させ、
注射の終了後に前記軸方向にさらに縮小されたとき、前記第1のホルダ部材が備える前記一対の座部のうちのいずれか一方の座部に変形を生じて前記弾性部材の一方の端部の位置的な規制を解除するように構成され、
前記弾性部材は、前記一方の座部の変形に応じて前記一方の端部が前記第2のホルダ部材に直接あるいは間接的に当接し、これにより前記注射針が格納されるように前記第1及び第2のホルダ部材を前記軸方向に伸張させるシリンジ。
【請求項5】
請求項4において、前記一方の座部は、前記第1のホルダ部材の内周側に突出する略ヘアピン形状の屈曲部により形成されていると共に、該屈曲部が真っ直ぐに近づくように延びて変形し、
前記弾性部材は、この変形に応じて前記一方の端部の位置的な規制が解除されるシリンジ。
【請求項6】
請求項5において、前記一方の座部は、注射が終了するまでの間、前記屈曲部の保持状態を維持すると共に、注射の終了後に前記操作部が前記所定方向に操作されたときに当該保持状態を解除するラッチ機構を備えているシリンジ。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項において、前記針収容部は、注射後において前記第1及び第2のスライダ部の柱状部が前記軸方向において他方のスライダ部の柱状部と互いに重複しない位置まで上記第1及び第2のホルダ部材を前記軸方向に伸張させた後、前記第1及び第2のホルダ部材を相対的に回転させることで前記軸方向に縮小不可能な状態を再設定可能なように構成され、
前記弾性部材は、バネ用線材がコイル状に巻回されたスプリングであって、周方向に捩られて回転方向の回転弾性力を蓄えた状態で前記第1のホルダ部材に保持されていると共に、前記一方の端部の位置的な規制が解除されたとき、前記回転弾性力の全部あるいは一部を蓄えた状態で前記第2のホルダ部材に設けられた座部に当接し、まず、前記第1及び第2のホルダ部材が相対的に回転可能な状態になるまで両者を前記軸方向に伸張させ、その後、前記回転弾性力により前記第1及び第2のホルダ部材を相対的に回転させて前記軸方向に縮小不可能な状態に移行させるシリンジ。
【請求項8】
請求項7において、前記第1及び前記第2のスライダ部に外挿された状態で、前記保持部材の周りの前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を規制する略円筒状の外挿スリーブを備え、
前記針収容部は、製品状態において前記軸方向に縮小不可能な状態にあると共に、注射に際して前記第1及び第2のホルダ部材を前記保持部材を中心として相対的に回転させることで前記軸方向に縮小可能な状態を設定可能であり、
前記外挿スリーブは、製品状態においては前記保持部材を中心とした前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を許容し、かつ、注射後において前記針収容部が前記軸方向に縮小可能な状態から前記軸方向に縮小不可能な状態が再設定されたとき、前記第1及び第2のホルダ部材の相対的な回転を規制するように構成されているシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−94315(P2013−94315A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238210(P2011−238210)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000132194)株式会社スズケン (12)
【Fターム(参考)】