説明

シリンダカバー内洗浄装置

【課題】ショックアブソーバである油圧シリンダのシリンダロッドに付着した塩分の結晶等の付着物を洗浄・除去する場合において、シリンダ装置を取り外したり、またいかなる部品も分解することなく、短時間で洗浄すること、大掛かりな装備を必要とせずに簡単な洗浄装置とすること、洗浄後の塩分濃度を低下させること。
【解決手段】シリンダ装置のシリンダロッド101に保護カバー102が取り付けられており、この保護カバー102内のシリンダロッド表面を洗浄する装置であって、前記シリンダ装置のシリンダケース100を把持する2つに分割された分割チャンバー1と、各分割チャンバー1に着脱自在に取り付けられ、前記シリンダケース100と保護カバー102との隙間104から挿入される複数本のノズル管2と、前記分割チャンバー1に水と塩分除去剤の洗浄液との混合液を供給する混合器3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水陸両用車のサスペンションショックアブソーバとして用いられる油圧シリンダの保護カバー内のロッドに付着した塩分結晶等の付着物を洗浄する洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水陸両用車のタイヤ懸垂部にはサスペンションショックアブソーバ(以下、ショックアブソーバと称する)が必ず用いられる。ショックアブソーバは、図6に示すように、油圧シリンダで構成されており、道路走行時には泥や雨水等がシリンダロッド101に付着しないように保護カバー102が設けられている。また、海水・淡水進入時には、流体による損傷や砂・ゴミなどが付着しないように保護カバー102が設けられている。保護カバー102は鉄製であり、シリンダロッド101に取り付けられてシリンダロッド101と共に上下移動し、またシリンダケース100との間には3mm程度の隙間104がある。
道路走行時においては、シリンダロッド101は道路からの突き上げ等に対応して上下運動を繰り返すが、泥等は保護カバー102の表面やシリンダケース100に付着するだけでシリンダロッド101には付着しない。
しかし、海上航走中にはシリンダケース100と保護カバー102との隙間104を通して海水がシリンダロッド101と保護カバー102の間の空間105に侵入する。海上航走が終了し陸上に戻ると、海水は保護カバー102の隙間104を通して排出されるが、シリンダロッド101の表面には薄い海水皮膜が残る。この海水皮膜は陸上で時間の経過に伴い皮膜中の水分が気化し、細かい塩分の結晶となってシリンダロッド101の表面に残る。この結晶は油密パッキン103にとっては紙ヤスリと同じようなものであり、早期に損傷をもたらす。また、塩分結晶はシリンダロッド101の保護被膜(クロムメッキ等)を酸化させ、やがて保護被膜が破れ錆が発生する。この錆と塩分の結晶とが相乗して油密パッキン103を損傷させる。
このような水陸両用車では、海上航走後、清水で車体を洗うことが義務づけられているが、空間105のような狭隘な場所には清水が入らないので、通常の方法では洗うことができない。なお、このような保護カバー102付きのシリンダ装置を洗浄する従来技術に関する特許文献あるいは非特許文献は見当たらなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような保護カバー102付きのシリンダ装置を洗浄する場合、一般には該シリンダ装置を取り外し部品を分解して洗浄するが、このような方法では時間や手数がかかって望ましくない。
従って、本発明は、ショックアブソーバである油圧シリンダのシリンダロッドに付着した塩分の結晶等の付着物を洗浄・除去する場合において、シリンダ装置を取り外したり、またいかなる部品も分解することなく、短時間で洗浄すること、大掛かりな装備を必要とせずに簡単な洗浄装置とすること、洗浄後の塩分濃度を低下させることなどの課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るシリンダカバー内洗浄装置は、シリンダ装置のシリンダロッドに保護カバーが取り付けられており、この保護カバー内のシリンダロッド表面を洗浄する装置であって、前記シリンダ装置のシリンダケースを把持する2つに分割された分割チャンバーと、各分割チャンバーに着脱自在に取り付けられ、前記シリンダケースと保護カバーとの隙間から挿入される複数本のノズル管と、前記分割チャンバーに水と洗浄液との混合液を供給する混合器とを備えたものである。
【0005】
このように構成することにより、シリンダ装置を取り外したり、またいかなる部品も分解することなく、簡単な洗浄装置により保護カバー内のシリンダロッドに付着した塩分の結晶等の付着物を短時間で洗浄・除去することができる。
【0006】
また、本発明のシリンダカバー内洗浄装置は、前記混合液を軸方向に噴射するノズル管と、前記混合液を前記シリンダロッドに向けて横方向に噴射するノズル管とを前記分割チャンバー周方向に交互に設けたものである。
これにより、洗浄液が保護カバー内のシリンダロッド表面に万遍なく噴射されるので、確実な洗浄と洗浄時間の短縮が可能になる。
【0007】
また、前記分割チャンバーは、内圧がかかると、前記シリンダケースに強く保持されるものとする。
これにより、分割チャンバーがノズル管からの噴射圧力の反力により、ずり落ちることがなく、シリンダケースに傷を付けることがない。
【0008】
また、本発明のシリンダカバー内洗浄装置おいては、洗浄液に塩分除去剤を用いる。これにより、シリンダロッドに付着した塩分の結晶を確実に除去することができる。
【0009】
また、本発明のシリンダカバー内洗浄装置おいては、前記混合器は、水道水の蛇口または既存の水タンクに接続されるものである。
従って、洗浄水の圧力源として特別な設備を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係るシリンダカバー内洗浄装置の概要を示す構成図であり、図2は本洗浄装置の要部を示す側面図、図3は本洗浄装置の混合器の断面平面図、図4は図3の混合器本体の断面側面図である。また、図5は洗浄時の使用状態を示す説明図である。
【0011】
本洗浄装置は、図6に示した油圧シリンダのシリンダケース100を把持する2つに分割された分割チャンバー1と、各々の分割チャンバー1に着脱自在に取り付けられ、シリンダケース100と保護カバー102との隙間104から挿入される複数本のノズル管2と、各分割チャンバー1に水と塩分除去剤とを混合した洗浄液を供給する混合器3とを備える。混合器3には塩分除去剤を入れた洗浄液容器4が取り付けられるとともに、図示しない水道水ホースを介して水道水が供給される。また、この混合器3と各分割チャンバー1とはY字状に分岐した分岐ホース11で接続される。
【0012】
分割チャンバー1は半円弧状に形成されており、上面にはノズル管2をネジで取り付けるためのネジ穴が複数設けられている。このネジ穴の数はノズル管2の本数よりも多くなっており、不使用のネジ穴はナベ小ネジ12で塞いでいる。2つの分割チャンバー1は、それぞれの端部に爪とフックからなるトグル掛け金5が設けられており、トグル掛け金5によりシリンダケース100に対する分割チャンバー1の着脱を容易にしている。また、各分割チャンバー1の下部には分岐ホース11の一端が接続される。さらに、各分割チャンバー1は、内圧がかかると、シリンダケース100に一層強く固定されるように、内周壁が変形可能に薄く形成されている。なお、各分割チャンバー1は、例えば耐食性のステンレス(SUS304)で形成されている。
【0013】
ノズル管2は、シリンダケース100と保護カバー102間の隙間104から挿入されるため、直径が2mm程度の細径管となっている。また、ノズル管2は、洗浄液を軸方向に泡状に噴射するノズルタイプ(A)と、洗浄液をシリンダロッド101に向けて横方向に泡状に噴射するノズルタイプ(B)とに分かれており、各ノズルタイプ(A)、(B)を例えば交互に分割チャンバー1に取り付けることにより、シリンダロッド101の表面を泡状の洗浄液で万遍なく洗浄することができる。また、各ノズル管2は挿入時に曲がったりしないようにするためには金属製がよく、SUS304等の耐食性のものがより好ましい。
【0014】
混合器3は、図4、図5に示すように、混合器本体30と、塩分除去剤(例えば、商品名「SALT TERMINATOR」)の溶液が入れられた洗浄液容器4とから構成されている。混合器本体30は、大きい径の第1孔31と、これより小さい径の第2孔32が同軸上に設けてあり、第1孔31および第2孔32にそれぞれ連通する第1連通孔33、第2連通孔34が容器取付部35内に設けられている。ここで、第1孔31の内径をd1、第2孔32の内径をd2、第1孔31と第2孔32の接続線40からの第1孔31、第2孔32の長さをそれぞれL1、L2、上記接続線40からの第1連通孔33、第2連通孔34の間隔をそれぞれa1、a2とすると、これらd1、d2、L1、L2、a1、a2の寸法の比率によって塩分除去剤の溶液と水の混合比が決まる(なお、第1連通孔33、第2連通孔34は同じ内径寸法である)。この混合比は、各ノズル管2から洗浄液を噴射したとき、洗浄液が泡状に噴射されるための条件である。
【0015】
次に、上記のように構成された本洗浄装置の使用方法について、図1から図5を参照して説明する。
まず、各分割チャンバー1のネジ穴にノズルタイプ(A)、(B)のノズル管2を交互に取り付け、ナットで固定する。このとき、ノズルタイプ(B)のノズル管2は噴射口がシリンダロッド101側を向くように取り付ける。このようにして各洗浄ヘッドを組み立て、シリンダケース100と保護カバー102間の隙間104からノズル管2をゆっくりと挿入する。そして、所定の箇所で2つの分割チャンバー1をトグル掛け金5で連結してシリンダケース100に軽く保持させる。次に、混合器3をY型の分岐ホース11により各分割チャンバー1と接続し、さらにこの混合器3と水道水の蛇口、あるいは水陸両用車に搭載されている水タンクとを水道水ホースを用いて接続する。なお、これらのホース接続部はワンタッチカプラで構成されているため簡単に接続できる。そして、洗浄液容器4に上記塩分除去剤の溶液を所定量(満タンで約120ml)入れ、混合器本体30に取り付ける。
以上で洗浄準備作業が終了する。
【0016】
次に、上記水道水の蛇口等をひねり通水を開始する。水圧は0.5〜0.7MPaであればよい。通水を開始すると、混合器3において、径の大きい第1孔31から一部の水が第1連通孔33を通じて洗浄液容器4内に入り、塩分除去剤の溶液を押し出す。押し出された塩分除去剤の溶液は第2連通孔34を通じて、径の小さい第2孔32内に入り、所定の混合比で水と混合・希釈され、この混合液がY型の分岐ホース11を通じて各分割チャンバー1に圧送される。各分割チャンバー1は、内圧がかかると、瞬時にシリンダケース100に抱着し強く固定・保持される。そのため、軸方向噴射のノズルタイプ(A)からの噴射圧力の反力によって、分割チャンバー1がずり落ちるようなことがなく、シリンダケース100に傷を付けることがない。
各ノズルタイプ(A)、(B)のノズル管2から洗浄液が泡状に噴射し、これによってシリンダロッド101の表面を万遍なく洗い流す。その結果、シリンダロッド101の表面に付着している塩分の結晶を除去することができる。洗浄液容器4内の塩分除去剤溶液が空になった後では清水を通水して、すすぎ洗いを行う。その後、本洗浄装置を取り外し、シリンダロッド101を乾燥後、グリース等の潤滑油を塗布して作業が完了する。
【0017】
以上のように、本洗浄装置によれば、水陸両用車のショックアブソーバである油圧シリンダを取り外したり分解することなく、そのシリンダロッドに付着した塩分の結晶を確実に洗浄・除去することができる。洗浄時間は1台当たり15分程度で終了する。また、加圧ポンプなどの付加的な圧力源を必要とせずに簡単な洗浄装置で洗浄することができる。さらに、塩分除去剤を使用することにより、洗浄後の塩分濃度は0.01%以下であったことを確認している。塩分濃度が0.01%以下であれば、シリンダロッド表面のメッキを腐食させることはない。なお、清水のみで洗浄した場合には、洗浄後の塩分濃度は0.14%であり、塩分濃度が高いため、シリンダロッド表面を腐食させる可能性が高い。
また、本洗浄装置は、何ら熟練を要せず、取扱説明書を読めば誰でも容易に洗浄を実施することができる。
【0018】
本洗浄装置は、水陸両用車のショックアブソーバである油圧リンダを洗浄の対象として説明したが、保護カバー付きのシリンダ装置全般について適用することができる。また、シリンダロッド表面の付着物は塩分の結晶に限られない。付着物の種類、性状等によって適切な洗浄液を使用すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るシリンダカバー内洗浄装置の概要を示す構成図。
【図2】本洗浄装置の要部を示す側面図。
【図3】本洗浄装置の混合器の断面平面図。
【図4】図3の混合器本体の断面側面図。
【図5】洗浄時の使用状態を示す説明図。
【図6】洗浄対象の油圧シリンダの構成図。
【符号の説明】
【0020】
1 分割チャンバー、2 ノズル管、3 混合器、4 洗浄液容器、5 トグル掛け金、100 シリンダケース、11 分岐ホース、12 ナベ小ネジ、30 混合器本体、31 第1孔、32 第2孔、33 第1連通孔、34 第2連通孔、35 容器取付部、101 シリンダロッド、102 保護カバー、103 油密パッキン、104 シリンダケースと保護カバーとの隙間、105 シリンダロッドと保護カバーの間の空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ装置のシリンダロッドに保護カバーが取り付けられており、この保護カバー内のシリンダロッド表面を洗浄する装置であって、
前記シリンダ装置のシリンダケースを把持する2つに分割された分割チャンバーと、各分割チャンバーに着脱自在に取り付けられ、前記シリンダケースと保護カバーとの隙間から挿入される複数本のノズル管と、前記分割チャンバーに水と洗浄液との混合液を供給する混合器とを備えたことを特徴とするシリンダカバー内洗浄装置。
【請求項2】
前記混合液を軸方向に噴射するノズル管と、前記混合液を前記シリンダロッドに向けて横方向に噴射するノズル管とを周方向に交互に設けたことを特徴とする請求項1記載のシリンダカバー内洗浄装置。
【請求項3】
前記分割チャンバーは、内圧がかかると、前記シリンダケースに強く保持されることを特徴とする請求項1または2記載のシリンダカバー内洗浄装置。
【請求項4】
洗浄液に塩分除去剤を用いたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリンダカバー内洗浄装置。
【請求項5】
前記混合器は、水道水の蛇口または既存の水タンクに接続されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシリンダカバー内洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36150(P2010−36150A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204232(P2008−204232)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】