説明

シリンダブロックのめっき処理装置

【課題】シール位置の位置精度が高く、シリンダブロックの固定およびシール治具の保持を簡便な動作で可能な低廉な構造を備え、エンジン小型化に柔軟に対応可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提案する。
【解決手段】めっき処理装置1は、シリンダブロック101を載置自在な載置台3と、シリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する筒状電極6と、筒状電極6の自由端部に設けられたシール治具7と、シリンダ内周面103の他方側の開口端をシール可能な拡張状態に伸縮可能な拡張シール部材31と、シール治具7に着脱自在に接続され拡張シール部材31を拡張状態に作動させるエアジョイント9と、載置台3とともにシリンダブロック101を挟み込んで保持する上治具8と、エアジョイント9とシール治具7とを連結するときに位置調整を行うコイルスプリング33と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックのシリンダ内周面をめっき処理するシリンダブロックのめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダボア内に配置される電極を備え、電極とシリンダとの間にめっき処理液を流動させてシリンダ内周面にめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置が知られている。
【0003】
このようなシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダヘッド側を下方に向けた状態のシリンダブロックを載置する載置台と、シリンダボアのシリンダヘッド側の開口からシリンダボア内に挿入されシリンダ内周面との間に環状の処理液流路を形成する筒状電極と、シリンダボアのクランクケース側の端部を塞ぐシール治具と、を備える。このように構成されたシリンダブロックのめっき処理装置は、処理液流路内にクランクケース側からシリンダヘッド側に向かってめっき処理液を流通させつつシリンダブロックと筒状電極との間に電位差を生じさせ、シリンダ内周面にめっき層を形成する。
【0004】
ここで、シリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダボアのクランクケース側の開口とシール治具との隙間からめっき処理液が漏洩しないよう、これらの間の液密を保つ必要がある。
【0005】
そこで、傘状に展開、折り畳み可能な機構を有する拡径および縮径自在なシール治具を備えたシリンダブロックのめっき処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、Oリングや円板状のゴム板を機械的に押し潰して拡径させるシール治具を備えたシリンダブロックのめっき処理装置が知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−81995号公報
【特許文献2】特開平8−92789号公報
【特許文献3】特開平8−261055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダブロックを載置台上に載置させた後、載置台に対して相対的に移動可能なシール治具を適宜に配置させてシリンダボアを塞いでいた。また、従来のシリンダブロックのめっき処理装置は、シール治具を拡径させるとき、傘状に展開する機構や、Oリングや円板状のゴム板を機械的に押し潰す機構を作動させる。
【0009】
このように構成された従来のシリンダブロックのめっき処理装置は、シール治具全体の位置決め精度および拡径状態のシール治具とシリンダ内周面との接触位置の再現性精度がいずれも低く、シリンダ内周面の狙い位置に対する実際のシール位置の位置精度が得られないという問題があった。
【0010】
また、従来のシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダブロックを固定する機構とシリンダボア内にシール治具を保持する機構とが個別無関係に機能するため、それぞれの駆動源や保持機構を別個に必要とし、構造が複雑かつ費用が高額になるという問題があった。特に多気筒エンジン用のシリンダブロックのめっき処理装置は、構造の複雑さや、費用の増加が著しい。
【0011】
さらに、近年のエンジンの小型化にともなってシリンダブロックの小型化も進み、多気筒エンジン用のシリンダブロックのめっき処理装置は、シール治具を拡径させるエアシリンダなど、駆動にともない相応の空間が必要な駆動源を気筒毎に並接させることが困難になっている。
【0012】
そこで、本発明は、シール位置の位置精度が高く、シリンダブロックの固定およびシール治具の保持を簡便な動作で可能な低廉な構造を備えるとともに、エンジン小型化に柔軟に対応可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するため本発明に係るめっき処理装置は、シリンダボアを形成する円筒形状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置自在な載置台と、前記シリンダボアの一方側の開口から前記シリンダボア内に挿入され前記シリンダ内周面との間に環状の処理液流路を形成する電極と、前記電極の自由端部に設けられ前記シリンダボアの他方側の開口近傍に配置されるシール治具と、前記シール治具に設けられ前記シリンダボア内に挿入可能な収納状態と前記シリンダ内周面の他方側の開口端をシール可能な拡張状態とに伸縮可能な拡張シール部材と、前記シール治具に着脱自在に接続され前記拡張シール部材を拡張状態に作動させる駆動装置と、前記載置台とともに前記シリンダブロックを挟み込んで保持する上治具と、前記上治具に前記駆動装置を移動自在に保持し前記駆動装置と前記シール治具とを連結するときに位置調整を行うスプリングと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シール位置の位置精度が高く、シリンダブロックの固定およびシール治具の保持を簡便な動作で可能な低廉な構造を備え、さらにエンジン小型化に柔軟に対応可能なシリンダブロックのめっき処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した正面図。
【図2】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置のシール治具および筒状電極を示した断面図。
【図5】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の上治具およびエアジョイントを示した断面図。
【図6】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の上治具およびエアジョイントを示した断面図。
【図7】本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を用いためっき処理工程を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置の実施の形態について、図1から図7を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した正面図である。
【0018】
図2および図3は、図1のII−II線における本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を示した断面図である。なお、図2は、シリンダブロック101のめっき処理装置1(以下、単に「めっき処理装置1」と呼ぶ。)のめっき処理最中の状態を示す図であり、図3は、めっき処理装置1の準備最中の状態を示す図である。
【0019】
図1から図3に示すように、めっき処理装置1は、シリンダボア102を形成する円筒形状のシリンダ内周面103を有するシリンダブロック101を載置自在な載置台3と、シリンダボア102の一方側(ここではシリンダヘッド側)の開口102aからシリンダボア102内に挿入されシリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する筒状電極6(電極)と、筒状電極6の自由端部に設けられシリンダボア102の他方側(ここではクランクケース側)の開口102b近傍に配置されるシール治具7と、載置台3とともにシリンダブロック101を挟み込んで保持する上治具8と、シール治具7の駆動源としての作動流体を供給するエアジョイント9(駆動装置)と、処理液流路4にめっき処理液11を供給する処理液循環装置12(めっき処理液供給装置)と、シリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を発生させる電源装置13と、を備える。
【0020】
めっき処理装置1は、シリンダ内周面103と筒状電極外周面6aとの隙間で形成された処理液流路4に、めっき処理液11を流通させつつシリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を生じさせ、シリンダ内周面103にめっき層を形成する。
【0021】
シリンダブロック101は、例えばアルミニウム合金を素材とする鋳物製であり、並列多気筒エンジン等の内燃機関(図示省略)を構成する部材の一部である。シリンダブロック101は、中空なシリンダボア102を形成する円筒形状のシリンダ内周面103と、シリンダヘッド(図示省略)との合わせ面105と、クランクケース(図示省略)との合わせ面106と、を有する。シリンダブロック101は、めっき処理装置1によってシリンダ内周面103にめっき処理される。
【0022】
なお、図2および図3は、シリンダブロック101が有する複数、例えば3つのシリンダボア102のうち1つのシリンダボア102におけるめっき処理装置1を示したものである。めっき処理装置1は、他のシリンダボア102についても同様な構成を並列に備える。
【0023】
めっき処理装置1の載置台3は、装置全体の自重を支える下治具15と、下治具15の上面に着脱自在に配置された厚板状の絶縁部材16と、絶縁部材16の上面に設けられた厚板状の導電板17と、絶縁部材16を貫通する筒状のシール受け台18と、シール受け台18の上部に設けられた環状のシール部材21と、を備える。
【0024】
下治具15は、シリンダ内周面103と略同径な下治具回収孔23を有するとともに、下治具回収孔23内に延在された電極支持台24を備える。電極支持台24は、中空な管である。
【0025】
導電板17は、複数のステンレス製の平板を層状に組み合わせて構成されるとともに、平滑な載置面25を有する。シリンダブロック101は、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁を除く合わせ面105を載置面25に当接させて載置台3に載置される。導電板17およびシリンダブロック101は、互いに接する載置面25および合わせ面105によって電気的に接続される。また、導電板17は、油圧シリンダ等の昇降装置(図示省略)によってシリンダボア102の中心線に沿って移動可能に構成される。さらに、導電板17は、層状に組み合わされた複数のステンレス製の平板で挟み込むようにしてシール受け台18およびシール部材21を保持する。
【0026】
絶縁部材16は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体である。絶縁部材16は、下治具15と導電板17との間の液密を保つとともに、下治具15とシリンダブロック101との間を電気的に絶縁する。これによって、めっき処理装置1は、処理液流路4を流動するめっき処理液11を介して筒状電極6とシリンダブロック101とを通電させてシリンダ内周面103にめっき層を効率よく形成できる。
【0027】
シール受け台18は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体であり、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁にシール部材21を位置させる。さらに、シール受け台18の中空部分は、回収孔27を形成する。
【0028】
シール部材21は、例えばシリコンゴムで形成された絶縁体であり、シール受け台18の自由端部に設けられる。また、シール部材21は、シリンダブロック101が導電板17に載置されると、シリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁に当接しつつ、合わせ面105とシール受け台18との間に挟み込まれ、シリンダボア102と回収孔27との間の液密を保つ。
【0029】
導電板17、シール受け台18およびシール部材21は、下治具15から一体的に着脱できる。めっき処理装置1は、先ず、導電板17の載置面25にシリンダブロック101を配置し、次いで、シリンダブロック101と導電板17とを一括して絶縁部材16上へ載置することによって載置台3にシリンダブロック101を載置する。
【0030】
筒状電極6は、下治具15の電極支持台24の自由端部に支持され、回収孔27から載置台3の上方に向けて突出される。また、筒状電極6は、電極支持台24を介して電源装置13に電気的に接続される。さらに、筒状電極6は、シリンダブロック101が載置台3に載置されたとき、シリンダボア102内に配置され筒状電極外周面6aとシリンダ内周面103との間に環状の処理液流路4を形成する。さらにまた、筒状電極6は、電極内処理液供給流路29を形成する円筒状の筒状電極内周面6bを有する。
【0031】
シール治具7は、処理液流路4にめっき処理液11を導く際に、シリンダボア102のクランクケース側の開口102b近傍を塞ぐ。また、シール治具7は、シリンダブロック101が載置台3に載置されたとき、筒状電極6とともにシリンダボア102内に配置される。さらに、シール治具7は、エアジョイント9から供給される空気によって作動し、シリンダボア102のクランクケース側の開口102b近傍の液密を保つ拡張シール部材31を備える。
【0032】
上治具8は、シリンダブロック101の合わせ面106に当接され、載置台3との間にシリンダブロック101を挟み込んで保持する。また、上治具8は、油圧シリンダ等の昇降装置(図示省略)によって載置台3に接近する方向へ移動可能に構成され、シリンダブロック101の合わせ面106を押さえつける。さらに、上治具8は、エアジョイント9を上治具8の移動方向に沿って摺動自在に保持する筒状のエアジョイント保持部材32と、エアジョイント9を上治具8に移動自在に保持しつつ載置台3の方向へ付勢し、エアジョイント9とシール治具7とを連結するときにエアジョイント9の位置調整を行うコイルスプリング33と、を備える。
【0033】
エアジョイント9は、拡張シール部材31を作動させるための作動流体としての空気をシール治具7に供給する作動流体供給路34を備える。また、エアジョイント9は、上治具8がシリンダブロック101の合わせ面106を押さえつける動作にともなってシール治具7に連結され、作動流体を供給可能な状態になる。
【0034】
処理液循環装置12は、めっき処理液11を蓄えるタンク36と、タンク36から載置台3にめっき処理液11を案内する供給路37と、供給路37に設けられたポンプ38と、載置台3からタンク36にめっき処理液11を回収する回収路39と、回収路39に設けられた流量計41と、を備える。また、処理液循環装置12は、流量計41の測定値からフィードバック制御によってポンプ38の運転出力を調整し、めっき処理液11の流速を制御する。
【0035】
電源装置13は、電極支持台24および導電板17にそれぞれ電気的に接続され、シリンダブロック101と筒状電極6との間に電位差を生じさせる。また、電源装置13は、シリンダ内周面103をめっき処理するとき、筒状電極6を陽極に、シリンダブロック101を陰極になるよう電気を流す。
【0036】
このような構成によって、めっき処理装置1は、タンク36から処理液循環装置12の供給路37、電極支持台24の管内、電極内処理液供給流路29を順次に経て処理液流路4にめっき処理液11を送給し、処理液流路4からシール受け台18の回収孔27と筒状電極6との間に形成された隙間、下治具15の下治具回収孔23と電極支持台24との間に形成された隙間、処理液循環装置12の回収路39を順次に経てタンク36にめっき処理液11を回収する。
【0037】
図4は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置のシール治具および筒状電極を示した断面図である。
【0038】
図4に示すように、めっき処理装置1のシール治具7は、筒状電極6の自由端部に取り付けられる。
【0039】
シール治具7は、シリンダボア102内に挿入可能な収納状態とシリンダ内周面103のクランクケース側の開口端を液密にシール可能な拡張状態とに伸縮可能な拡張シール部材31と、拡張シール部材31を挟み込んで保持するシール下板42およびシールベース43と、シール下板42およびシールベース43を筒状電極6の自由端部に固定するボルト44と、を備える。
【0040】
拡張シール部材31は、伸縮自在な材料(例えばシリコンゴムやフッ素ゴムなどの弾性部材)を用い、浮き輪形状に形成される。拡張シール部材31の内周側部分は、開口31aを有するとともに、開口31a近傍の両側に形成された係合突起46を備える。拡張シール部材31の外周側部分は、シリンダ内周面103に接触可能なシール面31bである。拡張シール部材31の外径寸法は、その内部に作動流体が供給されない状態(収縮状態)においてシリンダ内周面103の内径寸法よりも若干小さな値に設定される。
【0041】
シール下板42は、円板状に形成された下円板部47と、シールベース43側へ突出させて下円板部47の中央に一体に形成された下膨出部48と、筒状電極6側へ突出させて下円板部47の中央に一体に形成された円錐台状膨出部49と、を備える。また、シール下板42は、絶縁体を用いて形成され、金属を用いて形成されたシールベース43を筒状電極6に対して絶縁する。
【0042】
下円板部47は、下膨出部48との境界部分にリング形状に凹没された係合溝52を有する。
【0043】
円錐台状膨出部49は、筒状電極6の自由端部が嵌め込まれた凹部53を有する。
【0044】
シールベース43は、円板状に形成された上円板部55と、上円板部55の中央に一体に形成された上膨出部56と、を備える。
【0045】
上円板部55は、シール下板42の下膨出部48が嵌合された凹部58と、凹部58の外縁にリング形状に凹没された係合溝59と、を有する。
【0046】
シール下板42およびシールベース43は、係合溝52と係合溝59とに係合突部46を係合させて拡張シール部材31の内周側を拘束する。また、シール下板42およびシールベース43は、上円板部55および下円板部47によって拡張シール部材31を挟み込み、作動流体が流れ込んだ拡張シール部材31の外径寸法が大きくなるように変形するよう拡張シール部材31のシリンダボア102の中心線に沿う方向の拡張を拘束する。
【0047】
また、シール治具7は、シール下板42の下膨出部48の外周に嵌め込まれ拡張シール部材31の内側に挿入されたリング部材64を備える。
【0048】
リング部材64は、その内周面に連続的に開口させた周溝66と、周溝66と拡張シール部材31の内側とを連通させる作動流体噴出孔67と、を有する。作動流体噴出孔67は、リング部材64の周方向複数箇所(例えば3箇所)に開口される。
【0049】
さらに、シール治具7は、シールベース43の上膨出部56を貫通しシール下板42の下膨出部48に至る作動流体導入路68を有する。作動流体導入路68は、エアジョイント9の作動流体供給路34に連結されるとともに、リング部材64の周溝66を介して拡張シール部材31の内部に連通される。
【0050】
筒状電極6の自由端部は、筒状電極6内に形成された電極内処理液供給流路29と処理液流路4とを連通させる複数のスリット孔69を有する。スリット孔69は、処理液循環装置12から供給されためっき処理液11を電極内処理液供給流路29から処理液流路4に流し込む。これによって、めっき処理液11は、クランクケース側からシリンダヘッド側に向かって処理液流路4を流動する。
【0051】
図5および図6は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置の上治具およびエアジョイントを示した断面図である。なお、図5は、上治具8および載置台3によってシリンダブロック101が保持された状態を示した図であり、図6は、上治具8が載置台3に接近しエアジョイント9がシール治具7に当接された状態を示した図である。
【0052】
図5および図6に示すように、めっき処理装置1のエアジョイント9は、エアジョイント保持部材32を介して上治具8に設けられ、コイルスプリング33によって載置台3の方向へ付勢される。また、エアジョイント9は、作動流体供給路34の一部を有する円柱状のジョイント本体71と、エアジョイント保持部材32とともにコイルスプリング33を挟み込む調整用ダブルナット72、73と、エアジョイント9の自由端に設けられ、シール治具7との当接面および作動流体供給路34の残部を有する軟質な連結部74と、を備える。
【0053】
さらに、エアジョイント9は、上治具8を載置台3に接近する方向へ移動させたとき、上治具8がシリンダブロック101のクランクケース側の合わせ面106に当接されるよりも先行して連結部74をシール治具7に当接させる。具体的には、エアジョイント9は、上治具8がシリンダブロック101のクランクケース側の合わせ面106に当接されるよりも約10mm先行して連結部74をシール治具7に当接させる。
【0054】
調整用ダブルナット72、73は、コイルスプリング33に適宜の付勢力を予め付与し、連結部74とシール治具7との押圧荷重を適宜に調整可能にするものである。調整用ダブルナット72、73は、ジョイント本体71の雄ネジ部71aに螺合されジョイント本体71の長手軸方向へ移動自在に構成される。調整用ダブルナット72、73によって調整される連結部74とシール治具7との押圧荷重は、約20kgから約50kgが好ましい。
【0055】
連結部74は、円形厚板状のゴム板を用いて形成され、エアジョイント9のシール治具7側の自由端を構成する。また、連結部74は、コイルスプリング33からジョイント本体71に加わる付勢力によってシール治具7に押圧され連結される。このとき、連結部74は、エアジョイント9の作動流体供給路34をシール治具7の作動流体導入路68に連通させる。
【0056】
図7は、本発明の実施形態に係るシリンダブロックのめっき処理装置を用いためっき処理工程を示したフローチャートである。
【0057】
図7に示すように、めっき処理装置1を用いたシリンダブロック101のめっき処理工程(以下、単に「めっき処理工程」と呼ぶ。)は、シリンダブロック101を載置台3に載置する工程S1と、シリンダブロック101のシリンダボア102内に筒状電極6を配置し、シリンダ内周面103と筒状電極6との間に処理液流路4を形成する工程S2と、上治具8を載置台3に向かって移動しエアジョイント9とシール治具7との連結およびシリンダブロック101の保持を行う工程S3と、シール治具7を拡径する工程S4と、処理液流路4のクランクケース側からシリンダヘッド側に向けてめっき処理液11を流す工程S5と、筒状電極6とシリンダブロック101との間に電位差を発生しシリンダ内周面103にめっき処理を施す工程S6と、を有する。
【0058】
先ず、工程S1は、シリンダブロック101の合わせ面105を導電板17に載置する。このとき、シリンダブロック101と導電板17との電気的な接続が成される。また、工程S1は、導電板17にシリンダブロック101を載置すると同時にシリンダボア102のシリンダヘッド側開口縁にシール部材21を当接して押し潰し、導電板17とシリンダブロック101との間の液密を保つ。
【0059】
次に、工程S2は、導電板17、シール受け台18およびシール部材21を昇降装置(図示省略)によってシリンダボア102の中心線に沿ってシリンダブロック101とともに一体的に移動し、絶縁部材16上に載置する。これによって、シリンダブロック101は、載置台3に載置される。また、このとき、筒状電極6およびシール治具7は、シリンダボア102内に配置される。
【0060】
次に、工程S3は、昇降装置(図示省略)によって上治具8を載置台3に向けて移動する。上治具8が載置台3に向かう当初、エアジョイント9は、コイルスプリング33の付勢力によって載置台3側へ突出している。上治具8が載置台3に接近すると、先ず、エアジョイント9の連結部74がシール治具7に接触する。この後、さらに上治具8が載置台3に接近すると、コイルスプリング33が押し縮められエアジョイント9とシール治具7とが連結される。さらに上治具8が載置台3に接近すると、上治具8と載置台3との間にシリンダブロック101が挟み込まれて保持される。上治具8および載置台3によってシリンダブロック101が保持されると、エアジョイント9は、コイルスプリング33によって常に連結部74をシール治具7に押し当て密着させる。
【0061】
次に、工程S4は、エアジョイント9からシール治具7に作動流体(空気)を供給する。シール治具7は、供給された作動流体によって拡張シール部材31を拡径させ、シリンダボア102のクランクケース側の開口102b近傍の液密を保つ。これによって、筒状電極外周面6a、シリンダ内周面103およびシール治具7に囲まれた処理液流路4が形成される。
【0062】
次に、工程S5は、処理液循環装置12のポンプ38を運転し、タンク36、供給路37、電極内処理液供給流路29、処理液流路4および回収路39を順次に経てめっき処理液11を循環する。この循環流は、処理液流路4のクランクケース側からシリンダヘッド側に向けてめっき処理液11を流す。
【0063】
次に、工程S6は、電源装置13によって筒状電極6を陽極に、シリンダブロック101を陰極になるよう電気を流す。これによって、シリンダブロック101のシリンダ内周面103にめっき層が形成される。
【0064】
このように構成された本実施形態に係るめっき処理装置1は、筒状電極6の自由端部に設けられたシール治具7を筒状電極6とともにシリンダボア102内に配置するため、筒状電極6とシール治具7との位置関係が変化しない。また、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シール治具7のシール下板42およびシールベース43によって拡張シール部材31がシリンダボア102の中心線に沿う方向(ボアストローク方向)に拡張しないよう拘束している。これらによって、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シール治具7全体の位置決め精度および拡径状態のシール治具7(より詳しくは、拡張シール部材31)とシリンダ内周面103との接触位置の再現性精度がいずれも高く、シリンダ内周面103の狙い位置に対する実際のシール位置を精度よく制御できる。
【0065】
一般に、筒状電極6とシール治具7によるシール位置との相対的な位置関係が変化すると、シリンダ内周面103のめっき層が形成される範囲に変動が生じてしまうとともに、シール治具7近傍のめっき層の膜厚に変動が生じてしまうことになり、めっき不良が生じてしまう。しかし、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シール治具7全体の位置決め精度および拡径状態のシール治具7(より詳しくは、拡張シール部材31)とシリンダ内周面103との接触位置の再現性精度がいずれも高く、めっき層が形成される範囲を適正に保つとともに、めっき層の適正な膜厚を得ることができる。
【0066】
また、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シリンダブロック101を固定する上治具8および載置台3と、シリンダボア102内にシール治具7を保持する筒状電極6とが、上治具8と載置台3との間にシリンダブロック101を挟み込むことによって適宜にめっき処理可能な位置に配置される。また、本実施形態に係るめっき処理装置1は、上治具8と載置台3との間にシリンダブロック101を挟み込む動作によってシール治具7とエアジョイント9との連結を行うこともできる。このように、本実施形態に係るめっき処理装置1は、上治具8を移動させるだけでシリンダブロック101のめっき処理が可能な状態になるので、簡便かつ低廉な構造によるめっき処理が可能となる。
【0067】
さらに、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シール治具7の拡張シール部材31を拡径させるための作動流体を導く作動流体供給路34を備えたエアジョイント9を用いるため、エアシリンダのような駆動にともない相応の空間が必要な駆動源を気筒毎に並接させる必要が無く、小型なシリンダブロックのめっき処理を容易に行うことができる。
【0068】
さらにまた、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シリンダヘッドとの合わせ面105およびクランクケースとの合わせ面106を挟み込んでシリンダブロック101を保持しつつ、コイルスプリング33の付勢力によってシール治具7にエアジョイント9を連結させる構造を有する。
【0069】
一般に、シリンダブロックおよびめっき処理装置の各部は、めっき前処理やめっき処理における温度上昇による熱膨張をともなうが、各部分の熱膨張率の差によってその膨張量が異なる。この膨張量の差は、シリンダブロック101を保持する上治具8と載置台3との相対的な位置関係と、シール治具7に連結されるエアジョイント9と上治具8との相対的な位置関係とを個別に異ならせてしまう。そうすると、めっき処理装置1は、シリンダブロック101の保持力を失ったり、シール治具7とエアジョイント9との間に隙間を生じて拡張シール部材31の拡径を保てなくなったりする虞がある。しかし、本実施形態に係るめっき処理装置1は、エアジョイント9をシール治具7に押圧させるコイルスプリング33によって、載置台3、シリンダブロック101、上治具8、筒状電極6、シール治具7およびエアジョイント9の相対的な位置関係の変化を吸収できるので、シリンダブロック101を確実に保持できるとともに、拡張シール部材31の拡径を確実に保つことができる。
【0070】
また、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シリンダブロック101のそれぞれのシリンダボア102に対して独立させたエアジョイント9を備える。これによって、本実施形態に係るめっき処理装置1は、シリンダボア102のボアストローク方向の長さが個別に異なっていたり、シリンダヘッドとの合わせ面105およびクランクケースとの合わせ面106の平行度が均一ではなかったり、筒状電極6の長さが異なったりしても、シール治具7とエアジョイント9とを確実に連結できる。また、本実施形態に係るめっき処理装置1は、筒状電極6にスペーサ(図示省略)などを挿入して長さを変化させる場合、調整用ダブルナット72、73によるコイルスプリング33の圧縮量を調整することによって、エアジョイント9を変更することなく、多種多様なシリンダブロック101のめっき処理を容易に行うことができる。
【0071】
したがって、本発明に係るめっき処理装置1によれば、シール位置の位置精度が高く、シリンダブロック101の固定およびシール治具7の保持を簡便な動作で可能な低廉な構造を備えるとともに、エンジン小型化に柔軟に対応できる。
【符号の説明】
【0072】
101 シリンダブロック
102 シリンダボア
102a 開口
102b 開口
103 シリンダ内周面
105 合わせ面
106 合わせ面
1 めっき処理装置
3 載置台
4 処理液流路
6 筒状電極
6a 筒状電極外周面
6b 筒状電極内周面
7 シール治具
8 上治具
9 エアジョイント
11 めっき処理液
12 処理液循環装置
13 電源装置
15 下治具
16 絶縁部材
17 導電板
18 シール受け台
21 シール部材
23 下治具回収孔
24 電極支持台
25 載置面
27 回収孔
29 電極内処理液供給流路
31 拡張シール部材
31a 開口
31b シール面
32 エアジョイント保持部材
33 コイルスプリング
34 作動流体供給路
36 タンク
37 供給路
38 ポンプ
39 回収路
41 流量計
42 シール下板
43 シールベース
44 ボルト
46 係合突起
47 下円板部
48 下膨出部
49 円錐台状膨出部
52 係合溝
53 凹部
55 上円板部
56 上膨出部
58 凹部
59 係合溝
64 リング部材
66 周溝
67 作動流体噴出孔
68 作動流体導入路
69 スリット孔
71 ジョイント本体
71a 雄ネジ部
72 調整用ダブルナット
74 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアを形成する円筒形状のシリンダ内周面を有するシリンダブロックを載置自在な載置台と、
前記シリンダボアの一方側の開口から前記シリンダボア内に挿入され前記シリンダ内周面との間に環状の処理液流路を形成する電極と、
前記電極の自由端部に設けられ前記シリンダボアの他方側の開口近傍に配置されるシール治具と、
前記シール治具に設けられ前記シリンダボア内に挿入可能な収納状態と前記シリンダ内周面の他方側の開口端をシール可能な拡張状態とに伸縮可能な拡張シール部材と、
前記シール治具に着脱自在に接続され前記拡張シール部材を拡張状態に作動させる駆動装置と、
前記載置台とともに前記シリンダブロックを挟み込んで保持する上治具と、
前記上治具に前記駆動装置を移動自在に保持し前記駆動装置と前記シール治具とを連結するときに位置調整を行うスプリングと、を備えたことを特徴とするシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項2】
前記載置台の上方から前記上治具を下降させて前記シリンダブロックを前記載置台と前記上治具との間に挟み込むとともに、前記駆動装置を前記上治具と一体的に下降させて前記シール治具に連結させることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記拡張シール部材を拡張状態に作動させる作動流体を前記シール治具に供給可能に構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項4】
前記電極は、前記シリンダ内周面にめっき処理液を供給する流路を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシリンダブロックめっき処理装置。
【請求項5】
前記シリンダブロックは、クランクケース内に前記シリンダボアの他方側の開口を覆うように張り出して形成されたクランクジャーナルを備え、
前記電極および前記シール治具は、前記シリンダブロックのシリンダヘッド側から前記シリンダボアに挿入され、
前記駆動機構は、前記クランクケース側から前記シール治具に連結されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のシリンダブロックめっき処理装置。
【請求項6】
前記拡張シール部材は、前記シリンダ内周面の内径寸法に近い外径寸法を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のシリンダブロックめっき処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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