説明

シリンダブロック

【課題】シリンダライナの中途部をシリンダブロック外壁から結合する結合壁により、ボルト締結時の軸力によってシリンダライナが変形するのを防止できるようにする。
【解決手段】シリンダライナ1の中途部を、シリンダヘッド200とのボルト締結部2を有したシリンダブロック外壁3に、結合壁4により結合し、この結合部の上のシリンダライナ1上部とシリンダブロック外壁3上部との間をウォータジャケット5とし、シリンダライナ1の前記結合部から下をシリンダブロック外壁3から分離して自由端とするのに、結合壁4は、シリンダブロック外壁3との結合点P1と、シリンダライナ1との結合点P2とを結ぶ直線Lがシリンダライナ1のシリンダボア6まわりの主シール面7から外れない範囲で、上方に向けシリンダボア6側に傾斜させたことにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などのエンジンにおけるシリンダブロック、詳しくは、シリンダライナの中途にシリンダヘッドとのボルト締結部との結合部があるシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
図2に示すような従来のシリンダブロックaは、シリンダライナbとシリンダブロックaの外壁cとの間に形成しているウォータジャケットdの底部が、外壁cのシリンダヘッドeとのボルトjによるボルト締結部とシリンダライナbとの結合壁fになっている。シリンダブロックaは、図示しないガスケットを介してシリンダヘッドとボルトjにより締結され、シリンダライナbとシリンダヘッドeとの間、つまりシリンダボアkまわりの主シール部hにおいて、他のシール部よりも高いシール性を確保するようになっている。
【0003】
この結果、ボルト締結時、主シール部hが他に先んじて圧接限界に至った後も、ボルトjによる締結が進むことになる。この主シール部hの圧接限界後のボルト締結による軸力はボルト締結部に引き上げ力Fをもたらす。この引き上げ力Fは、結合壁fをそのシリンダライナbとの結合点Gを基点に上方に傾けようとし、これにシリンダライナbを追随させようとする外力として働く。これにより、引き上げ力Fは、図2に仮想線で示すようにシリンダライナbの、特に結合壁fの上部のボルト締結部近傍を結合基点Gまわりに内側に変形させるように作用する。また、このような変形の反動で、ボルト締結部間では外側に膨らむことになる。
【0004】
これを平面視すると、シリンダボアkは、図3に細線で示す真円から、太線で示すような四次変形となる。このような四次変形にはオイルリングが追随できずオイルの消費量が増大する。これを、オイルリングの張力を高めて対応するとシリンダボアとのフリクションが増大してしまう。
【0005】
一方、下記特許文献1は、下記の特許文献2に記載のシリンダブロックが、シリンダライナおよびシリンダブロック相互の段差部で支持する構造になっているため、シリンダヘッド取付け時の締め付け応力やシリンダライナ熱膨張による圧縮応力がシリンダライナに作用し、シリンダボアの真円度が低下することが予想され、真円度が低下するとピストン摺動時のピストンリングの追随性が低下してオイル消費が悪化したり、摺動抵抗の増加により燃費効率が低下する不具合が発生する点を指摘している。
【0006】
そして、これを解決するため、特許文献1はシリンダライナの上部円筒部とブロック外壁との間にウォータジャケットを構成する中央壁により、シリンダライナの中途部をブロック外壁に結合し、シリンダライナの下部円筒部をブロック外壁から分離させて自由端に構成したシリンダブロックを開示している。
【0007】
これにより、シリンダブロックにシリンダヘッド締結時におけるシリンダライナに加わる応力、およびエンジン運転時の燃焼圧によるクランクシャフト、ジャーナル、キャップボルトを介在して伝わりシリンダライナへ働く応力を緩和することができ、シリンダボアの変形を低減し、真円度を保つことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−154739号公報
【特許文献2】特開2002−276458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の技術は、特許文献2に記載のシリンダブロックで生じていたシリンダライナの変形を軽減し、シリンダボアの真円度を保てるにしても、既述した従来例での変形は軽減できず、真円度は保てない(特許文献1の図1、図2参照)。これを説明すると、特許文献1が開示するシリンダブロックは図2を利用して破線で示す構造であり、既述の従来例に対し、ウォータジャケットの上部でもシリンダブロック外壁とシリンダライナが結合され、シリンダライナの結合部よりも下部がシリンダブロック外壁から分離された自由端となっている点で相違している。
【0010】
ここで、ボルトjによる締結時の引き上げ力Fは、上部結合壁f1に対してはそのシリンダライナとの結合点G1を基点に上方に傾けようとし、これにシリンダライナの上部を追随させるように働き、下部結合壁f2に対しては、シリンダライナとの結合点G2を基点に上方に傾けようとし、これにシリンダライナが追随させるように働く。しかし、特許文献1に記載のシリンダブロックはそのような変形に対向する有効な構造を有していない。かえって、シリンダライナ自由端が、シリンダブロック外壁から分離されていることにより、自由端側は下部結合壁の傾きに追随して変形されやすいという問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑み、シリンダライナの中途部をシリンダブロック外壁から結合する結合壁により、ボルト締結時の軸力によってシリンダライナが変形するのを防止できるシリンダブロックを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のシリンダブロックは、シリンダライナの中途部を、シリンダヘッドとのボルト締結部を有したシリンダブロック外壁に、結合壁により結合し、この結合部の上のシリンダライナ上部とシリンダブロック外壁上部との間をウォータジャケットとし、シリンダライナの前記結合部から下をシリンダブロック外壁から分離して自由端としたシリンダブロックにおいて、結合壁は、シリンダブロック外壁との結合点と、シリンダライナとの結合点とを結ぶ直線がシリンダライナのシリンダボアまわりの主シール面から外れない範囲で、上方に向けシリンダボア側に傾斜させたことを特徴とする。
【0013】
このような構成では、シリンダブロックにシリンダヘッドをボルト締結したとき、シリンダブロック外壁のボルト締結部に働く引き上げ力は、シリンダブロック外壁から結合壁を介しシリンダライナに及ぶことに変わりはない。しかし、結合壁が、シリンダブロック外壁との結合点と、シリンダライナとの結合点とを結ぶ直線が、シリンダライナのシリンダボアまわりの主シール面から外れない範囲内にある条件を満足して、上方に向けシリンダボア側に傾斜していることで、シリンダブロック外壁側の引き上げ力は、結合壁をシリンダブロック外壁との結合点からシリンダライナとの結合点に向け突き上げるように働いて、シリンダライナ側に伝達することになる。
【0014】
このとき、結合壁がシリンダライナに伝達する突き上げ外力は、前記2つの結合点を結ぶ直線が通るシリンダライナのシリンダボアまわりの主シール面に及び、これに強圧接されるシリンダヘッド側に受け止められるので、シリンダライナの変形を防止できる。それには、結合壁の前記突き上げ外力に対する座屈強度を確保できれば十分である。
【0015】
上記において、さらに、ウォータジャケットと前記分離による分離隙間とは、シリンダライナまわりでラジアル方向に結合壁を挟んで重なって位置し、分離隙間の外側にウォータジャケットが位置し、ウォータジャケットの外側にボルト締結部が位置したものとすることができる。
【0016】
このような構成では、上記に加え、さらに、結合壁の傾斜を利用して分離隙間が、ウォータジャケットの下部とシリンダライナとの間にまで及ぶ。その結果、シリンダ下部が過冷却とならないような状態で、ヘッドボルトを冷却することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシリンダブロックによれば、シリンダブロックへのシリンダヘッドのボルト締結時に生じるシリンダブロック外壁側の引き上げ力が、結合壁をシリンダブロック外壁との結合点からシリンダライナとの結合点に向け突き上げるように働く。そしてシリンダライナ側に及ぶ突き上げ力を、結合壁のシリンダブロック外壁およびシリンダライナとの2つの結合点を結ぶ直線が通るシリンダライナのシリンダボアまわりの主シール面を介し、この主シール面に強圧接されるシリンダヘッド側で受け止める。その結果、シリンダライナが変形するのを防止し、シリンダボアの真円度を維持することができる。また、オイル消費の増大や摺動抵抗の増大を回避して、エンジン性能を高められる。従って、オイルリングの張力を高めて対応する場合のような不利も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るシリンダブロックを、シリンダヘッドのボルト締結状態で示す要部の断面図。
【図2】従来のシリンダブロックを、シリンダヘッドのボルト締結状態で示す要部の断面図。
【図3】図2の実線で示す従来例でのボルト締結によって生じるシリンダライナの変形に起因したシリンダボアの真円からの四次変形例を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係るシリンダブロックの1つの具体例について、図1を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0020】
図1に示す本実施の形態のシリンダブロック100は、シリンダライナ1の中途部を、シリンダヘッド200とのボルト締結部2を有したシリンダブロック外壁3に、結合壁4により結合し、この結合部の上の、シリンダライナ1の上部と、シリンダブロック外壁3の上部との間をウォータジャケット5とし、シリンダライナ1の前記結合部から下をシリンダブロック外壁3から分離して自由端とした基本構造を有している。
【0021】
このようなシリンダブロック100において、結合壁4は、シリンダブロック外壁3との結合点P1と、シリンダライナ1との結合点P2とを結ぶ直線Lがシリンダライナ1のシリンダボア6まわりに天面が形成している主シール面7から外れない範囲で、上方に向けシリンダボア6側に傾斜させている。
【0022】
ここで、直線Lが主シール面7から外れない範囲とは、結合点P1と結合点P2を結ぶ直線Lがウォータジャケット5若しくはシリンダボア6と交わらない範囲にあることをいう。ボルト300による引き上げ力Fを主シール面7に効率よく伝えるためである。
【0023】
なお、本実施の形態において、図1の断面で示されるとおり、結合壁4の軸線とシリンダブロック外壁3の内周面との交点が結合点P1であり、結合壁4の軸線とシリンダボア6の外周面との交点が結合点P2とする。
【0024】
これにより、シリンダブロック100にシリンダヘッド200をボルト300によりボルト締結したとき、シリンダブロック外壁3のボルト締結部2に働く引き上げ力Fは、シリンダブロック外壁3から結合壁4を介しシリンダライナ1に及んでシリンダライナ1に変形をもたらす原因になる。しかし、結合点P1と、結合点P2とを結ぶ直線Lが、シリンダライナ1のシリンダボア6まわりの主シール面7から外れない範囲内にあれば、上方に向けシリンダボア6側に傾斜していることで、シリンダブロック外壁3側の引き上げ力Fは、結合壁4を、その突っ張り作用に基づいて、結合点P1から結合点P2に向け突き上げるように働く。その結果、シリンダブロック外壁3側の引き上げ力Fは、シリンダライナ1側に伝達されることになる。
【0025】
このとき、結合壁4がシリンダライナ1に伝達する突き上げ外力F′は、前記2つの結合点P1、P2を結ぶ直線Lが通るシリンダライナ1のシリンダボアまわりの主シール面7に及ぶ。そして、これに強圧接されるシリンダヘッド200側に受け止められる。結果、シリンダライナ1の変形を防止できる。言い換えると、結合壁4の断面は突き上げ方向に向く直線Lに沿った直状形態とするのがよい。また、結合壁4の前記突き上げ外力に対する座屈強度を確保できれば十分である。
【0026】
以上のように本発明のシリンダブロックでは、シリンダブロック100へのシリンダヘッド200のボルト締結時に生じるシリンダブロック外壁3側の引き上げ力Fは、結合壁4をシリンダブロック外壁3との結合点P1からシリンダライナ1との結合点P2に向け突き上げるように働く。すると、シリンダライナ1側に及ぶ突き上げ力F′は、結合壁4のシリンダブロック外壁3およびシリンダライナ1との2つの結合点P1、P2を結ぶ直線Lが通るシリンダライナ1のシリンダボアまわりの主シール面7を介し、この主シール面7に強圧接されるシリンダヘッド200側で受け止められる。
【0027】
その結果、シリンダライナ1が変形するのを防止し、シリンダボアの真円度を維持することができる。また、オイル消費の増大や摺動抵抗の増大を回避して、エンジン性能を高められる。従って、オイルリングの張力を高めて対応する場合の不利も回避できる。特に、シリンダライナ1の変形は結合点P2の上部で防止されるのはもとより、フリーな自由端部である下部が変形することはなく、オイルリングの張力を低減することができ、その分燃費が向上する。
【0028】
なお、結合壁4は、座屈強度を確保できればウォータジャケット5をシリンダブロック外壁3とシリンダライナ1との分離により形成される分離隙間8の側に膨らむなどした湾曲形状とすることもできる。また、このような湾曲により座屈強度が低下するような場合、反湾曲側に湾曲方向に向くリブを設けるなどすれば必要な座屈強度は確保できる。
【0029】
また、ウォータジャケット5と分離隙間8とは、シリンダライナ1まわりでラジアル方向に結合壁4を挟んで重なって位置し、分離隙間8の外側にウォータジャケット5が位置し、ウォータジャケット5の外側にボルト締結部2が位置している。これにより、結合壁4の傾斜を利用して分離隙間8がウォータジャケット5の下部とシリンダライナ1との間にまで及ぶ。その結果、シリンダ下部が過冷却とならないような状態で、ヘッドボルトを冷却することができる。
【0030】
従って、シリンダライナ1の下部が過冷却されることはないし、ボルト300の熱負荷が軽減される。特に、ボルト300の低いネジ部にも、シリンダライナ1の過冷却を招くことなく、冷却を及ぼせる利点がある。
【0031】
なお、シリンダライナ1は、スパイニーライナ1aを備え、鋳ぐるみであることにより脱落の心配はない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、シリンダブロックにおいて、シリンダヘッドとのボルト締結時にボルト締結部に働く引き上げ力によるシリンダライナの変形防止技術に実用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 シリンダライナ
2 ボルト締結部
3 シリンダブロック外壁
4 結合壁
5 ウォータジャケット
6 シリンダボア
7 主シール面
8 分離隙間
100 シリンダブロック
200 シリンダヘッド
300 ボルト
P1、P2 結合点
L 直線
F 引き上げ力
F′ 突き上げ力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナの中途部を、シリンダヘッドとのボルト締結部を有したシリンダブロック外壁に、結合壁により結合し、この結合部の上のシリンダライナ上部とシリンダブロック外壁上部との間をウォータジャケットとし、シリンダライナの前記結合部から下をシリンダブロック外壁から分離して自由端としたシリンダブロックにおいて、
結合壁は、シリンダブロック外壁との結合点と、シリンダライナとの結合点とを結ぶ直線がシリンダライナのシリンダボアまわりの主シール面から外れない範囲で、上方に向けシリンダボア側に傾斜させたことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
ウォータジャケットと前記分離による分離隙間とは、シリンダライナまわりでラジアル方向に結合壁を挟んで重なって位置し、分離隙間の外側にウォータジャケットが位置し、ウォータジャケットの外側にボルト締結部が位置している請求項1に記載のシリンダブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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