説明

シリンダヘッドガスケット

【課題】シリンダヘッドとシリンダブロックとの間を密封する性能を保ちつつ、シリンダの変形を抑制することのできるシリンダヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】シリンダヘッド30との当接面にウォータジャケット22がシリンダ21を囲繞するように開口するシリンダブロック20と、シリンダヘッド30とによって狭持されるシリンダヘッドガスケット40は、同ガスケット40のシリンダブロック20との当接面のうちシリンダ21とウォータジャケット22との間に、密封性を向上させる密封材料がシリンダを囲繞するように塗布された密封部と、密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持され、それら部材間を密封するシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックとに挟持されるシリンダヘッドガスケットは、それらの部材間を密封し、シリンダ内で発生する燃焼ガス、ピストンや動弁等の摺動部を潤滑する潤滑油及びウォータジャケット内の冷却水の漏れを防止している。
【0003】
シリンダヘッドガスケットは、単層若しくは複数層の金属製基板からなり、同基板の他部材との当接面にはフッ素ゴムやニトリルゴム等の軟性ゴムが塗布されている。この軟性ゴムは、加工等によって他部材のガスケットとの当接面に生じた微細な凹凸を埋める働きをしてガスケットの密封性を向上させる。
【0004】
ところで、機関運転に伴う燃料の燃焼によってシリンダ内の圧力は上昇し、ピストンが圧縮上死点付近にあるときに最大圧力となる。この圧力は、シリンダの上端部を広げる力、すなわち同シリンダを囲繞するように形成されたウォータジャケット側に変形させる力として作用する。すると、シリンダヘッドガスケットに塗布されている軟性ゴムが変形して、シリンダブロックとガスケットとが相対移動するとともに、同ゴムの摩擦係数が低いために、シリンダブロックのガスケットに対する滑りが発生し、シリンダの上端部がウォータジャケット側に変形することとなる。その結果、ウォータジャケット周壁のうちのシリンダ側に過大な応力が発生し、それが燃焼室内での燃焼の度に繰り返されることによって、内壁を基点として亀裂が生じる場合がある。特に、シリンダヘッドとの当接面にウォータジャケットがシリンダを囲繞するように開口する、いわゆるオープンデッキタイプのシリンダブロックでは、このようなシリンダの変形が大きくなる傾向にある。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の発明においては、単層の金属製基板からなるシリンダヘッドガスケットのシリンダブロックとの当接面全体に、摩擦係数の大きい金属粉またはタルクを混練したコーティング材を塗布するようにしている。このことによって、シリンダブロックのガスケットに対する滑りを抑制することができるため、シリンダ上端部に対してウォータジャケット側へ変形させる力が作用すると、ガスケットもその変形方向に移動しようとする。ところが、ガスケットはシリンダヘッド及びシリンダブロックにボルトで締結されているため、その移動が規制されることとなる。その結果、シリンダの上端部を変形させる力をガスケットによってうけることが可能となり、シリンダの変形を抑制することができる。
【特許文献1】特開2003−129903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明において用いられるコーティング材は、従来塗布されていた軟性ゴムと比較して、摩擦係数が高いだけでなく硬度も高い。従って、シリンダブロックのガスケットとの当接面に存在する微細な凹凸を十分に埋めることができないため、シリンダブロックとシリンダヘッドガスケットとの間の密封性が低下し、燃焼ガスや潤滑油が漏れるおそれがある。加えて、硬度の向上に伴う弾力性の低下により、機関運転時に発生するピストン移動方向に沿った振動に起因してコーティング材が破損することも懸念される。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間を密封する性能を保ちつつ、シリンダの変形を抑制することのできるシリンダヘッドガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、シリンダヘッドとの当接面にウォータジャケットがシリンダを囲繞するように開口するシリンダブロックと、前記シリンダヘッドとによって狭持されるシリンダヘッドガスケットであって、前記シリンダブロックとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に、密封性を向上させる密封材料が前記シリンダを囲繞するように塗布された密封部と、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備えることをその要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、シリンダヘッドガスケットは、前記シリンダブロックとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に、密封性を向上させる密封材料が前記シリンダを囲繞するように塗布された密封部を備えるため、この密封部によってガスケットの密封性を確保することができる。なお、上記密封材料としては、例えばフッ素ゴムやニトリルゴム等の軟性ゴムを採用することができる。
【0010】
また、シリンダヘッドガスケットは、前記シリンダブロックとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部を備えるようにしている。従って、機関運転時における燃料の燃焼によって、シリンダの内圧、特にシリンダ上端部の内圧が高くなり、シリンダブロックがウォータジャケット側に変形する際に生じるシリンダブロックのシリンダヘッドガスケットに対する滑りを抑制することができる。また、シリンダヘッドガスケットは、シリンダヘッド及びシリンダブロックにボルトによって締結されるとともに、この締結部付近ではガスケットの面圧が他の部分よりも高く、シリンダブロックのシリンダヘッドガスケットに対する滑りが生じにくい。その結果、シリンダブロックのシリンダ上端部をウォータジャケット側に変形させる力は、シリンダヘッドガスケットがうけることとなるため、シリンダの変形を抑制することができる。なお、上記摩擦材料としては、例えば樹脂や硬質ゴム等を採用することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記シリンダヘッドとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に対応する部位に、密封性を向上させる密封材料が前記シリンダを囲繞するように塗布された密封部と、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備えることを要旨とする。
【0012】
多くの場合、シリンダをウォータジャケット側に変形させる力をシリンダヘッドガスケットがうけることによって、シリンダの変形を抑制することができる。ところが、シリンダヘッドガスケットの剛性や質量によっては、シリンダの変形を十分に抑制することができない場合がある。
【0013】
この点、請求項2に記載の発明によれば、シリンダヘッドガスケットのシリンダヘッドとの当接面のうち、シリンダブロックに形成されたウォータジャケットとシリンダとの間に対応する部位に、密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部を備えるようにしている。従って、機関運転時における燃料の燃焼によって、シリンダ上端部の内圧が高くなり、シリンダブロックがウォータジャケット側に変形する際に生じるシリンダブロックのガスケットに対する滑りは、ガスケットを介してシリンダヘッドでうけることができる。また、シリンダブロックと同様にして、シリンダヘッドガスケットとシリンダヘッドとはボルトによって締結されているとともに、この締結部付近ではガスケットの
面圧が他の部分よりも高く、シリンダヘッドのシリンダヘッドガスケットに対する滑りも生じにくい。その結果、シリンダブロックのシリンダ上端部をウォータジャケット側に変形させる力は、シリンダヘッドガスケットとシリンダヘッドとがうけることとなるため、シリンダの変形をより確実に抑制することができる。
【0014】
なお、シリンダヘッドガスケットとシリンダヘッドとの密封性も、同ガスケットのシリンダヘッドとの当接面のうち、上記シリンダブロックに形成された上記ウォータジャケットとシリンダとの間に対応する部位に密封性を向上させる密封材料がシリンダを囲繞するように塗布された密封部によって保たれる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記密封部は前記当接面の表面が突出したビード部の突出側の表面に設けられることをその要旨とする。
シリンダヘッドガスケットの他部材との当接面の表面が突出した部位であるビード部は、ボルトの締め付けによる荷重が集中する部位であるとともに、シリンダ内圧が上昇し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間隙が拡大した場合に、それに追従する部位である。従って、請求項3に記載の発明によるように、このビード部の突出側の表面に密封部を設けることによって、シリンダヘッドガスケットの密封性能を向上させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間において、前記摩擦部は前記密封部を除く全体に形成されていることをその要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、シリンダヘッドガスケットの他部材との当接面のうち、密封部を除く部位の全体を摩擦部としているため、密封部によって密封性を確保しつつも、シリンダヘッドガスケットと他部材の同ガスケットとの当接面との間で発生する摩擦力を最大とすることができる。従って、より確実にシリンダの変形を抑制することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、前記ウォータジャケットを挟んで前記シリンダと反対側の部分に、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部を備えることをその要旨とする。
【0019】
上記構成によれば、ウォータジャケットを挟んで前記シリンダと反対側の部分の摩擦力が大きくなるため、同部分によりガスケットを移動させようとする力をうけることができる。従って、この摩擦部とボルトによって締結された部位付近とによって、ガスケットに作用する力をうけることとなるため、シリンダヘッドの変形をより抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態におけるシリンダヘッドガスケットが採用される内燃機関の概略構造を示している。
【0021】
同図1に示されるように、内燃機関10のシリンダブロック20には、4つのシリンダ21が設けられるとともに、これらシリンダ21を囲繞し、同シリンダ21と同一面にて開口するウォータジャケット22が形成されている。この開口面には、同面を始点とする10個のボルト穴23が設けられている。また、このシリンダブロック20とシリンダヘッド30とによって狭持されているシリンダヘッドガスケット40及びシリンダヘッド30には、シリンダブロック20のボルト穴23のそれぞれに対応する位置にボルト孔41
、(シリンダヘッドについては図示略)が形成されている。
【0022】
内燃機関10の組み付け時には、シリンダヘッド30のボルト孔(図示略)と、それに対応して設けられたシリンダヘッドガスケット40のボルト孔41とシリンダブロック20のボルト穴23とに同一のボルト(図示略)が通される。そして、このボルト(図示略)を締め付けることによってこれらの部材は締結される。
【0023】
内燃機関10の運転に伴って燃料が燃焼すると、シリンダ内の圧力は上昇し、シリンダ21に沿って上下動するピストン(図示略)が圧縮上死点付近にあるとき、換言すれば、ピストンの上端部がシリンダ21の上端部近傍にあるときに最大の圧力となる。この圧力は、シリンダ21の上端部を広げる力、すなわち同シリンダ21を囲繞するように形成されたウォータジャケット22の方向に変形させる力として作用する。この力が作用しても、シリンダヘッドガスケット40のボルト孔41付近においては、ボルトの締め付けにより面圧が高くなっているため、シリンダブロック20のガスケット40に対する滑りが発生しないものの、シリンダ21寄りの部分においては滑りが発生し、シリンダ21の上端部が変形することとなる。この滑りを抑制するためには、シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20との当接面全体に摩擦係数の大きい材料を塗布し、これら部材間に発生する摩擦力を大きくすればよい。ところが一般的に、摩擦係数の大きい材料は硬度も高いため、ガスケット40の密封性能が低下するといった問題が生じる。
【0024】
そこで、本実施形態においては、シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20との当接面のうち、シリンダ21とウォータジャケット22との間に、密封性を向上させる密封材料がシリンダ21を囲繞するように塗布された密封部と、密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備えるようにしている。
【0025】
本実施形態におけるシリンダヘッドガスケットの詳細について、図2及び図3を参照して説明する。
図2は、図1のA−A線に沿ったシリンダヘッドガスケット及びシリンダブロックの一部断面構造を示している。
【0026】
同図2に示されるように、シリンダヘッドガスケット40は、2枚のビード板42,43と、それらによって挟まれるインナーシム44とが積層されることによって形成される。2枚のビード板42,43には、シリンダブロック20と当接するビード板42の当接面がシリンダ21とウォータジャケット22との間と当接する部位及びシリンダヘッド30と当接するビード板43におけるそれと対応する部位に、各々の当接する部材側に突出する第1ビード部42a,43aが形成されている。これら第1ビード部42a,43aは、シリンダ21を囲繞するように形成されている。また、ウォータジャケット22を挟んでシリンダ21と反対側にも、当接部材側に突出する第2ビード部42b,43bが形成されている。これら第2ビード部42b,43bは、ウォータジャケット22を囲繞するように形成されている。
【0027】
次に、図3は、図2におけるビード板42の範囲Bを拡大した拡大図である。
同図3に示されるように、ビード板42は、金属製基板42cを本体として備えるとともに、インナーシム44との当接面及びシリンダブロック20との当接面のうち同シリンダブロック20側に突出しているビード部42aには、例えばフッ素ゴムやニトリルゴム等の密封性の高い密封材料が塗布された密封部42dが設けられている。また、シリンダブロック20との当接面における範囲Bのうちのビード部42a以外の部位には、例えば樹脂や硬質ゴム等の密封材料と比較して摩擦係数の高い摩擦材料が塗布された摩擦部42eが設けられている。なお、ビード板42の範囲B以外の部位には密封材料が塗布されているとともに、他方のビード板43はビード板42と同様に金属製基板を本体として備え
るものであって、その外周全体に密封材料が塗布された密封部が設けられている。
【0028】
内燃機関10を組み付けることによりシリンダヘッドガスケット40が、シリンダブロック20とシリンダヘッド30とによって狭持されると、ビード板42のビード部42aに設けられた密封部42dは、シリンダブロック20のガスケット40との当接面に加工等によって形成された微細な凹凸に入り込む。その結果、この凹凸が埋められることによって、シリンダブロック20とガスケット40との間の密封性が向上する。
【0029】
また、内燃機関10の運転に伴う燃焼によって、シリンダ21(図2の左側白紙部)の上端部が高圧化すると、同上端部はウォータジャケット22側に変形しようとする。このとき、シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20側のビード板42に設けられた摩擦部42eと、シリンダブロック20の同ビード板42との当接面において大きな摩擦力が発生し、シリンダブロック20とシリンダヘッドガスケット40とは一体となって、ウォータジャケット22を挟んでシリンダ21と反対側へ移動しようとする。ところが、このシリンダ21と反対側の部位では、シリンダヘッド30とシリンダブロック20とを締結するボルトの締め付けによりシリンダ21側の部位よりも面圧が高く、これら部材の図2における左右方向の移動が制限されている。したがって、シリンダ21の上端部を変形させる力はシリンダヘッドガスケット40がうけることとなる。
【0030】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)本実施形態によれば、シリンダヘッドガスケット40は、シリンダブロック20との当接面のうちシリンダ21とウォータジャケット22との間に、密封性を向上させる密封材料がシリンダ21を囲繞するように塗布された密封部42dを備えるため、この密封部42dによってガスケット40の密封性を確保することができる。加えて、同ガスケット40は、シリンダブロック20との当接面のうちシリンダ21とウォータジャケット22との間に、密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部42eを備えるようにしている。従って、機関運転時における燃料の燃焼によって、シリンダ21の内圧、特にシリンダ21上端部の内圧が高くなり、シリンダブロック20がウォータジャケット22側に変形する際に生じるシリンダブロック20のシリンダヘッドガスケット40に対する滑りを抑制することができる。また、シリンダヘッドガスケット40は、シリンダヘッド30及びシリンダブロック20にボルトによって締結されるとともに、この締結部付近ではガスケット40の面圧が他の部分よりも高く、シリンダブロック20のシリンダヘッドガスケット40に対する滑りが生じにくい。その結果、シリンダブロック20のシリンダ21上端部をウォータジャケット22側に変形させる力は、シリンダヘッドガスケット40がうけることとなるため、シリンダ21の変形を抑制することができる。
【0031】
(2)シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20との当接面においてシリンダブロック20側に突出した部位であるビード部42aは、ボルトの締め付けによる荷重が集中する部位であるとともに、シリンダ内圧が上昇し、シリンダヘッド30とシリンダブロック20との間隙が拡大した場合に、それに追従する部位である。このビード部42aの突出側の表面に密封部42dを設けることによって、シリンダヘッドガスケット40の密封性能を向上させることができる。
【0032】
(3)シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20との当接面における範囲Bのうち、密封部42dを除く部位の全体を摩擦部42eとしているため、密封部42dによって密封性を確保しつつも、シリンダヘッドガスケット40とシリンダブロック20の同ガスケット40との当接面との間で発生する摩擦力を最大とすることができる。従って、より確実にシリンダ21の変形を抑制することができる。
【0033】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・本実施形態においては、シリンダブロック20側のビード板42のシリンダブロック20との当接面であって、シリンダ21とウォータジャケット22との間のビード部42a以外の部位に摩擦部42eを設けるようしている。すなわち、図4を参照して説明すれば、ビード板42のシリンダブロック20との当接面のうち、ビード部42aを挟んでシリンダ21側の範囲Cと、ウォータジャケット22側の範囲Dとに摩擦部42eを設けるようにしている。これに限らず、範囲C及び範囲Dのいずれか一方に摩擦部42eを設けるようにしてもよい。この場合、本実施形態と比較して摩擦部42eとその当接面において発生する摩擦力は小さくなるが、この摩擦力によってシリンダブロック20の滑りを抑制することが可能であれば、上記(1)及び(2)に準ずる効果を得ることができる。なお、その場合には、範囲C及び範囲Dの他方に密封部を設けるようにすればよい。
【0034】
・本実施形態のように、シリンダブロック20側のビード板42に摩擦部42eを設けるのみでなく、シリンダヘッド30側のビード板43にも摩擦部を設けるようにしてもよい。すなわち、図4におけるビード板42の範囲C及び範囲Dに加えて、ビード板43のシリンダヘッド30との当接面における範囲E及び範囲Fの少なくとも一方に摩擦部を設けるようにしてもよい。このようにシリンダヘッド30側のビード板43にも摩擦部を設けると、シリンダ21の上端部をウォータジャケット22側に変形させる力が作用した際に生じるシリンダブロック20のシリンダヘッドガスケット40に対する滑りのみでなく、シリンダヘッド30の同ガスケット40に対する滑りも、これら部材間に発生する摩擦力によって抑制することが可能である。このため、シリンダブロック20がウォータジャケット22側に変形する際に生じるシリンダブロック20のガスケット40に対する滑りは、ガスケット40を介してシリンダヘッド30でうけることができる。従って、シリンダ21の上端部にかかる力をシリンダヘッドガスケット40及びシリンダヘッド30によってうけることとなるため、上記(1)の効果をより確実に得られるようになる。なお、ビード板43のビード部43aはシリンダヘッド30とシリンダヘッドガスケット40との密封性を確保するために密封部とする必要がある。
【0035】
・シリンダヘッドガスケット40のシリンダブロック20側のビード板42のうち、これと当接するシリンダブロック20のウォータジャケット22よりもシリンダ21側、すなわち図4の範囲C及び範囲Dに摩擦部42eを設けるようにしている。これらに加えて、ウォータジャケット22を挟んでシリンダ21と反対側にも摩擦部を設けるようにしてもよい。この場合、シリンダブロック20とシリンダヘッドガスケット40との密封性を確保するには、第2ビード部42bに密封部を設ける必要があるため、これを除く部位、すなわち図4の範囲Gに摩擦部を設けることができる。この構成によれば、シリンダ21の上端部に作用する力は、ボルトの締め付け付近であって他の部分よりも面圧の高い部位だけでなく、範囲Gの摩擦部によってもうけられることとなるため、上記(1)の効果をより確実に得られるようになる。また、上記のようにシリンダヘッド30側のビード板43の範囲E及び範囲Fに摩擦部を設ける場合に、範囲Gに対応する範囲Hにも摩擦部を設けるようにすれば、シリンダ21の上端部に作用する力をうける部位を更に増やすことができる。
【0036】
・シリンダブロック20側のビード板42において摩擦部42eを設ける部位を、範囲C及び範囲Dのいずれか一方と範囲Gとにしてもよい。これに加えて、シリンダヘッド30側のビード板43の範囲E及び範囲Fのいずれか一方と範囲Hとに設けるようにしてもよい。なお、ビード板42,43において、密封部および摩擦部の設けられる部位の範囲は適宜変更可能であり、また密封部および摩擦部が設けられていない部位が存在してもよい。
【0037】
・シリンダヘッドガスケット40の形状は、本実施形態に限らなくともよい。例えば、ビード板42,43のシリンダ21側端部からビード部を設ける、ビード部の個数をビー
ド板につき1つとする等といったことが可能である。更には、ビード部を設けなくともよく、適用する内燃機関の大きさや出力に応じて適宜変更可能である。
【0038】
・本実施形態においては、シリンダヘッドガスケット40は2枚のビード板42,43を備えるようにしているが、これに限らず1枚若しくは2枚以上のビード板を備えるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態が採用される内燃機関の斜視図。
【図2】図1のA−A線に沿った断面における同実施形態及びシリンダブロックの一部断面構造を示す部分断面図。
【図3】図2の範囲Bを拡大した拡大断面図。
【図4】本発明における他の例及びシリンダブロックの一部断面構造を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0040】
10…内燃機関、20…シリンダブロック、21…シリンダ、22…ウォータジャケット、23…ボルト穴、30…シリンダヘッド、40…シリンダヘッドガスケット、41…ボルト孔、42,43…ビード板、42a,43a…第1ビード部、42b,43b…第2ビード部、42c…金属製基板、42d…密封部、42e…摩擦部、44…インナーシム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとの当接面にウォータジャケットがシリンダを囲繞するように開口するシリンダブロックと、前記シリンダヘッドとによって狭持されるシリンダヘッドガスケットであって、
前記シリンダブロックとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に、密封性を向上させる密封材料が前記シリンダを囲繞するように塗布された密封部と、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備える
ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記シリンダヘッドとの当接面のうち前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間に対応する部位に、密封性を向上させる密封材料が前記シリンダを囲繞するように塗布された密封部と、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部とを備える
ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記密封部は前記当接面の表面が突出したビード部の突出側の表面に設けられる
ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記シリンダと前記ウォータジャケットとの間において、前記摩擦部は前記密封部を除く全体に形成されている
ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリンダヘッドガスケットにおいて、
前記ウォータジャケットを挟んで前記シリンダと反対側の部分に、前記密封材料よりも摩擦係数の大きい摩擦材料が塗布された摩擦部を備える
ことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−156061(P2009−156061A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332305(P2007−332305)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】