説明

シリンダボアの内周面処理装置

【課題】残存物の除去を考慮する必要がなく且つ装置の大型化を招くことなく、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すことが可能なシリンダボアの内周面処理装置を提供する。
【解決手段】回転制御部55と移動制御部56とは、シリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で噴射ノズル11を移動させ、噴射ノズル11は、シリンダボア17の内周面17aに向けて低圧の流体と高圧の流体とを同時に噴射してキャビテーション気泡を発生させ、シリンダボア17の内周面17aに仕上処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアの内周面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているワークのバリ取り及び洗浄方法では、ワーク表面に樹脂粉体をショットしてバリ取りを行い、ショット後のワーク表面にエアブローを吹き付けてバリと樹脂粉体を払い出し、エアブロー後のワークに洗浄液を噴き付けて洗浄する。
【0003】
また、特許文献2には、洗浄槽内に収容された洗浄液に被洗浄物を浸漬させ、被洗浄物に付着した異物除去やバリの除去などをする超音波洗浄装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−318316
【特許文献2】特開2006−223968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された方法では、固体である樹脂粉体がワーク表面から完全に除去できるとは限らず、この方法をシリンダボアの内周面の仕上処理に適用した場合、ピストン摺動時にシリンダボアから残存する樹脂粉体が剥がれ、シリンダボアを傷つけてしまう可能性がある。
【0006】
また、上記特許文献2は、洗浄液に被洗浄物全体を浸漬させるため、シリンダボアが形成されているシリンダブロックのような大型の被洗浄物を洗浄する場合、装置の大型化を招く。
【0007】
そこで、本発明は、残存物の除去を考慮する必要がなく且つ装置の大型化を招くことなく、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すことが可能なシリンダボアの内周面処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明のシリンダボアの内周面処理装置は、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すシリンダボアの内周面処理装置であり、噴射ノズルと制御手段とを備える。噴射ノズルは、流体を低圧で噴射する大径の低圧噴出口と、低圧噴出口の中心部に配置され流体を高圧で噴射する小径の高圧噴出口と、を有する。制御手段は、シリンダボアの内周面から所定距離となる仮想円周面上で噴射ノズルを移動させる。噴射ノズルは、シリンダボアの内周面に向けて低圧の流体と高圧の流体とを同時に噴射し、キャビテーション気泡を発生させる。
【0009】
上記構成では、噴射ノズルは、流体を低圧で噴射する大径の低圧噴出口と低圧噴出口の中心部に配置され流体を高圧で噴射する小径の高圧噴出口とを有し、シリンダボアの内周面に向けて低圧の流体と高圧の流体とを噴射してキャビテーション気泡を発生させる。すなわち、噴射ノズルは、低圧の流体を環状に噴射すると同時に、高圧の流体を噴射し、キャビテーション気泡を発生させ、キャビテーション気泡がシリンダボアの内周面で崩壊する際のエネルギーを利用して、シリンダボアの内周面に仕上処理を施す。従って、残存物の除去を考慮する必要がなく、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すことができる。
【0010】
また、制御手段は、シリンダボアの内周面から所定距離となる仮想円周面上で噴射ノズルを移動させる。すなわち、噴射ノズルの可動範囲をシリンダブロックのうちシリンダボア内のみに設定すればよいので、装置の大型化を招くことなく、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すことができる。
【0011】
また、低圧噴射口は、低圧の洗浄液を噴射し、高圧噴出口は、高圧の洗浄液を噴射してもよい。
【0012】
上記構成では、噴射ノズルは、シリンダボアの内周面に向けて低圧の洗浄液と高圧の洗浄液とを同時に噴射するため、シリンダボアの内周面に仕上げ処理を施すと同時に、シリンダボアの内周面を洗浄することができ、シリンダボアの加工後に行う洗浄のみを目的とした工程を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のシリンダボア内周面処理装置の外観図である。
【図2】シリンダボア内周面処理装置のブロック構成図である。
【図3】図1の噴射ノズルの断面図である。
【図4】シリンダボアの内周面近傍のシリンダブロックの断面を示す模式図である。
【図5】シリンダボアの内周面を示す模式図であり、(a)は仕上処理前を示す図であり、(b)は仕上処理後を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は本実施形態のシリンダボア内周面処理装置の外観図、図2はシリンダボア内周面処理装置のブロック構成図、図3は図1の噴射ノズルの断面図である。なお、以下の説明における上下方向は、図1における上下方向に対応する。
【0016】
図1及び図2に示すように、シリンダボア内周面処理装置1は、キャビテーション気泡発生システム3と回転用モータ2と移動機構4とを備える。
【0017】
回転用モータ2は、移動機構4の取付部4aに固定されるモータ本体6と、モータ本体6によって回転駆動される回転軸7を有する。回転軸7は、モータ本体6の下端から下方へ延び、回転軸7のほぼ全域の外周面には、雄ネジ部が形成されている。
【0018】
キャビテーション気泡発生システム3は、噴射ノズル11とノズル支持部材12と高圧管路13と低圧管路14と貯留槽(図示省略)とを有し、シリンダブロック16に穿孔されたシリンダボア17の内周面17aに仕上処理を施す。
【0019】
高圧管路13は、貯留槽とノズル支持部材12とを連通し、ノズル支持部材12へ貯留槽内の流体を供給する。高圧管路13を流通する流体は、高圧ポンプ(図示省略)によって所定の圧力(高圧)に加圧される。同様に、低圧管路14は、貯留槽とノズル支持部材12とを連通し、ノズル支持部材12へ貯留槽内の流体を供給する。低圧管路14を流通する流体は、低圧ポンプ(図示省略)によって高圧管路13を流通する流体よりも低い所定の圧力(低圧)に加圧される。
【0020】
ノズル支持部材12は、上側の回転部材20と下側の固定部材21とを有する。固定部材21は、矩形ブロック状の下部21aと、下部21aの上面から上方へ突出する円柱状の上部(図示省略)とを一体的に有する。回転部材20は円筒形状であり、固定部材21の上部は、回転部材20の内径部を挿通し、回転部材20を回転自在に支持する。
【0021】
固定部材21の中心部には、上下方向に貫通する挿通孔(図示省略)が形成されている。挿通孔の内径は、回転軸7の外径とほぼ同径又はそれよりも僅かに大きく設定され、挿通孔を回転軸7が挿通する。固定部材21の挿通孔を回転軸7が挿通した状態で、回転軸7に螺合するナット22,23を上下方向から締め付けることによって、固定部材21が回転軸7に固定され、ノズル支持部材12が回転軸7に取り付けられる。取付部4aに対するノズル支持部材12の取り付け高さは、ナット22,23の上下位置によって調整される。
【0022】
回転部材20の外周面には、高圧管取付穴及び低圧管取付穴(共に図示省略)が形成されている。高圧管取付穴には、高圧管路13の一端部13aが接続され、低圧管取付穴には、低圧管路14の一端部14aが接続される。また、図1及び図3に示すように、固定部材21の下部21aの外周面には、高圧供給穴24と低圧供給穴25とが形成されている。低圧供給穴25は、円環状であり、その内周面には雌ネジ部26が形成されている。高圧供給穴24は、低圧供給穴25の内側のほぼ中心部に配置されている。ノズル支持部材12の内部には、高圧管取付穴と高圧供給穴24とを連通する高圧流通路27と、低圧管取付穴と低圧供給穴25とを連通する低圧流通路28とが形成されている。高圧管路13は、高圧管取付穴を介して高圧流通路27と連通し、低圧管路14は、低圧取付穴を介して低圧流通路28と連通する。高圧流通路27の回転部材20側と固定部材21側との間、及び低圧流通路28の回転部材20側と固定部材21側との間は、回転部材20と固定部材21とが相対回転している間もそれぞれ常時連通する。
【0023】
噴射ノズル11は、高圧ノズル部31と低圧ノズル部32とを一体的に有し、高圧ノズル部31と低圧ノズル部32とは、図示しない中間部分で連結されている。
【0024】
高圧ノズル部31は略筒状であり、その内径部分には、噴射ノズル11の一端側と他端側とを貫通する高圧流通部33が区画される。高圧ノズル部31(高圧流通部33)の一端には、所定の内径を有する高圧噴射口34が形成されている。低圧ノズル部32は、高圧ノズル部31の外径よりも内径が大きく且つ高圧ノズル部31よりも全長が長い略筒状である。高圧ノズル部31は、低圧ノズル部32のほぼ中心部分に配置され、噴射ノズル11の一端側及び他端側において、高圧ノズル部31の一端及び他端は、低圧ノズル部32の一端及び他端よりも内側にそれぞれ位置する。低圧ノズル部32の内周面と高圧ノズル部32の外周面との間には、噴射ノズル11の一端側と他端側とを貫通する低圧流通部35が区画される。低圧ノズル部32(低圧流通部35)の一端には、高圧噴射口34の内径よりも大きい所定の内径を有する低圧噴射口36が形成されている。
【0025】
低圧ノズル部32の他端部には、環状フランジ部37と雄ネジ部38とが形成されている。環状フランジ部37は、低圧ノズル部32の外周面から突出し、環状フランジ部37の端面(噴射ノズル11の他端側の端面)は、高圧ノズル部31の他端側の端面とほぼ同一面内に設定されている。雄ネジ部38は、環状フランジ部37よりも他端側の低圧ノズル部32の外周面に形成されている。ノズル支持部材12の低圧供給穴25の雌ネジ部26に、低圧ノズル部32の雄ネジ部38を螺合することによって、噴射ノズル11がノズル支持部材12に取り付けられる。この取付状態において、ノズル支持部材12の高圧流通路27の高圧供給穴24と高圧ノズル部31の高圧流通部33とが連通し、ノズル支持部材12の低圧流通路28の低圧供給穴25と低圧ノズル部32の低圧流通部35とが連通する。固定部材21の下部21aの外周面と低圧ノズル部32の端面及び環状フランジ部37の端面との間にはシール部材(図示省略)が介在し、シール部材によってノズル支持部材12と噴射ノズル11との間の液洩れが防止される。
【0026】
これにより、高圧管路13から供給された高圧の流体は、ノズル支持部材12の高圧流通路27を介して噴射ノズル11の高圧ノズル部31へ供給され、高圧噴射口34は、供給された高圧の流体をシリンダボア17の内周面17aに向けて図3中二点鎖線で示すように噴射する。同様に、低圧管路14から供給された低圧の流体は、ノズル支持部材12の低圧流通路28を介して噴射ノズル11の低圧ノズル部32へ供給され、低圧噴射口36は、供給された低圧の流体をシリンダボア17の内周面17aに向けて図3中破線で示すように噴射する。高圧の流体と低圧の流体の噴射とが高圧噴射口34と低圧噴射口36とからそれぞれ同時に噴射されると、高圧の流体の周囲から低圧の流体が噴射された状態となり、高圧の流体と低圧の流体との間の領域39にキャビテーション気泡が発生する。
【0027】
なお、噴射ノズル11から噴射される流体によってシリンダボア17の内周面17aに施される仕上処理の能力は、高圧噴射口34及び低圧噴射口36の径の大きさや、高圧ノズル部31に供給される高圧の流体及び低圧ノズル部32に供給される低圧の流体の圧力の強さや、噴出ノズル11とシリンダボア17の内周面17aとの距離などの設定条件に応じて変わる。このため、上記設定条件については、必要な仕上処理の能力に応じて適宜設定すればよい。また、発生したキャビテーション気泡を利用したシリンダボア17の内周面17aの仕上処理能力の指標であるアークハイトは、0.02mmN〜0.15mmN程度が好ましい。
【0028】
シリンダブロック16に穿孔されたシリンダボア17の内周面17aには、図4及び図5に示すように、ホーニング加工が施され、複数の溝41が形成される。各溝41の断面はV字状であり、複数の溝41はクロスハッチング状に交叉する。このホーニング加工時において、内周面17aが引き延ばされ、内周面17aにバリとして残存してしまう場合がある。溝41が形成された内周面17aに対し、プラトーホーニング加工が施され、溝41を除く内周面17aが平滑化される。平滑化された内周面17aと溝41とによって、高い摺動性が得られる。溝41は、エンジンオイルの油溜まりとしても機能する。このプラトーホーニング加工時において、溝41の縁部分やホーニング加工時に残存したバリが引き延ばされ、仕上処理前の内周面17aにバリ42として残存してしまう場合がある。バリ42は、溝41の近傍から溝41の内部に向かって延びるものや、溝41の近傍から溝41の外側に向かって延びるものや、溝41の近傍から延びて溝41を横断するものなど、その形態は多様である。また、シリンダブロック16は黒鉛を内在する鋳鉄を素材とするため、シリンダボア17を穿孔することによって、図5に示すように、シリンダボア17の内周面17aに黒鉛43が不規則に露出する。
【0029】
次に、シリンダボア内周面処理装置1の回転用モータ2と移動機構4と入力部51と情報処理装置52について説明する。
【0030】
情報処理装置52は、CPU(Central Processing Unit)53と記憶部54とを有する。情報処理装置52は、汎用のパーソナルコンピュータであってもよく、専用の装置であってもよい。
【0031】
記憶部54は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などによって構成され、CPU53が各種処理を実行するための各種プログラムや各種データが記憶されている。各種プログラムには、CPU53が制御処理を実行するための制御プログラムが含まれる。制御プログラムは、各種CDメディア(Compact Disc Media)などの外部の記憶媒体から読み出されて記憶部に記憶されてもよく、インターネットなどのネットワークを介して取得されて記憶部54に記憶されてもよい。
【0032】
制御処理を実行するCPU53は、回転制御部55及び移動制御部56として機能する。なお、CPU53の機能の一部を抽出して他の情報処理装置に設けてもよい。
【0033】
入力部51は、例えば操作ボタンやキーボードなどであり、作業者からの入力操作を受ける。作業者が入力部51に対して入力操作を行うと、これに対応した操作信号が入力部51から情報処理装置52へ入力する。制御処理は、作業者が入力部51に対して所定の入力操作を行うことによって実行される。
【0034】
制御処理において、回転制御部55は、モータ本体6によって回転軸7を回転させる。移動制御部56は、移動機構4を制御して、回転用モータ2を上下方向に移動させる。すなわち、移動制御部56は、移動機構4を制御して、回転軸7を上下方向に移動させる。
従って、回転制御部55と移動制御部56とは、シリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で噴射ノズル11を移動させるように、ノズル支持部材12を介して噴射ノズル11が取り付けられている回転軸7の回転及び移動を制御する制御手段として機能する。なお、移動制御部56は、噴射ノズル11を移動させる仮想円周面よりもシリンダボア17の中心軸61側であり且つシリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で回転用モータ2を移動させてもよい。
【0035】
次に、本実施形態のシリンダボア内周面処理装置1の動作について説明する。本実施形態において、流体として水を使用する。なお、図1及び図3における矢印は、低圧水及び高圧水の流れる方向を示す。
【0036】
回転軸7は、モータ本体6によってシリンダボア17の中心軸61を中心として回転すると同時に、移動機構4によってシリンダボア17の中心軸61に沿って上下方向に移動する。これにより、ノズル支持部材12を介して回転軸7に取り付けられる噴射ノズル11は、回転軸7を中心とする仮想円周面上で移動する。すなわち、噴射ノズル11は、シリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で移動する。
【0037】
噴射ノズル11は、シリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で移動するとともに、噴射ノズル11の高圧噴射口34及び低圧噴射口36とシリンダボア17の内周面17aとが対向した状態で、高圧噴射口34と低圧噴射口36とからシリンダボア17の内周面17aに向けて、高圧管路13から供給された高圧水と低圧管路14から供給された低圧水とを同時に噴射し、キャビテーション気泡を発生させる。
【0038】
発生したキャビテーション気泡は、シリンダボア17の内周面17aに衝突する。衝突に伴い、シリンダボア17の内周面17aでキャビテーション気泡は崩壊し、崩壊する際のエネルギーが利用され、シリンダボア17の内周面17aが叩かれる。シリンダボア17の内周面17aにバリ42が残存している場合、図5(b)に示すように、シリンダボア17の内周面17aが叩かれることによって、バリ42は溝41の近傍から取り除かれる。また、シリンダボア17の内周面17aに露出している黒鉛43がシリンダブロック16の内部へ延びており且つシリンダブロック16の内部に黒鉛43によって囲まれる領域62が存在する場合、シリンダボア17の内周面17aが叩かれることによって、黒鉛43に囲まれる領域62が剥ぎ取られる。
【0039】
なお、使用する流体は水に限定されるものではなく、例えば防錆剤入りの洗浄液等であってもよい。防錆剤入りの洗浄液を流体として使用することによって、シリンダボア17の内周面17aの加工時に残存した油を洗い流すことができる。また、使用時のシリンダボア17の内周面17aにおける錆の発生を抑制することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、噴射ノズル11は、低圧ノズル部32の一端に形成されている低圧噴射口36と、低圧ノズル部32のほぼ中心部に配置される高圧ノズル部31の一端に形成されている高圧噴射口34と、を有する。低圧噴射口36は、低圧管路14から供給された低圧の流体をシリンダボア17の内周面17aに向けて噴射する。同様に、高圧噴射口34は、高圧管路13から供給された高圧の流体をシリンダボア17の内周面17aに向けて噴射する。すなわち、噴射ノズル11は、高圧噴射口34と低圧噴射口36とからシリンダボア17の内周面17aに向けて、高圧の流体と低圧の流体とを同時に噴射し、高圧の流体と低圧の流体との間の領域39にキャビテーション気泡を発生させ、キャビテーション気泡がシリンダボア17の内周面17aで崩壊する際のエネルギーを利用して、シリンダボア17の内周面17aに仕上処理を施す。従って、残存物の除去を考慮する必要がなく、シリンダボア17の内周面17aに仕上処理を施すことができる。
【0041】
また、回転制御部55と移動制御部56とは、シリンダボア17の内周面17aから所定距離となる仮想円周面上で噴射ノズル11を移動させるように、ノズル支持部材12を介して噴射ノズル11が取り付けられている回転軸7の回転及び移動を制御する。すなわち、噴射ノズル11の可動範囲をシリンダブロック16のうちシリンダボア17内のみに設定すればよいので、シリンダボア内周面処理装置1の大型化を招くことなく、シリンダボア17の内周面17aに仕上処理を施すことができる。
【0042】
また、噴射ノズル11がシリンダボア17の内周面17aに向けて低圧の洗浄液と高圧の洗浄液とを同時に噴射する場合、シリンダボア17の内周面17aに仕上げ処理を施すと同時に、シリンダボア17の内周面17aを洗浄することができ、シリンダボア17の加工後に行う洗浄のみを目的とした工程を省略することができる。
【0043】
また、噴射ノズル11から噴射される流体によってシリンダボア17の内周面17aに施される必要な仕上処理の能力に応じて、高圧噴射口34及び低圧噴射口36の径の大きさや、高圧ノズル部31に供給される高圧の流体及び低圧ノズル部32に供給される低圧の流体の圧力の強さや、噴出ノズル11とシリンダボア17の内周面17aとの距離などの設定条件を適宜設定するため、噴射ノズル11から噴射される流体によってシリンダボア17の内周面17aに施される仕上処理の能力を容易に管理することができる。
【0044】
また、シリンダボア17の内周面17aにバリ42が残存している場合、溝41のエンジンオイルの油溜りとしての機能が低下し、エンジンオイル不足となり、シリンダボア17の内周面17aとピストンリングとが油膜を介さず直接接触し、傷が生じてしまう可能性がある。また、エンジンの運転によってバリ42が磨耗し、磨耗の進行によってバリ42が剥がれた場合、剥ぎ取られたバリ42がピストンスカート及びピストンリングに噛み込み、シリンダボア17の内周面17aを傷つけてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、噴射ノズル11から噴射される流体によって発生したキャビテーション気泡がシリンダボア17の内周面17aで崩壊する際のエネルギーを利用し、バリ42を溝41の近傍から取り除く。従って、エンジンの運転時において、シリンダボア17の内周面17aを傷つけてしまうことを防止することができる。
【0045】
また、シリンダブロック16は黒鉛を内在する鋳鉄を素材とするため、シリンダボア17を穿孔することによって、シリンダボア17の内周面17aに黒鉛43が不規則に露出する。シリンダボア17の内周面17aに露出している黒鉛43がシリンダブロック16の内部へ延びており且つシリンダブロック16の内部に黒鉛43によって囲まれる領域62が存在する場合、ピストンスカート及びピストンリングの摺動によって、シリンダボア17の内周面17aに露出する黒鉛43が砕かれ、シリンダブロック16のうち黒鉛43によって囲まれる領域62が剥ぎ取られ、剥ぎ取られた鋳鉄がピストンスカート及びピストンリングに噛み込み、シリンダボア17の内周面17aを傷つけてしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、噴射ノズル11から噴射される流体によって発生したキャビテーション気泡がシリンダボア17の内周面17aで崩壊する際のエネルギーを利用して、黒鉛43に囲まれる領域62を剥ぎ取る。従って、ピストンスカート及びピストンリングの摺動に伴い、シリンダボア17の内周面17aを傷つけてしまうことを防止することができる。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、シリンダボアの内周面に仕上処理を施すシリンダボアの内周面処理装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンダボア内周面処理装置
2 回転用モータ
3 キャビテーション気泡発生システム
4 移動機構
11 噴射ノズル
12 ノズル支持部材
13 高圧管路
14 低圧管路
17 シリンダボア
31 高圧ノズル部
32 低圧ノズル部
34 高圧噴射口
36 低圧噴射口
41 溝
42 バリ
43 黒鉛
52 情報処理装置
55 回転制御部(制御手段)
56 移動制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアの内周面に仕上処理を施すシリンダボアの内周面処理装置であって、
流体を低圧で噴射する大径の低圧噴射口と、該低圧噴射口の中心部に配置され流体を高圧で噴射する小径の高圧噴射口と、を有する噴射ノズルと、
前記シリンダボアの内周面から所定距離となる仮想円周面上で前記噴射ノズルを移動させる制御手段と、を備え、
前記噴射ノズルは、前記シリンダボアの内周面に向けて前記低圧の流体と前記高圧の流体とを同時に噴射してキャビテーション気泡を発生させる
ことを特徴とするシリンダボアの内周面処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダボアの内周面処理装置であって、
前記低圧噴射口は、低圧の洗浄液を噴射し、
前記高圧噴射口は、高圧の洗浄液を噴射する
ことを特徴とするシリンダボアの内周面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−710(P2012−710A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136900(P2010−136900)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】