説明

シリンダーヘッドカバー保温装置

【課題】エンジンのシリンダーヘッドカバーを保温するために蓄電池などの電源が必要であり、長い期間に亙ってエンジンを停止させるような場合、シリンダーヘッドカバーの保温が実質的に不可能となる。
【解決手段】本発明によるシリンダーヘッドカバー保温装置は、一端がエンジンフード11のインナーパネル11bに接合され、温度に応じてシリンダーヘッドカバー14との対向方向に沿って伸縮するバイメタル18と、このバイメタル18の他端に接合され、当該バイメタル18の伸縮動作に伴ってシリンダーヘッドカバー14の表面に対して接触状態または非接触状態の何れかに切り替わる板状の伝熱部材17と、一端面がこの板状の伝熱部材17に接合されると共に他端面がエンジンフード11のインナーパネル11bに接合され、バイメタル18の伸縮動作に伴って変形可能な第2の伝熱部材19とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関におけるシリンダーヘッドカバー内に発生する結露を抑制し得るようにしたシリンダーヘッドカバー保温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの冷態始動直後は、温度が上昇しつつあるシリンダーブロックやシリンダーヘッドと、シリンダーヘッド側からの伝熱が充分ではないシリンダーヘッドカバーとの間に温度差が生ずることとなる。このため、シリンダーヘッドカバー内に介在する比較的温度の高いブローバイガス中に含まれる水蒸気成分が凝結し、シリンダーヘッドカバーの内壁に結露する場合がある。このような結露がシリンダーヘッドカバー内に発生すると、これが原因となってシリンダーヘッドカバー内に流入するエンジンオイルの劣化を招き、スラッジとなってしまう。また、ブローバイガス中のNOXと水滴とが反応して腐食性の硝酸が形成され、劣化を招く可能性もある。
【0003】
このような不具合を回避するため、特許文献1では温水が貯溜された蓄熱タンクとシリンダーヘッドカバーとを導通させ、シリンダーヘッドカバーを温水で加熱することにより、シリンダーヘッド内での結露発生を防止する技術を提案している。より具体的には、排ガスの熱やヒーターを利用して加熱される蓄熱タンク内の温水をその循環用配管の途中に組み込まれたポンプを駆動し、この温水を蓄熱タンクとシリンダーヘッドカバーとの間で循環させるようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−194105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、ある程度の容積の蓄熱タンクを車両のエンジンルーム内に搭載する必要があり、特にエンジンルームが狭隘な車両においては、その組み込みが著しく困難となる可能性がある。また、温水を加熱するためのヒーターやこれを循環させるためのポンプが必要であり、エンジンの停止状態でこれを作動させた場合、蓄電池の蓄電容量が減ってしまう。特に、長い期間に亙ってエンジンを停止した場合には、エンジンの始動すらできなくなってしまう可能性もある。
【0006】
本発明の目的は、長い期間に亙ってエンジンを停止した場合であっても、車両に搭載された蓄電池などを用いることなく、シリンダーヘッドカバーの温度変化を抑制し得る保温装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるシリンダーヘッドカバー保温装置は、一端がエンジンフードパネルに接合され、温度に応じてシリンダーヘッドカバーとの対向方向に沿って伸縮するアクチュエーターと、このアクチュエーターの他端に接合され、当該アクチュエーターの伸縮動作に伴って前記シリンダーヘッドカバーの表面に対して接触状態または非接触状態の何れかに切り替わる板状をなす第1の伝熱部材と、一端面がこの第1の伝熱部材に接合されると共に他端面が前記エンジンフードパネルに接合され、前記アクチュエーターの伸縮動作に伴って変形可能な第2の伝熱部材とを具えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明において、アクチュエーターが伸長状態にある場合、第1の伝熱部材がエンジンフードパネルに接触状態となり、エンジンフードパネルとシリンダーヘッドカバーとの間で第1の伝熱部材および第2の伝熱部材を介して熱の伝達が効率よく行われる。この状態は、エンジンが作動してエンジンルーム内が温められた場合や、エンジンが停止中であっても日中に太陽光がエンジンフープパネルに照射されてエンジンフードパネルが温められた場合に起こる。これに対し、アクチュエーターが収縮状態にある場合、第1の伝熱部材とエンジンフードパネルとは非接触状態となり、これらの間には熱伝導率の低いエンジンルーム内の空気が介在することとなる。この状態は、エンジンを停止してからしばらく経過した後、特に夜間など、外気温が低い場合に起こる。
【0009】
本発明によるシリンダーヘッドカバー保温装置において、アクチュエーターは、所定温度以上の場合に第1の伝熱部材がシリンダーヘッドカバーの表面に対して接触状態となるのに対し、逆の場合に非接触状態になるように伸縮するバイメタルであってよい。
【0010】
第1の伝熱部材およびシリンダーヘッドカバーは、相互に係合してこれらの接触面積を増大させるための凹凸部を有することが有効である。
【0011】
また、シリンダーヘッドカバーに形成されてエンジン冷却水が通る冷却水通路をさらに具えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリンダーヘッドカバー保温装置によると、太陽光にてエンジンフードパネルが熱せられた場合、第2の伝熱部材および第1の伝熱部材を介してシリンダーヘッドカバーへとこの熱を効率よく伝熱させることができる。この結果、シリンダーヘッドカバー内の空間が温められ、エンジンの冷態始動時であってもシリンダーブロックやシリンダーヘッドとの温度差を少なくすることができ、シリンダーヘッドカバー内での結露やスラッジの発生を抑制することが可能である。
【0013】
アクチュエーターがバイメタルの場合、これを駆動するための駆動源を不要にすることができ、イグニッションキースイッチをオフした状態であっても、アクチュエーターを自動的に作動させることができる。
【0014】
第1の伝熱部材およびシリンダーヘッドカバーが、相互に係合してこれらの接触面積を増大させるための凹凸部を有する場合、第1の伝熱部材とシリンダーヘッドカバーとの間での熱伝導を効率よく行うことができる。
【0015】
シリンダーヘッドカバーに形成され、エンジン冷却水が通る冷却水通路を具えた場合、金属よりも比熱の大きなエンジン冷却水によってシリンダーヘッドカバーの温度変化をさらに抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によるシリンダーヘッドカバー保温装置の一実施形態について、その主要部の断面構造を表す図1およびシリンダーヘッドカバーの平面形状を模式的に表す図2を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態にのみ限定されるわけではなく、エンジンフードパネルやシリンダーヘッドカバーの形状およびエンジンルームの構造などに応じて適宜変更し得るものであることを理解すべきである。
【0017】
エンジンなどが収容されるエンジンルーム10を覆うエンジンフード11は、車体の外側に面するアウターパネル11aと、エンジンルーム10側に面するようにアウターパネル11aに接合されるインナーパネル11bとで主要部が構成されている。インナーパネル11bには、エンジンフード11の剛性を高めるため、エンジンルーム10側に突出する箱型断面構造の補強部12が形成されている。
【0018】
一方、図示しない動弁機構や点火装置などが組み付けられるエンジンのシリンダーヘッド13には、これら動弁機構などを覆うシリンダーヘッドカバー14が固定されて内部を密閉状態に保持している。このシリンダーヘッドカバー14には、シリンダーヘッド13に形成されたエンジン冷却水循環通路15に連通する冷却水通路16が形成されている。従って、エンジンが作動中の間はシリンダーヘッドカバー14を構成する金属よりも熱伝導率の低いエンジン冷却水がシリンダーヘッドカバー14に形成された冷却水通路16を流れることとなる。この結果、シリンダーヘッドカバー14の温度をエンジンルーム10内の雰囲気よりも高温に保つことができる。また、エンジンを停止させた場合であっても、高温のエンジン冷却水が冷却水通路16内に介在しているため、シリンダーヘッドカバー14の温度低下をこの冷却水通路16が存在しない場合よりも抑制することができる。
【0019】
先のエンジンフード11のインナーパネル11bには、シリンダーヘッドカバー14の表面と対向する板状をなす第1の伝熱部材17が、周囲の温度に応じてシリンダーヘッドカバー14との対向方向に沿って伸縮するバイメタル18を介して取り付けられている。つまり、一端がエンジンフード11のインナーパネル11bに接合されたバイメタル18の他端に第1の伝熱部材17が接合され、この第1の伝熱部材17がバイメタル18を介してエンジンフード11のインナーパネル11bに支持された状態となっている。本実施形態では、第1の伝熱部材17として熱伝導率が2000W/m℃のヒートレーンプレート(ティーエス ヒートロニクス株式会社の製品名)を採用しており、これはヒートパイプのように作動流体を封入した中空構造を持つものである。このヒートレーンプレートに代えて、純アルミニウムと同程度の高い熱伝導率を有するアルミニウム合金(例えば昭和電工株式会社のST60)などを第1の伝熱部材17として採用することも可能である。
【0020】
本発明におけるアクチュエーターとしてのバイメタル18は、熱膨張率の異なる少なくとも二種類の金属を接合したものである。これは、所定温度、例えば30℃以上の場合に第1の伝熱部材17がシリンダーヘッドカバー14の表面に対して接触状態となる。逆に、所定温度未満、例えば30℃未満の場合に第1の伝熱部材17がシリンダーヘッドカバー14の表面に対して非接触状態になるように伸縮動作する。このバイメタル18に代えて同様な機能を有する形状記憶合金などを本発明のアクチュエーターとして使用することも可能である。
【0021】
エンジンフード11のインナーパネル11bと第1の伝熱部材17との間には、バイメタル18の変位に追従して伸縮、すなわち弾性変形可能な第2の伝熱部材19が組み込まれている。これは、太陽光によって温められるエンジンフード11からの熱を効率よく第1の伝熱部材17に伝えるためであり、第2の伝熱部材19の一端面が板状の伝熱部材17に接合されると共にその他端面がエンジンフード11のインナーパネル11bに接合されている。従って、第1の伝熱部材17は先のバイメタル18に加え、この第2の伝熱部材19によってもエンジンフード11に支持されていると言うことができる。第2の伝熱部材19は、インナーパネル11bとシリンダーヘッドカバー14との対向方向に沿って変形可能であり、バイメタル18よりも熱伝導率の高いものであることが有効である。このような観点から、本実施形態では米国 Btech 社の高熱伝導性シート(TIM)を採用している。もちろん、熱伝導率が相対的に高く、変形可能なものであれば、これ以外のものを採用することができる。
【0022】
本実施形態では、シリンダーヘッドカバー14と第1の伝熱部材17との接触面積を増大させるため、これらの表面には相互に密着状態となって係合し合うプリズム状の凹凸部20,21が図示しないクランク軸の長手方向に沿って相互に平行に形成している。これら凹凸部20,21は、シリンダーヘッドカバー14と第1の伝熱部材17との接触面積を増大させるためのものであるので、相互に密着し得る凹凸形状でありさえすれば、本実施形態以外のどのような輪郭形状であってもかまわない。
【0023】
上述したように、本実施形態ではエンジンフード11のインナーパネル11bに第1および第2の伝熱部材17,19を取り付けるようにしている。しかしながら、エンジンフード11の構成によっては、インナーパネル11bではなく、アウターパネル11aに第1および第2の伝熱部材17,19を取り付けるようにしても何ら問題は生じない。前述したように、太陽光からの熱を伝えるという観点からは、アウターパネル11aに第1および第2の伝熱部材17,19を取り付けることがより好ましいと言えよう。
【0024】
乗用自動車、特にセダン型や2ボックス型の乗用自動車においては、いわゆるボンネット、つまりエンジンフード11が地面に対してほぼ平行に近い状態となっていることがほとんどであり、太陽光からの熱を受けやすい構造である。本発明においては、このようなエンジンフード11の特性を利用し、日中、太陽光によって温められるエンジンフード11の熱を第2の伝熱部材19および第1の伝熱部材17を介してシリンダーヘッドカバー14に効率よく伝えることができる。このため、エンジンが長期間に亙って停止中であっても、日中、太陽光がエンジンフード11に照射されている限り、シリンダーヘッドカバー14の保温を自動的に行うことが可能となる。また、本実施形態ではバイメタル18をアクチュエーターとして用いているため、伝熱部材17を駆動するための駆動源が本質的に不要である。このため、エンジンが運転中であっても、逆に長期間に亙って停止中であっても、エンジンルーム10内の温度変化に応じてシリンダーヘッドカバー14に対する伝熱部材17の接触状態と非接触状態とを自動的に切り換えることができる。また、夜間など外気温が低下した場合には、伝熱部材17がシリンダーヘッドカバー14の表面に対して非接触状態となってこれらの間に隙間が形成され、シリンダーヘッドカバー14の熱がエンジンフード11側へ伝熱させないようにすることができる。この結果、太陽光のない夜間や雨天時においても、シリンダーヘッドカバー14側からの放熱を最小限に止めることができ、その保温が効果的になされることとなる。従って、エンジンの冷態始動時であっても、シリンダーヘッドカバー14と図示しないシリンダーブロックおよびシリンダーヘッド13との温度差を少なくすることができる。これにより、シリンダーヘッドカバー14内に流入する比較的温度の高いブローバイガス中に含まれる水蒸気成分がシリンダーヘッドカバー14の内壁に凝結せず、スラッジの発生を抑制することが可能となる。
【0025】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるシリンダーヘッドカバー保温装置の一実施形態の概略構造を表す断面図である。
【図2】図1に示した実施形態におけるシリンダーヘッドカバーの平面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 エンジンルーム
11 エンジンフード
11a アウターパネル
11b インナーパネル
12 補強部
13 シリンダーヘッド
14 シリンダーヘッドカバー
15 エンジン冷却水循環通路
16 冷却水通路
17 第1の伝熱部材
18 バイメタル
19 第2の伝熱部材
20,21 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端がエンジンフードパネルに接合され、温度に応じてシリンダーヘッドカバーとの対向方向に沿って伸縮するアクチュエーターと、
このアクチュエーターの他端に接合され、当該アクチュエーターの伸縮動作に伴って前記シリンダーヘッドカバーの表面に対して接触状態または非接触状態の何れかに切り替わる板状をなす第1の伝熱部材と、
一端面がこの第1の伝熱部材に接合されると共に他端面が前記エンジンフードパネルに接合され、前記アクチュエーターの伸縮動作に伴って変形可能な第2の伝熱部材と
を具えたことを特徴とするシリンダーヘッドカバー保温装置。
【請求項2】
前記アクチュエーターは、所定温度以上の場合に前記第1の伝熱部材が前記シリンダーヘッドカバーの表面に対して接触状態になると共に所定温度未満の場合に前記第1の伝熱部材が前記シリンダーヘッドカバーの表面に対して非接触状態になるように伸縮するバイメタルであることを特徴とする請求項1に記載のシリンダーヘッドカバー保温装置。
【請求項3】
前記第1の伝熱部材および前記シリンダーヘッドカバーは、相互に係合してこれらの接触面積を増大させるための凹凸部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンダーヘッドカバー保温装置。
【請求項4】
シリンダーヘッドカバーに形成されてエンジン冷却水が通る冷却水通路をさらに具えたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のシリンダーヘッドカバー保温装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−156212(P2010−156212A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333571(P2008−333571)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】