シルセスキオキサンを有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法
【課題】従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上201で高分子ブロック共重合体に熱アニールを行ってミクロ相分離させ、高分子ブロック共重合体の第1セグメントを成分とする連続相中204で、高分子ブロック共重合体の第2セグメントを成分とする複数のミクロドメイン203を規則的に配列させる高分子薄膜の製造方法において、前記高分子ブロック共重合体の第2セグメントは、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、次式−(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されるシルセスキオキサン骨格を有している。
【解決手段】基板上201で高分子ブロック共重合体に熱アニールを行ってミクロ相分離させ、高分子ブロック共重合体の第1セグメントを成分とする連続相中204で、高分子ブロック共重合体の第2セグメントを成分とする複数のミクロドメイン203を規則的に配列させる高分子薄膜の製造方法において、前記高分子ブロック共重合体の第2セグメントは、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、次式−(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されるシルセスキオキサン骨格を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサンを有する高分子ブロック共重合体が基板上でミクロ相分離して形成される微細構造を有する高分子薄膜、この高分子薄膜を使用して得られる微細構造体、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、エネルギー貯蔵デバイス、センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートルから数百ナノメートルのサイズの微細な規則配列パターンを基板上に形成する必要性が高まっている。このため微細な規則配列パターン(以下、単に「微細構造」という)を高精度でかつ低コストに製造できるプロセスの確立が求められている。
このような微細構造の加工方法としては、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、つまりバルク材料を微細に刻む方法が一般に用いられている。例えば、LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0003】
しかしながら、このようなトップダウン的手法は、微細構造の微細度が高まるにしたがって、装置の大型化やプロセスの複雑化等をもたらして製造コストが増大する。特に、微細構造の加工寸法が数十ナノメートルまで微細になると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり、装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクを適用した微細構造の形成が困難になると、直接描画法を適用せざるをえないので、加工スループットが著しく低下する問題がある。
【0004】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離を利用したプロセスは、簡便な塗布プロセスで数十ナノメートルから数百ナノメートルの種々の形状を有する微細構造を形成できる点で優れたプロセスである。例えば、高分子ブロック共重合体における異種の高分子セグメント同士が互いに混じり合わない(非相溶な)場合に、これらの高分子セグメント同士は、ミクロ相分離することにより連続相中に球状や柱状、層状のミクロドメインが規則的に配列した構造を形成する。
【0005】
このミクロ相分離を利用した微細構造の形成方法としては、例えば、ポリスチレンとポリブタジエン、ポリスチレンとポリイソプレン、ポリスチレンとポリメチルメタクリレート等の組み合わせからなる高分子ブロック共重合体の薄膜を基板上に形成してミクロ相分離させると共に、この薄膜をマスクとして基板にエッチングを施すことによって、薄膜のミクロドメインに対応した形状の孔やラインアンドスペースを基板上に形成する技術が挙げられる。
【0006】
また、基板上に付与した高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させる技術においては、基板の表面に化学的性質の異なる領域を微細なパターンで形成し、基板の表面と高分子ブロック共重合体との化学的相互作用の差異を利用してミクロドメインの配列を制御するケミカルレジストレーション法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0007】
このケミカルレジストレーション法は、予め基板の表面を、高分子ブロック共重合体を構成する各々のブロック鎖(高分子セグメント)に対して濡れ性が異なる領域となるようにトップダウン的手法を用いて化学的にパターン化するものである。更に具体的に説明すると、例えば、ポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体をミクロ相分離させる際のケミカルレジストレーション法においては、基板の表面はポリスチレンと親和性のよい領域(大きい領域)と、ポリメチルメタクリレートと親和性のよい領域とに分けて化学的にパターン化される。この際、パターンの形状とパターンの間隔をポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体のミクロ相分離構造に対応する形状とすることによって、ポリスチレンと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリスチレンからなるミクロドメインが配置されると共に、ポリメチルメタクリレートと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリメチルメタクリレートからなるミクロドメインが配置される。
【0008】
このようなケミカルレジストレーション法によれば、化学的なパターンをトップダウン的手法で形成するために、得られるパターンの長距離秩序性はトップダウン的手法により担保され、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない微細構造を形成することができる。更に、パターンの間隔をミクロ相分離構造に対応する形状としたまま、パターンの密度を減らしてもポリスチレンと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリスチレンからなるミクロドメインが配置されると共に、パターンとパターンとの間にも、ミクロ相分離構造が維持されるために、ミクロドメイン構造が配置される(パターン補間)。
【0009】
ところで、昨今においては、電子デバイス等の更なる小型化・高性能化の要請から、そのサイズが更に微細化したミクロ相分離構造が望まれている。
しかしながら、ケミカルレジストレーション法を使用してポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体のミクロ相分離構造を形成しようとすると、この共重合体の相互作用パラメーターが小さいために、10数ナノメートル以下のサイズのミクロ相分離構造を得ることができない問題がある。
【0010】
その一方で、連続相中にミクロドメインが基板の表面に対して直立する方向(前記薄膜の厚さ方向)に配向して規則的に配列する高分子ブロック共重合体としては、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(以下、これを略してPOSSということがある)を側鎖に有する、ポリメチルメタクリレート−ブロック−POSS含有ポリメタクリレート共重合体、及びポリスチレン−ブロック−POSS含有ポリメタクリレート共重合体が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
このシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体は、ポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体よりも相互作用パラメーターが大きいのでミクロ相分離構造の更なる微細化が可能になると考えられる。
【0012】
ところで、基板の表面に高分子ブロック共重合体を塗布して成膜した状態では、薄膜中に規則的な構造が存在しない。これは、成膜時に溶媒が急速に蒸発するため高分子ブロック共重合体のミクロ相分離過程が凍結されるためである。そこで、規則的な自己組織化構造を形成するために、成膜後に高分子鎖が自由に運動できるようにアニールすることが必要である。一般に、アニール処理としては、熱アニール法と、溶媒アニール法とが挙げられる。
【0013】
熱アニール法は、高分子ブロック共重合体を構成する高分子鎖の熱分解温度以下で、高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)が実験上到達できる温度領域に存在する場合に、基板上の高分子ブロック共重合体(薄膜)をそのガラス転移温度(Tg)以上の温度に保持する方法である。
また、溶媒アニール法は、基板上の高分子ブロック共重合体(薄膜)を溶媒蒸気に暴露し、高分子ブロック共重合体(薄膜)を膨潤させることにより高分子鎖に運動の自由度を与え、自己組織化を促進する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6746825号明細書
【特許文献2】米国特許第6926953号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Macromolecules 2009, 42, 8835-8843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、溶媒アニール法を用いて従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)の自己組織化構造を形成しようとすると、高分子ブロック共重合体(薄膜)が膨潤して形成された自己組織化構造が圧縮されることとなるので、その構造を良好に維持できない場合がある。また、自己組織化構造の配列パターンの間隔は、その膨潤状態によって異なるために、ケミカルレジストレーション法を用いたミクロドメインの配列を制御することが困難となる場合がある。特に、ケミカルレジストレーション法を用いた前記パターン補間に対する膨潤の悪影響は顕著となることが予想される。
【0017】
そこで、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)の自己組織化構造の形成には、薄膜の膨潤を回避することができる熱アニール法を採用することが考えられる。
【0018】
しかしながら、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体には、明確なガラス転移点温度(Tg)が存在しない。したがって、このシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(薄膜)に対して適切な熱アニール法を施すことが困難となっている。
つまり、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)を用いたケミカルレジストレーション法では、更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を基板上に形成することができない。
【0019】
そこで、本発明の課題は、このような問題を解決することを課題とし、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決する本発明は、少なくとも第1セグメント及び第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板上に配置する第1工程と、前記高分子層をミクロ相分離させて、前記第1セグメントを成分とする連続相中で前記第2セグメントを成分とする複数のミクロドメインを前記基板の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させる第2工程と、を有する高分子薄膜の製造方法において、前記第1工程に先立って、前記連続相に対応するように前記基板に化学的修飾層を形成すると共に、前記ミクロドメインの配列に対応するように前記化学的修飾層とは化学的性質の相違するパターン部を形成する工程を更に有し、前記第2工程は、前記ミクロ相分離が発現する特定の温度で熱処理する工程を含み、前記高分子ブロック共重合体は、前記第1セグメント又は前記第2セグメントにシルセスキオキサン骨格を有し、前記シルセスキオキサン骨格は、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、次式 −(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されていることを特徴とする高分子薄膜の製造方法である。
【0021】
また、前記課題を解決する本発明は、前記高分子薄膜の製造方法によって、前記連続相中で複数の前記ミクロドメインを配列させた前記高分子薄膜を前記基板上に形成する工程と、前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程と、を有することを特徴とする微細構造体の製造方法である。
【0022】
また、前記課題を解決する本発明は、前記高分子薄膜の製造方法によって得られることを特徴とする高分子薄膜である。
【0023】
また、前記課題を解決する本発明は、前記微細構造体の製造方法によって得られることを特徴とする微細構造体である。
【0024】
また、前記課題を解決する本発明は、前記微細構造体の製造方法によって製造される磁気記録媒体である。つまり、本発明の磁気記録媒体は、前記微細構造体の製造方法の発明における微細構造体に相当する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の高分子薄膜の構成を説明するための、一部に破断面を有する部分拡大斜視図である。
【図2】(a)から(f)は、本発明の高分子薄膜の形成に使用する基板の表面(化学的修飾層)をパターン化する工程説明図である。
【図3】(a)及び(b)は、基板上にパターン化された化学的修飾層が配置される態様を示す模式図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の高分子薄膜の製造方法の工程説明図である。
【図5】(a)は、基板の全表面に亘って化学的マークとしての第2領域を高分子ブロック共重合体の固有周期doとなるように配列すると共に、この基板の表面に形成した高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(b)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が25%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(c)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が50%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(d)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が75%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図である。
【図6】本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体における第1セグメント及び第2セグメントの様子を示す概念図である。
【図7】(a)から(f)は、本発明の高分子薄膜を利用して得られる微細構造体の製造方法を説明するための工程図である。
【図8】本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体がミクロ相分離してラメラ状のミクロ相分離構造を形成した様子を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明の高分子薄膜の形成に使用する、ミクロ相分離した高分子ブロック共重合体(薄膜)のX線小角散乱(SAXS)曲線である。
【図10】(a)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜を部分的に拡大して示す平面図、(b)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜の表面において、パターンの格子間隔dが異なる領域の配置を模式的に示す平面図、(c)は、ダイシングされた基板の平面図である。
【図11】本発明の磁気記録媒体の構成を説明するための模式図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の高分子薄膜の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。この高分子薄膜は、化学的修飾層を形成した基板の表面をパターン化すると共に、この基板の表面で高分子ブロック共重合体を熱アニール法によりミクロ相分離させて得られるものであり、この高分子ブロック共重合体が、主鎖と、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数)を含む2価の有機基を介して結合するシルセスキオキサン骨格を含むことを主な特徴とする。
以下では、高分子薄膜及びこの高分子薄膜の製造方法、並びにこの高分子薄膜を使用して得られる微細構造体及びこの微細構造体の製造方法の順番で説明する。
【0028】
(高分子薄膜)
図1に示すように、本実施形態に係る微細構造を有する高分子薄膜Mは、連続相204と、柱状(シリンダ状)のミクロドメイン203とからなるミクロ相分離構造を有し、後記する第1領域106及び第2領域107(図2(f)参照)を形成した(パターン化した)基板201の表面で、後記する高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させたものである。なお、図1においては、パターン化した基板201の表面(図2(f)の第1領域106及び第2領域107)についてはその記載を省略している。
【0029】
ミクロドメイン203は、連続相204中で基板201の面方向に沿って規則的に配列している。更に具体的には、高分子薄膜Mの厚さ方向に配向する柱状のミクロドメイン203は、基板201の面方向に沿って六方最密構造となるように配列している。
なお、本実施形態での柱状のミクロドメイン203は、高分子薄膜Mの厚さ方向に貫通するように形成されているが、ミクロドメイン203は、高分子薄膜Mを貫通していなくてもよい。また、ミクロドメイン203の配列は、六方最密構造に限定されるものではなく、立方格子構造などであっても構わない。
【0030】
また、後に詳しく説明するように、ミクロドメイン203は、ラメラ状(層状)や、球状であってもよい。そして、連続相204の形状は、このようなミクロドメイン203の様々の形状に対応して様々な形状をとり得ることは言うまでもない。
なお、図1中の符号doは、ミクロドメイン203の固有周期であり、高分子薄膜Mを形成するための後記する高分子ブロック共重合体の種類に応じて決まる固有値である。そして、ミクロドメイン203の配列間隔は、固有周期doで決定される。
【0031】
(高分子薄膜の製造方法)
次に、高分子薄膜Mの製造方法について説明する。
なお、ここでは、図1に示すように、柱状のミクロドメイン203が基板201の表面に対して直立する構造を有する高分子薄膜Mの製造方法(ケミカルレジストレーション法による製造方法)について説明する。次に参照する図2(a)から(f)は、基板の表面をパターン化する方法の工程説明図である。
【0032】
この製造方法では、図2(a)に示すように、まず基板201上に化学的修飾層401が形成される。
本実施形態での基板201は、シリコン(Si)製のものを想定しているが、この基板201の材料としては、後記する微細構造体21(図7(b)参照)、及び微細構造体21a(図7(d)参照)の用途に応じて、例えば、ガラスやチタニア等の無機物、GaAsのような半導体、銅、タンタル、チタンのような金属、更にはエポキシ樹脂やポリイミドのような有機物からなるものが挙げられる。
【0033】
化学的修飾層401の形成方法としては、基板201の表面に重合開始の基点となる官能基をカップリング法等によりまず導入し、その重合開始点から高分子を重合する方法や、基板201の表面と化学的にカップリングする官能基を末端や主鎖中に有する高分子を合成し、その後に基板201の表面にカップリング化する方法等がある。特に、後者の方法は簡便であり推奨される。
【0034】
ここでは、ポリスチレンを基板201の表面にカップリング化してポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401を形成する方法について更に具体的に説明する。
まず、末端に水酸基を有するポリスチレンを既定のリビング重合により合成する。次に、基板201を酸素プラズマに暴露し、又はピラニア溶液に浸漬することによって、基板201の表面に形成された自然酸化膜が有する水酸基の密度を高める。そして、末端に水酸基を有するポリスチレンのトルエン等の有機溶剤溶液を、基板201上に付与して成膜する。その後、この基板201を、真空オーブン等を用いて、真空雰囲気下で72時間程度、140℃程度の温度で加熱する。この処理により、基板201の表面の水酸基と、ポリスチレン末端の水酸基とが脱水縮合することによって、基板201の表面近傍のポリスチレンが基板201と結合し、基板201上にポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401が形成される。
【0035】
ポリスチレンを基板201の表面にグラフト化する場合、グラフト化するポリスチレンの分子量については特に制限はないが、数平均分子量で1,000程度から10,000程度とするのが望ましい。このような範囲内の数平均分子量を有するポリスチレンは、ポリスチレングラフト膜の厚さを、好適な数nm程度に制御することができる。
【0036】
次に、基板201の表面に設けた化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)をパターン化する。パターン化とは、後に詳しく説明するように、図1に示す高分子薄膜Mの連続相204中で分布するミクロドメイン203の配列に対応するように、ポリスチレングラフト膜とは化学的性質の相違するパターン部を形成することを意味する。
【0037】
パターン化(パターニング)の方法は、所望のパターンサイズに応じてフォトリソグラフィーや電子線(EB)描画法等の公知のパターン化技術を適用すればよい。
ここではフォトリソグラフィーを使用してパターン化する方法を例示すると、図2(b)に示すように、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面には、レジスト膜402が形成される。次いで、図2(c)に示すように、そのレジスト膜402が露光によってパターン化され、更に現像処理が施されることによって、図2(d)に示すように、レジスト膜402がパターンマスク化される。
【0038】
そして、図2(e)に示すように、パターンマスク化されたレジスト膜402を介して酸素プラズマ処理等の手法で化学的修飾層401をエッチングする。最後に、残留している化学修飾層401の上にあるレジスト膜402を取り除けば、パターン化されたポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401が得られる(図2(f))。つまり、基板201上は、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201の露出面201aからなる第2領域107とに分けられる。言い換えれば、第1領域106と第2領域107とは、化学的性質の相違するように形成される。本実施形態では、高分子薄膜M(図1参照)の形成材料である、後記する高分子ブロック共重合体の第2セグメントA2(図6参照)の成分の第2領域107に対する濡れ性が、第1領域106よりも良好となるように形成される。
なお、第2領域107は、特許請求の範囲にいう「パターン部」に相当する。また、これらの第1領域106及び第2領域107を基板201の表面に形成する工程は、特許請求の範囲にいう「パターン部を形成する工程」に相当する。
【0039】
本プロセスは一例であり、基板201の表面に設けた化学的修飾層401をパターン化できるのであれば他の手段を用いてもよい。次に、参照する図3(a)及び(b)は、基板上にパターン化された化学的修飾層が配置される他の態様を示す模式図である。
【0040】
図3(a)に示すように、化学的修飾層501は、基板201の表面で露出するように複数埋め込まれることでパターン化されている。つまり、基板201の露出面に対して化学的性質が異なる領域を形成するように、化学的修飾層501が離散的に配置されることで特許請求の範囲にいう「パターン部」が形成されている。ちなみに、化学的修飾層501の形成方法としては、例えば、基板201にリソグラフィー法等を適用して所定のパターンの凹部を形成しておき、この凹部内に化学的修飾層501を充填配置する方法を採用することができる。
【0041】
図3(b)に示すように、基板201の表面には、相互に化学的性質の異なる2種類の化学的修飾層501,502がパターン化されて配置されている。
ちなみに、化学的修飾層501,502の形成方法としては、例えば、図2(a)から(f)に示す化学的修飾層401の形成方法と同様にして、基板201の表面に化学的修飾層501を形成しておき、その後、基板201の露出面を埋めるように化学的修飾層501同士の間に化学的修飾層502を配置する方法を採用することができる。
【0042】
次に、この高分子薄膜Mの製造方法では、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)を有する基板201上で、後記する高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させることによって本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得る。次に参照する図4(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係る高分子薄膜の製造方法の工程説明図である。
【0043】
この製造方法では、図4(a)に示すように、パターン化した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で構成される第1領域106と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とを有する基板201上に、後記する高分子ブロック共重合体の塗膜202が形成される。この塗膜202は、特許請求の範囲にいう「高分子層」に相当し、この塗膜202を形成する工程は、特許請求の範囲にいう「第1工程」に相当する。
【0044】
塗膜202の形成は、高分子ブロック共重合体を溶媒に溶解して希薄な高分子ブロック共重合体溶液を調製し、この溶液をスピンコート法やディップコート法等の方法によって基板201の表面に塗布すればよい。スピンコート法を用いる場合を例示すれば、例えば溶液の濃度を数質量%程度とし、回転数を毎分1000〜5000回転とすることによって、乾燥膜厚で数10nm程度の塗膜202を安定的に得ることができる。
なお、高分子ブロック共重合体からなる塗膜202は、成膜時の溶媒の急激な気化に伴い、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離は十分に進行せず、その構造が非平衡な状態、又は全くのディスオーダー状態となっている場合が多い。その構造は、その成膜方法にもよるが、通常、平衡構造となっていない。
【0045】
そこで、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離過程を十分に進行させ、平衡構造を得るために、塗膜202のアニーリングを実施する。アニーリングとしては、例えば、高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)以上に塗膜202を加熱する熱アニール法が適用される。後記する高分子ブロック共重合体を使用する本実施形態においては、真空雰囲気下で、温度170〜230℃にて数時間から数日間加熱する熱アニール法を採用することができる。
【0046】
そして、この製造方法では、図4(b)に示すように、基板201上で塗膜202(高分子層)をミクロ相分離させることによって、後記する高分子ブロック共重合体の第1セグメントA1(図6参照)を成分とする連続相204中で、第2セグメントA2(図6参照)を成分とする複数の柱状のミクロドメイン203を、基板201の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させた微細構造を形成する。この工程は、特許請求の範囲にいう「第2工程」に相当する。
【0047】
このような第2領域107に対する第2セグメントA2(図6参照)の成分の濡れ性は、第1セグメントA1(図6参照)の成分の濡れ性よりも良好となる。そして、第1領域106に対する第1セグメントA1(図6参照)の成分の濡れ性は、第2セグメントA2(図6参照)の成分の濡れ性よりも良好となる。言い換えれば、第2領域107に対するミクロドメイン203の界面張力が、第1領域106に対する界面張力よりも小さく、第2領域107に対する連続相204の界面張力が、第1領域106に対する界面張力よりも大きい。
【0048】
そして、このように基板201の表面に化学的性質が相違する第1領域106と第2領域107とを形成する、いわゆるケミカルレジストレーション法によって、図4(b)に示すように、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなる柱状のミクロドメイン203が第2領域107(基板201の露出面201a)上に配置され、第1セグメントA1(図6参照)の成分からなる連続相204が第1領域106(化学的修飾層401の表面)上に配置されることとなる。
なお、図4(b)において、第1領域106上に形成されたミクロドメイン203は、後記するように補間(パターン補間)されたものを示している。
【0049】
次に、本実施形態で使用したケミカルレジストレーション法について更に詳しく説明する。
ケミカルレジストレーション法は、高分子ブロック共重合体が自己組織化により形成するミクロ相分離構造の長距離秩序性を、例えば図2(f)に示すように、基板201の表面に設けた化学的マーク、つまり第1領域106(化学的修飾層401の表面)内に設けた第2領域107(パターン部:基板201の露出面201a)により向上させる手法である。このケミカルレジストレーション法によれば、化学的マークとしての第2領域107の欠陥が高分子ブロック共重合体の自己組織化により補間(パターン補間)される。
【0050】
本実施形態でのケミカルレジストレーション法を適用して化学的マークとしての第2領域107の補間が可能となったパターンの代表例を以下に示す。次に参照する図5(a)は、化学的マークとしての第2領域を基板の全表面に亘って、本実施形態での高分子ブロック共重合体の固有周期do(図1に示すヘキサゴナルの固有周期do)となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(b)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が25%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(c)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が50%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(d)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が75%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図である。
【0051】
図5(a)に示すように、第2領域107をヘキサゴナルに配列した基板201(化学的マークの欠陥率0%)を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、ミクロ相分離して第2領域107に対応する位置(ヘキサゴナルな固有周期do)でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。
【0052】
また、図5(b)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が25%となるように配列した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203に拘束されて、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
【0053】
また、図5(c)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が50%(パターン密度1/2)となるように配列した基板201、更に詳しくは、一列置きに第2領域107を配置した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203に拘束されて、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
【0054】
また、図5(d)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が75%(パターン密度1/4)となるように配列した基板201、更に詳しくは、一列置きに配置した第2領域107を更に一つ置きに配置した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203の拘束力は弱いものの、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
以上のことから、基板201の表面における化学的マークとしての第2領域107(パターン部)の配列周期(格子間隔)は、ミクロドメインの固有周期doの自然数倍となっていることが望ましい。
【0055】
(高分子ブロック共重合体)
図1に示すように、本発明の高分子薄膜Mの形成に使用する高分子ブロック共重合体は、基板201上でミクロ相分離することによって、連続相204とミクロドメイン203とを形成する。次に参照する図6は、本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体における第1セグメント及び第2セグメントの様子を示す概念図であり、図1の高分子薄膜の部分平面図に相当する。
【0056】
図6に示すように、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、連続相204を形成する成分となる第1セグメントA1と、ミクロドメイン203を形成する成分となる第2セグメントA2とを有している。
【0057】
このような高分子ブロック共重合体においては、基板201(図1参照)上で占める第2セグメントA2の体積が第1セグメントA1の体積より小さいものが望ましい。
第1セグメントA1及び第2セグメントA2の体積は、これらを構成する高分子鎖の重合度を変えることで調節することができる。
【0058】
ちなみに、第1セグメントA1と第2セグメントA2との結合部近傍で連続相204とミクロドメイン203との境界が決定される。したがって、高分子ブロック共重合体は、分子量分布の狭いものが、より望ましく、特にリビングアニオン重合法で合成された高分子ブロック共重合体は更に望ましい。また、前記したリビングアニオン重合法によって合成されるもののほか、原子移動ラジカル重合法や、可逆的付加開裂連鎖移動重合法、ニトロキシド媒介重合法、開環メタセシス重合法等によって合成したものを使用することができる。
また、本実施形態での高分子ブロック共重合体としては、例えば、下記構造式(1)で示される高分子鎖を有するものが挙げられる。
【0059】
【化1】
【0060】
但し、前記構造式(1)中、Mは、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子又は一価の有機基であり、Lは、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数、望ましくは5〜15の整数である)を含む2価の有機基であり、分子長1〜5nm程度のものが望ましい。また、前記構造式(1)中、POSSはポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(シルセスキオキサン骨格)であり、pは1〜1000の整数であり、rは1〜70の整数である。
【0061】
ちなみに、本発明で使用する高分子ブロック共重合体は、前記構造式(1)で示される高分子ブロック共重合体に限定されるものではなく、第1セグメントA1(図6参照)又は第2セグメントA2(図6参照)にシルセスキオキサン骨格を有し、このシルセスキオキサン骨格が、高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、前記した−(CH2)n−基で示されるアルキル鎖を含む有機基を介して結合されているものであればよい。したがって、第1セグメントA1(図6参照)及び第2セグメントA2(図6参照)を構成する主鎖としては、ミクロ相分離に使用する公知の高分子ブロック共重合体の主鎖と同様ものを有するもの使用することができるが、中でも下記構造式(2)で示される高分子ブロック共重合体が望ましい。
【0062】
【化2】
【0063】
但し、前記構造式(2)中、R1は、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子、炭素数1〜24のアルキル、又はアリールである。R2は、リビングアニオン重合法に使用される反応開始剤に由来するアルキル部分であり、中でもsec−ブチルが望ましい。
また、前記構造式(2)中、Dは、例えば、2価の1,1−ジフェニルエチレン基、その誘導体等が挙げられる。Xは、リンカーを構成する2価の有機基であり後に詳しく説明する。
なお、前記構造式(2)中、n、p及びrは、前記構造式(1)のn、p及びrと同義である。
【0064】
前記ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)としては、下記構造式で示されるものが望ましい。なお、下記のPOSSの構造式中、Rは、メチル、エチル、イソブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、及びイソオクチルから選ばれる官能基であって、相互に同一でも異なっていてもよい。
【0065】
【化3】
【0066】
【化4】
【0067】
【化5】
【0068】
【化6】
【0069】
【化7】
【0070】
前記構造式(2)中のXで表される2価の有機基としては、例えば、下記構造式で示されるものが挙げられる。
なお、下記の2価の有機基は、紙面の右側に位置する分子鎖末端を高分子ブロック共重合体の主鎖側とし、紙面の左側に位置する分子鎖末端をPOSS側として表している。
また、下記構造式の「cis/trans」の表記は、当該構造式中の炭素間二重結合におけるシス−トランス異性体を含むことを示している。
【0071】
【化8】
【0072】
【化9】
【0073】
【化10】
【0074】
【化11】
【0075】
【化12】
【0076】
【化13】
【0077】
また、前記した−(CH2)n−基で示されるアルキル鎖とPOSSは直接結合していても良い。
【0078】
以上のような構造式(1)及び構造式(2)で示される高分子ブロック共重合体(POSS含有ブロック共重合体)においては、POSSを含有するブロックが第1セグメントA1(図6参照)に対応し、POSSを含有していないブロックが第2セグメントA2(図6参照)に対応している。
【0079】
そして、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、前記したように、第1セグメントA1(図6参照)及び第2セグメントA2(図6参照)のいずれか一方のブロックにおける側鎖に、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数)を含む2価の有機基を介して結合するシルセスキオキサン骨格を含むものであればよい。
【0080】
このような高分子ブロック共重合体の、より望ましいものとしては、下記構造式(3)で示されるものが挙げられる。
【0081】
【化14】
【0082】
但し、前記構造式(3)中、Rはイソブチルであり、Meはメチルであり、Phはフェニルであり、sec−Buはセカンダリーブチルであり、X、n、p、rは、前記構造式(2)のX、n、p、rと同義である。
【0083】
以上のような本実施形態に係る高分子ブロック共重合体は、第1セグメントA1又は第2セグメントA2(図6参照)と、シルセスキオキサン骨格との間に介在する基を長くすることで、熱アニール時における、側鎖としてのシルセスキオキサン骨格を有する有機基の位置変位(ゆらぎ)の自由度が向上し、かつ、ミクロ相分離構造を発現できるものと考えられる。
【0084】
また、本実施形態に係る高分子ブロック共重合体は、前記したように、第1セグメントA1(図6参照)と第2セグメント(図6参照)におけるそれぞれの末端が結合して成るAB型の高分子ジブロック共重合体を例示したが、本発明で使用する高分子ブロック共重合体としては、ABA型高分子トリブロック共重合体や、三種類以上の高分子セグメントからなるABC型高分子ブロック共重合体などの直鎖状高分子ブロック共重合体、スター型の高分子ブロック共重合体であってもよい。
【0085】
(微細構造体及びその製造方法)
次に、前記した高分子薄膜Mを利用して得られる微細構造体について説明する。ここで参照する図7(a)から(f)は、本実施形態での高分子薄膜を利用して得られる微細構造体の製造方法を説明するための工程図である。なお、図7(a)から(f)では、パターン化した基板201の表面についてはその記載を省略している。以下の説明において、微細構造体とは、その表面にミクロ相分離構造の規則的な配列のパターンに対応する凹凸面が形成されているものを指す。
【0086】
この製造方法では、図7(a)に示すように、連続相204と、柱状体のミクロドメイン203とからなるミクロ相分離構造を有する高分子薄膜Mが準備される。符号201は基板である。
【0087】
次に、この製造方法では、図7(b)に示すように、ミクロドメイン203(図7(a)参照)が除去されることで、基板201と、複数の微細孔Hが規則的に配列した多孔質薄膜Dとを備える微細構造体21が得られる。
なお、ここでは連続相204及びミクロドメイン203のいずれかが除去されればよく、図示しないが、微細構造体21は、ミクロ相分離構造のうち連続相204が除去されることで、複数の柱状体が規則的に配列したものであってもよい。
【0088】
高分子薄膜Mの連続相204又は柱状体のミクロドメイン203のいずれか一方を除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、その他のエッチング法により連続相204とミクロドメイン203とのエッチングレートの差を利用する方法が挙げられる。
【0089】
また、連続相204及びミクロドメイン203のいずれか一方に金属原子等をドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。
また、微細構造体21は、連続相204及びミクロドメイン203のうちのいずれか一方を除去した後に、残存した連続相204及びミクロドメイン203のうちのいずれか一方をマスクとして基板201をエッチングして得られるものであってもよい。
【0090】
つまり、図7(b)に示す連続相204のように、残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)をマスクとして基板201をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。その結果、図7(c)に示すように、微細孔Hを介して除去された、高分子相(多孔質薄膜D)の部位に対応する基板201の表面部位が加工され、ミクロ分離構造のパターンが基板201の表面に転写されることになる。そして、この微細構造体21の表面に残存した多孔質薄膜DをRIE又は溶媒で除去すると、図7(d)に示すように、柱状体のミクロドメイン203(図7(a)参照)に対応したパターンを有する微細孔Hが表面に形成された微細構造体21aが得られることになる。
【0091】
また、微細構造体21は、この微細構造体21を原版としてそのパターン配列を転写して複製されたものであってもよい。
つまり、図7(b)に示す連続相204のように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)を、図7(e)に示すように、被転写体30に密着させて、ミクロ相分離構造のパターンを被転写体30の表面に転写する。その後、図7(f)に示すように、被転写体30を微細構造体21(図7(e)参照)から剥離することにより、多孔質薄膜D(図7(e)参照)のパターンが転写されたレプリカ(微細構造体21b)を得ることができる。
【0092】
ここで、被転写体30の材質は、金属であればニッケル、白金、金等、無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。被転写体30が金属製の場合、スパッタ、蒸着、めっき法、又はこれらの組み合わせにより、被転写体30を微細構造体21(図7(e)参照)の凹凸面に密着させることが可能である。
【0093】
また、被転写体30が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えば、ゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっき法やゾルゲル法は、ミクロ相分離構造における数十nmの規則的な配列のパターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で望ましい方法である。
【0094】
前記した製造方法により得られた微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)は、その表面に形成されるパターンの凹凸面が微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
例えば、製造された微細構造体21,21a,21bの表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則的な配列のパターンを表面に有する微細構造体21,21a,21bのレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
【0095】
以下に、ナノインプリント法により微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)の凹凸面の微細なパターンを被転写体30に転写する方法について示す。
第1の方法は、作製した微細構造体21,21a,21bを被転写体30に直接インプリントして規則的な配列のパターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体30が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体30とする場合に、熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に加熱した後に、微細構造体21,21a,21bをこの被転写体30に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後に微細構造体21,21a,21bを被転写体30の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
【0096】
また、第2の方法として、微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂を微細構造体21,21a,21bに密着させた後に光を照射すると、この光硬化性樹脂は硬化するので、微細構造体21,21a,21bを離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
【0097】
更に、このような光インプリント法において、例えば、ガラス基板を被転写体(図示せず)とする場合に、微細構造体21,21a,21bと、ガラス基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を介在させて密着し、これに光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に微細構造体21,21a,21bを離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクとし、プラズマやイオンビーム等でガラス基板上に規則配列パターンをエッチング加工する転写方法もある。
【0098】
以上のような本実施形態に係るシルセスキオキサンを有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法によれば、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する微細構造体を得ることができる。
【0099】
そして、高分子薄膜M、微細構造体21,21a,21b、及びこれらのレプリカ等で例示される本発明の微細構造体は、磁気記録媒体や光記録媒体等の情報記録媒体に適用可能である。また、このような本発明の微細構造体は、大規模集積回路部品や、レンズ、偏光板、波長フィルタ、発光素子、光集積回路等の光学部品、免疫分析、DNA分離、細胞培養等のバイオデバイスへの適用が可能である。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の他の形態で実施することができる。
前記実施形態では、図1に示すように、ミクロドメイン203が柱状となる高分子薄膜Mについて説明したが、本発明はミクロドメイン203の形状が球状やラメラ状(層状)であってもよい。
【0101】
このような高分子薄膜Mは、ミクロ相分離が行われる際に、基板201で第1セグメントA1(図6参照)の成分と、第2セグメントA2(図6参照)の成分との占める体積割合を調節するように、高分子ブロック共重合体の重合度を調節することで、ミクロドメイン203の形状を変化させることができる。更に詳しく説明すると、第2セグメントA2(図6参照)の成分の、全体積に占める割合が0%から50%に増加するにしたがって、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなるミクロドメイン203の形状は、規則的に配列した球状から、柱状を経て、ラメラ状となる。
【0102】
次に参照する図8は、高分子ブロック共重合体がミクロ相分離してラメラ状のミクロ相分離構造を形成した様子を模式的に示す斜視図である。
図8に示すように、基板201上のラメラ状のミクロ相分離構造は、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなるラメラ状のミクロドメイン203が、第1セグメントA1(図6参照)の成分からなる連続相204中に等間隔に配置された構造となる。
なお、図8中、符号doは高分子ブロック共重合体の固有周期であり、図示しないが、基板201に設けられるポリスチレングラフト膜のパターン化は、ミクロドメイン203と、連続相204とに対応するように等間隔の縞状に形成される。
【実施例】
【0103】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、まず高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体を用意した。具体的には、下記構造式(4)で示される高分子ブロック共重合体である。
【0104】
【化15】
【0105】
但し、構造式(4)中のRは、イソブチルであり、Ph、sec−Buは、前記構造式(3)のPh、sec−Buと同義である。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)11−基(前記構造式(2)中のn=11)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC11POSSということがある)と、一般的な炭化水素系ポリマーとして知られるポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。この高分子ブロック共重合体の数平均分子量Mnは、30,700である。
【0106】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.07であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例1における高分子ブロック共重合体は、「第1の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC11POSS(1)」と記すことがある。
【0107】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
第1の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第1の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0108】
<第1の高分子ブロック共重合体の固有周期doの測定>
この第1の高分子ブロック共重合体の固有周期do(図1参照)の測定にあたって、まず、この高分子ブロック共重合体をクロロホルムに溶解することにより、濃度1.0質量%の高分子ブロック共重合体のクロロホルム溶液を得た。次に、溶媒を徐々に除去し、高分子ブロック共重合体のバルクサンプルを得た。このバルクサンプルに対して、小角X線散乱(SAXS:Small Angle X-ray Scattering)法により構造解析を行った。
【0109】
図9は、ミクロ相分離した第1の高分子ブロック共重合体(PMMA−b−PMAPOSS(1))のX線小角散乱(SAXS)曲線である。この結果、散乱プロファイルから、少なくとも3つの極大(図9中、矢示1,2,3)が存在し、その相対的ピーク位置は、1:√3:√4であることが判明した。つまり、これらの高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することが確認された。更に、極大位置からその固有周期doは25nm(実測値としては24.8nm)であることが確認された。この結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
<ポリスチレングラフト膜の形成>
次に、実施例1では、第1の高分子ブロック共重合体からなる薄膜を形成するための基板を用意した。基板には自然酸化膜を有するSiウエハ(4インチ(10.2cm))を用いた。
次に、この基板としてのSiウエハをピラニア溶液により洗浄した。このピラニア処理によって、Siウエハの表面の有機物を除去すると共に、その表面を酸化して表面水酸基密度を増加させた。
次に、水酸基で末端をターミネートしたポリスチレン(以下、PS−OHという)のトルエン溶液(PS−OH濃度2.0%)を調製し、これをSiウエハの表面に、スピンコーター(ミカサ株式会社製1H−360S、回転速度2000rpm)にて塗布した。
なお、PS−OHの分子量は、3,700であった。得られたPS−OHの膜厚は約50nm程度であった。
【0112】
次に、PS−OHを塗布した基板を真空オーブンに投入し、140℃にて72時間加熱した。この処理によりPS−OH末端の水酸基と、基板表面の水酸基とを脱水反応により化学的に結合させた。最後に、基板をトルエンに浸漬し超音波処理することにより、未反応のPS−OHを除去し、ポリスチレングラフト層を有する基板を得た。
【0113】
ポリスチレングラフト層を形成した基板の表面状態を評価するために、ポリスチレングラフト層の厚さ、表面のカーボン量、及び表面に対するホモポリスチレン(以下、hPSと略記する)の接触角を測定した。ポリスチレングラフト層の厚さの測定には、分光エリプソメトリー法を採用し、カーボン量の測定には、X線光電子分光法(XPS法)を採用した。
【0114】
ポリスチレングラフト層の厚さは5.1nmであった。
ポリスチレングラフト層を形成した基板表面のカーボン量は、そのC1Sに由来するピークの積分強度として求められた。その積分強度は4,500cps及び27,000cpsであった。
【0115】
基板表面のポリスチレングラフト層に対するhPSの接触角は、9度であった。なお、Siウエハからなる基板表面に対するhPSの接触角は、35度であった。つまり、この接触角の減少からも、基板表面にポリスチレングラフト膜が形成できたことが確認できた。
【0116】
ちなみに、基板表面に対するhPSの接触角の測定は以下の方法により実施した。
まず、基板表面に数平均分子量4000のhPSを、厚さが約80nmの薄膜となるようにスピンコートした。次に、hPSを成膜した基板を、真空雰囲気化において、温度170℃で24時間アニールした。この処理により、hPS薄膜は基板表面でdewettingし、微小な液滴となった。この加熱処理後、基板を加熱炉から取り出し液体窒素に浸漬することにより急冷し、液滴の形状を凍結した。
得られた液滴の断面形状を原子間力顕微鏡により測定し、基板と液滴の界面の角度を測定することにより、加熱処理時の温度における基板に対するhPSの接触角を決定した。この際、角度の測定は6点について行いその平均値を接触角とした。
【0117】
<ポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化>
次に参照する図10(a)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜を部分的に拡大して示す平面図、図10(b)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜の表面において、パターンの格子間隔dが異なる領域の配置を模式的に示す平面図、図10(c)は、ダイシングされた基板の平面図である。
【0118】
まず、図10(c)に示すように、ポリスチレングラフト膜(化学的修飾層401)を形成した基板201(Siウエハ)を2cm四方の大きさにダイシングしたものを用意した。
【0119】
次に、このダイシングした基板201のポリスチレングラフト膜をEBリソグラフィー法によりパターン化(パターニング)した。
このパターン化(パターニング)においては、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201上の化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)が部分的に除去されて基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。なお、第2領域107は、格子間隔dでヘキサゴナルに配列された直径rの複数の円形状で構成されている。
【0120】
このパターン化(パターニング)について更に詳しく説明する。
このパターン化(パターニング)においては、図10(b)に示すように、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面を100μm四方で区画し、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=25nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=50nmの領域)とを形成した。
なお、図10(b)中、d=18nmの領域及びd=36nmの領域、並びにd=28nmの領域及びd=56nmの領域については、後記する実施例2及び実施例3で説明する。
【0121】
ちなみに、区画された領域の円形の直径rは、各格子間隔dの約25%〜30%の長さとしたが、25%以下又は30%以上であってもよく、ケミカルレジストレーション法によってミクロ相分離構造の配列が制御できれば特に制限はない。
【0122】
次に、実施例1でのパターニング方法について、図2(a)から(f)を参照しながら更に具体的に説明する。
このパターニング方法では、図2(a)に示すポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401の表面に、図2(b)に示すポリメチルメタクリレートからなるレジスト膜402をスピンコート法にて厚さが50nmとなるように形成した。
【0123】
次に、図2(c)に示すように、レジスト膜402に対して、前記したパターニングに対応するようにEB描画装置で加速電圧100kVにて露光を行った。ここで、パターニングの円形状の直径r(図10(a)参照)は、各格子点におけるEBの露光量で調整した。その後、図2(d)に示すように、レジスト膜402を現像することでパターン化したレジスト膜402を得た。
【0124】
次に、図2(e)に示すように、パターン化したレジスト膜402をマスクとして、化学的修飾層401を、酸素ガスを用いたRIEにより除去した。RIEは、ICPドライエッチング装置を用いて行った。この際、装置の出力は100W、酸素ガスの圧力は1Pa、酸素ガス流量は10cm3/分、処理時間は5〜20秒に設定した。その結果、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201の露出面201aからなる第2領域107とが形成された。
【0125】
そして、図2(f)に示すように、基板201の表面に残存したレジスト膜402(図2(e)参照)をトルエンにより除去することで、表面にパターン化された化学的修飾層401を有する基板201を得た。
【0126】
<ケミカルレジストレーション法を使用した高分子薄膜の形成>
ここでは、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、高分子ブロック共重合体の塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0127】
次に、高分子薄膜Mのミクロ相分離の構造を走査型電子顕微鏡(日立製作所製のSEM、型式S4800)で観察した。SEM観察は、加速電圧1.5kVの条件で実施した。
SEM観察用の試料としては、高分子薄膜Mに存在するPMMAからなる柱状のミクロドメインをRIE法により分解除去したものを使用した。RIE装置としては、サムコ社製RIE−10NPを用い、エッチングは、酸素ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー20W、エッチング時間30秒間の条件で実施した。
なお、微細構造を正確に測定するため、SEM観察において通常帯電防止のために実施する試料表面へのPt等の蒸着は行わず、加速電圧を調整することで必要なコントラストを得た。
【0128】
SEM観察の結果、試料には、ミクロ相分離の構造に由来するナノスケールの微細穴(柱状のミクロドメインの分解除去部分)がヘキサゴナルに配列していることが確認された。つまり、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC11POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0129】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する比(d/do)が「1」(d=25nm)の場合、及び「2」(d=50nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0130】
(実施例2)
実施例2では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが23700のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、実施例1での高分子ブロック共重合体と同様に、−(CH2)11−基(前記構造式(2)中のn=11)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(PMAC11POSS)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0131】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.04であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第2の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC11POSS(2)」と記すことがある。
【0132】
次に、第2の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第2の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0133】
また、実施例1と同様にして、この第2の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは18nm(実測値としては17.9nm)であることが確認された。
【0134】
次に、実施例2では、実施例1と同様にして、図2(a)に示すように、基板201上に化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)を形成すると共に、この化学的修飾層401のパターン化を行った。
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。
更に詳しくは、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した高分子ブロック共重合体の固有周期do(18nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=18nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=36nmの領域)とを形成した。
【0135】
次に、実施例2では、第2の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0136】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC11POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0137】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(18nm)に対する比(d/do)が「1」(d=18nm)の場合、及び「2」(d=36nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0138】
(実施例3)
実施例3では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが35800のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)5−基(前記構造式(2)中のn=5)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC5POSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0139】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC5POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第3の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC5POSS」と記すことがある。
【0140】
次に、第3の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第3の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0141】
また、実施例1と同様にして、この第3の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは28nm(実測値としては27.6nm)であることが確認された。
【0142】
次に、実施例3では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106(図2(f)参照)としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。
【0143】
更に詳しくは、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=28nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=56nmの領域)とを形成した。
【0144】
次に、実施例3では、第3の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0145】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC5POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0146】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する比(d/do)が「1」(d=28nm)の場合、及び「2」(d=56nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0147】
(実施例4)
実施例4では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが34700のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)15−基(前記構造式(2)中のn=15)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC15POSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0148】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC15POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第4の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC15POSS」と記すことがある。
【0149】
次に、第4の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第2の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0150】
また、実施例1と同様にして、この第4の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは28nm(実測値としては28.1nm)であることが確認された。
【0151】
次に、実施例4では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
【0152】
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201上の化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)が部分的に除去されて基板201が露出した表面201aで構成される第2領域107とが形成された。
【0153】
更に詳しくは、実施例3と同様に、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=28nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=56nmの領域)とを形成した。
【0154】
次に、実施例4では、第4の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0155】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC15POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0156】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する比(d/do)が「1」(d=28nm)の場合、及び「2」(d=56nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0157】
(比較例1)
比較例1では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、構造式(5)で示され、数平均分子量Mnが31000のものを用意した。
【0158】
【化16】
【0159】
但し、構造式(5)中のRは、イソブチルであり、Ph、sec−Buは、前記構造式(4)のPh、sec−Buと同義である。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)−基(前記構造式(2)中のn=3)、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAPOSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。
以下、この比較例1における高分子ブロック共重合体は、「第5の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAPOSS」と記すことがある。
【0160】
次に、第5の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定しようとしたが、吸熱ピークは検出されず、第5の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)をもたないことが確認された。
【0161】
また、実施例1と同様にして、この第5の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは25nm(実測値としては24.7nm)であることが確認された。
【0162】
次に、比較例1では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
つまり、図示しないが、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=25nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=50nmの領域)とを形成した。
【0163】
次に、比較例1では、第5の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202に対して180℃、24時間の熱アニールを行った。
【0164】
しかしながら、比較例1における塗膜202においては、高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する比(d/do)が「1」(d=25nm)の場合、及び「2」(d=50nm)の場合のいずれにおいても、ドメイン構造は認められるものの、実施例1から実施例4と異なって、ヘキサゴナルなミクロドメインは形成されなかった。また、比較例1では、パターン補間等のケミカルレジストレーション法を使用した効果も発揮されなかった。
本比較例におけるドメイン構造では、ミクロドメインの配列状態の向上が認められなかったので、その評価結果を表1に「×」と記す。
【0165】
(実施例5)
実施例5では、本発明の微細構造体を製造した。具体的には、図7(a)から(d)に示す工程を経ることによって、高分子薄膜Mを使用した微細構造体(多孔質薄膜D及び微細構造体21a)を得た。
【0166】
まず、実施例2と同様にして、図7(a)に示す、PMMAからなる柱状ミクロドメイン203が基板201に対して直立(高分子薄膜Mの厚さ方向に配向)したミクロ相分離構造を基板201の表面に作製した。
なお、パターニングは、PMMA−b−PMAC11POSS(2)の固有周期do(18nm)の2倍の周期、つまり、比(d/do)が「2」となるように格子間隔をd=36nmに設定して行った。
【0167】
また、PMMA−b−PMAC11POSS(2)の塗膜の厚さは40nmとし、熱アニールは、180℃で24時間行った。その結果、PMMAからなる柱状のミクロドメイン203がPMAC11POSSからなる連続相204中で、ヘキサゴナルに規則的に配列した高分子薄膜が得られた。
【0168】
次に、ミクロドメイン203を酸素RIEで除去することにより、図7(b)に示す微細構造体としての多孔質薄膜Dを得た。ここで酸素のガス圧力は1Paとし、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。
【0169】
そして、多孔質薄膜Dの表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、多孔質薄膜Dの全表面に亘って、多孔質薄膜Dの厚さ方向に配向した柱状の微細孔Hが確認された。ここで、微細孔Hの直径は約10nmであった。また、微細孔Hの配列状態を詳細に分析した結果、格子間隔dで化学的に表面がパターン化された領域では微細孔Hは欠陥なく一方向に配向した状態でヘキサゴナルに配列している様子が見て取れた。
【0170】
ここで、多孔質薄膜Dの一部を鋭利な刃物で基板201の表面から剥離し、基板201の表面と多孔質薄膜Dの表面との段差(多孔質薄膜Dの厚さ)をAFM(原子間力顕微鏡)観察で測定したところ、約40nmであった。
【0171】
得られた微細孔Hのアスペクト比は4であり、球状のミクロドメインでは得られない大きな値が実現されていた。なお、微細構造体としての多孔質薄膜Dの厚さが、RIEを行う前の塗膜の厚さとほぼ変わらなかったことで、PMAC11POSSのエッチング耐性が非常に優れていることが確認された。
【0172】
次に、図7(c)に示すように、多孔質薄膜Dをマスクとして、基板201をエッチングすることにより、多孔質薄膜Dのパターンを基板201に転写した。ここでは、Si基板をCF4ガスによるドライエッチングにより実施した。その結果、多孔質薄膜D中の微細孔Hの形状と配置をSi基板に転写することに成功し、図7(d)に示す微細構造体21aを得ることができた。
【0173】
(比較例2)
この比較例2では、図2(c)に示すように、基板201上のポリスチレングラフト膜(化学的修飾層401)をパターン化しなかった以外は実施例2と同様に、基板201上にPMMA−b−PMAC11POSS(2)を膜厚40nmとなるように塗布し、180℃で24時間熱アニールを行うことでミクロ相分離を発現させた高分子薄膜を得た。次いで、この高分子薄膜を形成した基板を使用した以外は実施例5と同様にして図7(a)に示す多孔質薄膜Dを得た。
【0174】
そして、多孔質薄膜Dの表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、多孔質薄膜Dの微細孔Hは微視的にはヘキサゴナルな配列を取っているものの、巨視的にはヘキサゴナルに配列した領域がポリグレイン構造を形成しており、特にグレインの界面領域に多くの格子欠陥が存在することが確認された。
【0175】
(実施例6)
実施例6では、本発明の微細構造体としての磁気記録媒体(ビットパターン媒体)の製造方法について適宜図面を参照しながら説明する。参照する図面において、図11は、本実施例に係る磁気記録媒体を示す模式図である。
【0176】
図11を用いて磁気記録媒体の構成を説明する。本図においては各記録ビットが分離されている所謂ビットパターン媒体(BPM)の模式図を示している。
図11は本発明により作製した磁気記録媒体300を示す模式図である。磁気記録媒体300は直径65mm、厚さ0.631mmの円盤状であり、基板301上に複数の磁性層および他の層が積層された構造となっている。基板301の中央部にはスピンドルに磁気記録媒体300を固定するための直径20mmの穴302が設けられている。
【0177】
記録トラック303は同心円状に形成されており、非磁性体により磁気的に隣接トラックと分離された構造となっている。磁気記録媒体300の最表面は平坦化されており、記録トラック203と非磁性体領域の高さの差は5nm未満となっている。
また、磁気記録媒体300には所望のトラック上の領域にアクセスし、記録再生動作を行うためのサーボパターン304も形成してある。
図11ではサーボパターン304は模式的に曲線で示されているが、内部には微細パターンが存在している。また、本実施例においては1周を200分割し、各エリアごとにサーボパターン304が入るようにした。勿論サーボパターンの数は200個に限定されるものではなく記録再生特性から決定する必要がある。
また磁気記録媒体300には記録トラック303、サーボパターン304が形成されていない内周部305と外周部306を設けることができる。
【0178】
この磁気記録媒体300の製造方法(製造プロセス)について説明する。この製造プロセスにおいてはまず基板201上に軟磁性裏打層(SUL)を成長させた。基板301の材料はガラスに限ることなく、アルミニウムなどの金属、シリコンなどの半導体、セラミックスやポリカーボネート等の絶縁体などを選択することが可能である。軟磁性裏打層はFe−Ta−C合金を採用し、真空チャンバー内でのスパッタ蒸着後、必要な熱処理を行った。
【0179】
軟磁性裏打層には媒体半径方向への磁気異方性をつけておくことが望ましい。Fe−Ta−C合金に代えて他の軟磁性裏打層を用いても構わず、また、スパッタ蒸着以外の他の成長方法を採用しても構わない。また必要に応じて基板301と軟磁性裏打層の間に、両者の密着性を高めるための密着層、軟磁性裏打層の結晶性を制御する中間層などを挿入してもよい。
【0180】
軟磁性裏打層の形成後に、引き続き記録層を真空中にてスパッタ蒸着により成長させる。本実施例においては記録層としてCo−Cr−Pt膜を採用した。この材料は膜面方向に対し垂直方向に磁化容易軸を有する特徴を有する。したがって、本実施例においては磁気異方性の軸が基板面に対しほぼ垂直となるようにスパッタ蒸着の条件を選んだ。
【0181】
記録層として用いる磁性材料はCo−Cr−Pt合金に限らず、他の材料でも構わない。特にグラニュラ膜と呼ばれるSiを含有した記録層は本発明と相性がよい。
さらに、記録層上に基板加工用に保護層を成長させた。保護層として用いる材料はシリコンナイトライド(SiN)膜を採用した。保護層としてはSiNに限らず、他の材料でも構わない。
【0182】
そして、実施例5で述べたように、高分子薄膜Mを形成した。次に、図7(a)から(d)に示す工程を経ることによって、高分子薄膜Mを使用した微細構造体(多孔質薄膜D及び微細構造体21a)を得た。その後、必要に応じ溝部に非磁性体を埋め込む。例えば、Si−Oを基板上部から成長させ、エッチバックまたは化学機械研磨(CMP)により平坦化することが可能である。
【0183】
更に必要に応じ、さらに保護膜や潤滑膜(図示せず)を成長させ、図11に示す磁気記録媒体300が完成する。本実施例では記録層上に実施例5と同様に微細構造体(連続相204、ミクロドメイン203)を形成することにより、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有するビットパターン媒体の製造が可能となった。
【0184】
なお、本実施例においては図7に示す微細構造体21をマスクとして記録層を加工したが、実施例7で作製したSi製の基板201に転写された微細構造体21aを金型として、ナノインプリント工程で記録層を加工させることも可能である。あるいは、図11に示す基板301を同じく実施例7と同様に加工した後に、基板301の凹凸形状の上から各磁性膜を成長させることも可能である。
【符号の説明】
【0185】
21 微細構造体
21a 微細構造体
21b 微細構造体
106 第1領域
107 第2領域
201 基板
201a 基板が露出した表面
203 ミクロドメイン
204 連続相
300 磁気記録媒体
301 基板
302 穴
303 記録トラック
304 サーボパターン
305 内周部
306 外周部
401 化学修飾層
A1 第1セグメント
A2 第2セグメント
M 高分子薄膜
do 固有周期
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサンを有する高分子ブロック共重合体が基板上でミクロ相分離して形成される微細構造を有する高分子薄膜、この高分子薄膜を使用して得られる微細構造体、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、エネルギー貯蔵デバイス、センサー等の小型化・高性能化に伴い、数ナノメートルから数百ナノメートルのサイズの微細な規則配列パターンを基板上に形成する必要性が高まっている。このため微細な規則配列パターン(以下、単に「微細構造」という)を高精度でかつ低コストに製造できるプロセスの確立が求められている。
このような微細構造の加工方法としては、リソグラフィーに代表されるトップダウン的手法、つまりバルク材料を微細に刻む方法が一般に用いられている。例えば、LSIの製造等の半導体微細加工に用いられる光リソグラフィーはこの代表例である。
【0003】
しかしながら、このようなトップダウン的手法は、微細構造の微細度が高まるにしたがって、装置の大型化やプロセスの複雑化等をもたらして製造コストが増大する。特に、微細構造の加工寸法が数十ナノメートルまで微細になると、パターニングに電子線や深紫外線を用いる必要があり、装置に莫大な投資が必要となる。また、マスクを適用した微細構造の形成が困難になると、直接描画法を適用せざるをえないので、加工スループットが著しく低下する問題がある。
【0004】
このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用したプロセスが注目を集めている。特に、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離を利用したプロセスは、簡便な塗布プロセスで数十ナノメートルから数百ナノメートルの種々の形状を有する微細構造を形成できる点で優れたプロセスである。例えば、高分子ブロック共重合体における異種の高分子セグメント同士が互いに混じり合わない(非相溶な)場合に、これらの高分子セグメント同士は、ミクロ相分離することにより連続相中に球状や柱状、層状のミクロドメインが規則的に配列した構造を形成する。
【0005】
このミクロ相分離を利用した微細構造の形成方法としては、例えば、ポリスチレンとポリブタジエン、ポリスチレンとポリイソプレン、ポリスチレンとポリメチルメタクリレート等の組み合わせからなる高分子ブロック共重合体の薄膜を基板上に形成してミクロ相分離させると共に、この薄膜をマスクとして基板にエッチングを施すことによって、薄膜のミクロドメインに対応した形状の孔やラインアンドスペースを基板上に形成する技術が挙げられる。
【0006】
また、基板上に付与した高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させる技術においては、基板の表面に化学的性質の異なる領域を微細なパターンで形成し、基板の表面と高分子ブロック共重合体との化学的相互作用の差異を利用してミクロドメインの配列を制御するケミカルレジストレーション法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0007】
このケミカルレジストレーション法は、予め基板の表面を、高分子ブロック共重合体を構成する各々のブロック鎖(高分子セグメント)に対して濡れ性が異なる領域となるようにトップダウン的手法を用いて化学的にパターン化するものである。更に具体的に説明すると、例えば、ポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体をミクロ相分離させる際のケミカルレジストレーション法においては、基板の表面はポリスチレンと親和性のよい領域(大きい領域)と、ポリメチルメタクリレートと親和性のよい領域とに分けて化学的にパターン化される。この際、パターンの形状とパターンの間隔をポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体のミクロ相分離構造に対応する形状とすることによって、ポリスチレンと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリスチレンからなるミクロドメインが配置されると共に、ポリメチルメタクリレートと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリメチルメタクリレートからなるミクロドメインが配置される。
【0008】
このようなケミカルレジストレーション法によれば、化学的なパターンをトップダウン的手法で形成するために、得られるパターンの長距離秩序性はトップダウン的手法により担保され、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない微細構造を形成することができる。更に、パターンの間隔をミクロ相分離構造に対応する形状としたまま、パターンの密度を減らしてもポリスチレンと親和性(濡れ性)のよい領域にはポリスチレンからなるミクロドメインが配置されると共に、パターンとパターンとの間にも、ミクロ相分離構造が維持されるために、ミクロドメイン構造が配置される(パターン補間)。
【0009】
ところで、昨今においては、電子デバイス等の更なる小型化・高性能化の要請から、そのサイズが更に微細化したミクロ相分離構造が望まれている。
しかしながら、ケミカルレジストレーション法を使用してポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体のミクロ相分離構造を形成しようとすると、この共重合体の相互作用パラメーターが小さいために、10数ナノメートル以下のサイズのミクロ相分離構造を得ることができない問題がある。
【0010】
その一方で、連続相中にミクロドメインが基板の表面に対して直立する方向(前記薄膜の厚さ方向)に配向して規則的に配列する高分子ブロック共重合体としては、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(以下、これを略してPOSSということがある)を側鎖に有する、ポリメチルメタクリレート−ブロック−POSS含有ポリメタクリレート共重合体、及びポリスチレン−ブロック−POSS含有ポリメタクリレート共重合体が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
このシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体は、ポリスチレン・ポリメチルメタクリレートジブロック共重合体よりも相互作用パラメーターが大きいのでミクロ相分離構造の更なる微細化が可能になると考えられる。
【0012】
ところで、基板の表面に高分子ブロック共重合体を塗布して成膜した状態では、薄膜中に規則的な構造が存在しない。これは、成膜時に溶媒が急速に蒸発するため高分子ブロック共重合体のミクロ相分離過程が凍結されるためである。そこで、規則的な自己組織化構造を形成するために、成膜後に高分子鎖が自由に運動できるようにアニールすることが必要である。一般に、アニール処理としては、熱アニール法と、溶媒アニール法とが挙げられる。
【0013】
熱アニール法は、高分子ブロック共重合体を構成する高分子鎖の熱分解温度以下で、高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)が実験上到達できる温度領域に存在する場合に、基板上の高分子ブロック共重合体(薄膜)をそのガラス転移温度(Tg)以上の温度に保持する方法である。
また、溶媒アニール法は、基板上の高分子ブロック共重合体(薄膜)を溶媒蒸気に暴露し、高分子ブロック共重合体(薄膜)を膨潤させることにより高分子鎖に運動の自由度を与え、自己組織化を促進する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6746825号明細書
【特許文献2】米国特許第6926953号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Macromolecules 2009, 42, 8835-8843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、溶媒アニール法を用いて従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)の自己組織化構造を形成しようとすると、高分子ブロック共重合体(薄膜)が膨潤して形成された自己組織化構造が圧縮されることとなるので、その構造を良好に維持できない場合がある。また、自己組織化構造の配列パターンの間隔は、その膨潤状態によって異なるために、ケミカルレジストレーション法を用いたミクロドメインの配列を制御することが困難となる場合がある。特に、ケミカルレジストレーション法を用いた前記パターン補間に対する膨潤の悪影響は顕著となることが予想される。
【0017】
そこで、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)の自己組織化構造の形成には、薄膜の膨潤を回避することができる熱アニール法を採用することが考えられる。
【0018】
しかしながら、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体には、明確なガラス転移点温度(Tg)が存在しない。したがって、このシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(薄膜)に対して適切な熱アニール法を施すことが困難となっている。
つまり、従来のシロキサン結合を含む高分子ブロック共重合体(例えば、非特許文献1参照)を用いたケミカルレジストレーション法では、更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を基板上に形成することができない。
【0019】
そこで、本発明の課題は、このような問題を解決することを課題とし、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決する本発明は、少なくとも第1セグメント及び第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板上に配置する第1工程と、前記高分子層をミクロ相分離させて、前記第1セグメントを成分とする連続相中で前記第2セグメントを成分とする複数のミクロドメインを前記基板の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させる第2工程と、を有する高分子薄膜の製造方法において、前記第1工程に先立って、前記連続相に対応するように前記基板に化学的修飾層を形成すると共に、前記ミクロドメインの配列に対応するように前記化学的修飾層とは化学的性質の相違するパターン部を形成する工程を更に有し、前記第2工程は、前記ミクロ相分離が発現する特定の温度で熱処理する工程を含み、前記高分子ブロック共重合体は、前記第1セグメント又は前記第2セグメントにシルセスキオキサン骨格を有し、前記シルセスキオキサン骨格は、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、次式 −(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されていることを特徴とする高分子薄膜の製造方法である。
【0021】
また、前記課題を解決する本発明は、前記高分子薄膜の製造方法によって、前記連続相中で複数の前記ミクロドメインを配列させた前記高分子薄膜を前記基板上に形成する工程と、前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程と、を有することを特徴とする微細構造体の製造方法である。
【0022】
また、前記課題を解決する本発明は、前記高分子薄膜の製造方法によって得られることを特徴とする高分子薄膜である。
【0023】
また、前記課題を解決する本発明は、前記微細構造体の製造方法によって得られることを特徴とする微細構造体である。
【0024】
また、前記課題を解決する本発明は、前記微細構造体の製造方法によって製造される磁気記録媒体である。つまり、本発明の磁気記録媒体は、前記微細構造体の製造方法の発明における微細構造体に相当する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の高分子薄膜の構成を説明するための、一部に破断面を有する部分拡大斜視図である。
【図2】(a)から(f)は、本発明の高分子薄膜の形成に使用する基板の表面(化学的修飾層)をパターン化する工程説明図である。
【図3】(a)及び(b)は、基板上にパターン化された化学的修飾層が配置される態様を示す模式図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の高分子薄膜の製造方法の工程説明図である。
【図5】(a)は、基板の全表面に亘って化学的マークとしての第2領域を高分子ブロック共重合体の固有周期doとなるように配列すると共に、この基板の表面に形成した高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(b)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が25%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(c)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が50%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、(d)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が75%となるように配列し、高分子ブロック共重合体の薄膜をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図である。
【図6】本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体における第1セグメント及び第2セグメントの様子を示す概念図である。
【図7】(a)から(f)は、本発明の高分子薄膜を利用して得られる微細構造体の製造方法を説明するための工程図である。
【図8】本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体がミクロ相分離してラメラ状のミクロ相分離構造を形成した様子を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明の高分子薄膜の形成に使用する、ミクロ相分離した高分子ブロック共重合体(薄膜)のX線小角散乱(SAXS)曲線である。
【図10】(a)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜を部分的に拡大して示す平面図、(b)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜の表面において、パターンの格子間隔dが異なる領域の配置を模式的に示す平面図、(c)は、ダイシングされた基板の平面図である。
【図11】本発明の磁気記録媒体の構成を説明するための模式図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の高分子薄膜の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。この高分子薄膜は、化学的修飾層を形成した基板の表面をパターン化すると共に、この基板の表面で高分子ブロック共重合体を熱アニール法によりミクロ相分離させて得られるものであり、この高分子ブロック共重合体が、主鎖と、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数)を含む2価の有機基を介して結合するシルセスキオキサン骨格を含むことを主な特徴とする。
以下では、高分子薄膜及びこの高分子薄膜の製造方法、並びにこの高分子薄膜を使用して得られる微細構造体及びこの微細構造体の製造方法の順番で説明する。
【0028】
(高分子薄膜)
図1に示すように、本実施形態に係る微細構造を有する高分子薄膜Mは、連続相204と、柱状(シリンダ状)のミクロドメイン203とからなるミクロ相分離構造を有し、後記する第1領域106及び第2領域107(図2(f)参照)を形成した(パターン化した)基板201の表面で、後記する高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させたものである。なお、図1においては、パターン化した基板201の表面(図2(f)の第1領域106及び第2領域107)についてはその記載を省略している。
【0029】
ミクロドメイン203は、連続相204中で基板201の面方向に沿って規則的に配列している。更に具体的には、高分子薄膜Mの厚さ方向に配向する柱状のミクロドメイン203は、基板201の面方向に沿って六方最密構造となるように配列している。
なお、本実施形態での柱状のミクロドメイン203は、高分子薄膜Mの厚さ方向に貫通するように形成されているが、ミクロドメイン203は、高分子薄膜Mを貫通していなくてもよい。また、ミクロドメイン203の配列は、六方最密構造に限定されるものではなく、立方格子構造などであっても構わない。
【0030】
また、後に詳しく説明するように、ミクロドメイン203は、ラメラ状(層状)や、球状であってもよい。そして、連続相204の形状は、このようなミクロドメイン203の様々の形状に対応して様々な形状をとり得ることは言うまでもない。
なお、図1中の符号doは、ミクロドメイン203の固有周期であり、高分子薄膜Mを形成するための後記する高分子ブロック共重合体の種類に応じて決まる固有値である。そして、ミクロドメイン203の配列間隔は、固有周期doで決定される。
【0031】
(高分子薄膜の製造方法)
次に、高分子薄膜Mの製造方法について説明する。
なお、ここでは、図1に示すように、柱状のミクロドメイン203が基板201の表面に対して直立する構造を有する高分子薄膜Mの製造方法(ケミカルレジストレーション法による製造方法)について説明する。次に参照する図2(a)から(f)は、基板の表面をパターン化する方法の工程説明図である。
【0032】
この製造方法では、図2(a)に示すように、まず基板201上に化学的修飾層401が形成される。
本実施形態での基板201は、シリコン(Si)製のものを想定しているが、この基板201の材料としては、後記する微細構造体21(図7(b)参照)、及び微細構造体21a(図7(d)参照)の用途に応じて、例えば、ガラスやチタニア等の無機物、GaAsのような半導体、銅、タンタル、チタンのような金属、更にはエポキシ樹脂やポリイミドのような有機物からなるものが挙げられる。
【0033】
化学的修飾層401の形成方法としては、基板201の表面に重合開始の基点となる官能基をカップリング法等によりまず導入し、その重合開始点から高分子を重合する方法や、基板201の表面と化学的にカップリングする官能基を末端や主鎖中に有する高分子を合成し、その後に基板201の表面にカップリング化する方法等がある。特に、後者の方法は簡便であり推奨される。
【0034】
ここでは、ポリスチレンを基板201の表面にカップリング化してポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401を形成する方法について更に具体的に説明する。
まず、末端に水酸基を有するポリスチレンを既定のリビング重合により合成する。次に、基板201を酸素プラズマに暴露し、又はピラニア溶液に浸漬することによって、基板201の表面に形成された自然酸化膜が有する水酸基の密度を高める。そして、末端に水酸基を有するポリスチレンのトルエン等の有機溶剤溶液を、基板201上に付与して成膜する。その後、この基板201を、真空オーブン等を用いて、真空雰囲気下で72時間程度、140℃程度の温度で加熱する。この処理により、基板201の表面の水酸基と、ポリスチレン末端の水酸基とが脱水縮合することによって、基板201の表面近傍のポリスチレンが基板201と結合し、基板201上にポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401が形成される。
【0035】
ポリスチレンを基板201の表面にグラフト化する場合、グラフト化するポリスチレンの分子量については特に制限はないが、数平均分子量で1,000程度から10,000程度とするのが望ましい。このような範囲内の数平均分子量を有するポリスチレンは、ポリスチレングラフト膜の厚さを、好適な数nm程度に制御することができる。
【0036】
次に、基板201の表面に設けた化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)をパターン化する。パターン化とは、後に詳しく説明するように、図1に示す高分子薄膜Mの連続相204中で分布するミクロドメイン203の配列に対応するように、ポリスチレングラフト膜とは化学的性質の相違するパターン部を形成することを意味する。
【0037】
パターン化(パターニング)の方法は、所望のパターンサイズに応じてフォトリソグラフィーや電子線(EB)描画法等の公知のパターン化技術を適用すればよい。
ここではフォトリソグラフィーを使用してパターン化する方法を例示すると、図2(b)に示すように、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面には、レジスト膜402が形成される。次いで、図2(c)に示すように、そのレジスト膜402が露光によってパターン化され、更に現像処理が施されることによって、図2(d)に示すように、レジスト膜402がパターンマスク化される。
【0038】
そして、図2(e)に示すように、パターンマスク化されたレジスト膜402を介して酸素プラズマ処理等の手法で化学的修飾層401をエッチングする。最後に、残留している化学修飾層401の上にあるレジスト膜402を取り除けば、パターン化されたポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401が得られる(図2(f))。つまり、基板201上は、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201の露出面201aからなる第2領域107とに分けられる。言い換えれば、第1領域106と第2領域107とは、化学的性質の相違するように形成される。本実施形態では、高分子薄膜M(図1参照)の形成材料である、後記する高分子ブロック共重合体の第2セグメントA2(図6参照)の成分の第2領域107に対する濡れ性が、第1領域106よりも良好となるように形成される。
なお、第2領域107は、特許請求の範囲にいう「パターン部」に相当する。また、これらの第1領域106及び第2領域107を基板201の表面に形成する工程は、特許請求の範囲にいう「パターン部を形成する工程」に相当する。
【0039】
本プロセスは一例であり、基板201の表面に設けた化学的修飾層401をパターン化できるのであれば他の手段を用いてもよい。次に、参照する図3(a)及び(b)は、基板上にパターン化された化学的修飾層が配置される他の態様を示す模式図である。
【0040】
図3(a)に示すように、化学的修飾層501は、基板201の表面で露出するように複数埋め込まれることでパターン化されている。つまり、基板201の露出面に対して化学的性質が異なる領域を形成するように、化学的修飾層501が離散的に配置されることで特許請求の範囲にいう「パターン部」が形成されている。ちなみに、化学的修飾層501の形成方法としては、例えば、基板201にリソグラフィー法等を適用して所定のパターンの凹部を形成しておき、この凹部内に化学的修飾層501を充填配置する方法を採用することができる。
【0041】
図3(b)に示すように、基板201の表面には、相互に化学的性質の異なる2種類の化学的修飾層501,502がパターン化されて配置されている。
ちなみに、化学的修飾層501,502の形成方法としては、例えば、図2(a)から(f)に示す化学的修飾層401の形成方法と同様にして、基板201の表面に化学的修飾層501を形成しておき、その後、基板201の露出面を埋めるように化学的修飾層501同士の間に化学的修飾層502を配置する方法を採用することができる。
【0042】
次に、この高分子薄膜Mの製造方法では、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)を有する基板201上で、後記する高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させることによって本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得る。次に参照する図4(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係る高分子薄膜の製造方法の工程説明図である。
【0043】
この製造方法では、図4(a)に示すように、パターン化した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で構成される第1領域106と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とを有する基板201上に、後記する高分子ブロック共重合体の塗膜202が形成される。この塗膜202は、特許請求の範囲にいう「高分子層」に相当し、この塗膜202を形成する工程は、特許請求の範囲にいう「第1工程」に相当する。
【0044】
塗膜202の形成は、高分子ブロック共重合体を溶媒に溶解して希薄な高分子ブロック共重合体溶液を調製し、この溶液をスピンコート法やディップコート法等の方法によって基板201の表面に塗布すればよい。スピンコート法を用いる場合を例示すれば、例えば溶液の濃度を数質量%程度とし、回転数を毎分1000〜5000回転とすることによって、乾燥膜厚で数10nm程度の塗膜202を安定的に得ることができる。
なお、高分子ブロック共重合体からなる塗膜202は、成膜時の溶媒の急激な気化に伴い、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離は十分に進行せず、その構造が非平衡な状態、又は全くのディスオーダー状態となっている場合が多い。その構造は、その成膜方法にもよるが、通常、平衡構造となっていない。
【0045】
そこで、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離過程を十分に進行させ、平衡構造を得るために、塗膜202のアニーリングを実施する。アニーリングとしては、例えば、高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)以上に塗膜202を加熱する熱アニール法が適用される。後記する高分子ブロック共重合体を使用する本実施形態においては、真空雰囲気下で、温度170〜230℃にて数時間から数日間加熱する熱アニール法を採用することができる。
【0046】
そして、この製造方法では、図4(b)に示すように、基板201上で塗膜202(高分子層)をミクロ相分離させることによって、後記する高分子ブロック共重合体の第1セグメントA1(図6参照)を成分とする連続相204中で、第2セグメントA2(図6参照)を成分とする複数の柱状のミクロドメイン203を、基板201の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させた微細構造を形成する。この工程は、特許請求の範囲にいう「第2工程」に相当する。
【0047】
このような第2領域107に対する第2セグメントA2(図6参照)の成分の濡れ性は、第1セグメントA1(図6参照)の成分の濡れ性よりも良好となる。そして、第1領域106に対する第1セグメントA1(図6参照)の成分の濡れ性は、第2セグメントA2(図6参照)の成分の濡れ性よりも良好となる。言い換えれば、第2領域107に対するミクロドメイン203の界面張力が、第1領域106に対する界面張力よりも小さく、第2領域107に対する連続相204の界面張力が、第1領域106に対する界面張力よりも大きい。
【0048】
そして、このように基板201の表面に化学的性質が相違する第1領域106と第2領域107とを形成する、いわゆるケミカルレジストレーション法によって、図4(b)に示すように、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなる柱状のミクロドメイン203が第2領域107(基板201の露出面201a)上に配置され、第1セグメントA1(図6参照)の成分からなる連続相204が第1領域106(化学的修飾層401の表面)上に配置されることとなる。
なお、図4(b)において、第1領域106上に形成されたミクロドメイン203は、後記するように補間(パターン補間)されたものを示している。
【0049】
次に、本実施形態で使用したケミカルレジストレーション法について更に詳しく説明する。
ケミカルレジストレーション法は、高分子ブロック共重合体が自己組織化により形成するミクロ相分離構造の長距離秩序性を、例えば図2(f)に示すように、基板201の表面に設けた化学的マーク、つまり第1領域106(化学的修飾層401の表面)内に設けた第2領域107(パターン部:基板201の露出面201a)により向上させる手法である。このケミカルレジストレーション法によれば、化学的マークとしての第2領域107の欠陥が高分子ブロック共重合体の自己組織化により補間(パターン補間)される。
【0050】
本実施形態でのケミカルレジストレーション法を適用して化学的マークとしての第2領域107の補間が可能となったパターンの代表例を以下に示す。次に参照する図5(a)は、化学的マークとしての第2領域を基板の全表面に亘って、本実施形態での高分子ブロック共重合体の固有周期do(図1に示すヘキサゴナルの固有周期do)となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(b)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が25%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(c)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が50%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図、図5(d)は、化学的マークとしての第2領域の欠陥率が75%となるように配列し、高分子ブロック共重合体をミクロ相分離させた際の様子を示す概念図である。
【0051】
図5(a)に示すように、第2領域107をヘキサゴナルに配列した基板201(化学的マークの欠陥率0%)を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、ミクロ相分離して第2領域107に対応する位置(ヘキサゴナルな固有周期do)でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。
【0052】
また、図5(b)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が25%となるように配列した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203に拘束されて、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
【0053】
また、図5(c)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が50%(パターン密度1/2)となるように配列した基板201、更に詳しくは、一列置きに第2領域107を配置した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203に拘束されて、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
【0054】
また、図5(d)に示すように、化学的マークとしての第2領域107の欠陥率が75%(パターン密度1/4)となるように配列した基板201、更に詳しくは、一列置きに配置した第2領域107を更に一つ置きに配置した基板201を使用すると、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、第2領域107の欠陥部位の周囲で直立するミクロドメイン203の拘束力は弱いものの、第2領域107の欠陥部位に対応する位置でミクロドメイン203を直立させるようにミクロ相分離する。つまり、第2領域107の欠陥部位は、本実施形態での高分子ブロック共重合体を使用することで補間されており、精度よくケミカルレジストレーションが実現されている。
以上のことから、基板201の表面における化学的マークとしての第2領域107(パターン部)の配列周期(格子間隔)は、ミクロドメインの固有周期doの自然数倍となっていることが望ましい。
【0055】
(高分子ブロック共重合体)
図1に示すように、本発明の高分子薄膜Mの形成に使用する高分子ブロック共重合体は、基板201上でミクロ相分離することによって、連続相204とミクロドメイン203とを形成する。次に参照する図6は、本発明の高分子薄膜の形成に使用する高分子ブロック共重合体における第1セグメント及び第2セグメントの様子を示す概念図であり、図1の高分子薄膜の部分平面図に相当する。
【0056】
図6に示すように、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、連続相204を形成する成分となる第1セグメントA1と、ミクロドメイン203を形成する成分となる第2セグメントA2とを有している。
【0057】
このような高分子ブロック共重合体においては、基板201(図1参照)上で占める第2セグメントA2の体積が第1セグメントA1の体積より小さいものが望ましい。
第1セグメントA1及び第2セグメントA2の体積は、これらを構成する高分子鎖の重合度を変えることで調節することができる。
【0058】
ちなみに、第1セグメントA1と第2セグメントA2との結合部近傍で連続相204とミクロドメイン203との境界が決定される。したがって、高分子ブロック共重合体は、分子量分布の狭いものが、より望ましく、特にリビングアニオン重合法で合成された高分子ブロック共重合体は更に望ましい。また、前記したリビングアニオン重合法によって合成されるもののほか、原子移動ラジカル重合法や、可逆的付加開裂連鎖移動重合法、ニトロキシド媒介重合法、開環メタセシス重合法等によって合成したものを使用することができる。
また、本実施形態での高分子ブロック共重合体としては、例えば、下記構造式(1)で示される高分子鎖を有するものが挙げられる。
【0059】
【化1】
【0060】
但し、前記構造式(1)中、Mは、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子又は一価の有機基であり、Lは、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数、望ましくは5〜15の整数である)を含む2価の有機基であり、分子長1〜5nm程度のものが望ましい。また、前記構造式(1)中、POSSはポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(シルセスキオキサン骨格)であり、pは1〜1000の整数であり、rは1〜70の整数である。
【0061】
ちなみに、本発明で使用する高分子ブロック共重合体は、前記構造式(1)で示される高分子ブロック共重合体に限定されるものではなく、第1セグメントA1(図6参照)又は第2セグメントA2(図6参照)にシルセスキオキサン骨格を有し、このシルセスキオキサン骨格が、高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、前記した−(CH2)n−基で示されるアルキル鎖を含む有機基を介して結合されているものであればよい。したがって、第1セグメントA1(図6参照)及び第2セグメントA2(図6参照)を構成する主鎖としては、ミクロ相分離に使用する公知の高分子ブロック共重合体の主鎖と同様ものを有するもの使用することができるが、中でも下記構造式(2)で示される高分子ブロック共重合体が望ましい。
【0062】
【化2】
【0063】
但し、前記構造式(2)中、R1は、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子、炭素数1〜24のアルキル、又はアリールである。R2は、リビングアニオン重合法に使用される反応開始剤に由来するアルキル部分であり、中でもsec−ブチルが望ましい。
また、前記構造式(2)中、Dは、例えば、2価の1,1−ジフェニルエチレン基、その誘導体等が挙げられる。Xは、リンカーを構成する2価の有機基であり後に詳しく説明する。
なお、前記構造式(2)中、n、p及びrは、前記構造式(1)のn、p及びrと同義である。
【0064】
前記ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)としては、下記構造式で示されるものが望ましい。なお、下記のPOSSの構造式中、Rは、メチル、エチル、イソブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、及びイソオクチルから選ばれる官能基であって、相互に同一でも異なっていてもよい。
【0065】
【化3】
【0066】
【化4】
【0067】
【化5】
【0068】
【化6】
【0069】
【化7】
【0070】
前記構造式(2)中のXで表される2価の有機基としては、例えば、下記構造式で示されるものが挙げられる。
なお、下記の2価の有機基は、紙面の右側に位置する分子鎖末端を高分子ブロック共重合体の主鎖側とし、紙面の左側に位置する分子鎖末端をPOSS側として表している。
また、下記構造式の「cis/trans」の表記は、当該構造式中の炭素間二重結合におけるシス−トランス異性体を含むことを示している。
【0071】
【化8】
【0072】
【化9】
【0073】
【化10】
【0074】
【化11】
【0075】
【化12】
【0076】
【化13】
【0077】
また、前記した−(CH2)n−基で示されるアルキル鎖とPOSSは直接結合していても良い。
【0078】
以上のような構造式(1)及び構造式(2)で示される高分子ブロック共重合体(POSS含有ブロック共重合体)においては、POSSを含有するブロックが第1セグメントA1(図6参照)に対応し、POSSを含有していないブロックが第2セグメントA2(図6参照)に対応している。
【0079】
そして、本実施形態での高分子ブロック共重合体は、前記したように、第1セグメントA1(図6参照)及び第2セグメントA2(図6参照)のいずれか一方のブロックにおける側鎖に、−(CH2)n−基(但し、nは、5≦n≦24の整数)を含む2価の有機基を介して結合するシルセスキオキサン骨格を含むものであればよい。
【0080】
このような高分子ブロック共重合体の、より望ましいものとしては、下記構造式(3)で示されるものが挙げられる。
【0081】
【化14】
【0082】
但し、前記構造式(3)中、Rはイソブチルであり、Meはメチルであり、Phはフェニルであり、sec−Buはセカンダリーブチルであり、X、n、p、rは、前記構造式(2)のX、n、p、rと同義である。
【0083】
以上のような本実施形態に係る高分子ブロック共重合体は、第1セグメントA1又は第2セグメントA2(図6参照)と、シルセスキオキサン骨格との間に介在する基を長くすることで、熱アニール時における、側鎖としてのシルセスキオキサン骨格を有する有機基の位置変位(ゆらぎ)の自由度が向上し、かつ、ミクロ相分離構造を発現できるものと考えられる。
【0084】
また、本実施形態に係る高分子ブロック共重合体は、前記したように、第1セグメントA1(図6参照)と第2セグメント(図6参照)におけるそれぞれの末端が結合して成るAB型の高分子ジブロック共重合体を例示したが、本発明で使用する高分子ブロック共重合体としては、ABA型高分子トリブロック共重合体や、三種類以上の高分子セグメントからなるABC型高分子ブロック共重合体などの直鎖状高分子ブロック共重合体、スター型の高分子ブロック共重合体であってもよい。
【0085】
(微細構造体及びその製造方法)
次に、前記した高分子薄膜Mを利用して得られる微細構造体について説明する。ここで参照する図7(a)から(f)は、本実施形態での高分子薄膜を利用して得られる微細構造体の製造方法を説明するための工程図である。なお、図7(a)から(f)では、パターン化した基板201の表面についてはその記載を省略している。以下の説明において、微細構造体とは、その表面にミクロ相分離構造の規則的な配列のパターンに対応する凹凸面が形成されているものを指す。
【0086】
この製造方法では、図7(a)に示すように、連続相204と、柱状体のミクロドメイン203とからなるミクロ相分離構造を有する高分子薄膜Mが準備される。符号201は基板である。
【0087】
次に、この製造方法では、図7(b)に示すように、ミクロドメイン203(図7(a)参照)が除去されることで、基板201と、複数の微細孔Hが規則的に配列した多孔質薄膜Dとを備える微細構造体21が得られる。
なお、ここでは連続相204及びミクロドメイン203のいずれかが除去されればよく、図示しないが、微細構造体21は、ミクロ相分離構造のうち連続相204が除去されることで、複数の柱状体が規則的に配列したものであってもよい。
【0088】
高分子薄膜Mの連続相204又は柱状体のミクロドメイン203のいずれか一方を除去する方法としては、リアクティブイオンエッチング(RIE)、その他のエッチング法により連続相204とミクロドメイン203とのエッチングレートの差を利用する方法が挙げられる。
【0089】
また、連続相204及びミクロドメイン203のいずれか一方に金属原子等をドープすることによりエッチングの選択性を向上させることも可能である。
また、微細構造体21は、連続相204及びミクロドメイン203のうちのいずれか一方を除去した後に、残存した連続相204及びミクロドメイン203のうちのいずれか一方をマスクとして基板201をエッチングして得られるものであってもよい。
【0090】
つまり、図7(b)に示す連続相204のように、残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)をマスクとして基板201をRIEやプラズマエッチング法でエッチング加工する。その結果、図7(c)に示すように、微細孔Hを介して除去された、高分子相(多孔質薄膜D)の部位に対応する基板201の表面部位が加工され、ミクロ分離構造のパターンが基板201の表面に転写されることになる。そして、この微細構造体21の表面に残存した多孔質薄膜DをRIE又は溶媒で除去すると、図7(d)に示すように、柱状体のミクロドメイン203(図7(a)参照)に対応したパターンを有する微細孔Hが表面に形成された微細構造体21aが得られることになる。
【0091】
また、微細構造体21は、この微細構造体21を原版としてそのパターン配列を転写して複製されたものであってもよい。
つまり、図7(b)に示す連続相204のように残存した他方の高分子相(多孔質薄膜D)を、図7(e)に示すように、被転写体30に密着させて、ミクロ相分離構造のパターンを被転写体30の表面に転写する。その後、図7(f)に示すように、被転写体30を微細構造体21(図7(e)参照)から剥離することにより、多孔質薄膜D(図7(e)参照)のパターンが転写されたレプリカ(微細構造体21b)を得ることができる。
【0092】
ここで、被転写体30の材質は、金属であればニッケル、白金、金等、無機材料であればガラスやチタニア等、用途に応じて選択すればよい。被転写体30が金属製の場合、スパッタ、蒸着、めっき法、又はこれらの組み合わせにより、被転写体30を微細構造体21(図7(e)参照)の凹凸面に密着させることが可能である。
【0093】
また、被転写体30が無機物質の場合は、スパッタやCVD法のほか、例えば、ゾルゲル法を用いて密着させることができる。ここで、めっき法やゾルゲル法は、ミクロ相分離構造における数十nmの規則的な配列のパターンを正確に転写することが可能であり、非真空プロセスによる低コスト化も望める点で望ましい方法である。
【0094】
前記した製造方法により得られた微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)は、その表面に形成されるパターンの凹凸面が微細でかつアスペクト比が大きいことから、種々の用途に適用される。
例えば、製造された微細構造体21,21a,21bの表面を、ナノインプリント法等により被転写体に繰り返し密着させることにより、同じ規則的な配列のパターンを表面に有する微細構造体21,21a,21bのレプリカを大量に製造するような用途に供することができる。
【0095】
以下に、ナノインプリント法により微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)の凹凸面の微細なパターンを被転写体30に転写する方法について示す。
第1の方法は、作製した微細構造体21,21a,21bを被転写体30に直接インプリントして規則的な配列のパターンを転写する方法である(本方法を、熱インプリント法という)。この方法は、被転写体30が直接インプリントすることが可能な材質である場合に適する。例えばポリスチレンに代表される熱可塑性樹脂を被転写体30とする場合に、熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に加熱した後に、微細構造体21,21a,21bをこの被転写体30に押し当てて密着させ、ガラス転移温度以下まで冷却した後に微細構造体21,21a,21bを被転写体30の表面から離型するとレプリカを得ることができる。
【0096】
また、第2の方法として、微細構造体21,21a,21b(図7(b)、(d)、及び(f)参照)がガラス等の光透過性の材質である場合は、光硬化性樹脂を被転写体(図示せず)として適用する(本方法を、光インプリント法という)。この光硬化性樹脂を微細構造体21,21a,21bに密着させた後に光を照射すると、この光硬化性樹脂は硬化するので、微細構造体21,21a,21bを離型して、硬化後の光硬化性樹脂(被転写体)をレプリカとして用いることができる。
【0097】
更に、このような光インプリント法において、例えば、ガラス基板を被転写体(図示せず)とする場合に、微細構造体21,21a,21bと、ガラス基板とを重ねた隙間に光硬化性樹脂を介在させて密着し、これに光を照射する。そして、この光硬化性樹脂を硬化させた後に微細構造体21,21a,21bを離型して、表面に凹凸を有する硬化後の光硬化性樹脂をマスクとし、プラズマやイオンビーム等でガラス基板上に規則配列パターンをエッチング加工する転写方法もある。
【0098】
以上のような本実施形態に係るシルセスキオキサンを有する高分子薄膜、微細構造体及びこれらの製造方法によれば、従来よりも更にサイズが微細化した構造であって、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有する微細構造体を得ることができる。
【0099】
そして、高分子薄膜M、微細構造体21,21a,21b、及びこれらのレプリカ等で例示される本発明の微細構造体は、磁気記録媒体や光記録媒体等の情報記録媒体に適用可能である。また、このような本発明の微細構造体は、大規模集積回路部品や、レンズ、偏光板、波長フィルタ、発光素子、光集積回路等の光学部品、免疫分析、DNA分離、細胞培養等のバイオデバイスへの適用が可能である。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の他の形態で実施することができる。
前記実施形態では、図1に示すように、ミクロドメイン203が柱状となる高分子薄膜Mについて説明したが、本発明はミクロドメイン203の形状が球状やラメラ状(層状)であってもよい。
【0101】
このような高分子薄膜Mは、ミクロ相分離が行われる際に、基板201で第1セグメントA1(図6参照)の成分と、第2セグメントA2(図6参照)の成分との占める体積割合を調節するように、高分子ブロック共重合体の重合度を調節することで、ミクロドメイン203の形状を変化させることができる。更に詳しく説明すると、第2セグメントA2(図6参照)の成分の、全体積に占める割合が0%から50%に増加するにしたがって、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなるミクロドメイン203の形状は、規則的に配列した球状から、柱状を経て、ラメラ状となる。
【0102】
次に参照する図8は、高分子ブロック共重合体がミクロ相分離してラメラ状のミクロ相分離構造を形成した様子を模式的に示す斜視図である。
図8に示すように、基板201上のラメラ状のミクロ相分離構造は、第2セグメントA2(図6参照)の成分からなるラメラ状のミクロドメイン203が、第1セグメントA1(図6参照)の成分からなる連続相204中に等間隔に配置された構造となる。
なお、図8中、符号doは高分子ブロック共重合体の固有周期であり、図示しないが、基板201に設けられるポリスチレングラフト膜のパターン化は、ミクロドメイン203と、連続相204とに対応するように等間隔の縞状に形成される。
【実施例】
【0103】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、まず高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体を用意した。具体的には、下記構造式(4)で示される高分子ブロック共重合体である。
【0104】
【化15】
【0105】
但し、構造式(4)中のRは、イソブチルであり、Ph、sec−Buは、前記構造式(3)のPh、sec−Buと同義である。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)11−基(前記構造式(2)中のn=11)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC11POSSということがある)と、一般的な炭化水素系ポリマーとして知られるポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。この高分子ブロック共重合体の数平均分子量Mnは、30,700である。
【0106】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.07であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例1における高分子ブロック共重合体は、「第1の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC11POSS(1)」と記すことがある。
【0107】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
第1の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第1の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0108】
<第1の高分子ブロック共重合体の固有周期doの測定>
この第1の高分子ブロック共重合体の固有周期do(図1参照)の測定にあたって、まず、この高分子ブロック共重合体をクロロホルムに溶解することにより、濃度1.0質量%の高分子ブロック共重合体のクロロホルム溶液を得た。次に、溶媒を徐々に除去し、高分子ブロック共重合体のバルクサンプルを得た。このバルクサンプルに対して、小角X線散乱(SAXS:Small Angle X-ray Scattering)法により構造解析を行った。
【0109】
図9は、ミクロ相分離した第1の高分子ブロック共重合体(PMMA−b−PMAPOSS(1))のX線小角散乱(SAXS)曲線である。この結果、散乱プロファイルから、少なくとも3つの極大(図9中、矢示1,2,3)が存在し、その相対的ピーク位置は、1:√3:√4であることが判明した。つまり、これらの高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することが確認された。更に、極大位置からその固有周期doは25nm(実測値としては24.8nm)であることが確認された。この結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
<ポリスチレングラフト膜の形成>
次に、実施例1では、第1の高分子ブロック共重合体からなる薄膜を形成するための基板を用意した。基板には自然酸化膜を有するSiウエハ(4インチ(10.2cm))を用いた。
次に、この基板としてのSiウエハをピラニア溶液により洗浄した。このピラニア処理によって、Siウエハの表面の有機物を除去すると共に、その表面を酸化して表面水酸基密度を増加させた。
次に、水酸基で末端をターミネートしたポリスチレン(以下、PS−OHという)のトルエン溶液(PS−OH濃度2.0%)を調製し、これをSiウエハの表面に、スピンコーター(ミカサ株式会社製1H−360S、回転速度2000rpm)にて塗布した。
なお、PS−OHの分子量は、3,700であった。得られたPS−OHの膜厚は約50nm程度であった。
【0112】
次に、PS−OHを塗布した基板を真空オーブンに投入し、140℃にて72時間加熱した。この処理によりPS−OH末端の水酸基と、基板表面の水酸基とを脱水反応により化学的に結合させた。最後に、基板をトルエンに浸漬し超音波処理することにより、未反応のPS−OHを除去し、ポリスチレングラフト層を有する基板を得た。
【0113】
ポリスチレングラフト層を形成した基板の表面状態を評価するために、ポリスチレングラフト層の厚さ、表面のカーボン量、及び表面に対するホモポリスチレン(以下、hPSと略記する)の接触角を測定した。ポリスチレングラフト層の厚さの測定には、分光エリプソメトリー法を採用し、カーボン量の測定には、X線光電子分光法(XPS法)を採用した。
【0114】
ポリスチレングラフト層の厚さは5.1nmであった。
ポリスチレングラフト層を形成した基板表面のカーボン量は、そのC1Sに由来するピークの積分強度として求められた。その積分強度は4,500cps及び27,000cpsであった。
【0115】
基板表面のポリスチレングラフト層に対するhPSの接触角は、9度であった。なお、Siウエハからなる基板表面に対するhPSの接触角は、35度であった。つまり、この接触角の減少からも、基板表面にポリスチレングラフト膜が形成できたことが確認できた。
【0116】
ちなみに、基板表面に対するhPSの接触角の測定は以下の方法により実施した。
まず、基板表面に数平均分子量4000のhPSを、厚さが約80nmの薄膜となるようにスピンコートした。次に、hPSを成膜した基板を、真空雰囲気化において、温度170℃で24時間アニールした。この処理により、hPS薄膜は基板表面でdewettingし、微小な液滴となった。この加熱処理後、基板を加熱炉から取り出し液体窒素に浸漬することにより急冷し、液滴の形状を凍結した。
得られた液滴の断面形状を原子間力顕微鏡により測定し、基板と液滴の界面の角度を測定することにより、加熱処理時の温度における基板に対するhPSの接触角を決定した。この際、角度の測定は6点について行いその平均値を接触角とした。
【0117】
<ポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化>
次に参照する図10(a)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜を部分的に拡大して示す平面図、図10(b)は、パターン化されたポリスチレングラフト膜の表面において、パターンの格子間隔dが異なる領域の配置を模式的に示す平面図、図10(c)は、ダイシングされた基板の平面図である。
【0118】
まず、図10(c)に示すように、ポリスチレングラフト膜(化学的修飾層401)を形成した基板201(Siウエハ)を2cm四方の大きさにダイシングしたものを用意した。
【0119】
次に、このダイシングした基板201のポリスチレングラフト膜をEBリソグラフィー法によりパターン化(パターニング)した。
このパターン化(パターニング)においては、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201上の化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)が部分的に除去されて基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。なお、第2領域107は、格子間隔dでヘキサゴナルに配列された直径rの複数の円形状で構成されている。
【0120】
このパターン化(パターニング)について更に詳しく説明する。
このパターン化(パターニング)においては、図10(b)に示すように、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面を100μm四方で区画し、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=25nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=50nmの領域)とを形成した。
なお、図10(b)中、d=18nmの領域及びd=36nmの領域、並びにd=28nmの領域及びd=56nmの領域については、後記する実施例2及び実施例3で説明する。
【0121】
ちなみに、区画された領域の円形の直径rは、各格子間隔dの約25%〜30%の長さとしたが、25%以下又は30%以上であってもよく、ケミカルレジストレーション法によってミクロ相分離構造の配列が制御できれば特に制限はない。
【0122】
次に、実施例1でのパターニング方法について、図2(a)から(f)を参照しながら更に具体的に説明する。
このパターニング方法では、図2(a)に示すポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401の表面に、図2(b)に示すポリメチルメタクリレートからなるレジスト膜402をスピンコート法にて厚さが50nmとなるように形成した。
【0123】
次に、図2(c)に示すように、レジスト膜402に対して、前記したパターニングに対応するようにEB描画装置で加速電圧100kVにて露光を行った。ここで、パターニングの円形状の直径r(図10(a)参照)は、各格子点におけるEBの露光量で調整した。その後、図2(d)に示すように、レジスト膜402を現像することでパターン化したレジスト膜402を得た。
【0124】
次に、図2(e)に示すように、パターン化したレジスト膜402をマスクとして、化学的修飾層401を、酸素ガスを用いたRIEにより除去した。RIEは、ICPドライエッチング装置を用いて行った。この際、装置の出力は100W、酸素ガスの圧力は1Pa、酸素ガス流量は10cm3/分、処理時間は5〜20秒に設定した。その結果、化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201の露出面201aからなる第2領域107とが形成された。
【0125】
そして、図2(f)に示すように、基板201の表面に残存したレジスト膜402(図2(e)参照)をトルエンにより除去することで、表面にパターン化された化学的修飾層401を有する基板201を得た。
【0126】
<ケミカルレジストレーション法を使用した高分子薄膜の形成>
ここでは、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、高分子ブロック共重合体の塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0127】
次に、高分子薄膜Mのミクロ相分離の構造を走査型電子顕微鏡(日立製作所製のSEM、型式S4800)で観察した。SEM観察は、加速電圧1.5kVの条件で実施した。
SEM観察用の試料としては、高分子薄膜Mに存在するPMMAからなる柱状のミクロドメインをRIE法により分解除去したものを使用した。RIE装置としては、サムコ社製RIE−10NPを用い、エッチングは、酸素ガス圧1.0Pa、ガス流量10cm3/分、パワー20W、エッチング時間30秒間の条件で実施した。
なお、微細構造を正確に測定するため、SEM観察において通常帯電防止のために実施する試料表面へのPt等の蒸着は行わず、加速電圧を調整することで必要なコントラストを得た。
【0128】
SEM観察の結果、試料には、ミクロ相分離の構造に由来するナノスケールの微細穴(柱状のミクロドメインの分解除去部分)がヘキサゴナルに配列していることが確認された。つまり、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC11POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0129】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する比(d/do)が「1」(d=25nm)の場合、及び「2」(d=50nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0130】
(実施例2)
実施例2では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが23700のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、実施例1での高分子ブロック共重合体と同様に、−(CH2)11−基(前記構造式(2)中のn=11)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(PMAC11POSS)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0131】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.04であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC11POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第2の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC11POSS(2)」と記すことがある。
【0132】
次に、第2の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第2の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0133】
また、実施例1と同様にして、この第2の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは18nm(実測値としては17.9nm)であることが確認された。
【0134】
次に、実施例2では、実施例1と同様にして、図2(a)に示すように、基板201上に化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)を形成すると共に、この化学的修飾層401のパターン化を行った。
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。
更に詳しくは、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した高分子ブロック共重合体の固有周期do(18nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=18nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=36nmの領域)とを形成した。
【0135】
次に、実施例2では、第2の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0136】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC11POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0137】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(18nm)に対する比(d/do)が「1」(d=18nm)の場合、及び「2」(d=36nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0138】
(実施例3)
実施例3では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが35800のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)5−基(前記構造式(2)中のn=5)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC5POSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0139】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC5POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第3の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC5POSS」と記すことがある。
【0140】
次に、第3の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第3の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0141】
また、実施例1と同様にして、この第3の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは28nm(実測値としては27.6nm)であることが確認された。
【0142】
次に、実施例3では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106(図2(f)参照)としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201の露出面201aで構成される第2領域107とが形成された。
【0143】
更に詳しくは、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=28nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=56nmの領域)とを形成した。
【0144】
次に、実施例3では、第3の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0145】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC5POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0146】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する比(d/do)が「1」(d=28nm)の場合、及び「2」(d=56nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0147】
(実施例4)
実施例4では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、前記構造式(4)で示され、数平均分子量Mnが34700のものを用意した。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)15−基(前記構造式(2)中のn=15)、2価の有機基、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAC15POSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
【0148】
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。この高分子ブロック共重合体は、PMMAからなる柱状のミクロドメインと、PMAC15POSSからなる連続相とにミクロ相分離することとなる。
以下、この実施例2における高分子ブロック共重合体は、「第4の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAC15POSS」と記すことがある。
【0149】
次に、第4の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定した。この結果、約100℃の吸熱ピークが検出され、第2の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)を有することが確認された。
【0150】
また、実施例1と同様にして、この第4の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは28nm(実測値としては28.1nm)であることが確認された。
【0151】
次に、実施例4では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
【0152】
つまり、図10(a)に示すように、第1領域106としてのポリスチレングラフト膜からなる化学的修飾層401と、基板201上の化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)が部分的に除去されて基板201が露出した表面201aで構成される第2領域107とが形成された。
【0153】
更に詳しくは、実施例3と同様に、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する図10(a)に示す格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=28nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(図10(b)に示すd=56nmの領域)とを形成した。
【0154】
次に、実施例4では、第4の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202をミクロ相分離させることによって、本発明の高分子薄膜M(図1参照)を得た。
なお、このミクロ相分離工程は、180℃の熱アニールを24時間行うことで実施した。
【0155】
その結果、高分子薄膜Mには、図4(b)に示すように、PMMAセグメント(図6に示す第2セグメントA2)からなる柱状のミクロドメイン203が、第2領域107に拘束されて配列すると共に、PMAC15POSSセグメント(図6に示す第1セグメントA1)からなる連続相204が、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)で形成される第1領域106上に形成されていることが確認された。
【0156】
そして、高分子ブロック共重合体の固有周期do(28nm)に対する比(d/do)が「1」(d=28nm)の場合、及び「2」(d=56nm)の場合のいずれにおいても、柱状のミクロドメイン203が基板201に対して垂直に配向すると共に、基板201の面方向に長距離に亘って周期的に配列していた。
本実施例におけるミクロドメイン203は、ほとんど欠損もなく、長距離に亘って周期的に秩序をもって配列したので、その評価結果を表1に「○」と記す。
【0157】
(比較例1)
比較例1では、高分子薄膜を形成するための高分子ブロック共重合体として、構造式(5)で示され、数平均分子量Mnが31000のものを用意した。
【0158】
【化16】
【0159】
但し、構造式(5)中のRは、イソブチルであり、Ph、sec−Buは、前記構造式(4)のPh、sec−Buと同義である。
この高分子ブロック共重合体は、−(CH2)−基(前記構造式(2)中のn=3)、及びシルセスキオキサン骨格からなる側鎖を有するポリメタクリレート(以下、PMAPOSSと称することがある)と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を組み合わせたジブロック共重合体である。
また、この高分子ブロック共重合体は、全体としての分子量分布の多分散指数Mw/Mnが1.05であった。
以下、この比較例1における高分子ブロック共重合体は、「第5の高分子ブロック共重合体」と称することがあり、「PMMA−b−PMAPOSS」と記すことがある。
【0160】
次に、第5の高分子ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量分析法を用いて測定しようとしたが、吸熱ピークは検出されず、第5の高分子ブロック共重合体は明確なガラス転移温度(Tg)をもたないことが確認された。
【0161】
また、実施例1と同様にして、この第5の高分子ブロック共重合体の固有周期doを測定した結果、固有周期doは25nm(実測値としては24.7nm)であることが確認された。
【0162】
次に、比較例1では、実施例1と同様にして基板201上にポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)を形成すると共に、このポリスチレングラフト膜(化学的修飾層)のパターン化を行った。
つまり、図示しないが、基板201上に形成した化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)の表面に、測定した前記高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する格子間隔dの比(d/do)が「1」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=25nmの領域)と、比(d/do)が「2」となるように当該格子間隔dを設定した領域(d=50nmの領域)とを形成した。
【0163】
次に、比較例1では、第5の高分子ブロック共重合体を使用して、図4(a)に示すように、パターン化された化学的修飾層401(ポリスチレングラフト膜)からなる第1領域106と、基板201(Siウエハ)の露出面201aからなる第2領域107とを有する基板201上に、高分子ブロック共重合体の塗膜202を形成した。
そして、この塗膜202に対して180℃、24時間の熱アニールを行った。
【0164】
しかしながら、比較例1における塗膜202においては、高分子ブロック共重合体の固有周期do(25nm)に対する比(d/do)が「1」(d=25nm)の場合、及び「2」(d=50nm)の場合のいずれにおいても、ドメイン構造は認められるものの、実施例1から実施例4と異なって、ヘキサゴナルなミクロドメインは形成されなかった。また、比較例1では、パターン補間等のケミカルレジストレーション法を使用した効果も発揮されなかった。
本比較例におけるドメイン構造では、ミクロドメインの配列状態の向上が認められなかったので、その評価結果を表1に「×」と記す。
【0165】
(実施例5)
実施例5では、本発明の微細構造体を製造した。具体的には、図7(a)から(d)に示す工程を経ることによって、高分子薄膜Mを使用した微細構造体(多孔質薄膜D及び微細構造体21a)を得た。
【0166】
まず、実施例2と同様にして、図7(a)に示す、PMMAからなる柱状ミクロドメイン203が基板201に対して直立(高分子薄膜Mの厚さ方向に配向)したミクロ相分離構造を基板201の表面に作製した。
なお、パターニングは、PMMA−b−PMAC11POSS(2)の固有周期do(18nm)の2倍の周期、つまり、比(d/do)が「2」となるように格子間隔をd=36nmに設定して行った。
【0167】
また、PMMA−b−PMAC11POSS(2)の塗膜の厚さは40nmとし、熱アニールは、180℃で24時間行った。その結果、PMMAからなる柱状のミクロドメイン203がPMAC11POSSからなる連続相204中で、ヘキサゴナルに規則的に配列した高分子薄膜が得られた。
【0168】
次に、ミクロドメイン203を酸素RIEで除去することにより、図7(b)に示す微細構造体としての多孔質薄膜Dを得た。ここで酸素のガス圧力は1Paとし、出力は20Wとした。エッチング処理時間は90秒とした。
【0169】
そして、多孔質薄膜Dの表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、多孔質薄膜Dの全表面に亘って、多孔質薄膜Dの厚さ方向に配向した柱状の微細孔Hが確認された。ここで、微細孔Hの直径は約10nmであった。また、微細孔Hの配列状態を詳細に分析した結果、格子間隔dで化学的に表面がパターン化された領域では微細孔Hは欠陥なく一方向に配向した状態でヘキサゴナルに配列している様子が見て取れた。
【0170】
ここで、多孔質薄膜Dの一部を鋭利な刃物で基板201の表面から剥離し、基板201の表面と多孔質薄膜Dの表面との段差(多孔質薄膜Dの厚さ)をAFM(原子間力顕微鏡)観察で測定したところ、約40nmであった。
【0171】
得られた微細孔Hのアスペクト比は4であり、球状のミクロドメインでは得られない大きな値が実現されていた。なお、微細構造体としての多孔質薄膜Dの厚さが、RIEを行う前の塗膜の厚さとほぼ変わらなかったことで、PMAC11POSSのエッチング耐性が非常に優れていることが確認された。
【0172】
次に、図7(c)に示すように、多孔質薄膜Dをマスクとして、基板201をエッチングすることにより、多孔質薄膜Dのパターンを基板201に転写した。ここでは、Si基板をCF4ガスによるドライエッチングにより実施した。その結果、多孔質薄膜D中の微細孔Hの形状と配置をSi基板に転写することに成功し、図7(d)に示す微細構造体21aを得ることができた。
【0173】
(比較例2)
この比較例2では、図2(c)に示すように、基板201上のポリスチレングラフト膜(化学的修飾層401)をパターン化しなかった以外は実施例2と同様に、基板201上にPMMA−b−PMAC11POSS(2)を膜厚40nmとなるように塗布し、180℃で24時間熱アニールを行うことでミクロ相分離を発現させた高分子薄膜を得た。次いで、この高分子薄膜を形成した基板を使用した以外は実施例5と同様にして図7(a)に示す多孔質薄膜Dを得た。
【0174】
そして、多孔質薄膜Dの表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、多孔質薄膜Dの微細孔Hは微視的にはヘキサゴナルな配列を取っているものの、巨視的にはヘキサゴナルに配列した領域がポリグレイン構造を形成しており、特にグレインの界面領域に多くの格子欠陥が存在することが確認された。
【0175】
(実施例6)
実施例6では、本発明の微細構造体としての磁気記録媒体(ビットパターン媒体)の製造方法について適宜図面を参照しながら説明する。参照する図面において、図11は、本実施例に係る磁気記録媒体を示す模式図である。
【0176】
図11を用いて磁気記録媒体の構成を説明する。本図においては各記録ビットが分離されている所謂ビットパターン媒体(BPM)の模式図を示している。
図11は本発明により作製した磁気記録媒体300を示す模式図である。磁気記録媒体300は直径65mm、厚さ0.631mmの円盤状であり、基板301上に複数の磁性層および他の層が積層された構造となっている。基板301の中央部にはスピンドルに磁気記録媒体300を固定するための直径20mmの穴302が設けられている。
【0177】
記録トラック303は同心円状に形成されており、非磁性体により磁気的に隣接トラックと分離された構造となっている。磁気記録媒体300の最表面は平坦化されており、記録トラック203と非磁性体領域の高さの差は5nm未満となっている。
また、磁気記録媒体300には所望のトラック上の領域にアクセスし、記録再生動作を行うためのサーボパターン304も形成してある。
図11ではサーボパターン304は模式的に曲線で示されているが、内部には微細パターンが存在している。また、本実施例においては1周を200分割し、各エリアごとにサーボパターン304が入るようにした。勿論サーボパターンの数は200個に限定されるものではなく記録再生特性から決定する必要がある。
また磁気記録媒体300には記録トラック303、サーボパターン304が形成されていない内周部305と外周部306を設けることができる。
【0178】
この磁気記録媒体300の製造方法(製造プロセス)について説明する。この製造プロセスにおいてはまず基板201上に軟磁性裏打層(SUL)を成長させた。基板301の材料はガラスに限ることなく、アルミニウムなどの金属、シリコンなどの半導体、セラミックスやポリカーボネート等の絶縁体などを選択することが可能である。軟磁性裏打層はFe−Ta−C合金を採用し、真空チャンバー内でのスパッタ蒸着後、必要な熱処理を行った。
【0179】
軟磁性裏打層には媒体半径方向への磁気異方性をつけておくことが望ましい。Fe−Ta−C合金に代えて他の軟磁性裏打層を用いても構わず、また、スパッタ蒸着以外の他の成長方法を採用しても構わない。また必要に応じて基板301と軟磁性裏打層の間に、両者の密着性を高めるための密着層、軟磁性裏打層の結晶性を制御する中間層などを挿入してもよい。
【0180】
軟磁性裏打層の形成後に、引き続き記録層を真空中にてスパッタ蒸着により成長させる。本実施例においては記録層としてCo−Cr−Pt膜を採用した。この材料は膜面方向に対し垂直方向に磁化容易軸を有する特徴を有する。したがって、本実施例においては磁気異方性の軸が基板面に対しほぼ垂直となるようにスパッタ蒸着の条件を選んだ。
【0181】
記録層として用いる磁性材料はCo−Cr−Pt合金に限らず、他の材料でも構わない。特にグラニュラ膜と呼ばれるSiを含有した記録層は本発明と相性がよい。
さらに、記録層上に基板加工用に保護層を成長させた。保護層として用いる材料はシリコンナイトライド(SiN)膜を採用した。保護層としてはSiNに限らず、他の材料でも構わない。
【0182】
そして、実施例5で述べたように、高分子薄膜Mを形成した。次に、図7(a)から(d)に示す工程を経ることによって、高分子薄膜Mを使用した微細構造体(多孔質薄膜D及び微細構造体21a)を得た。その後、必要に応じ溝部に非磁性体を埋め込む。例えば、Si−Oを基板上部から成長させ、エッチバックまたは化学機械研磨(CMP)により平坦化することが可能である。
【0183】
更に必要に応じ、さらに保護膜や潤滑膜(図示せず)を成長させ、図11に示す磁気記録媒体300が完成する。本実施例では記録層上に実施例5と同様に微細構造体(連続相204、ミクロドメイン203)を形成することにより、広範囲に亘って規則性に優れ、欠陥の少ない構造を有するビットパターン媒体の製造が可能となった。
【0184】
なお、本実施例においては図7に示す微細構造体21をマスクとして記録層を加工したが、実施例7で作製したSi製の基板201に転写された微細構造体21aを金型として、ナノインプリント工程で記録層を加工させることも可能である。あるいは、図11に示す基板301を同じく実施例7と同様に加工した後に、基板301の凹凸形状の上から各磁性膜を成長させることも可能である。
【符号の説明】
【0185】
21 微細構造体
21a 微細構造体
21b 微細構造体
106 第1領域
107 第2領域
201 基板
201a 基板が露出した表面
203 ミクロドメイン
204 連続相
300 磁気記録媒体
301 基板
302 穴
303 記録トラック
304 サーボパターン
305 内周部
306 外周部
401 化学修飾層
A1 第1セグメント
A2 第2セグメント
M 高分子薄膜
do 固有周期
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1セグメント及び第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板上に配置する第1工程と、
前記高分子層をミクロ相分離させて、前記第1セグメントを成分とする連続相中で前記第2セグメントを成分とする複数のミクロドメインを前記基板の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させる第2工程と、
を有する高分子薄膜の製造方法において、
前記第1工程に先立って、前記連続相に対応するように前記基板に化学的修飾層を形成すると共に、前記ミクロドメインの配列に対応するように前記化学的修飾層とは化学的性質の相違するパターン部を形成する工程を更に有し、
前記第2工程は、前記ミクロ相分離が発現する特定の温度で熱処理する工程を含み、
前記高分子ブロック共重合体は、前記第1セグメント又は前記第2セグメントにシルセスキオキサン骨格を有し、
前記シルセスキオキサン骨格は、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、
次式 −(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されていることを特徴とする高分子薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記パターン部の配列周期dは、前記ミクロドメインの固有周期d0の自然数倍となっていることを特徴とする請求項1に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記化学的修飾層に対する前記パターン部の化学的性質の相違は、前記パターン部の前記第2セグメントの成分に対する濡れ性が前記化学的修飾層の濡れ性よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記ミクロドメインは、前記高分子層の厚さ方向に直立する柱状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ミクロドメインは、前記高分子層の厚さ方向に直立するラメラ状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法によって、前記連続相中で複数の前記ミクロドメインを配列させた前記高分子薄膜を前記基板上に形成する工程と、
前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程と、
を有することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程の後に、残存した前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの他方をマスクとして前記基板をエッチングする工程を更に有することを特徴とする請求項6に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法によって得られることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項9】
請求項6又は請求項7に記載の微細構造体の製造方法によって得られることを特徴とする微細構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の微細構造体の製造方法によって製造される磁気記録媒体。
【請求項1】
少なくとも第1セグメント及び第2セグメントを有する高分子ブロック共重合体を含む高分子層を基板上に配置する第1工程と、
前記高分子層をミクロ相分離させて、前記第1セグメントを成分とする連続相中で前記第2セグメントを成分とする複数のミクロドメインを前記基板の面方向に沿って規則的に並ぶように配列させる第2工程と、
を有する高分子薄膜の製造方法において、
前記第1工程に先立って、前記連続相に対応するように前記基板に化学的修飾層を形成すると共に、前記ミクロドメインの配列に対応するように前記化学的修飾層とは化学的性質の相違するパターン部を形成する工程を更に有し、
前記第2工程は、前記ミクロ相分離が発現する特定の温度で熱処理する工程を含み、
前記高分子ブロック共重合体は、前記第1セグメント又は前記第2セグメントにシルセスキオキサン骨格を有し、
前記シルセスキオキサン骨格は、前記高分子ブロック共重合体の主鎖に対して、
次式 −(CH2)n−で示されるアルキル鎖(但し、前記式中、nは、5≦n≦24を満足する整数である)を含む有機基を介して結合されていることを特徴とする高分子薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記パターン部の配列周期dは、前記ミクロドメインの固有周期d0の自然数倍となっていることを特徴とする請求項1に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記化学的修飾層に対する前記パターン部の化学的性質の相違は、前記パターン部の前記第2セグメントの成分に対する濡れ性が前記化学的修飾層の濡れ性よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記ミクロドメインは、前記高分子層の厚さ方向に直立する柱状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ミクロドメインは、前記高分子層の厚さ方向に直立するラメラ状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法によって、前記連続相中で複数の前記ミクロドメインを配列させた前記高分子薄膜を前記基板上に形成する工程と、
前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程と、
を有することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記高分子薄膜の前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの一方を除去する工程の後に、残存した前記連続相及び前記ミクロドメインのうちの他方をマスクとして前記基板をエッチングする工程を更に有することを特徴とする請求項6に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子薄膜の製造方法によって得られることを特徴とする高分子薄膜。
【請求項9】
請求項6又は請求項7に記載の微細構造体の製造方法によって得られることを特徴とする微細構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の微細構造体の製造方法によって製造される磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−66536(P2012−66536A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214828(P2010−214828)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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