説明

シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法

【課題】低温プロセスで得ることができ、電気的絶縁性が高く、表面性状が良好なシルセスキオキサン系絶縁膜を得ることを可能とする方法を提供する。
【解決手段】アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、水と、第1の非プロトン性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、前記加水分解重縮合を進行させた後に、酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、減圧後に前記溶液を塗工する工程と、塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とを備える、シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子デバイスの絶縁膜などに用いられるシルセスキオキサン系膜の製造方法に関し、より詳細には、ゾルゲル法を用いており、絶縁抵抗の大きい膜を得ることを可能とするシルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルディスプレイなどに用いられる有機薄膜トランジスタ(TFT)において、ゲート絶縁膜が不可欠である。ゲート絶縁膜などの絶縁膜は、電気絶縁性に優れ、フレキシブルであることも求められる。プラスチック上のTFTの製造に際しては、ゲート絶縁膜などの絶縁膜は比較的低い温度で、例えば200℃以下の低温プロセスにより形成されることが必要である。
【0003】
他方、このような用途に使用する絶縁膜として、シルセスキオキサン系膜が注目されている。下記の特許文献1には、シルセスキオキサン系膜の製造方法が開示されている。ここでは、アルコキシシランと、水と、エタノールと、ギ酸とを含む組成物を用いて、アルコキシシランを加水分解し、次に、加水分解後縮合して得られた溶液を、塗工し、200〜350℃の温度で第1の熱処理を行い、次に300〜450℃の温度で第2の熱処理を行うことにより、シルセスキオキサン膜が得られている。
【特許文献1】特開平10−209144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法ではゾルゲル法を用いて、シルセスキオキサンが合成され、かつ電気絶縁性に優れた絶縁膜が形成されているが、焼付け温度が高く、必ずしもプラスチック基板上で作製できるような温度ではなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、ゾルゲル法を用いて比較的低温で容易に形成することができるだけでなく、得られるシルセスキオキサン系絶縁膜の絶縁抵抗をより一層高めることを可能とするシルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記課題を達成するためになされたものであり、アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、アルコキシシラン1モルに対して2モル以上の水と、第1の非プロトン性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、前記酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、減圧後に前記溶液を塗工する工程と、塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とを備えることを特徴とする、シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法である。
【0007】
また、第1の発明に係るシルセスキオキサン系膜の製造方法では、好ましくは、前記減圧工程前に、前記焼付け工程における焼付け温度以下の沸点を有し、かつ前記第1の非プロトン性溶媒に置き換わる第2の溶媒として、第1の非プロトン性溶媒よりも高い沸点を有する極性溶媒が添加される。この場合には、例えば第2の溶媒として、酸触媒の留去作用に優れた溶媒を用い、第1の非プロトン性溶媒として、第2の溶媒よりも極性が低い溶媒を用いることにより、絶縁抵抗をより一層高めることができ、かつ膜の表面性状がより一層安定なシルセスキオキサン系膜を得ることができる。
【0008】
また、本願の第2の発明は、アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、アルコキシシラン1モルに対して3モル以上の水と、極性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、前記酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、減圧後に前記溶液を塗工する工程と、塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とを備え、前記極性溶媒として、前記焼付け時における焼付け温度以下の沸点を有する極性溶媒を用いることを特徴とする、シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法である。第2の方法では、加水分解及び加水分解重縮合が、当初から高沸点の極性溶媒である上記第2の溶媒中で行われる。この方法では、水の使用量を第1の発明の場合よりも高めることにより、同様に絶縁抵抗に優れた絶縁膜を得ることができる。
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0010】
(反応)
第1の発明では、下記の反応式Aで示すように、アルコキシシランが酸触媒と、水と、非プロトン性溶媒の存在下で加水分解し、ゾルゲル法を用いて加水分解重縮合することにより、ポリ(シルセスキオキサン)が合成され、該ポリメチルシルセスキオキサン含有溶液を塗布することで、低温プロセスで硬化したシルセスキオキサン系膜が形成される。
【0011】
【化1】

【0012】
反応式Aにおいて、左辺のアルコキシシラン中のRaは有機基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等の有機基であり、好ましくはメチル基で複数のRaは同一であってもよく、異なっていてもよい。反応式Aの右辺におけるRbは、水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルコキシ基もしくはアセトキシ基であり、好ましくはメチル基である。x,y,zは整数である。
【0013】
(アルコキシシラン)
本発明において、出発原料として用いられるアルコキシシランとしては、後述の加水分解−加水分解重縮合によりポリ(シルセスキオキサン)構造を与え得る限り、特に限定されるものではない。
【0014】
上記のようなポリ(シルセスキオキサン)構造を形成するのに用いられる上記アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシランもしくはメチルトリアセトキシシランなどの3つのアルコキシ基とを有する3編アルコキシシランを挙げることができる。
【0015】
(酸触媒)
本発明においては、上記アルコキシシランの加水分解及び加水分解重縮合を促進するために、酸触媒が用いられる。この酸触媒としては、特に限定されず、無機酸を用いてもよく、有機酸を用いてもよい。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などを挙げることができる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸などを挙げることができる。好ましくは、低沸点でありpKaが小さいため、ギ酸が酸触媒として望ましい。
【0016】
上記酸触媒は、後述の焼付け工程における焼付け温度以下の温度で揮発するものであることが必要である。焼付け温度以下の温度で揮発する酸触媒を用いることにより、後述の減圧工程において酸触媒をより速やかに留去することができる。
【0017】
酸触媒の使用量については、十分な触媒作用を発揮し得る限り、特に限定されるわけではないが、ギ酸を用いた場合、上記アルコキシシラン1モルに対し、0.1モル以上、より好ましくは、0.3モル以上配合することが望ましい。他の酸に関しては、そのpKaに応じて、適宜、使用量を調整することが好ましい。
【0018】
酸触媒が塗工−焼付け時に残存していると、得られるシルセスキオキサン系膜が酸の存在により劣化するおそれがある。従って、上記触媒作用を果たし得る限り、過剰な酸触媒を配合することは望ましくない。従って、ギ酸を用いた場合、アルコキシシラン1モルに対し、1モル以下の割合で用いることが望ましい。
【0019】
(水)
第1の発明においては、上記アルコキシシランの加水分解を進行させるために、出発原料として用いる溶液中に水を添加する必要がある。水の量は、アルコキシシラン1モルに対し、2モル以上とされる。2モル未満では、加水分解が十分に進行しない。また、6モルを超えると、加水分解が速く進行し過ぎ、加水分解重縮合の進行を妨げるおそれがある。
【0020】
(第1の非プロトン性溶媒)
第1の非プロトン性溶媒は、出発原料としての溶液中に添加されることにより、アルコキシシランの加水分解速度を適度に低め、かつ加水分解重縮合を確実に進行させるために、配合されている。すなわち、アルコキシシランの周囲に水だけでなく、第1の非プロトン性溶媒が存在していることにより、加水分解及び加水分解重縮合が適度な反応速度で進行することとなる。
【0021】
上記第1の非プロトン性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などを用いることができる。
【0022】
中でも、極性が低く、より絶縁抵抗の高いシルセスキオキサン系膜を与え得るため、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系の溶剤を用いることが望ましい。
【0023】
上記第1の非プロトン性溶媒の使用量は、上記アルコキシシラン100重量部に対し、100〜300重量部の範囲とすることが望ましい。100重量部未満では、加水分解及び加水分解重縮合を適度な反応速度で進行させることが困難となり、300重量部を超えると、減圧・留去に長時間を必要とするおそれがある。
【0024】
(第2の溶媒としての高沸点の極性溶媒)
第1の発明においては、好ましくは、減圧工程前に第2の溶媒として高沸点の極性溶媒が添加される。第2の溶媒は、第1の非プロトン性溶媒に置き換わる、すなわち溶媒置換のために添加される。第2の溶媒として、第1の非プロトン性溶媒よりも沸点が高く、但し、後述の焼付け温度以下の沸点を有する非プロトン性溶媒を用いることにより、減圧工程において第1の非プロトン性溶媒を、第2の溶媒で置換することができる。この場合、第1の非プロトン性溶媒として、沸点が相対的に低いが、極性が低いトルエンなどを用い、第2の溶媒として、第1の非プロトン性溶媒より極性は高いが、溶媒置換を容易に行い得るPGMEAなどを用いることにより、より一層絶縁抵抗が高いシルセスキオキサン系膜を得ることができる。
【0025】
上記第2の溶媒として用い得る溶媒は、上記のように作用する限り、特に限定されないが、例えば、前述したPGMEA、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブタノール、3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどを用いることができる。
【0026】
第2の溶媒の添加量は、アルコキシシラン100重量部に対し、20〜100重量部の割合とすることが望ましく、より好ましくは、アルコキシシランとほぼ同量とすることが望ましい。20重量部未満では、反応途中にゲル化することがあり、300重量部を超えると、薄膜の均質性の低下となることがある。
【0027】
(プロセス)
先ず、上記アルコキシシラン、酸触媒、水、及び第1の非プロトン性溶媒を少なくとも含む溶液を用意し、該溶液を0℃〜50℃の温度に維持することにより、アルコキシシランを加水分解する。0℃未満では、加水分解が十分に進行し難いことがあり、50℃を超えると一気に加水分解及び縮合反応が進み,未反応のアルコキシ基が残り,絶縁性低下の原因となることがある。この0〜50℃の温度に維持し、加水分解する時間は、10〜60分程度、より好ましくは20〜40分程度とすることが望ましい。10分未満では、加水分解が十分に進まず、60分を超えると、それ以上,反応が進まず,不必要となることがある。
【0028】
上記加水分解工程に続いて、溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進める。50℃未満では、加水分解重縮合が進行し難いことがあり、70℃を超えると、縮合反応が急激に進行し,ゲル化もしくは溶液が着色したものとなることがある。より好ましくは、50〜70℃の温度に溶液を加温する。上記50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させる進行させる時間は、1〜6時間とすることが望ましく、より好ましくは2〜3時間程度とすることが望ましい。1時間未満では、縮合が十分に進行し難く、6時間を超えると溶液の着色の原因となることがある。
【0029】
上記50℃〜70℃の温度に加温する方法は、適宜の熱源により溶液を加温することにより行い得る。
【0030】
上記50℃〜70℃の温度にして加水分解重縮合を進行させるに際しては、溶液を減圧し、減圧下で加水分解重縮合を進行させることが好ましい。もっとも、上記50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させるに際し、必ずしも溶液を減圧せずともよい。その場合には、50℃〜70℃の温度に維持した後に、減圧すればよい。
【0031】
すなわち、本発明の製造方法における減圧工程は、酸触媒及び加水分解により生じたアルコールなどの副生成物などを留去するために行うが、この減圧工程は、上記50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させる工程で同時に行われてもよく、あるいは50℃〜70℃の温度に維持して、加水分解重縮合を一定時間進行させた後に、減圧することにより、実施されてもよい。
【0032】
上記減圧工程において、酸触媒及び副生成物が少なくとも留去される。減圧に際しては、特に限定されるわけではないが、70〜80Torr程度の圧力に減圧することが望ましい。圧力がこれよりも高ければ、酸触媒や副生成物を完全にかつ速やかに留去することが困難となることがあり、圧力がより低くなるように減圧した場合には、第2の高沸点の極性が留去され、ゲル化となることがある。
【0033】
上記減圧工程においては、酸触媒及び加水分解により生じたアルコールなどの副生成物が留去されるが、その他、第1の非プロトン性溶媒の一部も留去される。また、前述した高沸点の極性溶媒である第2の溶媒を用いた場合には、第2の溶媒に第1の非プロトン性溶媒が置き換わり、第1の非プロトン性溶媒が留去されることとなる。
【0034】
減圧下に維持する時間は、前述したように、50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させる同時に減圧する場合には、50℃〜70℃の温度に維持する時間だけ減圧すればよい。また、50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させた後に、減圧する場合には、減圧下に維持する時間は、60〜120分程度とすることが望ましい。60分未満では、十分に酸触媒及び副生成物などを留去することができないことがあり、120分を超えると不必要な時間となることがある。
【0035】
上記減圧下に溶液を維持する工程は、真空チャンバー等に溶液を貯留した容器を配置し、真空チャンバー内を減圧する方法などの適宜の方法により行われ得る。
【0036】
次に、上記のようにして減圧された溶液を、塗工し、焼付けることにより、シルセスキオキサン系膜を生成する。溶液の塗工は、適宜の塗工方法により行い得る。塗工方法としては、例えば、スピンコート法、ダイコーター法、ディップ法などを挙げることができ、好ましくは膜の均質性、作業性を考えるとスピンコート法が望ましい。
【0037】
また、上記塗工に際し、被塗工物は特に限定されず、エレクトロニクス用の基板や、基板上に形成されている電極、半導体層もしくは他の絶縁層等の上に塗工することができる。あるいは、エレクトロニクス用途以外の他の用途において、被塗工物上に上記溶液を塗工してもよい。
【0038】
しかる後、150℃〜170℃程度の温度で塗膜を焼付けることによりシルセスキオキサン系膜が形成される。すなわち、150℃〜170℃の程度の比較的低い温度で焼付けることができるので、例えば、有機FETのゲート絶縁膜の形成等に好適に用いることができる。
【0039】
上記焼付け時間については、特に限定されるわけではないが、30〜180分程度とすればよい。
【0040】
また、焼付けに際しての加熱は、上記焼付け温度に維持されたオーブン中に塗膜を配置することにより、あるいは適宜のヒータ、例としてホットプレート、オーブン、赤外線ヒータ等を用いて行えばよい。
【0041】
上記のようにして、比較的低い温度で加熱することにより、シルセスキオキサン系膜が形成される。このシルセスキオキサン系膜は、シルセスキオキサン骨格を有し、高い絶縁性を示す。これは、第1の非プロトン性溶媒の存在下で加水分解及び加水分解重縮合が進行するため、得られたポリシルセスキオキサンにおいて、図1に模式図で示すように、極性基であるSi−OH基が比較的骨格の内部に位置しているためと考えられる。すなわち、極性溶媒であるアルコール類などを用いて同様にしてポリシルセスキオキサン系の膜を形成した場合には、アルコール類の極性による影響のためか、Si−OH基が図2に模式的に示すように、骨格の表面すなわち外表面に多く分布しがちであると考えられる。Si−OH基が表面に多数存在すると、絶縁抵抗が低下しがちであるのに対し、本発明により得られるシルセスキオキサン系膜では、Si−OH基がポリシルセスキオキサンの骨格内部に相対的に多く位置するため、絶縁抵抗が高められていると考えられる。
【0042】
(第2の発明の製造方法)
なお、本願の第2の発明では、アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、アルコキシシラン1モルに対して3モル以上の水と、極性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、前記酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、減圧後に前記溶液を塗工する工程と、塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とが備えられる。この場合、上記極性溶媒として、前述した第1の発明における高沸点の極性溶媒である第2の溶媒が用いられる。
【0043】
第2の発明のように、前述した第1の非プロトン性溶媒を用いずに、当初から第2の溶媒である高沸点の極性溶媒中で加水分解及び加水分解重縮合を行ってもよい。この場合においても、反応時の水の量を、アルコキシシラン1モルに対し、3モル以上と増加することにより、高い絶縁性を有するシロセスキオキサン系絶縁膜を得ることができる。
【0044】
なお、水の配合割合の上限は、アルコキシシランの加水分解及び加水分解重縮合を進行させる上では、特に限定されない。もっとも、アルコキシシラン1モルに対して6モルを越えると、加水分解が早く進行しすぎ、加水分解重縮合の進行を妨げるおそれがある。従って、好ましくは、アルコキシシラン1モルに対して3〜6モルとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0045】
第1の発明に係るシルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法によれば、アルコキシシランもしくはアセトキシシランと、酸触媒と、水と、上記第1の非プロトン性溶媒とを含む溶液を0〜50℃の温度に維持して加水分解し、50℃〜70℃の温度に維持して加水分解重縮合を進行させ、しかる後、減圧により酸触媒及び副生成物を少なくとも留去した後、溶液を塗工し、150〜170℃程度の比較的低温で焼付けることにより、ゾルゲル法に従ってシルセスキオキサン系絶縁膜を得ることができる。
【0046】
また、第2の発明の製造方法では、第1の非プロトン性溶媒を用いずに、最初から高沸点の極性溶媒中で加水分解及び加水分解重縮合が行われるが、加水分解に必要な水の量がアルコキシシラン1モルに対し3モル以上と多くされているため、第1の発明の場合と同様に、比較的低温で焼付けることにより、ゾルゲル法に従って絶縁抵抗の高いシルセスキオキサン系絶縁膜を得ることができる。
【0047】
従って、上記のように比較的低い温度の焼付け工程により、シルセスキオキサン系絶縁膜を容易に形成することができる。しかも前述したように、得られたシルセスキオキサン系絶縁膜は、高い絶縁抵抗を示す。よって、比較的低温プロセスで形成することができ、しかも絶縁に優れた絶縁性材料を提供することが可能となるので、本発明により得られるシルセスキオキサン系絶縁膜は例えば有機FETのゲート絶縁膜などに好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。
【0049】
(実施例1)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを5.00g(0.037モル)と、トルエン15gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸0.51g(0.011モル)及び蒸留水1.98g(0.11モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに第2の非プロトン性溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.07gを加え、100Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸及びトルエンを留去しつつ、2時間、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0050】
(実施例2)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを5.00g(0.037モル)と、トルエン15gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸0.51g(0.011モル)及び蒸留水1.66g(0.09モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに第2の非プロトン性溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.00gを加え、77Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸及びトルエンを留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0051】
(実施例3)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを5.00g(0.037モル)と、トルエン15gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸0.51g(0.011モル)及び蒸留水1.32g(0.07モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに第2の非プロトン性溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.05gを加え、77Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸及びトルエンを留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0052】
(実施例4)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを10.0g(0.073モル)と、PGMEA10gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸1.02g(0.022モル)及び蒸留水3.97g(0.22モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、30℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、30℃の温度で2時間、200Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0053】
(実施例5)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを10.0g(0.073モル)と、PGMEA10gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸1.02g(0.022モル)及び蒸留水3.97g(0.22モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、50℃の温度で2時間、200Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0054】
(実施例6)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを10.0g(0.073モル)と、PGMEA10gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸1.02g(0.022モル)及び蒸留水3.97g(0.22モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70℃の温度で2時間、200Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0055】
(実施例7)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを10.0g(0.073モル)と、PGMEA10gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸1.35g(0.029モル)及び蒸留水5.29g(0.29モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70℃の温度で2時間、200Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0056】
(実施例8)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを10.0g(0.073モル)と、PGMEA10gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸2.03g(0.044モル)及び蒸留水7.95g(0.44モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、70℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに、70℃の温度で2時間、200Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0057】
(比較例1)
100mLのフラスコに、メチルトリエトキシシランを5.01g(0.037モル)と、3−メトキシ−1−ブタノール1.51gと、トルエン15gとを投入し、室温で攪拌した。しかる後、触媒としては、ギ酸0.36g(0.011モル)及び蒸留水1.77g(0.11モル)を室温で加え、出発原料としての溶液を得た。この溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度で2時間、200 Torrの圧力下に維持し、副生成物であるエタノールを留去しつつ、加水分解重縮合を進行させた。さらに、77Torrの減圧下に2時間維持し、トルエンを留去しつつ、加水分解重縮合を進行させて、3−メトキシ−1−ブタノールを溶剤とするポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)ゾル溶液を得た。
【0058】
(比較例2)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを5.00g(0.037モル)と、メタノール5gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸0.51g(0.011モル)及び蒸留水1.98g(0.11モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度に3時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに第2の非プロトン性溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.05gを加え、77Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、2時間、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0059】
(比較例3)
100mLのフラスコに、メチルトリメトキシシランを5.00g(0.037モル)と、メタノール5gとを入れ、室温で攪拌し、しかる後、触媒としてギ酸0.51g(0.011モル)及び蒸留水1.98g(0.11モル)を室温で加え、出発原料を得た。この出発原料としての溶液を30分間室温、すなわち25℃の温度に維持し、加水分解を行った。次に、50℃の温度に1時間維持し、加水分解重縮合を進行させ、さらに第2の非プロトン性溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)5.05gを加え、77Torrの減圧下で副生成物としてのメタノール、水、ギ酸を留去しつつ、2時間、加水分解重縮合を進めた。このようにして、PGMEAに溶解したPMSQゾルを得た。
【0060】
(実施例及び比較例の評価)
実施例及び比較例で得たPMSQゾル溶液を用い、シルセスキオキサン系絶縁膜を以下の要領で形成し、評価した。
【0061】
1)体積抵抗率及び誘電率の測定
上面にアルミニウムを蒸着することにより、下部電極が形成されているスライドガラスを用意した。このスライドガラスの上面に、PMSQゾル溶液をスピンコートし、150℃の温度で1時間焼付け、厚み300〜600nmのシルセスキオキサン系膜を形成した。しかる後、該シルセスキオキサン系膜の上面に、下部電極とシルセスキオキサン系膜を挟んで重なる位置にアルミニウムを蒸着して上部電極を形成した。このようにして、Al/PMSQ/Alからなる積層体を形成した。この積層体の上部電極と下部電極との間の誘電率と、上記上部電極と下部電極との間の通電試験によるPMSQ膜の体積抵抗率とをインピーダンスアナライザを用いて測定した。
【0062】
なお、体積抵抗率は、下記の(1)式及び(2)式により求めた。測定に際しては5Vの電圧を印加し、求められた電流Iから抵抗Rを求め、式(2)に、Alからなる上部電極と下部電極との間のPMSQ膜の膜厚並びに電極面積を代入することにより、体積抵抗率ρを算出した。
【0063】
R=V/I ・・・式(1)
ρ=R・S/d ・・・式(2)
式(1)において、Rは抵抗、Vは電圧、Iは電流を示し、式(2)において、ρは、体積抵抗率を、Sは上部電極と下部電極との対向面積を、dはPMSQ膜の膜厚である。
【0064】
また、図3は、実施例1で得られたPMSQ膜のIRスペクトルと、比較例2で得られたPMSQ膜のIRスペクトルを示す図である。Si−OH基に基づく吸収は950cm−1付近に表われるが、実施例1及び比較例1においても、950cm−1付近の吸光度はほぼ同等であり、従って、Si−OH基の数自体は比較例1と実施例1で得られた各PMSQ膜においてはほぼ同等であることがわかる。
【0065】
2)フィルムの表面の凹部の評価
実施例1で得た各PMSQゾル溶液から上記のようにして形成されたシルセスキオキサン系膜における表面の状態を原子間力顕微鏡AFMにより評価した。結果をAFM写真により、図4及び図5に示す。図4は実施例1で得た膜の表面を示し、図5は比較例1で得た膜の表面を示す。図5から明らかなように、比較例1では、径が100nmオーダーの凹部、すなわちディンプルがシルセスキオキサン系膜の表面にかなりの数認められた。これに対し、図4から明らかなように、実施例1では、表面にこのような多数の凹部すなわちディンプルは認められなかった。下記の表1では、実施例1のように、上記凹部がフィルム表面に認められなかった場合には、凹部評価において〇を付し、比較例1のように表面の凹部すなわちディンプルが認められた場合には、×を付した。
【0066】
3)シルセスキオキサン系膜の分子量
上記のようにして得られた実施例及び比較例の各PMSQ膜の分子量を求めた。表1に、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと、分散度Mn/Mwを示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1,2において、体積抵抗率が高く、すなわち電気的絶縁性が高められており、上記凹部がほとんど存在しないのは、非プロトン性溶媒であるトルエン及びPGEMAを用いてゾルゲル法によりシルセスキオキサン系膜が形成されているためであり、比較例1において電気的絶縁性が十分でなく、表面凹凸が形成されているのは、上記のように極性溶媒であるアルコール類を用いてゾルゲル法によりPMSQ膜が形成されているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のシルセスキオキサン系膜におけるSi−OH基の分布を模式的に示す模式図である。
【図2】従来の製造方法で得られたシルセスキオキサン系膜におけるSi−OH基の分布を模式的に示す図である。
【図3】実施例1及び比較例2で得られたシルセスキオキサン系膜の赤外吸収(IR)スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1で得たシルセスキオキサン系膜の表面の性状を示すためのAFM写真。
【図5】比較例1で得たシルセスキオキサン系膜の表面の性状を示すためのAFM写真。
【符号の説明】
【0070】
1…PMSQ骨格
2…Si−OH基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、アルコキシシラン1モルに対して2モル以上の水と、第1の非プロトン性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、
前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、
前記酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、
減圧後に前記溶液を塗工する工程と、
塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とを備えることを特徴とする、シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法。
【請求項2】
前記減圧工程前に、前記焼付け工程における焼付け温度以下の沸点を有し、かつ前記第1の非プロトン性溶媒に置き換わる第2の溶媒として、第1の非プロトン性溶媒よりも高い沸点を有する極性溶媒を添加することを特徴とする、請求項1に記載のシルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法。
【請求項3】
アルコキシシランと、前記アルコキシシランの加水分解を促進するための酸触媒と、アルコキシシラン1モルに対して3モル以上の水と、極性溶媒とを含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を0℃〜50℃の温度に維持して加水分解する工程と、
前記加水分解後に、前記溶液を50℃〜70℃の温度に維持し、加水分解重縮合を進行させる工程と、
前記酸触媒及び副生成物を少なくとも留去するために減圧する工程と、
減圧後に前記溶液を塗工する工程と、
塗工された溶液を150℃〜170℃の温度で焼付けてシルセスキオキサン系膜を形成する工程とを備え、
前記極性溶媒として、前記焼付け時における焼付け温度以下の沸点を有する極性溶媒を用いることを特徴とする、シルセスキオキサン系絶縁膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−60007(P2009−60007A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227643(P2007−227643)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】